一つの株から、数本、もしくは数十本の幹がむらがり立っている形のもの。その幹の数は、三、 五、七、十三というように奇数を好む慣習があります。一株であって、しかも、林相をあらわす ところにこの形の面白さがあるといえましよう。古くは、武者立 ( むしやだち ) といわれたこと もあります。 ⑦根連り ( ねつらなり ) 深山の日射不十分なところなどでよく見かける姿です。つまり、倒れた本の枝が立ちあがって、 倒れた幹から根を生じた独持のものです。何本かの本をよせてうえたように見えながら、根は一 本でつながっているというわけです。 ⑧筏吹 ( いかだぶき ) 根連りを人工で作った形といえましよう。幹を倒して枝を立て、根を生じさせようとする部分 に「呼びつぎ」をして根をついだりして作るのです。もちろん天然の「根連り」の方が高価なこ いうまでもありません。 ⑨寄植 ( よせうえ ) ひと鉢のなかに、主として同種類の本を何本か、配置よくうえこんで、森や林や並本などの風 景をあらわしたものです。異種類、たとえば欅と五葉松とをうえこむこともありますが、よほど、 素性のそろったものでないと、その後の管理によっては相互間の均衡が破れ、綜合美がこわれて ー ) 土小い ~ ま十・。 ⑩石付 ( いしづき )
一草から、その背後にある自然美をゆたかに深く味わおうとする盆栽の趣味界へと歩みを入れて きたわけなのです。 しかし、観賞の視点を変えたからといって、それだけで、眼のまえの鉢植えの五葉松が盆栽の 五葉松になってしまうわけでは、もちろんありません。その本が自然美を連想させてくれるだけ の姿のものとならなければ盆栽とは呼べないわけです。ここではじめて一つの目的をもった整樹 法の必要が生じてくるのです。 盆栽における整樹法は、そういう意味から当然のことですが、いかにたくさんの実をならせる かというような方法よりも、その本が山野に自生している自然美の姿にいかに近づけるか、という ことに重点をおいています。ちょっと考えると、五葉松は放置しておいても五葉松らしく育ちそ うですが、自然の山野にある状況と小さな鉢のなかにある環境とは異なりますから、心がけて私 どもが仕立ててやらねばなりません。それに「自然らしい姿」と「自然のままの状態」とはちが います。この間の事清についてはあとで詳述しますので、このへんで止めておきますが、要する 、鉢にうえた一本の本 ( 必ずしも一本とは限りませんが ) から、その本が自生している自然美 を連想して楽しむのが、盆栽趣味なのです。 思えば植物を愛する清から端を発して、私どもは、この盆栽において、ひろく大自然の美しさ にしを遊ばせる、という、まことにゆたかな趣味の境地に達してきた、というべきでありましょ
野に自生していた本を鉢にうえて自分の身近においておく、というだけのことだったのが、一歩 をすすめて 、ハッキリした目的をもってくるのです。 こうした段階における植物の採取と収集には、一般的にみて、二つの傾向があるようです。一 つは、五葉松なら五葉松のもっとも素性のいいものを求めようとする良種の収集、他の一つは、 草木瓜なら草木瓜のあらゆる園芸品種を集めてみようとする珍種の収集、こういう風に分けられ ゝというわけではなく、それこそ、集める人の好みですが、ど そ一フです。もちろん、どちらかいし しいますのは、後者のや ちらかというと、盆栽趣味へのコースは、前者の方が近いようです。とゝ り方が嵩じますと、もつばら変り咲や斑入ものなどの変り種を大金を投じて求めるようになり、 かっての万年青 ( おもと ) とか蘭とかのような一芽何千円何万円という投機的なものにおち入り やすいのです。しかし、こうした珍種収集家の大部分はむしろ学究的な態度で何十年もかけて梅 なら梅の何百という樹種を集めておられます。誤解のないように書きそえておくことにします。 さて、一本一草をよく吟味して集めたり、いろいろな珍種を求めたりしているうちに、私ども にはさらにもう一歩すすんだ願望が生まれてきます。たんにそれが素性のいい五葉松だというだ いいかえれば、その一本の本からその木が自生している けではものたりなくなってくるのです。 という境地へと人ってきます。その本が幹の一方に傾いた 山野の自然美を連想して楽しみたい、 姿ならば渓谷の断崖の風景などが眼に浮んでくるというわけです。ここにいたって、この本は、 その人にとって、もはや、たんなる植物ではなくなってきます。いわゆる鉢植園芸ではありませ ん。つまり、鉢で育ててたんに生長させ、珍しい葉や美しい花を愛するという段階をへて、一本 1 00
いしづけ、ともいいます。石の凹みに本を何本か、うえこんだり、石上に本の根を抱かせたり したもので、絶海の孤島や高い山項の風景などを連想させる姿です。孤島の景をあらわすものは 水盤に入れて眺められることが多いようです。 以上が盆栽の形としてはもっとも基本的なものですが、そのほかにも、模様本 ( もようぎー本 ぶりにとくにやわらかい曲線美をもつもの ) とか、根上り ( ねあがりー土表より根が洗いだされ たように高くでているもの ) などの用語も、つかわれています。 0 大きさからの分類 盆栽の大きさは主として樹高を標準にしていわれています。もちろん、べつに規制はありませ んが、だいたい、室内で観賞される関係上、常織的にいって、九〇センチ ( カネ三尺 ) が限度だ と思われます。標準は五四センチ ( カネ一尺八寸 ) 程度でしよう。したがって、次のように分け られます。 ①大型盆栽樹高九〇センチ以上のもの ②標準盆栽樹高五四センチ前後のもの ③小品盆栽樹高一一五センチ以内のもの 小品盆栽として愛培されているもので、もっとも多いのは樹高一五センチ前後のものですが、 盆栽界の常識では二五センチ以下のものをさしています。なお、豆盆栽といわれるものは、 盆栽よりもさらに小さく、通常、七、八センチぐらいのものをさしています。
長寿第 ( ちょうじゅばい ) 寒本瓜 ( かんばけ ) 本瓜の種類 : 桜 ( さくら ) 垂糸海棠 ( すいしかいどう ) 米振本 ( さいふりぼく ) ・ 皐 ( さっき ) ・ 落霜紅 ( うめもどき ) 辛夷 ( こぶし ) ・ 椿 ( つばき ) ・ 山梔子 ( くちなし ) ・ 南天桐 ( なんてんぎり ) ・ 姫林檎 ( ひめりんご ) ・ 土佐水本 ( とさみずき ) ・ その他の実物盆栽 : 小品盆栽にむく樹種 : 小品盆栽の培養法 : みもの 九九八八八八八八八七七七七七 〇八五四二〇 / 四〇六四
②斜幹 ( しやかん ) 一本立ちで、幹が左右いずれか一方にややよって立った形のもの。直幹を「真」とすれば、こ れは「行」の趣きがある、といえましようか。その多くは、片根張りや片枝のもので、海岸や渓 谷などでよく見かける姿です。 ③蟠幹 ( ばんかん ) い , かい」ま p 、 2t3 ロー ) い風 やはり、一本立ちですが、その幹が素直に伸びず、前後左右に屈曲し、 雪にたえてきたような豪壮さと迫力とをもつものです。この形のものは概して根元が太く、肌が あれ、枝も変化にとんだ趣きのものが多いようです。 ④半懸崖 ( はんけんがい ) 一本立ちの木で、幹がやや傾いて、枝の先が鉢の一方に垂れ下ったもの。これより下ったもの は、懸崖 ( けんがい ) と呼ばれていますが、現代では主として陣列上の理由からあまり好まれて いません。なお、この形は、断崖絶壁に立っ本の姿をしのばせるものです。 ⑤双幹 ( そうかん ) 一株から一一本の幹が立ち、その主幹と従幹とが、高低、太細、よく調和して、そこに一つの綜 合美を現出させる姿のものをいいます。この形をまた「相生」 ( あいおい ) と粋に呼んでいるひの ともいます。また「双樹」 ( そうじゅ ) というのは、形は双幹と同じですが、一株でなく、一一本樹 の本を根元でくつつけてうえこんだものです。 ⑥株立 ( かぶだち ) 1 09
五葉松ー双幹ー 双幹、または相生 ( あいおい ) ともいいま す。一株の根もとから二本の幹が立っている 樹形をさしています。この場合、一一本の幹の 高低、太さなどの、つりあいがとれているか どうかが肝心なのです。この木はそのつりあ いがよく、また、枝順 ( 枝のでかた ) もよい と思われます。ただ、難をいえば、主幹の太 つまり、 さが中程よりほとんど変化がない 〔仼のよ - つに見えることでしょ - つ。 ー根連り 五葉松 根連りーねつらなり、と読みます。つまり、 数本の幹がそれぞれ独立して立っているよう に見えながら、完全に根元が一株になってい る姿のものです。自然のなかにも寄りあった 木の根が癒着してしまった例もあります。ま た、風雪で倒れた木が枝をおこしてやがて幹 になってしまうこともあります。この五葉松 は、まるで海岸の松林を思わせる図で、潮騒 の音がきこえてくるようです。 しおざ、
新芽 新芽 古葉 古葉 針葉樹の芽つみは , 原則として伸び はじめた新芽を全部か , または十ほ ど残して爪先でつみとればよい 落葉樹は原則として揃った枝先の 線からでてくる新芽を春から秋に かけて指先でつみこむ 針金は元をとめ , ゆるくラセン状にまきっ けてから , もむように静かに枝を曲げる きである、ということです。つま り、うえかえ後で勢いのまだ十分 に回復していないような本々は、 力がつくまで芽つみをひかえるべ きです。また、全体の樹姿を考え て、伸ばすべき枝は芽つみをせず、 反対に、徒長枝はっとめて芽つみ を行なうよ - フにするなど、原則 のっとりながらも、その処置はあ 姿くまでも臨機応変にされるべきで 整 亠のり・主小ー ) よ一フっ ②枝の切りこみの仕方 枝の切りこみをする第一の理由 は、いたずらに密生した枝を切り 取って本の負担をかるくし、採光 と通風とをはかることによって、 月枝を新しく分岐させることにあ ります。もちろん、その結果、ム 129
垂糸海棠ー斜幹体ー すいしか、どう 盆栽としての垂糸海棠は、古く から名古屋地方の特産で、蛸作り といわれる独得の樹態のものが多 いったん いようです。この木も、 曲げた木を、樹高の三分の一くら いのところで、逆におこして仕立 ててあります。こうした趣きの木 には、やはり、模様本めいた斜幹 体がむいているのでしようか。さ て、この本はまだいくぶん若いよ うですが、素性がよく、黄南京 ( き なんきん、中国産 ) の鉢とうつつ て華麗です。
山毛﨔ー石付ー これは山毛﨔の盆栽とし ては名品です。完成された 木ともいえましよう。かな りの永い培養をへてきたも のと思われます。味わいと しては、平野の木よりも、 やや、山間の趣きがありま す。岩上にしつかりと根を ふまえた三本の古木が根を 癒着するまでに星霜をかさ ねた姿です。三本の木が単 調にみえなカら、枝にいく ぶんの変化をもたせていま す。枝さきもやわらかく仕 上げてあります。