話 - みる会図書館


検索対象: 鎮魂歌
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1. 鎮魂歌

「これから後ももうかけて来ないよ」 私が何もいわずにいるうちに勝沼は重ねていった。 「もう奴はかけられない。かける権利がなくなったんだ」 私は勝沼を見つめた。勝沼が何か重大なことをいおうとしているのを私は感じた。 「奴がどんなことをしていたか話してやろうか」 勝沼は、つこ。 「あいつには男がいたんだ」 私は黙っていた。 「ばくと郁ちゃんがこうなったことで、男を作ったのなら、まだ同情の余地がある。しかしその ・ : 話にならん相手なんだ。しかも一人や二人でな 前からいたんだ。それが、実にくだらない : 「なぜわかったの ? 」 「知らせてくれる人がいた。見るに見かねたんだそうだよ。自分のことは棚にあげて、死ぬの何 のと騒いで暴れ散らすものだから」 「知らせた人は誰 ? 」 「昔、うちで働いていた女中だ」 プールで若者たちが泳いでいるのを暫くの間、私たちは黙って見ていた。

2. 鎮魂歌

「何だか引き出しをゴソゴソ開けてたようだったからね」 私はそんなことをいう母が嫌いだった。母がそんなことをいったために、よけい私は引き出し を調べなかった。翌日、私は銀行からの電話で出版社からの振込みの報せを受けた。そのとき私 は思い出して聞いた。 「私の普通預金の現在高はどうなってます ? 」 私の収入は振込みが多いので、預金通帳はたいてい銀行に預けたままになっている。係の男は 「えーと、一昨日、二百万出ておりますから、ただいまのところでは : 「何ですって ! 」 私は叫んだ。 「二百万出てる ? 銀行との電話を切った手で、私は珠夫の会社を呼び出した。珠夫は留守だった。帰り次第、電 話をするように頼んだが、夜になっても珠夫からは何の連絡もなかった。それで私は社長の嵐の 自宅へ電話をかけた。 「あなたの会社はいっ盗賊会社になったんですか、嵐さん : : : 」 私のどなる声はふるえた。

3. 鎮魂歌

私は珠夫が、昔の文学友達の白井に金を借りに行ったということを人づてに聞いた。その男け 十年はど前は失業者で、モデルをしている妻の働きにたよって文学の勉強をしていた男だったが その後文学を断念して有名進学高校の英語教師となって生活が安定した。珠夫が彼に借りにいっ た金はたった三万円であることが私を暗い気持にした。 「三万円借りるのに、珠夫さんは運転手づきの車で来たんだって怒ってたわ」 と、その話を私にした友人はいった。それから間もなく、天野勇から電話がかかった 「瀬戸が金を借りに来たよ」 無造作に天野はいった。 「金を ? 「困ってるっていうから金額を聞いたんだけどいわないんだ。それで五十万、やったよ」 「やった ! 」 歌 思わず私は高い声を出した。 「受け取った ? 」 「ああ」 「何ていって ? 」

4. 鎮魂歌

「うん、まだだ」 珠夫は笑った。そのロが暗いのが目についた。この前会ったときはいくらか残っていた上の歯 が、奥だけ残して全部なくなっていた。 「入歯入れるので抜いたの ? 」 「いや、自然に抜けたんだ」 こともなげにいってから、 「後藤の山のことなんだけどね」 と熱心な顔になっていった。 「森林組合に交通事故で怪我をした奴がいたろう。あの男が木を無断で売却していたというので 目下裁判中なんだそうだ」 「まだ信じてるの ? その話」 「しかしそれを嘘だと断定する証拠は一つもない」 「たとえ後藤さんが裁判で勝ったとしてもあなたとは関係ないんじゃないの ? ここまで落ちこ んだ会社にいくら後藤さんだってもう金を出す気はないでしよう」 「そりやそうだ」 珍しく素直に珠夫はいった。その素直さがふと私の胸を揺さぶった。珠夫はいった。 「しかし後藤はまだ出さんとはいってないんだよ」

5. 鎮魂歌

しようね。それで自分の出資金を引き上げてさっさと出て行ってしまいました。あんな会社でそ んなことをされればてきめんに響きます。嵐さんに出資金を返すために瀬戸さんは高利貸しから 金を借りてるんですからね」 「バカよ ! 」 私は冷やかにいった。 「その一言に尽きるわ」 「それで無理をした後がパクリ屋。そのあと経理部長の山の話に欺されて、あれを信じて佐伯の 家を担保に入れて金を借りたんです。山の金が入ったらすぐに返すという約束で : 「山の金で ! 」 山を売った金で佐伯のその借金を返したら、私の方へ廻って来る筈の金はなくなる勘定になる。 江崎はいった。 「ところが山の金が入るからというので、ほかにも貸してる人がいるんですよ」 今となっては私は無感動だった。私も貸した一人よ、という気はなかった。 「佐伯さんはどうなるの ? 」 私は聞いた。 「さあ」 江崎は首を傾け、

6. 鎮魂歌

「バカだな。誰も二枚目なんか気取ってやしないさ」 珠夫は泣いている私を見て微かに笑った。 勝沼さんはます細君と離婚してから郁とこう 「勝沼さんは真面目な人だとばくは思うよ。だが、 なった方がよかった。ばくはそう思うよ。ばくは勝沼さんに会ったら、そのことも、 もっとも、それだって勝沼さんがばくに会えばの話だけれどね」 珠夫は煙草の箱を持って帰る気配を見せた。 「郁が勝沼さんのものになっても、ばくは郁のことは人間として好きだからね。ばくで役に立て ることがあったら、喜んで役に立ちたいと思っているよ。これからは友達としてつき合おうよ、 ししたっ , っ ? ・」 私は涙に汚れた顔を珠夫に向けて叫んだ。 「それだけ ? い , っことはそれだけ ? 」 「じゃあ、な」 珠夫は立ち上った。 「また来るよ」 私は机の前に坐ったままだった。珠夫は部屋を出ていった。階段を下りる足音がし、やがて玄 関の戸が開いて閉った。

7. 鎮魂歌

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8. 鎮魂歌

珠夫がそういうと、私はすぐに察した。珠夫は私の机の向うにアグラをかいて、微苦笑のよう な皺を目尻とロ許に浮かべて私を見ている。この情景と、深夜に私の部屋を覗いて、 「ただいま」 とにこにこし出すときの情景との二つが、私と珠夫の夫婦生活を代表するものであったかもし れない。 ームま、つこ。 そのいい方は多分、人の目には、傲慢で思い上ったものに見えたにちがいない 「 x 十万なんだがね」 珠夫は説明をはじめ、それは x 十万の時もあるし x 百万のときもある。 「そんな話、聞いてもしようがないわ」 私は威張っていう。 「私を金の成る木だと思ってるの。人間じゃないとでも ? 」 私の声は大きくなった。 「嵐さんは何をしてるの ? 会社の金ぐりは社長がするものじゃないの」 「嵐君だってやってるさ」 「やってる ? どういう風にやってるの ? 具体的に聞かせて頂戴。瀬戸の女房はアプク銭取っ

9. 鎮魂歌

「謝ったよ」 「謝った ? ごめんなさいって ? 」 私は皮肉に笑った。 「ずいぶん変った人ねえ、恋人がいることがバレて、ごめんなさいと謝って、そして離婚はどう してもいやとい、つのはど , つい、つことなの ? 」 「そういう女なんだよ。出ていけといったら女中代りにでもいいから置いてくれっていう。女中 部屋に居るっていうんだ。それで片づくと思っている」 勝紹はなげやりに、つこ。 「とにかくすべてがその調子なんだ。阿呆なんだ。マトモに話が出来ない」 「で、奥さんがいやだというので、今までのままつづけるの ? あなたは」 「しようがないんだよ。親が死んでしまっているので尻を持って行く所がない」 勝召は、つこ。 し。。し力ないだろう」 「出て行かないものを襟がみひつつかんでつき出すわナこま、 、じゃないの その男に引き取ってもらえばいし 私はその言葉を呑み込んだ。 私はロをつぐんでプールを見た。僅かな間に急に陽がかげつて庭の芝生はホテルの建物の大き な影の中に入っていた。プールは半分だけ影の外にあって、午後の日ざしに青々と光っていたが、

10. 鎮魂歌

「昨日の朝、これから振り込むという連絡が現地から入ったと電話をかけて来たんですよ。後藤 き、んが : 「それが入らなかったんです」 女事務員は事務的にいった。 「入らなかった ! それはいったいどういうことなの ? 」 「それがわからないので、後藤さんは現地へ行ったんです」 そのときになってはじめて、私の中に後藤に対する疑惑がはっきりと形を作った。私は電話に 珠夫を呼び出した。 「あなた、後藤さんの話を信じてる ? 」 私は静かに沈痛にいった。もう怒ったり罵ったりしている時ではないのだ。私たちはこの不可 解な事態と人物に対して、心を落ち着けて再検討をするべきだ、と私は珠夫にいった。 「後藤さんの山は本当にあるのか。道明寺は本当に金を貸すといったのか。後藤さんは本当に山 を売る気なのか : 歌 「ばくは本当だと田 5 うんだよ」 魂 珠夫はいった。 「ます第一に彼にはそんな嘘をついて何の得があるかということだ。嘘をつけばっくほど、彼は 暫追い詰められるだけで、一文の得もない」