166 「ところで佐藤さん、恋人はいますか」 「それがね工、ほしいんですがねエー うつみさん、いわく 「恋人ができたら困る困ると思っていればできるんじゃないんですか」 何だかそれでは、常にほしいほしいと思ってるみたいではないの。 ショックな質問 髪が長くなった。毎日、梅雨の雨がつづいてうっとうしい。長い髪が煩らわ しいが切ってしまう決断もっかない。思いついて三ッ編みにして両肩に垂らし た。女学生時代に返ったようで若返った気分である。家の者が、 「似合いますよ。とてもかわいいわー などというものだから、つい 「ねえ、リポンない ? ー などと調子にのって、歌を歌う。 「 : : : さよならといったらアだまアあってうつむいてたおさげがみ : : : 」 わず
216 と叫ぶより早く先方は飛鳥のごとく身を翻して玄関から消えた。飛鳥の人は娘の家庭教師の青 ののし 年であった。娘は恥ずかしがって、先生に会わせる顔がないと私を罵る。 古今東西を問わず男は女の裸を喜ぶものではなかったのか。ヌードと聞けば膝を乗り出すので はなかったか。それなのに逃げるとは何ごとか。私だって女である。私はその青年に憤りを禁し えない。 我が家の奇習 私が裸が好きなのは、これは我が佐藤家の風習が原因している。父も兄も裸が好きで、私は幼 時より裸に馴れ親しんで育ったのだ。父は夏になるとふんどしひとつの裸になって日を暮らす。 ふんどし 父は越中ふんどしの愛用者で、「褌の最も進歩したるものは越中褌なり。俳味あるものも越中 褌なり」と日記に書いている。越中褌のどこに俳味があるのか私にはわからぬが。 うらわ 兄の方はふんどしも用いぬ素裸で日を暮らす。客があるときは団扇で前を押えて応待する。と きどき団扇を右手から左手へ持ち変える。来た人は目のやり場に困るというが、べつに見せまい としているわけではないから見たければ堂々と見ればいいのである。 ある雑誌社の女性編集者は、サトウハチローの家へ行けといわれると泣き出したそうだ。なに ひざ
229 思いだした話ーーー終章 当 た る 場 に と り 出 さ と が な か っ た か ら も ら ず 幹 伸 葉 も ら ず て 失 だ 所私を た ち は ど う れせを ら ぬ も の と し て 、を の み で は く け た つれ は 日 にチ 時に ろ不 恋も かそ られ代失 でか 。想 ああ 、そ がメ は験 恋あ 女い し少 封 ~ る実 があ か年 。た 際は よ風な悩 つ人 悪い ちを 。気を好 経だ とな っ体 でを書残 オ艮 ) い て坊 わカ がた 張す れな すわ うにン はを つな びむ れう ずだ 恋な にが にガ 茂あ でな 従そ いか の編 経集 でそ あカ がは て 育 てノ る す じ ら れ て た の 、で 恋ああ る も春私 亦 べ男な 父 は い徳 と し て 。か験 て た そ ゆ ぇ を 感 じ る と が あ っ と だ う 恋 の が の 若 ろ の 恋 愛 か た い と の で あ る 私 た ち の と 愛 に 話 切 っ た さ そ か 心、 の 中 で ツ い 気 な も ん と て い た そ う す か を礼人 し ま と ん る と の は む っ と し た 感 に な て 失 し た 験 は あ り ま せ ん あ る の と い ん で い る う で あ つ た 私 若 い っ た か ら ノ、 邪 を ひ し、 た そ下験 れ痢を し の と じ よ う 誰 に も 失 恋 験 っ た の 私 の は い つ も ま い 持 け を し て ち るれ消方刈 ん に つ て し ま た の あ る い つ る 雑 か た の 失 亦 の け と い て 困 ゾこ と 目う る そ の 者 ヤ ン り と 。の の き に り り と る か メ を と る に 。と の り っ関ネ う つ い に も い る と ど し る と でだ刈 ん
240 「はア、おかげさんで」 とおテコを憮でた。それは三十五年経った今も変わらぬ懐かしいおテコであった。 左むけ左 昔、警察官を巡査と呼んだころのおまわりさんが私は好きである。明治三十八年の我が父の日 記にこういう一節がある。 「巡査という者は一日一ばい同しき所にいて何を考えいるものにや。余、若し巡査たらば果して ひた 如何など思い耽りつつ歩みしが、突然『左 / 』と叫べる声を聞きて余は巡査の眼前にありたるに しこう 気がつけり。而して歩を左側に取りて思いぬ。なる程こんな事を咎むるにあらざれば巡査も退屈 に困るわけなり。巡査が人民を守るの義務あると共に、人民は巡査の退屈を慰むるの義務あるも のなりと 「左側通行」というのではなく「左 / 、と一言叫んだところに昔の巡査のおかしさがある。巡査 が警察官と呼ばれるようになった今はどうか。 「もしもしあなた、右側を歩いてくたさい。危ないですからね。や、ご苦労さんー これではちーともおかしくない ) はんとに何もかもおもしろみのない世の中にな「てしま「た。 とカ
197 聞いた話 , 見た話ーー 4 章 思って聞いていただきたい。 か弱い ( ? ) 女の身で数千万の借金を数年にわたって返していくというのは、 かけ これは私にとってさらに大きな賭であった。私には親の遺産もなく金持ちのパ けん トロンもなく、徒手空拳、少女少説を細々と書いて一家を養っている身であっ 」 0 今から思うとその借金は私の無謀極まる″賭〃であった。突然、ギャンプル の神が私に宿って大バクチをうたせたとしか思えない。 その賭に私は五年かかってやっと勝った。その結果、ある日私は気がつい 私は賭ごと、蒐集、スポーツ、何ひとっとしておもしろいと思わなくなった のである。 つまり私はカタワのような人間になったのだ。競馬へも二、三度行ったが、 どうせ私が買う馬券なんて額が知れてる。五万や十万の金を儲けても、損をし うれ ても、嬉しくも悲しくもないのだ。 何をやってもスリルがない。それはもしかしたら、借金のスリルをいやとい しようちゅう うほど味わったせいかもしれぬのである。焼劑を飲んでいたやつが、灘の生
かさげた へ行っている令嬢に傘と下駄を届けようとして家を出かけたところへ羯南が帰ってきた。 どこへ行くかと聞かれて、 「お嬢さんの傘と下駄をー しか と答えかけると、羯南は夫人を呼んで叱りつけたという。 「男子たる者に子供の下駄を持たせるとは何ごとか / そんなことより、男にはもっとするべき ことがあるはずだ / 」 このごろ、小学校で男子に裁縫や料理を教えるという。なぜかと聞くと女のすることをしてお くと、将来、家庭を持った時に妻の仕事に理解が持てるからだという。いろいろしてみなければ 理解できぬというのであれば、子供も産んでみなければなるまい。 ほんとは女房に逃げられた時の用意のためではないのン ? テレフォン人生相談 このごろ、どういうわけか男性から電話で身の上相談をよく受ける。いずれも話を聞いている とムカムカしてくるようなのばかりである。私は短気者ゆえすぐにどなってしまう。 「あなた、そんなこといってるから奥さんに逃げられるんですよ / 」
ー 68 ☆ ☆〇 娘「そうかな、けど、コロはトビはねてないよ」 我が家の雑大は、大小屋から顔を出して上目づかいにモソッとこっちをみて いる。ああ、犬は大らしさを失い、子供は子供らしさを失った。日本はもうお しまいである。 子供は知っている クリスマスが近づいてくると、私の父は私にサンタクロースに手紙を書きな さいというのであった。私は、 「サンタクロースのおしいさん、わたしはママーにんぎようがほしいです」 などと書く 。父はほくほく喜んで、 「よしよし、サンタクロースはきっときてくれるよ しかし私は心の中で、「サンタクロースなんて、そんなもん、おらんのに」 と思っている。 クリスマスの朝、目がさめると枕許にママー人形がある。父がきて、 「やあ、やあ、やつばりサンタクロースはきたんだね。さあ、サンタクロース
167 聞いた話 , 見た話ーー 4 章 0 0 0 0 0 0 0 0 0 そこへ中学校から娘が帰ってきた。 「ママ、どうしたの ? 」 「どうしたの、って何が ? 「どうしてインデアンの酋長の奥さんの真似なんかしてるの ? 」 娘がマジメに聞いているのがンヨックなのであった。 この世の終わり 朝から春の雪が降りしきっている。もう雪が降らなくなったころに雪が積も るというのは、子供には嬉しいものだ。いや、嬉しいはずである。しかし、我 こたっ 。 0 0 が娘は朝から炬燵に入ってノンツとしている。 。私「ノンノンしていないで庭を走ってきなさいー 。。娘「なぜ走るの ? 」 私「雪が降っているのをみると胸が躍ってきてトビはねたくなるものよ 娘「なんのためにトビはねるの ? 」 。私「それが若さというものです。犬と子供は昔からそうときまってます」 0 0 0 0 0 0 0 おど
よ、 すなわ 悲しいかな、男のストリップにはこういう楽しみがない。即ち、オープンは閉ざされているゆ えに成り立っ楽しみなのである。はじめから押しつけがましくオープンしている男に、なんで見 る楽しみがあろうそ、と。いや、ごもっともさまです。 戦争の教訓 三十三年前の十二月八日の朝、父の友人から電話があって日本と米英との開戦を伝えた。父は 興奮して叫んだ。 「とうとうやったか : : : よろしいツ・ しかし母は父にいった。 「アメリカみたいな大国と戦争して勝てますかいな。日本の何倍もあるような国と」 きげん 「国の大きさではない / 大和魂だ / 女の機嫌ばかりとってる奴が勝てるわけがない」 そうするうちに来客が次々にきて、皆、この開戦を喜び興奮している。母はかげで私にいっ 「男ちゅうもんはオッチョコチョイやで、女がしつかりせなあかん」 た。 やっ
53 奇妙人間の話ーー 2 章 えに淡水魚の王者と決められた。その王者が失神したりしては困るのだ。それ たん ゆえ膽勇の魚と解釈され、クモは醜きゅえに簡単に弱虫にされた。 、里ませ、ぜ、池で飛び跳ねているくらいで、サケや 鯉の滝のばりというカ魚を マスのように小さな滝を飛び越すことさえできないのだともいう。どこの世界 でもべっぴんさんはトクをする。 ヤジ馬根性 小野田元小尉が姿を現した時の一億総興奮がようやく落ちついたと思ったら、 例によって感激さめた後の批判憶測が流れはじめた。 がたき 横井さんは出現当時とうって変わってネウチ下がり、商売仇が出てきたので このところ怒ってばかりいるなどと、昨日も遊びにきた週刊誌記者がいってい た。 小野田さんは記者会見の台詞を教えてもらったにちがいないとか、小塚さん が亡くなったことは食糧難のかの地では、むしろ喜ばしいことだったのだ、な どとまるで見てきたようにいう人がいる。ゲスのカングリという言葉がある