教師 - みる会図書館


検索対象: 心に残るとっておきの話 第二話
24件見つかりました。

1. 心に残るとっておきの話 第二話

てて順に点灯していった。つかっかと教壇に上がった担任の教師は、中年と呼ぶにはあまりにも 年老いていた。父というより祖父に近かったように田」う。その日は眉の皺だけがやけに目立って 「この中に、梶田くんの九〇円を盗んだドロポーがいます」 教師は突然に言った。 それも断定的な言い方をして。 確かにその頃の教師には威厳があった。絶対服従を当たり前のように親も子も思っていたし、 子供心に学校生活を温和にすごすためには、教師に逆らって嫌われることは致命傷でもあった。 教室には休み時間のたびに違うクラスの生徒もやってくる。自分のクラスとは限らないではな いか。それがわかっていても、それを口にするものは誰一人としていなかった。 その教師は三年までを受け持った女教師がしたように、一斉に目をつぶらせて「盗んだ人は手 をあげなさいとも、「後でこっそり職員室にきなさいーともいわなかった。 「いいか、犯人がみつかるまで昼休みはおあずけだ。わかったか」 とだけいった。 み の教室は一瞬ざわめいた。 〇そのざわめきを押しとどめるように、教師のしやがれた声がした。 「今、お金をもっているものは立ちなさい」 まゆしわ 179

2. 心に残るとっておきの話 第二話

い。もんくのいいようのない理由もあった。 教師に名前を呼ばれ、私は答えた。 「四〇円です。手芸クラブの布代ですー 「クラブは昨日のはずだが」 「びったり四〇円を持ってくるように言われ、昨日は百円玉だったので今日にしました」 「よろしい やれやれと私は腰掛けた。疑いが晴れて、心なしか私はホッとしていた。 ところが、教師の次の言葉によって、私は生涯忘れることのできないであろう衝撃をうけた。 ホッとしたのもっかのまで、私の心はズタズタに引き裂かれた。瞬間的にクラスから抹殺されて ひど しまう恐布さえ感じた。その場所にいることが酷く惨めで、悪くもないのに自分を責めずには、 られなかった。 「私は何か間違ったことをいってしまったのだろうか」 私は今も、その時教師のとった言動を認めはしない。なんのために、なぜ ? と十数年間アル ハムを開くたびに胸が締め付けられた。 のその教師の言い残した言葉も声も、昨日のことのように鮮明に思い出すことができる。 〇「ゴミ箱の中に五〇円玉を捨てた人がいました。これで僕にはわかりました。以上」 九 その吐き捨てるような言葉を残して、教師は教室を出ていった。 181

3. 心に残るとっておきの話 第二話

言われるままに立ち上がった六人の生徒の顔は、死刑判決でもうけるように青く強ばっていた。 その中に九歳の私がいた。 その時、どんな気持ちで六人の生徒が立ち上がったのか、教師は知っているのだろうか。 それぞれが、自分ではないと小さな心の中で叫んでいたはずだ。それが人生の記憶の中の、わ ずか数分だったとしても、敬愛してきた教師に疑われたことには間違いない。 毎年一期は学級委員をつとめる沢木さんは泣きだしてしまった。人一倍正義感の強い彼女は、 きっと海しかったんだろうと、その時わたしは田 5 った。 「沢木、いくら持ってる ? 「五千円です . 「五千円とはどういうことだ、大金だぞ」 「帰りにバスの定期を買うことになっています」 「よろしい。つぎ、田中」 「二五〇円です。朝ノートを買ったおつりですー 「よろしい、つぎ : そうやって一人一人、財布と中身を教師の目の前に差し出した。 私は沢木さんのように泣きもしなければ、おどおどもしなかった。 私の財布の中には四〇円しか入っていなかったからだ。九〇円でもなければ、それ以上でもな

4. 心に残るとっておきの話 第二話

) 。午しを乞うても許されるものではない 尽くせるものではなし言 現在、私は圧倒的に女子の多い大学で教壇に立っているが、機会あるごとに後海と反省の気持 ちから、こ 0 小学校時代 0 " 悪事を語 0 て聞かせることにして〔る。反面教師と〔われようと も、せめてもの罪ほろほしとして ただ、語るたびに困ることが二つある。一つは、しゃべっている私が学生の前で、つい涙をこ ばしてしまうことと、もう一つは、聞いている学生も泣き出してしまうことである。 人間は、たまにではなく常に反省をし、後海やいつまでも心に残る精神的傷痕は残すべきでは このことは、三十年余が過ぎたいまでも子さんへの罪業を思い出して、年に数度は忍び 泣いている私だけに断言できる。 子さんの卒業後について、その消息はいまだにわからない。しかし、芯が強く思いやりのあ る女性だけに、きっと幸せな生活を送っていることは間違いないであろう。よき家族はもちろん、 すばらしい友達にも恵まれ、そして、きれいな服装で : 行 それにしても、あの「卒業文集」の最後の二行は、大きな衝撃だった。大いなる悔いを与えて 麦くれた。あの二行を読まなかったなら、現在の私はどうなっていたであろう。 集われわれ悪童どもの酷い仕打ちは、逆説的に例の二行に象徴されていた。最後にもう一度記さ 業せていただく。 卒 『わたしが今一番欲しいのは母でもなく、本当のお友達です。そして、きれいなお洋服です』 169

5. 心に残るとっておきの話 第二話

僕にはわかった ? 私にだってわかる。 呆然とした私は立ち上がることすら出来なかった。 「なぜ ? どうして ? 声にならない声で、私は木目模様の小さな机をみつめた。 教室の皆の顔を思い出すたびに、私はその時代に生きていたことが、どれだけ支えになったか 思いしらされる。 皆は誰を責めるでもなく、い つもと変らぬ、少し遅い昼休みをむかえた。 むずむずしていた男子生徒たちは、我先にと廊下を飛び出るとバタバタと足音をたてて、一目 散にグランドへかけていった。 皆には九〇円を盗んだ犯人よりも貴重な昼休みのほうに興味があっただけなのだ。大らかとい うか、悪くいえば単純な子供たちだったと今でも思う。 たかだか九〇円の話である。しかし、今だに私はその教師を許すことができない。良心の痛み とでもいうのだろうか、大人気ないと私はイ 可度も頭を振った。もういい忘れよう。教師にも何ら かの理由があったかもしれない。些細なことではないか、たかだか九〇円ではないか。だけど、 耐えがたいのは、それが消しゴムひとつにしろ私ではないということだ。大人でも子供でも金銭 182

6. 心に残るとっておきの話 第二話

とみやひでお 富谷英雄 昭和一一五年生 ( 岩手県 ) 調理師 私の父は昔、小学校の教師をしていた。訳あって、志なかばで教師を辞めたために、二等兵を 二度経験することになった。ニュ 1 ギニアで終戦を迎えた父は、終戦の翌年に無事、日本へ帰還 した。父をはじめ、戦友たちが生きて来られたのは、サツマイモのお陰だったと、父は一言う。 戦争前は、西部ニューギニア島にはサツマイモはなかった。今でこそ、この島にはサツマイモ シャンハイ モ があるが、実はこの芋は戦時中、父が率いる富谷隊が、中国の上海から輸送船に積み込んで、 ィー マ 持って行った芋の子孫であるという事実を、父から聞いて驚き、感動したことがあった。 サ 父がなぜ当時、『ニューギニアの芋隊長』と呼ばれていたのか、その謎を探るためには、私が の の生まれる以前の、今から五十年前にさかのばらなければならない。 昭和十八年十一月、第三十六師団は、転進することになり、上海で編成を終え、転進準備を進 いのちのサツマイモ 137

7. 心に残るとっておきの話 第二話

的なトラブルは、たとえそれが一〇円であろうと許されないことだ。 十数年も許すことができない自分を何度も責めた。しかし、これはやはりあってはならないこ とだ。一時的な問題解決のための、たとえ確信をもっての教師の行動だったにしろ、あきらかに 間違っていたのだ。 四十人の生徒のうち、もう一人納得のいかない誰かかいる。 それは、本当に九〇円を盗んだものだ。 私は、その生徒の一人が今もその昼休みのことを覚えているとは思ってはいない。しかし、そ あんど の時、バレなくてよかったと安堵したとは決して思えない。私と同じように苦しかったと思う。 私は今もそう信じている。 十年以上の学校生活の中で、その四年一組の思い出だけが空白となってしまった。楽しかった 思い出までも、数分にみたない時間と誤解の中で全て消えてなくなってしまったのだ。いつまで たっても笑い話になることもなく、そのことを思い出すたびに、私は十歳にもみたないその頃の 自分に戻って、苦しくなることがある。信頼していたからこそ、教師であったからこそ、その み先生のとった言動を裏切りと取らざるをえなかった。私の心は戻ってこない。寸秒でも閉ざされ のた気持ちは決して消え去ることはない。 円 〇 しかし、私は救われた。 いじめのなかった田舎の学校で、単純で、疑うことも責め立てることも知らなかった生徒たち 183

8. 心に残るとっておきの話 第二話

藤田繁子 ( 六六 ) 主婦 指輪 宙吊りの虫 等能御幸 ( 八七 ) 無職 母ありき 渡辺武任 ( 七一 ) 農業 山本裕 ( 六三 ) 元小学校教師 枯れないバラ 老人ホームのエリート木戸克海 ( 四七 ) 会社員 兼光恵一一郎 ( 七一 ) 会社相談役 古本屋の椅子 生きていてこそ 中西裕子 ( 四九 ) ペットショップ経営 丘の上の父 長谷川光一一 ( 六 (I) 無職 仏さま 久保ふさ子 ( 七 lll) 結婚相談 カバー装画西川洋一郎 二六四 二四〇 二五〇

9. 心に残るとっておきの話 第二話

っちくれ 紅の彩りも、クリームの香も知らず、赤貧の譜に諦観の舞いを舞いながら土塊のようになって 大地に還った母が今更ながらなっかしく思い出されるのです。 あの暮しの中で最高の望みだったろうに。なぜもっと、やさしく、ていねいに教えてやれなか ざんき ったのだろうか。悔いがさいなむ極限の自虐と慙愧。「おっかあ。すまなかったよう。許してく んろなあ」。 どうこく ひとこま しやがん 歴程に刻んだ少年時のあの一齣が初老となった今、蓬髪赭顔の母の面とともに慟哭を伴ってよ みがえってきます。 ひょごと 日夜毎イロハニホへト唱えいぬ 母の遺影に香華手向けて 枯れないハラ 山本裕 昭和六年生 ( 清水市 ) 元小学校教師 242

10. 心に残るとっておきの話 第二話

華村大介 ( 六八 ) 薬局経営 海老の天ぶら ラッシュアワーの車中で小林富次郎 ( 七四 ) 呉服店経営 新井竹子 ( 五九 ) 元ろう学校教諭 , ハ十一回目の合格 桜井晶子三八 ) 主婦 天国から来た大 林路子 ( 三七 ) 主婦 西澤みさを ( 七〇 ) 主婦 ある臨死体験 神野志季三江 ( 四六 ) 高校教諭 叔母のこと 部勝児 ( 六一 ) 音楽教師 置逃げ 川野広 ( 七一 ) 元大学教授 私の主義を通させて下さい 堀江武 ( 五四 ) 会社員 ホール・イン・ワン 加藤達夫 ( 六二 ) 高校教諭 夫婦の絆 ソウル・メイト 大谷内幸子 ( 五八 ) 主婦 中村記代 ( 七五 ) 農業 茶畑の出来事 四五 四九 五七 九九九ノ、ノ、七六 ノし . 五 . 〇ノく〇 . 五 . ノ、五 .