たよ。 ことだけは確信を持って言えます。 なんとも言えない、そう、自分自身が今やって もし、偶然の事故でない、 とするなら、信子は、 いる演劇の世界というか、いや違う、人間の執念 なにかを思い詰めて、トラックが来るのが分らな かったのです。常識的には考えられませんが、信の怖ろしさを、まざまざと感じたな。 六年前、僕は雀座で、信子さんと恋愛関係にあ 子には、少しヒステリックな点があって、一つの 思いに憑かれると、周囲のことが、眼に入らなくったんです、そうですか、山名さんはそんなこと まで、言ってるのですか。 なるような状態になることがあります。 信子さんとの間に、肉体関係はありません。て おそらく、明後日の公演のことが、今朝の櫛が 割れたことから、急に不安になり、気持が真空状も僕は真剣に信子さんを愛していたなあ。 あの美しく、華やかな雰囲気、雀座の男連中は、 態になったのではないでしようか。 みんな信子さんを理想像のように思っていた。 それとも : ( この時、山名恭助は、血走った眼を一点に据え、 僕は雀座では幹部だったし、当時は演劇の世界 黙りこんだ。老巡査が、あとを静かにうながすとこそ、僕の人生にとって最高のものだ、と純な青 : 山名は呻くように言った ) 春の情熱を燃やしていましたよ。今ですか、今は 堂本君が、信子の心に、ショックを与えるようまた別な考えも持っているが、そんなことはどう な、なにかを言ったのでしよう。 でも良いでしよう。 当時、僕は幸せだった、そりや生活は苦しく、 堂本の話。 無名だったけど、あの当時を振り返ると、今でも 山名さんから、信子さんの相手役になってくノスタルジアを感じますよ。 れ、という申し込みを受けた時は、実際驚きまし同じ座の裕福な家庭の美しい女優と恋愛し、劇 163
ぎしましたよ」 たような感じであった。同じ村から来ているので 「係りの女中さんは、何という方 ? 」 はないか。加奈子は富子にも千円渡した。 「富子さんでした、富子がいい出したんですよ、 「お客さんは東京の方ですね、やはりモデルさん くス世界やいうて、若い女はなんでもよう知ってですか ? 」 ますわ」 と富子はいった。そして羽鳥葉子が、ミス世界 暇な時来て貰ってくれないか、といって加奈子に入選した女であることを、自分が一番先に発見 は干円を鼻紙に包んで渡した。女中は驚いて、幾したのだ、といった。勿論、宿帳は偽名であった。 度も大げさな身振りで遠慮したが、加奈子が膝のでも、今でも富子のいうことを信じない女中がい 上に置くと、直ぐにも富子を呼んで来る、といつる。それが富子には、くやしい様子であった。だ た。白浜から少し離れており、ウィークデーなの から、加奈子によってそれが証明されれば、明日 で、旅館は暇なようであった。それでも、土、日はその女中の鼻をあかすことが出来る、と嬉しそ は予約しなければ泊れない、という話であった。 「あとで良いのですよ」 無ロでないのが、加奈子には大助りであった。 と加奈子はいった。富子が来たのは、九時頃で「実はね、一緒に泊った男の人、私の兄なの」 あった。秋の虫の声が驚く程良く聞える。窓から と加奈子はいった。富子は眼を見張った。 は、ひなびた温泉街の灯が眼下に見える。遠く波「ここから帰って間もなく、兄は家出したんだけ の音も聞えるようだった。 ど、行方がまだ分らないの、羽鳥さんとの間にな 宿のゆかたでくつろいだ加奈子は、廊下の椅子にかあったようなのよ、ねえ、あなた係りの女中 で、富子と向かいあった。丸顔の色の黒い、眼のさんだったんでしよ、なにか、変ったような感じ くりくりした女中である。さっきの女中を若くしを受けなかったかしら」
リュームがそこにあった。 や、ゆて卵の殻が散らかっている。が、仙子は平 加奈子がおとすれたのは、午後二時だったが、気のようであ「た。 仙子は漸く起きたばかりのようだった。 いかにも州本の愛人らしかったが、こんな女が 加奈子のノックに応えたように、ドアが開いたベストテンなのか。 時、加奈子は思わず、ぎよ「として、後ろに下「「へえ、あんたが吉次にいかれたんだ「て、驚き た。男が出て来たからだ。加奈子が息を呑んだのね」 は、その男の感じが、余りにも州本に似ていたか 加奈子は思わす赤くなった。こんな世界の女の らだった。 気持は、加奈子にはさつばり分らない。 勿論顔は別人である。男はじろじろ加奈子を見「で、一体、話「てなんなの、私はあの男が死ん た。なめ廻すような眼付だった。年は州本より若でほ「としているのよ、一時はショックだ「たけ く、二十七、八、。 どね、まさかなぐさめ合いに来たんじゃないんで 「おい仙ちゃん、お綺麗なお客さんだぜ」 しよ」 立ち竦んでいる加奈子に手をあげて、男は出て ぶつきら棒な話し方だが、別に怒っている様子 行った。 もない。根は良い女なのかもしれない、と加奈子 仙子は、赤く染めた髪を掻きながら、加奈子をは思った。 部屋の中に入れた。加奈子は思わず、眼をそむけ「ええ、未練だとか、恨みだとか、そんなことで た。乱れた布団が敷かれたままであった。枕元の来たんじゃないんです、仙子さんも御存知だ「た 灰皿には、吸殻が山盛りになっている。 と思いますが、あの人は人の弱点をんで、ゆす 加奈子は隣の部屋に通された。キッチンルームることを仕事にしていたようですわね」 だが、テープルの上には、かじりかけのトースト 「それしか出来ない男だからねえ」
眼に会うかも分らなかった。 戸山は相変らず鼠のような顔であった。顔が変 紀子は、まだ泉を警戒していた。ドアに鍵を差らないのは当然だが、今夜の戸山は、一層貧相に 6 し入れた時、不意に紀子の傍に人の気配がした。 見えた。 紀子はぎよっとして顔をあげた。戸山が傍に立っ 五十万手に入れたのだ。今までの貯金と合わす ていたのだ。 と百万になる 。バーはやれなくても、小さなスタ 「まー、今時分、どうしたの」 ンドならなんとか開けそうであった。 と紀子はとがめた。 コールガールともおさらばだ。そう思うと、も 「会いたかった、それで入口で待っていたんだ、 う戸山のような男と肌を合わすなど、考えただけ 会いたカった」 でもぞっとした。人間の心理とは妙なものである。 紀子は舌打したい思いだった。戸山の言葉をテ商売意識がなくなると、こんなにも変るものか。 ープに取るためとは言え、戸山にア。ハートを教え 「会いたカオ 、つこ。全然電話もして来ないし、心配 たのは、まずかったようだ。 していた」 と戸山はなめるように紀子を見た。明日にでも それにしても、泉は戸山に紀子の正体を喋って いないのか。常識から考えて、録音の件を話し、 アバートを変らなくっちゃ、と紀子は思った。戸 紀子に注意するように、と告げねばならない筈で山はとも角、泉にこのアパートを知られているの あった。 は危険だった。電話番号を知っているのだから、 が、薄闇の中で眼を光らせ紀子を喰い入るよう住所を探り出すのは、た易いことであった。 に見詰めている戸山から、そんな様子は窺えなか「いそがしかったのよ」 っこ 0 と紀子は言って、バスの栓を捻った。もう欲し 紀子は仕方なく、戸山を室内に入れた。 いものは手に入れたし、戸山に身分を圜しておく
聞後オ ち し も になそ い て し、 泉けはけ北た客そ取教な の北 ね紀子 ど な る の 建は、 し 、野でなれ と関 野いカ、 た子は んん も , 几良め では係は は し 。は眼 のだす ら の 、た つるれそ関 コそを よ 冫こ な ハと フ絶 、た積んん係ら 式 十に の熱 じ あ - へ糸吉 が若歳なみ ら り の し な ル夜 る ユヾ 社 果で た を な草 のおや 。ガ 、ば と つの が掛頃 、はあ 会最 て客こ ー若く じ な に と 力、 場直る 、けお いな聞 ル草光 つを 〕丘し、 さ の と 。話 紀て見んや た始また紹 く ク ) に は分電 子み限に 。介若 で てん 。め ろ のせ っ話万 九 り 聞 た旅 な いや 者草万北オ はた 条たを い なし、 の館 で 会は野 ね る で 。掛 、お は だを な のた の り ま客 あ け よ 。経 の晴 しナ れ身 名冫 そ営 し の る て に さ か イ主 社 元簿泉 . ね な の し 会所 点 て 女、 の の を の 名 り 成わ を確持住 を は 暴お 績 外絶 カり 世 実 っ所 泉 を 落良 し対 団 話なてを 戸 紀れも と川木カ め たてな っ に ーコ っそて会 山一 いだ課課 戸子なかたね 、翌 は ん夜 の 山 いらだが都に の調日 た つは は の だ会途日 く て共 を . 。ぶ問な合違証方方査カ い端紀こ 糸己 み犯利れ っ題く 良 い拠はははら ろ 、た 、子と で用 て子かは なかなを少課遅紀 る い自れ あ す ゆ し 長々子 い戸はは っかあ . る ん 、山 な身ばす 、必 、と っげも と る 0 オこ る は 戸 一要 と 色 に 。方かが 。たら記係 し数 は 山でし紀 っ危ど方 せ 挙 。れ事 去 長 て種 に 々 にあた子は た く き ん法 〕隹の げでるがな 。はな こ込電る 。な ら も どま新 な よ で の 。事 ん話 る策あ 色、 ら調な聞 て と っ れ く し 件々だ 。略 は で てそな オよ っ いを べ れそ喋 ろ 泉を へいら模取 の考 た た し ク ) ま方ま 言羊 。れ様り る え ク ) のろ つ な時た紀 えがな利てで眼 したカ つ つ 。子 ば紀こ い末 っ いあを ロ で 内一カ 、子と な るか な つ通 す 容応 眼か り には泉がた な ゆ し 戸泉 を も を ま すと し の と 知山と か ってこ河土 . る
があった。考えられないことだが、もし君子殺し られる意志ではなかった。自分が選んだ運命を、 自分の理想通り開花させるためには、手で抗ぎ取の犯人が玉枝だとすると、玉枝は無理心中しかけ かねない怖れがあった。彼はそこまで考えたのだ。 ろうとしても離れない、この蛭を殺害する以外、 国本はノイローゼにかかっているのか。 道はないと思ったのだ。 国本は大学時代の友人が私立探偵所を開いてい 考えてみれば、国本の心理の動きは奇態であっ るのを思い出した。彼は一計を案じた。 た。あの時、君子の死を警察にさえ告げておけば、 たとえ一時疑われることがあっても、国本が犯人その日の昼、浜寺の国本の家に、刑事が訪れた。 と断定される可能性はまずなかった。が、わずら刑事は色の白い眼付の鋭い男であった。 わしさと社会や妻の眼を怖れたばかりに、殺人と玉枝は警察手帳を見せてくれ、といった。刑事 は黒皮の手帳をちょっと見せ、すぐ懐にしまった。 いう大罪を犯そうとする。一見矛盾に見えるが、 国本にとっては矛盾ではなかった。何故なら、彼玉枝は警察手帳なるものを見たことがない。玉 は自己の良心よりも、社会ばかり見詰めて、生き枝はもっとはっきり見せてくれ、ということが出 て来た男だからである。 来なかった。 「奥さんは、先日殺害された、西条君子さんをご 存知ですな」「そんな人知りません」「知らない その前に国本は、玉枝に対する疑惑をどうして筈はないでしよう、 0 百貨店の宣伝部にいた西条 も晴らしてしまいたかった。考えてみれば玉枝のです」「私がどうして知っているのですか ? 」「警 言動には数々の疑惑があった。まさか警察に投書察ではもう調べがついているのですよ、奥さんは したのが玉枝とは思えないが、国本と君子との関西条が殺害された前日、西条のアパートに行きま 係を知っていたかどうかは、ぜひ知っておく必要したね、どうしてですか ? 」 1 4 7
「僕は、あの夜の夢を、もう一度味わいたいだけると思うと、死んだ方がましのような気がする。 ですよ、それだけですよ、奥さん : : : 」 長い時間がかかり、飽くことのない欲望を満た 8 「一度だけじゃないわ、二度も三度も引張り出すすと、男は満足気な顔で煙草を吸った。 わ」 加奈子が青い顔でべッドから下りた。スリップ 加奈子は呟くようにいった。女であることの佗を着た時、男が思い出したようにいった。 しい声であった。男は微笑した。そしていった。 「奥さん、あんたのような女を持って、青木さん 「将来のことは、将来のことにしましよう」 も、青木さんだな、という俺だって、長い付きあ その日加奈子は、代々木のホテルで、その男に いの女がいるが : 散々身体をもてあそばれた。男は加奈子の裸体の 加奈子は、きっとその男を見た。が、たとえ、 隅々を、まるで六十歳の老人のように、味わいっ夫の秘密に関することであっても、ものをいう気 くした。加奈子は恥辱と後悔とに、眼尻に涙を浮はしなかった。加奈子は服を着ると、一人でホテ かべながら、男のなすままにされた。 ルを出た。 「素晴らしいよ、見た眼には美しい身体でも味が 4 それ程でもない女がいるが、奥さんは特別だ、こ の吸いっき加減 : : : 」 電話のベルが隝るたびに加奈子は、どきっとし 男は先夜と打って変り、野卑な言葉を吐き散らた。このまま日を過せば、神経衰弱にかかりそう であった。 した。聞くまいとしても耳に入る。 ああ、もう嫌だ、なにもかも夫に告自して離婚青木が仕事で、また家を数日留守しているのが、 しよう、そう思う一方、でかでかと、低級な週刊せめてもの救いだった。 誌のトップに写真がのり、知人の嘲笑のたねにな その日、何気なく新聞を見た加奈子は思わす息
男は三十五、六か、五尺七寸程あるがっしりした 加奈子はテンプテーションのレコードを聞きな 身体で、顔が何処かジャン・マレーに似ている。 がら、白ハイを飲んだ。二杯めを注文した時、加 7 ジャン・マレーのファンで、最近マレーの映画が奈子は今、自分が一人であることを酷く感じた。 余り来ないのを不服に思「ていた加奈子は、事実隣の席の客が変「たのも気付かす、加奈子は、 どきっとした。 ぼんやりしていた。 男と女の関係なんて所詮つまらないところから「また会いましたね」 始まるようである。 と隣の客が話しかけた。さっきの男だった。っ 男が視線をそらし人込みに消えたので、加奈子けられた、と加奈子は思「た。それぐらい見抜く は直ぐ忘れた。新宿の街は賑やかだった。加奈子力はあった。 は、新宿は余り来たことがない。が、庶民的なこ 「私がここに入らず、そのまま帰ったら、あなた、 の街の喧噪は、何故か今宵の加奈子の気持をなぐどうする気だ「たの、家までつける積りだ「た ? 」 さめてくれそうだった。 と加奈子はいっこ。 取り澄ました人間、取り澄ました生活への反撥「またお会い出来る偶然を、ひたすらお待ちしま があったためかもしれない。 すね」 ふと感じの良いトリスパーが眼についたので、 女心を充分っかむだけ値打のあるせりふだっ 加奈子は人った。洋酒の味を覚えてから一年にな た。加奈子は、けだるい微笑を浮かべた。 る。店内は混んでいた。スタンドの奥があいてい男は余り話しかけなか「た。が、時々思い出し たので、腰をかけた。客たちは乗り出すようにし たように変ったことをいった。加奈子が聞いてい て視線を投げ、バ ーテンは愛想良くしながら、だようがいまいが、関心がないような話しかたであ いたんな眼付になった。 っこ 0
戸山は驚く代りにがつくり顔を落した。 必要もなかった。コ 1 ルガールだとはっきり言い、 「やつばりそうか、泉さんの言ったことは本当だ 戸山を帰すのが最良のようであった。 泉に頼まれて、接待したに過ぎない、と言ってったんだな、信じられなかった」 と言って戸山は唇をわなわなさせた。 やれば、この臆病な小役人は、吃驚して退散する 「じゃ紀子、この間わしが言った言葉をテープレ のではないか。 紀子はソフアに腰を下ろすと、小卓の上のウイコ 1 ダに取ったというのも本当なのか」 やはり泉は喋っていたようであった。 スキーをグラスに入れ、一息に呑んだ。 「ええ本当なの、泉のやっから、分け前をいただ 近頃酒量が上ったのが、自分でも分る。 こうと思ってね、驚いたでしよ、私はそんな女な 「戸山さん、坐りなさいよ、立ってないで」 戸山は先日のように、なんとなくそわそわしてのよ、分ったら、帰って」 いた。この小役人は、絶えず自分自身に臆病な眼と紀子は言って煙草に火をつけた。しなびた戸 山の顔が怒りと絶望に歪んだ。紀子は薄眼を開け、 を向けているようであった。 そんな戸山に、冷然と煙草の煙を吹きつけた。 「戸山さん、警察の方は大丈夫なんでしょ ? 」 「じゃ、あんたはを言うたわけだ、わしが好き 「それは大丈夫だよ、なんの証拠もないんだし」 と言って戸山はソフアに坐った。紀子はウイスになったというのも虚やったのか」 紀子がコ 1 ルガールであることを知っても、戸 キーをついでやった。 「ね、戸山さん、ほんというとね、私、泉の恋人山は紀子に執着しているようだった。紀子は一寸 でも、恩を受けたのでもないのよ、お金で身体を憐れに思ったが今更こんな男に同情しても始まら 売る商売女、貴方と泉の取引が旨くいくように傭ない。 「仕方ないわ、商売だもの」 われただけ」
一家の生活はどうやら父の給料でまかなえる状態知自身に取って、役に立つか立たないかも分る。 会社に取って利益になる客、将来自分に役に立ち % 美知は社会に出て成功しよう、という執念はあそうな客、そんな客には僅か数秒顔を合わしても ったが具体的な計画はない。社会を知らないのだ全神経を使った。 から無理はない。美知は給料は一銭も家に入れな匂うような微笑も忘れない。或る時、大阪の若 かった。凡て服装を整えることに費した。入社し手経営者で、ジャーナリズムにも登場している相 て直ぐ月賦てじゃんじゃん買った。貧相な服装を崎製薬の相崎社長が来たことがあった。相崎の顔 しておれば気持も貧相になり、それでは貧乏神がはグラビアなどで見て知っている。応接間に案内 したのは美知であった。 宿るだけである。美知はそんな信念を抱いてい 美知の眼がきらっと光った。相崎の靴先が少し 明朗で良く気がっき、そのくせもの静かで女ら汚れていたのが眼についたのである。 しさのある百点の秘書、美知はアバートの部屋の応接間には誰もいない。 壁にそんな文句を書き、出勤の時は十度読み返し「失礼します」 美知ははきはきした言葉で言って、ハンカチに 秘書課員は四人である。他に岡持という五十位くるんでいた靴磨の布を取り出し汚れを取った。 の秘書課長がいる。一月たつうちに、美知は先すすると相崎は意外にも渋い顔で、 岡持に気に入られた。 「ハンカチで靴を拭くなんて勿体ないですよ」 それから徐々に来客に気に入られるようにし「 いいえ、靴磨の布ですの」 た。社内事情に通じて来るにつれて、どんな客が 美知が見せると、相崎はしまったという表情で、 会社に取って利益か不利益かが分る。そして、美「こりや失礼しました」 こ 0