斎藤 - みる会図書館


検索対象: 巨大な墓標〔下〕
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1. 巨大な墓標〔下〕

278 どうもおかしい。笠原の今の立場なら当然、知り得るのではないか。 それに、千野木が、山口に調査を頼んだことも、結果的に見て、まずかったようだ。 千野木が知り得たことも、総て、笠原に筒抜けになる。旨く笠原に操られていたような気がし 出した。だが、。ハーなどでの飲み代はみな、山口が支払うのだ。 だから、千野木としては自然、山口に頼んでしまったのだった。 その点、笠原は実にたくみに千野木と山口を結びつけてしまった。 つまり、千野木が苦労して情報を集めても、それを克明に分析するのは山口なのだ。 多分、山口は千野木よりも先に、笠原に知らせているだろう。東川と山崎との関係も山口に調 はず べさせているが、考えてみれば、自分が山口に聞きに行くことはない。もう笠原は知っている筈 ミ」っこ 0 ュノュ / ばく 「ママ、つまり笠原氏は、僕を武野井商事に入れたくないんでしよう」 と千野木はいった。 折角のシャ・フシャ・フが味も感じられない。 「さあ、そんなことは私には分らないけど、今度の事業は、武野井商事が全面的に・ハックアッ プしてくれることになったの、だから、私のところで働くのも、武野井商事に勤めるのと一緒じ ゃないかしら」 と斎藤千世はいった。 と千野木はいいたし 冗談じゃない、

2. 巨大な墓標〔下〕

162 山崎の正体や、浜松組のことは山口に聞けば分るかもしれない。 それに確か芽久美は、斎藤千世がやっていた。ハ ーに勤めていたことがあるという 9 今のところ芽久美の男性関係は、松村以外に分っていない。 だが芽久美が松村一人を守っていたとは思われない。 芽久美には陰に男がいるのではないか。 そして松村は旨くだまされていたのではないか。 盛沢は千野木との話で、幾ら酒を飲んでも酔わないようだった。 「千野木さん、社長のことを調べている或る筋とは、どういう筋なんですか」 「それは、今はいえない、僕もな、会社を辞めてから、経済社会のからくりが少し分って来た よ、課長なんて、会社では威張っているが、全くの下っ端だよ、会社の秘密なんて重役のうちで も、ごく一部しか知っていないんだ、みな勝手なことをしている」 「そうですね、うちの会社でもそうでした」 盛沢は吐息をつくようにいった。 千野木は、盛沢と香美子の関係はそっとしておいてやろうと思った。 まさか盛沢が伊豆まで行って、松村を殺したというわけでもないだろう。 もちろん 勿論、盛沢には松村を殺す動機はある。 香美子と関係を持った盛沢は、松村が生きていては困るのだ。 あくらっ ただ千野木には、盛沢がそんな悪辣なことをする人間のようには思えなかった。

3. 巨大な墓標〔下〕

「と思うだろ、ところが、アリーに入ったのは、本人が強く希望したからだよ、僕にも、彼女 きら おやじ の気持はさつばり分らない、死んだ親父を嫌っていてね、親父の女だった芽久美を少しも恨んで いないんだよ・ : ・ : 」 「じゃ、芽久美と松村さんの関係を、彼女は知っているのね」 としごろ 「ああ、知っている、あの年頃の女が考えていることは、僕には、さつばり分らない、それは そうと、東川は、彼女を凄く可愛がっていたようだったかい ? 「そんな感じだったわ、彼女以外にもホステスがいたけど、東川さんの目的は明らかに、彼女 一人だったわねー 「そうか、矢張り東川はねらっているのか」 「当り前じゃないの、彼女のようなタイ。フは、大阪には少ないわ、東京的ね、東川さんには、 そこが妹力なんでしよう、でも、そうだとすると、なかなか面白くなりそうじゃないの : : : 」 千野木は難しい顔になった。確かに斎藤千世のいう通りだった。東川と香美江が関係出来たと 国すると、香美江は、父親の女の男を取ったことになる。勿論、香美江は、東川と芽久美の関係を 標知らない。 千野木は今、関係出来たとすると、と思ったが、もう出来ているかもしれない。 大 巨 香美江は五万円で、千野木と関係した。 もし東川が、マンションでも借りてやる、といえば、簡単に身体を与えるだろう。 もし芽久美がそれを知れば、どういう態度に出るだろうか。 すごかわい

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だが千野木の脳裏にあるのは、東川のことだけだった。早速山口に調べさせねばならない。山 崎は金融業者でビルを持っているといっていたが、それは名義だけで、東川の所有なのだろう。 芽久美は、東川にそそのかされて、松村を山崎に紹介したのではないか。 斎藤千世は肯定しなかったが、芽久美のもう一人の男というのは、東川に違いない。 東川と唐津とは関係あるのだろうか。 もしあったとしたなら、矢張り唐津が後で糸を引いていたに違いなかった。 アンナのビルを建てた時、最初は融資した河内商事の名義だったが、東川が河内商事から買い 取っている。 アンナの融資者は内田社長だ。とすると、内田社長と親しかった唐津と東川の間に、何等かの 関係があると見て間違いない これでどうやら、松村建設の倒産の真相がかなり分って来たようだった。 あくまで だがこれは、飽迄、千野木の想像である。唐津の作為でないかもしれない。 香美江は東川に可愛がられているようだ。勿論、香美江は、何も知らない。 アリーの上客だと思って、東川にねらいをつけたのかもしれない。 香美江ならやり兼ねないことだった。 千野木は、香美江に注意しておく必要があると思った。 にら もし、東川が芽久美の男なら、香美江は芽久美に睨まれることになる。ただ、アリーに入った 香美江は、千野木のいうことなど、聞くかどうか疑問だった。 もちろん なんら

5. 巨大な墓標〔下〕

102 いうのだった。 「私なんか、今はパックがないでしよう、だから、お客を沢山持っているべテランホステスを 引抜く資金なんかありませんの、それよりも、香美江ちゃんのような、魅力的な若い女を集めた 方が得ですわ」 芽久美はそんな話をした。 香美江が、松村の娘だとは、芽久美は想像もしていないだろう。 芽久美は、香美江を紹介してくれたお礼に、今夜は自分が招待するから、おおいに飲んで欲し 、というのだった。 千野木は、松村の名は出さなかった。 しっそう 芽久美も、聞きたくない名前だった。松村が失踪した日は、芽久美は店を休んでいる。 かっとう 松村は芽久美に借金を申し込んで援ねられたようだが、二人の間にどういう葛藤があ 0 たか、 千野木は、知りたかった。 ただ芽久美が、松村が隠れていた伊豆の温泉に一度も行かなか 0 た、と想定するのは危険だっ た。松村から、芽久美に呼び出しが掛ったかもしれない。 加江子の話だと、芽久美は松村が失踪した次の日から、一度も店を休んでいないようだった。 だが、日曜という休日があった。 めぎつね この女狐め、と思いながら、千野木は何喰わぬ顔で、芽久美と喋った。 ハーアリ 1 を出てから、千野木は斎藤千世の店に行った。 しゃべ

6. 巨大な墓標〔下〕

「ああ、充分慎重にやって欲しい、多分、唐津は内田さんが投資した相手とは親しいと思うん だよ、だから唐津が付合っている相手を調べておいて欲しい、名前や住所さえ分れば、こちらの 方で専門家に調べさせる」 「それなら、出来ると思うわ、今度東京に行った時、唐津が会った相手の一人は、岡村という 金融業者のようだったわ、ただ、秘書といってもね、仕事の相手と会う時は、私をホテルに置い て行くのよ、そういう点は用心深いというか、なかなか人を信用しないのね」 千野木は岡村の名を手帳に控えた。 「千野木さんの方はどうだったの ? 」 「これでも、色々と多忙だったよ」 千野木は松村の細君に会ったことや、その娘をバーアリーに勤めさせる積りなのを告げた。斎 藤千世が笠原に融資を申し込んでいて、昨夜は雄琴温泉に行った、と告げた。 「斎藤千世という女もね、河内商事の内情に詳しいんだよ、岡田のウィークポイントを握って いるらしい、融資が旨く行ったら、僕に話してくれることになっている」 下 「前にはいわなかったけれど、私もクラブエースに勤めていた時、あのマダムには、一度会っ なたことがあるわ、でも、私のことは、絶対話さないでね」 もちろん 巨「勿論だよ」 千野木は大きく頷いた。 真由美は腕時計を見ると、そろそろ出掛けなければならない、といった。

7. 巨大な墓標〔下〕

名神高速道路は、かなり混んでいた。 ことにトラックが多一い。 大津インターチェンジから、大津に出た。湖そいの道を東北に進む。 大きなホテルや旅館が並んでいた。 連れ込みホテルやモーテルなども道の両側に建っていた。 雄琴温泉は琵琶湖大橋の少し手前にあった。高台にかけて、旅館やホテルが建ち並び、温泉町 の感じが溢れていた。 ホテルというよりも、大きな旅館に着いた。門を入ると石畳の道で、左側は庭園になっていた。 ちょうばう 傾斜面に庭樹が茂り眺望が良さそうだった。 迎えた女中に、千野木が斎藤だと告げると、三人は直ぐ部屋に案内された。 三人共、別室にな「ている。部屋からは、眼下に拡が 0 ている琵琶湖がめられた。 ようやひ 漸く陽は西の空に沈み、湖がタ陽で染っていた。丘の傾斜面を取り入れた庭園の眺めも良い。 〒ーゆかた 第浴衣姿の客が散策している。 墓 新館なので、部屋にはパスもついていた。千野木は風呂に入り浴衣に着替えた。 な あた 巨風呂から出ると、辺りはかなり暗くなっていた。 左手の方に、琵琶湖大橋の灯が長い首飾りのように連なっている。 女中が笠原が呼んでいるというので、笠原の部屋に行った。

8. 巨大な墓標〔下〕

のかもしれない、と千野木は思った。 「じゃ、山口さんからの調査報告は、もう、僕が聞いても仕方ありませんね」 「ああ、聞く必要がないというより、山口はもう大阪にいない、新しい仕事で東京に行って貰 うことにした、それから、唐津という男のことは、君はもう忘れた方が良いと思う、河内商事を 喰いものにした男だが、結果的には、うちの会社に利益をもたらしてくれた人だからね、政治家 になる野望を持っているらしいけど、どの程度までのし上れるかな、ただ、もし、うちが将来、 河内商事を合併出来たとしたら、それは、相村君と君と、斎藤さんのおかげだ、と同時に、僕の 立場も会社で強力になれる、改めて、君に感謝するよ、相村君にも、お礼をしようといったんだ が、彼女は君に渡して欲しい、といってきかない、それで相村君と、君の分との謝礼を持ってき たよ、受け取って欲しい、三百万円ある」 笠原は背広の内ポケットから無造作にふくらんだ封筒を取り出した。 笠原は、千野木を武野井商事に採用するとは一言もいわなかった。 いってみれば三百万という金は、代償かもしれなかった。 この金を受け取れば、武野井商事に勤めさせて欲しい、とはいえなくなる。 ただ眼の前のふくらんだ封筒を見た時、千野木は、今更、サラリーマンになっても仕方がない、 という気がした。 わず 河内商事を辞めて僅かな期間だったが、千野木には、朝早く出勤し、定められた仕事をこっこ つやるサラリーマンの世界に耐えられなくなっている自分を感じていた。

9. 巨大な墓標〔下〕

雲上の闘し 千野木と斎藤千世はホテルの一室で笠原と会った。笠原は何時にない笑みを浮べて、千野木 に今までの労をねぎらった。千野木は、笠原に、まだ少し分らない点がある、といった。それは どこ 内田前社長が、会社の手形を延ばして、浮いた金を何処に投資したか、であった。それは真由美 が調べてくれることになっているが、千野木は、真由美の名前を出さなかった。真由美は、千野 木の味方だ。山口のように、千野木より先に笠原に知らせるとは思えなかった。それと東川と山 崎の関係も、山口に調べさせている。その調査報告は、まだ山口から聞いていない。 「内田前社長が投資した先は今朝、相村君からの報告で分ったよ、小豆相場に手を出した、金 融業者の山崎の義兄の東川は、ビルの経営者だが、栄高商会という穀物仲買業者の役員であるん だよ、内田は栄高商会を通じて小豆相場に手を出し五千万円ばかり損をしたようだな、アンナの 資金の三千万円を加えると八千万という金を使い込んだわけだ、現在の大池社長になってから、 その穴埋めに、経理上、色々操作をしているらしいがね、この事実を捫んだ以上、うちの勝ちだ ねー 千野木は顔から血が引くような思いだった。矢彊り真由美は、自分よりも先に笠原に報告して いるのであった。真由美だけは、そうではない、と信じていた。 「実はこのことは、君には話したくなかった、だが相村君は、君と共同で仕事をしているから、

10. 巨大な墓標〔下〕

シン。フルな筋立てでは通用しない。ここで、複雑な内容ということをいったが、それは難解とい うことではないのであって〈そのことは本篇を見れば容易に分かることだが、最初の一べージか ー構成にひと ら読者の興味をひく分かりやすい面白さがある〉、話の筋立て、つまり、ストーリ すじなわではいかない複雑多岐に亘った厚味があるということである。 本篇で描かれるようなそうした商社とその下請け会社をめぐっての社会的テーマが、みごとな までに消化されているということも、主人公の千野木を初めとする主要登場人物の″人間像〃と とら いうものが、きわめて巧みに捉えられ描かれているという面白さに因る。″人間〃を描くことに 優れているという黒岩作品の長所、特徴というものが、本篇においても完璧に証明されているよ そのことは、千野木と同程度の比重をもつ重要人物である業界紙記者、相村真由美という女性 の個性描写の鮮やかさにおいてもよく分かる。若い女性としては珍しいくらいの強烈さをもっ真 由美であるだけに、千野木との人間的関わり合いに尽きぬ興味が生まれてくるのである。 そのことと関連してすぐ言えることは、本篇には、真由美を初めとして、ホステスの加江子、 失踪した松村の娘の香美江、女実業家の斎藤千世など、千野木と深い関係を結んでいる女性達が 登場することによって、物語を一段と面白く読ませることになっているが、この辺りに見られる 作者の小説手法の巧妙さなども、見のがすことのできぬ本篇の特徴になっているようである。っ まり、現代女性のいろいろのタイプが描き出されている面白さといったらよかろうか。そうした 点にもぜひ注目しておきたいと思われる。