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検索対象: 誰のために愛するか
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1. 誰のために愛するか

Ⅱこの人と結婚すべきだろうか もし私が彼の色香に惚れたのなら、無惨な幻減を味わねばならめ。彼は青年時代は、臆面もな く、女性に捧げる花東を抱えて歩く ( 私にはくれたことはないが ) ような男だった。しかし、今はだ めだ。 xx 夫人に花東を持って行くと言うと、「サツマイモにしろよなどと言う有様だ。 しかし、彼は相変らず、本をよく読むし、必要と思ったところは決して忘れない。そして、な かなかかっとならない。かっとならないだけでも、私は彼に尊敬の念を覚える。つまりそれだけ でいいのだ。それから物理、数学何でもかなりよくできる。一緒に住むと大変便利だ。私は。フロ 。 ( ンガスの使い方もよくわからなくて二度も爆発させ、髪の毛や眉毛を焦がし、。フロバン恐怖症 になった。しかし彼はプロバンガスについてよく知っているからありがたい。 こう考えてくると、私はまことに利己的な動機で結婚生活を続けているらしい。そう言うと、 「自己愛のない愛なんてないから、自然でしよう」 ということになる。すると案外、彼の方も、私がいることで少しは便利だから暮しているのだ ろ、フと思う。 という考えもよくわかる。それから 一人の人間に必ずしも、長く心をつながれる必要はない、 先は美意識の問題である。ただたまたま、一人の人間との間の愛を長続きさせたいと思う人がい るのだったら、男も女も、相手に絶対の忠誠をつくすべきなのである。 かか

2. 誰のために愛するか

である。彼に言わせれば、どだい人間なんて、百人百通りなのだから、どんなに何かと希ったと ころで、女房が思い通りになるはずはない。家計簿をつけろ、と言いつけてみたところで、財布 をすぐ置き忘れ、おつりを受け取らずにふらふらと店を出てしまうような女房に、二円、三円、 帳尻が合わないことを文句言って表たところで、どうにもなるまい。それに、家計を締めようと 思ったら、まず、家計簿を買わないことだ、と花森安治先生もおっしやったこともあるし : 妻の方はどう思ったか。結婚するとき、女房はまだ学生で、作家などではなかった。そして女 房は結婚しても、断然、働くことを決心していたのである。 女房の私は、決して語学力に自信がある訳ではなかったが、とにかく翻訳でもしてお金を稼が ハートタイマーの家政婦でもよかっ なくては、と考えていた。もし語学力の不足を痛感したら、 たし、その中間をとって、英語の家庭教師にでかけようかとも考えていた。このような働く妻の イメージは、私が自分の出た聖心という学校から、自然に植えつけられたものだった。 ( イティーン時代に、戦後の社会的変化のときを経験した私たちは、まだ高校のうちから、働 いて自分で、経済力をもてる人を偉いと思う気分を持つようになったのである。私と違って手先 の器用な同級生は、授業中に机の下で手袋など編んで、けっこういいアを ( イトをしていた。 それに、どういう訳か ( 多分キリスト教的なものの考え方によるせいであろうが ) 私たちの世代には 134

3. 誰のために愛するか

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4. 誰のために愛するか

Ⅳ自分が落ち込みかけている穴 私はさっそくひとやまの精神分析学の本を届けた。 その翌々日、彼女はスープを一杯のんだ。お医者さんたちはびつくりした。後はもうとんとん 拍子だった。彼女も又、私と同じように、本を読むことで、かなり自分をなおしたのである。 この世を生きる夢 女は世間知らずだという。しかし知りすぎているという悲劇の方が、実は知らなさすぎる悲劇 より大きい。無知の代表みたいに言われる『女の一生』のジャンヌの晩年さえ、思いのほか悪く ないのてある。 しかし女は甘いということは確かである。女はいつも、自分だけが不幸なので、世間も自分の 身上話だけは聞く義務がある、と思うのである。 テレビを聞いていた。ひとがかけているのを音だけ聞いていたのだ。するとアナウンサーが、 「この一族の中からも、多くの人々が戦争で死にました」 と言っていた。前後のつながりは何もわからない。しかし、そのさりげない言葉の中に含まれ る悲しみが、私の胸をうった。誰が生きて誰が死ぬのか。ひとの死も、要約すれはこうなるのだ し、だからこそ、

5. 誰のために愛するか

間通りは簡単なのである。 性の解放を実行する女性は、これらのことが全部できる自信がなければならない。現在の結婚 うら 制度に反対するなら、男が裏切ったの、子供の責任をとらないのと、怨みごとを言わないことで ある。解放を認めない人々 ( そういう保守的な人々はつねに社会にいるのだから ) とも戦い続けること である。

6. 誰のために愛するか

は多分に観念的なものだが、不幸は具体的である。私は父母の結婚生活ではえられなかったもの を、はっきりと結婚の相手に望んだ。 母が、父より一分でも遅く家へ帰ることを許されず、子供 ( 私 ) の遠足につきそってきていて も、いつもはらはらしているのを子供心にも見ていたから、寛大な人が第一だと思った。又母は 父と話が合わなかったから、話の合う人を望んだ。生まれとか、学歴とか、背の高さなど、どうでも一 よかった。靴下がくさくても、ダンスができなくても、 ( ゲでもデブでもよかった。私は男とい えば、頭 ( 精神 ) だけが問題だったから、つまり大脳が歩いているようなもので、他のことは一 切どうでもよかったのである。 ( この点については、私の娘時代から今まで、その無趣味であることをた びたび友達から非難されたものである ) しかし世間の娘たちが考える結婚の条件は「 : : : でなければいい」という形ではなく「 : : : で なければいけない」という形をとるようである。こうなると選択の範囲はずっと狭くなってく る。身長が一七〇センチ以上、大学は xx 大学、会社は一流などというふうに規定してくると、 そういう条件に合う人物はどんどん減ってくる。功利的な言い方をしても、むしろ分はますます 悪くなりそうに思える。

7. 誰のために愛するか

と聞いたのだが、子供は、 「別に何もないさ」 とまるで父子でしめし合わせたような返事をして、さっさと遊びに行ってしまった。私はまっ たく誰からも取り残されているんだ。 妻の立場からみればもっともなのだ。しかし、恐らく夫の側からみれば、妻に会社の話をする とい , っことは』夫にめんど、つ・氏さいのだ。 多くの妻は、組織というもののからくりがわからない。そこに登場する人物もわからない。会 = = ロ AJ し、つ 5 もの、 「ほら、きのうのあれね、あれ、あっちへ送っといてくれー たいな言い方が通じてこそ、初めて、気楽に話せるのだ。けれど、うつかり喋って、 「どうして、そういうとき、あなたの意見を通そうとしないの ? 今、民主主義の時代でしよ。 それなのに下の意見を通さないのはまちがってると思うわ」 などとトンチンカンな意見を女房に言われたりすると、亭主は目をばちくりし、そもそも会社 というものは、決して民主的でも何でもないものだというところから説明してかからねばならな くなる。 140

8. 誰のために愛するか

のだ。なぜならその人は、そのように生きることを神から命じられているからだ。そしてその人 の行為は、誰からもホメられなくとも、それは単独に、そのことじたい、立派に完結して輝いて 面されねば安心できない人は、そこでいつもじたはたす いる。自分の行為を、他の人によって評イ と考え ることになるのだ。自分が満足できることをしていたら、わかってもらえなくてもいし られないのだろうか。 外に向かって心を開かなくなるとき 前からたびたび書いているように、私はひどく精神的にもろい人間である。 母が脳軟化のあと失語症になったとき、それは私にも伝染して、長い間、ものがなめらかに言 えなくなった。いつもお喋りなんだから、これでちょうどいいや、と私は自分に言い聞かせるこ とにした。 ・これはど、フにもしよ、つがなかった。ムフのよ、つ 不眠がひどくなって発狂恐怖がでてきたとき : に元気なときこそ、私はもし自分が本当に悪くなったら、セシ , ーの『精神分裂症患者の手記』 に匹敵するような精神状態のレポートを書いてみせる、などと考えている。しかし本当に悪いと きには、病人は決して外に向かって心を開かないものなのだ。自分が喋ろうとすると、どんなに 168

9. 誰のために愛するか

理工場を経営するようになった。 ある日彼の同級生が訪ねて行くと、まもなく、これが問題の夫人だな、と思われる女が、お茶 を持ってきてくれた。地主の息子より一つか、二つ年上ではないかと思われる、優しい雰囲気の 女だった。 彼女の姿を見ると、彼は、訪ねて来た友人に言った。 「これが女房ゃ。彼女パンパン ( 娼婦 ) しとったんや」 お茶を出そうとしている夫人の手は少しもゆるがなかった。それはすべてをあるがままに受け 容れられたという女の自信に満ちていた。彼女はそのまま、席に加って穏かに談笑した。 この相手はどんな人だろうか す 私はこの夫婦における信頼を、男と女の結びつきの最も純粋な形だと考える。 求 欲 人間は本能的に粧うものであろう。年をとるに従って、体力や気力が衰えたり、粧うというこ を 何 とに対するある種の懐疑が生まれると、粧うことがバカらしくなってくる。しかし若いときに 愛 は、自分をよく見せようと思う気持は、生理的に強い。 その中から真実を見抜かねはならないのである。 よそお ワ 1

10. 誰のために愛するか

話をもとへ戻す。 今でこそ、小説家は、時折、文化人のように思われる。しかし、本来はそうでないのだ。私も 2 小説を書こうと決心したとき、まだ十代の幼稚な娘なりに常識的な生活を捨てようと考えた。 これから私は男の人と夜おそくお酒をのんで帰ってくるだろう。そしてヘンな姦通小説なんか も書いて : : : それはいいのだが、もし父がある日、人並な縁談にでものることをすすめ、そし てある日、興信所なんぞというところが、私を調べにくると、うちのまわりの奥さんが歯に衣を きせたような言い方で、 「ええ、もう、たいへんいいお嬢さまで : ・ : ・ええ、才気はおありになりますし ( ヨシテクレエ ) こ の頃は何ですか文学の方も御研究になっているとかで、よく夜おそく、若い男と酒くさくなって 帰っていらっしゃいますよ [ といっている有様が目に見えるような気がするのだった。それはい、。 そんなことは事実だろ うからかまわない。しかしただ、意識的な父との衝突が心理的に煩わしくて、私は顔をシカメた くなった。 それでも私はその道を選んだのだった。正直に生きるために。不細工にありのまま生きること お、私の美学であったのだ。 ぶさいく