た。戻ってみると、義父はよだれを流していびきるような眼である。 をかいている。素人目にも絶望状態である。間も「透さん、お父さんはね、私の母を殺したのよ、 この写真の、偽善者の女てはないわ、気の弱い私 なく医者が来た。 絶対安静にするように、と言って注射をうち看の本当の母を殺したの、私の母は父の家の女中だ 護婦を置いて帰った。容態がおかしくなったら、 ったのよ、父が手をつけたの、そして妊娠してし そうは 直ぐ電話するように、と言う。 まった、今のように掻爬の出来ない時代の犠牲者 危篤状態なのである。 ね、母は新潟の田舎に帰されたわ、そして私を生 華代に電話しなければならない。亜代子は歩けんだ、難産だったらしい、私を生むと昔で言う血 る状態てはない。藪内が兎に角華代にだけでも知の道で亡くなったの、写真の母が来て私をこの家 らせようと立ち上がった時、玄関の戸が開いた。 に連れて来た。新潟の実家の者も、父も義母も、 酔いで眼の据わった華代が入って来た。 総て秘密を守ったわ、私は高校に入るまで秘密を 「義姉さん、良く来てくれました、お義父さん知らなかった、本当の子だと思っていた、ただ、 亜代子が生れてから、なんとなく私を見る眼と亜 華代はそんな藪内には見向きもせず、鼾をかい代子を見る眼とに、違いは感じていたの、もっと ている義父の枕元にべたんと坐った。 早く、私が本当の子ではない、と言ってくれたら、 華代はじっとそんな義父を眺めている。老 、こ私にはまだ救いがあったわ、表面はあくまで本当 義父の顔には、すでに死相が現われている。 の子供のように扱いながら、内心は私を憎んでい 「とうとうおしまいね、お父さんも : ・・ : 」 る義母、私はそういう偽善者を許せない、或る夜 と華代は低く呟いた。酔いに据わっている眼に私は、義母が父にこう言っているのを盗聞きし はなんの感情も現われていない。まるで物体を見 た。女中の子はやつばり性格がいやしいって、私
「この世の中で一番大切なのは、人の生命なんだ眼をむいて、ハンドルを切らず、身を伏せるよう ぜ、少々の金に眼がくらんで、人の生命と引き換にして、飛び込んで来たのを : えにするなよ」 もしかりに、自転車のプレーキがきかなんだと しても、自転車のハンドルを切る余裕は充分ある と何度も言い聞かせてるくらいだ。 丁度事故の起きた日は、家具屋から頼まれた荷んだ。気が狂ったのか。この事故は女の飛び込み 物を運んでいたんです、その中には篁笥もあった自殺だと、わしは言いたいんです。 し、スビードは出せつこありませんよ、自由カ丘あの場合、宮本武蔵だって、あの女をはねない の下の道で、舗装されていないし、四十キロぐらで、すますことは出来ませんよ。 いでした。はねた女が、男と一緒に自転車で坂道 ( この時、係りの老巡査が、穏やかにーー慌てて さんさろ ハンドルを切った時、良く山名信子さんが、眼を を下りて来たのは、わしが三叉路にかかる十メー むいておられたのが分ったね , ーーと尋ねている ) トルぐらい手前でした。 見通しは充分きくし、わしは当然女がとまるもわしは見たんだ、見えたんだよ、なんか言わ のと思って、そのままのスビードで、行き過ぎよん。この事故が、わしに責任あるようなら、自動 うと思ったんです、ところが、男の方は停ったの車の運転手は、道端て死んだ人間全部の責任を取 に、女はそのまま、わしの車の前に突っ込んで来らねばならん、そりや無茶だ。おまわりさん、わ たんでっさ。 しはトラックに乗っとるんです。衝突するのがタ わしは吃驚して、 ンクじゃあるまいし、わしが眼を閉じる法はな 「馬鹿 ! 」 と叫んで、夢中でプレーキをかけながら、ハン ( 山名信子さんは、自転車のハンドルを少しも、 ドルを廻した。わしは見ました。女がぎよろりときろうとはしなかったのかね ? ) 154
青木がバスをつかっている間、加奈子は妙な考を削減していた。 えにとらわれた。州本の死んだことを知って、青 が、青木は加奈子の抵抗を無視した。加奈子は 8 木が喜んでいるのではないか、と思ったのである。突然、代々木の恥辱の一夜を思い出した。 この思いは、加奈子を苛々させた。でも、今北海加奈子は青木を撥ね除けようとした。が、その 道から帰ったばかりだから、州本が死んだことは、時加奈子は、青木の行為が何時ものやり方と違う 知る筈がない。 のを感じた。結婚以来青木は、情熱的に加奈子を 北海道の新聞に、州本が殺されたことなど出る求めた場合でも、夫婦生活の行為には、習慣的な 筈はなかった。 段階があった。今夜、青木は全くの別人になった のだ。 「一緒に入らないか」 と青木がバスの中からいった。この時、加奈子青木は、長年連れ添う妻の身体を、見知らぬ女 は、今夜青木は、自分を求めるだろう、と思っこ。 オのように熟視した。何時か加奈子は抵抗を止め、 加奈子が、スタンドを消そうとすると、青木は青木のなすがままに従った。青木の情熱にとけ込 、や、全く反対であった。加奈 とめた。青木の眼は酔いのためだけでなく充血しんだのではない。 ていた。それは夫が妻を見る眼ではなく、おすが子の心は氷のように冷え切っていた。 めすを見る眼だった。青木が加奈子に、こんな眼 それは、青木の行為が、州本の行為と似ている を見せたことはなかった。 ことを感じた時からであった。 州本は青木に、加奈子を犯したことを喋ったの 「あなた、どうしたの ? 」と加奈子はいった。そ の声が合図のように、青木は加奈子のネグリジェではないか。青木と州本が、どんな関係にあるか を荒々しく取った。加奈子は、拒もうとした。青は知らない。でもあの蛇のようないやしい男なら、 木に対する得体の知れない疑惑が、加奈子の欲望喋らないとはいい切れない。しかも加奈子を犯し
黒木は微笑した。この少女が必死なのはよう分「手を放しなさい」 る。この頃の高校生は処女だと言「ても当てにな美知は被告が判決を聞くような思いで黒木の言 葉を待った。だが黒木は無言である。 どうやらこの少女は処女らしい らないが 美知はトイレを済ますとハンカチを使「た。何放さなく「ちゃ、そう思いながらも、手は硬直 もー糸たが、もし紙屑がついたりしてはいけなしたように動かない。長いように思えたが二、三 と思ったからである。画家のヌ 1 ドモデルが分であろうか。美知の視覚に、黒木の顔が次第に はっきり映って来た。ばけていた映像のビントが どういうものか美知には分らない。美知の決心が 悲壮過ぎる、と言「ては酷であろう。美知はセッ調節されるにつれては「きりして来るように、黒 クスには無経験だし、十七歳の高校生としての判木の白髪も皺も美知の視線の中で正確にとらえら れた。美知は黒木の眼を見た。女性の美を讃嘆す 断しか出来ない。 生れながらの肉体を未知の男の前にさらけ出する時、芸術家が美の対象をんだ時の喜びの表情 ことよりも、美知に取「て重大なのは、モデルにを、美知は年に似ない若い黒木の眼に発見したの 採用されることである。それは女学院出身の肩である。 黒木が言わないのに、美知の手が、肉体の陰影 書に連なる。 アトリエは芝生に面していた。幾重ものカーテから離れた。極く自然であった。 自分の美の価値を知った時、美知は男の眼を怖 ンによって採光が調節出来るようになっている。 くわ 黒木は椅子に腰を掛けパイプを銜えている。美知れなくなっていた。 はアトリエの隅で衣服を脱いだ。流石に身体が慄後年美知は広告業界で男を手玉に取ったが、そ えた。手で前を隠すようにしてアトリエの真中にれは黒木の眼から自信を得たとも言えよう。 週二回、土曜と日曜の午後、美知は黒木勝のア 立った。 259
「義姉さん」 服はバスルームの隅のみだれ籠に入っている。 「うるさいわね、帰って亜代子に言ったら良いわ、 藪内はさっさと浴衣を脱ぎ服を着た。 華代は部屋から出ない、流石に気になって覗い母とそっくりの、清潔ぶって取り澄ました亜代子 に、この頃は太り方まで母に似て来たじゃないの、 て見ると華代はだらしない恰好で酒を飲んでい る。髪は乱れ、藪内を見た眼には、冷酷な憎しみはっきり言うわ、私は亜代子は嫌いよ、憎んでい があった。この眼だ、法事の時に母の遺影を睨んるわ、向こうも同じこと、勿論、亜代子はその原 因を知らない、私が何故亜代子を憎んでいるか、 だのも、この眼である。 「義姉さん、僕は亜代子の夫ですよ、僕は確かに親父に聞けば良いわ」 義姉さんに或る愛情を抱いています。しかし、そ「お父さんに」 んな不倫な関係だけは、良心が許しません、亜代「そうよ、もうろくしてくたばりかけている親父 に、偽善者の男と、偽善者の女、私はそんな連中、 子の話では、義姉さんは昔、亜代子の恋人をとっ て直ぐ捨てたらしい、一体どうしたのですか、僕大嫌い」 には二人が本当の姉妹のようには思えない、二人「義姉さん、だって、僕を亜代子に : : : 」 「それは亜代子を憎んでいるからよ」 の間にどんな秘密があるんです」 華代は銚子を口に持って行くと、そのまま飲み突然華代は銚子を投げ出すと大声で笑い出し た。眼が蛇の舌のように赤く充血し、なんとも言 始めた。 えない凄まじい顔である。 「透さん、私に恥をかかしたのね」 藪内は逃げるように家を出た。 「恥だなんてそんな、義姉さんはどうかしている、 華代と亜代子の凄まじいまでの憎悪はなにか。 僕達は義理にもせよ姉弟ですよ」 あの温厚な父が、どんな秘密を知っているのか。 「帰って、もう良いわ」 206
あの時青木は、取材のために釜ヶ崎に行ってい向きあっていた。 「じゃ奥さん、州本のメモは総て事実ですね」 青木に対する黒い疑惑が、加奈子の胸に湧き上をいっても、どうにもならなかった。州本は って来た。長い間、私は、青木に完全にだまされホテルの名まで書いているのだ。日がたっていな ていたのではなかったか、と加奈子は思ったのだ。 い、ホテルの女中は、加奈子の顔を覚えている筈 そして、翌日の午後、加奈子は州本の死が、自であった。 分と州本との関係を断絶させていないことを、知「そのメモは何処に残っていたのですか ? 」 と加奈子は尋ねた。 らねばならなかった。 刑事がやって来たのである。三十四、五の沈ん「州本の洋服の内ポケットです」 と畑輪は答えた。そして自分の質間に対する加 だような顔をした刑事で、名は畑輪といった。 畑輪は、州本が残した手帳の中に、加奈子との奈子の答えをうながす眼付になった。 「はい、総て事実です、二度めは強迫されて行き 関係が詳しく書かれていたことを述べた。 州本は関係した女を、一人ずつ、その肉体的特ました」 徴とか、情事の有様などを書いていたのだ。畑輪畑輪は上眼使いに加奈子を見た。 は話している最中、時々伏眼になった。が、畑輪「どうしてあんな男の誘惑にのられたのですか、 の顔には同情はなかった。 御主人が御留守がちのためですか ? 」 薄汚れた背広の暗い感じのこの刑事は、華やか「そのことは、お答えする必要がないと思います」 な部屋の中に気品高くおさまっている加奈子の不といって加奈子は語をついだ。 「女の気持の中には、何故そんなことをしたのか、 貞を憎んでいるようだった。 加奈子はお茶も入れず、青い顔をして、畑輪と自分でも分析出来ない霧のようなものがあるので はたわ
ーしていつ、こ。続、 して商売意識がよみがえって来 紀子はのろのろ起き上ると、トイレに入り、 スにつかった。バスを出る時水を浴び、紀子はべ ッドに戻った。その時紀子の前にいるのは、最早 取引の済んだ一人の客にしか過ぎなかった。 横たわっていた男が低い声で命令した。 二回めのいとなみはすさまじかった。紀子は商「動くな、そこに立って ! 」 売を忘れ、歯を喰いしばって呻き、汗みどろになずしんと胸に響くような声であった。 って全身の筋肉を蠢動させた。紀子の爪は男の汗「なによ、えらそうに言って」 ですべりながら、たくましい男の背に喰い入った。 「ヌード料は別に払う」 男の盛り上った腕は、紀子の肋骨を折れる程締め男の眼が紀子の身体を凝視した。さっきの昂奮 つけ、紀子が喉を隝らすたびに淫語を喚き続けた。のかけらも残っていない氷のような眼であった。 紀子の昻奮は男の淫語の中に解け、男が力をいれ紀子はだらんと腕を下げて全裸で男の前に立っ るたびに、沸騰した。最後が来た時、紀子の眼の た。恥かしさはみじんもなかった。 前に灼熱の光りが走った。 楙紀子は二十三歳、コーを カールであった。身 掛け布団はべッドから落ち、枕はべッドの端に長は五尺三寸体重十四貫、そのかもしかのような 飛んでいた。 足と、個性的な彫刻のような顔は、日本人には珍 二人は暫く無言で息をはすませていた。 しい最新鋭の美人であった。 シーツの濡れた冷たい感触が、先ず紀子の炎を鼻梁は高く眼窩は窪んでいたが、双眸は美しか 夜の花が落ちた
きしていたものの、爆発であった。 「それは御存知の筈です」 「でも、私達のような夫婦は、世間にはざらにあ勝元は、香納子を見詰めたまま、ビールを飲ん る、と思うのです、こんなことが、柱木の失踪のだ。香納子は更に慄えた。香納子は勝元の眼の中 に、はっきり、復讐を感じたのだ。 理由になるとは、考えられませんの」 「それを、私に、言わせるおつもりなのですか ? 、 と香納子は流石に理性的になりながら結んだ。 「奥さん、僕は昔のことは、とうに忘れています」 勝元は、なにか考えるように聞いていたが、 「とすると、香納子さんに、全く心当りがないと香納子は唇を噛んで眼を伏せた。 「桂木は忘れていない、と思いますの」 いうわけですね」 この時、勝元の顔色が変った。 勝元が名前を言ったことに、香納子はこだわっ 「それはどういう意味です ? 桂木君がなにか言 た。まだ自分は桂木の妻なのだ、昔の友人であっ ても、そう呼ばれたくなかった。 ったのですか ? 」 いえ、でも桂木は案外神経質な男ですの、勝 これは、桂木に対する愛情からではない。香納「、 元さんが、自分の上役になって来られたら、それ 子は、勝元に、甘く見られたくはなかったのだ。 「いいえ、一つだけあります、それはあなたです」だけで参ると思います」 と言って、香納子はじっと勝元を見た。ところ「奥さん、桂木君は、そんな女々しい男でしよう が驚くか、意外に思うか、と思った勝元は反対にか、それに僕と奥さんの間はなんでもなかった、 番納子を凝視した。眼鏡の中の眼が熱つばく光っ熱をあげていたのは、僕一人だけだ、桂木君はな ええ、そうで にも、僕に気兼ねする必要はない、 たように香納子には思えた。香納子はふと身体の しよ、つ」 何処かが、慄えるのを覚えた。 そう言われてみると、呑納子はそれ以上、反撥 「どうして僕てすか ? 」
どす黒い玉枝の顔が、雨に打たれた後の靴の皮骨を持った身体、でつばった額の下の眼は細く、 のように硬直したのが、その男にもはっきり分っ低い鼻の両わきにはそばかすがあった。国本はな た。用事ー よひどく緊張した。 にか異常な思いで、玉枝の顔を見た。父をかさに 「私は西条なんて女の、アパートなどに、行った着て、十数年夫を尻に敷いて来たこの女に、夫の ことありません」 情婦のところにどなり込むような嫉妬の炎があっ それ以後、刑事がなにを質問しても、玉枝は一たのか。しかも玉枝は女子大を出ているのだ。 言も喋らなかった。 このエゴイズムな男は、 一重瞼の細い眼を光らし、唇が、驚くべきことに、 を慄わせながら睨みつけて来る玉枝に、刑事は、君子を殺したのが、玉枝であればよい、とふと思 しぶとい中に、強度のヒステリー性を見た。女性ったのだ。その時は大手を振って玉枝と別れるこ には往々、忍耐性とヒステリ ーの相反する性格をとが出来る、と国本は冷酷な眼付になった。 共有している者がいるが、玉枝はその一人のよう「玉枝、今日僕のところに刑事が来たよ」 であった。 玉枝はぎくっとしたように、持ちかけた茶碗を その夜国本が帰ると、玉枝はどことなく沈んで置いた。 いた。昼間の刑事の訪問が利いたな、と国本は思「君は西条が殺される前日、西条のアバートに行 った。もちろんそれは国本が私立探偵所に頼んでったらしいな、どうしてそんなことをしたんだ」 打った芝居である。刑事になりすました男は、 玉枝は無言であった。それは国本の質間を肯定 「奥さんはどうやら、西条って女のアバートを訪していた。 ねていらっしやるようですよ」と国本に告げた。 「隠していては大変なことになるよ、警察では証 国本と玉枝は、冷やかな冬の風を部屋の中に感拠を握っているんだ、隠していると君に、西条殺 じながら無言の食事をすませた。太い男のようなしの疑いがかかるよ、さあ、どうして西条のア。ハ
「君は、そのことを誰にも喋っていないね」 屈服させる道は : : : 国本の眼は異様に光った。国 「喋「ていません、でもあなたに対する愛情から本は青くふくれたようなしのぶの顔を見た。襟元 ではないのです。あなたを支配したいからてすわ、から見える肌はやはり青かったが、きめの細かさ 私は長い間、この時を待っていました。もし奥様は昔と同じものであった。国本はにじり寄った。 のお父さんが生きておられる時に、あなたが他のしのぶは国本の気持を感じ取ったのか、眼を据え 女と関係したとしたら、そのことであなたを支配て後ろに下った。国本が飛びかかると、しのぶは、 しようと思っていました。でも、もっとすばらし止めて、と叫んだ。香料の中に、微かだが、長い いものを私は握ったのです、私はあなたの殺人の間風呂に入っていないような異臭を、国本は嶼い 現場を見たのですから」 だ。彼は必死であった。彼は元来垢臭い拾い屋の しのぶの顔には生臭い微笑が浮いた。 女とも情事を遂行出来るような男であった。 「馬鹿な、僕が殺したんじゃないー 突然しのぶは、「誰か来て ! 」と悲鳴をあげた。 、国本はいくら叫んでも、無駄であることを大きな声であ「た。形式的な防禦ではない。しの 知「ていた。死亡時刻は、五時前後と発表されてぶは本気て国本を拒絶したのだ。国本は憎悪で眼 いる。国本はその時刻に君子の部屋に入り、君子が痛くなった。しのぶは壁によりかかり、息をは が殺害されている現場を見て、警察に知らせなかずませていた。 ったのだ。あの時知らせておけば : : : おのれの卑「部長さん、私は昔のしのぶではありませんよ」 怯な行為をいくら悔んでみても、もはや、後の祭としのぶはいった。国本は昔の女の顔の中に、復 であった。しのぶは今、国本に愛情がない、とい讐の匂いを嗅いだ。 と田 5 っこ。 った。しかし、このような女の執念は、国本に対 この時国本は、しのぶを殺したい、 する愛情の裏返しではないか。しのぶのロを封じ、