伯父さん - みる会図書館


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1. 青春はいじわる

112 てくれたの。でも兄は大学をやめてしまったわ。大学を出なくてもりつばな人間になってみせる、 ってそのときは兄はとてもまじめに生きることを考えていたのよ。でもそのうち、だんだん変わっ てきた兄は伯父さんの会社で働いていたんだけど、去年の夏にそこのお金を使いこんでしまったの」 つよ、こふくれあがってくるのをいっしようけんめい 新子のことばはとぎれた。涙が目のなかいーしー にまばたきをしておさえると、新子はつづけた。 「そのときあたし、伯父さんからもらった二学期の授業料を兄に渡してしまったの。それで使いこ みの埋め合わせができて、だれにも知れすにすんだけど : : : 最近また、兄は : : : 」 「使いこんだの ? 」 新子はうなずいた。 「あたし、ずっと授業料を入れてないの。もし伯父さんのはうに学校から通知が行ったらどうしょ うかと思うと、あたし、このさい、をもかも伯父さんに話して学校をやめようと思うの」 「ふーん」 ばくはいった。われながらチェのない返事だ。だがばくはなんといっていいかわからない。 : なんとかならんだろうか」 「そいつは : : : 困ったな : これではまるでどちらが相談している身なのかわからない。仕方なくばくはいった。 「どう、おしるこでも食べない、少しあったまってよく考えようよ。ばくがオゴる」 新子は素直についてきた。 大熊太平ならひとヒネリでイチコロだろう 新子はとても小さくやせている。汽が白くて細い。

2. 青春はいじわる

森は落ち着き払っていた。 「そのまえに、あなたのことをばくは金井さんにいうつもりですよ」 「なに、金井さんてだれだ ? 」 かないよういち 「金井陽一さんですよ。新子さんのにいさんです」 ばくはびつくりしておもわず出て行った。 「あなたは新子さんのにいさんじゃない。 経営している材木会社で働いています」 森は出て行ったばくをふりかえっていった。 「金井グンのにいさんはこんなノッポじゃないんだ。からだっきのガッチリした背の低い人だよ」 ・森はいっこ。 「にいさんは今月からばくの父のところで働いているんだ。金井グンの伯父さんとばくの父とは商 売の取り引き関係があって、金井クンのにいさんはよくばくの父の店に来ていたんだ。だが、 は金井陽一さんが新子さんのにいさんとは知らなかった。ただ、いままでの店で少しおもしろくな いことをしてしまって家を出てしまったが、心をいれかえて働きたいと父に頼んできたので、うち で働いてもらうことにした、と父が母にいっているのをきいたことがある。きっとにいさんは今月 よ。、まじゃ、すっか からでも月給のなかから少しずつ伯父さんに返すつもりでいたんじゃないかオし りまじめな青年になって、うちの社員寮に住んでるよ」 ばくはあの人を知っているんです。あの人はばくの父の

3. 青春はいじわる

ト、このやさしさ、この純愛 ! : : : だ テン頭になる勇気を持っているだろうか ! 太平のこのマコ が女の子たちときたら、純愛とかマコトとかいうと、森のような二枚目しか持ちあわせがないよう に田 5 っている。 たとえばこのばくとか太平とかが、純愛などということばを使うときみたちはクスグス笑う。 「ガラじゃないわネ」 などという。ああ、残酷にして真のオトコの値うちを知らぬ女の子たちょ。ほんとうは二枚目よ りも三枚目のほうが男のマコトや純愛をたつぶり持っていることを知らぬのかー ばくはきのうの一件を太平に話した。太平はみるみる顔面が紅潮し、 ( それはノッポがばくを脅 いきしようちん 迫したというとき ) それから例の汚れマダラになり ( 森の登場 ) それからすっかり意気消沈してい つものおむすびづらにもどった。 「、、フか」 太平はいっこ。 「しかし、とにかく、行ってみよう。新子チャンのところへ」 ばくらは・ハスに乗った。 新子が厄介になっている伯父さんの家は、ばくらの町のふたつむこうの町だ。新子はその伯父さ んの離れに母とふたりで住んでいるのだ。 ばくらは・ハスをおりて、川ぞいの道を歩いて行った。川を見おろす高台にその家はある。と、太 平がいった。

4. 青春はいじわる

「じゃあ、遠應しないで、お借りするわ」 決、いしたように新子はいっこ。 : きっと : 「いっか、きっとお返しします。お金だけじゃなく、心でも : ああ、なんといいセリフをいってくれるんだー ここんところをひと目、太平に見せてやりた きかせてやりたい。新子の目のなかに涙がふくれあがっている。ばくへの感謝の涙だ。この感 : きっと : : か ! ああ ! : お金だけじゃなく、、いでも : 謝の涙がやがて愛情に変わるだろう。 二月にはいると学校のなかには、中間テストを終わったあとの、ほっとくつろいだ気分が満ちて いる。三年生はもうほとんど学校へ来ない。進学組は家で勉強しているし、就職組のなかにはもう 退屈そ 見習いに就職さきへ出向いている者もいる。進学も就職もしない太平のようなやつだけが、 うにぶらぶらと学校へ来ているだけだ。 太平は卒業後は家業の肉屋を手伝いながら、伯父さんの空 手道場の教官をやることになっているからノンキなのだ。だが太平は元気がなかった。けつきよく 太平は坂東妻五郎の芝居をミキといっしょに見ることができなかったのだ。ミキは太平が『青の会』 に来たことでツムジを曲げてしまった。 「『青の会』で会ったんだから、もう芝居はやめ」 ミキはそういったのだ。つまり太平ははっきりフラレたというわけなのだ。 「いい金もうけがあるぞ。滞納授業料くらい、全部カタづく金もうけだ」 太平がそういってやってきた。 手に一枚のチラシを持っている。

5. 青春はいじわる

「じゃあ帰りましよ、つか」 「こんなところに立っていてもしようがないわ」 ばくは彼女のうしろからノソノソとついて行った。彼女はばくが思っていたよりずっと愛ら , 。自分で編んだらしい毛糸の手袋。 く、やさしく、寂しそうな女の子だった。質素な黒いオー 肩に垂れた三つアミ。 「あたしは知ってるのよ。森グンにとってあたしなんかなんのイミもない存在であったこと。で。 あたしってダメな女の子よ。知ってるくせに森グンに相談したくて・ : ・ : 」 ばくは田 5 い出した。森はばくに、 「彼女は相談があるっていうから、それを聞いてやってくれよ」 といったのだ。 このってやっ 「ばくでよかったら、それを話してみてくれないかな。森にも頼まれたんだ。相談。 くれって : : : 」 彼女はしばらくだまって歩いていたが、やがて決心したようにいオ 「あたし、学校をやめなくちゃならないの」 「学校を ? なぜ ? 」 「去年の春、父が事業に失敗して北海道へ行ってしまったのよ。そのとき、ちょうど合格の発表【 あったばかりだったんだけどあたしは進学をやめる決心をしたの、でも母がせつかく受かったん ~ し高校だけはどうでも出ておかなければといって、伯父さんに頼んで学資を出してもらうように ,

6. 青春はいじわる

と呼ばれると、まるで待っていたように、 といそいそ返事して、女の子のほうへ近づいていってしまうのだ。 いつだったか、クラスの人気投票でばくが一番だった。女の子たちの票が圧倒的に多くてばく」 しまづ 一番になったのだ。だがそのあとで島津ミキがやってきてばくにこんなことをいった。 「人気投票とモテるってことはちがうのよ、間違えないでね」 と、フきょ - っ わかってる。そんなこといちいちいわなくたってわかってる。どうせばくは東京ばん太ナミの・ かやまゆうぞう 気者なんだ。同じ人気者でも加山雄三と肩を並べる人気じゃないんだ。わかってるよ。うるさ、 な。なんべんもいうな。 三学期がはじまってまもなくの日曜日、ばくが店番をしていると ( ばくの家はこの町でいちば , おおくまたへい 小さな薬屋なのだ ) 三年の大熊太平がやってきた。太平はばくより二年上級生だが、ばくの家と むす - 一 からて しはん 軒おいてとなりの肉屋の息子なのでこどものころからの遊び仲間だ。伯父さんに空手の師範がい , ので、中学のころから空手をやりはじめたが、学校でも空手のキャプテンをしている。ばくは太 譜を見るといつもサルカニ合戦の絵本を思い出す。といっても太平がサルに似ているわけではない。 早カニに似ているわけでもない。実をいうと太平の顔はニギリめしに似ているのだ。サルとカニが レりかえっこをしたあの三角の大きなおむすびだ。しかも多少、汚れた手で握ったニギリめしだ。 レ「おい、ビョンビョン堂 太平は、店へはいってきながらいった。ばくの家の屋号は「ウサギ堂』という。それで太平は

7. 青春はいじわる

アリを待っているのだ。だから睦子はわざとそんなことをいってみる。 「さあ、行こ、つよ。なにしてるのよ、みんな」 「まだ : ・・ : ひとり、来ないのよ」 運平がモソモソといった。そっと士郎のほうを見るとまだ明けきらぬ夜明けの光のせいか、やや なんというハ 青白く見える横顔を見せて、じっと朝霧の流れる川面を見おろしている。チェッー ンサムぶり。これが運平だったらどうだろう。どうしたって川を流れてくる猫の死骸かなにかに見 入っているヒマ人の顔になる。 「睦子さん、もう少し待ってちょうだい。お願いするわ」 実春が近よってきてそっといった。実春は明るいグレーの七分ズボンにザグロの花のような色あ いのシャップラウスを着ていた。そんな実春は朝霧のなかでまったく、目がさめるようにあざやか 「睦子さん、きようのキャンプの意味、馬場グンにきいてくれたでしょ ? よろしくお願いするわ ね」 と釘をさした。 る じそのとき橋のむこうから明るい声が、 青と聞こえてきたと思うと、朝霧のなかから息をきらせたメアリが姿をあらわした。純白のズボン ーからぬけ出してきた に白いアミアゲ靴。真っ白のプラウスに純白のチョッキ。ファッションショ

8. 青春はいじわる

久はノンキに笑っている。 「しつかりしろよ、田所。彼女はいってたそ。田所さんってどんなひと ? だからこういっといた よ。繊細で優雅でハンサムボーイだって。ただしショッグを与えると、急性下痢を起こしやすいか ら、注意しろって : ・・ : 」 グマイ ハゲワラがはいってきた。英語のテストがはじまるのだ。ハ チャイムが鳴ってミスタ は興奮のあまり、一夜づけで覚えた単語を全部忘れてしまった。ハグマイばかりでない。村井省三 もそして初子もテストを失敗した。それぞれのパーティの話にショッグを受けたからである。もっ とも初子はショックのあるなしにかかわらず、いつも失敗するのがきまりだが。 、、ナこ。刀子ばかりでない ハグマイも村井 その日のテストが終わると、すぐに初子は久を追し力しオネ 省三も、それからまだほかに弓子に関心のある二、三の者が帰ろうとする久をとりかこんだ。 「大庭クン、さっきの話、あれ、ホントなの ? 」 「ホントだよ、ばくがウソをい、つとでも田 5 ってるのかい」 「いっ渥美さんと会ったの ? 」 「きのうさ、英語の下調べをしようと思ったんだけど、つまんないんでふと思いついて彼女の家へ 行ったのさ」 「彼女の家へ ! 」 「うん、へいをとびこえて庭を歩いてたらビアノの音がしたんですぐにわかったんだ。窓ガラスを ばくはシラノです、って たたいたらふりかえってびつくりしたから、びつくりしないでください、 せんさい

9. 青春はいじわる

「おサキは ? ・どこ ? とこ ? 」 玄関さきで遊んでいる小学生のカタマリに向かって叫んだ。 あらし 「サキねえちゃんかい。嵐へ行ったよ」 「嵐 ? あの、雄策サンの家 ? 」 「うん、そうだ」 「坊や、教えて。早く、地図書いてよ。嵐サンの家の : : : 」 と目の前の子をつかまえてゆすった。 「ちがうよ、その子は床屋の子だ」 悠然とそういって、いかにも咲子の弟らしい小型のキンツバみたいな男の子が地面に地図を書い て教えてくれた。 「ありがとう。大通りから・ハスに乗って五ッ目で乗り換えて三ッ目ね」 美緒は走った。あんまり夢中で走ってパス停を通り過ぎ、つぎのパス停まで走ってしまった。 雄策の家を探しあてたのは、日はとつぶり暮れ、聞きなれたテレビ寄席のコマーシャルソングが 理家々の窓から流れているときである。 笑「おサキ、おサキ , いるの ? おサキ ! 」 し 美緒はくぐり門から顔をつきだして、息をはすませながら大声をあげた。雄策の訪問者としては ふさわしからぬ訪いようだ。だが美緒はもう、気どっているひまがない。 「咲子さんですか ? 来ていますよ。おあがりなさい」 おとな と - 一や

10. 青春はいじわる

太平はいっこ。 「二月十五日、山添公会堂で審査だ。十万円あれば、彼女は学校をやめなくてすむよ」 「しかし、ばくはダメだな。ばくがミスター山添になんかなったら、オヤジがおこってたい 「なにをいってるんだ。おまえなんかどっちにしたってダメだよ。オレが行くんだよ」 「なんだって、きみがー : ばくはあきれるというよりむしろ感心した。なんという、みごとな自 そのおむすびづらで ! 一三ロだろ、つ。 「何をそうおどろく」 太平はそういうと、肩を片いつばうだけグイとあげ、いきなり、 と叫んで、紀伊の伯母さんから送ってきたばかりのみかん箱をたたき割ってしまった。 「どうだ、この野性味 : ・・ : 」 みふねとしろう そういって右肩をグイとあげ、三船敏郎のようにノッシノッシと肩をゆすって歩いて行ってしま っ・ ) 0 その日から、太平はやたらに、 を連発してばくを閉口させる。眉をグイとあげ、肩をグイとあげ、三年生はほとんど来ていない