高木彬光 - みる会図書館


検索対象: 巨大な墓標〔下〕
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1. 巨大な墓標〔下〕

で、妻も子供もないわけ、 しいえ、二号の子供がいたわけ、持主は子供を認知していたのよ、そ の子供というのが北海道に住んでいてね、まだ高校生なのよ、それで相続税を払うために、土地 を売らなければならなくなったんだけど、その二号と、不動産屋が出来ていたのね、不動産屋が 悪いやつで、権利証や委任状など、全部偽造し、結局、武野井商事の手形を受け取ると、どろん したというの、つまり、武野井商事は、不動産屋にだまされたわけよ」 「武野井商事ともあろうものがね」 「良くあることよ、ところが、その不動産屋を紹介したのが松村よ、そのために松村は、武野 井の下請を解かれ、総務部長は責任を取ったのよ、武野井商事が、そんな不動産屋にだまされた なんて恥でしよ、だから内々で処理したらしいの」 「待ってくれ、それ位のことだったら、当然、笠原氏も知っている筈じゃないか」 「企画部長になってから、知ったんじゃないかしら、あなたは笠原さんは知らない、と思わさ れているけど、当然知っているわ」 「しかし、その程度じゃ、大河内専務のウィークポイントにはならないね」 下 標「総務部長は大河内さんの子分だったの」 な「笠原氏が、今更そんなことをほじくり返して、ママとの取引に反対している大河内を納得さ 巨 せたとは思わない、もっと隠れた真相があるような気がするねー いえ、私が知ったのはそれだけよ、それと、大河内さんが納得したのは、私が岡田常務の サイドワークの会社のことを知らせて、河内商事の吸収合併の糸口を与えたからよ、大河内専務

2. 巨大な墓標〔下〕

「はっきりいわなかった、だから、匂わした、といっているんだ、芽久美という女は、昔、商 社と契約していた、といったね、つまり商社の取引先と寝た女だ、そうだろう、その商社は河内 商事だろう」 「あなたの想像にまかせるわ」 「しかし、芽久美は、ホステスとして頭角をあらわし、君の店の一つのママ代理になった、そ の頃、東川と親しかったんだろうけど、芽久美のもう一人の男というのは、思い掛けない人物だ ったよ」 千野木はそういいながら、斎藤千世の眼を見た。 斎藤千世は少し伏眼になって肉を箸ではさんでいる。 だれ 「誰なの ? 」 「君は知っている筈だ」 「私は知らないわよ、店の女の子の私生活を全部知るわけ、ないじゃないの」 「だって、岡田とかおりの関係までスパイを入れて探らしている君だ、知らない筈はない」 「本当に知らないわ、誰 ? 」 「君が武野井商事の手形パクリ事件の真相を話してくれたら、教えるよ」 「今度は、あなたの方が条件を持ち出して来たわけね、芽久美のもう一人の男が誰であろうと、 私には関心がないけど、あの手形事件は、そんなにたいした問題じゃないの、或る不動産会社が 武野井商事に土地を買わないか、と持ち込んだわ、武野井商事の方で調べてみると、持主が死ん

3. 巨大な墓標〔下〕

それは確かに、千野木にとっては痛い言葉であった。 斎藤千世は、はっきり、千野木の人間を観察していた。 だから、自分の会社に勤めろ、というのか。 「人間的であり過ぎるか、これでも相当非情になった積りなんだがね」 「駄目よ、たとえば、あなたが調べている事件の、唐津さんね、近々、郷里から、衆議院に立 候補する積りらしいわ、私の勘では、きっと、当選する、郷里には相当、お金をばらまいている らしいし、政治家になっても、かなりの線に行くんじゃない」 「唐津が、政治家に : : : 」 と千野木は呻いた。 千野木が調べた限りでは、唐津は松村を操り、結局、倒産させたが、千野木にはどうすること も出来ない存在だった。 河内商事の内田も、唐津に操られて、退陣せざるを得なかった。 「僕は面白い事実を握ったんだよ」 標 「どんなことなの ? 」 「アリーのマダムの芽久美だよ、君は芽久美のもう一人の男が東川だと匂わした」 大 巨 「あら、私は東川さんだとはいわないわ、それは、千野木さんの聞き違いじゃないかしら、東 川さんと芽久美は親しかったけど、私は芽久美の男が、東川さんだといった覚えはない、迷惑 うめ

4. 巨大な墓標〔下〕

だがそれをいうことは出来なかった。 「二十五万円ならどう、相当良い給料だと思うけど、武野井だったら、十万位でしよう」 千野木の年齢で二十五万円といえば、相当の高給取りだった。 流石に千野木の気持は動いた。 あずき それだけの収入があれば、楽な生活がおくれる。それに、最近、千野木が買った小豆相場が暴 騰していた。すでに一万三千円になっている。千野木はすでに三百万以上儲けているのだった。 「暫く、考えさせて欲しい、それよりも、岡田常務のウィ 1 クポイントを教えてくれ給え」 「そんなに知りたいの、でも約東だったわね、それじや教えてあげましよう、岡田さんはね、 内田社長さんが退陣した後、アンナのマダムと関係が出来たらしいの、ところがマダムのかおり さんは事業欲が旺盛でしよう、色々と資金が要る、ところが、河内商事はもうかおりさんに貸す ほどの余裕がなくなって来たのね、そこで岡田さんは、自分でお金をつくりたくなった、それで サイドワークを始めたのよ、他人名義で貿易会社をつくったのよ、普通の商売をしていては儲か らない、そこで、娯楽遊戯場に売るパンチマシンを輸入し始めたのよ」 標千野木はあっと思った。 スナックなどに売りつけに来ているパンチマシンは、岡田が輸入しているのか。 大 巨 「私ね、色々なバ ーに、ス。ハイを送り込んでいるのよ、それで、かおりさんと岡田さんの関係 、パンチマシンの方は、私の経営している或る店に売りつけに来たから、調べてみた 四も知ったの ら、輸入しているのは、岡田さんだということが分ったのよ、輸入先はドイツでね、古手のパン さすが

5. 巨大な墓標〔下〕

278 どうもおかしい。笠原の今の立場なら当然、知り得るのではないか。 それに、千野木が、山口に調査を頼んだことも、結果的に見て、まずかったようだ。 千野木が知り得たことも、総て、笠原に筒抜けになる。旨く笠原に操られていたような気がし 出した。だが、。ハーなどでの飲み代はみな、山口が支払うのだ。 だから、千野木としては自然、山口に頼んでしまったのだった。 その点、笠原は実にたくみに千野木と山口を結びつけてしまった。 つまり、千野木が苦労して情報を集めても、それを克明に分析するのは山口なのだ。 多分、山口は千野木よりも先に、笠原に知らせているだろう。東川と山崎との関係も山口に調 はず べさせているが、考えてみれば、自分が山口に聞きに行くことはない。もう笠原は知っている筈 ミ」っこ 0 ュノュ / ばく 「ママ、つまり笠原氏は、僕を武野井商事に入れたくないんでしよう」 と千野木はいった。 折角のシャ・フシャ・フが味も感じられない。 「さあ、そんなことは私には分らないけど、今度の事業は、武野井商事が全面的に・ハックアッ プしてくれることになったの、だから、私のところで働くのも、武野井商事に勤めるのと一緒じ ゃないかしら」 と斎藤千世はいった。 と千野木はいいたし 冗談じゃない、

6. 巨大な墓標〔下〕

斎藤千世は、千野木を自分の店で使いたい、という。 それに対して、笠原はどう答えたろうか。・ : ・ : 僕からも千野木君に話してみましよう。本人は 僕の会社に来たいらしいけど、いったん正規のコ ] スから外れた人物を採用するのは、一寸無理 なんだな、いや、斎藤さんの会社なら彼も働き甲斐があるでしよう・ : そんな笠原の言葉が、千野木には聞えるようであった。 部長の真意 千野木には、自分を武野井商事に入れたくない笠原の気持が手に取るように分る気がした。そ の時のために、笠原のウィークポイントも探る積りだったが、それは出来なかった。 問題は、武野井商事がかって一億円の手形をパクリ屋に取られた件だが、それはどうも笠原に は関係なさそうだった。 2 総務部長が責任を取った。その時の上司は大河内である。大河内は次期社長といわれている人 標物で、笠原とはそんなに仲が良くない。ただ、千野木には、笠原がその真相を知らないというの が、おかしい気がする。 大 巨 笠原は会長の婿だ。その当時は分らなくても、今、調べたら分るのではないか。 といっていた。それを笠原が知ったなら、 行ところが笠原の情報屋の山口は、笠原が知らない、 大河内専務に対する笠原の武器になるというようなことを匂わしていた。

7. 巨大な墓標〔下〕

276 「そりやそうだけど、僕の口から笠原氏に話したかったな」 「大丈夫よ、これは、あなたの報告の積りで聞いて欲しい、といっておいたから」 斎藤千世は優雅な手付で肉を口に運ぶのだった。 「どういうことなんだい ? 」 千野木は少し身体を乗り出した。 千野木にとっては、不愉快な男だった。岡田がもっと人情家であったら、待塚が左遷されたり、 たた 千野木が会社に辞表を叩きつけたりしなくて済んだのだった。 「岡田さんのことは、後で話すわよ、それはそうと、千野木さん、私の会社で働いてくれない かしら」 斎藤千世は、レジャー産業の分野に乗り出す積りだ、というのだった。 武野井商事から、かなり資金が出るし、その面では心配はなくなったが、問題は人物だった。 「私、今まで、夜の仕事ばかりしていたでしよ、この間の場所は、ポーリング場・遊戯場など の娯楽センターにするんだけど、矢張り、昼の仕事に入るでしよ、優秀な人物がいないのよ、企 画宣伝課長として来てくれないかしら、給料は二十万円、お渡しするけどー 僕は武野井商事に入ることになっている、と千野木はいおうとした。 のど だが、その言葉は喉につかえた。 笠原と斎藤千世の間で、千野木の話は当然出た筈である。 千野木は二人の会話を想像してみた。

8. 巨大な墓標〔下〕

274 と千野木がいうと、斎藤千世は低く笑った。 「何がおかしいんだい」 「だって、あなたとタ食だなんて、まあ良いわ、それじゃ、シャ・フシャ・フでも喰べましようか 斎藤千世は店の名前を告げた。千野木も知っている有名な店だった。斎藤千世は、自分の名前 で、部屋を取っておく、といった。 その店はキタ新地の中にあった。 千野木は約東の時間より早く行った。かなり強い風が吹いていた。 斎藤千世は黒っ。ほいスーツを着て現われた。二連のパールのネックレスと、 ていた。 「ママさん、お久し振りですわね」 と中年の女中が、斎藤千世に拠している。女中が肉や野菜を運んで来た。 「済まないけど、一寸こみいった話があるので、僕達だけで喰べるから」 千野木は千円を女中に渡した。 「どうも済みません、じゃお願いします」 と女中は部屋を出た。 斎藤千世が低く笑った。その声で、千野木は、電話の笑い声の意味が分った。 「何も、僕達一一人を怪しんだりはしないでしよう、どう見たって、僕はマダムの恋人にはふさ ールの指輪をし

9. 巨大な墓標〔下〕

と真由美がいった。 「何が違うって、じや二人は松村の死には関係ない、というのかい ? 」 「そうよ」 「君は何か新しい事実を損んだわけだね、松村の死について」 「別に損んだわけじゃないけど、大阪に帰ってからお話をするわ、でも一寸思い掛けないニ = 1 スだったわね、今度、唐津にそれとなく当ってみるわ、それにしても、唐津は執念深い男なの ね、本当に蛇のような男」 真由美は吐き出すようにいった。 じちょう そんな唐津に身体を与えている自分への自嘲もあったのかもしれない。 その翌日から、千野木は斎藤千世に会うべく、その事務所に何度も電話した。 クラ・フは売ったが、事務所は変っていなかった。 笠原との取引がどうなったか、聞かねばならない。笠原にそれを聞くのは、何となくためらわ 2 れた。 標それに、斎藤千世は、千野木に或る程度の好意を抱いてくれているようだ。 な千野木が斎藤千世と連絡が取れたのは、それから三日後だった。 巨 「是非、会って欲しいな、今日はどう ? 」 「そうね、構わないわよ」 「それじゃ、夕食でも一緒にしない ? 」 へび

10. 巨大な墓標〔下〕

272 もし男性が電話に出たなら、千野木は直ぐ電話を切る積りだったが、真由美の声がしたので、 千野木はほっとした。 「一人かい、話しても構わないかい ? 」 と千野木はいった。 「大丈夫よ、今度は一人で来たんだから」 「大変なニュ 1 スだよ、松村の女だったアリーのマダムの、もう一人の男性は唐津だったよ、 いや驚いたな、これで、松村が。ヒェロだった、ということカ : 、はっきりしたよ、松村は初めから 踊らされていたんだな、全くの操り人形だったんだよ、だから、唐津は、アリ 1 のマダムに、思 い切り松村から金を絞るように仕向けたのだと思うよ」 「それは、確かな情報なの」 「間違いないよ、僕がアリーに紹介した松村の娘から聞いたんだ」 千野木は簡単に事情を説明した。真由美も納得したようだった。 「だからね、松村の死も、急に怪しくなって来た、芽久美と唐津が組んで、松村を殺害したの この二人なら、松村が堂ヶ島にいたことを知っている可能性があるよ、松村はき かもしれない、 っと熱海から芽久美に電話したんだよ、芽久美がそれを唐津に知らせた : : : 僕は事故のような気 がしていたが、芽久美が、唐津の女だったということを知って、殺害されたという可能性がおお いに出て来た」 「それは違うわ」