レイクス - みる会図書館


検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

266 「その物件を隠していた下着類は、厚手の物でしたか、薄手の物でしたか ? 」 「厚手の物でした。」 「言葉を換えていうと、冬物ということですな。すると、明らかに、被告は、その簟笥に近づく ことはなかったということですね ? 」 「多分、近づかなかったでしよう。」 「どうか気持よく、わたしの質問にこたえていただきたい。暑い夏の、とりわけ最も暑い週に、 冬の下着を入れた簟笥に、被告が近づくなどということがあるでしようか ? 近づきますか、近 件 事づきませんか ? 」 の 「近づきません。」 ズ 「そうだとすれば、問題の物件が、第三者の手によって、そこに入れられたもので、被告は、そ イ の物件があることには、まったく気がっかなかった、ということも可能ではないのですか ? 」 ス 「本官には、そうらしいとは思えません。」 「しかし、そういうことも可能てすね ? 」 「はい」 「それだけです。」 そのほかの証言が次々と述べられた。被告の七月の終りごろの経済的な窮境についての証言。 レイクスの妻との情事についての証一「ロ・ーー気の毒なメアリー、 かの女のような自尊心の高い女に は、聞くのもつらかったにちがいない。イヴリン・ ノワトが、情事があるといった事実につい

2. スタイルズ荘の怪事件

「メアリーや、これは、そのこととは何の関係もないものなんですよ。」 「では、見せてくたすってもいいでしよう。」 「あなたの想像している物とはちがうといっているでしよう。あなたとは、せん、せん関係のない ことです。」 カヴェンディッシュが、きびしい調子を強めて、こたえた。「もちろん、あ すると、メアリー・ の人をお庇いになることぐらい、わたしにもわかっていましたわ。」 シンシアは、わたしを待っていて、懸命な顔つきで、 事「ねえ、え ! とてもすごい喧嘩があったんですって ! ドーカスから、聞いたわ。」 の 「どんな喧嘩 ? 」 「エミリーおばさまと、あの男との間でですって。おばさまにも、やっと、あの男の正体がわか ってくだすったのだと、いいんだけど ! 」 ス 「ドーカスがその場にいたんですか、じゃ ? 」 「まさか。『偶然、ドアのそばを通りかかった』んですって。ほんとに古くさいどたばただわ。 どんな様子だったか、あたし、すっかり聞きたいわ。」 ハワードの警告を思い出して、 わたしは、レイクスの細君のジプシイのような顔と、イヴリン・ わざと黙っていることにした。ところが、ンンシアは、あれこれと考えつくかぎりの臆測をなら おばさまは、あの男を追い出してしまうわ べ立てて、楽しげに希望をいうのだった。「エミリー よ。そして、もう二度と、あの男にものなどいわないわよ。」

3. スタイルズ荘の怪事件

帰り道に、一つの門を通りかかると、反対の方角から、ジプシイ型の美しい若い女がや 0 て来 につこりしながらお辞儀をした。 「かわいらしい娘ですね。」と、感嘆するように、わたしはい 0 た。 ジョンの顔がこわばった。 「あれが、レイクスの細君さ。」 「あの、ミス・ハワードがさっきいったーーー」 「そうだよ。」と、ちょっと不自然なほどぶつきら棒に、ジョンはいった。 軒わたしは、大きな邸の中に住んでいる白髪の老夫人の姿と、いま、わたしたちに微笑みかけた、 。し、小さな顔とを思いふけ 0 た。すると、漠然とした、そ 0 とする予 の溌剌とした、いたずらつま、 ズ感が、全身をはうように走った。わたしは、それをはらいのけた。 イ「スタイルズは、ま 0 たくすてきな昔ながらのところですね。」と、わたしは、ジョンに、 タ ス かれは、なしろいんきに、うなずいた。 「うん、立派な財産だよ。いっかは、ぼくの物になるーーーいまだ 0 て、当然、ぼくの物になるは ずなんだ、おやじがあたり前の遺言を残してさえくれてりやね。そうすりや、今ほど、ひどく金 にこまってやしないはずなんだ。」 「こまってるって、あなたが ? 」 「ねえ、〈イスティングズ、きみだから話すがね、ぼくは、途方にくれてるんだ、金に。」 「弟さんは、助けてくれないんですか ? 」 こ タイプ

4. スタイルズ荘の怪事件

ジョンがいんきにうなずいた 「うん。おふくろのところへ行ったんだよ、かの女、そして , ーーああ、エヴィがやって来た。」 ミス・ハワードがはいって来た。唇をきっと結んで、小さなスーツケースをさげていた。興奮 して、もう心をきめてしまって、ちょっとなんにも寄せつけないという様子だ。 「とにかく、わたしは胸の中をぶちまけてしまったんですからね ! 」と、かの女は、どなるよう 「まあ、イヴリン。」と、カヴェンディッシュ夫人が、叫ぶようにいった。「そんなことってない 事わね ! 」 の ミス・ハワードは、物々しくうなすいて 「ほんとですとも ! すぐには忘れたり、許したりしてもらえないようなことを、エミリーに、 和ってしまったらしいわ。かまわないわ、ちょっといいすぎたかも知れないけど。でも、多分、カ ス エルの面に水でしようけどね。わたし、あけすけにいってやったんです。『あなたはお年よりなの よエミリー それに、馬鹿な年よりほど、馬鹿なものはいないのよ。あの人は、あなたより一一 十歳も年下ですよ。何のためにあなたと結婚したのか、自分を馬鹿にしているようなものじゃあ りませんか。みんなお金ですよ ! そうよ、あんまり沢山、あんな男にやることはありません。 百姓のレイクスが、とても綺麗な若いおかみさんを貰ったでしよう。あなたのアルフレッドにき びと いてごらんなさい。なん度、あすこですごしたか 0 て。』あの女、ひどく怒ったわよ。あたり前 ね ! わたしは、も 0 とい 0 てやりましたわ。『あなたに気に入ろうが入るまいが、わたしは注意 つら

5. スタイルズ荘の怪事件

「ああ、ボアロ」と、わたしは溜め息をついていった。「何もかも説明してくだすったようです ね。それにしても、こんなに無事に終って、わたしとしても嬉しいことてすよ。ジョン・とメアリ ーも、円く納まったしね。」 「わたしのお陰でですよ。」 「どういうことですーーあなたのお陰って ? 」 「ねえ、あなた、二人をまた元のような仲にしたのは、ただただ裁判だったということは感じて 事おいででしよう ? ジョン・カヴェンディッシュが、今まで通り奥さんを愛していることは、わ のたしも確信していました。それからまた、奥さんの方も、かれを愛していることもね。ところが、 二人は、す 0 かり心が離れ離れにな 0 ていたのです。みんな、誤解から生まれたことなんです。 イ奥さんは、愛のない結婚をした人です。それは、かれも知っていたのです。かれは、かなりに感 ス情の繊細な人で、愛したくないというかの女に、無理に自分を押しつけようとはしない人です よ。そして、かれが控え目になると、かの女の方では、愛が目をさまして来たのですね。ところ が、二人とも並はずれに気位が高くて、その気位の高いのが、容赦なく二人を離してしまうこと になったのです。かれの方はかれで、レイクスの細君との情事に追いやられてしまう、夫人の方 は夫人の方で、パウエルスタイン博士との友情を、わざと得ようとしていたというわけです。ジ ョン・カヴェンディッシュが逮捕された日に、わたしが重大問題で迷 0 ていたのをおぼえていら っしやるでしよう ? 」 313

6. スタイルズ荘の怪事件

わたしは、こんなにへまじゃないんですがね。ほんのちょっとゼステュアをしただけなんです ね」ーーわたしは、 " ホアロのゼスチュアというのがどんなのか知っていた 「左の手て。と一 ろが、べッドのそばのテープルを引っくり返してしまったんです。」 かれは、子供のように腹を立てたり、しょげ返ったりしているので、わたしは、あわててか をなぐさめた。 「気にしなさんなよ、おじいさん。それがどうしたっていうんです ? 階下てのあなたの大手糯 件が、あなたをわくわくさせたんですよ。あれは、わたしたちみんなには驚異でした、せ、本当に。 きっと、イングルソープとレイクスの細君との間には、わたしたちが思っている以上に、かれ ( 荘舌をしつかり動かなくしてしまうものがあるんですぜ。ところで、どうするおつもりです ? 視庁の奴さんたちはどこにいるんです ? 」 イ 「下へ行ってますよ、召使たちに会いに。二人に、すっかりわたしたちの証拠品を見せてやり ス したよ。ジャップにはがっかりしましたね。あの先生には、組織的な方法がないんですよ ! 」 「やあ ! 」窓から外を見たわたしは、 、った。「パウエルスタイン博士が来ますよ。あなたのお ( しやった通りですね、あの男は、ボアロ。わたしは、かれが好きじゃありませんね。」 「かれは、賢明ですよ。」ボアロは、考えにふけるようにいった。 「ああ、悪魔のように賢明ですよ ! ですから、火曜日の時のように醜態なかれを見ると、す ( かりうれしくなっちまったといわなくちゃなりませんよ。あんなすばらしい見ものは、あなた ってごらんになったことはないでしよう ! 」そこで、わたしは、博士の向こう見すな行動の話わ 176

7. スタイルズ荘の怪事件

たは近づいて、かれのそばに立った。 「いいなさい ! 」おどすように、ボアロはいった。 ようやく、イングルソープは顔を上げた。それから、ゆっくりと、汽を左右に振った。 「いわないとおっしやるんですね ? 」 「ええ。わたしは、誰も、今あなたがおっしやったようなことて、わたしを責めるほどおそろし いことが出米るとは思いません。」 ボアロは、決心をした男のように、考え深くうなずいた。「よろしい ! 」と、かれはいった。「で 事 は、わたしが、あなたに代って、いわなくちゃなりません。」 怪 荘アルフレッド・イングルソープが、また飛び上がった。 「あなたが ? どう出来るんです ? あなたは、何にもごそんじない・ - ーー」突然、かれは言葉を イ ス ボアロは、わたしたちの方に顔を向けた。「紳士ならびに淑女方 ! わたしがお話します ! 聞いてくださいー このエルキュール・ボアロがはっきりと申し上げます。先週の月曜Ⅱの午 後、薬剤師の店へはいって行って、ストリキニーネを求めた人物は、イングルソープ氏ではあり ません。といいますのは、その日の午後六時には、イングルソープ氏は、近くの農場からレイク スの細君を自宅へ送って行ったからです。わたしは、六時もしくはその少しすぎに、その二人を 見かけたと誓う証人を、少くも五人は連れて来られます。そして、みなさんもご存しのように、 アベイ農場、つまりレイクスの細君の家は、少くも村から二哩半は離れております。アリバイと

8. スタイルズ荘の怪事件

「でも、どうしてです ? 」 「簡単にいえばこうです。もし、レイクスの細君と浮気をしていたのがイングルソープだったの なら、かれの黙っている意味がようくわかります。しかし、あの百姓の可愛らしい細君に惹かれ ているのがジョンだということが村中の評判だとわかって見ると、かれの黙っているのが、全然、 別の解釈を持って来たのです。かれが、スキャンダルを恐れているふりをしていたのは、スキャ ンダルなんか、かれに起こりつこはなかったんですから、ナンセンスでしたよ。このかれの身構 えが、強くわたしを考えこませたんです。そして、徐々に、アルフレッド・イングルソープは逮 事捕されたがっているという結論に達したのです。ところでですよ ! その瞬間から、わたしは、 のかれを逮捕させてはならんと、等しく決心したのです。」 ズ「ちょっと待ってください。何故、かれは逮捕されたがっていたんです ? 」 イ「その訳は、あなた、お国の法律ですよ、一度無罪と決定した者は、同一の犯罪で再び公判に付 スする能わずという。ははは ! しかし、賢明でしたねーーー・かれの考えは ! 確かに、かれは、組 織的な頭の男ですよ。ね、そうでしよう、自分のような立場の人間は、必ず疑われると知ってい たんです。それで、自分に不利な証拠をうんとでっち上げておくという、すばらしい頭のいい考 えを思いついたのです。疑われたかったんですよ。逮捕されたかったんですよ。そこで、一点非 の打ちどころのないアリバイを出すーーーそして、はいっと変わると、一生無事だというわけです 「しかし、片方てはアリ・ハイを作りながら、しかも、どうして、薬剤師の店へ行けたんでしよう 299

9. スタイルズ荘の怪事件

「そうです。まず第一に、イングルソープ夫人の死によって、ほかに誰か利益を受けるものがあ るとしても、一番多く利益を受けるのは、夫人の夫でしよう。それ以外に、出発点はなかったん です。あの最初の日、あなたとごいっしょにスタイルズ荘へ行った時、どういうふうにして犯行 が行われたかということについては、わたしは、白紙だったんです。しかし、イングルソープ氏 について知り得たところから、かれと犯行とを結びつける何かを見つけ出すのは、とてもむずか しいことだと思っていたのです。邸に着いて見て、即座に、遺言状を焼いたのはイングルソープ 夫人だと、わたしは感じたのです。そのことは、話中ですけど、不服はいえないんですよ、あな 事こは。だって、真夏に寝室に火をたいた意味を、極力、あなたにわからせようとしたじゃありま のせんか。」 ズ 「そう、そう。」わたしは、じりじりしていった。「それからーー」 「ところが、あなた、正直にいうと、イングルソープ氏が犯人だというわたしの見込みは、非常 ス に動揺したのです。事実、かれに不利な証拠が非常に沢山あったものですから、かれがやったの ではないと信じそうになったくらいです。」 「いつ、気が変ったんです ? 」 . 「わたしが、かれの嫌疑を晴らそうと骨を折れば折るほど、かれが逮捕されようと自分から骨を 折っているのに気がついた時です。それから、レイクスの細君とは、イングルソープは関係がな いので、実際は、そんな方面に気があったのはジョン・カヴェンディッシュだということがわか った時、わたしは、確信を得たのです。」 298

10. スタイルズ荘の怪事件

132 第六章検屍審 検屍審問までの間、絶えず、ボアロは活動をつづけていた。二度、かれは、ウエルズ氏と密談 した。かれはまた、度々田舎の方へ遠出をした。わたしは、かれが秘密を打ち明けてくれないの が、ちょっと恨めしかったが、そうすればそうするほど、かれが何をするつもりでいるのか、ま 件るきり見当がっかなかった。 怪ふと、わたしの頭に、かれがレイクスの農場を探っているのかもしれないという考えが浮かん 丿 1 ストウェイズ・コティジに訪ねたところ、かれが留守だったの 荘だ。それで、水曜日の夕方、 て、かれに会えるだろうと思って、畑道を農場の方へと歩いて行った。ところが、そこらには、 タかれの姿もなかったので、まっすぐ農場へ行くのを、わたしはためらっていた。わたしが帰りか けると、一人の年とった田舎者に会った。その男は、ずるそうに、わたしを横目で見た。 「別荘から米なすったんだね、あんたは ? 」と、かれはたずねた。 「さよう。友だちを探しているんだが、こっちの方へ歩いて米たかと思ってね。」 「小さな人でごわしよう ? しゃべる時、手を振りまわす ? 村にいる、ベルギー人の一人の ? 」 「さよう。」と、わたしは、懸命にいった。「じゃ、こっちへ来たんですね ? 」 「ああ、うん、こっちへ来なすったよ、度々。一ペんやそこらじゃねえね。あんたの友だちです ああ、あんたは、別荘にいる旦那だね たくさん、いなさるたね ! 」そして、前より ロ