笑っ - みる会図書館


検索対象: 蟹工船・党生活者
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1. 蟹工船・党生活者

矢理に卵とバナ、を彼の手に握らしてやった。 少し時間が経っと、母も少しずっしゃべり出した。「家にいたときよりも、顔が少 おとろ し肥えたようで安心だ」と云った。母はこの頃では殖んど毎日のように、私が痩せ衰 ご - つもん えた姿の夢や、警察につかまって、そこで「せつかん」 ( 母は拷問のことをそう云っ ていた ) されている夢ばかり見て、眼を覚ますと云った。 母は又茨城にいる娘の夫が、これから何んとか面倒を見てくれるそうだから安心し 者てやったらいいと云った。話がそんなことになったので、私は今迄須山を通して伝え 生 てもらっていた事を、私の口から改めて話した。「分ってる」と、母は少し笑って云 党 工 蟹 私はそれを中途で気付いたのだが、 母親は何んだか落着かなかった。何処か浮腰で 話も終いまで、しんみり出来なかった。 母はとうイ、、云った、お前に会う迄は居 ても立ってもいられなかったが、こうして会ってみると、こんなことをしている時に お前が捕かまるんじゃないかと思って、気が気でない、それでモウそろ , ( 、帰ろうと 云うのだった。道理で母は時々別なテープルにお客さんが入ってくると、その方を見 て、「あのお客さんは大丈夫らしい。とか、又別な人が入ってくると、「あの人は人相 が悪い , とか云っていた。私がかえって知らずに家にいた時のような声でものをしゃ 196

2. 蟹工船・党生活者

るのは同志ばかりである。それは一人でも同志が奪われてみると、その間をつないで いた私達の気持の深く且っ根強かったことを感ずる。それがしかも私達を何時でも指 以前ある反動的組合のなかで反対 導してきていた同志の場合、特にそうである。 派として合法的に活動していた時は、同じことがあってもこれ程でもなかった。その 時は矢張り争われず、日常の色々な生活がそれをまぎらしていたからであろう。 私は自分のアジトを誰にも知らせないことにして 者下宿には太田が待っていた。 りようかい 活いたが、上の人との諒解のもとに一人だけに ( 太田に ) 知らせてあった。それは倉田 生工業で仕事をするためには、どうしても専任のものを一人きめて、それとは始終会う 党必要があった。外で会っているのでは即刻のことには間に合わなかったし、又充分な ことが ( 色々な問題について納得が行くようには ) 出来なかった。 太田は明日入れるビラについて来ていた。それで私はさっきと打ち合せてきたこ とを云い、明朝七時駅の省線プラットフォームに行って貰うことにした。そこへ がやって来て、ビラを手渡すことになっていた。 急ぎの用事を済ましてから、私達は少し雑談をした。「雑談でもしようか」ニ コ′ ( 、そう云い出すと、「得意のやつが始まったな ! ーと太田が笑った。用事を片付 155 ・つえ

3. 蟹工船・党生活者

気なことを云い、又母親のことを私に伝えてくれた。 私は自分の家を出るときには、それが突然だったので、一人の母親にもその事情を 云い得ずに潜ぐらざるを得なかったのである。その日は夜の六時頃、私は何時ものレ ンラクに出た。私は非合法の仕事はしていたが、ダラ幹の組合員の一人として広汎な 合法的場面で、反対派として立ち働いていたのである。ところが六時に会ったその同 志は、私と一緒に働いていたが突然やられたこと、まだその原因はハッキリしてい 者ないが、直接それとつながっている君は即刻もぐらなければならないことを云った。 ちょっとばうぜん 活私は一寸呆然とした。の関係で私のことが分るとすれば、それは単にダラ幹組合の 生革命的反対派としてゞは済まない。オヤジの関係になるのだ。私は一度家に帰って始 党末するものはして、用意をしてもぐろうと思い、そう云った。それだけの余裕はある と思った。するとその同志は ( それがヒゲだったのだが ) 、 「冗談も休み休みに云うもんだ。」 と、冗談のように云いながら、然し断じて家へは帰ってはならないこと、始末する ものは別な人を使ってやること、着のみ着まゝでも仕方がないことを云った。「修学 旅行ではないからな」と笑った。ヒゲは最も断乎としたことを、人なっこさと、一緒 2 に云い得る少数の人だった。彼は、もぐっている同志がとう , ( 、行く処がなくなって、 こうはん

4. 蟹工船・党生活者

私は頬杖をしながら、頭を動かさずに眼だけを向けて訊いた。 「何が ? 」 伊藤は聞きかえしたが、それと分ると、顔の表情を ( 瞬間だったが ) 少し動かした すぐ平気になり、そう云った。 者「革命が来てからだそうだ。わが男の同志たちは結婚すると、三千年来の潜在意識か どれい 活ら、マルキストにも拘らず、ヨシ公を奴隷にしてしまうからだと ! 」 生と須山が笑った。 党「須山は自分のことを白状している ! 」 と伊藤はむしろ冷たい顔で云った。 「良き同志が見付からないんだな。」 私は伊藤を見ながら云った。 「俺じやどうかな ? 」 須山はむくりと上半身を起して云った。 「過ぎてる、過ぎてるー 223 ほおづえ

5. 蟹工船・党生活者

かにこうせん へさきの牛の鼻穴のよう く則に、ペンキの剥げた帆船が、 この蟹工船博光丸のす。手一 しカり なところから、錨の鎖を下していた。甲板を、マドロス・パイプをくわえた外人が二 人同じところを何度も機械人形のように、行ったり来たりしているのが見えた。ロシ アの船らしかった。たしかに日本の「蟹工船」に対する監視船だった。 くそ 「俺らも、つ一文も無え。ーーー糞。こら。」 そう云って、身体をずらして寄こした。そしてもう一人の漁夫の手を握って、自分 はんてん 船の腰のところへ持って行った。袢天の下のコールテンのズボンのポケットに押しあて た。何か小さい箱らしかった。 工 一人は黙って、その漁夫の顔をみた。 蟹「ヒヒヒヒ : : : 」と笑って、「花札よ。」と云った。 かっこう ボート・デッキで、「将軍」のような恰好をした船長が、プラ′ ( 、しながら煙草を のんでいる。はき出す煙が鼻先からすぐ急角度に折れて、ちぎれ飛んだ。底に木を打 った草履をひきずッて、食物バケツをさげた船員が急がしく「おもて」の船室を出入 した。 、ばかりになっていた。 用意はすっかり出来て、もう出るにい ざっふ のぞ 雑夫のいるハッチを上から覗きこむと、薄暗い船底の棚に、巣から顔だけピョ コ / ( 、出す鳥のように、騒ぎ廻っているのが見えた。皆十四、五の少年ばかりだった。

6. 蟹工船・党生活者

下宿がこんな具合だと危険この上もない。私や須山や伊藤はメーデーをめざして倉 田工業を動かそうと思っている。 , ハ百人の臨時工の首切と伴って、私たちさえしつか りしていれば、その可能性は充分にあった。それを今やられたら、全く階級的裏切と なるのだ。 co は此の頃枕もとに太身のステッキと草履を用意して寝ることにしている そうだ。私はそのことに気付いたので、まだ実行していなかった物干に草履をおいて 置くために、途中一足買って戻ってきた。 そと ーー連絡 者私は須山と会ってみて、「赤狩り」は何も外ばかりでないことを知った。 生に行くと、向うから須山が顔一杯にほう帯をし、足を引きずって、やってくるので、 党 びつくり と云うのだ。彼は時々ほう帯の上から顔を抑えた。傷 ←私は吃驚した。「やられたー 蟹が痛んで、どうしようかとも思ったが、時期が時期だし、連絡が切れると困るので、 ようやくやってきたのだった。私たちは外を歩くのをやめて、しるこ屋に入った。 そと 工場では外の警察だけではあまり効果がないと云うので、清川や熱田の「僚友会」 や在郷軍人の青年団を入れ、内部から「赤狩り」をしようとしたのに、「マスク」や ビラなどで、その事さえバク露されて、あせり出したらしい。ところが会社はこの二 三日前から例の「慰問金ーの募集をやり出した。時期おくれに倉田工業がそれをやり いわゆる 出したというのはそれでもって工場内の雰囲気を統一し、所謂赤の喰い込む余地をな 236

7. 蟹工船・党生活者

こんな処ではめずらしい女のよく通る澄んだ声で返事をした。「幾ば ですか ? 」 「幾ほ ? 二つもあったら不具だべよ。 急にワッと笑い お饅頭、お饅頭 ! 」 声が起った。 「この前、竹田って男が、あの沖売の女ば無理矢理に誰もいねえどこさ引っ張り込ん で行ったんだとよ。んだけ、面白いんでないか。何んば、どうやっても駄目だって云 者うんだ : 酔った若い男だった。 「 : : : 猿又はいてるんだとよ。竹田がいきなりそ 生れをカ一杯にさき取ってしまったんだども、まだ下にはいてるツて云うんでねか。 くび 三枚もはいてたとよ : : : 。」男が頸を縮めて笑い出した。 船 蟹その男は冬の間はゴム靴会社の職工だった。春になり仕事が無くなると、カムサッ 力へ出稼ぎに出た。どっちの仕事も「季節労働」なので、 ( 北海道の仕事は殆んどそ れだった。 ) イザ夜業となると、ブッ続けに続けられた。「もう三年も生きれたら有難 はた い。」と云っていた。粗製ゴムのような、死んだ色の膚をしていた。 ふせつ 漁夫の仲間には、北海道の奥地の開墾地や鉄道敷設の土工部屋へ「蛸」に売られた ことのあるものや、各地を食いつめた「渡り者ーや、酒だけ飲めば何もかもなく、 たゞそれでい、ものなどがいた。青森辺の善良な村長さんに選ばれてきた「何も知ら なん なん

8. 蟹工船・党生活者

る、夜、三回とも、そのなすで済ました。三日もそれを続けると、テキ面に身体にこ たえてきた。階段を上がる度に息切れがし、汗が出て困った。 しよくよく 腹が減り、身体が疲れているのに、同じものだと少しも食慾が出なかった。終いに は飯にお湯をかけ、眼をカ一杯につぶって、ザプイ . 、とかッこんだ。それでも飯のあ るときはよかった。夜三つ位の連絡を控えていて、それも金がないので歩き通さなけ ればならない時、朝から一度しか飯を食っていない時は、情けない気がした。私は一 ま 者度その同志に会えたらパン位にはありつけるだろうと、当てにして行ったのだが、 生んまと外ずれてしまったことがあった。その同志は気の毒そうな顔をして、自分はこ ある の次にに会うが、或いはパン代位は出そうだから一緒に行ってみようと云った。 蟹とは顔見知りだし、我の出来なくなった私はそうすることにした。私はそこでパン とバタにありつけた。は「パン一片食うために、大の男がのこ , ( 、出掛けてきて、 つかまったりしたら、事だぜ ! 」と笑った。「まず、我に。ハンを与えよ、だよ ! 」私 はそんなことを云って笑ったが、 こ、つい、つ情態が続くとい、つことは全くよくない ことだと思った。しつかりと腰を据え、長い間決してつかまらずに仕事をしてゆくた あせ めには、こんな無理や焦り方をしては駄目だ。 私は最後の手段をとることにきめた。その日帰ってきて、私は勇気を出し、笠原に 230

9. 蟹工船・党生活者

「間違ったんでねえか、道を。」と、一人が大声をたてた。 「ストライキやったんだ。」 「ストキがどうしたって ? 」 「ストキでねえ、ストライキだ。」 「やったか ! 」 「そうか。このま 、、どんイ \ 火でもブッ燃いて、函館さ帰ったらどうだ。面白い 者ど。 生 吃りは「しめた ! 」と思った。 党 せいぞろ 「んで、皆勢揃えした所で、畜生等にねじ込もうッて云うんだ。」 船 蟹「やれ、やれ ! 「やれ′ ( 、じゃねえ。やろう、やろうだ。」 学生が口を入れた。 やろ、つ / ( 、ー 「んか、んか、これア悪かった。 る頭をかいた 皆笑った。 ひとまと 「お前達の方、お前達ですっかり一纏めにして貰いたいんだ。」 126 もら ー火夫が石炭の灰で白くなってい

10. 蟹工船・党生活者

と云って、それが特徴である考え深い眼差で、何べんもうなずいた。 私は冗談を云った。 「最後に笑うものは本当に笑うものだから、今のうち須山に渋顔をしていて貰う 伊藤も笑った。 彼女はそれから自分たちのグループを築地小劇場の芝居を見に連れて行ったことを 者話した。どの女工も芝居と云えば歌舞伎 ( 自分では見たことが無かったが ) か水谷八 活重子しか知らないのに、労働者だとか女工だとかゞ出てきて、「騒ぎ廻わる」ので吃 生驚してしまったらしかった。終ってから、あれは芝居じゃないわ、と皆が云う。伊藤 党が、じア何んだと訊くと、「本当のことだ」と云う。面白い ? と訊くと、みんなは しか 「さア 然し余程びッくりしたとみえて、後になっても ! 」と云ったそうだ。 よく築地の話をし出すそうである。伊藤に何時でもなついている小柄のキミちゃんと い、つの」か 「あたし女ェッて云われると、とッても恥かしいのよ。ところが、あの芝居では女工 ッてのを鼻にかけてるでしよう、ウソだと思ったわ。」 そんなことを云った。が、それでも考え / ( 、、、「ストライキにでもなったら、ウン 243 まなざし