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検索対象: スタイルズ荘の怪事件
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1. スタイルズ荘の怪事件

「たしかに、そう思いますよ。」 「ふん、ふん、あなた、あなたのいう通りにしますよ。」 「よろしい。ただ、どうも、少しおそすぎましたね。」 「まったく。」 かれは、ひどくしょんぼりして、気まり悪そうな風だったので、わたしは、ほんとに気の毒、 気がした。もっとも、わたしは、自分の小言は正しく、利ロなやり方たと、まだ思「ていた。 「そう」と、やっと、かれはいった。「行きましよう、あなた。」 件 事「ここはもうすんたんてしよう ? 」 っしょに村まで歩いてくださるでしような ? 」 の「さし当っては、すみました。い ズ「行きますとも。」 かれは、自分の小さな手提鞄を取り上けた。わたしたちは、客間の開けひろげた窓から出た。 ホアロは脇にのいて、かの女を〉 スシンシア・マードックが、ちょうどやって来るところだった。。、 した。 「失礼ですが、マドモアゼル、ちょっと待ってくたさい。」 「はあ ? 」と、かの女はいぶかしそうに振り向いた。 「あなたは、これまでイングルソープ夫人の薬を、おっくりになったことがおありでしようか ? ややぎこちなくこたえるかの女の顔に、かすかに血の色がのぼった。 「いいえ。」 119

2. スタイルズ荘の怪事件

ボアロは、ロをつぐんだ。かれを見上げたメアリーの顔には、ゆ 0 くり血の気がのぼ 0 ていた。 「あなたのおっしやったことはみんな、たしかに本当ですわ、ボアロさん。わたくしの一生でも 一番おそろしい時間でした。決して、忘れるようなことはございますまい。でも、あなたは、お 見事でいらっしゃいますわ。今では、わたくしも、よくーーー」 「ボアロ神父になら、安心して打ち明けられますと申し上げた時の、わたしの意味がおわかりに なりましたでしようね ? ですが、あなたは、わたしを信用しようとはなさらなかったのてす。」 「わたしにも、今は、何から何までわかります。」と、ローレンスがいった。「毒入りコーヒーの 事上に飲んだ、麻酔剤入りのココアが、作用を遅らせた十分な理由なんですね。」 の「その通りです。ですが、コーヒーには、毒がはいっていたのでしようか ? はいっていなかっ tk たのでしようか ? この点で、ちょっと厄介なことにぶつかりますね。たって、イングルソープ 夫人は、決してコーヒーをお飲みにならなかったのですからね。」 ス「何ですって ? 」驚きの叫び声が、異ロ同音に出た。 「そうです。イングルソープ夫人の絨毯についていたしみのことを、わたしが申していたのを、 おぼえていらっしやるでしようね ? あのしみについては、少し変ったところがいくつかありま した。まだ湿っていて、強いコーヒーの匂いをもらしていました。そして、絨毯のけばの中に深 くはい 0 ていた陶器の小さな破片もいくつか、わたしは見つけました。何があ 0 たのか、わたし にはよくわかりました。というのは、二分もしない中に、わたしは、自分の小鞄を窓の傍のその テープルにおいたのです。すると、テープルはひ 0 くり返 0 て、その小鞄を、床のそ 0 くり同一

3. スタイルズ荘の怪事件

に。わたしが行くまて、動かずにいてくださいよ。」それから、急いで向きなおって、二人の刑事 といっ 1 しょによっこ。 わたしは、かれの指図通りに、仕切りカーテンのそばに位置をしめて、いったいどうしてこん なことを頼んだのだろうと考えていた。何故、こんな変てこな場所に立って、見張りをしなくて はならないのたろう ? わたしは、眼の前の廊下を、じっと見つめた。はっと、一つの考えが、わ たしに浮かんだ。シンシア・マードックの部屋だけのほかは、どの部屋も左の方の棟にあった。 それが、何か関係があるのではなかろうか ? 誰か出たりはいったりしたら、知らせなくちゃな 事らないのたろうか ? わたしは忠実に、自分の位置に立っていた。何分か経った。誰も米なかっ のた。何も起こらなかった。 ズ たつぶり二十分は経ったにちがいないと思うころ、ボアロが、わたしのところへやって来た。 イ「動きまわらなかったでしようね ? 」 ス 「いいえ。石見たいに、 ここに釘付けになってましたよ。何も起こりませんでしたよ。」 「ぜんぜん、何も見なかった 「ああ ! 」かれは喜んだのだろうか。がっかりしたのだろうか ? んですね ? 」 「ぜんぜん。」 「だけど、多分、何か聞いたでしよう ? 大ぎなどしんという音をーーーえ、あなた ? 」 「いいえ。」 「そんなことがあるでしようか ? ああ、しかし、自分に腹が立って来るなー 175 いつもいつも、

4. スタイルズ荘の怪事件

「十年でございます、旦那さま。」 「そりや長い間てすね。そして、とても忠実につとめてね。奥様をひどく慕っていたんでしよう 「わたくしには、大変にいい奥様でございました、旦那さま。」 「それでは、二つ三つ、質問に答えていただけるでしようね。これは、カヴェンディッシュ氏に すっかりご了解を得て、おたずねするんですが。」 ・「ええ。もちろんですわ、旦那さま。」 件 事「ては、昨日の午後の出来事からはじめましよう。奥様が口論をなさいましたね ? 」 の 」と、ドーカス 「はい、旦那さま。ですが、わたくしは、よく存じませんのて、わたくしは ズはロ′」もった。 イ ボアロは、鋭く、かの女を見た。 タ ス 「ドーカスさん。その口論について、出米るだけ詳しく、どんなこまかいことまでも、わたしは 知る必要があるんです。奥様の秘密をもらすなどと考えちゃいけませんよ。奥様はお亡くなりに なったんですよ。そして、わたしたちは、是非すっかり知らなくちゃいけないのですーーもし、 奥様のかたきを打とうというんならね。奥様をよみがえらせることは出来ないが、卑劣な行為が あったのなら、その人殺しを法律にてらして罰しようと、わたしたちは思っているのてす。」 「おっしやる通りでございます。」と、ドーカスは、言葉も強くいった。「名前は申しませんが、こ のお邸には、だれだって我慢の出米ない人が、一人いるんでございますよ ! そして、そいつが、

5. スタイルズ荘の怪事件

突然、かれは、わたしを抱きしめて、両方の頬に心から接吻した。そして、驚いて呆然として いるわたしをおき去りにして、部屋を飛び出して行ってしまった。 そこへ入れ違いに、メアリー・ カヴェンディッシュがはいって来た。 「どうなすったんですの、ボアロさんは ? わたくしの横をすっ飛ぶようにぬけて、大声でどな っていらっしたんですよ。『車庫てす ! 後生ですから、ガレージはどっちです、奥様 ! 』って。 そして、わたくしが、まだへんじも出来ない中に、通りへ飛び出して行っておしまいになったん ですのよ。」 事わたしは、急いで窓のところへ飛んで行った。その通り、帽子もかぶらずに、表の通りを、む のやみに身ぶりをしながら、素っ飛んで行くのだった。わたしは、あきれたというように、メアリ ズ ーの方を向いた。 イ「すぐに、巡査に捕まりますよ。ああ、角をまがって行ぎますよ ! 」 ス わたしたちの眼が会った。そして、どうしようもないというように、お互いの眼を見合った。 したい、どうなすったんでしよう ? 」 わたしは、首を振った。 「わかりませんねえ。トランプの家を作っていると、いきなり、思いついたことがあるといって、 あの通り飛び出して行ったんです。」 「そうですの。」と、メアリーはいった。「タ食の前には、帰っていらっしやるのでしようねえ。」 だが、夜が更けても、ボアロは戻って来なかった。 278

6. スタイルズ荘の怪事件

「ええ、それで ? 」 「でも、もう一度、分析して見ようと思ったんです。それだけですよ。」 そして、この問題についてそれ以上の言葉は、かれから引き出せなかった。 このココアについてのボアロのやり方は、ひどく、わたしを途方に暮れさせた。考えても、ま るぎり訳がわからなかった。しかし、一時はやや衰えたこともあったが、かれに対するわたしの 信頼は、アルフレッド・イングルソープの無罪についてのかれの確信を、あれほど意気揚々と立 証してからは、すっかり元通りになっていた。 事 イングルソープ夫人の葬儀は、次の日に行われた。それから二日経って月曜日に、わたしが遅 怪 の い朝食におりて行くと、ジョンがわたしを脇へ呼んで、イングルソープ氏が午前中に邸を引きは レらうことになったと知らせた。身の振り方をぎめるまで、スタイルズ・アームズに居を構えると いうことだった。 ス 「ほんとに、かれが行くと思うと、ひどくほっとしたよ、ヘイスティングズ」と、この正直な友 人はつづけた。「かれがやったと、ぼくたちが思っていた時は、まったくひどいものだったから ね。ところが、今は、われわれみんな、あの男をひどく憎んでいたのを悪かったと気がとがめて いるんだから、そんなことしなくてもいいと思うんだがね。事実、われわれは、かれを憎んでい たさ。もちろん、万事が、かれを黒と指していたからだがね。誰だ 0 て、われわれがそう早合点 をしたからといって、われわれを非難するというのはわからないよ。しかし、まああの通りで、 われわれは間違っていたんだから、今では、改めなくちゃいけないと、いまいましいが感じてい 186

7. スタイルズ荘の怪事件

間の会話の断片を、あなたは、どう思います ? 」 「それを、すっかり忘れていましたね。」と、わたしは、考え考えいった。「これも、やつばり謎 ですね。カヴェンディッシュ夫人のような、この上なく自尊心が強くて無ロな婦人が、自分に関 係のないことに、あんなに激しく口出しするなんてことは、信じられないようですね。」 「まったく。ああいう教養のある婦人のすることとしては、驚いたことですね。」 「たしかに変ですよ。」と、わたしも同意した。「でも、あんなことは大して重要でもないし、考 えに入れる必要はないでしよう。」 件 事 ボアロがうなり声を出した。 怪 の 「いつも、わたしがなんといっていました ? なにからなにまで考慮にいれなくちゃいけません よ。もしも、事実が、理論と合わないようなことになったらーーー理論は、すてるんですね。」 「まあ、いずれ、わかるでしよう。」と、わたしは、少し腹を立ててい 0 た。 ス 「そうですね、いずれ、わかるでしよう。」 ホアロは、二階の、自分の部屋に、わ 丿 1 ストウェイズ・コティジに着いた。 : わたしたちは、 たしを通した。かれは、自分が折々吸っている、小さなロシア煙草を一本、わたしにすすめた。 わたしは、かれが、使ったマッチを、おそろしく注意深く小さな陶器の壺に片づけるのに気がっ いて面白かった。わたしのさっきのいやな気分は、たちまち消えてしまった。 ボアロは、村の通りを見おろす開けはなった窓の前に、二人の椅子を据えた。新鮮な空気が、 暖く、気持よく流れこんで来た。暑くなりそうな日だった。

8. スタイルズ荘の怪事件

ちがいないーーー起こそうとしていた。 一分か二分で、ジョンはもどって来た。 「だめだ。やつばり閂がかか 0 ている。ドアを破ってはいらなくちゃ。このドアの方が廊下のよ ーしくらカ号いたろう。」 わたしたちは力を合わせて、ドアにぶつか 0 た。ドアのかまちはが 0 しりしていて、長いこと、 わたしたちの努力をはねつけた。が、ついに、わたしたちの力にまけたのが感しられ、とうとう、 めりめりと響きわたる音を立てて、ドアは、ばっと開いた。 わたしたちは、なたれを打ってころげ込んだ。ローレンスは、まだ燻燭を持っていた。イング 6 ルソープ夫人は、べッドに横たわっていたが、全身が激しい痙攣におそわれていて、その拍子に 、こ。しかし、わたしたちが飛び込むと、か ズ倒したと見えて、そばのテープルが引っくり返ってしオ イの女の手足はぐったりとなって、枕の上へ仰向けに倒れた。 ス ジョンは、大股に部屋を横切って、ガス灯をともした。女中の一人のアニーの方を向いて、階 下へ行 0 て、食堂からプランディを取 0 て米いといいつけた。それから、わたしが廊下へのドア の閂をはずしている間に、かれは、母親のそばへ飛んで行った。 わたしは、ローレンスの方を向いて、これ以上、わたしがいる必要もないようだから、さがっ た方がいいだろうねといい出そうとしたが、言葉が唇に凍りついて出なかった。あんな恐ろしい 表情は、それまでどの人間の顔にも、一度も見たこともなかった。チョークのように蒼白で、ぶ るぶる顫える手に持った燭は、ぼたぼたと絨毯の上にをたらしていた。そして、その眼は、

9. スタイルズ荘の怪事件

「そして、とても立派な理由もね。」と、ボアロはこたえた。「長い間、非常に意味深長な事実を思 い出すまでは、その二つの理山が、わたしには邪魔物てした。というのは、かの女とアルフレッ 、とこ同士たという事実です。かの女は、独りでは犯行は犯せなかった ド・イングルソープがし でしようが、だからといって、共犯たということまで否定する理由はないんです。それに、そこ へ持 0 て米て、かの女のちょ 0 と度が過ぎるくらいの憎み方という事実に思いついたんですー あれは、非常に正反対の感情を秘めていたのです。疑いもなく、かれがスタイルズへ来るずっと 前から、二人の間は強く結ばれていたんですね。二人は、前からこのひどい筋書を練っていたん 事ですねーーっまり、かれが、この、金は持 0 ているが、少々お目出たい老婦人と結婚して、かの 女の財産を、かれに残すような遺言状を作るように仕向ける。それから、非常にうまく仕組んだ 犯罪で目的を達する。もし、計画通りにうまく行 0 たら、二人はイギリスを離れて、哀れな犠牲 わ者の金で仲良く暮らしたことでしようね。 ス「あの二人は、とても狡猾な、不埓な一対ですよ。容疑がかれに向けられることにきまっていた んですから、かの女は、全然別の方向に導くために、ひそかに準備工作をする。あぶなそうな物 はみんなかの女が背負 0 てしま 0 て、ミドリンガムからや 0 て米る。疑いなどは全然、かの女に はかからない。かの女が家を出入りしたことなどには、全然、注意さえも払われない。ストリキ ニーネやコップは、かの女がジョンの部屋にかくす。つけひげは、屋根裏へとね。やがては当然 発見されることを、かの女は、ちゃんと見込んでいたんでしようね。」 「どうして、かれらがジョンに罪をなすりつけようとしたのか、わたしには、まるきりわかりま 309

10. スタイルズ荘の怪事件

「まあ ! 」と、ミス・ハワードは叫ぶようにいった。「あの男は悪党だって、わたしがいつもあな たにいわなかったとおっしやるんですか ? あの男が、べッドの中て、あの女を殺しますよって、 わたしがあなたにいつもいいませんでしたか ? わたしがいつも、あの男を毒のように憎んでい なかったっておっしやるんですか ? 」 「その通りです」と、ボアロはいった。「それこそ、わたしのささやかな考えを、すっかり証明し てくれますよ。」 . 件「ささやかな考えって、何ですの ? 」 「ミス・ハワード。 あなたは、わたしの友だちがここへ着いた日の会話をおぼえておいででしょ の かれがわたしに繰り返していってくれましたが、その中で、わたしに強い印象を与えた、 あなたの言葉があるんです。あなたは、もし犯罪が行われて、誰でもあなたの愛する人が殺され タたら、誰が犯人か、たとい、 はっきり証明することは出来なくても、直感でわかるとおっしやっ / たのをおぼえていらっしゃいますか ? 」 「ええ、そういったのをおぼえています。その通り、信じてもいます。あなたは、そんなこと愚 にもっかない考えだと思っていらっしやるんてしよう ? 」 「とんでもない。」 「それだのに、あなたは、アルフレッド・イングルソープに対するわたしの直感には、何の注意 もおはらいにならないんですね ? 」 「そうです」と、ボアロは、そっけなくいった。「というのは、あなたの直感は、イングルソ】ブ ひと