忠男 - みる会図書館


検索対象: 長編推理小説 恐喝
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1. 長編推理小説 恐喝

感情を強いておさえてきた。茂呂が、千夏をある意識をした。 もって眺めるようになったのは、三木忠男が、アサヒ石このとき、茂呂の頭の中に、二つの考え方がひらめい 油に対し、政撃をかけてきたときからである。 た。一つは、三木が千夏の美貌に目をつけ、野心を持ち 「先生、私、三木忠男さんと、お会いしましたのよ」 たしたのじゃないかということだった。他の一つは、三 と、千夏が茂呂に、さりげなく話したことがあった。関木が千夏に近づくのは、会社の秘事を探るための、スパ 急電鉄の総会で、茂呂が三木を叩きつぶしてから、まもイ工作ではないかということである。 なくのことである。 「三木さんは、これからもときどき、お会いしたいと言 茂呂の心の中に、三木忠男の映像が、色濃く染まってうんですの」 いたときなので、茂呂は、目をみはって、屈託なくほほ「何を、聞こうとしていたんだね」 えみかける白い顔を見守った。 「貸付金、未収金、仮払金が増えた理由を、知りたがっ 「なんだってまた、三木が、あんたに」 「あの人、私のうちへ、突然、訪ねてきましたの。亡く「やつばりそうだったか」 なった父が仕えたことのある農林省の局長さんの紹介状茂呂は、つぶやくように言うと、考えこんだ。千夏 を持って。おどろきましたわ」 が、三木の手に落ち、彼のスパイとなることはないだろ 「三木忠男とアサヒ石油の秘書課の女子社員。おもしろうが、千夏がもし、三木の女となったとしたら、重大な い取合わせだな」 事態となると判断した。 千夏は、三木に誘われ、高輸のかつらぎで会う前のタ 茂呂は、さりげなく言ったものの、胸の中が波立って くるのを覚えた。今まで、千夏を好意ある目で眺めるだ刻、茂呂に、「三木さんと、銀座で会いますのよ」と報 けで、女としての意識を持つまいと心がけてきた茂呂だ告した。 が、イミテーションだと思っていた宝石が、何かの拍子茂呂は、一瞬、不快な気持ちになった。千夏が、三木 7 で本物とわかったときのように、まじまじと千夏を見直の中し出を拒否せず、よろこんで誘いに応じていく態度

2. 長編推理小説 恐喝

総会は終わった。 茂呂は、人込みを避けて、一人で階段をおり出した 9 茂呂はときどき、階段の途中で歩みを止め、三木忠男の ふ第ノぽをノ 風貌を、まぶたの裏にえがいた。 三木の叫びが、多数の怒号で押しつぶされ、決算承認 の総会が終わったとき、茂呂は出入口で、三木忠男と顔 を合わした。 ′丸顔の色白の背の低い男だ 0 た。一見してイギリス製 とわかる背広の胸を張り、茂呂を睨んだ。その冷たい眠 光が、茂呂の目に突き刺さるように沁みこんだ。 「茂呂さん、お返しはいずれ : : : 」 と、三木が言って、小走りに人込みへまぎれ去ったとき、 茂呂はロもとに微笑を浮かべ、〈なんたまだ若僧じゃな ください」と、マイクで告げた。一斉に手が上がった 9 「総会荒らしをつまみ出せ」 「賛成」 「異議なし」 怒号乱れとぶ中で、三木の小さな体が、聞き取りがた い叫びをつづけていた。

3. 長編推理小説 恐喝

た。三木は、助手席に倒れたまま、ときどき、手を動か佐々木は、三木を覗き込んだが、三木は、ばっちりと し、「アア」とか、「ウウ」と呻き声をあげた。 目を開いたまま、声を出さず、ただ、自動車の天井の一 佐々木は、三木の自供を引き出すため、暗示めいた質角を眺めているようだった。 するがだい 問をあびせだした。 車は、皇居前を通り過ぎ、一ッ橋を渡り、駿河台へ向 「あなたは、三木忠男さんですね」 かっていた。 「そうだ。三木忠男だよ」 佐々木は、車を、国電お茶の水駅近くの横丁へ入れ、 「『財界新論』をやっていますね」 停車すると、ものも言わず車をとび出し、走りだした。 「やってるよ」 「だいぶ、景気がいいようだね」 「金がはいるからな」 三木の答え方は、抑揚のない、語尾が消えていくよう な力のないものだった。 「関急から、大金がころがりこんだようだね」 「源田社長から、もらったんだ」 「一千万かな、二千万かな、それとも三千万だったか な」 「三千万だったよ」 「『財界新論』の九月号と引き換えだね」 「三千部と引き換えさ」 「どこで取引きしたんだね」 「料亭峯松でだ」 1S5

4. 長編推理小説 恐喝

ると思うか。分割にしてやろう。とりあえず、百万円出この取引きは、、 しちおうの成功を納めたと思った。 したらどうだ」 エレベーターでおりるとき、後ろから、軽く肩を叩か 「なんとか、お許しを : : : 」 れた。振り向くと、見覚えのある茂呂逸平の顔が、笑っ 「と・ほけるな。あんたの一存じゃ、まかなえんと言うなていた。 ら、ここで待とうじゃないか。すぐ行って、社長の決裁 上原は、目のやり場にとまどいながら、「どうも」と、 をもらったらどうだ。三木忠男の雑誌の広告料だと言えとってつけたような挨拶をした。 ば、浜尾社長も、二つ返事で承知するはずた」 「玄関まで送りましよう。せつかく三木忠男君の名代で 宮内は、最初の横柄な態度とはうって変わり、何度も来られたようだから、敬意を表する意味でな」 頭を下げると、谷口といっしょに部屋を出ていった。 そう言うと、茂呂が、今度は大口を開けて笑いだし 上原は、長い間待たされた。何度も腕時計をのそい た。上原は、〈ばかにしたやつだ〉と腹を立てた。エレ た。ちょうど三十分たったころ、宮内部長が、一人で戻・ヘ 1 ターが、一階へ止まった。 ってきた。 上原は、大股でとび出そうとした。 「あいにく社長が不在でして、やむなく、私の一存で、 「上原さん、そう急ぎなさんな。三階の応接じゃ、だ、 とりあえず百万だけ、おっきあいさせていただきます。 ぶ派手に、宮内部長をおどかしましたな。録音テープが 総務部長としては、三木忠男先生に睨まれますと、総会仕掛けてあったんで、全部、聞きましたよ。百万円の恐 の運営ができなくなりますんで : : : お帰りになりました喝じゃ、一「三年、刑務所へはいってもらうことになり ら、どうそ三木先生に、よろしくお伝えねがいあげまそうだな。三木社長の共犯も、まぬがれないだろう」 上原は、後ろから、冷水をあびせられるような思い で、茂呂の声を聞いた。そのとき、目つきの鋭い中年の 宮内は、百万円の小切手を、震える手つきで上原の前 男と、頭の禿げた初老の男が、上原に近寄ってきた。 へ差し出した。上原は、ちらりと額面の数字を睨むと、 「上原登だな。百万円の恐喝容疑で、現行犯で逮捕す 領収書に百万円と書きこんで、宮内に渡した。上原は、 205

5. 長編推理小説 恐喝

「私といっしょになったから、新平さんがグレたという味けなく一人ですませた。茂呂が朝刊に目をとおしてい るとき赤岩参六が訪ねてきた。赤岩は、五年前から同じ のね」 辻堂に住み、毎朝八時になると、茂呂の家へ立ち寄るし 「あなた、どうして、私にかくれてそんなことなさるきたりになっていた。 の。それほどあの子がかわいいなら、私の目の前で、堂茂呂は六畳の洋間で、いつものように赤岩と会った。 堂とお金を渡したらどうなの。泥棒猫みたいなことをな「先生、三木忠男は、ごらんのとおり、先生の顧間先三 十八社全部に、株をつけてます。関急の総会で、先生に さるから、あの子はよけい図にのるのよ」 しようこ 叩きのめされたのに、性懲りもなく、挑戦をしかけてき 「きやつは、おれの早起きを知っていて、訪ねてくるだ ましたよ」 けた」 けいし 「あなたは、私といっしょになったこと、後悔してるん赤岩は、罫紙に書いた、リストを差し出した。そこに たいようつううん だわ。断わっておきますが、私が進んで、あなたの妻のは、関急電鉄をはじめ、アサヒ石油、大洋通連というよ うに、名だたる会社の名前が三十八社ならび、その下 座へ押しかけてきたのじゃありませんから」 やふ に、三木忠男の持株が、書き込まれていた。 「なんだ、藪から棒に : : : 」 「ほほう、全部百ずつ、株をつけてある」 智恵子は、。 ふいとその場を離れてしまった。ここ一一、 三年来、新平をめぐって、同じようなトラブルを繰り返ふつう、株主は五百株が単位たったが、総会屋は、端 きげん してきた。が、茂呂はそのつど、低姿勢で智恵子の機嫌株屋から、少ない株を買い集めていたのだ。 を取りなしてきた。年齢差の多い若い妻に対する弱み茂呂はさりげなく言いながら、順々に目をとおしてい は、どうしようもなかったし、新平という厄介者の存在ったが、三木が、あえて三十八社に限って、株主とし て名を連ねているところに、意味があるような気がし に対し、ひけ目があったからである。 この朝、智恵子は茂呂と食事をともにしなかった。茂た。 なっとう 「三木忠男は、総会屋仲間じゃ、だれも相手にしていま 呂は、老女中が作ってくれた、味噌汁と納豆の朝食を、

6. 長編推理小説 恐喝

いか〉と、つぶやいた。 : 、 カその瞬間、三木が人々の肩せんでくれ」と言って、その金を赤岩に突き返した。 の間から、茂呂を振り向いているのに気がついた。茂呂 それ以来、茂呂の頭の中に、三木忠男の名前はこびり は、なぜか勝利感とはちが 0 た、薄気味わるいものを感ついていたが、〈小僧の戯言〉くらいに考え、総会対策 じとった。 のリストに人れていなかったのである。 まっ黒い髪を、七三に分けた色白の童顔は、三十代に が、茂呂はこの日はじめて、三木の正体を見とどけた。 なったばかりのような、若さが溢れていた。身長は一メ固定資産の評価には、たしかにからくりがあ 0 たが、三 ートル六十センチ足らずで、みるから貧弱な体軅だ 0 た木は、数字の裏側を、掘り起こすところまでは、手を染 が、茂呂には鋼鉄のような強靱さが受けとめられた。 めていなかった。だから、きようの総会は、助かった 顔の輪郭も小づくりで、高くはないが鼻筋がとおり、 が、もしも三木が、その実体を擱んでいたとしたら、総 やや受けロのロもとに、複雑な笑いを浮かべ、足早に去会は収拾がっかず、流会の恥をさらしていたかもしれな とかげ びんしよう る動作に、蜥蝪のような敏捷さがあった。 カ . 子ー 茂呂は、総会屋三木忠男の名前を、聞いていた。三、 「ミ、キ、タ、ダ、オ」 四年前から、ちらりと耳にはさんでいたし、茂呂が顧問 茂呂は、ゆっくりとその名を口ずさみながら、四階の をしている会社の株主にも、ところどころ名前を連ねて会議室のドアを開けた。 いたからである。 社長以下十三人の重役が、一斉に立ち上がると、茂呂 さくら 去年の十一月の総会期に、茂呂の得意先である桜ゴム に向かって最敬礼をした。 株式会社の定時総会で、社長派と専務派との内紛が表面「先生のおかげでした」 化し、問題になる形勢があった。その時も、茂呂は、大「おみごとな演説でしたな」 久保、中島以下の総会屋に渡りをつけたが、三木に対し「これでほっとしましたよ」 ては、赤岩参六を使者として、三千円の挨拶金を持たし「三木忠男って、何者なんです ? 」 0 守、、 てやった カ三木は、「おれは総会屋じゃない。誤解「あの金切り声みたいな切り込みは、思わずぞっとしま もふ

7. 長編推理小説 恐喝

茂呂逸平というやつは、聞きしにまさる人物たったよ。 「茂呂ほどの男も、子供の教育だけはできなかったとみ くだ 東京じゅうの総会屋が、こそってやつの軍門に降ってるえるな」 理由ものみこめたというわけさ。だが、勝負はこれから「社長、この新平というせがれを、何か有効に使う方法 だぜ」 はないもんでしようか」 「もちろん、私たちも、茂呂逸平の三十八の城を、乗っ 三木は、答えずしばらく考えこんだ。彼は考えごとを 取るまで戦いますよ。一割の手金を打って、仮登記をしするとき、目をつむる癖があった。このときも、目を閉 てある二十万坪の土地を、な・せ、会社の資産に計上しなじ、たばこの煙の輪を、雨漏りのしみのある天井へ、吐 かったんでしようか。暗い銭のにおいがするんですが」き出していた。 「おれの狙いに狂いはないよ。だいたい、社長た重役だ「よし、その新平と会おうじゃないか。会う手はずをつ と、ふんぞりかえってる連中は、多かれ少なかれ、会社けてくれ」 を踏み台にして、私腹を肥やしているんだ。そいつを徹三木は、突然、どなるように言った。 底的にあばくことが、おれの使命さ。国家的にみても、 意義があろうというものじゃないかね」 こうべ 「そのとおりです。ところで、茂呂の身辺に探りを入れ 三木忠男は、大正十三年、神戸の時計商三木典男の一一 ているんですが、茂呂は二十幾つも年下の女房と、辻堂男として生まれた。旧制中学二年を終えるまで、両親の の寺の境内の借家で暮らしてることは、前に報告したともとこ 冫いたが、学業をきらい、十四歳のとき家をとび出 おりですが、おもしろい材料が一つ見つかりましたよ」した。 おおさか 「なんだね。おもしろい材料とは : : : 」 三木は、大阪へ出て、土建会社の給仕になったが、二 「茂呂の別れた女房との間にできた、新平という長男が年後にこの会社を馘にな 0 た。社員たちの机の引出しか おります。こいつはやくざ者で、新宿一帯を繩張りとすら、金を盗んだことが発覚したからである。 るテキ屋、山春組のちょいとした顔役になっています」 三木は、その日の食事にも困り、大阪駅のホームで、 こ くび のりお

8. 長編推理小説 恐喝

でみたらどうだ。きみらの内偵じゃ、どうにもならんほ 月賦販売の集金人から、日雇い人足までやってきた。 杉並の松ノ木町の、六畳二間の借家には、妻と二人のど、アサヒ石油のほうじや防備を固めているようだ。だ くらアサヒ石油の浜尾社長だって、三木忠男と 子供がいて、よくも生きのびてきたと思われるほど、苦力し 『財界新論』の存在を、身に沁みて感じだしてるはずだ。 難の連続だった。 いくら強がりを言ったって、茂呂の会社のほとんどが、 上原は、財界新論社へ採用されてからのちも、不安な 目で、三木の方法を眺めてきた。いつ、恐喝罪で社長がおれの傘下にはいってることくらいわかってると思うん だ。十二月二日の総会まで、あと二カ月余りだ。ここい 逮捕されるかもわからないと思われたからである。 が、大洋通連の成功がき 0 かけとなって、三木社長のらで、広告料を持ち出したら、あんがい、のってくるか 顔は、しだいに大きくなり、笠置柳太郎と手を結んだこもしれんよ」 三木が上原にこんな指示を与えたのは、千夏の言葉に ろから、財界の裏側では、三木忠男の名を知らぬ者もい よって、三木の気持ちが動いているからである。 ないくらい、強い存在となっていった。 上原は、当初の不安を忘れると同時に、「おれは三木三木は、八月二十五日、箱根で千夏を抱いてから、何 忠男のもっとも信頼される部下だ」という自負を持つよ回もあいびきを重ねてきた。男はだれでも、初めて知っ つも、真新した女に夢中になるように、三木も、三日にあげず、千夏 うになった。上原はまず服装を整えた。い い背広を着て、ドイツポ , クスの靴を履き、細縁の眼鏡にあいびきの連絡をと 0 た。が、千夏は、二回に一回ぐ らいの割合で、三木の誘いを、「都合がわるい」とか、 をかけていた。 十月にはいってまもなくのころ、三木は、上原に一つ「用事があるから」と言って断わった。九月の末に近い の作戦を与えた。今まではどの会社でも、 = 一木自身が金ころ、三木が千夏と会 0 たとき、二人は、アサヒ石油の 銭の交渉を行なってきたが、アサヒ石油だけは、上原を問題について話し合 0 た。 「アサヒ石油は、あんたがいるので、斬り込みのチャンの 使って、広告料の交渉をさせてみようというのである。 「上原君、い「ペん正面きって、アサヒ石油へ乗りこんスを狙っていたんだが、敵の防備はなかなか堅いようだ

9. 長編推理小説 恐喝

というのが、茂呂の考え方 た。二人の株主が、茂呂の演説の途中で、やじをとばしにすわってはいられない 」っこ 0 たが、それ以上突っ込んでくる者はいなかった。 総会は無事に終了した。 「三木忠男に会ったよ。会わざるを得んじゃないか。悪 重役たちは、茂呂に対し、言葉もかけず、退出した。 いとでもいうのかね」 大丸が、大股で階段をおりるのを見つけ、茂呂は、その大丸の冷たい言葉が、茂呂の胸に突き刺さった。が、 あとを追いかけた。大丸が、社長室へ消えた。茂呂は、 今の茂呂には、反発するだけの気力がなかった。 そのドアを開けた。 〈いくらで妥協したんです ? 〉 大丸が、ソフアで足を組み、パイ。フたばこに火をつけと、喉まで出かかった言葉をのみこみ、茂呂は、大丸の ていた。茂呂は、黙ってその前に腰をかけた。 ゴルフ焼けした顔を見守った。 大丸は、茂呂を一瞥すると、視線をそらし、パイ・フを「わしは社長として、会社をまもらねばならん。そのた くわえた。 めには、股くぐりでもなんでもやる覚悟で、三木に会っ た」 「社長、三木とお会いになりましたね」 茂呂は、三木が欠席したのは、大丸が妥協工作をした ものと判断していた。 「三木忠男という男は、新しいタイ。フの総会屋だな。こ 〈いくら銭をやったか。百か二百か。あるいは五百万かれからさき、三木を敵に回すことは、損たとさとったか らだ」 な。それにしても、もし、妥協ができているとすれば、 自分の決定的な敗北だ〉 自分に一言、相談してほしかったーーと、言いかけた つぐ 茂呂は、顧問を辞任する腹をきめた。総会屋をまとめが、茂呂はロを噤んでしまった。 「いや、よくわかりました。長い間のおっきあいでした るのが、茂呂の仕事である。そのため、年間二百万円の 手当をもらっている。大洋通運に、流会の恥をかけたのが、どうやら、老兵は不要と判断されますんで、退陣さ は、自分の責任である。このまま、おめおめと顧問の座せてもらいます。では」 いちべっ また

10. 長編推理小説 恐喝

央の円柱の陰まで、三木が来たとき、大丸五兵衛の姿を階段脇のソフアの外人客が、立ち上がって、エレベータ ーへ向かった。 見つけた。三木は、五メートルほどの間を置いて、踏み 「あちらでちょっと」 とどまった。三人の配下が、三木を取り囲んだ。 三木は、大丸の連れがいるかいないかを確かめた。大大丸は、三木の諾否を待たず、歩きだした。三木は、 丸の痩せ細った長身が、立っているだけで、だれもいな三人の配下に、「テラスで食事をしててくれ。心配はい かった。三木は、大丸を睨んだ。二人の視線がからみ合らんよ」と声をかけ、大丸のあとについていった。 三木は、大丸とならんで腰をかけた。犬丸が、ホープ ったとき、大丸が大股で近づいてきた。 「三木先生ですね。はじめまして大丸です。先ほどはどをくわえた。三木はライターを鳴らし、火を移してやっ た。たばこを持つ、大丸の右手が、かすかに震え、静脈 犬丸は、先生という言葉を使い、丁重に頭を下げ、挨の浮き出た手は、労働者の手のように節くれだってい 拶した。 「三木忠男です。茂呂先生が、あんな言い方をされたん「三木先生、きようの総会のこと、なんとか水に流して いただけまいか。一言の弁解もしませんよ。先生の発 で、不本意ながら、真相をぶちまけたわけです。あしか 言、なかったことにしてくださるとありがたいのですが 三木は、冷たい語調でつきはなすように言った。 「三木先生、おり入ってお話がしたいと思いまして、総犬丸は、言葉の途中で、何度も禿げ上がった頭を下け 会のあと、すぐ、先生のあとを追わせました。こちらに おられることを確かめ、事務所へ電話を人れ、おもどり「と、申しますと、どういうことなんです ? 発一言がな を待っていたんですが、待ちきれず、失礼をかえりみず、かったことにしてくれといったって、議事録には、九百 六十一番三木忠男の意見として、のせざるを得んでしょ 7 とんで参ったしだいですが : : : 」 う」 犬丸は、そう言いながら、ロビーの椅子を見回した。