1 贈答には、感謝と祝いのニつの性質がある かんこんそうさい 前の本『冠婚葬祭入門』をだしてから、私は まず、贈り物をするうえでの一般的ルールに 贈答に関する質問をたくさんいただきました。 ついてお話ししましよう。知り合いのお宅に赤 たしかに、冠婚葬祭という人生の四大儀礼のなちゃんが生まれました。なにかお祝いをしなけ かで、私たちのふるまいを代表するものは、贈ればと、あれこれ考えていますうちに、その赤 答、つまり、物を贈ることと、お返しすることちゃんのお母さんが亡くなったという知らせを だと思います。そこでこの章では、贈答の品物受けてしまいました。さてこうなると、出産の や現金の贈答について、また、送迎や見舞い時お祝いどころではなく、とるものもとりあえ くや の贈答、それに、中元・歳暮、冠婚葬の行事にず、お悔みにかけつけねばなりません。 おける贈答上の注意を申しあげましよう。 このように、慶事と弔事が重なったときに さて、そのまえに、贈答の性質には、二つのは 、かならず弔事を優先し、祝いはしないのが 種類があることを知っておいてほしいと思いま原則です。ところが最近では、結婚式の直前に す。一つは、中元や歳暮などのように、平素お肉親が亡くなっても、不幸は伏せておいて、挙 世話になっている方への感謝の心を伝える贈り 式を強行する例がままあります。とにかく半年 物です。もう一つは、結婚祝い、誕生祝いな前に式場を予約しなければならない時代ですか ど、互いに楽しさをわかつ意味の贈り物です。 ら、やむをえないのかもしれません。 慶事と弔事が重なった場合は祝いはしない ちょうじ
あいさっ 相手方が喪中でも、中元、歳暮の挨拶をする 上役が昇進しても、中元、歳暮の額を変え る必要はない 中元や歳暮はお祝いの贈答ではありません。 何度も書いたように、ふだんお世話になってい 仲人をしていただいた課長が今度部長に昇進 ることへの感謝の気持ちやご無沙汰のお詫びをしたからといって、中元、歳暮の品まで昇進さ ことばだけでなく品物に託して具体的に表現すせる必要はありません。今までどおりのほうが るものです。だから、例年季節の挨拶を欠かし自然です。たたその上役の昇進によって今まで たことのない相手が、たまたま喪中であってもよりいっそう仕事の関係が強まり、個人的なお 遠慮する必要はないのです。 つきあいも深まってお世話にもなるというのな ただ、悲しみのお宅にれいれいしいのしゃ紅 ら、贈答の格上げは当然です。 白の水引などの包装で贈るのはちょっと無神経上司への中元、歳暮の贈答は引きつづいてす です。例年どおりの品物を、はではでしくないるものですから、思いっきで、あるときは非常に 答包装紙に包み、落ち着いた色のリボンでもかけ高価なものを、あるときは粗末なものをと差が て贈ればよいと思います。表書きは「御中元」ありすぎるのは失礼です。私はいたたいたもの 「御歳暮」でよいでしよう。あるいは、遺族へのも、差し上げたものもノートに記録しておき、 一お見舞いとして珍しい食べ物とか美しい花な つぎの贈答のときの参考にするようにしていま す。 ど、気持ちの引き立つものを贈ることです。
こうじよう 台所の必需品を目上へ贈ってもよい 恒常的にお世話になっているお宅には、月 ぎめの雑誌、週刊誌などを贈るとよい 贈答には韭日からとてもやかましいしきたりが ありました。いまではよほど簡略化されました ある雑誌社のひとり住まいの婦人記者が「私 が、それでも目上には直接肌につけるものは失のように一日中留守をしているものは、お隣り 礼だとか、櫛は「苦死ーに通するとか、婚礼に に一話になる一方なんです。ですから月末に沢 つばき 片側帯、病人に椿の花は不吉だとか、いろいろまったお金でお礼しようとしたのですが、受け 夕、、フーがあります。 とってくださらない。それで雑誌二冊を月ぎめ かんづめ 欧米では日用食料品や罐詰、酒類を贈ることでお贈りすることにしたのです。こうすれば、 は、さも先方が不自由をしているような意味にそのつど、どんなお礼をしたらよいかと考える とられるおそれがあり、格別親しい間柄以外はわすらわしさがなくて大助かりです。お隣りの しないものとされています。この習慣が日本で奥さんも、喜んで気持ちよく世話をやいてくだ 答も一般化する傾向ですが、日本ではもともと贈 さっていますにと話してくれました。 もち じんく 答が、餅などの神供と同じものを人びとが共食 なるほど、すばらしい考えです。お世話をか することから起こったのですから、日用食料品 ける度合によって、雑誌と週刊誌、あるいはお 一を贈答品に選ぶのはかまいませんし、もちろん子さんがあれば、子ども雑誌を贈るのもいいで しょ”つ。 目上に贈っても失礼とはなりません。
夫の親と妻の親の間では、中元、歳暮の贈 親には中元、歳暮を贈らなくてもよい 答をする 父母、主人、親方、仲人、名付け親などへお いきみたま 夫の生家と妻の実家の間柄は肉親ではありま 盆の礼に行ったりもてなしすることを「生御魂」 いんせき いきにん とか「生盆ーといいました。地方によってはミせん。姻戚関係です。だからたぶんに社交儀礼 タマともいい、こちらは正月のお年玉と対応す的な感じのある中元、歳暮の贈答をするのにふ ることばでした。だから本来の意味からいえさわしい関係です。まず妻の親から夫の親へ贈 り、夫の親から返礼するのが一般的です。場合 ば、盆暮には親にも贈り物をすべきなのです。 しかし現在では中元、歳暮はたぶんに儀礼的によってはお返しはなしで、お礼をのべるたけ なものになっていますから、遠くに離れて住んでもよいでしよう。 でいる場合は別として、この時期の肉親への贈実の兄弟姉妹の間柄も、それぞれが結婚して り物はなんだか他人行儀の感じがします。それ一家をなせば、配偶者どうしは義理の関係です。 だから中元、歳暮の贈答をする間柄といえます。 答よりももっと率直に親愛の情を表現できるプレ ゼントの機会、たとえば父の日、母の日、老人しかし親戚の間で品物をたらいまわしにするこ の日、誕生日、結婚記念日などに贈ったほう とにもなりかねませんし、しかも途中でやめる わけにいきませんから、はじめからしないこと 一が、受けるほうも贈るほうも、はるかに楽しい のではないでしようか。 に話し合ったほうがスッキリしています。
親しい人への出産通知は、男児のときは葉 外人にはト菊は贈らない ちょうほう 巻を配る 欧米の贈り物では、切り花はたいへん重宝な もので、その使い道は非常に広い範囲にわたっ ここからは、慶事の贈答についてお話ししま しよう。私がアメリカに旅行したとき、あるオ ています。結婚、誕生祝い等の祝いごとから、 フィスで男の人がいかにもうれしそうにポケッ 病気見舞い、弔事など、あらゆる場合に贈るこ トから葉巻を取り出して、だれかれとなく一本 とができ、しかもお返しの義務がまったくない ので、外国人の社交の上ではもっとも大きな役ずつ渡していました。受け取ったほうもくれた あくしゅ 割をはたす効果的な贈答品といえます。 人の肩をたたいたり、握手の手をのべたりして ニコニコ顔でした。聞くと男の子が生まれた 4 花は、病気見舞いのときも、箱に入れて贈り、 ぼさん 。ノノカ出会った友人、知人に葉巻を配っ 草参の花も箱に入れて行き、お墓についてからきま、。、。、 箱からとり出して飾るのです。不祝儀の花は白て出産通知をし、祝福を受ける習いだそうです 9 さじ やクリームのバラが多く使われます。外国では また、生まれた子どもには命名の日に銀の匙 きく 菊の小花は不幸のときの花とされているので、 一本を贈り、ひきつづき誕生日かクリスマスご 弔事のとき以外は外人に小菊を持っていきませとに一本ずつ一ダースになるまで贈るそうで けんがい ん。ただし、大輪のものやみごとな懸崖作りなす。二つとも日本でもまねしてみたい、楽しく どはそのかぎりではありません。 も美しい風習だと感心しました。 こギ一く
欧米では切り花を贈るのに、日本のようにセ ロハン紙に包まず、一般の贈答品のように箱に 入れ、リポンをかけて贈るのが習いです。私が 外国に行ったとき、飛行場にはどんな色のきも のを着てくるのかとまえもって手紙でたずねら れました。なんのことかといぶかっていました ら、出迎えの人から箱を手渡され、開いてみる と、きものにマッチした色の花東がでてきたの に感激したことがあります。 花東を受ける感激は、外国では女性だけのも 答のです。男性には花東を贈らないとされていま す。外国の恋愛映画で、男性から女性へ花東を 届けるシーンはありますが、その逆は見たこと 一がありません。舞台人へ花を贈る場合、女性へ はなかご 第 は花東、男性へは花籠がきまりときいています。 外人に花束を贈るときは、女性だけにする 外人に花束を贈るときは、女性だけにする
仲人をしてもらった上役が地位を退いても、 中元、歳暮のかわりに、家族の誕生日を祝 って贈り物をするのもよい 贈り物はつづける 出入りの多い家には、中元、歳暮の贈り物を レつまで贈答を 過去にお世話になった方に、、 しても印象に残りにくいものです。そこで、ちつづけたらよいかは微妙な問題です。知り合い よっと時期を前後にずらしてみたらどうでしょ のある偉いお役人が、「ぼくは若いときに世話 う。六月の終わりに「少々お中元には早いのでになった上役には、ずうっと贈り物をつづけて すけれども、避暑にお出かけと思いましてと いるよ。今じゃみんな引退組ばっかりさ。そり 断わって贈ったり、年があけてから「お年賀」 や現役時代と退役してからと同じものというわ としておとどけしたり : けではないけどねと話していました。 私の弟子の一人は、毎年八月の浅草のほおす ふつうは仕事上の縁が切れたら贈答もやめる かご き市に出かけて、風流な籠入りのかわいいほおというのがあたりまえです。しかし、仲人をし ななくさ 答ずきの鉢をとどけてくれます。お正月には七草てもらったとか、子どもの名付け親になっても を植えこんだ小鉢です。また、あるホテルの社らったなど、個人的にお世話になった上役には 長さんは中元、歳暮のかわりに、私ども夫婦の地位に関係なく、いつまでも贈り物をつづけた 「誕生日に祝電と花東を贈ってくださいます。と いものです。品物でなく、手紙一本に託した 第 もに、心が豊かになる贈り物です。 「心」でもけっこうではありませんか。 なこうど
弗祭入門』を、さらに幅広く、奥深くする責任のあることを痛感したのです。だから、この『続 冠婚葬祭入門』を書くことに踏み切った動機も、また内容も、その多くを読者のかたがたのお手紙、 さらには講演会やサイン会などの席上で寄せられたおことばに負うているといってよいでしよう。 さて、まえの『冠婚葬祭入門』では、全体を「婚」「冠 , 「葬ー「祭」の順序に四つの章に分けま した。「婚」とは文字どおり「結婚 , について、見合いから結婚式、新婚旅行までを扱っていま げんぶく す。「冠ーは、現在の「成人式」にあたる「元服」の式を意味することばであり、本文では、妊娠、 出産、入学、成人式、そして就職までにあてはめました。「葬ーは葬儀であり、仏教を中心に、各 くよう 宗派について、人間が死にのぞむところから、通夜、葬儀、告別式、埋葬、年忌供養までを収めま した。「祭」は元来は、先祖を祭る行事を意味しますが、この本では年中行事にまで解釈を拡大 おおみそか し、お正月から大晦日まで、順を追ってお話ししてあります。 このように、まえの本が縦の分類によって構成されているとすれば、この『続冠婚葬祭入門』の 構成は、横の分類によっています。つまり、冠婚葬祭それぞれの場合についての、「贈答」「応接」 「手紙」「服装」の四つの項目を取り扱っているのです。 くや 第一章の「贈答」は言うまでもなく、相手に対するお祝いやお悔み、お礼などの気持ちを、物に 表現して贈る、そしてそれにお返しをすることです。贈答は、冠婚葬祭のなかでも、もっとも現実 たき 的な、具体的な行動であり、それだけに、私にお寄せいただいたご質問も、多岐多様にわたってい たて
肪目上にお金を贈る場合は、品物に添えて出 すとよい いちばん大切で、いちばん重宝で、それでい ていちばんやりとりのしにくいのが現金です。 現金をはじらいなく贈答に使えるようになれ ば、。フレゼントはよほど気楽になります。かえ きんす って、昔のように、正式の贈り物には金子何両 けんじようだい などと大きな献上台に小判を。へタ。へタはりつけ て差し出していたほうが、今日よりよほどドラ みずさし イといえます。お茶で使う水指によくある砂金 袋も、もとは進物用の砂金袋だったようです。 答さて目上に現金を贈ることに抵抗を感じるな ら、商品券も使えますが、これには、七パーセ 贈 ントの税金がっきます。菓子折とか花などに金 ろこっ 一包みを添えると、露骨な感じがしないで、贈る ほうも受けるほうも気持ちのよいものです。 7 00 00 洋 目上にお金を贈る場合は、品物に添えて出すとよい
みずひき 3 贈り物の品数は、慶事には奇数、弔事には 4 水引は紅白、黒白だけとはかぎらない 偶数にする ここで、贈り物の包装についてお話ししまし えんぎ このごろは縁起をかつぐ人も少なくなりまし よう。贈答品の和風の包装には、慶弔いずれも おもてがみ たが、それでもめでたいときや、病気で神経過水引を使います。水引は贈答品を包む表紙にか 敏になっているときは、案外つまらぬことでも けたコョリが美しく変化したもので、室町時代 気にかかるものです。意味のない迷信だとは思 からの風習です。水引は五本まとめたものを一 めおと っても、せつかく物を贈るからには、相手に喜本としますが、結婚のときは、夫婦水引といっ んでもらうにこしたことはありません。 て、水引を二本使う場合もあります。なお、水 数に関する縁起としては、吉の数は三、五、 引の色は結婚のときは紅白、金銀、金一色、赤 七のほかに、八が末広がりとして喜ばれ、四と金、その他ふつうの慶事や一般の贈り物には紅 九は「死苦」に通ずる凶数としてきらわれま白が用いられます。私は結婚祝いのときも、紅 答す。また外国では、十三が凶数です。一般に慶白をキリリと結び切りにするのが好きです。 事には奇数、弔事には偶数といわれています 弔事には黒白のほか、白一色、黄白、青白、 が、ビール、コップ類のようにダース単位で贈 銀白、銀一色などを使います。いずれの場合 めおと 一られるもの、夫婦茶碗など。〈アのものはもちろも、色の濃いほうが右ですが、慶事の赤金の場 ん偶数でも慶事に用いられます。 合は、関東では赤が右、関西ではその反対です。