二人 - みる会図書館


検索対象: あべこべ人間
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1. あべこべ人間

鼠小僧次郎吉 彼等はこの界隈にある暴力バーがどんなに その若いサラリーマンたち二人は不運だった。 , こわいところか知らなかったのである。 小雨のなかを、焼鳥屋で飲んだ二級酒がすっかり彼等をいい気持にさせていた。気が大き くなった二人は、ついフラフラとキャッチガールの誘いにのったのだ。 「ねえ、飲んでって。二千円で飲めて、そして、さわらしてあげるからー 「さわらせるって、どこを ? 」 「わかってるしゃない、 ーマンは無邪気に顔を見あわせ、 二人の若いサラリ 「行くか」 次と小声で相談しあった。女は二人の腕にぶらさがるようにして、雨にぬれた路を案内した。 彼等が連れ込まれたのは、ギラギラと電気が。ハラフィン紙に反射し、そのくせ四方の隅が 洞窟のように暗い店たった。すり切れたテープが三年前の藤圭子の演歌を鳴らしていた。ポ ックスに二人が腰をおろすやいなや、今まで見えなかった隅の暗闇から、化けもののような

2. あべこべ人間

「持ち合わせがない ? あんたたち、人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。ただ飲みをして 逃げようたって、そううまくいかないそ。財布を出してみろ、二人とも」 おすおすと二人が差し出した財布のなかには四万円と少ししか入っていなかった。 「時計を出してみな。こっちの免許証は預かる。せ。免許証返してもらいたければ、明日、残 りの金を持って来な」 「せめて帰りの電車賃ください」 「甘えるんしゃないよ、この野郎」 ドスのきいた声に二人のサラリーマンは椅子からとびあがり、出口の方にあとずさりをし 「いくじのない奴らだ」 ーテンはせせら笑って煙草を横ぐわえ 二人が闇のなかに姿を消したのを見とどけると、 にロにくわえた。 : ホーイの一人がすぐにライターを差し出して火をつけた。 「あんたたち、なにポャポャしてるんた」 と。ハーテンは隅にむかって怒鳴った。 次「ノルマがあがらないと、借金を背負うのはあんたたちのほうだ・せ。早く外に出て次の客を つかまえてこないか」 暗がりにかくれていたホステスたちがそろそろと姿をあらわし、その何人かが新しい獲物 を求めて表へ出て行った。

3. あべこべ人間

328 と代って答えたのは春江だった。 「じゃ、アンプルはまだ残っているんだな」 、え、最後の一本ばこんわたしの体にうってもらいました」 と春江は胸をはって答えた。 「わたしは男になります。茂さんが女なら、その方がよかと思うたとですー その間、茂はほとんど眼を伏せて何も言わなかった。 「わたしたちアベコペになったばって、どっちっちやかまいません。若かっせんもう一度、 人生ばやりなおせますもん」 杉田は二人の間に何が起ったかは知ることができなかった。しかし、二人の間に何かが起 ったとは信ずることができた。 「そうか、やりなおすのか」 「それじゃ、みつからないうちにここを早く出るといい」 三人はそのまま病院を出た。夜、日比谷の通りはあまり人影はない。 「ここで失礼します」 「さようなら 若い二人は肩をならべ、杉田とは反対の方向に歩きだした。ふりかえった杉田の眼に、む しろ茂を リードしているような春江の姿がうつった。二人は手をつないでいた。

4. あべこべ人間

茂の口調が急にきつくなった。びつくりして春江は思わす黙りこんだ。 ( この人 : : : わたしが嫌いになったんかしらん ) 不安になってきた。 二人はしばらく気まずい表情で黙っていたが、やがてポーイが、 「ラスト・オーダーです とテー、、フルをまわりはじめると、 「部屋に帰るか と茂が春江を促した。 二人はビャガーデンからロビーに戻り、エレベーターにのった。 ( 今から初夜の行事がはしまる ) 春江は胸がドキドキとした。部屋をあけると、いつの間にかポーイが仕度をしてくれたの か、べッドのカ ・、ーははすされて毛布の上にホテルの浴衣がおかれていた。 「くたびれた ? 向 訪「お風呂は : : : 」 外「うん」 二人は一緒に入浴をするだけの勇気がなかった。 「茂さん、さきにお入りよ

5. あべこべ人間

「アクセサリーもビンからキリまであるしゃん 女子中学生の声はさっきと違って、無邪気さも可愛らしさもすっかりなくなっていた。 「洋服、買ってくれなきゃねえ 「洋服 ? 洋服か」 「そうよ。そのくらい当り前しゃん。わたしたち、こんな事はじめての経験だもん。洋服だ って、安いわよー はっキ」り一言わ 「驚いたね、君たちがはじめての経験だとは、そのロぶりで信しはしないが、 れると、こっちも白けてくる」 と紳士は本当に苦りきった声を出した。 「なら、他の娘と話つけなよ。もっといいものを買ってくれるおしさまは、この原宿にうよ うよいるもんねー 「参ったなア」 だが、紳士は結局その三人のうちの一人をつれて椅子から立ちあがった。その女の子は他 の二人に、 人「・ ( イ。ハイ、二時間したら、ここで待っててねー まるで散歩にでも行くような口ぶりで、紳士と外に姿を消した。 し 新 春江は彼等の話の内容がまだわからなかった。ただあの紳士が理由もなくこの女子中学生 に洋服を買い与えるのがたまらなく、ふしぎでならなかった。けれども、残った二人の直後

6. あべこべ人間

260 女たちがわっと現われた。そしてポーイがまたたく間に、テープルにビールの瓶を並べた。 すべてがはじめから仕組まれていると思うほど、ス。ヒーディで手際がよかった。 あっけ 呆気にとられて、ものも一一 = ロえない二人のサラリーマンに、二人の女がしがみつき、そのす きをねらって他のホステスたちはビールをやけくそになって飲みはじめた。 「お兄さん、すてき」 「愛しちゃったわ」 「ロを大きくあけて、アーン いつの間にか運ばれてきたサラダやお新香を、ホステスは無理矢理に二人のロに押しこん 「坊や、いい子だから、うんと食べて、うんと飲んで大きくなるのよ。体もあそこも」 「そうよ、わんばくでもいい、たくましく育ってね」 ビールがまたたく間になくなり、ポーイがまた三、四本の瓶をさっと持ってきた。サラリ ーマンの一人がそれに気づき、 「冗談じゃないそ、注文してから持ってきてくれ」 と叫ぶと、ホステスの一人が鼻声をだして甘えるふりをした。 「いいじゃん、これくらい。その代りうんとサービスするから」 「これじゃ、話がちがうよ。二千円で遊べると言ったじゃないか。し 「お勘定なんか、忘れましようよ」 、くらなんだい」

7. あべこべ人間

「おいしか : : : 空気の : : : 」 黄昏の空気には樹々の匂いがましっている。土の匂いもこもっている。東京の空気では絶 対感じられない味だ。 そしてビャガーデンからあまい音楽がながれてきた : すべてのお膳立がまるで映画のようにロマンチックだ。そしてそのロマンチックな時間が あと四時間もすれば、二人はこの部屋のこのべッドに入るのだと春江は思った。 夕食はそのビャガーデンですることにした。おでんや焼鳥まで出してくれるとポーイが教 えてくれたからである。 日がまったく暮れると、キラキラと街の灯がこまかく光りはじめる。平戸の海の沖で漁船 の灯が一列に光ったように : 二人は酔った。楽しかった。 このビャガーデンには涼しい風がかろやかに吹いてきたし、まわりの人たちもそれそれ陽 気に、嬉しそうに、笑ったり、飲んだり、話したりしていた。 そして耳には心にとろけるような甘い音楽。二人の女性歌手がステージで入れかわり、た 向 舫ちかわり歌っている。 ビールの飲みすぎか、茂が途中で、 「ごめんよ」 と立ちあがった。

8. あべこべ人間

実験 金山広一郎をのせた外車は、その病院のなかに音もなくすべりこんだ。車が停車すると助 手席に坐っていた若い秘書がいそいでとびおりて後部席のドアをあけ、二人は午後の少し閑 散としはじめた病院に入り、受付で鬼頭教授に連絡をとってほしいと頼んだ。 「お約束ですか」 「そうですー 院内電話をかけて、教授の秘書と連絡をとった受付の女性は、 「研究室でお待ちです。研究室は : と教えてくれた。 七階までエレベーターにのった二人は、出口で迎えに来ていた秘書につれられ鬼頭教授の 研究室の前にたった。ノックすると、 「どうそー ドアをあけた向うに、本棚にかこまれた真ん中で教授が椅子から立ちあがって二人を迎え

9. あべこべ人間

「だめばい」 「どうしたのよ 「ごめんなさい。やつばりうち男になりきれん 「すぐには無理だよー 男言葉に戻った茂は、しおれた春江を慰めた。 「そらそらしゅうなって、ごめんなさい。たしかに、少しばかり男の気持になったばって、 長続きのせんでー 「はじめはそんなものだよ。しかし、少しずつ、少しすっ、その時間がのびてくるのさ」 二人はもう本来の性に戻って会話をつづけたが、そこへ姿を消した高野が帰ってきた。 二人の話をきいて、うかぬ顔をした高野は、 「やつばりなあ」 溜息のように呟いた。 「結局は、美容といっても最後の限界にぶつかってしまうんだ。肉体だけは、手術でもしな い限り治らないからな」 高野の計画はやがてこの二人を連れて、財界の。フリンスと言われている金山広一郎に会い とんざ そのミックスセックス産業の一角に自分も加わることだった。その野心が春江の言葉で頓挫 したような気持にさせられてしまったのである。 「先生、すみませんー

10. あべこべ人間

350 「体の変った ? 」 「男に : : : 男に逆戻りしとるのを見つけて : : : 」 「え ? 」 仰天して春江は毛布を蹴ってはね起きた。 「男に逆戻りしとるとね ? 茂さんが 「そう」 「そんなら茂さんは男」 「そう 「そんなら男のわたしと男の茂さんでは結婚ばできん。そぎゃんことばすれば、おカマにな ってしまう」 「そう、おカマになってしまう」 神さま ! 折角つかまえたわたしの幸福をどうなさるのです。 二人は黙ったまま天井を見あげていた。運命の残酷さが今この瞬間ほど感じられたことは もてあそ なかった。どこかで二人を弄ぶものがあって、それが彼等が倖せをつかみかけた時に冷水 をあびせ、大きな声で嘲笑しているような気がしてならなかった。 「本当にそうね ? 本当に茂さん、男に戻ったとねー 「嘘ばついて何になる。今もバスルームでたしかめてきたばっかりせんー 冫したかよ」 「おカマの二人でもよか、わたし何時も茂さんといっしょこ、