ウサギ - みる会図書館


検索対象: 男友だちの部屋
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1. 男友だちの部屋

~ 辰しきウンコ・ ホコリ高きアナグマちゃん : 合理的解決法 ? 鳴呼 ! ウナギちゃん , とびはねウサギ : につくきウサギ・ 悠然たりウサギちゃん : タヌキちゃんのソフア・ どっちが悪い ? ケチケチダヌキ : おタヌキよしのタヌキちゃん : 思い出すさえ胸痛む :

2. 男友だちの部屋

とびはねウサギ ウサギちゃんは美男子である。 いや、正確には美男子であった、と過去形をもって語った方がいいのかもしれないが、 今でも、そこはかとなき美男子ぶりが漂っている「そこはか美男子」である。 そしてまたウサギちゃんは、よき父であり、よき夫であり、よき友である。常にもの静 か、悠揚迫らざるもの腰、声も小さく一言葉づかいは穏やかで上品、育ちがいいので丁寧語、 尊敬語なども幼時より身についている自然さで、私のようにとってつけたように丁寧語を ども 使うので、絶句したり、吃ったりする、なんてことは一度もない ウサギちゃんは「紳士」なのである。争いを好まず、大声を発せず、べつに謝る必要の ないときまで、「ごめんなさい」「おゆるし下さい」を連発する。 普通の男なら、

3. 男友だちの部屋

悠然たりウサギちゃん 一九七七年のその年は、私にとって最悪の年ともいうべき年であった。腱しよう炎を悪 化させてペンが持てなくなったのもこの年なら、北海道の別荘の屋根の上で、夜な夜なの ふる っしのつしと大男の歩く足音がして、すわ妖怪変化の仕業、と慄えたのもこの年である。 そういう悪い年になったのも、新年そうそう、ウサギちゃんのためにケチをつけられた ためでなくて何であろう。 はず ウサギちゃんに貸した金がもどらず、入る筈の利息も入らす、私と娘は旅行先で粉雪を 衝いてうどん屋を探して歩きまわっている時、ウサギちゃんはお手伝いも連れた一家総出 でホンコン旅行をし、山のような買物をした。 「ばくとしては珍しく、買って買って買いまくった」、と生意気にも新聞に書いているの である。そうして山のような買物を羽田の税関が調べた、その調べかたが無礼であると怒 っている。 こっちは「山のような買物」どころかー っ

4. 男友だちの部屋

といって、ビデオカセット代をさし引かれたからである。なんで私が貰うべき利息の中 からビデオカセット代が差し引かれるのか、その理屈はいまだにわからないのである。 しばら それから暫くしたある日、私はデパートで買物をし、勘定を支払おうとして財布がない ことに気がついた。中身を全部出し、ハンドバッグをサカサにして振ったがない。 4 わかーレい ' ノンドバッグの裏布の縫目が破れていて、我が財布は表皮 大さわぎしてよく調べれば、、 と裏布の間に隠れてしまっていたのである。 数日後、私は銀座の酒場で偶然、ウサギちゃんに会った。会うなり私はいった。 「ウサギちゃん ! あのハンドバッグなによ ! ひと月も使わないうちに、裏布が破れて しまったわよオ」 「破れましたか、それはいけよ、 「なにがそれはいけない、よツ」 と怒ったものの、どうもウサギちゃんの様子がちがう。この間うちとは違って一一 = ロ葉少な である。 その時はそのまま別れたが、その後、こういう噂が方々から聞えて来た。 うつびよう 「ウサギ先生はこの頃、鬱病におなりだそうですねえ。鬱病になったのは、何でも銀座

5. 男友だちの部屋

声はカレガレ、恥かしさと憤怒の汗はダクダク。仕方がない。次から号令をかけること 「サン、イチ、ニイ、サン、ハイツ」 という調子である。 「うまいうまい、その調子、わかったね ! じゃあ、今度は号令なしでやってごらん」 するとまた、三からズイと出て来て、私の憤怒の絶叫が響きわたる。 人の目にはどう映っていたかは知らず、私とウサギちゃんの間柄というものは、そのよ うなものであった。つまり劣等生と教育熱心な女教師という関係である。 ある日、ウサギちゃんは私にいった。 「すみませんが、五千円ほど貸してくれませんか」 ウサギちゃんはとある酒場のホステスを好きになってしまい、そこへもう一度お酒を飲 屋みに行きたくなった。その費用を私に借りたいというのである。 の「仕方ないわね、何とかしてあげる」 女教師としてはいつも怒ってばかりいるわけには行かない。私は姉のところから五千円 友 男 を借りて来て、新宿の駅でウサギちゃんにそれを渡すことにした。 約束の時間に指定の場所へ行った。なぜそのような場所を選んだのか、新宿駅を出たと

6. 男友だちの部屋

に精いつばいで、とても着るものに、いを遣うどころではなかった。しかし、それにしても、 その中でもひときわウサギちゃんの足拭きズボンはきわ立っていたのである。 その足拭きズボンに泥靴を履いて、ウサギちゃんは社交ダンスを楽しんだ。そのダンス のお相手である私は、父の古背広を仕立て直したスカートにいつも緑色のトックリセータ へつに好きで着てい ーを着ていた。緑色がお好きなんですね、と何度か人にいわれたが、。 たわけではない。それ一枚しかなかったのだ。 足拭きズボンのウサギちゃんと、緑のトックリセーターを着た私はよく踊りに行った。 題して「焼け跡の美男美女」ともいうべき一幅の絵である。読者は芸術の夢に燃える若 く貧しき男女のロマンチックな情景を想像されるであろう。想像は自由である。 しかし現実はウサギちゃんは私に叱られてばかりいたのだ。 「あツ、また踏んだ ! 」 屋「ごめんなさい」 の「こら ! 蹴らないでよ ! 」 だ「ごめんなさい」 男 という調子である。音楽はワルツになる。ご存知のようにワルツは「三、 とはじ、まる。

7. 男友だちの部屋

女先生と劣等生 ウサギちゃんと友だちになったのは、私が二十六歳の時、結婚生活をやめたが、 何も出来ることがないから小説でも書こうかという気になって、文学志望者のグループに 加入した時である。 ウサギちゃんは美青年であった。白くやわらかそうで、身についた丁寧語を使い、一見 して良家の子弟という風貌で、そうして着ているものは実にオンポロであった。もしかし たら、ウサギちゃんの美青年ぶりは、そのオンポロ風態によって、実際以上に引き立って いたのかもしれない。 ズボンはすりきれた風呂場の足拭きのようで、開襟シャツの背中にはべッタリと雑巾大 のツギが当って、おそらくはお手伝いさんの手によるものであろう、グシャグシャと乱暴 に縫ってあって雑巾ふうである。学生服はカビの生えたヨーカン色で、なればこそウサギ ちゃんの色白も映えるというわけであった。 よじん 当時ーーー昭和二十五、六年頃は日本は敗戦の余燼の中にあって、皆貧しく、食べること

8. 男友だちの部屋

貶ころの共同便所のそばである。その臭いところで実に一時間も私は待たされた。私が金を 借りるのではない。向うが私から借りるのだ。なのに一時間も待たせるとは何ごとか , 憤怒が脳天を貫きかけたとき、白いやわらかそうな顔をしてウサギちゃんは悠々とやって 来た 「何してたのよ ! どうして時間通りに来ないのツ ! 」 女教師は叱りとばす。劣等生はモゴモゴと、 「ごめんなさい ヒゲを剃っていたもんで」 す 惚れた女のところへ行くので、ないヒゲを剃っていたというのか。摺りきれた足拭きズ ポンをはいて : そう思うと何となくアワレを覚え、 し」 「じゃ、気をつけて行ってらっしや、 「行ってまいります」 ウサギちゃんは素直に挨拶をして私と別れたのである。 それより三十年近い月日が経った。 ウサギちゃんは、今では老若男女、幅広い読者を持つ人気作家になっているが、私たち はなぜか、今でも会うと女教師と劣等生風になってしまう。ある時、私はウサギちゃんに いってやった。

9. 男友だちの部屋

しかしまあ、よくそ思い出して買って来てくれました、と私は少し感激した。そういえ ばいつだったか近いうちにホンコンへ行く、とウサギちゃんがいっていたことを思い出し た。その時、私は厚かましくもいったのだった。 「ホンコンへ行くんなら、ハンドバッグの一つぐらい、私に買って来なさいよ ! 」と。 しいですとも。どんなのがお好みですか ? 」 「とにかく大きいやつがいいわ。手帳、小銭入、名刺、老眼鏡、サングラス、文庫本、札 束のぎっしり詰った札入 : : : 私はいろいろ入れますのでネ、小さなハンドバッグでは入り きらないし、さりとて大きなのでは産婆さんの鞄みたいなのが多いのよ」 「なるほど。大きく何でも入って、産婆さん風でないモノですね」 「その通り。ヘンなのを買って来ると承知しないからネ」 という会話を交したのは年の暮のことだったか。私は忘れていたが、ウサギちゃんはち ゃんと買って来たのだ。 丁度、ある雑誌でウサギちゃんと対談の機会があって、その席で私はハンドバッグを受 け取った。 「もし気に入らない時は女房が悪いんだから、怒るのなら女房に怒りなさい」 といいながらウサギちゃんがさし出したハンドバッグ。私は袋からとり出して眺め、 「う ~ ん、結構。やつばり奥さんはモノのわかる方。これほどの人がなんであんたなんか

10. 男友だちの部屋

ウサギより、 アイコどの、 屋註、この借用証書は後に値がでますから、大切に保存しておきなさい」 部 の ち だ「私、生れてはじめて、このような借用証書を見ました」 男 と浮かぬ顔の銀行の人はいったのであった。 金を x 百万も出したのは、仲間うちでも一番、金を持っていないこのわたくしだったと そこへ、ウサギちゃんのところへ金を届けに行った銀行の人がやって来た。 「ただ今、行ってまいりました」 「ありがとう。ご苦労さんでした」 という声は、我ながら重病人のよう。 「私の一存でウサギ先生に借用証書を書いていただきましたのですが」 銀行の人は、何やら浮かぬ顔で、鞄から一枚の紙キレをとり出して私に示す。ウッロな る目でそれを見れば、 「金 x 百万円也拝借しました、