, ' 匿を ~ 碑と . 埋 鎮魂歌 0 集英社文庫 佐藤愛子作品 坊男女娘娘女赤天鎮 主ののとと優鼻気魂 の学学私私万の晴歌 花校校のの里キ朗 時部子リな か 問屋スれ ん ざ し 魂歌 私の青春とは、いったい何だったのだろ う。私と珠夫は売れない作家夫婦、亡父 の遺産が底をついたとき、珠夫は事業に 手を出して失敗、大きな借財を私に背負 わせ、しだいに変貎していった。そして、 突然私に訪れた苦い恋 。安住のない 生活と闘いながら別れた夫とのはろ苦い 交流を描く。 解説・河野多恵子 佐藤愛子 ( 撮影・大石芳野 ) 一九二三年一一月五日大阪生。甲南 。 ) 高女卒。処女作「愛子」。六三年「ソ クラテスの妻」が芥川賞候補となり 文壇の注目を浴びる。六九年「戦い すんで日が暮れて」で直木賞を受賞。 代表作「加納大尉夫人」「鎮魂歌」他。 佐藤愛子 0 集英社文庫 佐藤愛子 集英社文庫 風 定価 200 円 0193 ー 750031 ー 3041 \ 200
勝沼は暫くの間、感じ入ったように黙っていたが、 「君は敏感なんだねえ」 と呟くよ , つにいっこ。 「じゃあ、君は察知しただろう ? ばくがショックを受けたことも」 「ショック ? なせ ? 」 「何も察知しませんよ。いきなりニタニタしてへんな人、と思っただけ」 「そんな筈はない」 勝沼の顔に酔が出ていた。 「君は気がついたにちがいないよ」 勝沼は黙った。 「何を ? : : : 何も気がっかないわ」 と私はいった。私は開き直った。 歌「あなたが憎らしかったわ」 魂「憎らしい ? なぜ ? 」 「なぜだか知らないけれども」 「なぜだ ? 」
てみる」 「一の一雨に」 そういって私は迷った。 「買うなんて勿体ないわ、私、進呈したいわ」 「でもにしいんだろう ? 」 私は唸った。迷っている自分を勝沼に気取られたくなかった。 「にしいといえば忙しい、忙しくないといえばにしくない : しいよ、無理してはいけな、 勝召は、つこ。 「ばくはぶらぶらと本屋を歩くよ」 私は突然、決心した。 「行くわ ! 」 歌すると勝沼はいった。 魂「しかし無理なんだろう ? ばくは郁ちゃんに無理をしてはしくないんだ」 私は出鼻をくじかれた。私たちは少しの間黙っていた。勝沼が迷っているのを私は感じた。私 も迷った。
「明後日、小田原に来られないか。話があるんだ」 「話ってなに」 私は敏感にいっこ。 「よくない話ね ? 奥さんのこと ? 」 勝沼は曖昧にロごもった。 「来られるかい ? 小田原」 「なによ、って」 私は執拗にいっこ。 「奥さん、どうかしたの ? 」 「ずーっとへんなんだよ」 勝沼は、つこ。 から 「ガス台の火をつけっ放しにして空鍋かけてあったり : : : 農薬の瓶を枕許に置いて寝たり、昨〔 などは出刃包丁を布団の中に入れてるんだよ」 歌私は黙った。 魂「車で出て行くと、あちこちぶつけて帰 0 て来るし : : : 役所にいても、留守中、何か起「てる , ないかと思うと落ち着かなくてね」 「ガス台の火はいつつけっ放しにしてあったの ? 」
美子は秋の学芸会で、はじめて劇に出ることになった。美子の台詞は「当り前ですよ」という 一言だけだった。 「でも上野さんは私より少いのよ」 と美子はいっこ。 八字でしよ。 「上野さんは『そのとおり ! 』というだけよ。あ、た、り、ま、え、で、す、よ : そ、の、と、お、り : : : 五字でしよ。私の方が三字多い」 歌美子の学校の成績はいい方ではなかった。美子はいつもばんやりしている子供で、教室に坐る 魂と窓の外を眺め、授業以外のさまざまな想念が頭にむらがるのだった。 美子は自分は本当は狼なのだが、故あって人間の姿をしている、という空想の世界にいた。そ の世界で美子はレットという名の少年狼で、彼にはサボという友達狼がいるのだった。 第三章
翌日は日曜日だった。勝沼からの電話はかからなかった。夕方、私は珠夫に電話をかけた。日 曜日だが、仕事があるので五時までは会社に出ていると珠夫はいった。五時までに珠夫を掴まえ なければ彼に連絡がっかなくなる。珠夫はすぐ電話口に出て来て、 「ど , っした ? 」 「かからないのよ , つ」 「かからない ? 」 珠夫は驚いたようにいった。そのまま黙って少し考えた。 「じゃあ、もう一度かけてみよう」 「そうしてくれる ? 」 「すぐにかけるよ」 歌電話は切れた。それからすぐ、ベルが鳴った。 魂「息子らしいのが出て来て、今日はみんないませんっていうんだ」 珠夫はいっこ。 「夜になってからもう一度かけてみるがね。しかしそのうちに必すかかってくると思うよ。きっ
気がっかなかった。 ある日、天野勇から電話がかかってきた。この一年余り、私は天野と会っていなかった。天野 ばかりか伊藤芳吉とも土田良子とも、二、三年前までは三日にあげす会っていた文学の親友たち と会っていなかった。 「忙しそうだね。相変らす」 天野はいっこ。 「よく身体が持つねえ」 「しようがないのよ。働かなくちゃあ : ・・ : 」 「うん、可哀想だねえ」 それだけの言葉にも私は涙ぐむようになっていた。 「珠夫には女がいるっていうぜ。郁ちゃん」 天野はいった。 「もう珠夫のために尽すのはいい加減にしろよ」 歌私は何と答えていいかわからないで、 魂「へええ」 貯「生島から聞いたんだよ。相手はバーの女だってさ。そのバ ーへ通うために、奴はすいぶん無理
こんな状態になるすっと前から、親子三人が揃って食卓を囲むことなど、何年もなかったとい ってよかった。夕飯のときに珠夫がいないのが普通で、たまにいると、 とうしたの ? 病気 ? 」 と美子は聞いた。 だから、珠夫が家から出ていっても、急にこの家が淋しくなるということはなかった。一家の あるじ 、変化がない。 主がいなくなったというのに、私の家には何の変化もないのだ。実際驚くべく 歌珠夫の書斎はそのままで、書きもの机の上のものも何ひとっ変らなかった。ガラスのインキ壺 、 ' ヘン皿の中の二本のペン 魂のインキは珠夫がこの家にいた時から乾いて、薄く埃がたまってした。。 鎮や文鎮も薄い埃をかぶっていたが、それも珠夫が家にいた頃からのことだった。珠夫はその二、 三年、書きもの机に向ってものを書くことなどしなくなっていたのだ。書斎に坐っていたことさ 第一章
「ある ! 」 私は叫んだ。その声は上すっていた 「あるのよ , っ ! 」 「延ばしてもらえないのか」 「本当は昨日、渡さなければいけなかったのよ。それをこんな風で書けないから、熱が出たとい って、延ばしてもらったの。でも書けないわ。一字も書けない。朝から何も食べてないんだも 私は上ずった声でいいつづけた。 「あの人はダメな人だわ。そう巴うわ。今はっきりそう思う。たとえどんなに怒っていたとして も、女が苦しんでいると知ったら、電話をかけるのが男というもんじゃないの。そこが男と女の 違いじゃないの」 のんき 「彼は気がっかないんだよ。案外、暢気に考えているのかもしれないよ」 「あなただったらこんなやり口はしないわ。私が辛がってると思ったら、どんなに怒っていても、 歌必す電話をくれるわ」 魂「ばくと彼とは ( 理 , つよ」 なだめるように珠夫はいった。 5 「だからばくは倒産したりするんだよ」
「仕事、にしいんだろう ? もう切ろうか ? 」 「うん、でも、まだいいの」 ′ムま、つこ。 「でも切りたければ切ってもいいのよ。早く家へ帰らなくちゃならないでしようから : : : 」 「何をいうんだ」 勝沼はムキになった。 「ばくはただ、仕事の邪魔をしてはいけないと思っているだけじゃよ、 までしゃべろう」 しいですよ。そんなにムリしなくても」 「ムリなんか誰もしてやしないよ」 電話を切ると、待っていたように・ヘルが鳴っこ。 不がいうと答はなかった。暫くの間、じっと黙っていて、ふと電話は切れた。勝沼の妻だ 歌沼の妻はさっきから ( 勝沼が散歩のふりをして家を出たときから ) 私の家の電話を呼びつづけて 魂 いたのにちがいない。私の家の電話が話し中であれば、勝沼が私に電話をしているのだと見当を つける。何度も呼んでみて、話し中の時間をはかっている。それを確かめたところでどうという ことはないのだが、彼女はそうせずにはいられない。彼女はそれを確かめて、夫を難詰するとい オしかそんならいいよ