夫人 - みる会図書館


検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

であり、疑いもなく、イングルソープ夫人の眼には、決して見せるつもりのないものでした。 方、カヴェンディッシュ夫人は、そんなにしつかりお姑さんがにぎりしめている紙を、ご主人 はためにならないことが書き記されてあるものだと信じてしまわれたのです。夫人は、その紙宀 を見せてくれとイングルソープ夫人に迫ったのですが、老夫人は、ほんとうに心から、そんな一 とには関係のないものだと、夫人に請け合われたのです。カヴェンディッシュ夫人は、老夫人 ( 言葉を信用なさらなかった。イングルソープ夫人が継子をかばっているのだと、お考えになっ・ のです。ところで、カヴェンディッシュ夫人という方は、非常に果断なご婦人で、控え目な面 ( 陰で、ご主人のことを狂おしいほどに嫉妬しておいでになったのです。夫人は、どんなことを , ても、その紙片を手に入れようと決心なすった。そして、こういう決心をしておいでになると一 ろへ、夫人を助けるチャンスが米たのです。というのは、その朝なくな「たイングルソープ夫 , の小箱の鍵を、偶然、夫人が拾われたのです。そして、お姑さんが大切な物を全部、いつでも , の特別な箱にしまっておいでになることも、夫人はご存しだったのです。 「そこで、カヴェンディッシュ夫人は嫉妬にかられて、必死になった女性だけがやれるような「 画を、お立てになったのです。その日の宵のうちに、マドモアゼル・シンシアの部屋へ通じる【 こ由をおさしになったのでしよう アの閂をはずしておしまいになったのです。恐らく、蝶つがい ( 、冫 というのは、わたしが開けて見ますと、ほんとに音もなく開くのに気がっきましたからです。 人は、この企てを、安全と見られる明け方まで延ばしておおきになった。というのも、明け方、 ら、夫人の部屋で夫人がお動きになるのを聞いても、召使たちもいつものことだと馴れていた ,

2. スタイルズ荘の怪事件

「これこそ、おわかりのように、わたしが誤っておりました。それで、どうしてもその考えは捨て てしまわなければなりませんてした。わたしは、新しい見地からこの問題にぶつかりました。さ こうおっしやったのを聞いています。 て、午後の四時に、ドーカスは、大奥様が怒ったように、 『夫婦間の問題が世間の評判になったり醜聞になるのをこわがって、そんな恐怖がわたしを思い とまらせるなどと思わなくても大丈夫ですよ。』と。わたしが推測しましたのは、そして、正しい 推測だったのですが、この言葉は、ご主人に向かってではなくて、ジョン・カヴェンディッシュ 氏におっしやった言葉たったのです。一時間後、つまり五時に、夫人は、ほとんど同じ言葉をお 事使いになったのですが、立場は違っているのです。夫人は、ドーカスにこうおっしやったのです。 6 『わたしには、どうしていいかわからないよ。夫婦間の醜聞というのは、おそろしいものだね。』 第と。四時には、夫人は、腹を立てておいででしたが、完全に落ちついていらっしゃいました。五 イ時には、夫人は、ひどい心痛をしておいてになって、『ひどいショック』を受けたと口に出してお ス いてになります。 「これを心理的に考察して、わたしは一つの推論を引き出し、それが正しかったとうなすきまし た。二度目に夫人がロにお出しになった『醜聞』というのは、はしめとは同じではなかったので してーー・それは、夫人ご自身に関することだったのです ! 四時には、イングルソープ夫人は、ご子息と口論し 「今一度、事件の経過を考えて見ましよう。 いつけるそとおどかされました。そのメアリー夫人は、途中から、その話 て、メアリー夫人に、 の大部分を立ち聞きなすった。四時三十分には、イングルソープ夫人は、遺言状の効果について 285

3. スタイルズ荘の怪事件

わたしの信念を 肥ュ夫人が陳述なすったのは真実をおっしやってはおいでにならないのだという、 確かめることが出来ました。事実、ベルが鳴った時、カヴェンディッシュ夫人は、ご自分の部屋 イにはおいでにならなくて、実は、故人の部屋においてになったのだと、わたしは確信を持ったの でございます。」 ほほえん わたしは、素早い一瞥を、メアリーに向けた。かの女は、ひどく蒼ざめてはいたが、 でいた。 「わたしは、その仮定の下に推理を進めました。カヴェンディッシュ夫人が、お姑さんの部屋に おいでになる。何か探しておいでになるのだが、まだそれが見つからなか 0 たのだと申しましょ の 。不意に、イングルソープ夫人が目をさましたと思うと、驚くべき発作に襲われているのです。 老夫人が、さっと手を拡けたので、べッド・テープルが引っくり返りました。と、つづいて、必 死になってベルを押しておいでになる。カヴェンディッシュ夫人は、驚いて、手にしていた燭 ス をお落としになる、絨毯には、獵涙が垂れました。夫人は、燭を拾うと、あわただしくマドモ アゼル・シンシアの部屋に、後のドアをしめて、逃げこんで行く。急いで、廊下へ出る。どこに いるか、召使たちに見つかってはいけないからです。ところが、遅すぎたのです ! もうすで に、両方の棟をつなぐ回廊に、足音が響いているじゃありませんか。どうしたらいいてしよう ? とっさに肚をきめて、夫人はマドモアゼルの部屋に取って返しマドモアゼルをゆり起こしはじめ る。目をさました家中の人々が廊下をかけつけて来る。皆、夢中になってイングルソープ夫人の 部屋のドアを、続けざまに叩いています。カヴェンディッシュ夫人がまだその場に来ていないこ

4. スタイルズ荘の怪事件

残っていちゃ、また机を開けなくちゃならないことになって、イングルソープ夫人に手紙を見ら れるかもしれないという恐れもある。それで、外へ出て、森の中をぶらついていたのです。イン グルソープ夫人が、かれの机を開けて、その罪深い手紙を見つけようとは、夢にも考えないでね。 「ところが、ご存じのように、そうなってしまったんです。イングルソープ夫人は、それを読ん て、夫とイヴリン・ ハワードとの裏切りに気がついたのです。もっとも、不幸にも、臭化物につ いてのくだりが、夫人の胸に何の警告をも伝えなかったのですがね。自分が危険だとはわかった が、どこに危険があるかはご存じなかったんです。夫人は、ご主人には何もいうまいと心を 事おきめになったが、明日米てくれるようにという手紙を、夫人の弁護士にお書きなるといっしょ に、作ったばかりの遺言状を焼いてしまおうとも決心なすったのですね。そして、運命の手紙は、 ズ保存しておおきになったというわけです。」 イ「じゃ、イングルソープが小箱の鍵をこじ開けたのは、その手紙を見つけるためだったんです 「そうです。ー・ーーそして、かれが冒した非常な危険から考えても、かれが、どれほどよくその重 要さを感じていたかは、われわれにもわかるわけです。あの手紙を除けば、かれと犯罪とを結び つけるものは、絶対に何一つなかったのですからね。」 「わたしにはわからないことが一つだけあるんですが、何故、それを取り戻すとすぐ、焼いてし まわなかったのでしようね ? 」 「その訳は、なによりも大きな危険を、あえてよう冒さなかったのてすよーー・その手紙を、自分 303

5. スタイルズ荘の怪事件

の話の結果、夫に有利な遺言状をお作りになり、二人の庭師が証人となりました。五時には、夫 人がかなり興奮の様子で、手に一枚の紙をーー『手紙』だろうとドーカスは思ったのですが 持っておいでになるのに、ドーカスが気づいて、それから、部屋に火をたきつけるようにと夫人 がお命じになる。ですから、恐らく、四時三十分と五時の間に、何か、完全に気持ちを変えさせ るようなことが起こったのです。というのは、その前には、作らなければならなかったほどの遺 しオしその何かは、 言状を、今度は、焼き捨てようと気をもんでおいでになるのですからね。、つこ、、 何だったのでしよう ? 事「わたしどもの知っている限りては、その三十分間は、夫人は、まったく一人きりておいてでし のた。誰も、その居間にはいって行った人もなければ、残っている人もありませんてした。とすれ 。しったい、この突然の感情の変化は、何が呼び起こしたのでしよう ? 「われわれは、ただ推察するよりほかにありませんが、わたしは、わたしの想像が正しいと信じ るものです。イングルソープ夫人は、机に切手をお持ちじゃなかったのです。わたしたちは、こ のことを知っております。といいますのは、後で、夫人がドーカスに、切手を持って米るように とおっしやったからです。ところで、その部屋の反対の片隅に、。 こ主人の机があってーー、鍵がか かっていました。夫人は、切手を見つけたがっておいででした。そして、わたしの推理によりま すと、夫人は、ご自分の鍵で、その机を開けようとなさいました。その一つが合ったことは、わ たしが知っております。そこで、机を開けて、切手を探しておいでになるうちに、夫人は、ある ドーカスが手にしておいでになるのを見た、あの一枚の紙片 別の物をふっと見つけたのです 2S6

6. スタイルズ荘の怪事件

にはいりました。苗床の土は、居間の床に残っていた土と、まったく同じようでした。それにま た、あなたからも、昨日の午後、植えたのだと聞かされたのです。そこで、庭師の一人か、こと によると二人ともー、ーーというのは、苗床には二組の足跡がありましたからねーーー居間へはいった と信じたわけです。というのは、イングルソープ夫人が、ただ二人に話しかけようと思ったのな ら、恐らくは、夫人は、窓のところに立っていただけで、かれらは、全然、部屋の中へははいっ て来なかったはずです。わたしは、そこで、夫人が、新しい遺言状をつくって、夫人の署名の証 人に、二人の庭師を呼んだのだと、確実に信じたのです。わたしの推測が正しかったことは、 事ろいろな事件が証明してくれました。」 の「それは、すばらしく頭のいい推測ですね。」と、わたしも認めないわけにはいかなか 0 た。「あ ズの書きちらした文字から引き出したわたしの結論は、まったく誤りだったといわなくちゃなり ィませんね。」 ス かれは、につこりした。 いい召使ですが、また悪い 「あなたは、あまり自分の想像に支配されすぎていますよ。想像は、 主人ですよ。もっとも単純な解釈が、常に一番もっともらしいということですね。」 「もう一つの問題ですがーー・あの小箱の鍵がかかっていたということは、どうしておわかりにな ったんです ? 」 「知らなかったんですよ。想像が当ったというだけのことです。曲げた針金が ( ンドルに通して あったのを、ごらんになったでしよう。それで、それが恐らくは、もろい鍵輪から、ねじり取っ

7. スタイルズ荘の怪事件

ためならって。」 「ああ ! 」ボアロは、真剣にかの女を見つめた。「ミス・ハワード、 ます。どうそ、正直にこたえていただきたいのです。」 「嘘など、決してつきません。」と、ミス・ハワードはこたえた。 「こうなんです。あなたは今でもまた、イングルソープ夫人が、ご主人に毒を盛られたと信じて いらっしやるんですか ? 」 「どういうおつもりなんですの ? 」と、かの女は、鋭くたずねた。「この間の、あなたのすばら しいご説明が、ほんの少してもわたしを動かしたろうなんて、お考えになることはいりませんの よ。薬剤師の店でストリキニーネを買ったのが、かれではなかったとは、わたしも認めますわ。 それがどうたというんです ? 最初にお話した通り、あの男は、蠅取紙だって煮つめ兼ねない男 てすよ。」 「あれは砒素ですよーーーストリキニーネじゃありませんよ。」と、ボアロは、控え目にいった。 「それがどうたっていうんです ? 砒素たって、ストリキニーネと同様に、可哀想なエミリ 1 を 片づけてしまえますよ。かれがやったということさえ、わたしが確信を持っていれば、どうやっ てかれがやったかなんてことは、わたしには、ちっとも問題じゃないんてす。」 「その通りです。かれがやったと、あなたが確信を持っておいでになるのならね。」と、ボアロは、 私力にいった。「では、別の形で、質問をさせていただきましよう。あなたは、心の底から、イン グルソープ夫人は、ご主人に毒殺されたと、これまて信じておいてたったんでしようね ? 」 一つお何いしたいことがあり

8. スタイルズ荘の怪事件

290 いわれたのです。わたしがしたような、麻酔剤の試験はしなかったのです。」 「麻酔剤の ? 」 「そうです。ここに分析者の報告があります。カヴェンディッシュ夫人は、危険性はないのです が、効き目のある麻砕剤を、イングルソープ夫人と、マドモアゼル・シンシアとお二人に飲ませ たのです。その結果、夫人は、身の毛もよだつようなおそろしい目にお会いになったのです ! 考えてもごらんなさい、どんな気持がなすったか、夫人の気持を ! お姑さんが、突然、急死さ ご自分のお使いになった睡 れる。しかも、『毒』という言葉をお聞きになった直後なんですよー 事眠剤は、完全に無害なものだとは信じておいでになったが、イングルソープ夫人の死が自分のせ のいではないだろうかと恐怖をお感じになった、おそろしい一瞬がおありになったことは疑いもあ ズ りません。恐布に取りつかれたように、急いで階下におりて、マドモアゼル・シンシアの使った コーヒー茶碗と受け皿を、急いで、大きな真鍮の花瓶の中にほうりこんでおしまいになりました。 これは後に、ローレンス氏によって発見されました。ココアの残りには、どうしても夫人は手を つける気にはなれなかったのです。あまりにも人の目が、夫人に集まっていたからです。ストリ キニーネだということになって、結局は惨劇は夫人のせいではないということが明らかになった 時の、夫人の安堵の思いはどんなだったでしよう。 「今になって見ると、ストリキニーネの中毒の症状が、あんなに遅くなって現われたことが、よ く説明出米るわけです。ストリキニーネといっしょに用いた麻酔剤は、数時間、毒薬の働きを遅 らせるのです。」

9. スタイルズ荘の怪事件

「調査の結果、毒薬を飲ました方法について、これだと、あなたに判定させるような物がありま したてしようか ? 」 「いいえ。」 「あなたは、ウイルキンズ医師よりも前に、スタイルズ荘に着かれたのでしたね ? 」 「そうです。ちょうど門の外で、自動車に会いましたので、出来るだけ急いで行ったのです。」 「それからどうしたか、ありのままにいっていただけますか ? 」 「わたしは、イングルソープ夫人の部屋にはいりました。夫人は、その時、典型的な、硬直性の 事痙攣を起こしていました。夫人は、わたしの方を向いて、あえぎながら『アルフレッドーーーアル のフレッドーーーー』と、いわれました。」 ズ 「ストリキニーネというものは、イングルソープ夫人の夫が持って行った、夫人の食後のコーヒ イ ーに入れて飲ますことが出来るものですか ? 」 ス「出来るかもしれません。しかし、ストリキニーネというものは、その作用が、かなり急速な薬 品です。服用後、一時間から二時間のうちに、症状が現われるものなのです。もっとも、ある種 の健康状態のもとではおくれることもあります。しかしながら、そのようなものは、この場合に は、せんぜん見当りません。イングルソープ夫人は、八時ごろ、食後のコーヒーを飲まれたもの と推定いたします。ところが実際には、症状は、翌早朝まで現われなかったのです。その事実に もとづけば、前夜、非常におそくなってから、薬品が服用されたということになります。」 「イングルソープ夫人は、夜中に、ココアを一杯、飲むのが習慣だったということですが、その 135

10. スタイルズ荘の怪事件

281 れた物であることも。」 興奮のかすかなざわめきが起こった。 「さて、当スタイルズ荘て、畑仕事をなさるのは、ただ 一人ーーカヴェンディッシュ夫人だけ あります。ですから、マドモアゼル・シンシアの部屋と連絡するドアを通って、故人の部屋へ」 いられたのはカヴェンディッシュ夫人であったということになるのであります。」 「でも、あのドアは、内側から閂がかかっていましたよ ! 」と、わたしは叫ぶように、 「わたしが部屋を調べた時は、そうでした。しかし、第一に、わたしたちが聞いたのは、夫人 ( 事言葉だけでした。開けようとしたが、閉っていたとおっしやったのは、夫人だったのですから。 9 続いて起こったあの騒ぎに紛れて、閂をかけるだけの余裕は、夫人にはたつ。ふりあったはず一 ズす。わたしは、すみやかに機会をつかんで、わたしの推測を確かめました。まず第一に、その イれはしは、カヴェンディッシュ夫人の手甲の裂け目と、びったりと一致いたしました。また、 ス屍審問廷で、カヴェンティッシュ夫人は、ご自分の部屋から、べッドの傍のテープルの倒れる亠 を聞いたと陳述されました。わたしは、早速、建物の左の棟の、カヴェンディッシュ夫人のお 5 屋のドアのすぐ外に、友人へイスティングズ氏に立ってもらいまして、その陳述を実験して見 した。わたし自身は、警察の方々といっしょに故人の部屋にまいりました。その間に、わたしは、 問題のテープルを、わざとやったようには見えないようにして倒したのでございます。とこム が、わたしが考えておりました通り、ヘイスティングズ氏には、全然、物音が聞こえなかった ( であります。これで、惨劇の時刻には、ご自分の部屋で着換えをしていたと、カヴェンディッ、 '