老兵は死なず - みる会図書館


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1. 老兵は死なず

老兵は死なず 角川文庫 7 巧 2

2. 老兵は死なず

老兵は死なず 佐藤愛子 角川文庫 7 巧 2

3. 老兵は死なず

老兵は死なず 咾兵は究なず 佐藤愛子 老兵は死なず 「人間の誇り」は、今や現実生活の 幸、不幸の前には一文の値うちのな いものになってしまった。「価値の多 様イ乙といわれた日赫には過ぎて、「感受 性の断絶」というべき日赫ににまて進ん みさお て来た。いやな男に操を奪われて自 害する娘がいたら、今や彼女は同情 されずにふしぎがられるだけだろう、 主婦売春は我身を犠牲にして家庭を 守ったと同情されてもて、ある。 我々の不幸は、わかり合えない世 代が雑居していることだ。わかろう としてもわからない。わからそうと してもわからせられない。わからそ うとすることがどだい無理なのだ。 I S B N 4 ー 0 4 ー 1 5 5 9 2 6 ー 0 C 01 9 5 P 3 5 0 E 定価 350 円 ( 本体 340 円 ) 力団ワ 角川文庫 佐藤愛子作品集 子 一番淋しい空 忙しい奥さん は、た餅のあと 朝雨女のうでまくり 悲しき恋の物語 アリカ座に雨が降る 黄昏夫人 九回裏 総統のセレナード 束の間の夏の光よ 忙しいダンディ 加納大尉夫人 さて男性諸君 或るつばくろの話 躁鬱旅行 憤激の恋 一天にわかにかき曇り 愛子の小さな冒険 こんな幸福もある むつかしい世の中 枯れ木の枝ぶり 日当りの椅子 こんないき方もある こんな考え方もある 老兵は死なす マドリッドの春の雨 佐藤愛子緑 359-26 カルチャー情報を先取りする女性 のための文芸誌。充実かっユニー クな書き手が毎月登場。 5 日発売 早川良雄 角 文 庫 350 角川文庫 旭印刷 カノヾー

4. 老兵は死なず

ろうへい し 老兵は死なず 佐藤愛子 さとうあいこ 昭和六十三年六月二十五日初版発行 発行者ーー角川春樹 発行所ーー株式会社角川書店 2 東京都千代田区富士見一一ー十三ー三 編集部 ( 〇一一 l) 一一三 八八四五一 電話 営業部 ( 〇一一 l) 一一三八八 〒一〇二振替東京③一九五二〇八 角印刷所 , ーー新興印刷製本所ーー本間製本 装幀者。ーー杉浦康平 落丁・乱丁本はお取替えいたします。 定価はカバーに明記してあります。 Printed in Japan

5. 老兵は死なず

目次 はんにやしんぎよう 般若心経 悪口のいい方 映画の見方 幻の下宿のおばさん インテリ無知 負けました こんな女に誰がした 幸福の形 朗らかな異星人 エライ人考 理解について 老兵は消えて行く なむだいしよう 南無大聖不動明王

6. 老兵は死なず

「人間の誇りは、今や現実生活の幸、不幸の前には一文の値うちもないものになってしま った。「価値観の多様化ーと頻りにいわれた時代は過ぎて、今は「感受性の断絶」というべき 時代にまで進んで来た。いやな男に操を奪われて自害する娘の物語は、我々の世代にとっては こうレ」うむけい それほど荒唐無稽な話ではない。だが今、もしも現実にそういう娘がいたとしたら、彼女は同 情されずにふしぎがられるだけだろう。主婦売春は同情されても、である。 我々の不幸は、わかり合えない世代が雑居していることだ。わかろうとしてもわからない。 わからそうとしてもわからせられない。わからそうとすることがどだい、無理なのだ。今私に いえることはただ、「私はこう考える。私はこう生きる。あんたたちは勝手にやってくれーと いうことだけになってしまった。 老兵はもう語ることをやめて、消えて行くばかりである。 しき

7. 老兵は死なず

女学校時代の友達が何人か来て、思い出話に花を咲かせているうちに、モンちゃんというニ ックネームの友達がこんな話をした。 戦争末期のこと、モンちゃんは両親が疎開している丹泌の山の奥へ食糧を運んでいた。十九 か二十歳頃のことである。両親がいる村へ行くには、山道を四里も歩かなければならない。背 もち 中に日用品を詰めたリ = ックサックを背負い、両手に餠や野菜や魚の生乾しなどを提げられる たど だけ提げている。食糧事情が悪化の一途を辿っていた時代である。 ひとけ 人気のない山道。片側には雑木が生い繁り、片側は目の下に田畑が広がっている。人っ子一 人いないその一本道を歩いて行くと、ガサガサと音がして、右手の木立の中から野犬が現れた。 たちま と見るや、一匹、二匹、三匹 : : : 忽ちその数は増えて、一斉に吠え立てながらモンちゃんを追 って来る。食糧の欠乏のために飼主に捨てられた犬たちが山に入って野犬になったのだ。モン ちゃんは荷物を両手に、必死で走った。山犬の数はもう、数え切れないほどである。犬たちは にお モンちゃんの提げている生乾しの魚の臭いを嗅ぎつけて追いかけて来ていることにモンちゃん 老兵は消えて行く いっと なまぼ

8. 老兵は死なず

116 戦争が終ってその友達と会った時、彼女はいった。 「あの時、私ね、心の中でこういうてたんよ、死なんといてよ、アイチャン、死なんといて よ、って : : : 何ともいえん気持やったわねえ」 「でも、ふしぎに我々は泣かなかったわ 「ほんとやね、泣かなかった : : : 」 「兄が戦地に行く時も泣かなかったわ」 「戦死と聞いても泣かへんかったよ。ただポーツとしてただけで」 我々は強かったわけではない。強くならなければ、と思ったわけでもなかった。我々は不幸 に対して馴れつこになっていただけなのだった。 こも ばんこく 元気でいてね、あんたもね、という、ただそれだけの挨拶の中に籠っている万斛の思いがお 互いにわかっていた。 「うちの姉貴、死んだんさ 「えつ、どこで ? 」 「工場の空襲で」 悔みや慰めの言葉を述べ立てなくても、十分に気持は伝わった。すべての日本人が同一の現 あいさっ

9. 老兵は死なず

まわどうろう あれやこれや、毎日毎晩考えて、そのどうどう巡りが頭にこびりつき、頭の中は廻り燈籠み たいになった。彼女にとって「死にたい」という気持だけはハッキリしている。しかし「なぜ ハッキリしているようでしていない。死にたくなったの 死にたいのか」ということになると、 は、「夫が正月に帰って来なかったため」なのか、「夫が帰って来なかったその原因」のためな のか、彼女自身にももう判別がっかなくなっていたのではないだろうか ? つまり、私が新聞社のコメントに答えられないのは、そういうことを考えるからなのである。 私たちが彼女の死について考えるとすれば、「遺書」を通して「その遺書を取り巻いている状 況」を考えなくてはならないと思うからである。「遺書」あるいは「当人の一一一一口葉」なるものは、 真実の一部かもしれないが、「真実である」とは私には断定できないからである。 「今朝、道で会った時はニコニコして元気そうに、では明日の会合でお目にかかりましよう といってました。なのに自殺するわけがありませんー Y 知人の自殺を知った人が、こういう感想を口にするのを聞くことがある。「ニコニコして元 っ こ 気そうにして」いたのは、もしかしたら、その人の目にそう見えていただけかもしれず ( 人間 理の観察なんてたかが知れている ) あるいは又、絶望の中で死と肩を並べて生きて来た人には、 死は殊更に深刻なものではなくなっているのかもしれないのに。 絶望しているからといって、青ざめて打ち沈んでいる人ばかりとは限らない。絶望に馴れて、

10. 老兵は死なず

そう考えることは世間のルールから外れていることなのた。だからその時点で ( ルールを無 視したことによって ) 私は孤立するのである。あなたの善意が彼を甘えさせる。彼を立ち直ら せるためには、きびしくしなければいけないのだ、と人はいう。しかし私はそんなこと ( 彼の うそ ためになるかならぬか ) よりも、それが嘘か本当かを知りたい。 私が死んだ後、私の周囲の人は私のことをこんなふうにいうだろう。 「あの人は変ってました。我儘で、怖い人でした。年中怒ってばかりいるのに、 ヘンなとこ ろで、気が弱くてお人よしでした : それを聞いて私の霊はチガウ、チガウと叫ぶが、私は死んでいるのでどうすることも出来ず、 もしかしたら、「佐藤愛子は最後までくだらない一人の男になれぬいていた情熱の女である、 というような風説が定着するかもしれない。 わがまま