上げ - みる会図書館


検索対象: ひとりぽっちの鳩ポッポ
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1. ひとりぽっちの鳩ポッポ

勢の家族がいるのに、私はひとりばっち : : : 先生、おわかりになります ? 一人 でいてひとりばっちならわかるんです。大勢いるのにひとりばっち : : : 先生 ! 」 歌代は叫んで雄吉にぶつかっていった。雄吉は仕方なく抱き止め、 「わかりますよ、奥さん。わかります : : : 」 「わかって下さる ? 先生 : : : 」 「わかります、わかります : : : 」 あえ 「ほんと、つにわかって下さる : : : 」 弋ま目を固くつむった。 声がかすれた。歌イ。 「ーー・ー抱いて : : : もっと強く : っしった。いや、いったつもりだった。しかしその囁きは、元気よく階段を の上って来る足音と、 ち つ「きしやははしるよ けむりをはいて・・ : : 」 ひ とはり上げたタモッの歌声にかき消え、雄吉の腕の力が慌てて歌代を押し退け るのと同時に、 き ) 一や の

2. ひとりぽっちの鳩ポッポ

その母は「盆と正月がいつ。へんに来た」とはこういう時をいうのであろうと思 えるような上気ぶりである。 仕方なくわがはいはタモッを二階へ連れて上り、お守りを透に押しつけてやっ すどう 「遊んでやらないと、あのこと、須藤アッ子にバラすそ」 といったら、しぶしぶ引き受けて、オモチャ代りにタモッに持たせたウォーク マンを壊されてペソをかいていた。 こういう時に「あのことって何だよ ! 」と逆襲に出てこないところが透のダメ なところで、ホントは「あのこと」なんて何も知らないんだ。 須藤アッ子という名前を口にされただけで、カーツとなって失語症になったと ころ、ウブなんだなあ。 鳩どうやら透は母親の血を引いているらしい ち っ 十時すぎ、やっと雄チャンはおみこしを上げ、タモッを連れて帰って行った。 第「タモッちゃん、またいらっしゃいネ」 ひ と母は玄関先で猫ナデ声。 「またくる ? こない ? 」

3. ひとりぽっちの鳩ポッポ

引タモッは答えた。 「こ、ない わがはいは思わず快哉と同感の笑い声を上げた。そりやそうだろう。オヤジは 碁に夢中、面白いオモチャもなく、遊び相手といったら、何かというとすぐにニ ラミつけるわがはいと、ただただ当惑してモジモジ眺めている透と、本に読みふ けって一一一一口葉もかけてくれないばあさんしかいない家なんて、来たいと思うわけが ないのである。 〈一月四日〉 タモッが「こない 」といったにもかかわらず、雄チャンはまたやって来た。 タモッが退屈してわるさをしないように、新しい絵本とテレビゲームを持たせて 「あら、 パパに買ってもらったの ? 」 しいご本ねえ。面白そうねえ : 母は大仰な声を上げ、 「亜矢、読んであげなさい」 わがはいはそくざに 力しき」し

4. ひとりぽっちの鳩ポッポ

132 歌代は軽く会釈をしてその場を離れた。 路地を曲りたいが、女主人の手前、真直ぐ歩いて商店街に出た。夕暮の商店街 しばら の雑踏を暫く行き、乾物屋と魚屋の、人一人がやっと通れるような、いやな匂い のする湿った路地を急いで曲った。そこから行くと、薬局とは逆方向から雄吉の アパート中原荘の前に行ける。 歌代は、まるで追いかけられてでもいるような気持で、中原荘の外階段を上っ 雄吉の部屋は階段を上ったとっかかりにある。歌代は夢中でノックした。 何をしたくてここまで来たのか、自分でもわからない。何か目に見えない力が 歌代をゆり動かして、ここまで引き摺って来た。そうしてこの後、その目に見え ない力はいったい歌代に何をさせようというのだろうか ? 不安でいつばいになりながら、しかし引き返す気はない。胸をドキドキさせな がら、目の前のドアを見つめた。「ハイ」と中から雄吉の声が答えた。なぜかそ の声は長い間会わなかった懐かしい人の、遠くからの呼び声のように思えた。

5. ひとりぽっちの鳩ポッポ

亜矢まトバカにしたように、、、 行きながら、 「雄チャン ! 大槻センセ ! 」 と大声に呼ぶ。 「なんですか、雄チャンだなんて : : : 失礼じゃないの」 たしなめながら歌代の顔は、もう笑み崩れて雄吉がふり向くのを待っているの ゞつつ 0 亜矢の日記 〈一月一日〉 一年のうちで正月ほどくだらないものはない いったい何がウレシイんだろう。 スニーカーの足で二段ずつ大またぎに上って

6. ひとりぽっちの鳩ポッポ

い「オレ」 透が答えた。 「ジャンケンして負けたんだよ、透が」 と亜矢がいい足す。 「お父さんは何がいいんです ? コーヒー ? 「いや、オレま、 「ケーキ、召し上らないの ? 」 「 , っ , ん」 健太郎は碁盤を睨んで答えた。 「また、痔が出てるんだ。この間うちはよかったんだが」 と身体を動かそ , っとして、「イタ、タ、タ」と顔をしかめる。 「それでステーキなんかあがったんですか」 「いや、オレの分は亜矢と透で食っちまったよ」 たちま 歌代は忽ちもとの現実の中へ引き戻されてしまった。 それとも紅茶ですか ? 」

7. ひとりぽっちの鳩ポッポ

と勢いよくドアが開いた 弋の前に 押し退けられてキッチンの隅によろけた歌仁 背負ったタモッが、 「ガッタンゴットン シュシュシュ」 と歌いながら入って来た。 「やあ、おかえり : : : 面白かったかい : 雄吉の声はとってつけたように大きい。するとタモッの代りに、 「ええ、ええ、とても面白かったわ。ねーえ、タモッちゃん」 という女の声がした。タモッの後ろから小肥りの中年女のこってりと厚化粧を した大きな顔が現れた。女はタモッのリュックサックを外してやり、まるで自分 の家へ帰って来たように、どっこいしよ、といって上って来る。歌代に気がつい て、 「あら」 と立ち止る。 小き、なリュックサックを

8. ひとりぽっちの鳩ポッポ

胸の底から湧き上って来る衝動が、歌代のみそおちのところでそう叫んでいた。 悪い妻になりたい。何もかもふり捨てて、燃えるような情熱と一緒に不幸 のどん底へ墜落したい : 歌代はシワシワの夫を見つめて、そう思うのだった。 香代子と雄吉は二時間ばかりいて、タモッを連れて一緒に帰って行った。亜矢 がカノコや所三郎たちと出かけてしまった後、歌代がひとりで後片づけをしてい ると、屯請が 2 っこ。 「母さん、電話。女の人から」 と電話に出た透がいった。 「どなた ? 」 「知らない。いわないんだもん : : : 奥さんいるかって」

9. ひとりぽっちの鳩ポッポ

202 という一一 = ロ葉しかない。お辞儀と一緒に歌代は恋を飲み込んだ。生れてはじめて しカ广 の、しかし儚い恋だった。 「やつばり香代子さんのこと、好きだったんだね。ま、考えてみれば当然だよね。 あのおばさんとじゃ比較にならないもの」 雄吉の靴音が消えると、待っていたようにひさ子がいった。 「そうですねえ」 . . くいって 「ちょっと、お父さんを見てきますわ」 逃げるように二階へ上った。 「どうですか。痛みます ? 」 いつになく優しい声になっていた。 「階下にお布団、敷きましようね ? その方がいいでしよう ? 」 「、つ / ル」 「お茶でもあがります ? コーヒーはダメでしよう ? 」 「 , っノル」 妻の心が離れていたことも、戻ってきたことも、何にも知らずに何をいっても、

10. ひとりぽっちの鳩ポッポ

れないが、歌代は熱いお茶をいれて二階へ上って行った。 「あなた、。 と , つです・・か ? ・」 そっと襖を開ける。 みけんしわ と唸ってむつくり擡げた顔は苦痛に黝すんで眉間に皺をたたみ、断末魔の海亀 ふとん 、しになっているせいでもある。 のように見えるのは、布団の上に腹這、 「痛みます ? 」 「お茶、飲みます ? ・ なかす 「朝から何もあがってないから、お腹、空いてるんでしよう ? 」 答えはなく、いきなり顔中に皺が集った。 「この家も : : : ガタがきてるなあ : : : 」 皺の中から唸り声がいった 「階下で騒いだだけで、響くんだ : 階下では何をしているのか、どしんばたんという物音がしている。 ふすま