ヘイスティングズ - みる会図書館


検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

メアリーは、声を立てて笑った。 門から出て行っておしまいになるわ。今日は、もう帰っていらっしゃいま 「まあおかしな方 ! せんの ? 」 「わかりませんね。かれがこの次、何をやり出すのか、考えるのはやめにしましたよ。」 つむ 「本当にお頭が変じゃありませんの、ヘイスティングズさん ? 」 「正直なところ、わたしにもわかりませんね。時々、確かに、かれは大変な気ちがいだという気 件のする時があるんです。ところが、その気ちがいぶりが絶頂に達した時、その気ちがいぶりに筋 怪道が立 0 ているような気がするんです。」 荘「わかりますわ。」 声を立てて笑っているのに、今朝のメアリーは、考えあぐねているような顔つきだった。沈み タ切って、ほとんど悲しそうな様子だった。 シンシアの問題で、かの女にぶつかるにはいい機会だという気が、わたしに浮かんだ。わたし は、如才なく切り出したと思 0 たのだが、たいして話を進めないうちに、かの女は、厳然とわた しをとめた。 「あなたは、すばらしい弁護人ね。確かにそうだと思いますわ、〈イスティングズさん、ても、 そのことでは、あなたの腕もす「かり無駄ね。シンシアは、わたくしに辛く当たられるような心 配をすることなんかありませんわ。」 こーーーしかし、 わたしは、そんなふうにとらないていただきたいと、おどおどとロごもりかけオ 234

2. スタイルズ荘の怪事件

とめてもらった。 出て米る出合いがしらに、ちょうどはいろうとしていた一人の小男とぶつかった。わたしが身 をよけてあやまると、いきなり、この小男は、大きな喜びの叫び声をあげて、わたしを抱きしめ、 温かい接吻をするのだった。 いった。「まさに、わが友、ヘイスティング 「モナミヘイスティングズ ! 」かれは、叫ぶように ズだね ! 」 「ボアロ ! 」と、わたしも喜びの叫び声をあげた。 事 わたしは、車の方を向いて、 の 「とても愉快な再会てすよ、シンシアさん。わたしの旧友の、ボアロ氏ですよ。もう何年も会わ レなかったんですよ。」 「まあ、ボアロさんなら存じてますわ。」と、陽気にシンシアもいった。「でも、あなたのお友た ス ちとは思いもよりませんでしたわ。」 「そう、まったく」と、。ホアロはまじめくさって、「わたしも、マドモアゼル・シンシアをよく知 っています。わたしがここにいるのも、あのご親切なイングルソープ夫人のおかげですよ。」それ げにかれを見たので、「そうだよ、わが友、夫人は、そう、故郷をはなれ から、わたしが物問いた て避難して米た、七人のわたしたち同国人のために、ご親切に救いの手をさしのべられたんた。 われわれベルギーの人間は、いつまでも感謝をこめて、夫人の名を思い出すでしよう。」 ボアロは、非常に変った風采の小男だった。身の丈は、五フィート四インチがせいぜいだった

3. スタイルズ荘の怪事件

281 れた物であることも。」 興奮のかすかなざわめきが起こった。 「さて、当スタイルズ荘て、畑仕事をなさるのは、ただ 一人ーーカヴェンディッシュ夫人だけ あります。ですから、マドモアゼル・シンシアの部屋と連絡するドアを通って、故人の部屋へ」 いられたのはカヴェンディッシュ夫人であったということになるのであります。」 「でも、あのドアは、内側から閂がかかっていましたよ ! 」と、わたしは叫ぶように、 「わたしが部屋を調べた時は、そうでした。しかし、第一に、わたしたちが聞いたのは、夫人 ( 事言葉だけでした。開けようとしたが、閉っていたとおっしやったのは、夫人だったのですから。 9 続いて起こったあの騒ぎに紛れて、閂をかけるだけの余裕は、夫人にはたつ。ふりあったはず一 ズす。わたしは、すみやかに機会をつかんで、わたしの推測を確かめました。まず第一に、その イれはしは、カヴェンディッシュ夫人の手甲の裂け目と、びったりと一致いたしました。また、 ス屍審問廷で、カヴェンティッシュ夫人は、ご自分の部屋から、べッドの傍のテープルの倒れる亠 を聞いたと陳述されました。わたしは、早速、建物の左の棟の、カヴェンディッシュ夫人のお 5 屋のドアのすぐ外に、友人へイスティングズ氏に立ってもらいまして、その陳述を実験して見 した。わたし自身は、警察の方々といっしょに故人の部屋にまいりました。その間に、わたしは、 問題のテープルを、わざとやったようには見えないようにして倒したのでございます。とこム が、わたしが考えておりました通り、ヘイスティングズ氏には、全然、物音が聞こえなかった ( であります。これで、惨劇の時刻には、ご自分の部屋で着換えをしていたと、カヴェンディッ、 '

4. スタイルズ荘の怪事件

人物ではあったが、才気のある座談家とはいえなかった。 その時、すぐそばの開けはなったフランス窓から、聞きなれた声が聞こえて米た。 わたしはタドミ 「じゃ、お茶の後で、妃殿下にお手紙を書いてくださるわね、アルフレッド ? ンスター夫人にお手紙を書いて、二日目のことをお願いするわ。それとも、妃殿下からお返事が あるまで、わたしたち、待ってましようか ? おことわりが来たら、タドミンスタ 1 夫人に初日 を開けていただいて、二日目がクロスビー夫人よ。それから、公爵夫人がいらっしやるーー・学校 の園遊会のことですものね。」 事低い男の声がして、それから、イングルソープ夫人の声が、高く返事をした。 の「ええ、そうねえ。お茶の後で結構ですとも。あなたは、ほんとうに考え深いわね、アルフレッ フランス窓が、前より少し広く開いて、美しい白髪の老婦人が、何となく見識張った態度を見 スせながら、芝生にあらわれた。その後からあらわれた一人の男は、おっきという態度を匂わせて イングルソープ夫人は、あふれ出るような感情をうかべて、わたしに挨拶をした。 「まあ、なんてうれしいんでしよう、またお目にかかれるなんて、ヘイスティングズさん、ほん とうに久し振りですわね。ねえ、アルフレッド、こちらはヘイスティングズさん , ーーこちら、あ るじですの。」 わたしは、多少の好奇心をもって、『ねえ、アルフレッド』氏をながめた。かれには、やや外国

5. スタイルズ荘の怪事件

「奥さんに気をつけてあげてくださいね、ヘイスティングズさん。かわいそうな、わたしのエミ だれもかれもみんな。わたし、何をしゃべってい あいつらは、みんな人食い鮫ですわ るか、自分のいっていることはわかっています。あの連中と来たら、だれもかれもお金につまっ ていて、かの女からお金をせしめようとしていない者は、一人もいないんです。わたし、出米る だけのことはして、かの女を守って来ました。これで、わたしがいなくなれば、みんな、つけこ むにきまっていますわ。」 ワード。 」わたしはいっこ。 「おっしやるまでもありません、ミス・ 事どんなことでもします。しかし、あなたは興奮して、思いすごしていらっしやるんだと、わたし のは思いますが。」 ズ かの女は、ゆっくりと人差し指を動かして、わたしをさえぎった。 わたしは、あなたよりずっと長いこと、この世に住ん イ「お若い方、わたしを信じてちょうたい。 スで来たんですよ。わたしがあなたにお頼みすることは、よく注意していてくださいということて すのよ。いまに、わたしのいうことが、きっとおわかりになりますわ。」 開けはなしの窓から、自動車の響きが聞こえて来たので、ミス・ハワードは立ち上がって、ド アの方へ歩いて行った。ジョンの声が外で聞こえた。手をドアの把手にかけて、肩ごしに振り返 って、かの女は、わたしに会釈をした。 びと 「何よりも、ヘイスティングズさん、見張ってくださいね、あの悪匱をーーーあの女の夫を ! 」 ワードは、抗議とお別れとの それ以上、何をいう時間も、何をする時間もなかった。ミス・ハ 25 「わたしに出米ることなら、

6. スタイルズ荘の怪事件

登場人物 ・イングルソープ : : スタイルズ荘の主 アルフレッド・イングルソープ・ の二度目の夫 ジョン・カヴェンディッシュ . の先夫の連れ子 メアリー・ カヴェンディッシュ ジョンの妻 ローレンス・カヴェンディッシュ・ ・ジョンの弟 イヴリン : アルフレッドのいとこ ハワード ( エヴィ ) ・ シンシア・マードック・ が後見している娘 ドーカス・ : スタイルズ荘の老女中 ハウエルスタイン博士 : : : 毒物学の大家 ジェームズ・ジャップ : : ロンドン警視庁の警部 サマー : ロンドン警視庁の部長刑事 エルキュール・ボアロ・ : ベルギー警察の元探偵 ヘイスティングズ ( わたし ) : : : 本編の説話者

7. スタイルズ荘の怪事件

わたしは、いわれるままに腰をおろした。 「あなたは、タドミンスターで働いていらっしやるんですね、ミス・マードック ? 」 かの女は、うなずいた。 「罪のつぐないですわ。」 「すると、みんながいじめるというんですか ? 」と、につこり笑いながら、たずねオ いえ、そんな目に会って見たいもんだわ ! 」と、シンシアは、もったい振って、叫ぶように 事「わたしにも一人、看護婦をしているいとこがいますけどね、」わたしはい 0 た。「それが、『婦 荘長』をとてもこわがっているんです。」 シスー ズ 「そうですわ。姉妹なんて、おわかりてしよう、ヘイスティングズさん。ただ、名前だけ ! ほ タんとうはどんなものだか、あなたなんか、おわかりにはならないわ ! でも、あたしは看護婦し ゃないんですの、有りがたいことに、薬局で働いているんですの。」 「すると、何人ぐらい毒殺なさるんです ? 」と、わたしは、につこり笑いながらたずねた シンシアも笑って、 「ええ、何百人もよ ! 」といった。 「シンシア」と、イングルソープ夫人が呼びかけた。「わたしに、手紙を二、三本、書いてもらえ る力い ? 」 「ええ、ええ。エミリーおばさま。」

8. スタイルズ荘の怪事件

幻たからね。」 「。ホアロ。」わたしはいった。「そんな陽気な顔をなすってもだまされませんよ。これは、非常に 重大な発見ですね。」 「よくわかりませんね。」ボアロはいった。「しかし、一つだけ、わたしにびんと米ることがあるん てす。それは、あなたにも、疑いなく来ているはずです。」 「何です、それは ? 」 「つまり、この事件にはストリキニーネが多すぎるということです。これで三度目ですよ、ぶつ をかるのは。イングルソープ夫人の強壮剤の中でしよう。スタイルズ・セント・メリイでは、メイ ~ 土スが売ったでしよう。今度はまた、家族の一人がストリキニーネに手を触れているでしよう。ま ったく混乱を来たしますよ。そして、あなたもご存じのように、わたしの嫌いなのは混乱なんで ス わたしがまだへんじをしないうちに、一人のベルギー人がドアをあけて、首を突っ込んた。 「下にご婦人が来て、ヘイスティングズさんにお会いしたいといっておいでてすよ。」 「ご婦人 ? 」 わたしは、飛び上がった。。、 ホアロは、わたしについて、狭い階段をおりて米た。メアリ ・カ ヴェンディッシュが戸口に立っていた。 「わたくし、村のあるお婆さんを訪ねにまいりましたの。」かの女は訳をいった。「そしたら、あ

9. スタイルズ荘の怪事件

それに、忘れちゃいけませんよ。みんなこれは、内緒ですよ。」 「ああ、もちろんさ , ーーーいわないよ。」 わたしたちは話しながら、歩きつづけて、ちょうど庭にはいる小さな門を通ったところだっ た。すぐ近くで人の声が聞こえた。わたしが着いた日もそうだったように、大楓の木の下にお茶 の支度がひろげられていたからだ。 。わたしは、かの女のそばに椅子を並べて、薬局を訪問した シンシアも、病院から戻っていた 件いとボアロがい 0 ていたと、かの女に告げた。 事「どうぞ ! 是非見ていただきたいわ。いっか、お茶に来ていただく方がいいわ。きっと、お待 の ちしててよ。あの方、本当にいい方ね ! でも、おかしな方よ。いっそや、あたしのネクタイか レらプローチを取って、つけ直してくだすったのよ。曲っていたんですって。」 イ タ わたしは、笑い出してしまった。 ス 「あの男の癖なんですよ。」 「そうお、そうなの ? 」 わたしたちは、一、二分、黙っていた。それから、ちょっとメアリ 1 ・ 方を見ながら、声をひそめて、シンシアはいった。 「ヘイスティングズさん。」 「え ? 」 218 カヴェンディッシュの

10. スタイルズ荘の怪事件

よ。あの女性はね、ヘイスティングズ、心も頭もしつかりした人ですよ。」 わたしは、こたえなかった。 「直感というやつは、すばらしいものですよ。」と、ボアロは感恢をこめていった。「はつぎりと いうことも出来ないし、そうかといって、無視するわけにもいきませんね。」 「あなたとミス・ ハワードには、何のことを話しているのかわかっていたらしいですね。」わたし 2 は、印、、かにいっ 4 」。 「わたしには、また何が何たかわからないということは、多分、気がおっき になっていないでしようね。」 「ほんとうですか ? そうなんですか、あなた ? 」 「ええ、話していたたけますか ? 」 ボアロは、一、瞬、じっとわたしを見つめていた。それから、意外にも、はっきり首を振った。・ 「よしましよう、あなた。」 「ああ、ねえ、どうしてよすんです ? 」 「秘密を守るには、二人で結構です。」 「えつ。わたしにだけ事実を隠すというのは、ひどく不当だと思いますね。」 「事実を隠しているのじゃないんです。わたしの知っている事実は、一から十まで、あなたもご 存じですよ。その事実から、あなたの推測が引き出せるでしよう。今度は、思考力の問題ですよ。」 「でも、知ることは面白いですからね。」 ボアロは、ひどく本気に、わたしを見た。それからまた、首を振った。