真由美は、その点も探る、といっている。今までの調査結果を纏めてみると、全く憐れなのは、 % 松村のようである。 松村は唐津のロポットであり、結局唐津に操られ、自分の女に裏切られ、西伊豆の崖から落ち はず て死んだのだ。松村は芽久美にも、相当、金を出している筈だった。自分の女が、大阪のキタ新 地の一流の店のマダムだと、一時松村は、肩で風を切って歩いていた。 だがその芽久美の背後には、せせら笑っている男がおり、松村は芽久美とその男に血を吸われ ていたわけであった。 それにしても、唐津というのは大変な男であった。こういう男が、経済界の黒幕ともいうべき 人間だろう。 つぶ 唐津は、松村を建設会社の社長に仕立て上げ、時期を見計って、潰してしまった。 それも、少年時代から青年期にかけて、松村から受けた傷のためなのだ。 ふくしゅう つまり、唐津は松村に復讐したわけだった。真由美は、その点も、必す、唐津に告白させてみ せる、といっていた。 ごうかん 真由美はまだ、松村に強姦されたことを、唐津に話していないらしい。それを話し、唐津に、 というのだった。 松村との関係を尋ねたなら、唐津はきっと喋るに違いない、 唐津にとって、真由美は新鮮な女である。今まで、唐津が自由にした、どの女にもないものを、 真由美は持っている。 唐津は、松村と違って頭が良いだけに、他の女にない、真由美の魅力が分る筈だ。 まと がけ あわ
マダムが傭う筈がなかった。マダムは松村の女だったのだ。 結局、香美江を加江子に会わせることにした。その結果、加江子が認めたなら、マダムに紹介 する、というのだった。 東京の女 千野木は、斎藤千世からの電話を待った。斎藤千世は、雄琴温泉に、笠原から招待を受けてい た。自分一人では嫌やだから、千野木も一緒に行こうという。 千野木は行きたくなかった。 笠原は、千野木を邪魔者と思うだろう。 笠原が斎藤千世を、わざわざ雄琴温泉に招待したというのは、笠原が特別な感情を彼女に抱い たからではないか。 事務的な話なら、何も温泉にまで招待しなくても良い。大阪市内のレストランで話が出来る。 斎藤千世は約束の時間に電話を掛けで来た。 「笠原さんは構わないそうよ」 「何だか具合悪いな、だって笠原氏は、あなただけを招待したんでしよう、僕は当然邪魔者だ と思われますよ、気が進まないな」 「大丈夫よ、今度の場合はあなたが仲介者でしよう、私としても、あなたをねぎらいたいわ、 やと
「それはそうと、香美江どうだい、どうも、大変な女を入れてしまったような気がする」 「お客さんの受けは凄く良いのよ、ああいうタイ。フの若いホステス、少ないでしよ、でもね、 ちょっと 一寸気になることがあるの」 「どんなことだい、まさか、客と金で寝たりしているんじゃないだろうな」 「そんなことじゃないんだけど、この店の大事なお客さんが、どうも、香美江ちゃんを、気に 入り過ぎているのよ、ママにとっては、一寸、不安なわけね」 「そうか、東川だねー 「知っていたの」 「大体の見当はつくよ、それで、香美江と出来たのかい ? 」 「そんなことはないと思うけど、兎に角、東川さんは、アリーにとっては、大変なお客さんで しよう、ママもかなり気にしてね、私も注意されたのよ」 この時千野木は、香美江に、アリ 1 のマダムの隠れた。 ( トロンが東川だ、と告げた時の、香美 こうかっ 江の表情を思い浮べた。年に似合わない狡猾そうな表情だと思ったが、ひょっとすると香美江は、 ′」まか 自分の気持を誤魔化したのかもしれない。 「僕からも、香美江に注意しておくよ」 「ええ、お願いするわ」 と加江子はいっこ。 千野木は・ハーアリーを出ると、外から香美江に電話した。 すご
半年間で、利子だけで三、四億になる。 ただ信用問題もあり、百億全部の手形を延長するわけ一はゆかなかった。 強い相手なら、仕入を拒否される。 だから、当然弱い相手を対象に行なうが、十分の一を施しても、十億の金が或る期間浮く。 だから資金的に余裕のない河内商事でも、そういう方で一億位の融資は可能であった。 「それにだね、浮いた金を短期投資に向けて成功し、潤を生んだとしたなら、その利潤はま らいらく もう るまる会社の儲けになるだろう、内田さんは豪放磊落なだったから、その金をかなり危険な投 資に向けたんじゃないかな」 と待塚が説明した。 「危険な投資というと、どういう方面ですか」 「これは、内田さんがそうした、というんじゃないよただそういう場合の投資には、色々あ さんびん る、一番危険の大きいのは、三品相場への投資、次に株の投資、ただこの二つの場合は、余ほ ど確実性がないと、利潤を生むどころか損をする場合もるだろうね、だからめったに行なわれ ない、それから大手の金融業者、といっても銀行関係じなく、高利貸に貸す場合もある、高利 貸の場合は月一割だから、これは相当な利潤だよ、ただ可利貸に貸す場合は、そんなに巨額は無 やみ 理だ、何といっても相手は闇の商売だ、そんなところにしてもし回収が不可能にでもなれば、 これも会社の信用問題になる、社長の責任も問われるだう、せいぜい二、三億じゃないかな」 二、三億といっても、高利貸の場合は半年間で一億、の利子だった。
で、妻も子供もないわけ、 しいえ、二号の子供がいたわけ、持主は子供を認知していたのよ、そ の子供というのが北海道に住んでいてね、まだ高校生なのよ、それで相続税を払うために、土地 を売らなければならなくなったんだけど、その二号と、不動産屋が出来ていたのね、不動産屋が 悪いやつで、権利証や委任状など、全部偽造し、結局、武野井商事の手形を受け取ると、どろん したというの、つまり、武野井商事は、不動産屋にだまされたわけよ」 「武野井商事ともあろうものがね」 「良くあることよ、ところが、その不動産屋を紹介したのが松村よ、そのために松村は、武野 井の下請を解かれ、総務部長は責任を取ったのよ、武野井商事が、そんな不動産屋にだまされた なんて恥でしよ、だから内々で処理したらしいの」 「待ってくれ、それ位のことだったら、当然、笠原氏も知っている筈じゃないか」 「企画部長になってから、知ったんじゃないかしら、あなたは笠原さんは知らない、と思わさ れているけど、当然知っているわ」 「しかし、その程度じゃ、大河内専務のウィークポイントにはならないね」 下 標「総務部長は大河内さんの子分だったの」 な「笠原氏が、今更そんなことをほじくり返して、ママとの取引に反対している大河内を納得さ 巨 せたとは思わない、もっと隠れた真相があるような気がするねー いえ、私が知ったのはそれだけよ、それと、大河内さんが納得したのは、私が岡田常務の サイドワークの会社のことを知らせて、河内商事の吸収合併の糸口を与えたからよ、大河内専務
「ならないだろうな、私的な目的のためだったとして、それだけではね」 「唐津が内田さんのウィークポイントを握っていて、のために重役陣が、大池社長派に寝返 ったという以上、内田さんは、手形支払いで浮いた金を、かなり危険なことに投資したんでしょ うね」 「僕は知らない」 待塚はいっこ。 待塚は本当に知らないのかもしれない、と千野木は思た。 内田の場合問題なのは、アンナのビルへの融資ではな、アンナの開店資金の三千万円だった。 これだけの金額を正規な社の金を流用するわけにはゆない。 この際考えられるのは、内田が手形支払いの延期で浮した金を、何かに投資し、その利潤を 自分のものにした、ということだった。 岡田の紹介で、内田が唐津と知り合ったのも、その頃と思われる。 その投資に唐津が一役員ったのではないか。だから、〕津は内田のウィークポイントを握って ではその投資は何か。 だれ 「待塚さん、アンナのビルの最初の持主は誰ですか ? 「それは知らないね」 「じゃ、建築業者も御存知ないわけですか ? 」 ころ
と真由美がいった。 「何が違うって、じや二人は松村の死には関係ない、というのかい ? 」 「そうよ」 「君は何か新しい事実を損んだわけだね、松村の死について」 「別に損んだわけじゃないけど、大阪に帰ってからお話をするわ、でも一寸思い掛けないニ = 1 スだったわね、今度、唐津にそれとなく当ってみるわ、それにしても、唐津は執念深い男なの ね、本当に蛇のような男」 真由美は吐き出すようにいった。 じちょう そんな唐津に身体を与えている自分への自嘲もあったのかもしれない。 その翌日から、千野木は斎藤千世に会うべく、その事務所に何度も電話した。 クラ・フは売ったが、事務所は変っていなかった。 笠原との取引がどうなったか、聞かねばならない。笠原にそれを聞くのは、何となくためらわ 2 れた。 標それに、斎藤千世は、千野木に或る程度の好意を抱いてくれているようだ。 な千野木が斎藤千世と連絡が取れたのは、それから三日後だった。 巨 「是非、会って欲しいな、今日はどう ? 」 「そうね、構わないわよ」 「それじゃ、夕食でも一緒にしない ? 」 へび
「そういう女性なら、笠原さんに提供しても新鮮さがないわよ、あの二人は私が養っているの 「へえ、じゃ毎月給料を渡しているわけ」 「そういうことね、それも相当な額よ、だから、大切なお客の時だけ、働いて貰うの、みどり なんか、六本木のマンションに住んでいるけど、家賃は十万円よ」 「家賃が十万円」 千野木は唖然とした。 「驚いたな、そんな豪華な部屋に住んで、仕事もせずに毎日ぶらぶらしているわけか」 「そういうことね、普通の人から見れば、青山、赤坂、六本木の高級マンションに住んでいる 得体の知れない女性の一人ということになるかしら、でも、あの二人は私にとっては消耗品よ、 一年位続くかしら、辞めればまた別な女性を探さなくっちゃならないのよ」 河内商事のサラリ 1 マンだった千野木には、理解出来ない世界に住む女だった。 「そういう女性って、直ぐ見付かるの ? 」 下 「ええ、東京の店には、スカウト係がいるのよ、直ぐ見付けて来るわ」 標 千野木は吐息をついた。 巨斎藤千世は何でもないことのようにいっているが、千野木には一つ一つが驚きだった。 「酷く興味があるようね」 「そりゃあるよ、それで、辞めたらどうなるの、クラ・フに勤めたりするのかな」 よ」 ひど
「はっきりいわなかった、だから、匂わした、といっているんだ、芽久美という女は、昔、商 社と契約していた、といったね、つまり商社の取引先と寝た女だ、そうだろう、その商社は河内 商事だろう」 「あなたの想像にまかせるわ」 「しかし、芽久美は、ホステスとして頭角をあらわし、君の店の一つのママ代理になった、そ の頃、東川と親しかったんだろうけど、芽久美のもう一人の男というのは、思い掛けない人物だ ったよ」 千野木はそういいながら、斎藤千世の眼を見た。 斎藤千世は少し伏眼になって肉を箸ではさんでいる。 だれ 「誰なの ? 」 「君は知っている筈だ」 「私は知らないわよ、店の女の子の私生活を全部知るわけ、ないじゃないの」 「だって、岡田とかおりの関係までスパイを入れて探らしている君だ、知らない筈はない」 「本当に知らないわ、誰 ? 」 「君が武野井商事の手形パクリ事件の真相を話してくれたら、教えるよ」 「今度は、あなたの方が条件を持ち出して来たわけね、芽久美のもう一人の男が誰であろうと、 私には関心がないけど、あの手形事件は、そんなにたいした問題じゃないの、或る不動産会社が 武野井商事に土地を買わないか、と持ち込んだわ、武野井商事の方で調べてみると、持主が死ん
高利貸の方は、月一割で借りて、一割五分ないし二割で客に融資するのだった。 「僕はね、内田社長が、どういう方法を取ったかは知らない、ただそういう方法があるという ことだけを話したわけだから」 「しかし待塚さん、どういう方法にしろ、生れた利潤は、会社の金で、社長個人の金じゃない でしよう」 「それは、そうだよー と待塚は頷いた。 「しかし、高利貸に貸した場合なんか、帳簿には記載しないでしよう」 「高利貸に貸したとはしないだろうけど、他に投資したように、帳簿上のつじつまは合せるよ、 額が大きくなると、使途不明の金では困るからね」 「じゃ、高利貸と違って、普通の金融なら、大きな顔で出来るわけですね」 「そうだよ、その場合は商社金融だが、これも利子は銀行利子よりも多いだろう、融資先によ って異なるが、小売商関係などになると、銀行では貸してくれない場合が多いし、日歩四銭でも 下 喜んで借りるだろうな、ことに連れ込みホテルなどになると、日歩五銭というケースが充分考え 墓られるね、日歩四銭で、年にして一割五分弱だから大きいよ、それに建物などちゃんと担保は取 あきない 大るし、有利で安全な商だな : : : 」 「じやかりに、アンナのビルに融資したとしても、別に内田さんのウィークポイントにはなら ないでしよう」