石油 - みる会図書館


検索対象: 長編推理小説 恐喝
84件見つかりました。

1. 長編推理小説 恐喝

れるかーーと思い、三木は、三日前の恐怖を思い起こ 〈これじやゴルフどころじゃあるまい〉 三木は、しぶきを上げる窓外の雨足を見ながらつぶやした。 「人数は ? 」 二日前、三木が石渡千夏へ電話をかけたとき、千夏「アサヒ石油から、社長以下五人の重役と茂呂先生、発 起人は、千代田製紙の社長以下七人 : : : 」 は、「二十五日、私、箱根へ参りますのよ」と言った。 「部屋は : : : 」 「ほう、だれとです ? 」 「会社の首脳部が、その日、東海石油の発起人会を、仙「旧館の二階、全部 : : : 」 せんきようろう 「ちょうどぼくも、仙郷楼の新館の離れに部屋を取って 石原の仙郷楼で開きますの。昼間は、仙石原コースで、 あるんた。もっとも、八月十六日から月末まで、接待用 ゴルフ大会をやりまして、それが終わってから、宿で、 に借りてあるんだが、二十五日は、なんの予定もはいっ 発起人の懇談をやる予定ですの」 ていないんだ。離れの三号室にいるから、会食でもすん 「きみは、その世話で行くんだね」 で自分の時間となったら、そっと、ぼくの部屋へ抜け出 「そうですの」 してきてくれないか」 「茂呂さんは ? 」 三木は、茂呂に勝っためには、どうしても千夏を自分 「行くわ」 と思い、誘いをかけたの の女にしなければならない 三木はとっさに考えた。発起人会といったところで、 いずれも、アサヒ石油の系列会社の寄り集まりたろう。 ゴルフにかこつけ、箱根へ集めるのは、何か、秘密の相「困りますわ」 談があるのではないか。七十五億の資本金と、膨大な設「なに、会議のもようを聞くだけさ」 備資金に、必ずからくりがあるはずだ。そのため、極秘「もし、抜けられましたら : : : 」 この電話は、もちろん、アジア石油の本社へかけたの 裏に相談するのではないかと、思ったのである。が、そ の考えのあとから、茂呂の次の攻撃は、どんな形で現わではない。阿佐ヶ谷の千夏の自宅へ、夜になってかけた 191

2. 長編推理小説 恐喝

「すると、原価は、ほかの石油より安くなるじゃないちは、キツネにつままれたような気持ちだった。 アサヒ石油株式会社が、まもなく創立され、浜尾五郎 か」 が社長、脇村多吉が会長となった。当時、脇村は、「こ 三木は、上体をのり出し、上原の顔を睨んだ。 「そのとおりです。したがって、・ ( ランスシートに、現の会社が失敗したら、わしは、財界のいっさいの役職か よら手を引き、乞食になってもいい」と決意をもらし、浜 金預金として、十六億円しか計上していませんが、かオ 尾は、「おれは愛国者だから、安いからといって赤い国 り多額の資金を隠匿しているものと思われます」 「それで、隠匿のからくりを、どうやって探っているんのひもっき石油を買い入れる商売人とはちがうんだ。ア サヒ石油が発展することは、日本の発展につながるん 「秘書室の石渡千夏さんの手引きで、二人の社員と食事だ。一朝、日本が戦争に突入してみろ。ひもっき石油の 流れは、日本へは、一滴だって来やせん。アサヒ石汕 をしたり、酒を飲んたり : : : 」 は、日本人が自力で開発した油田なんだ。国防上の見地 「何か、わかったか」 からいっても、おれはアサヒ石油をまもるつもりだ」 「それが : : これからです」 三木は、頬をこわばらせると、吸いかけのたばこをねと、新聞記者団に決意のほどを示した。 当初四十億円の資本金で発足したが、数年たらずの間 じり消した。 世界の石汕界に、アサヒ石油が進出したことは、夢のに、三百億の資本にふくれ上がっていた。一株五百円の ようなギャンプルだ といわれた。昭和三十年の初株が、六千万株。そのうち一千万株が、アラビア政府の たはらしげお ごらう め、財界の利け者、浜尾五郎が、元国務大臣田原繁男と持株たった。 中近東に出かけ、アラビア政府と油田開発の仮契約を十八人の取締役のうち、アラビア政府の要人が、五人 わきならた , 、つ 結び、同年の五月、経済団体連合会会長脇村多吉の名も取締役として名をつらねていた。 「おれは山師さ。が、こんな大山を当てた山師が、おれ で、財界の有力者五十余人を集め、油田開発の仮契約が 締結されたことを、発表した。いならぶ財界の有力者たのほかにいるだろうか」

3. 長編推理小説 恐喝

るのはいやだわ」 はなぜ、おれの秘密を知っているのだろう〉三木は、 千夏は、三木を見おろしながら、叫ぶように言った。 」ななく手で杯をんた。 「・ほくがわるかった。ふだん、あまり飲めない酒に酔っ 「千夏さん、どうしてそれを : : : 」 「私も、三木さんに興味を持ちましたので、いろいろとたようだ。かんべんしてください」 三木は、千夏の心の動きをおそれながら、ペこりと頭 三木は、杯を二、三杯、干しながら考えた。〈おれとを下げた。 レたことが、なんと手ぬるい回り道をしているんだろ千夏は、そういう三木を冷然と見つめていたが、やが 。女はねじ伏せればいいんだ。それで男が勝つんだ〉てがらりと調子を変えた事務的な口調で言った。「三木 一木は、突然、立ち上がると、身軽にテーブルを飛び越さん、私、取材費のたた取りはきらいよ。だから、いた んた。千夏の右側に立ったとき、三木の両腕が、彼女のだいたお金の対価たけは、お払いします。アサヒ石汕が しずおかしみず 幾年も無配をつづけてきた理由は、静岡県清水に、石油 一つの乳房を押さえこんだ。 千夏が、その手をもぎ取ろうとした。三木は、千夏のコンビナートを造る計画があるからなんです。資本金 ル」′ノ・ルし ふともも 津を抱き倒した。スカートがめくれ、太腿があらわにな七十五億円で、東海石油株式会社を設立する計画が進ん ' た。が、次の瞬間、三木は、右手首に激痛を感じ、手でいますの。つまり、日本の石油業界が、アサヒ石油の 画離した。千夏が、手首に噛みついたからである。千夏油に難癖をつけ、値段を叩いてくるので、浜尾社長 とび起きた。 も、それならこちらで、自分の会社の石油を原料にし 「三木さん、暴力は男らしくないわ。私だって女よ。好て、石油化学工業を起こしてみせるーーというわけなん を持っている男性から、愛の言葉をささやかれれば、 が熱くなることだってありますわ。でも、三木さんと 三木は立ち上がると、千夏の手を掴んだ。 〔は、まだ、そこまでいってないと思うのよ。それには「千夏さん、それ、ほんとうですね」 間がかかるはずよ。突然、猛獣みたいに襲いかかられ「資本金七十五億のうち、六十パーセントの四十五億円 なんくせ

4. 長編推理小説 恐喝

でみたらどうだ。きみらの内偵じゃ、どうにもならんほ 月賦販売の集金人から、日雇い人足までやってきた。 杉並の松ノ木町の、六畳二間の借家には、妻と二人のど、アサヒ石油のほうじや防備を固めているようだ。だ くらアサヒ石油の浜尾社長だって、三木忠男と 子供がいて、よくも生きのびてきたと思われるほど、苦力し 『財界新論』の存在を、身に沁みて感じだしてるはずだ。 難の連続だった。 いくら強がりを言ったって、茂呂の会社のほとんどが、 上原は、財界新論社へ採用されてからのちも、不安な 目で、三木の方法を眺めてきた。いつ、恐喝罪で社長がおれの傘下にはいってることくらいわかってると思うん だ。十二月二日の総会まで、あと二カ月余りだ。ここい 逮捕されるかもわからないと思われたからである。 が、大洋通連の成功がき 0 かけとなって、三木社長のらで、広告料を持ち出したら、あんがい、のってくるか 顔は、しだいに大きくなり、笠置柳太郎と手を結んだこもしれんよ」 三木が上原にこんな指示を与えたのは、千夏の言葉に ろから、財界の裏側では、三木忠男の名を知らぬ者もい よって、三木の気持ちが動いているからである。 ないくらい、強い存在となっていった。 上原は、当初の不安を忘れると同時に、「おれは三木三木は、八月二十五日、箱根で千夏を抱いてから、何 忠男のもっとも信頼される部下だ」という自負を持つよ回もあいびきを重ねてきた。男はだれでも、初めて知っ つも、真新した女に夢中になるように、三木も、三日にあげず、千夏 うになった。上原はまず服装を整えた。い い背広を着て、ドイツポ , クスの靴を履き、細縁の眼鏡にあいびきの連絡をと 0 た。が、千夏は、二回に一回ぐ らいの割合で、三木の誘いを、「都合がわるい」とか、 をかけていた。 十月にはいってまもなくのころ、三木は、上原に一つ「用事があるから」と言って断わった。九月の末に近い の作戦を与えた。今まではどの会社でも、 = 一木自身が金ころ、三木が千夏と会 0 たとき、二人は、アサヒ石油の 銭の交渉を行なってきたが、アサヒ石油だけは、上原を問題について話し合 0 た。 「アサヒ石油は、あんたがいるので、斬り込みのチャンの 使って、広告料の交渉をさせてみようというのである。 「上原君、い「ペん正面きって、アサヒ石油へ乗りこんスを狙っていたんだが、敵の防備はなかなか堅いようだ

5. 長編推理小説 恐喝

ここが三木忠男のオフィスだった。 石油を担当している上原からだ」 をろ 三木は、ソフアに背中を丸めるようにすわり、アサヒ 上原は、いずまいをただし、揃えた膝の上に両手をの 3 石油株式会社の決算報告書を読んでいた。イギリス製のせると、軍隊式の語調で報告をはじめた。 たばこ、ロスマンズをくわえ、貸借対照表欄の、こまか「五年前、アラ・ヒア海に、第一号の油井を掘り当ててか たてじわ い数字を目で追いながら、ときどき、眉間に縦皺をよせら、現在まで四十五本の油井を、一本のむだもなく的中 る。 させています」 うえはらのぼる 金縁眼鏡をかけた上原登は、自分の机でそろばんをは 「そんなことは、株主ならだれでもわかっておる」 さえきさんじ じいている。馬のように長い顔で長髪の佐伯賛治は、株「はあ、間題は、昭和三十一年一月、会社創立以来、現 うらべもりいち 式新聞を読みふけり、美男型の色白の浦辺守一は、手鏡在まで無配をつづけていることにありそうです」 ひげを 「その理由は ? 」 を机の上に置き、電気かみそりで髭を剃っている。 かな・もり ただ一人の女性、金森みどりは、横目で三木の様子を「資本金三百億円、固定資産が五百二十億、流動資産が すみ 眺めていたが、立ち上がると、部屋の隅のガスレンジ百十一億。それなのにな・せ、株主配当をしないかにあり で、紅茶をいれ、三木の前へ持っていった。 ます。その理由をいろいろ探ってみましたが : : : 」 三木は、紅茶を一口飲んでから、みどりを一暼する「わからんというのか」 と、ふたたび決算報告書へ、視線を戻した。みどりは、 「アサヒ石油の掘った油を、日本の石油界は、まず値段 でたたき、品質にけちをつけ、買い惜しみをしています」 三木の視線に、白い歯をみせると、自分の机へ戻った。 「だから利益が上がらんというのか」 「みんなこっちへ来てくれ」 三木の金属音に似た声がかかると、三人の男は、はじ「私の調べたところによると、日本の石油業界は、外国 かれたように立ち上がり、三木をかこんでソフアに腰を資本のひものついた油を買っています。ところが、アサ おろした。 ヒ石油は、日本人の資本で、日本人の手で油井を掘り当 「一人一人、報告を聞こうじゃないか。最初は、アサヒて、一本の汕井で千キロリットルもの自噴があります」 いちべっ

6. 長編推理小説 恐喝

大洋通運の社長大丸五兵衛や笠置柳太郎も、演壇に立 三木は、千夏の出方を待つ意味で、そんな言い方をしった。三木は、モー = ング姿で、りつばな挨拶をした。 上原は、三木社長を、財界や大物政治家と同列にくら 「三木さん、そうむきにならないでも、アサヒ石油だっ いする人物だと、心から思った。したがって、上原は、 て、そろそろ、『財界新論』に広告料ぐらい、出したい自分がアサヒ石油へのり込めば、一も二もなく、多額の んじゃないでしようか。浜尾社長も、大洋通運はじめ、広告料を出してくれると考えられたので、三木の命令に 関急電鉄まで、三木さんと手を握られたことは、おわかよろこんで服したのである。 りのようですから : : : 」 上原は、大手町のアサヒ石油本社へ、タクシーを乗り みやうちぎいち 千夏が、さりげなく言ったとき、三木は、上原をアサ つけると、受付で名刺を出し、総務部長の宮内義一に面 ヒ石油に、当たらしてみようと考えついた。 会を求めた。受付係の中年の女が、電話をかけていた。 三木としても、アサヒ石油に正攻法でぶつかれば、あ「少々、お待ちください」 んがい、頭を下げるかもしれないという自負もあったのと、女に言われ、亠原は、フロントのロビーの椅子に案 で、上原を差し向けてみようと決心したのである。 内された。上原は、そこで長い間待たされた。六、七分 上原は、三木社長から、指示を受けたとき、「やって間だったが、上原は、三十分も待っているような気がし みましよう」と、二つ返事で承知した。 上原の考え方からみても、三木社長のねらいは正しい 「どうそ、三階の応接で、お待ちしているそうですか と思われた。九月三十日、三木が、「財界新論」の宣伝のら」 ため、。ハレス・ホテルで創刊三周年の記念パ 受付の女が、表情を堅くして告げてきた。 開催した際、朝野の名士三百数十人が集まった。工藤陸上原は、エレベーターで三階への・ほった。エレベータ 郎が演壇に立ち、祝辞を述べたとき、万雷の拍手が湧き ーをおりると、そこに、若い社員が待っていた。男は、 上がった。 上原を応接室へ案内した。上原のあとを追うように、四 202

7. 長編推理小説 恐喝

のである。千夏も、三木に電話を入れるときは、会社の の目に耳にふれるものに限られていた。 そとの赤電話を利用していた。交換台の者に、盗聴され千夏が、三木のスパイとして、積極的に、会社の秘密 る危険を心配したからだった。 をむことはなかった。三木は、「財界新論」の七月号 三木は、仙郷楼の玄関へ車を着けさせると、運転手かで、アサヒ石油を攻撃した。が、なんの反響もなか 0 た。 ら傘をもらい、新館のほうへ走った。旧館へはいれば、 大の遠吠えとして無視されてしまった。 アサヒ石油の連中に、顔を見られる危険があったからで 三木は、浜尾五郎社長の人物の大きさを、改めて認識 ある。三木は、自分の自動車が、雨の中を帰っていくの した。〈さすがは、満州五郎といわれただけある人物 しつ を確かめると、洋風の建物の玄関にはい「た。正面の漆だ〉と、三木は吐息を洩らしたのであった。 喰壁の電気時計が、五時をさしていた。 が、アサヒ石油との戦いに、三木が負ければ、せつか 三木は、三号室へはいると、着替えをすませ、ゆっく く奪い取った会社が、ふたたび茂呂に寝返りを打っ危険 りと温泉に浸った。 が考えられた・財界人は、利にさとく、考え方は現実的 〈残るは、アサヒ石油だけだ。これを落とせば、茂呂のである。三木になびいた各社の首脳部たちは、三木と茂 会社全部を、奪い取ったことになる。苦しい戦争だった呂のカの差異を比べ、効果の大きな三木を買ったにすぎ が、あんがい、うまくいったもんだ。財界なんか、銭の よろいかぶと 鎧兜で身をかためているが、一皮むけばもろいもんだ〉 茂呂の力が、三木の力をおさえこんだとすれば、両者 三木は、あふれ出る温泉の中で、ひとりごとを言うとの評価は、たちまち逆転するのである。もともと、総会 白い歯をみせた。 屋と財界人との間に、友情などかけらほども存在してい アサヒ石油攻略への道は、石渡千夏を自分の女にするない。年二回のおきまりの挨拶料だって、よろこんで支 ことだ。今までは、銭で釣ってきた。千夏は、けっして出する会社は、一社だって存在してはいないのだ。 銭の取りつばなしはしなかった。必ず、銭に相当する対〈総会屋はダ = だ。会社が存続するかぎり、ダニは血ぶ 価たけの情報は入れていた。・、、 カそれらは、偶然、千夏くれていくんだ。生き血を吸われちやたまらんから、銭 192

8. 長編推理小説 恐喝

「あなたが、六月の総会で、攻撃した石油コンビナート 湧き上がってくるのを意識した。 の資金源 : : : 貸付金、未収金、仮払金は、後期の決算で 「よし、わかった。攻めはすなわち守りだ」 は、七十七億五千万円にふえることは、ほぼ確実よ。も三木は、立ち上がると千夏の肩を抱き寄せた。千夏の ちろん、東海石油の設立資金ね」 髪の、香油の匂いを嗅ぎながら、三木は、あさっての、 「それを材料に、殴り込みをかけるには、まだ材料不足アサヒ石油の常務会のもようを、知りたいと思った 9 だよ」 「七十七億五千万円のうち、二億五千万円は、代理店に 二日後の十月二十八日、午前十時ーー 対する貸付。三十億が、新会社の株式を、アサヒ石油が アサヒ石汕本社の四階会議室に、会社の首脳部が、顔 引き受ける代金。残り四十五億円は、新会社への貸付金をそろえた。楕円形の大テー・フルを囲み、浜尾社長を中 なのよ。これ、材料にならないかしら」 心に六人が円を描いて座を占めた。 三木は、息を殺して、千夏を眺めた。水をたたえたよ「会議にさきだち、『財界新論』の恐喝事件を報告しま うな目が、まばたきもせず、三木の視線を受けとめていす。茂呂先生と計画を立てましたのは、前日、上原登と こ 0 いう男が、私に面会を求めてきたときです。私が出張中 「だんだん、斬り込んでみたくなってきたよ」 で、あすは出社すると、総務課長に言わして、上原を帰 「あさって、午前十時から、四階の会議室で常務会があしてから、茂呂先生に相談し、万端の準備を整え、こと るわ。出席者は、浜尾社長、加藤副社長、田中経理部さら上原を怒らせるような態度をとりまして、とうとう こじま 長、宮内総務部長、児島業務部長、それと茂呂先生が出百万円をとられた形をこしらえたわけです。しかし、三 ます。議題は、回覧を見たけど、ーー東海石油株式会社木を捕えそこなったのは残念でした」 設立に伴う資金調整の件ーーーとなってたから、たぶん : ・ 宮内が、まじめな態度で報告した。 「うちの会社だけは、三木ごときに、荒らされやせんよ。 三木は、聞いているうちに、むらむらとした闘志が、 わしは、茂呂君の腕を買っとるでな : : : 」 214

9. 長編推理小説 恐喝

問先が、三十七社となったとき、茂呂は、それ以後の石油業界は、アサヒ石油を、ポイコットすると思われ の顧問要請を、断わりつづけてきた。クラスの総会屋る。なんとなれば、石油は、精製して売りに出しさえす になると、千社近くの持株会社を持っているのを知ったれば、羽根がはえてとふように売れちまうから、石油業 茂呂は、〈おれは、いわゆる世間で言うような総会屋に者は、あぐらをかいて商売をしておったわけじゃ。そこ はならん〉という自負から、あえて、顧問先を三十七社へ素人のわしが、殴りこみをかけるんじやから、かなり にとどめたのである。総会屋は、総会のつど、挨拶料をの抵抗が予想される。茂呂さん、どうしやろ、わしの片 もらうが、月ぎめの顧問料はもらってはいない。茂呂の腕になってもらいたいが」 らいらく 場合は、必ず、年額五十万円から二百万円までの顧問料と、浜尾が、磊落な口調で言ったとき、茂呂は、その人 をとることにしていた。顧問であるから、随時、会社へ物の大きさを見抜き、二つ返事で、承諸したのである。 顔を出さねばならないし、数を多くすることは、顧問と浜尾は、どこの社長でも言うように、「総会対策を : しての価値を減らすだけたと、茂呂は、考えていたから ・ : 」という言葉を一言半句も口に出さず、「片腕になっ である。 てくれ」と言った言葉が、茂呂の胸に深く沁みこんだの ヾ - 」 0 茂呂は、一面識もない浜尾五郎から、「一度、茂呂さ んのご意見を拝聴したいんで、昼食でも」と、電話で申「社長、三木の件は、なんとか料理しますから、おまか し込まれたとき、顧問の依頼だなと思い、気の進まぬませねがいますよ」 まに会食を承諾した。 茂呂は、そう言って立ち上がった。 帝国ホテルの個室で、会談したとき、茂呂は、ーー浜 尾五郎という人物は、聞きしにまさる大物だ , ーーと思っ 茂呂が、顧問室へ戻ると、赤岩参六が、待っていた。 おおばく 「茂呂さん、ご承知のように、わしはアラビアで、大博が、赤岩は、ソフアにのけそるようにして、ロを開け、 いびき 奕を当てこんだ。が、これからがたいへんなんだ。日本大きな鼾を立てて眠っていた。 112

10. 長編推理小説 恐喝

みどりは、三木のそばへ近寄ると、「こんなふうにね」 浦辺は、報告を終わると、みどりが淹れてくれた番茶 と言って、三木の体へ自分の上体をくつつけた。 を、うまそうに飲みほした。 「浜尾は七十五だぜ。い くらなんでも、体の関係なん 三木の思考は、変転を重ねだした。 か、想像できないよ。秘書たから、なにかの用事でいっ 浦辺の報告が真実だとすると、千夏の情報は、信じて しょに出かけ、車の中で打合わせでもしていたんだろ 、し ことになる。 : 、 カ千夏は、三木と会ったつど、茂呂 にいっさいを報告しているようだ。とすると、会ったこ 三木は、千夏の美しい顔を思い浮かべ、〈そんなばか との報告はしているが、情報だけは、真実なものを与え なことがあるもんか〉と思った。 てくれたと判断できる。 その時、まず、浦辺が戻ってきた。 三木が考えこんでいるとき、上原登から電話で報告が 「社長、清水の東海石油の敷地は、二万二千坪、すであった。 に、設立準備中の会社がこれを買い受け、発起人代表浜「社長、東海石油の設立はまちがいありません。資本金 尾五郎の名で、仮登記がしてあります。坪あたりの単価七十五億、設備資金百億、株式は、六十パーセント、親 が一万八千円、合計三億九千六百万円を、四人の地主に会社持ち、設備資金の半額が、借入れ、他は全部アサヒ 払っております」 石油が負担する計画です」 「やつばりほんとうか」 「すると株式分が四十五億、設備資金が五十億、合計九 やまなかぐみ 「石油コンビナートの工事は、山中組と、二十八億円で十五億の金は、どこに隠匿してあるんだ」 請負の仮調印がすみ、化学工業機材は、アメリカのコリ 三木は、受話器でわめくように言った。 うわさ ンズ社と、輸入交渉が進められているという噂もありま「どうやら、バランスシートの資産の部の貸付金、仮払 金、未収金の中に、化けてぶちこまれている形勢です」 「で、建設着工の時期は ? 」 「その根拠は ? 」 「本年十二月となっております」 「経理課の若い社員を、擱んだんです。さんざん、酒を