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検索対象: 蟹工船・党生活者
257件見つかりました。

1. 蟹工船・党生活者

てないのか ? ・「今、居るの ? 私は来たな、と思った。「今出ています。」 おばさんの云うのが聞えた。私はホッとすると同時に、やつばり有り金をた、いて間 代だけは払って置いて良かったと思った。「じゃ、後でモウ少し詳しく聞いておいて、 ふとん な。」と、巡査が云って帰りかけたらしい。私はやれ / 、、と思って、又蒲団の上に腰 を下したとき、戸をあけながら巡査の声がした、「この頃、赤がよく間借りをしてい るから、気をつけてもらわんと : : : 。」私はギクッとした。おばさんは「ハア ? 」と 者云って訊きかえしている。巡査はそれに二言一二言云ったらしかった。おばさんには 生「赤」というのが何んであるか分らなかったのだろう。 ただごと い私はこういう調べ方のうちに、只事ならぬものを感じた。その日、連絡から帰って みせや 蟹くると、隣りの町で巡査が戸籍名簿を持って小さい店家に寄っていた。ところが、そ こから一町と来ないうちに、同じ町なのに今度は二人の巡査が戸籍名簿を持って小路 から出てきた。私はに会ったとき、朝の戸籍調べのことを話したら、全市を挙げて しらみ しろ - っと 虱つぶしに素人下宿の調査をしているらしいから気を付けないといけないと云った。 私はこの物々しい調べ方にそれを感じた。 彼奴等は今まで何べんも党は壊滅したとか、根こそぎになったとか云ってきた。そ れを自分たちの持っている大きな新聞にデカ / ( 、と取り上げて、何も知らない労働者 234

2. 蟹工船・党生活者

おもちゃ 見るイ \ もり上った山の、恐ろしく大きな斜面に玩具の船程に、ちょこんと横にの ツかることがあった。と、船はのめったように、ドッ、ドッと、その谷底へ落ちこん でゆく。今にも、沈む ! が、谷底にはすぐ別な波がむくノ ( 、と起ち上ってきて、ド シンと船の横腹と体当りをする。 オホッツク海へ出ると、海の色がハッキリもっと灰色がかって来た。着物の上から ゾクイ、と寒さが刺し込んできて、雑夫は皆唇をプシ色にして仕事をした。寒くなれ 者ばなる程、塩のように乾いた、細かい雪がビュウ、ビュウ吹きつのってきた。それは ガラス 党硝子の細かいカケラのように甲板に這いつくばって働いている雑夫や漁夫の顔や手に 突きさ、った。波が一波甲板を洗って行った後は、すぐ凍えて、デラ / ( 、に滑った。 蟹皆は、デッキからデッキヘロープを張り、それに各自がおしめのようにプラ下り、作 業をしなければならなかった。 監督は鮭殺しの棍棒をもって、大声で怒鳴り散ら した。 同時に函館を出帆した他の蟹工船は、何時の間にか離れ′、になってしまっていた。 できししゃ それでも、思いっ切りアルプスの絶頂に乗り上ったとき、溺死者が両手を振っている ように、揺られに揺られている二本のマストだけが遠くに見えることがあった。煙草 波浪と叫喚のな の煙ほどの煙が、波とすれる、、、に吹きちぎられて、飛んでいた。 っ こんばう た

3. 蟹工船・党生活者

ていることで、我々の場合こ、に理論と実践の微妙な統一がある。 私は、それを極左的だというのは、卑怯な右翼日和見主義者が自分の実践上で の敗北主義をゴマ化すために、相手に投げつける言葉でしかないと、須山に云った。 須山は「そうだ ! 」と云った。 私はそこで、私の案を持ち出した。瞬間、抑えられたような緊張がきた。が、それ は極く短い瞬間だった。 者「俺もそ、つだと思、つ・・・・ : 」 生須山はさすがにこわばった声で、最初に沈黙を破った。 と、彼は、 私は須山を見た。 蟹「それは当然俺がやらなけアならない。」 と云った。 うなず 私はそれに肯いた。 からた 伊藤は身体をこッちりと固くして、須山と私、私と須山と眼だけで見ていた。 私が伊藤の方を向くと、彼女はロの中の低い声で、「異議、な、し、 」と云った。 見ると、須山は自分でも知らずに、胡坐の前のバットの空箱を細かく、細かく切り 刻んでいた。 260 あぐら ひきよう ひょりみ

4. 蟹工船・党生活者

外して、階段のように一つ一つ窪みの出来ている胸を出して、あくびをしながら、ゴ あか シイ \ 掻いた。垢が乾いて、薄い雲母のように剥げてきた。 「んよ、か、会社の金持ばかり、ふ、ふんだくるくせに。」 まぶた カキの貝殻のように、段々のついた、たるんだ眼蓋から、弱々しい濁った視線をス トーヴの上にボンヤリ投げていた中年を過ぎた漁夫が唾をはいた。ストーヴの上に落 まんまる ちると、それがクルツ / ( 、と真円にまるくなって、ヂュウ′ ( 、云いながら、豆のよう 者に跳ね上って、見る間に小さくなり、油煙粒ほどの小さいカスを残して、無くなった。 生皆はそれにウカツな視線を投げている。 「それ、本当かも知れないな。」 蟹然し、船頭が、ゴム底タビの赤毛布の裏を出して、ストーヴにかざしながら、「お てむかい 叛逆なんかしないでけれよ。」と云った。 「勝手だべよ。糞。」吃りが唇を蛸のように突き出した。 ゴムの焼けか、っているイヤな臭いがした。 「おい、親爺、ゴム ! 」 「ん、あ、こげた ! 」 つば

5. 蟹工船・党生活者

と威張ってやるけれど、隣近所の人に女ェッて云うのは矢張り恥かしいわ ! 」 みんなに、何時かも、つ一度行こうか、ときくと、行こうというのが多いそうだ。そ れはあの芝居を見ると、うちの ( うちのというのは、自分の工場のことである ! ) お やじとよく似た奴がウンといじめられるところがあるからだという理由だった。 伊藤が、何気ないように、どうせ俺ら首になるんだ、おとなしくしていれば手当も 当らないから、あの芝居みたいに皆で一緒になって、ストライキでもやって、おやじ 者をトッちめてやろうかと云うと、みんなはニヤ / \ して、 生「ウン : ・ : 」と云う。そしてお互いを見廻しながら、「やったら、面白いわねえ ! 船 と、おやじのとッちめ方をキャッ / ( 、と話し合う。それを聞いていると、築地の芝居 蟹と同じような遣り方を知らず識らずに云っていた。 伊藤の影響力で、今迄のこの仲間に三人ほど僚友会の女工が入ってきた。それらは 大ッびらな労働組合の空気を少しでも吸っているので、伊藤たちが普段からあまりし ゃべらない事にしてある言葉を、平気でドシ / ( 、使った。それが仲間との間に少しの かんげき 間隙を作った。それと共に、それらの女工はどこか「すれ」ていた。「運動、のこと が分っているという態度が出ていた。 伊藤はその間のそりを合わせるために、今 色々な機会を作っていた。「小説のようにはうまく行かない」と笑った。 244

6. 蟹工船・党生活者

たやす 虫ケラより容易いことだ。 そんならば、第二には何か。諸君、第二にも力を合わ らくごしゃ せることだ。落伍者を一人も出さないということだ。一人の裏切者、一人の寝がえり 者を出さないということだ。たった一人の寝がえりものは、三百人の命を殺すという 事を知らなければならない。 一人の寝がえり ( 「分った、分った。」「大丈夫だ。」 「心配しないで、やってくれ。」 ) ・ 「俺達の交渉が彼奴等をタ、きのめせるか、その職分を完全につくせるかどうかは、 者一に諸君の団結の力に依るのだ。」 生 続いて、火夫の代表が立ち、水夫の代表が立った。火夫の代表は、普段一度も云っ 党 たこともない言葉をしゃべり出して、自分でどまついてしまった。つまる度に赤くな 蟹り、ナッパ服の裾を引張ってみたり、すり切れた穴のところに手を入れてみたり、ソ ワ / ( 、した。皆はそれに気付くとデッキを足踏みして笑った。 と云って、 「 : : : 俺アもうやめる。然し、諸君、彼奴等はプンなぐってしまうべよー 壇を下りた。 ワザと、皆が大げさに拍手した。 「其処だけでよかったんだ。」後で誰かひやかした。それで皆は一度にワッと笑い出 してしまった。 128 すそ

7. 蟹工船・党生活者

して、あぶくを出しながら、船を見るノ ( 、うちに真中に取囲んでしまう、そんなこと があった。氷は湯気のような水蒸気をたて、いた。と、扇風機にでも吹かれるように 「寒気」が襲ってきた。船のあらゆる部分が急にカリッ、カリッと鳴り出すと、水に おしろい 濡れていた甲板や手すりに、氷が張ってしまった。船腹は白粉でもふりかけたように、 霜の結晶でキラ′ ( 、に光った。水夫や漁夫は両頬を抑えながら、甲板を走った。船は こうや 後に長く、曠野の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。 者 川崎船は仲々見つからない。 活 生九時近い頃になって、プリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見し た。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りやがったど。畜生 ! 、デッキを走って 蟹歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降された。が、それは探がしていた第一号ではなかっ た。それよりは、もっと新しい第号と番号の打たれてあるものだった。明らかに x xx 丸のものらしい鉄の浮標がつけられていた。それで見ると、 xxx 丸が何処かへ 移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。 戌Ⅱは川崎船の胴体を指先きで、トン / ( 、た、いていた。 「これアどうしてバンとしたもんだ。」ニャッと笑った。「引いて行くんだ。」 そして第号川崎船はウインチで、博光丸のプリッジに引きあげられた。川崎は身

8. 蟹工船・党生活者

と云って、それが特徴である考え深い眼差で、何べんもうなずいた。 私は冗談を云った。 「最後に笑うものは本当に笑うものだから、今のうち須山に渋顔をしていて貰う 伊藤も笑った。 彼女はそれから自分たちのグループを築地小劇場の芝居を見に連れて行ったことを 者話した。どの女工も芝居と云えば歌舞伎 ( 自分では見たことが無かったが ) か水谷八 活重子しか知らないのに、労働者だとか女工だとかゞ出てきて、「騒ぎ廻わる」ので吃 生驚してしまったらしかった。終ってから、あれは芝居じゃないわ、と皆が云う。伊藤 党が、じア何んだと訊くと、「本当のことだ」と云う。面白い ? と訊くと、みんなは しか 「さア 然し余程びッくりしたとみえて、後になっても ! 」と云ったそうだ。 よく築地の話をし出すそうである。伊藤に何時でもなついている小柄のキミちゃんと い、つの」か 「あたし女ェッて云われると、とッても恥かしいのよ。ところが、あの芝居では女工 ッてのを鼻にかけてるでしよう、ウソだと思ったわ。」 そんなことを云った。が、それでも考え / ( 、、、「ストライキにでもなったら、ウン 243 まなざし

9. 蟹工船・党生活者

べると、母がもう少し低くするように注意した。母は、会っていて、こんなに心配す るよりは、会わないでいて、お前が丈夫で働いているということが分っていた方がず ッとい、と一ムった。 母は帰りがけに、自分は今六十だが八十まで、これから二十年生きる心積りだ、が 今六十だから明日にも死ぬことがあるかも知れない、が死んだということが分れば矢 張りひょっとお前が自家へ来ないとも限らない、そうすれば危いから死んだというこ 者とは知らせないことにしたよ、と云った。死目に遇うとか遇わぬとかいうことは、世 活の普通の人にとってはこれ以上の大きな問題はないかも知れぬ。しかも六十の母親に 生とっては。母がこれだけのことを決心してくれたことには、私は身が引きしまるよう 党な激動を感じた。私は黙っていた。黙っていることしか出来なかった。 外へ出ると、母は私の後から、もう独りで帰れるからお前は用心をして戻ってくれ と云った。それから、急に心配な声で、 「どうもお前の肩にくせがある : : : 」 と云った。「知っている人なら後からでも直ぐお前と分る。肩を振らないように歩 く癖をつけないとねえ : 「あ、みんなにそう云われてるんだよ。」 197

10. 蟹工船・党生活者

「ん、分った。大丈夫だ。何時でも一つ位え、プンなぐってやりてえと思ってる連中 ばかりだから。」 火夫の方はそれでよかった。 雑夫達は全部漁夫のところに連れ込まれた。一時間程するうちに、火夫と水夫も加 わってきた。皆甲板に集った。「要求条項」は、吃り、学生、芝浦、威張んなが集っ てきめた。それを皆の面前で、彼等につきつけることにした。 船監督達は、漁夫達が騒ぎ出したのを知るとーーそれからちっとも姿を見せなかっ 工 「おかしいな。」 蟹「これア、おかしい。」 「ピストル持ってたって、こうなったら駄目だべよ。」 ところ 吃りの漁夫が、一寸高い処に上った。皆は手を拍いた。 「諸君、とう / ( \ 来た ! 長い間、長い間俺達は待っていた。俺達は半殺しにされな からも、待っていた。今に見ろ、と。しかし、とう / ( 、来た。 諸君、まず第一に、俺達は力を合わせることだ。俺達は何があろうと、仲間を裏切 あいつごと らないことだ。これだけさえ、しつかりつかんでいれば、彼奴等如きをモミつぶすは、 127 たた