ホント - みる会図書館


検索対象: 男友だちの部屋
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1. 男友だちの部屋

燗と私の声は弾んだ。 「勿論やがな。タダでやる。フランス製のファニチュアーやで。三人がけの大長椅子に肘 かけソファ二脚、小椅子一脚、それにテープルもついておる。買うた時の値段は、びつく りするな、実に三百万円もしたんやそ ! 」 「へえ、三百万 ! でもホント ? 「ホントとは何やホントとは ! 色は上品なるべージュだ。ソフアの材質はビロードとい うのんかな、すべすべとやわらかな肌ざわり、クッションのよいことというたら、ふうわ りと身体沈んで天国に遊ぶ心地 : 私はどうも怪しげな気持になって来た。タヌキちゃんが力をこめて大声で演説調になる とき、眉にツバつけて心引き緊めねばならぬことは過去の幾つかの事例が物語っている。 とはいうものの、新家屋に入れる家具はないのである。 「いるのか、いらんのかどっちゃ ? 」 と訊かれると、 といわずにはいられない 「よし、そんならやる。その代り運搬はそっちでしろよ」 たまたま、東京へ北海道から馬を運ぶトラックがやって来た。浦河町は馬産地なので始

2. 男友だちの部屋

と笑った。 私が旅先から娘に電話をかけると、娘はいった。 「。ハバ、来たわよ , バ。ハって、アタマいいねえ。ホントにアタマいいねえ。私、生れて からあんなにアタマのいい人、はじめて会ったわ」 はず 娘の声は興奮して弾んでいた。 「ホントにアタマいいのね。ママの百倍もいいねえ」 「フン , いくらアタマよくたって、破産したんじゃしようがない」 私が口惜しまぎれにいうと、娘はアハハ、 ノと上機嫌に笑った。 旅から帰った私に、娘は父親がしゃべった文学論、三島論を話して聞かせた。娘は生き 生きし、その時からの気持の昂揚がまだ衰えずにつづいているようだった。彼女の父親は はじめて、彼女の中で尊敬に価する父、誇ってもいい父として存在したのである。 しよくギ、い 私はほっとし、娘に対して贖罪を果したような気がしたのだった。 父親に対する再発見の後、つづいていた興奮が鎮って来たとき、娘はふといった。 9 「でもねえ ノってねえ、やつばり、私にとっては『パパという名のおじさん』だなあ」 ら 私は言葉に詰って、 中 「ゾ」 , っして」 とつまらない問いを返した。だが娘は何も答えなかった。

3. 男友だちの部屋

128 思い出すさえ胸痛む この「男友だちの部屋」の連載を読んで私の娘はいった。 「ママの友だちって、変った人ばっかりね、どうしてだろう ? 」 どうしてだろう、と改めて不思議がられると、私は「どうしてだろうってどうして ? 」 と逆に訊きたくなる。 今まで私は私の男友だちのことを特に「変ってる」と思ったことはないのである。極め て平常の感覚でつき合って来て、そうして極めて自然な感情で彼らのことを筆にした。す ると読んだ人たちは皆、呆れていう。 「ホントに皆さん、変っていらっしゃいますのねェ」 「それとも佐藤さんの筆にかかると、皆、おかしくなってしまうんじゃありません ? 」 などという人まで現れ、私は憤然として、 「そんなら一度、会って来なさいよ ! 」 と怒りたくなる。するとある人、 あき

4. 男友だちの部屋

37 男友だちの部屋 奥さんは笑おうか、それとも苦々しげにしようか迷うようなふうで絶句。べつの奥さん がとりなし顔で、 「作家のかたがたって、ホントに思いきったことをスラスラとおっしやるのねえ」 べつにウンコの話が「思いきった話題」とは私は思っていない。極めて日常的な、あた 一日にご飯を四度食べるとか、おかゆが好きとか、ニギリ飯がい り前の話題ではないか。 いなどというのと同じではないか。片方は排泄物、片方はそのモトだ。それだけの違いな のに、ウンコの方ばかり下品がる。これそサべッ意識でなくて何であろう , 私の女友だちにいわせると、そういうことを平気で大声でいう私は、悪しき男友だちの 悪影響を、もはや救いようもなく受けてしまっているそうである。

5. 男友だちの部屋

259 ちょっとした感想 ほおづえ つぶや て頬杖ついて呟いている。 「ホントになぜなんだろう、夫が何をしているのかわかっていないんだろうか。それとも わかっていても、そんなことではアイソが尽きたりしないのかなあ。うちの主人は甲斐 しよう だま 性があると思って満足しているのかなあ。それとも夫がうまく欺しているのかしらん。 せんさく 夫を信用しているから欺されるのだろうか ? 怪しいと思っていても、穿鑿しないのね。 でも浮気の方だけはすぐわかって、決して欺されないのね。シャカリキに穿鑿するわね。 私立探偵使って探らせたりして大金使うけど、夫に汚職の疑いがあるからといって私立探 偵を雇う奥さんはいないみたいね」 娘はいった。 「ああ女ってダメだ。清けない ! 」 私は片づけ物をしながら、それはなかなかいい着想です、といったが年の瀬にこんなこ とを考えている我が子の将来は、母親と同じく多難であろうと心の中で憂えている。

6. 男友だちの部屋

232 といって帰って来た子供に 「エライ、エライ、強いのねえ、ボクは : そういう時の母親みたいな気持だ。 最近、宗薫に会ったら、 「どうもこの頃、もてなくなったなア」 「もてなくなった ? 昔からそうじゃなかったの ? もてないのを、ヘタなテッポも数打 ちや当る、という具合に打ちまくって当ててただけじゃないの ? 」 早速、私はにくまれ口を叩くが、宗薫はビクともせず、 「そんなことないよ、もててたよ」 臆面もなくいい張るのである。 「それがねえ、どうもこの頃ダメなんだな。ジジイになったからかねえ」 そう独りごちて憮然とされると気の毒になって来て、 「あなたね、女の子に対して情熱的に迫ってる ? 一度ことわられたら、すぐ引っこんで るんじゃないの ? 」 「そうだな、ことわられたらすぐ諦めて、別のを探す」 「だからダメなのよ。女はね、押さなくちやダメ。ホントに忽れ込んだんだ、君がほしい

7. 男友だちの部屋

「ウサギ先生にお会いしたことありますけど、それはそれは温厚な紳士でいらっしゃいま ー ) たよ」 暗にウサギちゃんがヘンなのは、私のせいだといわんばかりである。 「タヌキちゃんて、ホントにケチなの ? ママと一緒にいると、ああなっちゃうんでし と娘までがい、つ。 「朱にまじわれば赤くなるって、よくママがいってる。ママは朱なんだ、きっと」 いや、それよりも「類をもって集る」という格言をあては そうかなあと私は考えたが、 めた方がいいのではないか、と反省したのであった。 それで今回は、「類をもって集った」友だちでない人のことを書くことにする。その名 をコアラちゃんという。 屋あれは私が直木賞を貰って三、四年目ぐらい、東奔西走という形で働きまくっていた頃 の のことだ。 ち 友秋の中頃、私はコアラちゃんから秋田県の角館というところへ講演に行っていただけ 男 ませんか、と頼まれた。 「いただけませんか」という頼み方をするコアラちゃんは、穏和篤実の士である。 よ かくのだて

8. 男友だちの部屋

というロ答えが返って来る。 働く気になれば、し 、くらでも女の働きロはあるのだ。へたをすると、 「誰のおかげで暮しがラクになってると思うのよッ ! 」 と逆にやられる。 今までは夫の出世は妻にとって、最高の幸福であった筈なのに、 「エコノミックアニマルが社長に取り入って出世街道ひた走り。ホントに情けないわア、 どうしてもっと悠然としていられないのかしらねえ」 かげぐち と蔭ロ叩いている。 「仕事仕事って、仕事にかこつけて、何してるかわかったものじゃないわ」 「人を蹴落してまで出世してもらいたくないわ」 「いくら偉くなっても人間性が、、 セロじやイヤねえ」 「尊敬出来る男じゃないと私、イヤ」 好き勝手な批判に明け暮れる。妻が夫の「人間性」まで云々する時代が来たのだ。これ からは男はもう、地位と金によって人間性のお粗末さをごま化すことは出来なくなって行 くだろう。

9. 男友だちの部屋

「喜んどりやせんよ。ただ呆れとるだけや ! 」 かくて私はひとりで北海道に土地を買い、家を建てることになった。友だちは沢山いる のに誰ひとりとして行動を共にする人はいないのである。 家は半年後に建ち上った。だが私のフトコロはすっからかんである。予算が超過して家 具を買い入れる金がない。なぜ超過したかというと、タヌキちゃんのいった通りだった。 その地は山の中腹、海より吹きつける風すさまじく、ヘタをすれば屋根が飛ぶ。それを飛 ばさないようにするための補強工事、あるいは水道、電気工事に平地の何倍もの費用がか かったのである。柏の木が大木にならず、灌木のごとくうずくまっていたわけがやっとわ つ「 ) 0 、刀子 / 「それみイ、だからいわんこっちゃない ! 」 とタヌキちゃんは得意満面。しかし、 屋「ところで家具はどうするんや ? 」 の と親切に訊いてくれた。 ち 「だから家具買う金がなくなったんよ」 男 「しようがないなあ、そんならウチの家具をプレゼントしてやろうか」 「ホント ? くれるの ? タダで ? 」

10. 男友だちの部屋

叫んでたらふく食べ、あとで勘定書を見てギョッとして胸塞がり、明日はどうでもうど ん屋を探し当てるそ、と決意する。 五日目にやっとうどん屋を探し当てた。 「あっ、あった ! 」 娘ともども叫んだときの嬉しさ。しかしその日はもう帰宅の日である。ホテルを出、旅 行鞄を駅前の一時預けに預けてうどん屋を探していたのだ。 鍋やきうどんを食べて東京へ帰って来た。何のことはない、 うどん屋を探しにはるばる 九州は唐津まで行って来たという正月になった。帰宅した夜、 「これもにつくきウサギのためだ : 「ママの友だちって、ホントにロクな人いないねェ」 娘と会話を交しつつ、何げなく新聞を開いた。すると、そこにウサギちゃんが随筆を載 せているではないか。 「最近面白くないことが重なったので、一家総出、お手伝いも連れてホンコン旅行をして そういう書き出しである。 「何だと ! 」 私は思わず叫んだ。