斎藤 - みる会図書館


検索対象: 巨大な墓標〔下〕
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1. 巨大な墓標〔下〕

178 翌日、千野木は斎藤千世に電話した。 斎藤千世は事務所にいた。 「どうせいないと思っていたよ」 「三時という約東だったでしよ、私だって約東は守るわよ、今からミナミに行くの、宗右衛門 町の喫茶店で会いましよう」 斎藤千世は喫茶店の名前を告げた。 千野木は直ぐ家を出た。喫茶店に着いたが斎藤千世はまだ来ていなかった。 コーヒーを飲んでいると斎藤千世が現われた。スラックスにセ 1 ター フな姿だった。巨億の富を持っている女社長とは到底思えない。 「どうなの、あなたの方の調査は進んでいるの」 斉藤千世は化粧をしていない。素顔の斎藤千世は平凡な顔だった。胸の隆起は若い女の子のよ うに盛り上っていた。 「どうも行き詰っている、だから君に色々と聞きたいんだ、君、金融業者の山崎って男、知っ ているだろう」 斎藤千世の表情が微妙に動いた。 「何故、私に ? 」 「君が知っているということを耳にしたからだよ、教えてくれないか、どういう男か、という ことを、僕の調査では、松村建設の遠因は、山崎にあるような気がする、暴力団の浜松組と関係 フコートというラ

2. 巨大な墓標〔下〕

うま 「それは話が纏 0 てからよ、何でもそんなに焦「ちゃ旨く行かないわよ」 斎藤千世は何処か潤んだ眼で、千野木を見詰めるのだた。 傷ついた身体 斎藤千世は千野木に、今夜は暇か、と尋ねた。千野木暇だと告げると、暫く待「ていてくれ、 といった。 そして他の客席に行った。 斎藤千世は千野木に何か話でもあるというのか。斎藤世は岡田の秘密を握「ている。どうし ても、それを聞き出さねばならない。 それだけではなく斎藤千世は、夜の世界では有名な女」った。 そういう女性と親しくするのは、千野木にと「て、損よことではなか 0 た。 それにしても、斎藤千世は、どういう過去を持「た女ころうか。 彼女は七年前に、新地で初めて自分の店を持った。 そういう女は大抵ホステスの経験があるが、斉藤千世」はないようだ 0 た。 或る日、忽然とパ 1 の「ダムにな 0 たのである。「ダムになるまで、何処かの店にいた、とい う噂はない。だから、「ダムになるまでの斎藤千世のは不明であ「た。 新地のパーの「ダムで、その過去が不明だというケースはめ 0 たにない。 しばら

3. 巨大な墓標〔下〕

166 加江子は、疲れた声をしていた。 「今夜、店に行くよ、帰りに会わないか」 と千野木はいった。 山崎という男のことも聞いてみたかった。 「私も会いたいと思っていたの、色々お話があるのよ」 と加江子はいった。千野木はほっとした。ひょっとしたら、加江子が断るかもしれない、 っていたからだった。 ただ加江子の話し方が少し気になった。 どんな話だろうか、香美江のことかもしれない。夕方まで千野木は眠った。 山口に山崎のことを調べさせる必要があるが、千野木は何故か気が進まなかった。 斎藤千世は、職業柄、金融業者のことは詳しい。それに芽久美は、かって斎藤千世の店にいた のだ。山口に調べさせる前に、斎藤千世に聞いてみようと思った。 千野木は斎藤千世の事務所に連絡した。 斎藤千世は留守だった。大抵居所が分らない。千野木は自分の名前を告げて、一時間後にもう 一度電話するから、それまでに連絡が取れるようにしておいて欲しいと頼んだ。 斎藤千世という女は、不思議に裏街道の業者を知っている。家を出る前に、もう一度電話して みたが、矢張り連絡は取れなかった。 斉藤千世には、色々と、教えて貰わねばならないことが多い。大東商会の持主、それに岡田の と

4. 巨大な墓標〔下〕

「そういうことは絶対しない」 「しかし、それをねたに、何かする積りでしよ、そうでなければ、聞いたって仕方ないじゃな 斎藤千世の言葉はなかなか鋭かった。 「調査の参考にするだけですよ」 「あなたの言葉だけじや安心出来ないわ。だって、もし笠原さんとの取引が旨く行かなければ、 河内商事さんとの関係も大切だもの、もう少し待ちなさい」 だだ 斉藤千世は駄々っ子をあやすようにいうのだった。 確かに斎藤千世の立場にしてみれば、そうかもしれない。 「しかし、今の河内商事に、金を貸す会社はないと思うがね、どういう関係かしらないけど、 旨味のない会社ですよー 「そうかしら、全な会社より、業績の悪い会社の方が、案外旨味があるのよ、幹部連中が焦 るから、たとえば、手形をパクリ屋に取られて大損したり、いんちきの投資に引掛ったりするの は、業績の悪い会社が多いんじゃないかしら」 千野木は、斎藤千世という女に、妻さを感じるのだった。斎藤千世は明らかに単なるクラ・フの マダムではなかった。女の実業家だった。しかも、経済社会の裏側に通じていた。 千野木は話題を変えた。みどりとさよりは、東京の何処かのクラ・フに勤めているのか、と尋ね た。斎藤千世は首を横に振った。

5. 巨大な墓標〔下〕

「流石はマダムだね、ケイ子だって、君だからあんな、ヨオを見せたんだろうな」 「どうかしら、でも最初はお金のためだとしても、途から変ったわね、お金のことなど忘れ てしまっていたわ、そういう気持の変化が凄く面白かっ」わね」 「変った見方だな」 と千野 , 不は・呷くようにいっこ。 「私ね、どんなことでも、そんな風にして観察していの」 と斎藤千世はいった。 斎藤千世のような女は、どんな場合に立っても、自分忘れるということはないのだろうか、 と千野木は思った。 だからこそ成功したのかもしれない。 次に行った店はゲイ・ハーの近くにあった。地下の店で客は一組だけだった。 若者がギターをひきながら歌っていた。 さえぎ よちうえ 斎藤千世は鋼植のゴムの樹で遮られた隅の席に坐ったこの店のマスターらしい男が、注文を 聞きに来た。 マスターと斎藤千世の簡単な会話で、彼女がこの店にく来ることが分った。 それにしても平凡な店だった。 自分が経営している店とは全く正反対の、こんなあれた店に飲みに来る斉藤千世の気持が うめ

6. 巨大な墓標〔下〕

こ 0 「何とも感じないの ? 」 と千野木は斎藤千世に尋ねた。 「別に、どうして ? 」 「普通なら、まともに眺められない筈だがね」 おもしろ 「そうかしら、でも面白いじゃないの」 「面白い、それだけ」 「そうよ、だってショオじゃないの」 斉藤千世は穏やかにいった。 ますます ケイ子は自分のヌードに益々陶酔したのだろう。踊りがら、オナニ 1 の真似を始めるのだっ それも女性のオナニーだった。 つまり女性であるという意識を極致まで味わいたかっこのだろう。 ケイ子は客達のためではなく、自分自身の陶酔のため演じていた。 ゲイボーイ達は卑猥な言葉を飛ばした。 ふる 突然ケイ子は身体を慄わせた、そしてフロアの上に ケイ子の顔はオルガスムスを味わった恍惚境をさまっていた。 すると斎藤千世は拍手した。 斎藤千世にとって、それは普通のショオであったの・ - ろうか。 こうこっきよう こ 0 まね

7. 巨大な墓標〔下〕

286 も、河内商事を吸収したいのよ、これで分ったでしよ、さあ、いって頂戴、芽久美の男って 千野木は斎藤千世に旨く、いいくるめられたような気がした。 「唐津だよ」 と千野木はいった。 斎藤千世には、そんなに驚いた様子はなかった。 「唐津さんが、芽久美の隠れた男、それは初耳だわ、どうして知ったの ? 」 しゃ・ヘ 「ママ、これは、誰にも喋って欲しくないんだよ、僕の方も、これだけで勘弁して貰いたい」 「一寸信じられないわ、でもそれが本当だとすると、あなたは優秀な調査マンね、芽久美がマ マ代理の時、熱をあげていたのは、松村さんと東川さんだったと思うけど、でも唐津さんも、気 パトロンになるなんて : : : 」 の毒ね、商社と契約して、外人と寝ていたような女の陰の 斉藤千世はゆっくりいった。 斎藤千世は、唐津と松村の関係を知らないのだ。話せば納得するかもしれない。 ただ斎藤千世の表情を見ていると、彼女も、唐津と芽久美の関係は知らないようであった。 つぶ 「もし私が唐津さんに、芽久美の過去を知らせたなら、芽久美の店は潰れるかもしれないわ ねー 「そうかな、唐津が資金的にどの程度援助しているかしれないけど、唐津が手を引いた位で潰 れるかな」 一口 ちょっと ちょうだい

8. 巨大な墓標〔下〕

「手を引いただけなら潰れないけど、ホステスを二十人位引き抜いたらね」 「誰が引き抜くって」 「私がよ」 斉藤千世はいった。斎藤千世はまた・ハーを開店する積りなのか。彼女は芽久美を嫌っているよ うだった。何時も呼び捨てにしている。 「最後に聞きたいんだがね、アンナのビルを建てた業者は誰だい、僕も河内商事にいたら、直 ぐ分るんだが : : : 」 「あれは立岡建設といって、しつかりした業者よ」 「何故松村建設を使わなかったのかな」 おそらく唐津は、松村を破減に追いやるべく松村に仕事を与えなかったに違いない。 「どうしてかしら、松村建設って、余り良い会社ではなかったからね」 と斎藤千世はいった。 国食事を終えると、斎藤千世は、ホテルに行こうというのだった。 標 「ホテルに、じゃ笠原氏が待っているの ? 」 「そうよ、あなたとも色々話をしたいといっていたわ」 大 巨 最近、笠原とは会っていなかった。 千野木も会って、一応、武野井商事への就職がどうなるか、聞きたかった。 っ ぎら

9. 巨大な墓標〔下〕

たのか、完全なヌードになり、手術の跡を千野木に見せるのだった。 客席の傍に来て、わざと腰を突き出したりする。 「不潔ね、女のヌードなんて漿やよ」 とゲイボ 1 イがはやしたてる。 それがケイ子をますます陶酔させるらしかった。彼は手術して、自分の身体が女になったこと を他人に見せたいのだろう。 千野木は、ケイ子の手術の跡を眼の前に見ることが出来た。 をずあと 傷痕が生ま生ましく、千野木は圧倒されるような思いがした。 女のストリツ。フにはない迫力があった。 不自然なものだけに、かえって刺激的だった。 斎藤千世は穏やかな微笑を浮べて眺めている。それは、大人が紙芝居でも眺めているような表 情だっこ。 下 千野木はそんな斎藤千世の表情に感嘆した。おそらく、斉藤千世だって、このショオに、何等 標かの刺激を受けているに違いなかった。 けんお それは、グロテスクなものを見た時の嫌悪感かもしれない。 はず 巨女性がまともに眺められるようなものではない筈だった。 ところが斉藤千世は、自分の気持を少しも外面に現わしていなかった。 まゆ 眉一つ動いていない。 おとな

10. 巨大な墓標〔下〕

松村の経営が余りにも悪いので、河内商事が唐津に、これ以上めんどうを見切れないといい、 唐津が同意した結果かもしれないのだが、唐津が松村を完全に見捨てなかったなら、松村は死ぬ 必要はなかった。 死なねばならないほど松村が追いつめられたのは、唐津が松村を捨てたからだ。 「クラ・ファンナのビルに融資したのは、河内商事さんかね」 「そうです」 クラプアンナのビルは、大東商会が持主だった。斎藤千世は大東商会から買った。 だから斎藤千世は、クラ・ファンナのビルを建てた建築会社を知っている。 その件に関して斎藤千世は、笠原との取引が終った後で話す、と千野木に約束していた。 だが千野木は、斎藤千世の名を、ここで出す気になれなかった。 斎藤千世の意向をまだ聞いていないからだった。 ドアがノックされて、斎藤千世が入って来た。 彼女は、笠原と日野に笑顔で挨拶した。 斎藤千世は今着いたばかりのようである。 「ママ、風呂に入って、浴衣に着替えたらどうだい ? 」 そういって笠原は斎藤千世に日野を紹介した。斎藤千世は、日野には丁重に挨拶した。 三十分ほどすると、女中が食事の仕度が出来た、と呼びに来た。 食事は斎藤千世の部屋で行なわれた。 あいさっ