ホアロ - みる会図書館


検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

「しかしですねえ」と、皮肉にサマーヘイがいった ジャップは、滑檮な当惑顔て、。ホアロを見ていた。 「もう少し先をいっていただけませんか、ボアロさん ? ウインク一つ、首一つ動かしていた〉 いても結構です , ーー・あなたからね。あなたは、現場にいた人なんだーーー・そして、ヤードは、ど , な誤りも犯したくないんですからね。」 ボアロは、重々しくうなずいた。 令状をお使いな ~ 「わたしの考えていたことも、それなんです。では、こう申し上げましよう。 事 い。イングルソープ氏を逮捕なさい。しかし、それは、あなたには何の名誉にもならないでし、 の かれに対する容疑は、たちどころに消えるでしよう ! まあ、そんなものですな ! 」そ、 以て、かれは、意味ありげに、パチンと指をならした。 ジャップの顔が、容易ならぬ色になったが、サマーヘイは、信じられないというように鼻を、 スらした。 ホアロは気が狂ったと判 わたしはというと、驚いて、文字通りものもいえなかった。ただ、。、 するほかはなかった。 ンヤップよ、、 ノンカチを出して、おもむろに額にあてていた。 「どうしても、そんなことをしようというのじゃないんですよ、。ホアロさん。あなたのおっし とういうつもりなんだっ一 る通りにやりたいんですが、上役というのがいましてね、いったい、。 聞くでしようからね。もう少しつづけて、いっていただけませんでしようかね ? 」 157

2. スタイルズ荘の怪事件

ホアロがいよいよその自慢の種を大いに吹きまくる時が来たということだ「た。 それよ、。、 自分のことをいえば、わたしは、しもとなかった。。ホアロは、イングルソープは無罪だという かれの信念に、すばらしい理山を持「ているのかもしれないが、サマー ~ イのようなタイプの人 間は、明白な証拠を要求するにきまっているのだが、はたして、示アロがその要求にそえるかど うか、わたしは怪しいものだと思った。 ホアロは、証 やがて、わたしたちみんなが客間に集まると、ジャップが、そのド・アをしめた。。、 にも彼にも椅子をすすめた。警視庁の二人は、一同の注目の的とな 0 た。はじめて、わたしたち 事は、この事件が悪夢ではなくて、明白な現実だということを身にしみて感したようだ。こういう のことは、これまで本で読んたことはあ「たーー、しかし、今は、わたしたち自身が、この芝居の俳 ズ優だ 0 た。明日になれば、イギリス中の新聞が、人の目に立つ大見出しをつけて、この = 1 ス イを大げさに報じるにちがいない。 ス 『エセックスにおける奇怪な惨劇 富豪の夫人、毒殺さる』 スタイルズ荘の写真や、『検屍審問廷を出る家族』のスナップショットも出るだろう 写真師は、なまけてはいなか 0 たのだ ! そんなことはみんな、何百回となく読んだことであり 他の人々に起こ 0 たことで、自分に起こ 0 たことではなか 0 た。ところが今は、この家の中 169

3. スタイルズ荘の怪事件

224 「あの方のことを。」 「あの人がどうしたんです ? 」 「いなくなっちまったんです。」 「いなくなった ? 亡くなったんですか ? 」 いえ、警官が来て連れて行かれてしまったんです。」 「警官が米て ! 」わたしは、息がとまりそうになった。「逮捕されたというんですか ? 」 「ええ、そうなんです。そして , ーー」 〕件 事わたしは、待っていて、それ以上聞こうともしなかった。それどころか、。ホアロを探しに、夢 主中で村をかけた。 イ 第十章逮 まったく困ったことには、ボアロは不在だった。わたしがノックをすると出て来た年よりのべ ルギー人は、ボアロはロンドンへ行ったと教えてくれた。 わたしは、あきれてものがいえなかった。いったしロンドンに、。、 ホアロが何の川事があるの たろう ? 急に思い立ったのだろうか ? それとも、二、三時間前に、わたしと別れたに、も うその決心をしていたのだろうか ?

4. スタイルズ荘の怪事件

幻たからね。」 「。ホアロ。」わたしはいった。「そんな陽気な顔をなすってもだまされませんよ。これは、非常に 重大な発見ですね。」 「よくわかりませんね。」ボアロはいった。「しかし、一つだけ、わたしにびんと米ることがあるん てす。それは、あなたにも、疑いなく来ているはずです。」 「何です、それは ? 」 「つまり、この事件にはストリキニーネが多すぎるということです。これで三度目ですよ、ぶつ をかるのは。イングルソープ夫人の強壮剤の中でしよう。スタイルズ・セント・メリイでは、メイ ~ 土スが売ったでしよう。今度はまた、家族の一人がストリキニーネに手を触れているでしよう。ま ったく混乱を来たしますよ。そして、あなたもご存じのように、わたしの嫌いなのは混乱なんで ス わたしがまだへんじをしないうちに、一人のベルギー人がドアをあけて、首を突っ込んた。 「下にご婦人が来て、ヘイスティングズさんにお会いしたいといっておいでてすよ。」 「ご婦人 ? 」 わたしは、飛び上がった。。、 ホアロは、わたしについて、狭い階段をおりて米た。メアリ ・カ ヴェンディッシュが戸口に立っていた。 「わたくし、村のあるお婆さんを訪ねにまいりましたの。」かの女は訳をいった。「そしたら、あ

5. スタイルズ荘の怪事件

ホアロが叫ぶようにいった。「どう思います ? 「さあ、あなた。」わたしが一言もいわないうちに : 、 ああ ! わたしは、あの検屍廷で、折々はらはらしました。あの男が、どんなことも一切いうの を拒絶するほど、ばか強情だろうとは、思いもしませんでしたからね。断然、あれは大馬鹿者の 策だったんでしようね。」 「うむ ! 馬鹿だというほかに、まだ解釈のつけようがありますよ。」わたしはいった。「という のはね、かれに対する容疑が真実だったら、沈黙以外には、どうして身が守れるんです ? 」 「それどころか、うまい方法がしこたまありますよ。」と、。ホアロは、叫ぶようにいった。「ねえ、 事例えば、わたしがこの殺人事件の犯人だとすれば、わたしなら、この上なしのもっともらしい筋 の書を、七つは考え出せますよ ! イングルソープ氏の石のような否認よりも、はるかに納得させ 以るようなのをね ! 」 イわたしは、笑わずにはいられなかった。 ス 「ボアロさん、あなたなら、間違いなく、七十は考え出せるでしようよ ! だが、真面目な話、 わたしは、あなたが刑事に話していらっしやるのを聞いていましたが、あなたはほんとに、アル フレッド・イングルソープが無罪たなんて、思っていらっしやるわけじゃないんでしよう ? 」 「どうして、今と前とそうちがうんです ? 何も変ってやしませんよ。」 「でも、証拠は、とても争う余地がありませんね。」 「そう、決定的すぎますね。」 わたしたちは、 丿ーストウェイズ・コティジの門をはいって、もうすっかり馴染になった階段 159

6. スタイルズ荘の怪事件

しは、テープルの上座に、しとやかに、落ちついて、謎のようにすわっているかの女を見守った。 手首からきやしゃな手へとかぶさっている、白いひた取りのあるやわらかい灰色地のドレスを着 た、かの女の姿は非常に美しかった。だが、なろうと思えば、かの女の顔は、その不可思議さの 点でスフィンクスのようにもなれるのだった。かの女は、びどく黙っていて、ほとんど唇を開か なかった。しかも、奇妙な風に、かの女の個性の持つ大きな力が、わたしたちすべてを支配して いるのを、わたしは感じた。 かの女は、疑っていたのだろうか ? かの女は、ひどく疲れ 件そして、かわいいシンシアは ? 怪て、気分もすぐれないようだと、わたしは思った。かの女の態度の不活溌さと無気力さとが、ひ 荘どく目についた。 わたしは、気分が悪いのかとたずねた。すると、かの女は、率直にこたえた。 ズ 「ええ。あたし、とてもたまらないほど頭が痛いの。」 イ 「もう一杯、コーヒーをいかがです、マドモアゼル ? 」と、熱、いに、。、 ホアロがいった。「元気がっ ス きますよ。頭痛には、すばらしくききますよ。」かれは、急いで立ち上がって、かの女に茶碗をす すめた。 「お砂糖は入れないで。」かれが砂糖挾みをとり上げたのを見て、シンシアはそういった。 「砂糖なしで ? 戦時だから、おやめになったんですか ? 」 「いいえ。あたし、コーヒーにお砂糖を入れたことがないんですの。」 「畜生 ! 」っぎなおしたコーヒーを、持って帰りながら、つぶやくように、。、 ホアロは独り言をい

7. スタイルズ荘の怪事件

いてはさ。」 われわれの一人か ? そうだ。きっと、そう そうだ、まったく、誰にも夢魔だったのだー ちがいない、たた 一つの新しい考えが、わたしの心に浮かび出た。あわただしく、わたしは、それを考えて見た。 みんな、びったり合うじゃないか。 ホアロの奇怪な行動、かれのヒント 光明が増して米た。。、 この可能性を前に考えなか 0 たというのは、わたしは、何という馬鹿だろう。何と、わたしたち みんなが安心していたのだろう。 事「いや、ジョン」と、わたしはい 0 た。「われわれの中の一人じゃないよ。そんなはすがないよ。」 「わかっているよ、だが、しかし、ほかに誰があるんた ? 」 ズ 「想像がつぎませんか ? 」 「つかないね。」 スわたしは、用心深くまわりを見まわして、声をひそめた。 「パウエルスタイン博士ですよ ! 」と、わたしはささやいた。 「とんでもない ! 」 「ちっとも。」 「でも、いったい、かれがどんな得をするんだい、ぼくの母が死んで ? 」 「それは、わたしにもわかりませんよ」と、わたしは打ち明けてい 0 た。「しかし、ボアロもそう 田 5 っているということは、わたしもいえますよ。」

8. スタイルズ荘の怪事件

、こ。しかし、フ わたしは、あのボアロの謎のような伝言のことは、ほとんど忘れてしまってしオ また、わたしの好奇心が新たに燃え上がった。 ローレンスは、もうそれ以上は、いわないだろうと思ったので、わたしはお高くとまっている ストウェイズ・コティジへ出かけて行った。 のをやめにして、もう一度ボアロを訪ねに、リー 今度は、わたしは微笑で迎えられた。ムッシュウ・ボアロは在宅だった。上がったかって ? もちろん、上がって行った。 わたしがはいって行くと、 ボアロは、テープルのそばにすわって、両手に顔をうずめていた。 尊かれは、飛び上がった。 の 「どうしたんです ? 」わたしは、気にしてたずねた。「病気じゃないんでしよう ? 」 「いいえ、いいえ、病気じゃありません。しかし、重大な時期の問題て決心をつけているところ 〕なんです。」 ス 「犯人を捕えたものか、どうかとですか ? 」わたしは、ひょうきんにたずねた。 ところが、驚いたことには、ボアロは、重々しくうなずいたのだ。 「『いうべきか、いうべからざるか』と、お国の大シェイクスピアのいったように、『それが問題』 なんです。」 わたしは、ボアロの引用の間違いを訂正してやる気にもならなかった。 「真面目の話じゃないんでしよう、。ホアロ ? 一 「大真面目ですよ。というのは、すべての中で、最も重大なことがはかりにかかっているんて 242

9. スタイルズ荘の怪事件

深いものですよ。」 「誰が、簟筍へ入れたものでしようね ? 」 「誰か非常に知能のある人ですね。」ボアロは、冷淡にいった。「家じゅうで、一番目につかない そう、その男は、頭の働く男です。 場所をえらんで隠したということが、わかったてしよう ? だが、わたしたちは、もっと頭を働かさなくちゃいけません。われわれは、是非、頭を働かして、 その男が、われわれの、頭がいいと怪しまないようにしなくちゃなりませんそ。」 わたしは、黙ってうなずいた。 事「ねえ、あなた、あなたは、わたしの大助手になってくださるんですね。」 わたしは、このお世辞ですっかりうれしくなった。これまでには度々、ボアロが、わたしの真 ズ価を認めていてくれないらしいと思ったものだった。 イ「そうです。」と、じっと考え深そうにわたしを見つめながら、かれはつづけた。「あなたは貴重 スな人なんですよ。」 ホアロの次の言葉は、あまりありがたい代物ではな これは、当然、ありがたい言葉だったが、 : 、カオ 「わたしは、家の中に一人、味方を持たなくちゃいけないんです。」と、かれはじっと考えながら、 そういった。 「わたしがいるじゃありませんか。」と、わたしは文句をいった。 「まったく。でも、あなたでは駄目なんです。」

10. スタイルズ荘の怪事件

「粉薬だけですか ? 」 シンシアがこたえた時、血の色は、、 しっそう濃くなった。 「ああ、そうでしたわ。いっか睡眠薬をおっくりしたことがありましたわ。」 「これですか ? 」 。ホアロは、粉薬のはいっていた、からの箱を取り出した。 かの女は、うなすいた。 「何だったか、教えていただけますか ? ズルフォン剤ですか ? ヴェロナールですか ? 」 「いいえ、臭化物の粉末ですわ。」 怪 の 「ああ ! ありがとうございました、マドモアゼル、。 こめんなさい。」 ズ 元気よく邸から歩き出しながら、わたしは、たびたび、かれに目を向けた。わたしはこれまで イにも、何かがかれを興奮させると、かれの眼が猫の眼のように青光りになるということに、度々 ス 気がついていた。いま、その眼が、エメラルドのように輝いていた。 「あなた。」と、とうとうかれはいい出した。「わたしは、ちょっと思いついたことがあるんです あたるんで 非常に不思議な、そして恐らくは、全然不可能な思いっきなんです。ところが、 わたしは、肩をすぼめた。わたしは、ボアロは、そのとりとめもない思いっきに、少しおぼれ すぎているのだなと、ひそかに思った。この事件では、疑いもなく、真相は、明白その物だった のだ。 120