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検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

ためならって。」 「ああ ! 」ボアロは、真剣にかの女を見つめた。「ミス・ハワード、 ます。どうそ、正直にこたえていただきたいのです。」 「嘘など、決してつきません。」と、ミス・ハワードはこたえた。 「こうなんです。あなたは今でもまた、イングルソープ夫人が、ご主人に毒を盛られたと信じて いらっしやるんですか ? 」 「どういうおつもりなんですの ? 」と、かの女は、鋭くたずねた。「この間の、あなたのすばら しいご説明が、ほんの少してもわたしを動かしたろうなんて、お考えになることはいりませんの よ。薬剤師の店でストリキニーネを買ったのが、かれではなかったとは、わたしも認めますわ。 それがどうたというんです ? 最初にお話した通り、あの男は、蠅取紙だって煮つめ兼ねない男 てすよ。」 「あれは砒素ですよーーーストリキニーネじゃありませんよ。」と、ボアロは、控え目にいった。 「それがどうたっていうんです ? 砒素たって、ストリキニーネと同様に、可哀想なエミリ 1 を 片づけてしまえますよ。かれがやったということさえ、わたしが確信を持っていれば、どうやっ てかれがやったかなんてことは、わたしには、ちっとも問題じゃないんてす。」 「その通りです。かれがやったと、あなたが確信を持っておいでになるのならね。」と、ボアロは、 私力にいった。「では、別の形で、質問をさせていただきましよう。あなたは、心の底から、イン グルソープ夫人は、ご主人に毒殺されたと、これまて信じておいてたったんでしようね ? 」 一つお何いしたいことがあり

2. スタイルズ荘の怪事件

わたしは、む「として、頬をふくらました。ボアロは、あわてていい訳をした。 「あなたは、わたしのいう意味を、ちゃんとわか 0 ていないんですね。あなたが、わたしといっ しょに働いていることは、知れわたっているんです。わたしは、どこから見ても、わたしたちと 無関係な人がほしいんです。」 「ああ、わかりました。ジョンではどうです ? 」 「どうも、感心しませんね。」 件 「いい男だが、恐らく、あまり気が利かないでしようね。」わたしは、考えながらい 0 た。 事「ミス・ ( ワードが米る。」と、不意にボアロがい 0 た 「かの女こそ、打ってつけだ。しかし、 の 荘 わたしは、あの人の注意人物ですからね、イングルソープ氏の罪を晴らしてからというもの。で ルも、やるたけはやって見ましよう。」 イ かろうじて礼儀正しいといえるような会釈をして、ミス・ ( ワ ! ドは、二、三分の間お話がし たいというボアロの頼みに同意した。 わたしたちは、小じんまりとしたモーニング・ルームにはいり、ボアロは、ドアをしめた。 「さあ、ボアロさん」と、気短かに、 ミス・ハワードはいった。「何ですの ? 早くしてちょう 、わたし、忙しいんですのよ。」 「おぼえておいででしよう、マドモアゼレ、、 ノしつか、あなたにご援助をお願いしたことを ? 」 「ええ、おぼえてますわ」と、婦人はうなずいた。「そして、わたしは、あなたに申し上げました でしよう、喜んでお手つだいいたしますって , ー・・・・・アルフレッド・イングルソープを絞汽刑にする 1 ⅵ

3. スタイルズ荘の怪事件

わたしには思えません。」そして、イングルソープには、その意味がよくわか 0 たような様子で ) なか 0 たので、かれは、つけ加えてい 0 た。「イングルソープさんいあなたはい非常に電大な危 に立っておいでになるん・で・すよ。」 わたしは、サマーヘイの唇に、『お前がロにすることはど , 二人の刑事は、もじもじしていた。 なことでも、お前に不利な証拠になるんだそ』という官僚的な警告が、実際にうごめいている ( を見た。 「おわかりてすね、もう ? 」 事「いいや。どういうことですか ? 」 「それはですね」と、ボアロは悠々とい 0 た。「あなたが奥さんを毒殺したという、 以れているということです。」 イ この率直ないい方に、小さなあえぎが一同の口から流れた。 ス 途方もない考えだろう , 「えっ ! 」と叫んで、イングルソープは立ち上がった。「なんという、 わたしがーーー最愛のエミリーを毒殺したなんて ! 」 「検屍審問の席でのあなたの証言の不「 ボアロは、じっとかれを見守って 「わたしは、」 合な性質を、ほんとうに、あなたが感じていられるとは思えないのです。イングルソープさん、 わたしが今申し上げたことをお聞ぎにな 0 ても、それでもなお、月曜日の午後六時においでに一 ったところを、いうのを拒絶なさいますか ? 」 うめき声を上げて、イングルソ 1 プはまたど 0 かり腰を落とすと、両手に顔を埋めた。。ホア 171 容疑をかけ

4. スタイルズ荘の怪事件

わたしは、こんなにへまじゃないんですがね。ほんのちょっとゼステュアをしただけなんです ね」ーーわたしは、 " ホアロのゼスチュアというのがどんなのか知っていた 「左の手て。と一 ろが、べッドのそばのテープルを引っくり返してしまったんです。」 かれは、子供のように腹を立てたり、しょげ返ったりしているので、わたしは、あわててか をなぐさめた。 「気にしなさんなよ、おじいさん。それがどうしたっていうんです ? 階下てのあなたの大手糯 件が、あなたをわくわくさせたんですよ。あれは、わたしたちみんなには驚異でした、せ、本当に。 きっと、イングルソープとレイクスの細君との間には、わたしたちが思っている以上に、かれ ( 荘舌をしつかり動かなくしてしまうものがあるんですぜ。ところで、どうするおつもりです ? 視庁の奴さんたちはどこにいるんです ? 」 イ 「下へ行ってますよ、召使たちに会いに。二人に、すっかりわたしたちの証拠品を見せてやり ス したよ。ジャップにはがっかりしましたね。あの先生には、組織的な方法がないんですよ ! 」 「やあ ! 」窓から外を見たわたしは、 、った。「パウエルスタイン博士が来ますよ。あなたのお ( しやった通りですね、あの男は、ボアロ。わたしは、かれが好きじゃありませんね。」 「かれは、賢明ですよ。」ボアロは、考えにふけるようにいった。 「ああ、悪魔のように賢明ですよ ! ですから、火曜日の時のように醜態なかれを見ると、す ( かりうれしくなっちまったといわなくちゃなりませんよ。あんなすばらしい見ものは、あなた ってごらんになったことはないでしよう ! 」そこで、わたしは、博士の向こう見すな行動の話わ 176

5. スタイルズ荘の怪事件

たは近づいて、かれのそばに立った。 「いいなさい ! 」おどすように、ボアロはいった。 ようやく、イングルソープは顔を上げた。それから、ゆっくりと、汽を左右に振った。 「いわないとおっしやるんですね ? 」 「ええ。わたしは、誰も、今あなたがおっしやったようなことて、わたしを責めるほどおそろし いことが出米るとは思いません。」 ボアロは、決心をした男のように、考え深くうなずいた。「よろしい ! 」と、かれはいった。「で 事 は、わたしが、あなたに代って、いわなくちゃなりません。」 怪 荘アルフレッド・イングルソープが、また飛び上がった。 「あなたが ? どう出来るんです ? あなたは、何にもごそんじない・ - ーー」突然、かれは言葉を イ ス ボアロは、わたしたちの方に顔を向けた。「紳士ならびに淑女方 ! わたしがお話します ! 聞いてくださいー このエルキュール・ボアロがはっきりと申し上げます。先週の月曜Ⅱの午 後、薬剤師の店へはいって行って、ストリキニーネを求めた人物は、イングルソープ氏ではあり ません。といいますのは、その日の午後六時には、イングルソープ氏は、近くの農場からレイク スの細君を自宅へ送って行ったからです。わたしは、六時もしくはその少しすぎに、その二人を 見かけたと誓う証人を、少くも五人は連れて来られます。そして、みなさんもご存しのように、 アベイ農場、つまりレイクスの細君の家は、少くも村から二哩半は離れております。アリバイと

6. スタイルズ荘の怪事件

夜の間に部屋にはいったと証明しています。ここまでは、あなたも同意するでしよう ? 」 「まったくその通りです。あつばれな正確さです。それから。」 「そこで」と、わたしは元気づいていった。 「はいった人間は、窓からはいったのでもないし、 魔術を使「たわけでもないのですから、ドアは、イングルソープ夫人自身が、中から開けたに相 違ないということになります。すると、問題の人間は、かの女の夫だ 0 たという確信を強めます。 かの女は、当然、自分の夫にドアを開けたんでしようね。」 ボアロは、首を振った。 件 事「どうして、夫人がそんなことをするわけがあるんです ? 夫人は、かれの部屋〈行くドアに、 荘閂をかけたんですよーーーかの女にしては、はなはだ変ったことですがーーーその当日の午後、凄く すさましい口論を、かれとしていたんですからね。 いいや、かれだけは、とても夫人には中へ入 イ れてもらえない人物だったんですよ。」 ス 「しかし、ドアは、きっとイングルソープ夫人自身が開けたのにちがいないという、 わたしの説 に、あなたは同意なすったんでしよう ? 」 「ほかにも可能性はありますよ。べッドへ行く時に、廊下へのドアに閂をかけるのを忘れて、後 になってから起きて、明け方近くに、閂をかけたのかもしれませんよ。」 「ボアロ、それは真面目に、あなたの意見ですか ? 」 「いいや。そうだとい「てるのじゃないんです。しかし、そうかもしれないとい「てるんです。 ところで、別の問題に移るとして、あなたが耳に挾んだ、カヴ、ンディッシ = 夫人と老夫人との 126

7. スタイルズ荘の怪事件

た。これと、屋根裏でのつけひげの発見とで、かれの証言は終った。 だが、アーネスト卿の反対訊問がまだ待っていた。 「あなたが被告の部屋を捜査したのは、いつでした ? 」 「七月二十四日の火曜日です。」 「ちょうど惨劇の一週間後てすね ? 」 「そうです。」 「それらの二つの品物を、簟笥の引き出しの中で見つけたと、 事 がかかっていなかったのですか ? 」 の「そうです。」 ズ 「犯罪を犯した人間が、その証拠物件を、誰にでも発見されるような鍵のかかっていない簟笥に イしまっておくはすがないという気が、あなたにはしなかったのですか ? 」 ス 「被告は、急いでしまいこんだものかもしれません。」 「しかし、犯行後、まる一週間経っていたと、今、あなたはいったところですね。持ち出して、 処分する時間はたっ・ぶりあったはずですそ。」 「多分ね。」 「多分などということは、証言にはなりませんぞ。持ち出して、処分するだけの十分の時間が、 あったのですか、それともなかったのですか ? 」 「ありました。」 265 いいましたね。その簟笥には、鍵

8. スタイルズ荘の怪事件

また、かの女は、わたしを押しとどめた。そして、かの女の言葉が、ひどく思いがけなかったの で、シンシアのことも、シンシアの悩みまても、わたしの胸から追っぱらってしまった。 「ヘイスティングズさん」かの女はいった。「わたくしと夫の間が幸福だとお思いになりまし わたしは、ちょ 0 と不意を打たれて、そんなことを考えるのは自分のすることではないとか何 とか、ぶつぶつロの中でいった。 「そうね」と、かの女は、落ちついてい 0 た。「あなたのなさることでも、なさることでなくても、 事わたくし、わたくしたちは幸福ではないと申し上げますわ。」 のわたしは、何もいわなかった。かの女がまだいい終ってはいないのだなと思 0 たからだ。 かの女は、部屋の中をあちこちと歩きまわりながら、ゆ 0 くりと話しはじめた。頭を心持ちう イなたれて、そのほっそりとした、しなやかな姿は、歩くにつれて、おもむろに揺れた。かの女は、 タ スふと立ちどまって、わたしを見上げた。 「わたくしのことは、何もご存じないのでしよう ? 」と、かの女はたすねた。「わたくしの生まれ 本 たところも、ジョンと結婚するまでは、どういう女だったかもー - ーー何もご存じないでしよう、 ) ョに ? ・ ええ、お話しますわ、あなたを悔聴問僧だと思って。あなたは、ご親切なんですものー ーそうですわ、あなたは、ほんとうに、おやさしいんてすもの。」 どういうものか、わたしは、前のような得意の気分では全くなか「た。わたしは、シンシアも 同じような調子て、打ち明け話をはじめたのを思い出した。それに、懴悔聴問僧などというもの

9. スタイルズ荘の怪事件

イン博士から目をはなさないことにしますよ。」 「もうほかには、証言にあらは見つかりませんでしたか ? 」わたしは、皮肉にたずねた。 「あなた」と、ボアロは、物々しくこたえた。「人が、あなたに真実をいっていないということが わか 0 た時は。ーー気をおつけなさいよ ! ところで、わたしがひどく誤っていないとすれば、今 日の検屍審問では、たった一人かーーせいぜい二人の人間だけが、隠し立てとかごまかしなしに、 真実を語っていましたね。」 ローレンスや、カヴェンディッシュ夫人のことはいいませんよ。でも、 「さあ、ねえ、ボアロー 事ジョンに , ーーそれからミス・ハワードですよ。あの二人は、確かに真実を語っていたでしよう ? 」 一人は、そうかもしれません。しかし、二人ともというのは の「あの二人ともですか、あなた ? ズ イ 、ワードの証言は、重要なもので かれの言葉は、わたしに不愉快なショックを与えた。ミス・ノ スはなかったが、その真実さを疑う気など一度も起こらなかったほど、率直な、真正直な態度で述 べられたものだった。しかし、わたしは、ボアロの明敏な頭には、非常に敬意をはらっていた ただ、わたしが『ばかばかしい強情もの』といった時のかれだけは別ではあるが。 「本当にそう思うんですか、あなたは ? 」と、わたしはたずねた。「ミス・ハワードは、いつでも 真底から正直にーーーほとんど不愉快なほど正直にわたしには見えましたがね。」 ボアロは、奇妙な眼付を、わたしに向けたが、わたしには、その真意がまったくわからなかっ 新た。かれは、何かいいかけようとして、それを思いとどまった。

10. スタイルズ荘の怪事件

ボアロは、一瞬、考えこんだ。 「そりや、出米ますがね」と、やがて、かれはいった。「 いいたくないとは思います。わたしの手 に無理が出ますからね。さし当っては、陰にいて働く方がいいと思うんです。しかし、あなたの おっしやることもまことにごもっともです , ーー・過去の人間となったベルギーの警官の言葉など、 そして、そのわたしがアルフレッド・イングルソープは逮捕すべき 取るに足りないでしようー ではない。そう、わたしが誓っていったのです。ここにいる友人のヘイスティングズが、よく知 件っています。さあ、それでは、ジャップさん、すぐにスタイルズ荘へおいでになるでしようね ? 」 怪「ええ、三十分ほどのうちにね。ます、検屍官と医師に会うつもりです。」 荘「結構です。通りがかりに、わたしに声をかけてくださいーーー・村の一番はずれの家です。ごいっ ルしょにまいりましよう。スタイルズ荘では、イングルソープ氏があなたたちに申し上げるか、拒 イ 絶するかーー多分、そうでしようがーーーわたしが、かれに対する容疑がどうしても立証し得ない ス と、ご満足のいくような証拠を申し上げましよう。それで、いいでしよう ? 」 「それで結構です。」と、心からジャップはいった。「そして、ヤ 1 ドを代表して、あなたに、心か らお礼を申します。もっとも、現在のところでは、あの証言にほんのわずかの穴があろうとは思 えないと申し上げずにはいられませんが、しかし、あなたはいつも驚くべき方でした ! では、 後ほど、ムッシュウ。」 二人の刑事は、大股に歩み去ったが、サマーヘイは、信じられないように、にやにやと薄笑い を顔に浮かべていた。 158