お土産 - みる会図書館


検索対象: みちのく子供風土記
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1. みちのく子供風土記

「団子だけは残してたもれ」 ばあやは大きな声でみんなに注意する。 私達も縁台の御馳走がたべたくて、ばあやになんどもせがんだが「昔の人の言った ことは守るもんだし、きめごとは守ってたんせ」と許可してくれない。 きめごとというものはどうも不公平が多すぎる。男の子達はふざけながら、あちこ よそ ち庭を歩き廻って、月の光りに照されながら、他所のお庭へ忍び込み、お月様のお供 えものに限って盗み喰いも許されていたのだ。ずっと前、他所の土地から来た人が、 土地の風習を知らず、学童が乱暴狼藉を働いたと学校へ訴えた。乱暴狼藉はつまり、 他所のお庭へ忍び込んでお供えものを荒したということらしい。それ以来、野蛮な行 動はつつしむようにと、校長先生からの注意があって、誰もしなくなった。 あとの名月はな・せ十三夜を選ぶのだろう。 こうこう 今夜あたりは霜が降るのかもしれない。私達は皓々と輝くお月様を眺めながら震え ていると、ばあやは熱くわかした甘酒を運んで来てくれた。 甘酒ですっかり温まるとまた元気になってひとしきり大騒ぎをして遊んだ。次にね 162

2. みちのく子供風土記

鷹ノ巣というのは地名である。 大昔、真白な鷹が巣をつくっていたのでそんな地名が残ったというが、そんな鷹は 本当にいたものかどうか、誰も見たものはいない。 鷹ではなく雀の巣のようにペちゃくちゃと賑やかで、伝統らしい重さのない、明る い町だ。この町に鉄道が敷かれたとき、地主が土地を分けるのを渋ったので、駅はと かな んでもない方向についてしまい、その結果、町は駅を扇の要めのように一本町の姿を 変えた。損をしたのは地主達だけであった。 はたご 駅前の広場をはさんで左右に旅籠屋 ( 旅館 ) が二軒、居酒屋が二軒、菓子屋もあっ 等た。かまわず突き進むとたちまち松林の中へ入り、道がなくなってしまう。だが林の 右の方に突如花街が出現し、そこを松葉町と呼んでいた。

3. みちのく子供風土記

修学旅行 なものかよくわからないが、お金をとることだけは確かだ。トンネルへ入ったら荷物 を大事にしなければいけない。人力車にものれず、手をひかれててくてく歩いて老人 夫婦の家へ着くと、おじいさんとおばあさんは大歓迎だったが、来る人毎に、この子 はスリにつかれた、トンネルでスリにつかれたのですと話してきかせ、私はなんとな くスリは暗い所にいるコーモリのようなものかと思ったりしていたのだ。 けれどもこうしてみんなと話し合ってみると、スリも泥坊も人間だということがわ かった。修学旅行のおかげかもしれない。八郎は「泥坊は家の中にだっているヨーと 言ったが、あれはどういう意味なのだろう。 花子やタネ子はわかっているのだろうか だが花子は、泥坊は人間には違、よ、 しオしが、それは他国者で、土地の人間ではないと 一一 = ロった。 タネ子はスリも泥坊も人間にはちがいないが、見たことがないからわからないとい 「だってもョ、泥坊は他国者にきまっている。この前、巫女のかあちゃんのとこで泥 よそもの いたこ 171

4. みちのく子供風土記

坊が入って大騒ぎしたけど、あれは他国者ンだったもの。土地の人間なら、そんな悪 いことはするもンか 花子の言う巫女のかあちゃんというのは、病気をしたらどこの医者に診て貰えばい いとか、失せもの、尋ね人、行くえ不明、なんでも思案に困った時に、教えてくれる 人だ。時には死んだ人の消息も教えてくれるので大人は思案にあまると、たいがいお 米とローソクとお金を持って巫女に拝んで貰いにゆく。 花子の家の一軒おいて隣りがその巫女のかあちゃんの家だ。巫女のかあちゃんはな んでもよく当てるので大繁昌をしているのか、この商売はよっ。ほど儲かるとみえて、 まるで宿屋のような大きな家を建てた。部屋貸しをしたり、農閑期には遠方から拝ん でもらいに来る人達が、食糧を背負って来ては何日でも泊ってゆけるような仕組みに なっているそうだ。 私はまだその巫女の家へ行ったことがないが、花子は家が近いのでよく遊びに行 或る朝、巫女のかあちゃんと、とうちゃんが大喧嘩をはじめた。誰かがおさい銭を よそも 172

5. みちのく子供風土記

らさせて四つに組む恰好がみつともないからだ。 タネ子も花子も嫌いだと一一 = ロった。 じんく やすきぶし 八郎だけは何が面白いのか手を叩いて応援したり、相撲甚句だとか安来節を一緒に なって唸っていた。 やがて長い夏休みがやって来た。夏のお休みはがっかりするほど長い。おまけに宿 題が山ほどある。その長いお休みの間に一番たのしいのは七夕さんとお盆たろう。夏 くさばうき 期鍛練会といって早起き会もある。五時に草帚をかかえて広場へ集まり、道路掃除を 一時間やって学校へ行き、校庭で体操をやって家へ帰るのだが、その鍛練が十日間、 雨の降らないかぎり繰り返される。 おかげで町中子供の手で綺麗になるそうだ。私達はおだてられて土埃りを浴びなが ら町中をなめたように掃いてゆく。 どんじよ 八郎は要めの原つばの仲間に、泥鰌の獲り方を教えてくれた。 泥鰌ドッコというのをみんなで町へ買いに行った。ドッコというのは ( 奴のことで、 っちばこ

6. みちのく子供風土記

修学旅行 ごっそり持ち逃げしたそうだ。 とうちゃんが変な人を泊めるからだと、かあちゃんが怒り、あんまりガミガミ怒る ので日頃おとなしいとうちゃんも腹立ちまぎれに、お前は巫女のくせに、どうしてそ の悪い奴と、善い奴の見分けがっかなかったのだ。あれは悪人だからとうちゃん泊め ては駄目だョとお前が当てれば俺は泊めなかったんだそと怒鳴った。すると、ひとの 商売にけちをつけるのか、この能無し奴 ! と巫女のかあちゃんは鉄瓶を投げつけ、 その声があまり大きかったので隣り近所で駆けつけるやら、大騒ぎをして夫婦喧嘩は おさまったそうだ。 「泥坊はみんな他国者だよ。土地の者なら義理が悪くて盗みなんて出来るかョ、おら ン家の父ちゃんがそう言っていたもの そんなら八郎の貯金箱を狙ったのは一体誰なのだろう やつばり他国者だろうか。どうも私達にはわからないことが多すぎるようだ。 長い時間汽車に揺られた。直車は勢いよく走っているが仙台は仲々遠かった。 お昼べんとうをたべてからそろそろ気持ちの悪くなる子も出て、校医の風林堂先生 173

7. みちのく子供風土記

るものなら、女房でも子でも連れてゆけ、この馬鹿たれ共 ! 盗つ人にだって三分の理屈があるなら、借金の借り手には五分も六分も理屈はある だろう。返さないというのではない。 とうとう材木屋が借金の勧進元になり、先ず一一 百六十四円也の材料代を棒引きにした。以後、出入り差し止めとなれば指物師として 通用しなくなるはずだが、もともと彼の好んだ世界ではない。政勝は逆に恩に着た。 「俺アよオ、旦那の恩は死ぬまで忘れねえ、暮の大晦日に二百六十円もの大金を棒引 きにするなんて芸当は、旦那でねば出来ねえことだア いい男が台なしになるほど、政勝は感激して泣いた。 涙と鼻水で、 棒引きにしようがしまいが、彼には支払う能力がないと看てとったのが、材木屋の 腹勘定で、素直に有難がるのは政勝のいいところである。 もっともその頃の二百六十円という金額は大金にちがいない。粗末な家なら軽く一 軒は建つだろう。 ドロノ木の旦那と呼ばれたこの材木屋は、マッチ工場を建てるために駅横の扇の要 めの原つば一万余坪を大正六年に手に入れた。その土地代が〆て二千円というから、 しめ

8. みちのく子供風土記

あくび 皺くちゃになった汗臭い浴衣を脱ぎ捨てると、三つ四つもたてつづけに大欠伸を し、思いきり両腕をのばして上半身を動かす体操を繰り返してみたが、頭が呆んや り、どうも眠い。ここで眠るとお祖母アに尻を引っ叩かれるにきまっている。 八郎は川へ行く仕度をした。 物音を聴きつけた豚小屋では、ぶうぶうしきりに空腹を訴えた。 「お前達には七夕さまがね工ものな、もう少し待って呉れよ 八郎は逃げるようにとっとと駆け出した。走りながら心臓のエ合がどうも変だと思 う。うつ伏せに寝たのだろうか、瞼もはれ・ほったく重い。足がふらっく。ゅんべ御馳 わらぞうり どぶろく 走になった濁酒のせいとはまだ気の付かない八郎は、よたっきながら藁草履の足を引 き摺った。 お祖母アが編んでくれた藁草履だが、お祖母アはアメ玉が欲しいので二銭で買って くれという。孫のオレに藁草履を売りつけるんだから厭になってしまう。 プ天保への道は真白に乾いて、・ほやきながら足を引ぎ摺って走ると煙幕のような土埃 ネ りが舞い上がって、八郎はまるで忍者のようになる。 しわ 111