社長 - みる会図書館


検索対象: 長編推理小説 恐喝
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1. 長編推理小説 恐喝

るので、浜尾社長と腹を割って話し合っておかねばなら 金を若干水増しすれば、町田地区の代金ぐらい・ : 源田は、急に声をしずめ、茂呂の目を睨むように眺めないと、考えたからである。 た。茂呂は、終わりまで聞かなくとも、源田の腹の中を茂呂は、エレベーターをおりると、まっすぐに、社長 読み取れたので、熊手のような手をひろげ、「それ以上室へ向かった。廊下の突き当たりの部屋が、社長応接 言いなさんな」というようなゼスチャーを示した。 室、その奥が社長室になっていた。茂呂は、手前の秘書 「新計画は、近々のうちに、決定するよ。ま、三木の路室を覗いた。室長の魚津と目を合わせ、茂呂が、右手の 線は、たのみますよ。わしは、茂呂さんとは長いっきあ親指をちょっとっき出すと、魚津が頷いた。これだけの いだし、大洋通運のように、袖にするようなことは、断合い図で、社長が在室していることがわかるしきたりに じてやらんからね」 なっていた。 源田は、黄色い歯をみせて笑った。 秘書室に、千夏はいなかった。茂呂は社長応接室をあ じゅうたん けた。エンジ色の絨毯を敷きつめた、広い部屋には、皮 製の応接セットが、ゆったりと置いてあるだけで、人の 茂呂は、アサヒ石油の本社〈戻ると、浜尾社長と、三姿はなか 0 た。 木忠男の問題について、じ 0 くり話し合「ておこうと考社長室〈通ずるドアが、十センチほど開いていた。茂 えた。 呂は、そのドアを開けた。浜尾が、回転椅子にのけそる 関急の源田社長が、 大洋通運のように、茂呂さんようにすわり、その後ろから千夏が寄り添い、上体をか を袖にするようなことは、断じてやらんからねーーーと言 がめ、頬が触れるほど顔を寄せ合い、何か親しげに話し 「たとき、茂呂は、しみじみと、源田との長い友情を感合「ているところだ 0 た。茂呂は、と 0 さに息をのみ、 じ、ありがたいと思った。 立ちすくんだ。千夏が、はじかれたように飛びのき、茂 三木との戦いが、はげしくな 0 ていくにつれ、関急と呂にサッと早い視線を送ってから、ちらりと白い歯をみ 同じように、アサヒ石油が主戦場となることが予想されせた。 のそ

2. 長編推理小説 恐喝

从芻した。 れ、ほんとうにいやになったからですの。三木さんの英 十月の初め、茂呂は宮内総務部長から、三木事務所の語演説も、社長が計画した作戦だったんです」 」原登が来訪し、広告料を要求したが、いったん、居留「ほほう。三木の英語演説まで : : : 」 ようかん 斗を使って帰ってもらった。あすの十時に、もう一度、 茂呂は、吸いかけのたばこを、羊羮の上にねじ消すほ = 社へ来ると聞いたとき、上原逮捕の作戦を思いつい どびつくりした。 」。すると、宮内総務部長が、 「先生、アサヒ石油が、アラビア政府に、総売上高の五 「この話は、社長さんに報告してあります。社長は、日 こ存じ ーセントの領海使用料を、払っていることは、・ ル谷署へ連絡をとったらいいだろうーーと申しておりまでございましよう」 「年間の売上げが、三百五十億円以上だから、毎年十七 、報告した。茂呂が、日比谷警察の捜査係長を訪ね、億五千万円以上の金を払っているわけだな。会社の一年・ 亠原が広告料を強要してきたが、あす、もう一度会うこ月 Ⅲの収益が、二十億円そこそこだったから、率にすれ U になっているが , ーーと話したとき、捜査係長は、茂呂ば、収益の九十パーセント近くにもなる。なるほど、領 ) 話を全部聞き終わらぬうちに、二つ返事で、「逮捕し海使用料は、アサヒ石油にとって、痛い金だね」 よしよう」と言ってくれた。 「ところが、五人の外人重役は、まるで税務署の役人の 茂呂は、そのとき、〈警察官はのみ込みが早い〉と思ように、会社の売上げを調べ、全然、ごまかす余地がな 一たのだが、千夏の言葉を聞けば、すべては浜尾社長かったのです。どこの会社でも、多少の裏があって、売 段取りをととのえていたものとわかったのである。 上げ額を、適当に減らしているようですが、アサヒ石油 「浜尾の人物を、いまさらのように見直したよ。やり手の場合は、これがまったくできなかったのです。 すごうで 」あることは承知していたが、凄腕たな」 株式六千万株のうち、一千万株をアラビア政府が持っ 「先生、私、何もかも洗いざらい中し上げる気になりまているだけで、重箱のすみをほじくるように、売上げに レたのは、社長の人間の裏側を、まざまざと見せつけら目を光らせられていたんでは、会社としても動きがとれ 252

3. 長編推理小説 恐喝

石渡千夏は、アサヒ石汕本社の秘書室に勤務する女子 れは、茂呂逸平に挑戦し、彼の牙城を打ち崩すことだっ はくあ 社員たった。大手町にある白亜のビルの七階の、皇居に 茂呂の顧問先、三十八社は、いずれも一流の大会社だ面した部屋が、浜尾五郎社長の部屋で、その隣りが秘書 ったし、東京じゅうの総会屋が、茂呂の顧問会社に、一室になっていた。秘書室のさらに隣りの小部屋が、茂呂 うおづしげのふ 指も染めることができない現状を知ると、茂呂逸平を叩逸平の部屋である。千夏は、秘書室長魚津重信の部下で きつぶすことによってのみ、自分が浮かび上がることがあると同時に、茂呂顧問の秘書も兼務していた。 茂呂が、アサヒ石油の顧問に迎えられたのは、六年 できると思いついた。 総会屋たちが、畏敬する茂呂逸平を追い落とせば、自前、会社創立の時だった。茂呂には、秘書はおらず、秘 分が茂呂に代わって、総会屋の頂点に登ることができる書室の三人の女子職員が、交替で、茂呂の秘書的な仕事 と考えたからである。 を手伝っていた。 四年前、石渡千夏が入社し、秘書室勤務となってまも なく、茂呂は浜尾社長に頼んで、千夏を自分の秘書にし てもらった。茂呂の目に映じた千夏は、気品のある美貌 三木は、アサヒ石油の石渡千夏に、電話をかけた。 だったのと、その言動に、浅からぬ教養が滲み出ていた 「今夜、お会いできませんか」 からである。 「時間と場所は ? 」 「何時でも、あなたのご指定の場所に行きます」 「茂呂さん、美人には目が早いようだね」 しせいどう 「そうね、じゃ七時に、銀座七丁目の資生堂のグリルでと、浜尾社長が笑いながら、千夏の秘書室勤務と、茂呂 の秘書を兼任することを承諾した。 三木は、受話器を置くと、千夏の容姿を頭の中で追い 三木が、石渡千夏に近づいたのは、彼女が茂呂の秘書 はじめた。 であるのと、アサヒ石油が、相当多額の利益をあげてい ながら、創立以来、六年間も無配をつづけている理山

4. 長編推理小説 恐喝

議長が、喉にからんだ声で、「どうそ」と言って、三 ろうか。ちょうどいいあんばいだ。茂呂さえいなければ、 木に発言をゆるした。脇村会長とささやき合っていた浜 おれの一人舞台だ。おもしろいことになりそうだそ〉 三木は、笑いを噛み殺した。そのとき、進行係が、「尾が、はじかれたように上体を起こし、三白眼を三木に かとうたけいち イクを通じ、開会を告けた。副社長の加藤武市が、議長向けた。 席についた。十数名の重役連が、いずれも強ば 0 た表情「私は、たたいま、ご説明をうけた決算報告について、 で、ならんでいる。社長の浜尾五郎は、取締役会会長協大きな疑問を抱いております。ご列席の株主諸君は、は 村多吉と、議長の隣りにすわり、しきりにささやき合 0 たして会社の決算について、調査をされたのでしよう ている。その右隣りに、一見してアラビア人とわかる外か。会社側が作成した数字を鵜のみにして、いたずらに 異議なし、賛成を繰り返していては、株主大衆の利益 人重役が五人、胸を反らしていた。 くらやみ 議長が、型どおり、経理部長の田中俊治に、決算報告が、暗闇に葬り去られる危険が : : : 」 書の説明をやらせた。田中は、十五分ほどかけて、手慣三木が、演説を進めていると、場内は、たちまち騒音 れた調子で、数字の説明を終えた。もちろん、三木がのるつぼと化してきた。 んだ、貸付金、未収金、仮払金については、表面どおり「引っ込め」 「でたらめを言うな」 の説明があっただけだった。 「持株を売っちまえ」 「異議なし」 「雑誌ゴロめ」 「賛成い」 「ばかやろう」 の声が乱れとんた。 その騒音が静ま 0 た瞬間をとらえ、三木は、「二百九と、いすれも総会屋とわかる男が、やじをとばした。そ の合い間を縫って、 十一番、異議あり」と、よくとおる声で発言を求めた。 とたんに、場内に無気味な静寂がみなぎり、ついで、ざ「演説を進めろ」 「騒ぐな、静まれ」 わめきが起こった。 つど

5. 長編推理小説 恐喝

べっこん とは、別懇の間柄だし、現在、『財界新論』という雑誌 を出版しています。うちの連盟の隠れたシン。ハだったん 七月の中ごろ、三木は、「財界新論」の九月号で、関急 ですが、今度、常任理事として、仕事を手伝ってもらう ことになったわけです。先生、三木君を何かとよろしく電鉄攻撃の特集号を出す。フランを立てた。浦辺守一は、 お頼みします」 相変わらず、関急から目を離さなかった。 笠置は、要領よく三木を、工藤に紹介した。 「社長、関急の経理のやつらの穴をみつけましたよ。新 「三木さん、雑誌をやっとるようだが、こちらこそよろ宿三越裏の大衆・ ( ーで大野酒場という飲み屋がありま しく頼みますよ。政治家は、ジャーナリズムに、悪口言す。ここは店も広く、百人くらいははいれるところで、 あいざわ われるんが、一番つらいことだからね」 関急の経理係長の相沢という男の巣です」 工藤は、端正な顔をほころばし、気楽な調子で三木に浦辺が、真顔になって報告をはじめると、三木は話の 話しかけた。三木は、いんぎんに合槌を打ちながら、不腰を折るように言葉をはさんだ。 思議な思いにかられていた。数カ月前までは、だれから「代々木駅前の契茶店といし 酒場としい、きみはまさ も存在を認められなかった、一介の総会屋でしかなかっ か、関急の連中に、顔を知られるようなへまはやっちゃ たのに、名の知れた笠置の下で働く地位を与えられ、こおらんだろうな」 うして大政治家と、膝を交えて飲食をともにする自分を「社長から言われてますんで、じゅうぶん、気をつけて かえりみた。 ます。それに毎日のように服装を変えたり、髪の形を変 〈すべては銭だ。人が、苦もなく銭をくれる。その銭えたり、眼鏡をかけたりしてますから、その辺はだいじ を、有効に使っただけだ。工藤陸郎だって、札ビラさえ ようぶです。社長、関急じゃ、宅地造成計画の地域を変 きれば : : : 〉 更し、やつばり西北へ、殴りこみをかける計画のようで 三木は、ほくそえみながら、工藤のグラスにビールをす」 なみなみと注いだ。 「変更の地区は : : : 」 おおの 142

6. 長編推理小説 恐喝

った昼下がり、オフィスで、みどりにきり出した。 あたしは三木社長と、茂呂逸平と、両方のネタを擱む立 「五十万円じゃ、お断わりするわ」 場に立ったわけなの。茂呂の手のうちは、それこそ手に みどりは、目を丸くすると、三木を睨む真似をした。取るように、私の耳にはい「てくるし、三木社長の作戦 以前の三木だ「たら、この目に、新鮮な愛らしさを感じの裏側も、す 0 かりお見通し 0 てわけ。社長、どうなさ たのだが、安普請の家のように、賞め言葉がないばかりる ? あたしを、茂呂の陣営へくつつけるか、それと でなく、顔をそむけたくなるような嫌悪感さえ湧いてくも、赤岩参六もろとも、買いとるか、どちらでもご随意 る。 ってわけだわ」 「三百万と約東はしたが、ありや言葉のなりゆきで言っ 「おまえ、赤岩参六とできちまったんか」 たまでだ。百八十万なら上等じゃないか」 「悪いとは言わせませんわ。社長とは、とっくに赤の他 「社長、九月号の見本刷り、三千部で三千万、ずいぶん人、あたしが何をしたっていいんじゃない ? 」 いい相場ですわね。たかだか六十四ページの薄っぺらな「裏切ったんだな」 雑誌が、一部一万円で売れたことになるわ。売れたとい 「社長、おかしなこと言わないでちょうだい。あたし うより、脅して取った様子ですけど : ・ : こ は、赤岩参六の人のよさに惚れたのよ。総会屋にしちゃ 「おまえ、どこでそれを : : : 」 めずらしいくらい、善良な人よ。そりや、男つぶりこそ 「あたしにも、ちゃんとした情報網があるの。赤岩参六最低。けど、女 0 て自分に対し、全力をあげて奉仕して という、茂呂逸平の子分よ」 くれる男性がいちばんいいんじゃないかしら」 「なんだって、おまえ、赤岩と : : : 」 みどりは、足早にくるくると部屋の中を歩き回りなが 三木は、立ち上がると、みどりの手をもうとした。 ら、しゃべりまくった。三木が、おさえつけようと思 が、みどりは体をかわすと、タイプライターの台の後ろ い、追いかけると、リスのように跳び逃げる。 へ回りこんだ。 「ばかやろう。赤岩に騙されてるんだ」 とりこ 「社長、あたしは、体で赤岩を虜にしたのよ。これで、 「女を騙してるのは、社長よ。社長は、女に惚れないで おど 197

7. 長編推理小説 恐喝

社長に身売りしたほうが、あんたのためにもあたしのた めにもなるとね。だからなのよ」 赤岩は、みどりの笑い顔に大きく頷いた。 三木の三人の配下は、それそれ知恵をしぼり、アサヒ 「三木さん、みどりさんの言うとおりなんだが。私とし石油の内偵を続けていた。当初は、上原登がアサヒ石油 ては、なかなか、ふんぎりがっかんで、いつもみどりさんを、佐伯賛治が大洋通運を、浦辺守一が関急を分担し、 と、言い合いをしてたわけなんです。けど、ここまでく聞き込みに回り、あるいは潜入したりして、情報を集めて りや、五十歩百歩。三木さん、味方になってもいいんだ 。が、大洋も関急も陥落させてしまった現在では、 が」 上原担当のアサヒ石油だけが残ってしまったわけだ。 「どうやら二人の腹ん中は読めたよ。ところで茂呂のほ 上原はあせった。 うじゃ、十二月の総会に備え、どんな対策を立てている 上原は、三人の中ではいちばん年長だったし、給料も んだね」 他の二人より、一万円だけ上まわっていた。会社のよう に、部長、課長、係長というような階級はなかったが、 三木が、赤岩の腹の中を見きわめるため聞きだすと、 みどりが、手を広げて、赤岩の発言をおさえた。 それでも、上原は、佐伯や浦辺から、「上原さん」と呼 「だめよ。まだ、取引きはすんでないでしよ。ただで情ばれていた。上原は、二人を「きみ」と呼んでいたの 報を売ることになるわ」 で、おのずから目上と目下という関係が生まれていた。 三木は、苦笑を噛み殺した。 三木社長に対する財界の評価が、日増しに高まり、収 「ここまで踏みこみ、後ろを見せるのもどうかと思う入も増えていくにつれ、上原は、〈これでやっと、生活 あと よ。決めたよ。百万出そうじゃないか。みどりの後金ものメドがついた〉と思った。 上原は、医科大学を中退した医者くずれだった。三木 三木は、小切手帳を取り出した。 に拾われるまでは、文字どおり食うや食わずの、苦しい 生活を経験してきた。保険の外交員、薬品プローカー 200

8. 長編推理小説 恐喝

「大和町から、東村山にかけた、百二十万坪のようでりなんか、擱めるかもしれないよ」 三木は、首をのばし、オフィスの片隅で、タイ・フを打 っている金森みどりの後ろ姿を眺め、声を落とした。み 「資金計画は ? 」 「やはり三星銀行から、九十億円、小きざみに借りる方どりとは別れ話が成立したが、手切金の三百万円は、わ ずかに三十万円払っただけで、今年じゅうに必ず清算す 針が決定した形跡です」 「経理係長が、飲み屋で、仲間としゃべっているわけだると、言いくるめたものの、寝返りを打ち、茂呂側と通 謀する心配があったからである。 「そうです。第一回の借入れが、どうやら今月下句のも「なんですか、・ほくにできることならやらしてくださ ようです。額は、わかりませんが、十億前後 : : : 」 「浦辺君、その聞き込みだけじゃ、手の打ちょうがない 浦辺は、勢いこんでしゃべった。三木が、手を広げ、 な。三星に手を回して、確実なところを擱まにや : ・ : 」「声が高い」というようなゼスチャーを示した。 三木は、目をつむって考えこんだ。 「やるか。のるかそるかの勝負だな」 「社長、確実なところというと、何日にいくら貸すとい 三木は、自分に言いきかせるように、低い声で言う うことですか」 と、一人で頷いていた。 「その前の段階で、融資の交渉が、どこまで進んでいる 一時間ばかりすると、三木は、銀座の三雲ビルの角田 かということだな。月の下句ごろ、金を出すということ法律事務所を訪ねた。 いつわ は、目下、話がすすんでいるのかもしれないな」 「先生、うちの社員を、身分を偽って、ある会社へ乗り 「社長、いったい、どんな手を考えているんですか」 込ませ、経理の裏を、聞き出したいと思ってるんです 「まあ、まてよ。銀行というところは、融資の申込みが が、もし、ばれた場合のことを考え、ご意見をうかがっ あると、相手の会社の業務計画や、資金繰り状況を調べておきたいと思ったわけなんです」 るものなんだ。うまくやれば、あんがい、経理のからく三木は、角田と向き合うと、いきなり用件をきり出し 143

9. 長編推理小説 恐喝

「というと、むりやりに広告を取られたんですかね」 会社から出るのは、ぼくだけだ。で、あんたいっしょに い「て、いろいろ準備をしてもらいたい。別荘には、社「むりやりというわけでもないんですよ」 「で、いくら出したんです ? 」 長の奥さんと、お孫さんたちがいってるようだから、・ほ 「たしか、五十万でした : : : 」 くといっしよと言っても、心配はいらんと思うが : : : 」 茂呂は、宇津木のあいまいな態度から、会社のほう 茂呂は、千夏の顔を撫でるように眺めた。 で、手を差しのべたものと判断した。 「はあ、参りますわ」 なかやま えどばし 千夏は、右頬のえく・ほをく・ほませ、白い歯をちらりと江戸橋ぎわの、極東精塘では、中山社長に会 0 た。三 十八歳の二代目社長の中山は、茂呂の質問に、なかなか みせた。 「十二日の朝、お客さんたちを発たせる予定だから、そ答えようとせず、話をそらそうとした。 「社長、どうなんです ? 三木忠男と手を組んだんです したら、奥日光でも回ってきたいと思ってるが : : : 」 か」 「すてきですわ。・せひ : : : 」 白い顔から、なまめいた愛敬がこぼれ落ちた。茂呂「敵を作りたくなかっただけですよ」 は、千夏の肩を軽く叩くと、外へ出た。会社の自動車を「社長がすすんで手を握ったんですか」 「いや、向こうから来たんです : : : 」 出させると、まず、日本橋の日新貿易へとばした。 三階の役員室へ顔を出したが、社長は不在だった。専茂呂は、憤然とした表情で社長室を出た。 築地の関東建設では、経理部長の岡義雄に会った。 務の宇津木が、愛想よく茂呂を迎えてくれた。 「宇津木さん、つかぬことを聞くようだが、日新貿易じ「三木さんが、やって来ましたんで、びつくりしたんで や「財界新論』におっきあいをさせられたんですかね」す。何かやられやしないかと思いましてな。社長に相談 茂呂が聞くと、宇津木は、禿げた頭を手で撫で上げてしたら、社長は自分で会うと言われたんです。広告料 は、百万円出しときました。なにしろ、三木さんは、爆 から、明きらかにとまどった表情を示した。 弾みたいな男ですからな」 「やむをえませんので : : : 」 102

10. 長編推理小説 恐喝

〈源田社長以下首脳部の背任か〉という見出しの中で「ご承知です」 は、源田社長が、すでに三億円の私財を出し、一部の穴 「ほっといていいんか」 埋めをしている事実から、会社の資金を利用し、巨額の 「なんでも、この号は、何かの都合で、発行されないこ 私利をむさぼるものと断じていた。 とになったと聞いておりますが」 「見本刷りとは、なんだろう」 園部は、そう言うと、視線をそらした。 「さあ、よくわかりませんけど : ・・ : 」 「な・せなんだ」 千夏が、そう言って目を伏せたとき、茂呂の頭の中「理由は、むこうさまのやることで、存じませんです」 に、三木の作戦が、電光のようにひらめいた。 茂呂は、やっと落ち着きをとり戻した。理由はどうあ 茂呂は、雑誌を擱むと、千夏に言葉もかけずとび出しろうとも、こんな記事を公表されたら、源田社長が窮地 ていった。自動車で、関急本社へ乗りつけ、四階の社長に立っことはもちろん、場合によっては、警察、検事の 室へ駆け込んだが、源田は不在だった。秘書課で聞く発動ということも考えられた。 と、「社長さんは、今月二十八日まで軽井沢です」と答茂呂は、アサヒ石油の本社へ戻る車の中で、見本刷り えた。 ができていたのに、なぜ、発行を中止したのかを考え、 経理課室へ飛び込み、部長の園部高夫と会った。 これはてつきり三木と源田との間に、取引きが行なわれ 「きみ、これを知っとるか」 たからだと思いあたった。経理部長の落ちつきはらった 茂呂が、「財界新論」を園部の胸もとへ突きつける態度といい、社長が悠々と軽井沢に遊んでいることとい と、園部は、表紙すら見ようとせず、茂呂を見上げて、 、それしか考えられなかったからである。 目をまたたかせた。 茂呂は、アサヒ石油の顧問室へ戻ると、軽井沢の源田 「うちの会社のことが、すつば抜かれているんだ」 の別荘へ、電話をかけた。女中らしい女の声で、 「はあ、聞いています」 「社長さまは、三日前、北海道へおたちになりまして : 「社長も知っとるのか」 : 一週間のご予定とうかがっておりますので、たぶん、