行っ - みる会図書館


検索対象: 巨大な墓標〔上〕
218件見つかりました。

1. 巨大な墓標〔上〕

「河内商事なら一番深い関係だ、おたくはどうして手を引いたんですか、おたくが、もっとめ んどうを見てくれたら、こんなことにはならなかったのに」 まるで千野木が悪者のようなことをいうのだった。 「うちも被害者なんですよ」 と千野木はむっとして答えた。 「被害者は被害者でも、おたくなどびくともしないじゃないですか、うちはね、従業員数人の しがない工務店だ、ここから金が入らなければ、潰れてしまうかもしれない」 「お気の毒だと思います、しかし私も債権者の一人としてここに来ているんですよ : ・ 千野木は語調を強めた。 この状態では、長くここにいるべきではない、と千野木は思った。頭に血が昇った債権者達は、 河内商事を自分達と同じ債権者とは思わず、松村建設の仲間と見るかもしれない。 「盛沢さん、僕はもう少し後から来てみます」 千野木は喫茶店にでも行ってお茶でも飲んで来よう、と思った。 この分では、夕方まで混乱したままだろう。松村の行方が分らないのに、債権者達は帰る様子 ・、よ、つこ 0 千野木は人を掻き分けて外に出た。 「あの失礼ですが、河内商事さんの方ですか」 振り返ると傍にいた女だった。

2. 巨大な墓標〔上〕

128 アリーに、加納や真由美を連れて行く気にはなれなかった・ 「相村君、君もお伴したら」 と加納が真由美にいった。 「それは野暮というものだわ」 と真由美は笑った。 戸口まで送ろうとする加納を押しとどめて、千野木はマリモを出た。 千野木が御堂筋の方に歩いて行くと、 「千野木さん、待って」 真由美の声がした。 真由美は小走りに追いつくと、千野木と肩を並べた。 「千野木さんが行く店って新地でしよう、私もアコに行くわ」 と真由美はいった。 この時、千野木は、加納と真由美の間に了解がついたのを感じた。 千野木を使おうとする会社の名前を教えることについて : ・ ライバル会社 「アリーに行くんでしよ」

3. 巨大な墓標〔上〕

「良いとも、家にでも来給え」 と待塚はいった。 0 会館の前で、千野木は待塚と別れた。 内田と親しかった男が、追い出した大池の庇護を受けている。 これはどういうことだろう。 ようや 御堂筋は漸く暮れようとしていた。 ・ヒルの窓々には灯がともり始めていた。 ひょっとすると唐津は、内田の退陣劇に一役買ったのではないか。 とすると唐津は内田を裏切ったことになる。唐津のような男なら、当然考えられるケースだっ 内田前社長が退陣した時に、重役で退陣したのは、長谷川取締役一人だけだった。後の重役は 全部大池についたのだった。 長谷川は、今どうしているだろうか。 標長谷川にも会わなければならなかった。千野木は地下鉄の駅の方に歩いて行った。 が、ふと思い直してタクシーに乗った。 マンではないのだ。タクシー代位にびくびくする必要はない。 巨もうサラリー ホテルに行くと、玄関前に警官が立っていた。 何処かの国の王様でも来たのではないか。 こ 0 ひご

4. 巨大な墓標〔上〕

千野木は一度行ったことのあるホテルの前にタクシ 1 を停めた。 ドアを押して中に入ると案内もこわないのに女中が現われた。 じゅうたん 赤い絨毯を敷いた長い廊下を歩き、階段を上った。一体、何部屋あるだろう。大きなホテルだ 二人が案内された部屋は二間あった。 さえぎ べッドルームとは厚いカーテンで遮られていた。千野木と真由美がソフアに腰を下ろすと、女 中が泊り料金を請求した。 三千五百円だった。一般のホテルに比べると安いようだが、昼から客が使用するので、大変な 儲けだった。千野木は七千円持っていた。 ホテル代まで真由美に払わすわけにはゆかない。 「二時間ほどしたら帰る」 と千野木は女中にいった。 「はあ、でも今からならお泊り料金をいただきます」 上 と女中は無表情に答えた。 千野木は二百円チッ。フを渡した。女中の表情が少し柔ぎ、お風呂を入れときましようか、とい 巨った。千野木は頷いた。 女中が去り二人は黙って顔を見合った。 千野木は真由美を欲してはいたが、まだそのムードにはなっていなかった。 うなず

5. 巨大な墓標〔上〕

234 「ほう、矢張りね、ああいう機械を扱うのは、やくざかい ? 」 「私のところにいって来たのは、若い女性だったわ、大学生だけどアル・ハイトでやっているん ですって」 「女子大生がね、驚いたな」 「そういう女性の方が、店だって安心するんじゃない ? 」 「そうかもしれないな、もし女子大生を使っているとすると、なかなか知能犯だな、儲けはど うなるんだい、置いた店の方も幾らか儲かるんだろう」 「ええ、四分六といっていたわ、お店の方が四分貰えるのね、客の入るお店だと、月に十万位 になるらしいわ、でもあの機械、法律で禁止されているんでしよう、お金にはかえられないでし 「案外、出廻っているね」 にく 「警察だって取締り難いんじゃないの、だって知らない人が来て置いて行くんだもの、機械を 置いて行った人が集金に来るまで、張り込んでいるわけにもゆかないでしよう、警察も人手不足 なのよ」 「そんなものかな」 と千野木は苦笑した。 しかし一台で月に十万になるとすると大変なものである。何台出廻っているのか知らないが、 はず 大儲けしている人間がいる筈だった。

6. 巨大な墓標〔上〕

「三百万だよ、そんな金で人間を売れるか ! 」 「他の重役は皆、受け取ったんでしようか」 「そりやそうだよ」 「唐津はどうして、内田さんの傷口を知ったんでしよう」 「それは、僕も知らない、社内で知っていたものがいるとすると、石上だね、しかし石上が外 部の人間に洩らす筈はないからね」 石上は取締役経理部長だった。 大池の子分であった。石上から大池、岡田に洩れ、唐津に伝わったのではないか。 唐津がそれを武器に他の重役達に迫った。 そう考えるのが妥当かもしれない。 「おかみさん、今からアンナに行くそ、千野木君の分も、僕の方につけておいてくれ給え」 「結構ですよ」 「構わないよ、僕だって今は、小さいが一国一城の主だ、さあ、千野木君行こう」 「かおりさんによろしく」 と圭子は長谷川にいった。 長谷川はこの時、かおりが内田の女だった、と千野木に告げた。 その時圭子の眼が光ったようだ。千野木は噂では聞いていたが、長谷川の言葉で事実を知った。 だから圭子は、かおりには良い感情を抱いていないのかもしれない。

7. 巨大な墓標〔上〕

確か一年近い前、松村と一緒にアリーで飲んでいた男だった。 その日は千野木は一人でアリーに行ったのだ。 松村とその男がいた。千野木が松村の席に行くと、松村が千野木にその男のことを紹介した。 からっ 「唐津さんです、会社のことで、色々めんどうをみて貰っている人ですわ」 と松村はいって、千野木を河内商事の課長だと紹介したのだった。 千野木は名刺を出したが、唐津は出さなかった。簡単に会釈しただけであった。 席が別なので千野木は直ぐ別れたが、余り良い感じを持たなかった。 色が黒く、表情のない男だった。もしそれだけなら、千野木は忘れていただろう。 だがそれから数日して、千野木は思い掛けず、唐津という男が、岡田と一緒に社から出て行く のを見たのだった。社の前には車が待っていた。 すると岡田は唐津を先に車に乗せたのだった。 ごうまん 岡田は傲慢な男だった。そんな岡田が丁重な態度を取るのは、岡田にとって大切な人物に違い よ、つこ 0 十ノ、刀ュ / 松村が千野木を紹介した時に、唐津が軽く会釈をしたのは、唐津が河内商事の幹部と親しいの で、千野木のような課長など、問題にしなかったのかもしれない。 後日千野木は、松村に唐津について尋ねた。 「昔から、私が世話になっている人です、えらい顔の広い人でしてね、おたくの社長さんとも 親しいですわー

8. 巨大な墓標〔上〕

外に出ると加江子が追いかけて来た。 「岡田は僕がいたこと、知っていたかい ? 」 、え、でもママが席についたから、話すかもしれないわ、店に飲みにくる位、構わないじ ゃないの、何か具合の悪いことでもあるの、おかしいわね」 「少しね、岡田は僕に、松村のことはロにするなと、しつこくいったんだ : : : 」 「どうしてかしら」 「秘密でもあるんだろう、ママは喋るだろうな、まあ仕方ないよ」 じちょう 千野木は自嘲気味にいった。 もし岡田が、千野木と芽久美の会話を知ったら怒るに違いなかった。明日は相当説教されるか もしれない、 と千野木は思った。 「何だか心配だわ」 「君は心配しなくても良いよ」 まっす 「今日は真直ぐ帰るの ? 」 「その積りだ」 標 真由美と会うことは喋る必要もないだろう。千野木は、加江子と別れて新地本通りの方に歩い 巨て行った。手帳を出し、真由美に教えられた店に電話した。女の声で、アコです、といった。 千野木は相村真由美が来ていないか、尋ねた。真由美はいなかったが、伝言があった。 千野木に、アコの店で待っていて欲しい、というのだ。場所を聞いて千野木はアコに行った。

9. 巨大な墓標〔上〕

250 と唐津が誘った。 「折角ですけど、飲み過ぎて頭が痛いんです、もう帰ります」 と千野木は顔をしかめた。 翌日千野木は真由美の電話で起された。 「昨夜は旨くいったわね : : : 」 「大丈夫だったかい、疑われなかった ? 」 「大丈夫よ、私ね、ひょっとしたら唐津と会わないかと思って、あなたを連れて行ったのよ、 私、昨夜色々と考えたんだけど、あなたが、松村建設の倒産に不審を抱いて、その原因を調べて にお いる、ということを、唐津に、私の口から匂わしておいた方が良いんじゃないか、と思った 「じゃ、どういうことになるんだい ? 」 「そうすればね、唐津はきっと、私にあなたがどういう行動をしているか、調べろ、というに 違いないと思うの、そしたら、私とあなたが会っていても不思議はないし、唐津は私を信用する 千野木は、自分だけが危険な立場におかれそうな気がした。 何だか、真由美だけが安全な場に立とうとしているように思えた。 真由美は千野木の感情を読んだらしく、

10. 巨大な墓標〔上〕

と真由美はいった。 きゅうかく 「良く分るね、君は大変な嗅覚を持っている、情報屋にびったりだよ」 と千野木は答えた。 「それは皮肉のようね。でもあなたがそんな皮肉をおっしやりたい気持、良く分るわ、ね、ま だ時間があるでしよ、一寸散歩しない」 と真由美が誘った。 御堂筋に出た。渡れば新地の ' ハ 1 街だった。 「散歩か」 きらめ 千野木は立ち停って空を柳いだ。徴かに星が煌いていた。だが、千野木が少年時代に眺めたよ うな美しい星は、最早大阪の夜の空には見られない。 「中之島公園にでも行ってみましようよ」 左に行けば中之島だった。 「そうだな」と千野木は答えた。 標二人は堂ビルの前を通り大江橋を渡った。市役所と川の間の道を東へ歩いた。 れんが 川の上を高速道路が通っている。川の向うは赤煉瓦の裁判所で、その隣の病院は売り払われて 大 はいきょ 巨廃墟のようになっていた。 四夜の散策には、良い季節であった。間もなく右手に図書館が見えた。その先が中央公会堂であ る。 もはや