帰っ - みる会図書館


検索対象: 崩れた顔
262件見つかりました。

1. 崩れた顔

加奈子は、顔から血の気がなくなるのを、はって加奈子は帰りかけた。 っこ 0 きり感じた。意識の底で、おばろげに抱いていたすると、仙子が思い出したようにいオ 疑惑を、手損みで引張り出された、驚きであっ 「そうそう、写真といえば、何時だったか、アル ハムを置いていったことがあったわ、別に関係な 確かにそんな不安が、全くなかった、とはいえ いでしようけど、見てみる。忘れていたから警察 ないのだ。 には見せなかったけど : : : 」 「まあ、それは冗談だけどさ、私は今でもそう思 「ええ、拝見したいわー っているの、だから警察には、私の知っているこ 別にそれ程の期待もなしに、加奈子は拡げてみ とは、全部いったわ、あんたの男のことも、知っ た。アルバムといっても、画用紙帳に貼りつけた、 ておれば、喋っているかもしれないよ、名は、な だけのものであった。変てつもない写真ばかりで あった。バ んていうの」 ーの内部とか、ホテルに入ろうとする 「青木っていうの」 男女とか、喫茶店でお茶を飲んでいる風景だとか、 「青木、聞いたような気もするけど : : : 商売は ? 」わざわざアルバムにしなくても良いようなものば かりであった。 「写真作家なんですよ」 「写真作家というと、ああ、ストリップなんか写中程まで開けた時、加奈子は思わず視線をそら して、雑誌にのせる仕事だね、そんな人のことはせた。が、その写真は強力な磁力の如く、加奈子 聞いたことがないわ、だから警察へもいわなかつの眼を再びひきつけた。 たし : : : 」 八ッ切りのヌ 1 ド写真であった。バックは海で 森仙子はしきりに煙草の煙を吐いていたが、や水平線の彼方から朝日が昇ろうとしていた。女の がて、首を振った。加奈子は落胆した。礼をいっ たっているのは崖の上であった。写真の左の方の こ 0

2. 崩れた顔

「しいえ、大阪に見えます ? 」 「見えませんね、東北のような気がします」 「可愛いお嬢さんですな」 「当りましたわ : : : 新津の近くですの、新潟県の」「大きくなればどうなりますか : あっ、と思った。有形も自分の故郷は新津の近と恵子は答えたが、 くだ、と昔いったようである。二人は同じ故郷な「尾山には似ていないでしよう」 のか。それとも : まるで私の意図を察したようにいった。寒いも 「新津の近くなら僕も行ったことがありまのが私の背筋を走った。昔の白晳の有形と恵子の 顔を合せてみた。信じられない。しかしあの娘は、 「そうですか、川内村といって、今は村松町になその混合から生れたような可愛さであった。 っていますけど、美しいところです」 「奥さん、光陽殖産の代表者は有形さんです。御 「奥さん、詐取された株券が光陽殖産の手で、東存知なのですね」 京で売られたのを御存知ですか ? 」 「私には答えられません」 恵子はじっと私を見詰めた。私の意図を探ろう と恵子は答えた。 とでもするように、視線を当てたまま動かさない 「私は入社した時、奥さんをはさんで、御主人と この時、玄関が開き、子供が帰って来たようであ有形さんの葛藤を聞きました。皆は、奥さんが有 る。応接間のドアを開け、お母さん、といった。形さんと結婚されなかったのを、不思議に思って 小学校六年ぐらいの女の子である。眼が醒めるほ いましたよ」 ど可愛かった。 「そのような失礼な御質問にはお答え出来ませ 「お客様ですから、きょにおやつを貰いなさい」ん、お帰り下さい」 「はい」と子供は私に一寸頭を下げドアを閉め 恵子は石のような顔になって私にいった。 2

3. 崩れた顔

私は思い出して、恵子の一人娘が通っていた小 学校を訪れた。私の勘は当っていた。 光陽殖産が破産し、有形が姿をくらました記事尾山恵子は子供を連れて故郷に帰ったのであ る。 が新聞にのったのは一カ月後である。 その記事を見た時、私はさほどのショックを覚東京の本社に間い合せてても、有形の行方は えなかった。往年の清冽な気品をなくした有形と分からないようである。或る日、私は思い切って 会った時から、この日のあるのを予期していたた一週間の休を申し出た。 新聞社に入ってから、株屋時代とは反対に、私 めかもしれない。 有形は別人になっていたのだ。いや、往時の有は働き過ぎていたようである。 形にも、そんな面があったのかもしれない。邪悪飛行機で私は東京に行った。 を持たない人間は、あり得ないからである。一旅の気分を味わうには、飛行機よりも鉄道が良 体、有形は姿をくらまして何処に行っているのだ い。東京からは鉄道で行くことにした。私は地図 ろゝつ。 を拡げて新潟を探した。 私はそれと関連して、尾山夫人はどうしている 私は上越線に乗った。群馬県と新潟県の境にあ だろうか、と思った。 る清水峠の傍を通り、金物で有名な三条を過ぎ、 社宅は次の支店長に明け渡されている。ひょっ加茂から新津に到る、その間三時間。新津は早く としたら故郷に帰ったのではないか。 から石油で発達した町であるが、今は古びた鉄道 一度私は、恵子と有形の故郷という川内を訪ね都市としての名残りをとどめているに過ぎないよ てみたくなった。事件との関連もあったが、無性うである。 に旅に出たい気持であった。 この辺りは、新潟市から続く越後平野の一角て 247

4. 崩れた顔

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5. 崩れた顔

湯ぶねから出た。高村かモデルが、葉子のことを、ではない、と加奈子は思った。確かに社会から非 故意か偶然か、青木に告げたのではないか。 難は浴びるだろうが、今の世の中は、そのぐらい 2 それしか結論が出なかった。芸術的衝動によるのことで、男女を破滅させる程、厳しいものでは な。いや、場合によって、かえって名が出る、 写真か、嫉妬の不安によるものか。その解明は、 東京に戻り、高村かモデルに聞くことによりはっということも考えられる現代であった。加奈子が きりする。 田園調布のアパ 1 トに戻ったのは、夕方であった。 加奈子は直ぐ、東京に帰る決心をした。仏崎の丘の家々には、すでに灯がっき始めていた。昨日 景観を見る必要はなかった。どんなに美しく感動たって、今日戻ったのに、加奈子は長い間、東京 的な場所であっても、それは加奈子にとっては、 を離れていたような気がした。 すでに無縁のものであった。 でも青木が東北にたって、まだ三日めであった。 加奈子が帰る、というと女中は仰天した。 あと四日は帰って来ない。四日間の勝負だ、と加 今からでは、汽車がない、 という。仕方なく加奈子は思った。 奈子は、寝つかれない一夜を明かし、翌朝、白浜疲れていたが、加奈子は直ぐ、婦人日日に電話 から、また飛行機で伊丹、そして羽田へと戻った。 した。幸い高村は在社していた。 富子の話では、今一つ疑問があった。青木が、 加奈子は、この間の喫茶店で、高村と会った。 「そんなことをしたら、お互の破滅だぞ、学校を今日の高村は、明らかに警戒していた。うかつな 経営しても生徒が来ない」といった言葉である。 ことをいえば、とんだことになる。その思いが高 そんなこととは、どういうことなのか。二人が破村のロを重たくしていた。 滅する、というのは、どんな秘密があるのか。 「この春の仏崎の取材旅行ね、モデルさんの名前 他人の眼から隠された、二人の肉体関係のことのっていなかったけど、どなたですの ? 」

6. 崩れた顔

その夜、田口の家からの帰り、私と信子は初めルにすることは、私の誇りが許さなかったのです。 て、二人で自由カ丘の道を歩きました。 それに、信子が、私と結婚する、と言っている以 信子は、長い間、決心がっかなかった理由を、上、二人の関係をとやかく思うのは、損てした。 次のように語りました。 勝利は私のものだからです。 「私には愛する人がいましたの、同じ雀座の劇団「でも私にとっては、堂本さんとの関係よりも、 員で堂本という青年です。私の劇団の人は大抵昼俳優として、名を成す方が、ずっと大切だという はなにか職業を持っているのですけど、堂本さんことが分りました、昨日、堂本さんには、そのこ だけは、仕事を持たす演劇に専心しています。仕とをはっきり言いました : 一がない、と言っても、社会的な仕事がない、と激しい気性の女だ、と私は思いました。信子に いう意味で、アルバイトはやっていますわ、易者とっては、堂本との愛情を清算することも、私と さんなの、おかしいでしよう。私は、堂本さんの結婚することも、すべて俳優としての栄光のため なのです。 才能、情熱にひかれていました。でも誤解しない で下さい、結婚の約束もしてませんし、肉体的な おそらく、信子は私に愛情を感じたのではない 関係もありませんわ」 でしよう。でも私は、それは覚悟していました。 「信子さんの過去のことは、僕にとっては問題で結婚して、夫と二人、一つの仕事に打ち込んでお ありません、僕は、あなたが、僕と一緒になってれは、夫婦としての愛情が、必ず涌くと、私は信 くれる、ということだけで満足です、僕は必す、じていたからです。 あなたを大女優にしてみせますよ」 こうして、私と信子は結婚したわけです。 事実、私は堂本と信子との関係は余り気にとめ でも、信子の私に対する愛情を涌かせるために ませんでした、小劇団の無名の新劇青年をライバ は、どうしても、信子への約束を果すべく努力せ

7. 崩れた顔

後に二、三度激しく痙攣すると、そのまま動かな と紀子は冷たく言った。 くなった。 「じゃ返してくれ、わしがやった真珠返してく れ」 戸山は全身をわななかせながら、紀子の死ぬ様 紀子は肩をすくめて立ち上った。戸山らしいせを眺めていた。 りふだった。が、貰った真珠を返すことでこのわ「許してくれ、わしは泉に、秘密を握るお前を殺 ずらわしい男との関係のけりがつくのなら、安いせ、と言われた、わしは勿論断わった。泉は笑っ ものだった。 た。お前がわしを好いているなどとは真赤なだ、 紀子は立って、洋服篁笥の抽出しを開けた。宝お前はコールガールで、男に惚れるような女では 石類はその中に入れてあった。 ない、と言った。わしは信じられなかった。お前 戸山は慄える手で真珠を受け取った。顔にも血程美しく、気品のある女が、コールガールとは : の気がない。裏切られたショックが、余程大きか : が、お前は泉の言う通りつきの売女だった。 ったのか。紀子は気味悪くなり、ウイスキーをつお前の甘言に乗って、わしは大変な秘密を喋って ぐと、一息にあおった。 しまった、泉の言う通り、わしはお前を生かして 「悪いけど帰ってくれません、私一寸気分が悪いおくことは出来ないのだ、お前の口から秘密が洩 のよ」 れれば、わしの一生は目茶目茶だ、家には五人の 突然紀子は腹を押えた。内臓が引きち切れるよ家族がいる。娘には縁談の話がある、お前が、耳 うな激痛が胃から胸へと襲った。紀子は呻きなが飾りを探している間に、わしは泉から貰った薬を、 ら床に崩れた。美貌の顔を引吊らせ、えびのようウイスキーに入れたんだ」 に身体を丸め床を悶えながら転げた。が、まくれ ドアが開いた。泉が入って来た。自い手袋をは たスカートから飛び出た形の良い紀子の足は、最めていた。

8. 崩れた顔

ったんだな、その二つが崩れた時、尾山には立っ しかし、本当に貪欲な勝利者は恵子ではないか。 ている基盤がなくなったわけだ : トラックの上から、今はもうさだかではない二 その時、私は甘い香料の匂いを嗅いだ。何時の人の後ろ姿を眺めながら、私はそう思ったのであ 間にか黄昏は淡い闇に変っていた。仄白い恵子のる。 顔が、二人の後ろに浮いている。 家々に灯がっき、せせらぎの音が微かに耳に入 「あなた、トラックが帰るといっています」 恵子は、私を見ないでいった。私は立ち上った。 「有形さんは、ここで一生暮される積りです 「ああその積りだよ、私は昔、一人の無能力な社 員を、眺める楽しみのために試験に落さす社に入 れた、君も、この息苦しい世の中で、僕のような 男もおり、こんな仙境で余生を送るのを眺める楽 しみのために、二人のことは喋らす、そっとして おいてくれないか : : : 」 有形が差し出した手を私は握った。 有形と尾山の勝敗は、有形の勝利に終ったよう である。 2 5 3

9. 崩れた顔

かった。州本が布団を敷きっ放し、というのならめんどくさい程、疲れていた。加奈子は畳の上に 別だが、出入りの者の証言によって、それは否定横になった。 丿本とのことが青木に知れる、とい 8 されている。加奈子は今更のように、大変な事件うことは刑事の言葉を聞くまで、加奈子の脳裡に よ、つこ 0 の中に巻き込まれたのを感じた。 「傍にいたのが、男でも女でも、私には関係ない もし、夫の耳に入ったら、どうなるだろう。憎 み、怒るだろうか。家を出てくれ、というだろう わ、私は十時に帰って来ているのだから」 と加奈子よ、つこ。・、、 ーしオカその声は疲れ切ってい か。それとも悲しむだろうか。加奈子はなんとな た。事実、頭がもうろうとして、とんでもないこく、ものをいわない、冷たい青木の顔を思い浮か とをいいそうであった。 べた。軽蔑のあわれみを内部にたたえた : ・ 「今日はこれで失礼します、それからもし御都合 その時加奈子が何故、結婚して以来、夫にあや が良ければ、奥様のヘャビンを一つ、いただきたまったことのないことを思い出したのか、それは いのですが」 分らない。ただ加奈子は、この事件が青木の耳に 加奈子は黙って一つ抜いて渡した。へャビンに入ったなら、躊躇なく青木のもとを去ろう、と思 種類はあると思えなかったが、州本の布団のものった。その決心は、幾分か加奈子の気持を楽にし は、兎に角自分のものではない。 「私の方では、出来るだけ、御主人に知れないよ翌日も、翌々日も、畑輪はなんともいって来な うにしたいと思っていますが、ひょっとすると、 かった。加奈子は終日、部屋にこもっていた。何 警察に来ていただくようになるかもしれませんか時、警察の呼び出しがあるか、という不安と、州 ら」 本がほのめかした夫の秘密とはなにか、という思 畑輪が帰ったあと、加奈子は身体を動かすのが いが、時には冷たく、時には息苦しく、交互に加

10. 崩れた顔

「怠惰な、無為の日が続いた。 一年たち、二年た木さんが、本社の専務に栄転した直後、僕は、思 ち、三年たった、そんな或る日、支店が拡張され、 いもかけす、宣伝企画部長の辞令を受け取った、 本社から佐々木業務部長が、取締役支店長としてというわけだよ」 やって来たんだ、佐々木さんは僕を認めていてく 勝元は、喋り疲れたように声を落した。 れた人だ、歓迎会がもよおされた、僕たちは飲ん「香納子さん、君が気にしていることは、僕とし だ。その時佐々木さんが、ふと支店次長に酔いにては言いたくない、でも言わなければ、君の気持 紛れて、洩らした言葉を聞いたんだ、専務もっき がおさまらないだろうし : : : 」 子マダムと別れたようだよ、と佐々木さんは言っ香納子が頷くのを待って、勝元はのろのろと喋 た。神のお告げとは、このことだなあ、よし、頑り始めた。 張ってもう一度人生を立し直してやろう、と僕は「でも大阪に帰ってみると、どう考えても、つき その場で決心した。佐々木さんが、支店長で来た子が癪だった。この間言ったように、桂木君を憎 ことも、その会話を洩れ聞いたことも、僕にチャむ気持は毛頭なかった。ただ、君を失い、一時は ンスが廻って来たことなんだ、それからの僕は仕自殺まで考えた苦悩を僕に味わわせた虚つきの女 事の鬼だったよ、はっきり言って、僕が独身生活を、どうしても詰問せすにはいられなかった、僕 を続けたのは、君への愛情のためではない。男とは吉峯君を、その夜引っ張り出し、つき子のとこ いうものは、そんなことで、独身生活を送れるもろに案内しろ、と言った。吉峯君は、専務と別れ のじゃない、仕事の虫になるために、僕は結婚しると同時にバーを変えたらしいので、分らない、 なかったんだ。ここ五年、吾ながら良くやったよ、 と言うんだ」 東京支店の商い額が十倍以上になったのも、僕の「勝元さん、吉峯さんは、専務とっき子が別れた 力が半分はあるだろう、専務が社長になり、佐々ことを、あなたに知らせなかったのですね、あな