メアリ - みる会図書館


検索対象: 青春はいじわる
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1. 青春はいじわる

「なあに、おねえちゃん」 「メアリはなんていってるの ? なにを泣いてるのさ、いたし : 「あら、聞いてなかったの、おねえちゃん」 とわかってるくせに節子はとばけていう。 「だっていま、目がさめたところなんだもん」 節子はメアリになにやらいった。 「ペラのペラベラ、ペラベラのペラ」 「ペラベラのペラ : とメアリ。 「せつかくだけどおねえちゃんにはいえないわ」 節子はいっこ。 「メアリにいま、きいたら、いわないでくれっていうんだもん : : : 」 「そんな重大なことなの」 「ン、まあ、そ、つネ」 る 、じゃないの、、いいなさいよ」 「だってメアリがいわないでっていうんだもの。日米の友好を尊ぶあたしたちとしては、約束はか 青たく守りたい」 「セッコ、ムフ度からもう、 いじめたりしないからさ。約東する。おこづかい貸してっていわない

2. 青春はいじわる

実春がいった。 セッちゃん、おムツが組になって、あたしとシイコとトモョが組になるのがいいんじ ~ ナ . い、かーし、ら ? ・、れ」 「そうねえ」 睦子は少ししぶった。節子がペラベラのペラと ( 実際にはそう流暢じゃないのかもしれないの が、睦子の耳にはそう聞こえる ) メアリと談笑しているそばで、姉たるものがだまりこくって、 るべくメアリに話しかけられないように目をそらしているというのもあまり愉快なことではない。 だがそうかといって、メアリとはなれれば、メアリと士郎の間を監視することが困難になる。も、 かしたら、夜陰に乗じて士郎が忍び込んで米ぬともかぎらぬし、あるいはメアリがそっと出て行 , ことだってありうるのだ。 「いいわ。そ、フしましよ、つ」 睦子は決心した。そしてそっと志津子にいった。 「まかしといて。どんなことがあっても、ふたりの間を妨害してみせるわ」 それそれ支度をし、おやすみをいいかわしてテントにはいっこ。 る わ 「メアリを真ん中にして寝るのよ」 睦子は節子に命令し、自分はテントの入口の側に横になった。横になると急に昼間の疲れが押 , 青よせてきた。午前三時から起きて六時間近く歩き、昼寝をしただけであとはおなかのなかを何度。 熱くしてカッカしたあげくに川のなかへ飛び込み、キャンプファイヤーをかこんで踊りまくった (

3. 青春はいじわる

「メアリの八、、 きのう、実春はメアリに頼まれて、このキャンプの模様を八ミリカメラにおさめる役目を引き号 けたのだ。それで実春は運平と中州で釣りをしたときも、八、、 リを持って行ってむこう岸の士郎 とメアリを写した。それを中州へ忘れてきたのは、睦子が岩から飛び込んだ騒ぎにおどろいて、 けつけてきたためなのである。 「どうすれま、 。しいかしら : : : メアリの大事な思い出が詰まっている八ミリを」 実春はオロオロしていった。 「も、つだめかしら : : いまから ~ 打っても」 「この雨のなかをかい ? 中州へなんか、あぶなくて渡れやしないよ」 神田クンがいった 「中州が沈まなきや、雨に打たれただけなら、フィルムもたいじようぶだろうけどね」 「中州は沈むかしら」 「川の水量がふえるとあぶないなあ」 みんなはだまって雨の音を聞いた。気のせいか雨足はますます太く激しくなったようだ。メアリ は不安そうに青い瞳を士郎に向けた。ことばはわからぬながらも、なにか重大なことが起きたこと がわかったらしい そのとき、それまでだまっていた運平がノソリといっこ。 「ばくが取・つてこよ、つ」 うつ

4. 青春はいじわる

55 青春はいじわる ら、も「と英語をい 0 しようけんめいにや「ておけばよか「た。 風が出てきたらしく、山がざわめいせいる。メアリがいった。 「ペラベラ : 「いまのは風が出てきたわ「てメアリがい「たのよ」 と、節子はどうでも、 しいところだけ通訳する。 ペラベラベラ : ・ペラベラベラ : 節子はいった。 「わかる ? おねえちゃん、、 しまのはね、メアリ、もう寝ましよう。でないとあす疲れるから、 0 ていったのよ」

5. 青春はいじわる

「頼みがあって来たんだけどな」 ってごらん」 「頼み ? なんなの、 にしやまけい - 一く 「西山渓谷へキャンプに行こうって話があってね、有志をつのってるんだけど、なかなか集まらな いんだ。それでおムツにもぜひ行ってほしいんだよ」 「キャンプに ? だれがいいだしたの ? 」 「それがその、宮本グンに頼まれて : : : 」 「宮本クン ? 士郎さん ? 」 「いや、実春ちゃんのほうなんだけど、でも目的は士郎さんのためなんだ」 「よにいってるの、ハッキリしてよ。かったるいひとね ? 」 運平がモタモタと説明したところによると、宮本士郎はメアリとの仲を両親に気づかれて、大さ わぎになった。勉学ちゅうの身で何ごとか、と士郎の父は怒り (r まったく同感よ』とそのとき、 睦子は強くうなすいた ) ふたりは会うことができなくなってしまった。メアリが日本を出発せねば ならぬ日は、あと数日に迫っている。 そこで妹の実春は兄に同情した。なんとかして兄とメアリにゆっくり話をさせてやりたい。兄と メアリとの間が高校時代のある夏の小さな思い出としてとどまるだけにせよ、あと味のいい美しい 思い出として残してあげたい そこで実春は西山渓谷へキャンプに行くことを考えついた。二年 の有志で行く。 丿ーダーが必要なので士郎について行ってもらいたいと頼む。そうすれば両親はあ やしまない。むしろ下級生にそれほど信頼されているかと思えば、メアリとの件で少し落ちた士郎

6. 青春はいじわる

しはしたが、五分とたたない だ。疲れないはうがどうかしている。『まかしといて』と志津子にい、 うちに睦子は深い眠りに落ちてしまった。 ふと人のすすり泣く声で目がさめた。何時ごろだろうか ? テントのなかはまっくらだ。流れの ときどき激しくし 音が身に迫ってくるようである。すすり泣いてるのはすぐ左隣のメアリらしい やくりあげ、それから泣き声を立てまいとして、キュウーというような声をもらしながら泣いてい る。そのとき節子の声がいった 「オオ・メア リ・ドント・グ一フィ」 それくらいの英語なら睦子にもわかる。 だがそのつぎあたりから、またもや、 「ペラベラのペラのペラ」 になってしまった。 「ペラのペ : : ラのペ : これは泣きながらメアリがいったことばの表現である。ときどきシローとい、つことばがはいる。 シローとのことについてメアリは節子にくわしい話をしているのだ。だが、残念なるかな、睦子は それを聞いていながらイミがわからない。メアリは士郎と将来を約束したのか ? それともおたが いにきつばり思い切ることを決意したのか ? ・ 「セッコ、セッコ」 睦子は低く節子を呼んだ。

7. 青春はいじわる

かわる。 士郎とメアリは、ふたりの監視の目が光っていることなんか気づいていない。そんなことに気が つく余裕などふたりにはないのだ。 メアリはもうまもなく日本を去る。その切迫感がふたりを情熱的にしている。ふたりは歩くのを やめて、むこうの岩辺にすわった。 「お、おムツ見てよ。メアリの手 : : : 手 : : : 」 突然、志津子は泣き声を出した。 「わかってる ! 」 睦子は怒った声でいった。頭は士郎の肩にもたれかかっている。そしてその手が伸びて士郎の手 を握った。メアリの顔は士郎をじっと見あげて、なにかを待っているようだ。 「あっ、あっ、あっ」 志津子はいっこ。 「おムツー どうしてくれるのよ。見なさいよ、お、お、おムツ : 睦子はすっくと岩の上に立ちあがった。 「おムツ、どうかして : : : 宮本グンの顔がだいぶさがって来たわよツ、 : 志津子はびつくりして叫ぶのをやめた。睦子が突然、岩の上から川のなかへと飛び込んだのだ。 「キャツ、おムツが : : 神さま、おねがい :

8. 青春はいじわる

「あのそばにすわってやろうよ。シイコ」 睦子はにわかに戦闘的になった。いまに士郎がやってくるだろう。そのとき、ふたりでそばにガ ン・ハッていて、邪魔をしてやるのだ。手をつないだり、肩をくんだりできないようにジロジロ見て やるのだ。 睦子はたじろぐ志津子をむりやりそばにすわらせた。アカシアの幹を真ん中にして右側にメア 左側にふたりとい、つかっこ、つだ。 「シロー、おそいわね」 睦子はそういってメアリのほうを見る。「シロー」ということばが聞こえたのか、メアリはふた りのほうに亠冂い目を向けた。 「シローのやつはまじめぶってるけど、ほんとうは不良である」 睦子はメアリに聞こえるように大きな声でいった。 「シローは世界の平和なんか考えてやしない。考えているのは女の子をひっかけることばかり。か しこい女は当然、シローに用心をするであろう」 「おムツの意図はわかるけど、メアリは日本語がわからないんじゃないの」 志津子がいった。 「いうんなら英語でやらなくちゃ・ やらなくちゃ : : と志津子は簡単にいうが、それができるくらいなら、とっくに節子といっしょ に日米学生交歓会に出席している。

9. 青春はいじわる

ようなあでやかなスタイルだ。みんなはちょっとイキをのんだ。士郎の顔にほっとしたような微笑 がのばった。その青白い頬に、少し赤味がさしたのは朝霧を追いやりつつある太陽の光のせいばか りではないだろう。士郎はメアリをみんなに紹介した。 「、ウ・ドウ・ユウ・ メアリはにこやかに、ひとりひとりにそういって握手をした。節子とはとくに親しげに何やら話 しあう。睦子を見て、 「ペラベラベラのペラのペラ」 と話しかけた。節子の姉ならば英語がうまいと考えたのだろう。つまりメアリは、 「あなたの妹のミス・セッコはとても頭のいいすぐれた女性です。私は交歓会で彼女のスビーチを 聞いて、大いに頼もしく田 5 いました」 といったのだが、残念なるかな、睦子には『ペラベラのペラのペラ』としか聞こえぬのである。 一行は出発した。みなそれそれ、リ = ッグやテントをかついでいる。メアリだけが小さな・ハッグ を持っているだけだ。なのに士郎はその・ハッグを自分のリ = ックの上にのせた。そうしてふたりは いつのまにやら一行より五メートルほどおくれて、 「ペラベラのペラ : : : オーツ」 と語りあいながら歩いている。 「おムツ、来なければよかったわ。あの仲のいいところ、どう ! 」 早くも志津子は泣きごとをいった。

10. 青春はいじわる

七月のはじめから・ハケーションで、マスターソンさんのところへ来てたんだけど、あとの人たちは 三日ほど前に日本へ来た人たちなのよ。みんなメアリの友だちで、メアリが呼んだのよ」 「メアリってかわいい子なの ? 」 「とってもかわいいの。まるでお人形みたいな金髪のマキ毛。まっげがグルッとまきあがって 睦子はことばをさえぎった。 いっ帰るのよ ? その連中」 いなか 「メアリは当分いるわ。あたしたちもすっかり仲よしになったし、日本の田舎が大好きになっちゃ ったのよ。あとの人は京都へ向かって、あす発つの」 「へーえ。それがマスターソンの奥さんの姪なの ? あのトウモロコシバアサンちにそんなかわい いのが生まれるとはねえ : : : 」 睦子はそういってプイとへやを出た。おもしろくない。おもしろくないことおびただしい。金髪 のマキ毛だって ? まっげがグルっとまきあがって ? : ・ : ・ 「へんだ ! 」 睦子は声に出していった。日はもう暮れかけているが、表へ出た。思えば田 5 うほどおもしろくな 。美人や美男がこれ以上、この町にひとりでもふえるのは許しがたい気持ちである。アメリカ娘 と士郎。美少女とハンサム。ああ、おもしろくない。不愉快′ ふと、睦子は横山志津子を思い出した。志津子は士郎にネッをあげている。志津子にこのことを