二枚 - みる会図書館


検索対象: 青春はいじわる
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1. 青春はいじわる

「いやアねえ、あたしにヤキモチをやくんですって : : : まあ、どうしてかしらア : ミキは有頂天になってコロコロと笑い、むこうへ行ってしまった。ああ、やれやれだ。女とっき あうとまったく苦労する。 昼まえ、ばくは、物理教室の前で新子を見かけた。新子は物理の本とノートを胸の前にかかえ、 ばくを見てかすかにロもとをはころばせた。 「きのうは、ごめんなさい」 すれちがうとき、新子は小さな声でいった。ああ、なんとロマンチッグな、甘くものがなしい光 景だろう。不幸のなかのひとりの少女。それを励ます若きナイト。ばくはいった。 「ばくのほ、つこそ : : : 」 : 「ばくのはうこそ」 : : : すっかり二枚目だ。ばくも それはわれながらいい声だったと思う。 だんだん二枚目になってくる。だがそのあとでミキがやってきていった。 しいセンいってるじゃない」 「見たわよ、見たわよ。ボクのほうこそ : : : だなんて、 それからミキはいやなことをいった。 譜「でもね山名クンがスマすと、下痢をこらえてるような顔になるの。気をつけたはうがいいわ」 ロ レ ロ レ スナック『青』はばくらの町のただ一軒の東京ふうスナック』だという。どこが『東京ふう』 でどこが『町ふう』なのかばくにはよくわからないが、とにかくミキが熱、いにそういうからそうな

2. 青春はいじわる

ト、このやさしさ、この純愛 ! : : : だ テン頭になる勇気を持っているだろうか ! 太平のこのマコ が女の子たちときたら、純愛とかマコトとかいうと、森のような二枚目しか持ちあわせがないよう に田 5 っている。 たとえばこのばくとか太平とかが、純愛などということばを使うときみたちはクスグス笑う。 「ガラじゃないわネ」 などという。ああ、残酷にして真のオトコの値うちを知らぬ女の子たちょ。ほんとうは二枚目よ りも三枚目のほうが男のマコトや純愛をたつぶり持っていることを知らぬのかー ばくはきのうの一件を太平に話した。太平はみるみる顔面が紅潮し、 ( それはノッポがばくを脅 いきしようちん 迫したというとき ) それから例の汚れマダラになり ( 森の登場 ) それからすっかり意気消沈してい つものおむすびづらにもどった。 「、、フか」 太平はいっこ。 「しかし、とにかく、行ってみよう。新子チャンのところへ」 ばくらは・ハスに乗った。 新子が厄介になっている伯父さんの家は、ばくらの町のふたつむこうの町だ。新子はその伯父さ んの離れに母とふたりで住んでいるのだ。 ばくらは・ハスをおりて、川ぞいの道を歩いて行った。川を見おろす高台にその家はある。と、太 平がいった。

3. 青春はいじわる

初子は、久がオッチョコチョイぶりを発揮すると腹が立つ。みんなが笑うとカッとなる。どんな ことがあっても、私ひとりだけは笑うもんかと、歯をくいしばってがまんする。すると久は、そん リ・ヒ な初子を『ガン・ハ ー・ハー』などと呼ぶのだ。マンガのビー ーというのは、前歯が二本前に 出ている。初子の上の二枚の前歯は真っ白で大きい。笑うまいとがんばるとき、ついその歯で下唇 をかみしめる。それをビー ーのようだと久はいうのである。 「きみ、きみ、そりやいったいなんのマネだ」 すると久はパッチリと目を開いていった。 「ご来迎をおがんでいるんです : : : 」 とたんに教室がひっくり返るような笑い声が起こった。ロ笛を吹く者、足をふみ鳴らす者、机を 者・・ : : ミスタ ハゲワラのハゲ頭のてつべんは赤くなった。ハゲワラは怒ると、まず頭の てつべんから赤くなる。 ぐろう 「大庭、おまえはまた、教師を愚弄したな」 「愚弄だなんて、先生、いまのは催眠術で : : : 」 ミスタ ハゲワラはそうどなってから、あきらめたようにため息をついてこういっこ。 「催眠術は・ハ力と気ちがいには、 カからんとい、つか、ほんと、つだ」

4. 青春はいじわる

「わかってる、わかってるよ」 ばくは低い声でいった。ちょっとした二枚目ぶり。ばくもだんだん板についてくるそ。愛を知れ ば詩心が生まれ、そして二枚目になる ! ( よしよし、この調子、この調子 ! ) 「ばく、きみに学校だけはやめてもらいたくないんだ。きみは組だ。ばくみたいな組の劣等生 とはちがう。勉強すれば有能な人間になれる人なんだ。どうかそんなことをいわすに、この金を受 けとってくれ。きみの才能を伸ばすのはきみの義務でもあり、また友人としてのばくの義務でもあ る。世のため、人のため、ニッポンの国のために : どうも調子が狂ってきた。途中で演説口調になったあたりからへんになったのは、気分を出しす ぎて去年の町長選挙のときに応援を手伝った名残りが出てきたのかもしれない。 「とにかくだ、学校はやめてはいけない。あとの金はまたなんとかするから、やめるなんて考えず にがんばってほしいんだよ」 「でも : : : でも : : : 悪いわ : : : 」 「悪いことなんかちっともない。 このお金はばくともうひとりの男とで作った金だ。けっして恥ず 譜かしい金じゃない。遠慮もいらない。苦しいときは助けあうんだ。うれしいときはその喜びを分か 早ちあう。それがばくら若者の特権だ。ばくらは進む ! ばくらは叫ぶ ! 大空を見よ、と。大空に レ・回かって・叫ば , つ、と : レ どうもハリキルといけない。調子にのって、森秀樹の県下高校生弁論大会での文句をしゃべって しまった。

5. 青春はいじわる

「ぜいたくいうな。いやなら自分で書けば、、じゃよ ししよ、これでいい」 村井はあわてて手紙をポケットにおさめながら、 「なあ大庭、田所のほうはもっとへたに書けよ、なあ」 「そうはいかん。やつは二百円のにしてくれっていうんだ」 「えつ、二百円 : ・・ : 」 「特上だ。便せんにして十枚だそ。もう特上を二度渡した。手紙はもどってこない」 「ほんとうかい、それ」 「なさけない声出すな。ケチケチしてると田所にやられるぞ」 「出す、出す。では二百円の、もう一本たのむ」 「そうか、じゃあ三日したら書いておく」 久はそういうと手帳を取りだして、 「二百円一本ーー村井注文」 たどころいさむ と記した。村井が出て行くのと入れちがいに、田所勇がはいってきた。田所勇は白米というアダ ナで色が白くてからだも気も弱、。 「書いてくれたかい、大庭。三十円のひとっ」 「うん、三十円にしちや大マケのを書いたんだぞ。ま、読んでくれ」 田所ハクマイは低い声で読みはじめた。 オしか。これは田所のほうへまわす」 ハクマイ

6. 青春はいじわる

102 の家へアクリガーゼや包帯をよく買いにきたので、少しは知り合いの仲だ。森は喧嘩のけがを家の 人にかくしていて、ばくのところでそっと包帯のまき変えをやったのだった。 まと 森秀樹はパン長の釜田との喧嘩以来、女の子たちの注目の的となった。 「森秀樹ーー名まえからして二枚目ねえ : : : 」 「うしろ姿が寂しそうでシビれるのよ。あの肩、ちょっとネコゼにしてるところ : : : あの歩き方の 孤独な感じ : ・ 「だまってて、必要なこと以外は何もいわないの。そのくせ、いきなりニコッと笑うことがあるで しよ、あのかわいい顔つたら : : : 」 「それになんて長いマッゲなの、あのマッゲを伏せて本を読んでるときの横顔を見てるとあたし、 このへんがキュ ッとなってくるのよ」 : と女の子たちの会話はわけのわからぬけたたましい叫び声で終わる。女というやっ は何かというとすぐ、キャーツと叫ぶがこの場合は、森秀樹の魅力にいかにシビれたかということ をあらわすキャーツなのである。 じよけっ しかし女傑島津ミキまでが森秀樹にそこはかとなき関心を持っていたとは、ばくには想像もでき ないことだった。 : きみが : 「きみも : : : あの森に : : : きみが : ただただ驚きあきれてそういうばくに、ミキは宣言するようにいっこ。 「森クンを紹介してよ。そうしたら一日ぐらい我慢して、大熊グンとっきあったげる」

7. 青春はいじわる

青春はいじわる ウンペイとおムツ : 人形にまけるな : ああキャンピング : ノッソリしたヒーロ おそろしくもかわいい : レロレロ日十春 二枚目と三枚目 : ・ 詩人のタマゴたち : ・ 恋人募集・ : ・春はまだまだ : 目次 140 126 103 94 72 56 40 25 6

8. 青春はいじわる

「二年の岩山が新しい戦術を考え出したんだ。ウカウ力したらやられてしまう。二年に負けたら一 年の恥だ」 いわやまさんじ 二年の岩山三次は重量上げの選手で、カが強くて三年生よりも大きい。 「岩山はあの弟をだきこんだんだ」 「弟 ? 卓三かい ? 」 「あの子は毎日、夕方になると大をつれて散歩する。あの子は妙チキリンなオタフクの大をとて。 かわいがっているんだよ。岩山はそれを知って、岩山の店の前を通りかかると、呼び入れて大に、 ューマイを食わせるのさ。そしてすっかり仲よしになってしまったんだ」 岩山三次の家は公民館の近くで中華料理店を開いているのだ。 「しつかりしろよ、田所。岩山なんかに負けずに勇気を出して当たってみろ」 「それがそうはいかんのだ。彼女にはいつも護衛兵みたいな友だちがついていて、そいつがまた ~ ごく強いやつでね、すぐ大声出してどなるんだよ。『不良 ! 』とか『ゴマのハエ ! 』とか、『この、 ナプンプン』とか : 「やられたのか ? 」 「うん、五回ほどね。それを見て彼女はおもしろそうに笑ってるんだ。彼女の前でそんなふうに一 られる身にもなってみろよ」 「なさけないやつだなあ、よし、ばくがなんとかしてやろう」 「してくれるかい ? 」

9. 青春はいじわる

大きな声ではいえないが、女の子というものはどうしてあんなにあっかいにくいんだろう。 おだてるとつけあがる。相手にしないとムグレる。からかうと泣く。おとなしくしていると・ハカ にする。おこると百倍ぐらいのカでおこり返す。ああ、ばくはできれば女など相手にせず、道ばた に転がっている馬糞が石コロでも見るように女を見ることができたらどんなに気持ちがいいだろ やまな 「ちょっと、山名グン」 と呼ばれても、何を、この馬グソめ ! という顔をして知らん顔をして通り過ぎることができた らどんなにさわやかだろう ! ばくはいつもそう思う。そう思うが、思うとおりにばくはできない。なさけないができない。な ぜできないのか、なぜかわからぬままにばくは、 「ちょっと、山名グン」 ニ枚目と三枚目 ばふん DDD D D D 0 D D D D

10. 青春はいじわる

と叫んだのは二段べッドの上の睦子である。睦子がいま、思いっきりカまかせに枕を天井高くけ みやもとしろう りあげたところなのだ。へやヘはいってきたのは睦子の高校の三年生である宮本士郎だ。淡いグレ よこやましずこ ーのズボンに真っ白なポロシャツがよく似合う。睦子のクラスの横山志津子が、士郎のためにこう いう歌を作ったことがある。 おお、白鳥のきみよ、 夜明けの星よ、 きみのうなじは若竹の青、 ひとみ きみの瞳はおウマの目 ほほえ ああ、その微笑みの雄々しさよ わが心はしおれぬ、しばみぬ、 おお、きみよ , つまりおウマの目を持つ、白鳥のようであり、夜明けの星のようでもある宮本士郎がほほえむ と、横山志津子の胸は悲しみにつぶれる。なぜならばその雄々しき微笑は、志津子に向けられたも のではないからである、というこれは片思いの歌なのである。 みやもとみはる 士郎は睦子と同じ二年組の宮本実春のひとっちがいの兄である。宮本病院の三きようだいとい びばう