入っ - みる会図書館


検索対象: 男友だちの部屋
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1. 男友だちの部屋

だいぶ前のことだが、テレビの人生相談にこういうのがあった。 しっと 嫉妬をしている若い妻が、夫に愛人が出来たといって相談をかけている。テレビ局は私 立探偵を放って、夫を尾行させ、浮気の事実があるかどうかを調査した。 夫はダンプカーの運転手だが、仕事が終ると、職場に風呂があるのに、それにも入らす に帰途につく。仲間が訊くと、妻が風呂の匂いを嗅ぎとって、どこで入ったのかと詰問し 想 感たからだという。 夫は電車で家へ帰るのだが、疲れきって、何かを考えこんでいる様子で、電車が来ても 乗るのを忘れたりしている。 ち 自宅のある駅で下車したあとは、真っ直ぐに帰らず、パチンコ屋へ入る。一時間ほどパ チンコをしてから、酒屋へ寄ってビールを一本買い、ヤキトリを買って家へ帰る。 この町にいると、そんな一一一一口葉が、何だか空疎すぎて滑稽に感じられてくる。それは私に とっていいことか、悪いことか、わかりかねているところである。 私が可哀そうに思うとき こつけい

2. 男友だちの部屋

国「だからキミはアカンというのだ」 タヌキちゃんは勝ち誇るように大声を出した。 「土地を買うときはまず、樹木を見よ、ということがある。知ってるか ? 」 「知らんーー。」 「ほんまに頼りないャツやなあ。樹木がいろいろ繁茂しておればだな、日当りよく、風穏 やかで地味も肥えておる。そういうところを買えば、家を建てるにしても、庭木を育てる にしても、あるいは花畑菜園を作るにしてもすべてよし、というわけや」 「、なるほゾ」」 「すると君は草山の、樹木といえば何やら名もわからん灌木のようなものがモゾモゾと生 えておるところを買うたわけか ? 」 「でも考えてみれば、柏の木がそこここに生えていたわ」 「柏 ? それは大木か ? 」 「いや、灌木」 「なに灌木 ? キミ、柏ちゅうもんは大木になるもんやで」 タヌキちゃんの声はますます高く大きくなる。彼の声が高く大きくなる時は、得意と同 時に何やらよろこばしいことがある時なので、私は面白くない 「なにを喜んでるのよ、タヌキちゃん」

3. 男友だちの部屋

「、一に、かノ、 、頼む、来てくれよ」 「何があったのよ、事情を話しなさい」 タヌキちゃんはいっこ。 「君、講演料もらったか ? 」 「もらったわ、さっき」 「ナンポ入ってた ? 」 「ナンポって、約束通りよ」 「約束通り ? 」 「そ , つよ」 突如、タヌキちゃんはわめいた。 「オレの方は君の三分の一やそ ! どないしてくれる ! 」 「そんなこといったって、私は知りませんよ。あんたとさんの問題じゃないの」 屋「彼とはさっきバーで別れたんや。そうしたら今、部屋に入って来て、ぐでんぐでんに酔 の うて、ふらふらしながら入って来てやな、『これ、これ、これでカンべンして下さい』ち ち ゅうてやな、出て行ってしもうたんや。開けてみたら、はじめの話の三分の一 ! 」 友 男 タヌキちゃんはわめいた。 「おい ! 君の講演料の半分よこせ ! 」

4. 男友だちの部屋

と結婚したのか、わからんねェ」 ハンドバッグは三ツの部分に分かれていてたいへん便利である。 イヤミのたけをいってハンドバッグを貰った。これでも日本で買えば、数万はするであ ろう、とひとりはくそ笑んでいたのである。 数日してウサギちゃんから電話がかかった 「アイちゃん、おカネ、余ってないかい ? 」 「どうしたの ? またおカネ貸してほしいの ? 」 「今、買えばね、今までのソンを完全にとり返せるんだよ、一週間でいい、たのむ」 「今までのソン ? あんたソンしてるの ! 」 私は慌てた。私が金を貸さなければソンを取り戻せないとなれば、貸すほかないではな かくて私はまた貸した。一週間でその金の一部は返ってくる。が二、三日するとまた借 屋りられる。返ったり貸したり返ったり貸したりしているうちこ、、 ししオしいくら貸してし のるのかわからなくなってしまうのが、私がカネモチになれぬゆえんである。 ようや 二、三か月そんな騒ぎに明け暮れていたが、漸く全額が返り、約束の利息もいくらか、 友 男 手に入った。いくらかというのは、 「あのね工、ボク、ビデオカセットを買いたいんでね工、それを差し引かせてくれません

5. 男友だちの部屋

116 とタヌキちゃんは私に向っていきなりいった。 「何や、その恰好は ! 」 「何が何やよ、最高のファッションってことがわからんの」 お互いに、「おはよう」でも「こんにちは」でもない。挨拶ヌキの、いきなり「助けて くれ工 ! 」だ。タヌキちゃんとっき合うと、どういうわけかこうなる。私だって、タヌキ ちゃん以外の、ちゃんとした人とっき合うときは、礼儀正しく上品にきちんとご挨拶する のである。 私とタヌキちゃんは汽車に乗った。予定表を見ると講演の後で十日町の織物問屋の工場 見学というのが入っている。 「工場見学ーーこれはどうも」 「気が向かんな」 と、こ , つい , っところは亠夭によく刄が八ロ , つ。 「これ、ぬけるわけにま 「オレもそれを考えておったんやが : : しかし、うちの秘書がこういうんや。工場見学し たら反物の一反くらいきっとくれますよと : 「うーん、そうか」 私は迷った。

6. 男友だちの部屋

はた この誇は、友だちにとっては甚だ端迷惑なものであったのだが、どういうわけか、それ を迷惑と感じるような人間は、その頃の我々の仲間にはいなかった。つまり、「類をもっ て集る」というか、「ひとっ穴のムジナ」というか、「ならず者の集り」というか、人の金 はオレの金、オレの金は友の金、というような気分の連中が集っていたのだ。 へつにコーヒーを飲みたいわけではなかっ ある日、アナグマちゃんは喫茶店に入った。。 たのだが、何となく入ったらしい。そしてそこから私に電話をかけた。しかし私は留守だ ったので、次にカマスちゃんにかけた。カマスちゃんも留守だったので、ウナギちゃんに かけた。ところが、ウナギちゃんも留守だったので、アナグマちゃんは万事休した。なぜ なら、彼は電話代を払ったら一文なしになったので、喫茶店から出られなくなったのであ る。 それでもアナグマちゃんはくじけす、そのうちに誰かが、ひょっこり、姿を現すのでは ないかと待ちつづけた。一杯のコーヒーで、実に八時間、待ったのである。 屋 悠然と立ち上り、微笑 ついに夜になった。誰も現れない。アナグマちゃんは決心した。イ 部たた のを湛えて便所に入った。なぜ便所に入ったのかって ? 彼は便所の窓を。フチ破って逃走したのである。微笑を湛えて。 友 男「微笑を湛えて : : : 人間、ここが大事なんだよ、わかるかね ? 」 アナグマちゃんは落ちつき払って私に教えた。

7. 男友だちの部屋

しかしまあ、よくそ思い出して買って来てくれました、と私は少し感激した。そういえ ばいつだったか近いうちにホンコンへ行く、とウサギちゃんがいっていたことを思い出し た。その時、私は厚かましくもいったのだった。 「ホンコンへ行くんなら、ハンドバッグの一つぐらい、私に買って来なさいよ ! 」と。 しいですとも。どんなのがお好みですか ? 」 「とにかく大きいやつがいいわ。手帳、小銭入、名刺、老眼鏡、サングラス、文庫本、札 束のぎっしり詰った札入 : : : 私はいろいろ入れますのでネ、小さなハンドバッグでは入り きらないし、さりとて大きなのでは産婆さんの鞄みたいなのが多いのよ」 「なるほど。大きく何でも入って、産婆さん風でないモノですね」 「その通り。ヘンなのを買って来ると承知しないからネ」 という会話を交したのは年の暮のことだったか。私は忘れていたが、ウサギちゃんはち ゃんと買って来たのだ。 丁度、ある雑誌でウサギちゃんと対談の機会があって、その席で私はハンドバッグを受 け取った。 「もし気に入らない時は女房が悪いんだから、怒るのなら女房に怒りなさい」 といいながらウサギちゃんがさし出したハンドバッグ。私は袋からとり出して眺め、 「う ~ ん、結構。やつばり奥さんはモノのわかる方。これほどの人がなんであんたなんか

8. 男友だちの部屋

ム「」 , っして ? ・」 カッパちゃん「ホテルの便所は気持がいいからね。気持よくウンコが出来るのはホテル が一番だ」 私「女の子を待たせておいてウンコしてるの ? 」 カッパちゃん「そうだよ。オレは一日に四回するからね。いつも外でウンコをしたくな った時はどうするかということを考えてるんだ」 カッパちゃんのウンコ四回の話は、飽きるほど聞いているが、その度にカッパちゃんは、 「どうだい ! 」と自慢そうな顔になるのが私はふしぎでならない。するとアザラシちゃん つつ ) 0 アザラシちゃん「オレは一回、毎朝、必ず出る。朝起きて朝刊を取りに行って、それを 持って便所に入るんだ。といってもべつに時間がかかるというわけでもないんだ。すぐに 出る。だけど、必ず新聞を持って入るんだなあ。日によって、今にも出そうに迫ってる時 屋があるけど、それでも新聞を必死で探してる。手近にない時は新聞の間に挟んであるチラ のシね。アレをひっ掴んで駆けて入るんだ。大急ぎでひろげて、何とかバーゲンセール、夏 ・ : なんて読んでる」 だもの一掃、とかね、卵一割引 : 男 カツ。ハちゃん「なるほど、一種の条件反射なんだな」 カッパちゃんはもっともらしく亠月く。 つい私も引き込まれて、

9. 男友だちの部屋

貸したわね」 「ああ、そうそう、そんなこともありましたねえ」 「あの五千円、まだ返してもらってないわよ」 「えっ , はんとかい ! 返してなかった ? 」 「返してもらってないわよう」 「そうかあ ? 返してなかったかあ : : : 」 ウサギちゃんは、この頃モノ忘れがひどくてね工とこばしているので、私はいった。 「ダメよ、借りたものは、ちゃんちゃんと返さなくては」 ほんとのこというととっくの昔に返してもらっているのだ。 「こんど返してね、きっとよ」 「ごめん。この次返すよ」 しかしいつまでたっても五千円持ってこない 屋いでいて、しないもんなんだなア。 部 の ち 友 男 。もの忘れ症というものは、ソンするみた

10. 男友だちの部屋

悠然たりウサギちゃん 一九七七年のその年は、私にとって最悪の年ともいうべき年であった。腱しよう炎を悪 化させてペンが持てなくなったのもこの年なら、北海道の別荘の屋根の上で、夜な夜なの ふる っしのつしと大男の歩く足音がして、すわ妖怪変化の仕業、と慄えたのもこの年である。 そういう悪い年になったのも、新年そうそう、ウサギちゃんのためにケチをつけられた ためでなくて何であろう。 はず ウサギちゃんに貸した金がもどらず、入る筈の利息も入らす、私と娘は旅行先で粉雪を 衝いてうどん屋を探して歩きまわっている時、ウサギちゃんはお手伝いも連れた一家総出 でホンコン旅行をし、山のような買物をした。 「ばくとしては珍しく、買って買って買いまくった」、と生意気にも新聞に書いているの である。そうして山のような買物を羽田の税関が調べた、その調べかたが無礼であると怒 っている。 こっちは「山のような買物」どころかー っ