、、よ、つこ 0 し、刀 / 、刀ノ 最前、三国物産の大石から電話がかかってくるまでは、それでも熊谷はまだ一種のためらいと危惧 にとりつかれて、拘東性預金の率を引下げることで新規融資をうまく成立させる方法はないものかど うかと思案しつづけていた。が、大石の電話で、その思案をかえざるを得なくなったのだ。大石は、 自社系列の企業十数社が新規分の融資増加を東和銀行に申込んでいることにふれて、熊谷の意向を訊 ねるように何の屈託もない調子でこういってのけた。 「それそれ勝手なことばかりいって熊谷さんを困らせておるようですが、もともとは当社が支援、融 ところ 資していた会社なのですから、そちらの審査基準に合わん場合は、ご遠慮なくはねつけてください。 そういう会社については、私どものほうで配慮することにしますから 大石の言葉には含蓄があるように感じられた。声の響きは確かにさり気ないが、、ことによれば大石 は、東和銀行はそこまでの面倒はみきれまいと考えているのかもしれないのだ。 ( せつかくの三国物産との取引を、こんなことで無にするわけにはいかん ) 熊谷は咄嗟に判断した。申込まれている融資に応じきれないのだろうと大石に思われたら、大石の 口から系列企業の担当者の耳にもそれがとどき、結果として彼らは東和銀行との取引縮小を考えかね ないだろう。 そうなったら、取締役どころか熊谷の現在における行内での地盤さえ揺らぎだす怖れがある。 熊谷は慌てて大石にいっこ。 「いや、その件ならご安心ください。数日中にも、副頭取のほうから 0 がでることになっておりま融 剰 すから・ : : ・」 過 三国物産の営業本部長が、東和銀行が無理なら自社から融資をしてもよいといっているのだ。とい うことは、相当以上に先方の業績を信用していなければ、そんないい方をするはずがないし、一応、 がんちく
そのことが渡海の焦燥をあおりたてているに違いないということは、熊谷もとっくに気がついてい たから、いま渡海が、「機を逸すべからずーと、古風な表現をした意味もすぐにわかった。 ( 副頭取はこのチャンスを踏み台にして、一気に預貸率を向上させるため、三国物産との新規取引を 着板にして、大手筋都銀の一角に食いこむつもりなのだろう ) 三国物産には三国銀行という東和銀行よりははるかに上位の主力銀行がついている。それにもかか とい、つことは、 ~ 滕 わらず、親和と取引しようというのは藤井政友の政治力が働いたからに違いな、。 井に対して莫大な政治献金をしなければならないということだが、それも考えてみれば安い投資とい える。 現に大石は、三国物産の取引先企業に、営業本部として貸付している融資、新聞用語でいう「商社 金融」の半分程度を東和銀行丸ノ内支店にまわしてもよいという意向を明らかにしているのだ。 巨大商社となれば、超一流にちかい企業をかかえこんでいるはずだし、熊谷の丸ノ内支店に当期ロ 座を開設させると約東した社名の中にも、そういう規模の企業が数社あった。それだけでも、預金量 と貸出額は飛躍的に伸びるに違いないと、熊谷は計算していた まず、そのあたりから預貸率を改善することた、と、熊谷は考えていたのだが、渡海は熊谷よりは るかに性急だった。熊谷の尻をたたきつづけるような勢いで、ここ四十日たらずのあいだに、三国物 、こつ。よしからといってもいいすぎでないほどに当座を開設し、新規 産がまわしてよこす会社なら、カナ。 取引を開始した。 三国物産が保証しているのだから、不測の事故など懸念する必要はないにしても、急激に増加する 預金量と貸出額に、熊谷は追いまわされていた。 その日も、昼前に三国物産から回送されてきていた資金計画表別紙の数字を、閉店後に検討しはじ めたのだが、やっとそれが終り、右手でこった首筋をもみだしたときには、とっくに午後九時をすぎ 77 暗闘商社
「 : ・ : ・そういう予感を由利君もまた抱いていたのかもしれません。一機が七十二億で二百機、総額一 兆四千四百億円の巨大な、それも一回での取引となったら、商社マンにしても一生一度の大仕事とい っていいのです」 「それはそうでしようね。もっとも、私には一兆四千四百億などといわれても想像がっかぬ金額では ありますが : 安立は苦笑しながら大石に相槌をうった。 神奈川県警察本部どころか、関東六都県の警視庁・県警察本部の年間予算を合計しても、その金額 にはおよばないに違いないのだ。実感がもてるような数字ではなかった。 ( が、だからどうだというのたろう ? ) 安立は唇をとじて、大石のつぎの言葉を待った。 「当り前ならば、由利君は夢中になって、この商談をまとめようと張りきってしかるべきたったので 「しかるべきだった : : といわれるのは、由利部長はそうではなかった、というふうに聞こえます 社 が」 「そのとおりなのです、安立さん。私が、由利君がある予感を抱いていたのではなかろうかといった対 行 のは、そこいらあたりに気がついたからなのです。極度に反共論者である彼が、アメリカ製の新鋭戦銀 闘機が再輸出されて、共産圏諸国の軍需を強化するタネに使われると予知したら、この商談に熱心に 9 なれるはずがなかったのですー
澄した表情で尾崎敏子が立っていたからである。 と、敏子は囁きかけたが、そ 昨日の昼すぎ、新幹線の切符を渡しながら、「私も一緒に行きたい。 れで追いかけてきたのだろうかと馬場は狼狽した。 間もなくここに到着するに違いないアシスタントの社員に、こんな光景を見られたらいいわけのし ようがなくなってしまう。かといって、この場であわてふためいて敏子を部屋につれていくというわ け・に , もしカオし 、、よ、。途方にくれたような気分になりながら、馬場はウ = イトレスにチップを渡し、目が おで敏子を椅子にすわらせた。 ( なんとか説得して、ホテルだけでも別にとらせなければなるまい ) ということは馬場にもわかるが、どう説得すればよいのか ? 「あなたったら、何をあわてているの」 体のつながりのある男にでもなければ口にできない甘い口調で敏子は囁きかけてきた。 「何を : : : って、それはきまっているじゃないか」 「あなたのアシスタントに、二人でいるところを見られたら具合がわるいという心配 : 「それがわかっているなら、無茶な真似をするなよ」 いくぶん苦々しそうな口調で馬場はきめつけたが、敏子は一向に落着いた表情のままでいる。それ どころか、あきれたことにはクスクスと笑いだした。 「笑いごとじゃないそー イいが強い声で、馬場は叱りつけた。 「そのことなら心配はいらないわ」 「どうしてだ ? 」 「どうもこうもないわ。私があなたのアシスタントなんですもの」 49 東和銀行
「それは、エルダーはん、ほんまのことかいな ! 」 なまりじごえ のだゆたか おもわず関西訛の地声になって、野田裕は悲鳴のような声を電話ロであげた。実際、野田は狼狽し きっていた。実力者常務として大同商事の内外に通用している野田としたら、珍しいほどの狼狽ぶり であったといってもいい。 「嘘ではないよ。こんな嘘をいってあなたを驚かせても仕方ないでしょ 受話器の向うで、少しばかりたどたどしい日本語で = ミリア・ = ルダーが憤然というのを聞きなが 「フランクはそういったのです」 大石は、馬場がフランクの前であげたと同じような叫び声をあげたまま絶句している。ーー価格総 額と、商社側に有利なコミ ッションにつられて産業省認可をあせり、そのために通産局長の金丸章の 心証をよくするために、その意向を入れて東和銀行との新規取引もはじめたのだ。だが、価格総額を べっとすれば、フランクのいうとおりに違いない。国自体が " 商社業務〃をしようとしているのだ カら - コミ ッションが普通の場合より高率なのは当り前たったのだ。 ありあまるオイルダラーで、国がイーグルⅡ改を一括購入して共産圏諸国に再輸出する。最終 的には購入国が高率なコミ ッションを負担することになるにしても、自国で戦闘機を開発生産するよ りはるかに安くつくにきまっている。 ( あらっぽいことをするものだ ! ) 大石は戦慄するような気分になったが、それでも、これからしなければならないことの決意だけは きめていた。 -6
合衆国の日系三世までふくまれている調査員たちが、目を皿のようにして内外の新聞を読み、三国 物産が現在進行させている商談に関連がある記事となったら、三行記事までコビーしてファイルして いるのだ。そんな重要な記事を見のがすはずは絶対にないといっていい。 機体仕様から、搭載される電子機器、レーダー部分で一機七十二億円のⅡィーグルⅡ改を と国は希望しているのだ。輸入価格の総額は一兆四千四百億円という途方もな 二百機輸入したい、 い取引になる。調査員が見のがしてすむようなことであるまい。 そうだとすれば、フランクが馬場に教えてくれた情報は、要するにどこにもまだ書かれてなかった ということになる 0 おそらく、この件は大同商事もまだ気がついてはいないだろう , ーーと、馬場は確信することができ それはともかくとしても、Ⅱ << —社がココムの要請を拒絶しているからには、ここで早急に商談を すすめさえすれば、なんとか取引をまとめあげるのも不可能なことではないに違いない。馬場はそれ を口早にいっこ。 「そういうことにならないか ? フランクはどう思うかね」 「合衆国政府の社に対する。フレッシャーが強くなる前に話をすすめてしまえば、少なくとも の役員たちは歓迎するだろうが : : : 」 : どうなんだい ? 「が : 「忘れてはいけないよ、馬場。ココムには日本政府も加盟しているのだ」 「それは心配あるまい。 国は合衆国と国交断絶同様の関係にはなっているが、ソ連邦と親密にして いるからといって共産圏諸国ではないからな」 ココムが強制的に禁輸することはできないはずだ カフランクは小さく と、馬場は断言した。 ; 、 こ 0
、まになっては、皮肉をいう がついたはずだ。産業省に強い総理をこちらが抱きこんだとわかれば、し くらいしか相手にもすべがなかろうからね」 ひと息いれるように声をきりながら、野田は青木の顔をじっと見つめた。その野田の表情がおさえ きれぬ喜悦に満ちはじめてきているのは、青木にもわかった。 「三国物産がおびえきっているという情報を、わしはこういう方法で確認したのだ。どうだ、君も安 心したかね」 一言ひとことかみしめるようにいいかけている野田に、青木は黙ったまま頷きかえした。 ・デニソフが、三国物産の馬場部長に会おうとしても、先 「わしの情報提供者は、最近ではセルゲイ 方が口実をかまえて会うのを避けているといっていたよ。事実上、三国はこの商談からおりたと判断 していいだろうな。実に臆病な連中だ」 「しかし、申請は取りさげてはおりません」 ぎようこう 「名門商社の看板に一縷の望みをかけて、僥倖を期待しているだけだ」 野田は断言した。ここまでの野田の情報分析を聞けば、青木にしても、 ( そうに違いあるまいな : : : ) と、思うことができた。 「イーグルⅡ改の空中戦は、誰にも見えないところで終ったわけでございますね . 中 こう低い声でいっている青木に、野田はすでにかくしきれなくなった歓喜をあらわにした。 「そのとおりだな、青木君。しかも、われわれは世界に冠たる信用を誇示している三国物産に勝「たれ 見 のだ 野田の凄じい執念が、その言葉にこめられているのが青木にもわかった。いまは青木も間違いのな 9 い勝利を確信する表情になっていた。 いちる
三国物産本社ビル三階の総務部応接室のテー・フルをはさんで向いあったまま、多少の当惑を感じな がら馬場はそのことをいった。 「君はさっきがらリスク、リスクとばかりいっているが、その内容を説明してもらえないことには、 僕としても判断のしようがないよ。そこいらあたりをくわしく説明してもらえないものかね」 「馬場、戦闘機というやつは、つい十数年前までは巡航距離と速度、それに旋回半径の大小で性能を 判断することができた。君たちもそこに基準をおいて、戦闘機の性能をきめたはずだ」 「僕は航空工学の h ンジニアではなく、セールスマンだからね。そういうものかどうかは正確にはわ からないが、そうであったとは、なくなった由利部長から聞かされた記憶がある」 「そう、彼は航空機を扱うビジネスマンではべテランだったから、馬場の記憶に間違いないだろう」 ( 妙なことをいう男だ。二十年も会わなかったはすなのに、由利さんが航空機を専門のように扱って いたことを、なぜ知っているのか ? ) 馬場はふと不審にとらわれたが、すぐにフランクと由利が新幹線の車中に同乗して東京から京都ま での時間をすごしたことを思いだした。 ( 多分、あのときにそんな話を聞かされたに違いない ) と気がついた。それにしても、そんなことは馬場には何のかかわりもない。現在の馬場に必要なの 「だから、どうだというのだい。そんなふうにいわれても、僕には見当がっかないよ」 資 融 「要するに、危険だと私はいっているのだ。それが、君にはわからないのかね」 漠然とした表現をあらためようとしないフランクに、馬場はかすかにいらだちをおぼえながら、少過 し強い口調でいった。 「わかるわけがない。僕は、由利部長のように航空機のべテランではないのだ」 よ :
この年数なら、当然なっていいはずの政務次官の経験すらないのだ。それでいて藤井は、常に主流 派でとおしてきた現保守党幹事長の派閥に属しているのだから、随分と妙な話だくらいは馬場にもわ かる。 もっとも、べテラン議員の多い国会対策委員には当選二期目になっており、そのときは相当以上の 辣腕もふるったようだった。予算委員長に前国会から就任しているのも、その実績をかわれたからに ・違いな、。 どういうわけがあって、大石が突然、藤井の経歴のことにふれてきたのか馬場にも見当がっかない が、とにかく社内電話で自分の私見もまじえながら、馬場はここまでを大石に連絡した。 その結果、馬場はさらに見当のつけようがない科白を大石から聞かされ、一層混乱することになっ たのだが、それを大石の責任というわけにはいくまい。ことによれば、大石は独り言をいっただけか もしれないのだ。 受話器の向うにいる大石が異常といってよいほどの好奇心にかられて馬場が喋っている藤井政友の 経歴を聞いているのは、大石の表情が見えない馬場にもわかるくらいだった。それだけでも、大石の 二、三の質問をしたあと、大石はこう呟くようにいって電話を 真意がますますっかめなくなるのに、 ぎったのだ。 なるほど。銀行の連中がわしにこんなことをさせたのは、それを狙っているからだったのか。 何とも意味不明の言葉を馬場が訊ね返そうとする前に、受話器がおかれてしまった。 ( 常務は何をいっているのだろうか ? ) 混乱している思考を整理しながら、馬場は思案をまとめようとしたが、無理な話だった。 思案をまとめるにも何も、初からまるきり見当のつけようがないのだ。馬場にしても、大石がいっ た「銀行の連中」というのが、旧三国財閥の中心であり、現在は三国企業グループの中核をなしてい りつわん せりふ 160
考えてもいなかった大石のやりかたに絶句した馬場に、さすがは三国物産の役員室秘書らしく、敏 子は事情を要領よく説明した。 どうやら大石は、馬場の今後に管をつけさせるためにだけ、秘書同行のかたちをとらせたのであっ て、実務面でのアシスタントというわけではなかったらしい 「貫禄を見せるには女性秘書のほうがいいのだ。どうだ君が行ってくれないか、って常務がおっしゃ ったのよ。まさか二つ返事で承知したら疑われやしないかと思い、しばらくためらってからした のよ。あの時間に女性社員は私のほかにはいなかったんだし、引受けざるを得ないんたから、誰から も疑われるわけはないわ」 敏子のいうとおりに違いない。常務に懇願されたとなれば疑う者などいないだろうし、べつにシン グルの部屋をとっておいて、そこに敏子が宿泊したことにして出張旅費を精算すれば、それこそ確実 に疑われずにすむだろう。 「学会傍聴中の経費は、仮払いのかたちで三十万円、大阪支社経理部から今日中にフロントに届けら れるそうですー 役員室秘書の表情にもどって、敏子はいった。有能な女性秘書を、アメリカでは「オフィス・ワイ フ , と呼んでいるのを馬場は思い出した。こうてきばきと気持が切りかえられるのは、敏子も秘書と しては有能なのかもしれない。 ( だとすれば、昼間はオフィス・ワイフで、夜は奔放なセックスを楽しめることになる ) トの上での敏子の裸身とあえぎをおもいうかべながら、馬場は好色な表情になった。 食事が終り、ホテルから国際会館に向う車の中で、敏子はひどく真面目な口調でいった。 つでもご用があればお手伝いで 「フロントにいって、私の部屋は部長の隣室にしてもらいました。い まじめ