日で終わりだな、と佐賀見は思った。女の悪罵よず、そういう客は余りにも多過ぎた。店の中で暴 りも、佐賀見には、その思いの方が胸に浸みた。カ沙汰は由紀江に悪いと佐見賀は思った。何故か、 美加にあやまる気は起こらなかった。 佐賀見は席を立った。 たとえ、美加の相手が幾ら腕力が強くても、相 「待て、逃げるのか ! 」 と女の連れがいった。多分、その女の男なのだ手が擲ってくれば、こちらも擲り返さざるを得な ろう。図体の大きな男だった。佐賀見は二人を無 佐賀見が男の傍をすり抜けようとすると、こ らあやまらないのか、と男が佐賀見の胸を突いた。 視して、由紀江に、勘定を命じた。 佐賀見はカウンターによろけた。その時、佐賀見 「今度で結構です」 と由紀江がいった。 は手にふれたビ】ル瓶を握っていた。 由紀江の眼は、佐賀見に早く帰れ、といってい 「止してよ、店の中での喧嘩は」 るようだった。佐賀見はこの時、自分に対する由と由紀江が仲に入った。ビール瓶を握った佐賀 紀江の好意のようなものを感じた。 見の歪んだ顔の傷を見て、男が後ろに下がり身構 加奈が何かいいかけたのを、由紀江が強い視線えた隙に、佐賀見はスナックから走り出ていた。 男と女の罵声を聞きながら、佐賀見は夢中で走 で押さえた。 った。気がつくと御堂筋に出ていた。佐賀見はま 「あやまれ、美加にあやまれ」 と男が佐賀見の前に立ち塞がった。男の言葉をだビール瓶を握っていた。佐賀見はビール瓶を路 聞いて佐賀見は、ああ、この女は、美加という名上に叩きつけたい衝動にかられた。ビール瓶には 前だったな、と思い出した。佐賀見が美加の名前王冠がついていた。まだ空けていないやつだっ を忘れていたのは、当時、佐賀見は、にする客た。佐賀見は来た道を戻ると、モータープールの を人間だと思っていなかったからだ。男女を問わ傍の石塀にもたれ、王冠を歯でこじ開けて、ビー
紀江は、この店で、佐賀見と待ち合わせたりはしからこそ、佐賀見の誘いに乗って、小豆相場に手 を出したりしたのだろう。佐賀見は、由紀江に三 なかっただろう。 千四百円を払った。 由紀江は、煙草の煙を吐くと、 「もう本当に、カナには来ないの ? 」 「女って、エゴね。それに、私って、いいえ 「ああ、行けない」 んなこと、佐賀見さんに話しても仕方ないわ。た だね、佐賀見さんが悪いことをしていたのは、昔「でも、佐賀見さん、何故、あの店が気に入って、 通って来てくれていたの ? 」 なんてしよ、今は違うわ」 それは多分、君がいたからだろう、と佐賀見は 「昔とはいえないな、つい一年位前まで。それは たカった。たが、佐賀見にはそれがいえな そうと払いの方は ? 」 商事に入社してから、そのような言葉を、 「三千四百円よ、佐賀見さんが持って行ったビー 何人の女性に告げていただろうか。数え切れない ル一本分も人っているわ」 ほどだった。そして、佐賀見が、そういう言葉を そういって、由紀江はいたずらつばく笑った。 佐賀見も釣られて笑った。こんな愉快に笑ったのロにするたびに、彼女達は小豆相場で金を失って 一何った。 は久し振りだな、と佐賀見は思った。 それにしても、由紀江は何故、美加が嫌いなの 由紀江に対していわなければならない言葉を、 だろう。当時、美加は、ミナミの小さなバ ーのマ佐賀見はロにすることが出来ないのだった。それ マ代理だったが、旦那がいたようだった。確か、 は、佐賀見の罪に下された天の罰かもしれなかっ 日本橋で、電気器具店を経営していたようだ。美 加の金が目的だったから、詳しいことを佐賀見は佐賀見は由紀江に、何となく落ち着く店だった 知らない。凄く金銭に執着している女だった。だ から通ったのだ、と告げた。由紀江の視線が痛か こ 0
ないで欲しい、ということだけだった。 二人の交際は半年位ミすでに肉体関係も持っ 佐賀見はそれまで大商社にいた。私大だが、か 確かに宮地真知は処女ではなかった。だ なり有名な大学を出た佐賀見は、出世を夢見ながていた。 、佐賀見は、彼女の過去の男性関係など問題に ら熱心に働いていた。佐賀見の課は、穀物の輸入が で、佐賀見は商社時代から小豆相場に詳しかっしていなかった。それに二人の関係は、すでに社 た。そんな佐賀見が商社を辞めてセールスマンに内では噂になっていた。 宮地真知は秘書課の女性にしては、何処か淋し なったのは、佐賀見なりに理由があった。 かけ 当時、佐賀見は秘書課の宮地真知と恋愛し、結い翳りのある容貌をしていた。動作も、もの静か 婚の約束までしていたにも拘らず、突然、宮地真で女性らしかった。佐賀見は、宮地真知とは、初 知が佐賀見から去ったのだった。その日のことをめから結婚を目的に交際したのだった。宮地真知 佐賀見は、今でも覚えている。雨の日曜日で、宮が、佐賀見との交際で、プロポーズを承諾したの 地真知は喫茶店で、佐賀見が幾ら、変心の理由をは、彼女が別離の宣告をした一月前だった。それ 尋ねても、もう私のことは忘れて欲しい、というまで、佐賀見と肉体関係を持ちながら、宮地真知 ・こ、丁こっこ 0 は何故か、結婚のプロポーズに応じなかったの 佐賀見は、何を喋ったか、自分の言葉は忘れてだ。 うわごと いる。頭が混乱し、ただ譫言のように、変心の理やっと承諾したと思ったら、僅か一月めに、自 分のことは忘れて欲しい、というのだった。佐賀 由をたずねていたようだった。 午後の一時頃から、四時頃まで、二人は向かい見が三時間も譫言のように、その理由を尋ねたの 合っていただろうか。忘れて欲しいという以外、も無理はないだろう。 宮地真知がいった言葉といえば、その理由も聞か結局、喫茶店の中が薄暗くなり始めた頃、宮地
思えるのだ。 ホステス連中が相手にしなくなるのも無理はな それは佐賀見の勘であった。あの時、由紀江とかった。整形外科の院長は上機嫌て、佐賀見の肩 2 の間に通じた電流のようなものを佐賀見は感じるを叩き、人生には山あり谷ありや、くよくよする うぬば な、などとカづける積りでいってくれるが、佐賀 のだった。自惚れではないだろうか、と佐賀見は、 自問自答してみた。 見は滅入るばかりだった。 小豆相場のセールスマンは、その職業だけで、 佐賀見が由紀江を思い出したのは、山崎が、こ 一般から嫌われ怖れられているのだ。 れからホステスを連れて、遊びに行こう、といい それに、佐賀見は若くはない。あの場合、由紀出した時てあった。 江に好意を持たれる理由がなかった。 佐賀見は、明日が早いので失礼する、といって その夜、佐賀見は山崎に連れられて、新地のバ 山崎と別れた。あの夜の払いのことで由紀江に電 ー街て飲んだ。一年ほど前まで、派手に遊んでい話してみようと思った。 た場所だけに、飲めば飲むほど、佐賀見の気持ち は滅入って来る。 ホステス達は、金払いの良い山崎にばかりお世赤電話では三分しか話せないので、佐賀見は時 ーに一何った。そこからカナに 辞をいっている。佐賀見は無視されていた。それ時行く、ミナミのバ 電話を掛けた。電話に出たのは、姉の加奈の方だ は、佐賀見の責任でもあった。 った。自分の名前を告げずに、声を変えて、由紀 山崎に連れられて、新地のバーに来た時から、 佐賀見の気持ちは沈む一方ミ飲めば飲むほど、江さんを呼んで欲しいというと、どなたですか、 陰々滅々たる雰囲気てたまにホステスが話し掛けという。 由紀江に較べて、加奈の方が意地が悪いようだ。 ても、ろくに返事もしない。
すが 北で小さな織物工場を経営していたが、十年ほど 真知は追い縋る佐賀見を振り切って、雨の舗道に 出た。それから、佐賀見は、会社の帰り、宮地真前に女性をつくり、家を出ているのだった。そし 9 知を地下鉄の乗り場で待ち受けた。宮地真知はそて、宮地真知は、母親と二人きりで団地に住んて れを知って、遠い方の駅まで歩いて地下鉄に乗るいたのだ。 父親からは或る程度、仕送りはあるようだった ようになった。佐賀見は仕事が手につかなかっ こ 0 が、母親としては、財産のない佐賀見に、一人娘 そんな状態の中で、仕事の面で大きなミスをしをやりたくなかったのだろう。 た。それから数日後、佐賀見は九州の支店への転佐賀見の父親は市役所の課長て停年退職にな「 ていた。佐賀見の下に妺もいて、佐賀見として 勤を命じられたのだった。 九州に行「てしまえば、宮地真知との関係に終は、自分の給料だけで生活せねばならない状態だ った。佐賀見は、宮地真知を忘れ、九州に行こ 止符を打ったのも同じことである。 それでも佐賀見は、会社を辞めようとは思わなう、と思ったのだ。 いよいよ明日は九州に転勤という日、会社に聞 かった。結婚の承諾をしてから一月の間に、宮地 真知の生活に、何かが起「たのだろう。だが、彼き覚えのない女の声て電話が掛か「て来た。その 女が喋らない以上、佐賀見としては知る方法がな電話ミ女は、佐賀見に、あなたは宮地真知にだ 、つこ 0 まされていたのて、彼女は常務の伊藤ともう一年 、刀ュ / 悩みに悩んだ末、佐賀見は、宮地真知を諦めよも関係がある旨を告げたのだ。伊藤は当時四十五 うと思った。佐賀見との結婚は、母親が徹底的に歳て社長の甥だ「た。甥というだけて常務にな「 反対したのかもしれない。宮地真知の家庭も複雑たのではない。なかなかの切れ者で、彼が営業部 ミ父親と母親は別居していた。父親は大阪の泉長時代、社の売り上げが三分の一位増加した、と
いるのよ。商社の伊藤専務、だから、立岡さん、を残して雨の舗道に出て行ったのは、宮地真知で あった。これが歌舞伎なら、今から佐賀見は、宮 あんなに御機嫌を取っていたんじゃないのー 「何や、阿呆らしー 地真知の部屋に乗り込み、久し振りだな、という と大峯がいったので、ホステス達が笑った。山ところであった。 崎と大峯は、ホステス達を連れて、何処かに遊び未練ではない、ただ俺はあの女に一言だけいう に行くらしいが、佐賀見は二人と別れた。急に由ことが残っている、と佐賀見は思った。 だがどう弁解してたところで、未練であるこ 紀江に会いたくなった。だが、由紀江は、佐賀見 と、つこ 0 とは、間違いなかった。 に会いたくない、 典子の店に行けば、典子はきっと由紀江に電話電話を掛けたって、宮地真知がどういう応対を するだろう。その時、由紀江が来ない、といえば、するか、佐賀見には分かるような気がした。結果 は屈辱以外の何ものでもないのだ。 もう典子の店にも行けなくなる。 佐賀見は一人で御堂筋に出た。今頃、宮地真知何もかも分かっておりながら、佐賀見は、宮地 はホテルの部屋に戻っている筈だった。バスを真知の次のような言葉を聞きたかった。 「私はあなたと結婚したかったの、でも伊藤専務 使っているかもしれない。 きめの細かい何処か冷たい肌を佐賀見は思い出に自分との関係をばらすといわれて、諦めたの よ、それだけは分かって欲しいわ」 した。もう自分には、全く関係のない女なのだ。 それだけ聞けば、佐賀見の古傷は、かなりいえ 佐賀見は、宮地真知を忘れようとした。 そう思えば思うほど、昔の宮地真知が脳裡に浮るだろう。 かんで来るのだった。雨の日、佐賀見は、宮地真佐賀見は御堂筋で客待ちしているタクシーの連 知と三時間も向かい合っていた。そして、佐賀見転手に千円ませ、アパートまで戻った。何度も ー 24
な気持ちになっていた。歌謡曲がやんだ。由紀江 曲めになった時、由紀江はバスルームに行った。 「バスに湯が入っているわ、佐賀見さん先に入っとの関係がこの先どうなるか、佐賀見には分から ない。今夜限りかもしれないし、また続くかもし て頂戴」 れない。 そういいながら、由紀江はまた歌い始めた。 ただ俺は、由紀江には、愛するとか、好きだ、 かなり広いバスで湯は溢れそうになっている。 湯につかっていると、あなたに自信をつけさせてという言葉だけは絶対使わないでおこう、と佐賀 あげる、といった由紀江の言葉が思い出された。見は自分の胸て呟くのだった。 その言葉は、佐賀見にとって、汚れた醜い言葉 由紀江は一体、俺の何処が気に入ったのだろう、 だったのだ。暖房が良く利いて、部屋は暖かだっ と佐賀見は不思議だった。 た。バスタオルを胸から腰部に巻いた由紀江が部 バスから出て由紀江が待っている部屋を覗く と、由紀江は、バンティとプラジャ 1 だけになっ屋に入って来た。由紀江は化粧を落としていた。 素顔は意外に柔らかかった。 ていた。 ことに眼の辺には女らしい感じがある。二十七 「べッドで待っている」 歳には見えなかった。 「早いのね、私、入ろうと思っていたのよ」 「化粧を取った顔の方が素敵だな」 佐賀見はべッドに横になって、由紀江を待った。 こういう恰好ミ一体、何人の女を待っただろう「そう、嬉しいわ」 か。だが、それ等の女の場合、殆ど、佐賀見が女由紀江は佐賀見の眼を見詰めながらべッドに近 付いて来た。佐賀見は、上半身を起こした。 達をリードして来た。 「どうしたの ? 」 今夜は違う。佐賀見が由紀江にリードされてい る。そして、リードされることに、佐賀見は素直と由紀江が佐賀見の傍に横になりながらいっ
ムで、自殺未遂を行なった者もいた。客を人間と 思うな、金と思え、というのが、商事の社長種 田の主義でもあり、佐賀見の主義でもあった。 昨年暮れまで佐賀見の収入は月収で五、六十万 はあった。佐賀見はそれ等の金の殆ど、飲む打っ 買うに使った。佐賀見の顔は連日のようにキタ新 地やミナミのバー街で見受けられた。 大阪穀物取引所仲買人 ()b 商事にいた佐賀見は、 損をさせた中小企業の社長から、応接間で花瓶 ほうらっ 昨年まで放埓な生活を送って来た。佐賀見は、今を投げられ、頭に傷を受けたこともあった。また 年の春まで営業部次長だった、三十七歳の若さでやっとためた三百万ばかりの金を佐賀見に預けて 次長になれたのは、佐賀見の商い額が、抜群だっ全部失い、商事の店頭で、殺してやると泣き喚 たからだ。商事には五十人近いセールスマンが いたミナミのママ代理もいた。 いたが、佐賀見は入社して五年めに、すでに一、 だがどんな場合も、佐賀見は冷笑をもってそれ 二を争う商い額を持つようになっていた。 に応じた。金のなくなった客は、佐賀見にとって 赤いダイヤといわれる小豆相場では、客殺しは は、路上で蹴飛ばした石ころに過ぎなかった。な ・しようとう 常套手段だった。佐賀見の客は、大会社の重役かかには正式に訴えて来る客もいたが、客の方は勝 ら、中小企業の社長、 ーのマダム、二号、ホスち目はなかった。兎に角、電話だけで、買った、 テス、家庭の主婦まであらゆる階層に渡り、金さ売ったの取り引きが行なわれるのだ。客が幾ら、 えある者なら種類を選ばなかった。佐賀見に一千そんな注文を出さなかったといっても、商事に 万円の金を預け、全部すってしまったバーのマダ証拠金を預け、商事と小豆相場で取り引きする 蒼ざめた名札
それには答えず、佐賀見は、来るなら待つよ、 ったら、帰るわ」 といって、席に戻った。由紀江が来るのが、佐賀「迷惑じゃない。君に図々しい男だ、と思われた 見には待ち遠しかった。典子は何故、電話したのくなかったんだよ」 だろう。由紀江に恋人がいるなら、典子は当然知「変な人ね、あなたのような男性って初めてだわ。 一年前は、女殺しだったのに : っている筈だし、由紀江を呼び出したりはしない 由紀江は、暗くなった佐賀見の顔を見て、御免 だろう。また、由紀江が喜んで来るのがおかし なさい とあやまった。佐賀見は、小さく頷いた。 い。由紀江は矢張り、俺に好意を抱いてくれてい るのか。 それから、由紀江は急に無口になり、佐賀見と同 しかし、由紀江のような女性に、男がいないとじ水割りを飲んだ。三十分ばかり、ばんやり坐っ ていただろうか。 いうのは、どう考えてもおかしかった。 「ね、出ましようか」 由紀江は一時間ばかりして来た。 と由紀江がいった。 「僕が電話してくれ、といったんじゃない」 と佐賀見は弁解するようにいった。 「ああ、またゴーゴークラブかい ? 」 由紀江は口元に微笑を浮かべて、顔を横に振っ 「そんなこと、どうでも良いじゃないの。私ね、 典子に、あなたが来たら電話をくれるように頼んた。石の階段を下りる時、由紀江は佐賀見と腕を でおいたのよ。あなたは、きっと、私に電話しな組んでいた。 い、と思ったから」 「あなたって、総てに自信を失っているようね、 佐賀見は痛いところを突かれたような気がしこんないい方、悪いかしら」 た。何故そう思ったのか、と尋ねた。 と由紀江は、佐賀見の顔を覗くようにしていっ 「分からないわ、それは私の勘よ。でも御迷惑だた。由紀江の眼が充血しているように、佐賀見に
一体どういう積りなのだろう、と佐賀見は落ちて、自分の部屋に連れて行った。 着かなかった。三十分後に電話が掛かって来た。 「私、今夜、加奈の旦那と会う約東をしていたの 直ぐ近くの公衆電話から電話しているのだが、佐よ、それなのに来てしまった」 か分からない、というのだった。 賀見のアバート。 佐賀見はそんな由紀江を強く抱き締めた。 由紀江は扇町公園の近くまで来ていた。佐賀見は「息が苦しい、離して、離してったら、馬鹿」 場所を説明した。 「カナを乗っ取るなんて、やめてしまえ」 服を大急ぎで着るとアバ 1 トの前に出た。深夜「やめないわよ、やめない」 由紀江は叫ぶようにいった。佐賀見は腕の力を の初冬の風は冷たかった。今年も、後一カ月余り で終わろうとしている。 ゆるめると、声に出さないで、由紀江の耳に囁い たのだ。 佐賀見は車のライトを見るたびに手を挙げた。 一台は空車だった。運転手は佐賀見をののしり走「もし、この相場が当たったら、俺が君に店を出 り去った。だが、ライトが見えると、佐賀見はまさせてやる。そして一緒に住むんだ」 「何をいったの、全然聞こえないわ」 た手を挙げるのだった。 「聞こえなくって、良かった」 今度は間違いなかった。コ 1 トを肩からはおっ そういいながら佐賀見は由紀江の耳の中に舌を た由紀江がタクシ 1 から下りて来た。 「子供みたい、アパートの前で待っているなんて、入れた。呻く由紀江をベッドに運んだ。 「バスに入りたい」 おかしな人」 だが佐賀見は無言で由紀江の服を脱がせた。先 由紀江は相変わらずアルコールの匂いを発散さ 夜と全く反対だった。今夜は佐賀見が由紀江をリ せながら、潤んだ眼で佐賀見を見て笑った。 と ードしていた。全裸になり、バスに入りたい、 佐賀見はそんな由紀江を抱きかかえるようにし