思っ - みる会図書館


検索対象: ひとりぽっちの鳩ポッポ
176件見つかりました。

1. ひとりぽっちの鳩ポッポ

なくかき消えて、いきなり広場の真中にほうり出されたようだ。 「大槻先生、あのう : なにをいうつもりなのかわからぬままに、しかし何かいわなければいけないと 思って歌代は雄吉を見つめた。 「もう、どうしたらいいのか : ・・ : わからなくなって : : : 何もかも、ほうり出した くなって : : : 」 そういうと何の涙か、みるみる涙が脹れ上がって来た。 「キンピラゴボウを作ろうとしていたんですけど : 涙の向うに雄吉の顔がばやけている。 「気がついたらここに来てたんですの」 あっけ 雄吉はロを薄く開けたまま、呆気にとられたように歌代を見守っている。 の 「なぜここへ来たのか : ち なぜあなたに会いたくなったのか : : : 多分、私、愛しているんです、あな たを : : : それがわかったんです : ひ しかしそれは一一一一口葉にはならす、歌代は薄く唇を開いたまま、雄吉を見つめた目 を逸らすことが出来ない 、突然放り出して : : : 」

2. ひとりぽっちの鳩ポッポ

「そんな人、来てるの ? 大槻先生のところへ ? 」 「そうじゃないけどさ。そのうちにきっとそうなるよ。だいたいね、コースはき まってんだ」 「でも、そういう人、いるの ? 大槻先生に ? 」 「そりや、わからんけど、でも、だいたいいると思っていいんじゃない。今、い なければ間もなくいるようになるよ。男って、どうもそういうふうに出来てるみ たいだもんね。うちのオヤジだって、今、母さんがいなくなってごらんよ、あっ という間に出来るよ、母さんより十も若い愛人か後妻がね。ところがここで悲し いことは、オヤジがいなくなっても、母さんには十も若いツレアイが出来ること は、ますゼッタイないということなんだな。出来るとしたら、ます , ハ十以上だね。 いや、下手すりや七十以上ってことになるかもよ」 や 「まったく、口惜しいけどそういうことなんだよね、女は : : : 」 とひさ子。 「歌代さんいくつだっけ ? え ? もう四十六 ? そうだねえ : : : むつかしいね 「母さん、オヤジを大事にした方がいし 、よ。代りはもういないんだから」

3. ひとりぽっちの鳩ポッポ

ヌリカべもやるなア。 とうするだろう。こいつは面白くなって来たぞ。 すつば抜かれた雄チャンは、。 とはいうものの、この告白を聞いたオフクロの心中を思うと、わがはいといえ ども一掬の涙を注ぎたくなる。 「私、前から、およそのことは感づいていましたわ」 ふる 呆れているばあさんにそういった時のオフクロの声は、、いなしか陳えていたよ うだ。その顔を見ると、唇が曲っている。オフクロにしてみれば、無理に笑った つもりなのだろう。可哀そうなハトボッポ ! 純情なオフクロ ! いったい雄チャンはこの結末をどうつけるつもりなんだろう。 まったく男って、そんなもんなんだ。要するにこれは、恋愛なんていうものじ ゃなくて、性的欲求不満の発露なんだ。奥さんがいなくなって、ヤルにもャレな そこへヌリカべがヤッテほしそうな顔してひつつきまわるもんだから、そん ち 。なら、というんでやっちまったんだろう。これが男の生態である。なにもびつく りすることはない。かねてから思っていたことが実証されたのだ。 ひ 格一一一戸・ーー男ってャツは女がひつつきまわれば、たとえどのようなご面相であろ うとも、かならずャル。それが健全な男である。 つきく

4. ひとりぽっちの鳩ポッポ

って交番へ焼き団子を届けに行ったことがある。お巡りさんが笑うと金歯がキカ リと光った。それに亜矢は悩殺された。しかしそれも「恋」というべきものであ ったかどうか、亜矢にはわからない。亜矢にとって確かにわかっていることは、 ジャック・レモンやお巡りさんをいくら好きになっても、ジャック・レモンやお 巡りさんに抱かれたいと思ったことはなかった、ということだ。だからあれは恋 ではなかった、と今ではそう思っている。恋とは性欲の変形したものだ、という のが今の亜矢の持論である。それは経験によってではなく、日頃の見聞から得た 結論だ。小説、テレビドラマ、社会を騒がす愛欲事件を亜矢なりに研究すると、 すべて性欲から発しているもののように思われるのである。 「だってさ、人妻が浮気して騒動が起きるでしよ。テレビでそれについて意見い 、。『ところ ったり、助言したりしてるエライ人たちがさ、きまっていうじゃな で夫婦の夜の生活はどうだったんでしよう』ってね。わがはいは『夜の生活』っ て言葉聞くと何だか妙なキモチすんのよ。性行為ちゅうもんは夜に限るわけじゃ ないでしよ。ま、通常は夜することになってるらしいけど、必ずしもそうじゃな 朝の方が元気があっていいってこともよく聞くしさ。そんなことはどうだっ つまり、エライ人がそういうと、必す、それがうまく行ってなかった、

5. ひとりぽっちの鳩ポッポ

の圭子のほかに、去年の秋頃から交通事故で夫を失った姉娘の香代子が帰って来 ている。 「香代子さんは : : : ムリですわ、おばあちゃま」 歌代はいっこ。 「どうして ? 香代子さんだって一度結婚した身だもの、二十六だったか、七だ ・ : 大槻先生は幾つ」 「三十三 : : : だったと思いますけど : ちょうど 「年の差も丁度いいじゃないの」 「でも、子供を産んでないんですよ、香代子さんは : 。やつばり子供を育てる のは、産んだことのある人じゃないと : 「そう決めこんだものでもないと思うわよ。ねえ、健太郎、どう思う ? 」 「そうだな。悪くないんじゃないかな。美人だしな、香代子さんは。大槻君の方 は大喜びだろう」 「香代子さんの方はどうかしら : : : あれほどの美人なら、なにも子供のある人の ところへ嫁がなくても、初婚の人とだって結婚出来ますわ」 「明日にでも訊いてみようかねえ」

6. ひとりぽっちの鳩ポッポ

せりふ ます、そういう台詞から切り出す。 「実はこの間の夜、赤堀さんが私の家へいらして、赤堀さんと先生は婚約者の間 柄だとおっしゃいました。それで姑が申しますには、もしそれが本当なら香代子 さんとのお話はどうしたものか : : : 先方さまはご熱心ですけれど、先生の方にご 事情がおありのようでしたら、一応、この話はなかったものにした方がよろしい のじゃないでしようかと申します : ・・ : 」 学芸会の劇の主人公のように、一所懸命に憶えた台詞だ。余計な言葉は入れな いこと、冷静な第三者の顔を崩さないこと : そしてこの間のことなんか、何 もなかったような顔をしていなければならない。そう厳しく自戒している。 そうして雄吉さんと会うのもこれで最後にしよう。香代子さんとの縁談を わ破談にすると同時に自分の気持も破り捨てる のそう思い決めて入口の方を見ると、紺のズボンに白いサマーセーターを着た雄 吉が、薄手のカーディガンを無造作にぶら下げて入って来る姿が目に入った。大 また 股に近づいて来て、 ひ 「や、お待たせしました」 と若々しくにつこりする。それを見ただけで歌代の決心はみるみる崩れて、そ おお

7. ひとりぽっちの鳩ポッポ

「玉十め : : : 」 「それもねえ、厚かましい ! 女の方から好きになって、いい寄って来たんです って ! しかも、しかもですよ。ご亭主がいるの ! 子供も二人いるの , は男で、大学生、もう一人は女で、結婚したばっかり。どうお思いになる、奥さ 答えられすに汗を拭く。 ただのお顧客 「香代子の主人ははじめは何とも思っちゃいなかったんですよ , さんだったのね。お顧客さんだから、食事のお伴もしなくちゃならないし、すぐ に来いといわれれば、いやとはいえなかったのね。そのうちに、そんな関係にな ってしまって : : : 男なんて情けないものねえ、そうなると今度は夢中になったの よ ! そんなおばちゃんのどこがいいんだか、香代子が調べたところによると、 しろい 鳩美人でも何でもないらしいの、お白粉まっ白につけて、白猫みたいになよなよし 。てる女なんですって。男って、そういうタイ。フに弱いんですのよねえ ? : : : 香代 子はどちらかというとシャキシャキタイプでしよう。だから香代子にはないもの ひに惹かれたのかもしれないって主人はいうんですけどね、それにしても、あなた、 四十六ですよ ! 十三も年上ですよ ! キモチ悪くないのかしらねえ。二人も子

8. ひとりぽっちの鳩ポッポ

144 声変りの大声がいっている。 「厚さ ? うん、そうだな。聞いて来なかった。適当にしてよ。いや、一枚だ 厚く切ってね」 「一枚厚く ? あんたの分 ? 」 「 , っ / ル、旱ごっ」 そういってまた、ロ笛でクワイ河マーチを吹く。 不がいないので、ステーキを焼くんだわ、と歌代は思う。しかもヒレ肉だなん て : ヒレ肉のステーキなんて一枚、いくらだと思うのよ ! 歌代は半分切って、半分窓から捨てたゴボウのことを思い出した。キンビラゴ ボウにするつもりだったあのゴボウはどうなっただろう ? 「毎度、ありイ : という声に送られて、透はまた勢いよく自転車に飛び乗ると、まるで競輪選手 のように背中を丸めて走って行くのがイマイマしい。歌代が突然いなくなったこ とを、透は何とも思っていないのだ。いや、むしろはり切っている。それにして 7 も、つこ、、 ヒレステーキにしようなどといい出したのは誰だろう ? ひさ子か、 亜矢か、透か、それとも健太良カ言 にゝ。隹も歌代のことを心配していないというのか

9. ひとりぽっちの鳩ポッポ

らないなんて : : : 辛いんです、先生 : : : わかって下さい : とうつむいた。うつむいたのは、しゃべっているうちに顔が歪んで来て、泣き 出しそうになったからだ。すると、その耳に、 「すみませんーー」 という雄吉の低い声が聞こえて来た。 「ばくが至らないために、こんなことになってしまって : : : ご迷惑かけて申しわ けありません」 雄吉はいっこ。 「赤堀さんから聞きました。彼女がお宅へ伺ったこと : : : 彼女がいったこと、あ れは本当です : : : 」 そうは思っていたが、雄吉の口からはっきりとそういわれると頭を殴られたよ のうな気がした。しかしこんなふうに「本当です」ときつばりいう雄吉は、やつば 。り男らしい人だと思わすにはいられない 「ばくはつくづく、情けない人間だと思うんです。赤堀さんを愛しているのかど ひ うかと自分に問うと、答えが出て来ない。自分でも自分の気持がよくわからない のかというと : : : 本当はわかってるんです。本当はわかってる。本当は赤堀さん

10. ひとりぽっちの鳩ポッポ

「この方とのご縁が結ばれまして、私ども心から喜んでおりましたんでございま すよ。ところが、今日、大槻さんが香代子とお会いになって、今までのことはな かったことにしてほしいとおっしやったとか。私どもといたしましては亠月天のヘ キレキとでも申しましようか。しったい、香代子にどんな落度があって、いきな ち りそんなお話になったのかと、驚いてよく聞きますと、大槻さんには既に固く契 った中年女性がいらっしやったとのことで : : : 」 加宮夫人は「中年女性」というところに力を籠めた。 「そんな女性がありながら、どうして大槻さんは香代子と婚約 いえ、正式に もちろん 婚約したわけではありませんけど、私どもとしてはもうそのつもり、勿論香代子 もその気になっておりましたし、こちらさまでもそうだと思うんでございますけ ポ れども、つまり、私ども一家、それにこちらさまご一家も何も知らす、悪い言葉 ので申せば、大槻さんに欺されていたと : それまでうなだれていた雄吉は「欺されていた」の一言に抗議するように顔を ひ 「そんなつもりは : : ばノとしては :