あいさっ 相手方が喪中でも、中元、歳暮の挨拶をする 上役が昇進しても、中元、歳暮の額を変え る必要はない 中元や歳暮はお祝いの贈答ではありません。 何度も書いたように、ふだんお世話になってい 仲人をしていただいた課長が今度部長に昇進 ることへの感謝の気持ちやご無沙汰のお詫びをしたからといって、中元、歳暮の品まで昇進さ ことばだけでなく品物に託して具体的に表現すせる必要はありません。今までどおりのほうが るものです。だから、例年季節の挨拶を欠かし自然です。たたその上役の昇進によって今まで たことのない相手が、たまたま喪中であってもよりいっそう仕事の関係が強まり、個人的なお 遠慮する必要はないのです。 つきあいも深まってお世話にもなるというのな ただ、悲しみのお宅にれいれいしいのしゃ紅 ら、贈答の格上げは当然です。 白の水引などの包装で贈るのはちょっと無神経上司への中元、歳暮の贈答は引きつづいてす です。例年どおりの品物を、はではでしくないるものですから、思いっきで、あるときは非常に 答包装紙に包み、落ち着いた色のリボンでもかけ高価なものを、あるときは粗末なものをと差が て贈ればよいと思います。表書きは「御中元」ありすぎるのは失礼です。私はいたたいたもの 「御歳暮」でよいでしよう。あるいは、遺族へのも、差し上げたものもノートに記録しておき、 一お見舞いとして珍しい食べ物とか美しい花な つぎの贈答のときの参考にするようにしていま す。 ど、気持ちの引き立つものを贈ることです。
頼まれ仲人への中元、歳暮は三年まででよい 見合い結婚の場合の仲人は、本来非常に重要 な役割があります。両家の間を往復しての縁談 ゆいのう の進行、見合いの演出、さらに結納に際しては 結納品を持って両家の間をいったりきたりの大 奮闘。めでたい結婚式、披露宴の席上では新郎 新婦以上の大役をはたします。結婚後も出産そ の他、親身に新夫婦の世話を焼きます。だから 仲人への盆暮のつけとどけは、一生つづけるも のとされています。 これに反して、今日ふつうになった頼まれ仲 人の場合は挙式当日だけの儀礼的なものです。 同じ会社の方でもないかぎり、以後三年までで よいでしよう。しかし、実際の取持ち役をつと めてくださった下仲人には、永久に感謝の気持 ちを忘れずにおっきあいするものです。 頼まれ俥人への中元、歳暮は三年まででよい
268 手紙は形式をふまえ個性を示すものである 目上の人には、簡単な案内状以外は封書で ・こす 贈答、応接について一、二章でお話ししてきナ あいさっ 手紙は「文字で書かれた会話」といわれてい ました。贈答ということは、挨拶の気持ちを物 にあらわしたものであり、応接は、挨拶そのもます。ほんとうは相手方をお訪ねして話をする のを行動であらわしたものです。さて、第三章かわりに、書状で自分の用件、気持ちなどを伝 えるのが手紙です。 は、その挨拶を形式化した通知、つまり手紙に ついてお話ししようと思います。 手紙には封書とはがきがあります。はがきは 手紙には、ふつうの礼状にしろ、お悔み状に明治四年に近代郵便制度が発足して二年後に採 しろ、お祝い状にしろ、それぞれきまった形式用され、簡単な通信文を安い費用でだせる便利 があります。私はここでなにも形式いっぺんと なものとして広く利用されてきました。しか はがき うになれと申しあげるのではありません。形式し、封書とくらべると、端書 ( メモ ) といわれ をふまえたうえで、十二分に個性を発揮してほるように重厚さに欠けます。大切な便りをはが しいのです。そこでこの章では、封筒、はがききでだすのは、相手を軽く見ていると受けとら の書式のきまりから、冒頭語、結び語、時候のれても仕方がありません。目上の方に私事の手 ことば、それにいろいろな場合の書状の書き方紙を出す場合、印刷した案内状以外は、原則的 などについてお話ししようと思います。 に封書を用います。 162
新婚旅行先からの便りは旧姓を書き添える 私の懇意にしているお嬢さんで、つねづねご 両親の、 レいつけをよく守る方でしたが、めでた くご結婚。「新しい人生の門出ですから、宿に 着いたらかならずみなさんにお便りをだしなさ い 2 一と親御さんからきつく言われ、旅館に着く むこ とお婿さんをほったらかして一晩中机にかじり ついていたという話がありました。お礼の手紙 を一刻も早く、という気持ちもわからないでは ありませんが、もう少し要領よく、事前に書き だめをしておくとか、仲人や二、三人の友人に 紙だすくらいでよいのではないでしようか。この お嬢さん、差出人の自分の名の下に、 手 姓を書き入れてありましたが、いかにも結婚し 三たばかりの夫婦から来た手紙で、非常に感じの よいものでした。 9 新婚旅行先からの便りには旧姓を書き添える 7
肪目上にお金を贈る場合は、品物に添えて出 すとよい いちばん大切で、いちばん重宝で、それでい ていちばんやりとりのしにくいのが現金です。 現金をはじらいなく贈答に使えるようになれ ば、。フレゼントはよほど気楽になります。かえ きんす って、昔のように、正式の贈り物には金子何両 けんじようだい などと大きな献上台に小判を。へタ。へタはりつけ て差し出していたほうが、今日よりよほどドラ みずさし イといえます。お茶で使う水指によくある砂金 袋も、もとは進物用の砂金袋だったようです。 答さて目上に現金を贈ることに抵抗を感じるな ら、商品券も使えますが、これには、七パーセ 贈 ントの税金がっきます。菓子折とか花などに金 ろこっ 一包みを添えると、露骨な感じがしないで、贈る ほうも受けるほうも気持ちのよいものです。 7 00 00 洋 目上にお金を贈る場合は、品物に添えて出すとよい
中元、歳暮の贈り物は、上、中、並のラン クをつけて考えるとよい 中元や歳暮の贈り方については前の本でもお 話ししましたが、本当に頭を痛めている方が多 いようで、たくさんのご質問を受けました。そ の中から一般的なものをご紹介しましよう。 ふだんからの感謝の気持ちを伝える贈り物で ある中元や歳暮は、贈る時期がおくれてはなん にもなりません。品選びは多少気がきかなくて も、時期を失せず礼をつくすことが大切です。 そのためには、①一人一人別な品物を考えず、 上、中、並の三段階ぐらいにランクをつけ、ま とめて品選びをする、②毎年同じ人に決まった 同じ物を贈る、③贈る人の名簿を作り、思いっ いたときに品物をメモしておく、などのアイデ アを使うとよいでしよう。 中元、歳暮の贈り物は、上、中、並のランクをつけて 考えるとよい
まえがき まえがき 去る一月に出版した『冠婚葬祭入門』は、著者の私自身が、あれよあれよとただ驚くだけという 売行きを示し、この九月には、ついに百万部突破を祝うことができました。戦後七冊めのミリオン セラーですとか。たい〈ん名誉なことと、この本を支持してくださ 0 たみなさまに、心からお礼を 申しあげます。 私にと 0 て何よりもうれしか 0 たのは、百万部をこえたこともさることながら、この本が、本当 に読者のかたがたのお役に立ち、便利な、自信を与えてくれる本だと喜んでいただけたことです。 連日、東にな 0 て届けられるお便りが、何よりも雄弁にそのことを教えてくれました。お手紙は、 私などよりも 0 と社会経験の豊かなお年寄りから高校生までと、年齢も、環境もひじように幅広く らようだい 頂戴いたしました。 これらのお手紙は、大部分が、感謝の気持ちを伝えてくださると同時に、質問の手紙でもありま した。ご質問は、じつにさまざまで、私は、お手紙を拝見するたびに、あらためて、日本の社会生 活のしきたりが昔から日本に伝わ 0 て現在もなお生きているものと、外国からはいってきたものが 混在し、未整理であること、そのための多様さ、むずかしさを感じました。そして、まえの『冠婚 かんこんそうさい 3
女性は、外人の男性に贈り物をしないほう 外人に生花、書籍、キャンデーなどを贈ら カよい れてもお返しはしない 贈答品のお話をしてきましたが、最近は外国 欧米では意味のない贈り物はしないのが常識 の方とのおっきあいもふえましたので、ここでですが、万一贈られた場合は、かならずお返し 外人に品物を贈るうえでの注意を申し上げておをする義務があるのです。ですから、相手が返 きます。外国での贈り物のやりとりは、クリス礼に困るような過大な品物を贈ることは、さし マスと誕生日、それも親しい友人や家族にかぎ控えるのが礼にかなうわけです。日本人は外人 られています。その他は、結婚や卒業やお葬式に高価な贈り物をしすぎます。私は、ポーリン グ友だちのアメリカ夫人から、こんなものをも 等の特別の意味のある場合です。日本のように、 らそう お世話になった、ご馳走になったからと、先方らってしまったけれど、どうすればよいかと相 はあたりまえであったかもしれないことに、む談を受けることがあります。 答やみにありがたがって贈り物はしません。 しかし、生花、書籍、キャンデーなどを外人 また一方的な特別の意味の贈り物をのぞいて から受けた場合は、これらは贈り物というより は、婦人は、男性に贈り物をしてはいけません。も、私どものいう名刺がわり程度の意味ですか 一婦人がプレゼントできるのは、恋人、夫、兄弟、ら、感謝の気持ちをことばで表わすだけで、な んの返礼の義務も負いません。 父子など近親の男性に対してだけです。 ひか
親しい人へ財布を贈る場合は、五円硬貨を寝具類は家族構成を考えて贈る 入れておく 贈り物は先方に対する贈り主の感謝や友情を 「浅草へ行ったから : : : 。」と身内の者から、江物品に託して届けるものですから、せつかくの 品が役に立たないのでは、その気持ちが伝わら 戸趣味のしゃれた唐桟の財布をもらいました。 あけてみると、中から五円玉が一枚ころび出まず、贈り物の意味がありません。たとえば外国 した。これは、じつはお店の人が入れたのですの珍しい食品をいただいても、食べ方を知らな が、昔のしきたりを尊んだその心意気に、すつければ、腐らせることにもなりかねません。そ かりうれしくなりました。五円は「ご縁 , に通うした場合は、品物を届けるときに、料理方法 ずるゴロ合わせで、こんごお金にご縁があるよを説明してあげる親切が必要です。 うにとの意味なのです。私も財布を贈る機会が また、毛布やタオルケットなどの寝具類は、 ちょうほう あったら、ぜひまねをしようと思いました。 いただいてとても重宝な贈り物です。しかし私 迷信といわれるような事柄も、生活を楽しくの家は夫婦二人きりですから、。ヘアでないとぐ 豊かにする方向にうまく活用すれば、けっしてあいが悪くて、使わずじまいになってしまいま 悪いことではありません。欧米でも、ハンドバ す。お子さんがあれば一つでも喜ばれるでしょ しようもう ッグを贈るときに、日本と同じ風習があるそう う。寝具を贈るなら消耗品で、しかもいくつあ です。 ってもいいシーツがいちばん重宝でしよう。 とうざん っ←
ました。この章では、まず贈答の一般的ルールを、それから、いろいろな場合に何をどのように贈 るか、それに対して何をお返しするかをまとめました。 第一一章は「応接ーです。冠婚葬祭いずれの場合にも、人とどう接し、行動するかについてのしき たりをお話しします。まえの『冠婚葬祭入門』では構成上じゅうぶんに扱えなかった行事、たとえ ば新築、ふだんの近所づきあいなどは、とくに重点的に考えたつもりです。新築についての応接に あいさっ はじまり、名刺、紹介、挨拶、日本間のマナー、近所づきあい、ふだんおなじみの薄い、消防署や 警察署との「いざというとき」の応接という順序でお話をすすめています。 第三章の「手紙」は、おっきあいを文章に表現したものです。冠婚葬祭には、そのはじめや終わ くや りのしめくくりに手紙がっきものです。お祝いの手紙、お悔みの手紙、見舞い状、礼状、と目的に よって、相手によって、手紙の書き方は変わってきます。ここでは、形式をふまえながら十二分に 個性を発揮し、自分の気持ちを相手に伝えるにはどうすればよいか、をお話しします。封書、はが き、さらには、法律的な文書まで幅広く扱っています。 最後の第四章は「服装」です。外国のしきたりでも、服装についてのしきたりはなかなかうるさ いところです。私たち日本人は、そのうえに、もっとめんどうなきまりのある和装もするのだから えたいへんです。ここでは、和装を中心に、まず服装の基本的知識、つぎに冠婚葬祭のいろいろなケ 1 スの服装を、小もの、アクセサリーにいたるまで取り上げました。