屋根 - みる会図書館


検索対象: 日当たりの椅子
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1. 日当たりの椅子

私は来る人来る人に屋根の上のもの音についてしゃべり立てた。私があまり騒ぐので、大工 のヒライさんが来て、屋根の上を歩いてた。 「どう、こんな音かい」 いいながら、ゆっくり歩く。屋根は瓦ではなくスレートである。私は居間にいてその音を聞 き、窓から顔を出して、 「もっと大きな音。もっとよ ! 」 と叫ぶ。 こ、つかい ? ・」 ヒライさんは力をこめて歩く。ヒライさんはがっしりはしているが小男なので、いくらカを こめても私が聞いた音に及ばないのである。 「してみると、奴はものすごい大男だな」 と屋根を降りて来たヒライさんは腕組みをして思案した。 「しかし、その大男が何のために夜の夜中に人の家の屋根の上を歩くか、だ」 悪戯だろうか ? しかし、深夜、四百メ 1 トル余りも山道を上って来て、屋根の上を歩いただけで帰って行く という悪戯も珍しい。そんなもの好き、ヒマ人がいるだろうか ?

2. 日当たりの椅子

じめから誰も心配などしていないのである。 え ? それ以後、屋根のもの音はどうなったか、って ? 屋根の上は完全に静かになった。 いろんな不思議もなくなった。 読者の皆さんはおそらくシロイトの人たちのように、 この話を私の「気のせい」だといわれ るでしよう。そしていろんな偶然が重な 0 ただけだと。そう思うことが「科学的」であり「常 識」たということになっているようだから、それはそれでよろしいのである。 ただ私自身についていえば、目に見え、耳に聞え、手で触れることができるものだけがすべ てであるとは、この時以来、思わなくなっているのである。 89 神サマの八ッ当り

3. 日当たりの椅子

「きっとおばあちゃんの根性ワルが遺伝してるのよ、これツー ッわよ ! 」 と殴ったりする。 わかってもらえない孤独にいよいよ暴れる子供と同じように、気の毒な竜神はとことん暴れ たらしい。そして一方漁師たちは相談に集まってはただ途方に暮れるばかりであったという。 ところがある日、一人の男が夢を見た。夢枕に竜神が現れて、自分を祀らなければもっとも っと暴れるそ、と憤怒したのである。男がその夢の話をすると、全く同じような夢を見た者が 四人も五人も出て来た。 そんなら、というので早速、竜神を祀ったところ、不思議なことに崖が崩れて道が塞がると いうことはなくなった。しかし、その祭を忘れると、必ずまた大雨が来て崖が崩れるというこ とも伝えられているというから、この竜神はよくよく怒りつぼい竜神なのである。 昨年の夏、北海道を襲った颱風は、四十・四メートルという風速でシロイトを通って行った。 しやもう、とにかく、「ものすごい」としかいいようのない景色だった。 海は低く垂れこめた雲に包まれて、泥色に濁ってひっくり返り、柏の林からは一斉に吹きち ぎられた柏の葉が、黒い灰のように渦巻きぶつかり合いながら空間を横切って消えて行く。牧 場の赤い屋根、青い屋根が一か所剥がれたと思うと、るみるめくれ上って屋根は裸になる。 いけません ! きかないと・フ

4. 日当たりの椅子

「なに ? 狐ってか ? 」 イカ釣りの話をしていたモンべッさんは、突然の話題の変化に驚きもせずにいった。 " けもの〃だもな」 「狐だって木に登るべさ。 モンべッさんは″けもの〃はすべて木に登ると簡単に考えているらしいので、私はいった。 「でもモンべッさん、狼は木に登る ? 」 「狼だって登るべさ」 「そうかしら。でも犬は登らないわよ」 「あったり前だよ、犬は木には登らないべさ」 「犬は狼や狐と親類なんだもん。狐も狼も木に登らないわー 「いや、登るべさ。けものはみな木に登るべ ? 」 「じゃ犬はどうなるのよ」 「犬か、犬は人間の手下になってしまったもな。ありやもう 家畜だもな」 足 の 話が混乱して来たので私はそれ以上、語るのをやめて沈黙した。 上 今の今まで屋根の上の足音は狐のしわざだと思っていたが、狐は木に登れない以上、屋根のの 上まで上れるわけがないのだ。足がかりになるようなものは、家のまわりには何もない。 それに気がついた途端に私はゾーツとした。 、″けもの〃とはいわないべさ。

5. 日当たりの椅子

「でも、ホントに聞えたんですよ。ノッシノッシって、ゆっくり歩いたんです、この真上を」 「でもパトカーが来たときは何もいなかったんでしよう」 「ええ、家のまわりから屋根の上も、全部、調べてくれましたけど」 「じゃあ、やつばり何かの錯覚よ」 「そうでしようか : : : 」 とハマムラさんは不服そうであったが、いくら不服顔をされても、実際にその音を聞いてい ない私には何ともいたしかたがないのである。 その翌年 ( 五十一一年 ) は私は娘と二人で夏を過した。勿論、「屋根の上の足音」のことなど きれいに忘れていた。 ところがある夜、眠っていた私はふと目が覚めた。 音 頭の上で音がしている。誰かがゆっくり歩く足音だ。 足 の 何の音だろう ? : : : 多分、猫が歩いているのだろう 上 そう思ったまま、再び眠りに落ちて行ったのだったが、翌朝になって、ふと昨夜のもの音をの 思い出した。 もしかしたら、一年蔔 目、ハマムラさんが聞いたという音はあの音ではなかったのか ?

6. 日当たりの椅子

大工のヒライさんは、屋根の上を人が歩く足音を熊だといった。それならば熊の爪跡がある 筈だが、 そんなものはどこにもないというと、今度は烏だといった。確かに私の家のまわりに は烏が多い。朝、起きてカーテンを開けると、ギョッとするくらいに烏が柵の上に並んでいる。 まるでヒチコックの「鳥」という映画のようだと思うくらいに庭を埋めていることも再三であ しかし鳥というものはすべて、夜になると目が見えないものではないのか ? 深夜、見えな い目を見開いて、なにゆえ烏が屋根の上を歩くのだろう ? 私が真剣に問い詰めると、ヒライさんは苦笑して、 「そりや、烏に訊いてみないとわからね」 というのである。ヒライさんは「わからね」ですむからいいが、私の方はそうはいかない。 毎夜灯しておいた庭の誘蛾灯が消されていたことも、きちんと揃えておいたテラスのゴム草 す 履が朝になると遠くへ飛んでいることも、ヒライさんは、すべてを烏の仕業にした。 ま 私の家の庭には脚を洗ったり魚を料理したりするための小さなコンクリートの流しがあるのり だが、その流しの排水口に、ゴミ除けの小さな金アミ様の蓋がついている。ある朝、カ 1 テンが を開けると、目の前のテラスのテーブルの真上に、チョコンとその金アミ様の蓋が置いてある 置 ではないか。 「あっ ! 」

7. 日当たりの椅子

「狐は高いところには登らないとすると、こりや熊だべ」 とヒライさんはいっこ。 しかしそれなら、 いったいなにゆえ、熊が人の家の屋根に上りにやって来るのか。わざわざ 苦労して屋根に登らなくてもガラス戸を破って家の中へ入って来た方が、熊としては面白いの ではないのか。 あれを考えこれを思い、わけがわからなくなったヒライさんは、 「こりや、やつばりセンセ工の幻聴だべ」 勝手に決めて納得してしまった。 私は一年前にパトカーを呼んだハマムラさんを思い出した。今更のようにハマムラさんが懐 かしく、二人でしみじみ語り合いたい心境である。 そんなある日、泊り客が帰ったあとのシーツを、クリーニング屋に出そうと三枚、台所の隅 に置いておいたのが、いつの間にか一枚足りなくなっていることに気がついた。 コソドロか ? ・ 足 の 泥棒ならば三枚とも全部持って行く筈である。なぜ一枚だけなくなっているのだろう ? 上 その時、夏の初めに東京で送り出した八個の荷物のうち、一個だけなくなっていたことを私の は思い出した。荷物は大工のヒライさんがトラックで東京へ来たときに、預けたもので、ヒラ ィさんは私の家の玄関の上り框に積んでおいてくれたのだ。私は一個足りないことに気がつい

8. 日当たりの椅子

山の上のセンセ工 長椅子の黒光り シロイトの竜神さん トクさんの八木節 屋根の上の足音は 物置小屋がありますか 神サマの八ッ当り マグニチュード 1 水道見物 エリモの爆竹男 ″仔馬〃のママの心中事件 90 79 工 02

9. 日当たりの椅子

ということは、誰かが消しておいたということになるではないか 誰が消した ? 悪戯か ? 深夜 ( か明けがた ) 四百メートルの山道を登って来て、庭の誘蛾灯の紐を引っぱっておくの が面白いというのか ? 例によって、ああ考えこう考え、そのたびに大工のヒライさん、漁師のハマノヤさん、牧夫 のモンべッさんは意見を求められ、とどのつまりは「センセ工の気のせい」ということになっ て私は不機嫌に黙すのであった。 っこ 0 の屋根の上の足音は

10. 日当たりの椅子

深夜、屋根の上を人が歩く足音を聞いてからというもの、私の家には次々といろんな″不思 議〃が起るようになった。 しかし一口に″不思議〃というが、″不思議〃の定義づけはむつかしい。にとって不思議 なことがには全く不思議ではなく、には不思議でも何でもないことが、には不思議でた まらない 一つの現象に不思議を覚えるか覚えないかはその人の感性、理性、大袈裟にいう ならば宇宙観にも拘ってくるのである。 私が不思議不思議と騒ぎ立てることは、なぜか誰からも不思議がられない。なぜこのような 不思議を、人は不思議がらないのかが私には不思議でたまらないが、人はこんなことをひとり で不思議がっている私を不思議がるーーーのならまだいいが、不思議がらずにただ嘲笑するばか りである。 物置小屋がありますか かかわ