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検索対象: ドストエーフスキイ全集11 未成年
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1. ドストエーフスキイ全集11 未成年

たしが知らないとでも思ってるのかえ ! それに、わたしに 「わたしはあのお方 ( では僕婢の使う特殊の代名詞が使。てる ) と ナしか、わたしは三か月ばかり交際しました」とリーザはいい足した。 、、ってもいいじゃよ、 だって『ム 7 晩は』くらしし 「それはお前ヴァーシンのことをあのお方といったのかい、 お前さんにおしめをさしたこともあるんだよ、わたしはお前 オしか、あの ザあの人といわなくちゃいけないじゃよ、 の名付親なんだよ」 もちろん、わたしはこれに返事をする必要を認めなかつお方なんて ! お前、言葉咎めなどするのを許しておくれ。 しかしね、みんながお前の教育をまるでなおざりにしている た。このときちょうどおりよく妹がはいって来たので、わた らしいのが、ばくは悲しくてたまらないのだ」 しはさっそくそのほうへ話しかけた。 「リーザ、ばくは今日ヴァーシンに会ったがね、あの男がお「お母さんの前でそんなことをいうのは、お前さん少し乱暴 しゃなしか」とタチャーナ叔母はいきなり顔を真っ赤にし 前のことをきいていたよ。お前、知ってるの ? 」 決して 「ええ、去年ルガで会ったの」わたしのそばにすわって、優た。「それに、お前さんのいうのはでたらめだ、 丿ーザはきわめて率直な調なおざりにしてやしないよ」 しくわたしの顔を見つめながら、 「ばくは何もお母さんのことをいってやしません」とわたし 子で答えた。 は鋭い調子でロを入れた。「ねえ、お母さん、ばくはリ どういうわけか知らないけれど、わたしがヴァーシンのこ とをいいだしたら、妹はいきなり顔を真っ赤にするに相違なのことを、まるで第二のお母さんみたいに思ってるんです というような気持ちがしたのである。妹はプロンド、明よ。情の優しさからいっても、気性からいっても、あなたは ) ・ーザをご自分そっくり、美しいものに仕上げなさいまし るい色をしたプロンドで、髪の毛だけでいうと、まるで母親 た。お母さんもきっと以前あのとおりだったでしよう。い にも父親にも似ていなかった。けれど、目と卵なりの顔の輪 郭は、ほとんど母そっくりだった。鼻は非常によく筋が通っや、今でもあのとおりです。これからさきも永久に、あのと ・ : ばくはただ外面的なつやの 、ま一つの特徴はおりでいらっしやるでしよう : て、小さいけれど正しい恰好をしていたし ことをいってるのです。あんな社交的な礼儀だの、体裁だの 顔のそばかすで、これは母にはまるでなかった。ヴェルシー ロフに似たところはまことに少なく、姿のはっそりしているってものは、ばかげきっているけれど、それでもやはりなく ところと、背の高いところと、歩きつぶりになんともいえなちゃならないものなんです。ばくはただヴェルシーロフに憤 年い優美な趣きがあるところと、まあ、それくらいなものだっ慨してるのです。お前がヴァーシンのことをあの人といわな 成た。わたしとはまるつきり似たとこがなくて、ぜんぜん両極いで、あのお方といってるのを聞いても、きっとそれを直そ うとはしないだろう、 それほどあの人はばくらに冷淡で 未をなしていた。

2. ドストエーフスキイ全集11 未成年

数百万の金がわたしの手にはいるとしても、決してそれを手シェーグスビアです、あなた方は大元帥です、式部官です。 放すことではない、サラートフの乞食などになることではな ところが、わたしは無能な一私生児にすぎません。が、それ といって抗弁するだろう。あるいははんとうに手放さなでもやはり、あなた方より優れています、なぜって、あなた いかもしれない。わたしはただ自分の考えている理想を描い方が自分でそれに屈服したからです』とこういっている場景 たにすぎないのだ。が、これだけのことはまじめにつけ足しである。わたしはこの妄想を極度にまで押しすすめて、つい ておく。もしロスチャイルドと同じ額に達するだけ貯蓄に成には教育さえ軽蔑するにいたった。わたしは、この人間が見 功したら、実際とどのつまり、その富を社会に投げつけるか苦しいほど無教育だったら、さらに魅惑的だろうと思った。 もしれない ( しかし、ロスチャイルドと同じ額に達するまでこの誇張にすぎた妄想が、当時、中学校の七年級におけるわ は、ちょっと実行が困難である ) 。じっさい半分の金も出さ たしの成績に影響したほどである。つまり、教育のないほう ないつもりだ。そうでなかったら、卑屈な振舞いになってし がかえって理想の美を増すというファナチズムのために、わ まうだろう。つまり、わたしがいっそう貧しい人間になるき たしは勉強するのをやめてしまったのだ。今ではこの点だけ りだ。ところで、もしわたしがすっかり、本当にすっかり、信念を変えた。教育があっても邪魔にはならない。 最後の一コペイカまで出しつくしたら、乞食になっても、そ諸君よ、いったい思想の独立ということは、こんな些細な のときわたしは忽然として、ロスチャイルドより二倍も富裕程度のものでも、それはど諸君にとって厄介なものだろう になるのだー これが人にわからなかったら、それはわたし か ? ああ、たとえ誤ったものであろうとも、美の理想をも の罪ではない。 これ以上説明するのはごめんだ。 てるものは幸福なるかな ! わたしも自分の理想を信じてい 『それは婆羅門托鉢の教えだ、凡庸と無力の詩趣だ ! 』とるのだ。ただばくの叙述の仕方が下手で、間違っていて、 人々はきめてしまうだろう。『無能と中庸の凱歌だ』 かにも幼稚をきわめている。もう十年もたったら、もちろん そうだ。これにはいくぶん無能と凡庸の凱歌といった趣きもっとうまくいくはずだが、今はただ記憶のためにちょっと はある。それはわたしも是認する。けれど、無力ということ書き残しておくのだ。 がはたしていえるだろうか ? わたしは次のような光景を想 4 像するのがばかにうれしかった。ほかでもない、その無能で 年凡庸な一人の男が、世間の而前に立って、顔に微笑を浮かべ わたしはようやく『理想』の説明をおわった。もし書き方 成ながら、『あなた方はガリレオです、コペルニグスです、カル が下等で、上っ滑りがしていたら、それはわたしが悪いの で、『理想』の罪ではない。 未ル大帝です。ナポレオンです。あなた方はプーシキンです、 もう前にことわっておいたとお

3. ドストエーフスキイ全集11 未成年

え」 sana 「》 quae ferrum non sanat, ignis sanat 一』 (' もし ( 楽を一もって 「仲間だろうがなかろうが、そんなことをばく知るもんか癒すをえざれば、鉄をもって癒すべし、鉄いやすをえざれば火をもっ ヒポグラテスより、ラテン語。 といった。 い 0 たいばくもあの連中の仲間だというのかね ? どて癒すべし ! ) ( ここでは革命への行動の呼びかけ うしてばくのことをそんなふうに信じうるんだろう ? 」 わたしは実際のところいくらか不安を感じていた。もちろ 「ばくがきみを連れて来た、ただそれだけでたくさんじゃなん、わたしは人中 ( どんな人であろうとも ) へ出ることに馴 れていなかった。中学校では、友達ときみばくで呼び合って いか。みんなもきみのうわさは聞いて知ってるんだからね、 グラフトだってやはりきみを紹介することができるじゃない いたけれど、だれ一人としてほんとうの親友ができなかっ 力」 た。わたしは自分の小さな世界を造り上げて、その中に閉じ 「ねえ、きみ、あすこにヴァーシンがいるだろうか ? 」 こもってしまったのだ。しかし、わたしが周章を感じたの 「知らないよ」 は、これがためではない。 とにかく、わたしはどんなことが 「もしも来たらね、はいるといきなりばくを突っついて、どあろうとも、決して人と議論をしまい、だれひとりわたしに れがヴァーシンか教えてくれたまえ こく必要 ついてなんらの結論を下すことができないように、。 きなりだぜ」 なことしか口に出すまい、と誓った。が、何よりかんじんな ヴァーシンについては、わたしもかなり聞き込んだことがのは、議論しないことだ。 あるので、だいぶ前から興味を感じていたのだ。 狭すぎると思われるくらいな部屋の中には、七人 ( 女をよ デルガチョフは、ある女商人の木造の家の裏庭に立ってい せると十人 ) の人が集まっていた。デルガチョフは今年二十 る小さな離れに住まっていたが、そのかわり、離れをぜんぶ五どっ , ミ、 オオカもう結婚していた。そのうえ、細君には妹とも 借り切っているのだった。みんなで小綺麗な部屋が三つあっ う一人親戚があって、この二人もやはりデルガチョフのとこ て、四つの窓にはすっかりカーテンがおろしてあった。彼はろで暮らしていた。部屋の飾りつけは、い加減なものだった 技師としてペテルプルグで仕事をしていた。 ; 、 カわたしのちが、椅子テープルの数はかなり豊富で、しかもなかなかさっ らと耳にしたところでは、彼は地方に有利な職務をえたのばりしていた。壁には石版の肖像画がかかっていたが、恐ろ で、近々そのほうへ出発するとのことであった。 しい安物だった。片隅には袈裟のない聖像が安置してあり、 わたしたち二人が小さな控え室へはいるやいなや、次の間その前には吹明がついていた。デルガチョフはわたしのそば から大勢の人声が聞こえた。何やら夢中になって論じてるらへ歩み寄って、握手をすると、席に着くようにいオ ferrum い 0 に、れや、 . ら - 】 ediCamenta non sanant, 「さあ、おすわんなさい、 ここにいるのはみんな仲間の連中

4. ドストエーフスキイ全集11 未成年

べつに疲労などは感じなかった。 やりとあてつけがましい いやな笑い万をするのであった。 ちょうどわたしが行ったとき、ズヴェーレフは ( やはり年わたしは決して臆病風など吹かすのではない、それは前もっ は十九歳前後だった ) 自分の寄食している叔母の家の裏庭にて宣言しておく。もしわたしが何か恐れているとすれば、原 出ていた。彼は食事をすましたばかりなので、庭で竹馬に乗因はまるで別なところにあるので、警察やなんかではもちろ って遊んでいたのだ。彼はさっそくわたしに向かって、グラんない。 しかし、今度は行くことにきめた。デルガチョフの フトはもう昨日ここへ着いて、やはり同じペテルプルグ区に住居も、ほんの一足のところだった。みちみちわたしはズヴ ある以前の住居に落ちついた。そして、彼自身もある重大事エーレフに向かって、やはりアメリカ逃亡の計画をいだいて 件を報告するために、少しも早くわたしに会いたがっている いるのかとたずねた。 由を告げた。 「いや、もう少し待っかもしれない」彼は軽く笑いながら答 「またどこかへ行くんだそうだよ」とズヴェーレフがし えた。 わたしはあまり彼が好きではなかった、いや、むしろきら 今の場合グラフトに会うのは、わたしにとって非常な重大 、だった。彼は恐ろしく白っぱい髪をして、まるまるした顔 事だったので、わたしはすぐさま彼の住居へ案内するようは度はずれに白かった、 みつともないほど、子供じみる に、ズヴェーレフに頼んだ。それはここからほんの一足で、 ほど白かった。背はわたしより高いくらいだったけれども、 どこかの横町だとのことだった。しかし、ズヴェーレフがい見たところ、十七そこそこにしかとれなかった。この男とは うには、一時間ばかり前にグラフトに会ったが、彼はデルガまるで話がなかった。 チョフのとこへ出かけたとのことである。 「いったいあすこで何をやってるんだろう ? いつでも人が 「だから、デルガチョフのとこへ行こうよ。きみはなんだつわいわい集まってるのかい ? 」根本的に事態を明らかにする ていつもぐずぐすするんだい。臆病風でも吹かすのかね ? 」 ために、わたしはこうきいてみた。 実際クラフトは、デルガチョフのところに尻を据えてるか 「いったいきみはなんだって、そんな臆病風を吹かすんだ もしれない。 としたら、わたしはいったいどこで彼を待った い ? 」と彼はまた笑いだした。 らいいのだろう ? デルガチョフのところへ行くのは、臆病「ええ、うるさい、黙っていたまえ」とわたしはとうとう腹 年風を吹かすわけではないが、どうも気がすすまない。ズヴェを立てた。 成ーレフはもう三度ばかり、わたしを引っぱって行こうとした 「なに、決してわいわい集まってやしないんだよ。ただ知合 未が、いつもこの『臆病風を吹かすのかね』をいいながら、に いの者が来るだけで、みんな仲間ばかりだから、安心したま

5. ドストエーフスキイ全集11 未成年

一、つい、フ、わ。け . ある。けれど、一度も無心めいたことをいったためしがな旅行などのとき、邪魔になったに相違ない。 い。ただそのかわり三年に一度ぐらい必ずひょっこりやってで、わたしは二十歳の年まで、二三のちょっとした機会をの 来て、逗留することにきめていた。そして、いつも母のとこそくほか、ほとんど母の顔も見ずに過ごすようになった。そ ろに落ちつくのであった。母はいつでも、ヴェルシーロフのれは母の心持ちから起こったのではなく、人間に対するヴェ 住まいとは別に、自分の家を借りることになっていたのであルシーロフの高慢な態度から出たことなのである。 る。このことは後で話すつもりだが、ここでちょっとことわ 7 っておきたいことがある。マカールは客間の長いすかなんそ に、大威張りでひっくり返るようなことをしないで、どこか 今度はまるで別なことだ。 仕切板の陰のようなところに、つつましく落ちつく慣わしだ ひと月前、つまり九月十九日からひと月前に、わたしはモ った。しかも、長くは逗留しなかった。ほんの五日か、一週スクワで親も何もみんな棄ててしまって、すっかり自分の想 間ぐらいのものである。 念の中に閉じこもろうと決心した。わたしは『自分の想念に しい忘れていたが、彼は自分の『ドルゴルーキイ』という閉じこもる』という言葉を、特筆大書しておく。なぜなら、 苗字が無性に気に入って、しかもそれを尊敬していた。もちこの表現がわたしのおもなる思想を、 つまりわたしがこ ろんこれは滑稽なばかげたことだ。何よりいちばんばかばかの世に生きている目的を、完全にいい表わしてくれるからで しいことは、この苗字が気に入ったわけは、・ トルゴルーキイある。この「自分の想念』とはなんであるか、それは後で書 という公爵があるからにすぎない。なんて奇妙な考え方だろきすぎるほど書くつもりだ。モスクワにおける永年の空想的 う。まるで逆さだー な孤独生活のあいだに、この想念がわたしの心中に生じたの わたしは、家族ぜんぶがいつもひと所に集まっていたとい だ。それはまだ中学六年級のことであったが、それ以来ただ いはしたが、それはむろん、わたしをのけての話だ。わたしの一瞬も、念頭を離れたことがない。この想念はわたしの全 はまるで捨子のようなもので、ほとんど生まれ落ちるとすぐ、 生活を呑みつくした。わたしはそれまでも空想の中に生きて 他人の手に渡されたのである。もっとも、それは何も特別な いた。ごく幼い頃から、おきまりの陰影を帯びた空想の王国 心づもりがあったわけではなく、どうしたことか、ただ自然の中に生きていたのだ。ところが、わたしの心中のすべてを そうなったのだ。わたしを生んだころの母は、まだ若くて美呑みつくしたこのおもなる想念の出現とともに、わたしの空 しかったから、彼にとって必要だったのである。ところが、想は完全にかたまって、いちどきに一定の形に鋳出された。 ぎゃあぎゃあとやかましい赤ん坊は、何かにつけて、ことにそして以前ばかばかしかったものが、急に賢明なものとなっ

6. ドストエーフスキイ全集11 未成年

といわなければならないことを彼は充分に知っていた ) であを散らさないような人間が、たくさんあるだろうか ? 金は 神様ではないけれど、それでも半分くらい神様で、ーー - ・・・大き ることを百も承知しながら、同時にこの『若年』が教育の占 から見れば、自分よりもはるかに上だということを、了解しな迷わしだからな。それに、また女というものもあるし、疑 いだとか、やっかみだとかいうものもある。そのために偉大 ていたのである。たとえていえば、彼はよく曠野の隠遁生活 ということを口にして、『礦野』のほうを「放浪』よりもずな事業を忘れて、つまらんことにかかり合うようになるのだ。 ところが曠野となると、ころりと違う。ここでは、人間がど っと上位に置いていた。わたしは熱くなってそれを弁駁し た。つまり、自己の霊魂救済という、利己的な考えのためにんな苦行でもできるように、自分で自分の心を鍛えるのだ。 アルカージイ ! いったいこの世には何があるのだろう ? 』 この世を捨て、自分が人類にもたらしうべき利益を捨てる、 この種の人物のエゴイズムを攻撃したのである。彼ははじめと、彼はなみなみならぬ情をこめて叫んだ。「ただ空な夢ば かりじゃよ、 子ーし、刀ー 砂粒をとって石の上へ蒔け、その黄色い よく呑み込めなかったらしい。あるいは、ぜんぜんわからな 砂粒が石の上で芽を出したら、そのときはお前の夢もこの世 かったのではないか、とさえ疑われる。しかし、曠野だけは とこんなふうに人はいっておる。と で実となるだろう、 熱くなって弁護した。 ころが、キリストさまのいわれることは、まるつきりた 『はじめのうちは ( といって、つまり礦野に住いを定めたと しもべ きのことだ ) 、むろん、自分で自分がかわいそうになるだろさあ、お前の財産を分けてしまって、みんなの僕になるがよ これがキリストさまのお言葉だ。そうすれば、前よ ところが、しばらくたっと、だんだん一日一日と喜び がましてきて、後には心から神様を信じるようになるだろりも幾層倍か知れぬはど、物持ちになるだろう。なぜといっ う』そのときわたしは、・ 学者とか、医者とか、すべてこの世て、食べものや、贅沢な着物や、誇りや羨みばかりでなく、 における人類の友の有益な行動を、絵巻物のように、彼の眼数えきれないほどふえてきた愛によって、幸福な身の上にな れるからだ。そうなると、もう小さな仲間のうちばかりでな 前にくりひろげて見せ、彼を心底から感激させてしまった。 、十万百万はおろか、全世界をわがものにするわけだ ! 彼はのべつわたしに向かって、『そうだ、お前、そうだ。神 よ、祝福したまえ、 お前の考え方はほんとうだよ』とオ 目今ではみんな飽くことなしに集めては、それを気ちがいのよ うに撒きちらしておるが、そのときになれば身なし児もなけ 槌を打った。しかし、わたしが言葉を結んだとき、彼はやは よ、つこ 0 りや、乞食もなくなってしまう。なぜといってごらん、みん 年りぜんぶ同意というわナこま、、 なわしのものになるのじゃないか、みんな身内だ、すべての 成『それはなるほど、そのとおりだが』と彼は深い溜息をつい 未た。『しかし、どこまでもしつかり持ちこたえて、ほかへ気人を手に入れたのだ、すべて一人のこさず買い取ったのだ !

7. ドストエーフスキイ全集11 未成年

雇いの良心だ』とい「た。この表現は二つながら、べつに苦信仰をもたないで、そのために何も知らぬ人を迷わすものが 心するでもなく、自分でも気がっかないうちに、ロをついてたくさんある。ああ、ずいぶんたくさんあるよ。そんな人の 出たのである。しかも、この二つの表現には、両方の対象に いうことに耳をかさぬがよい。そんな手合いは自分でも、ど 関する独得な見方が蔵されている。それはもちろん、全国民こへ向いて歩いておるのか知らんのだからな。また生きてい の見方といわれないまでも、少なくともマカール老人独自のる人間が、裁かれたもののために捧げる祈りは、ほんとうに もので、決して借り物ではない ! ある種の事物について、 天へとどくとも。だれからも祈りを捧げてもらえん人の気持 人民のいだいているこの種の先天的定義はその独創的な点かちは、まあ、どんなものだろう ? だから、寝る前に祈蒋を らいって、ときとすると真に驚嘆すべきものがある。 あげたら、その後で、「主キリストよ、だれにも祈りを捧げ 「ときに、マカール・イヴァーヌイチ、あなたは自殺の罪悪てもらえないすべての人たちを、おあわれみ下さりますよ をどう考えます ? 」一度、話がこの問題にふれたとき、わた , っ』といい一添一んるがよい。こ、つい、フお祈りは、ほんと、つに , 甲 しは彼にこうたずねた。 さまのお耳にとどいて、主のみ心にかなうものだ。それから 「自殺は人間の罪の中で、いちばん重いものだ」と彼は溜息また、まだ生きておるすべての罪人のことも、やつばり祈ら をつきながら答えた。「しかし、これについても裁き手は神ねばならぬて。『主よ、悔い改めすにいるすべての人々を、 さまばかりだ。なぜといってごらん、ものの限度も、程あい お救い下さりますように』 これもなかなかけっこうなお も何もかも、神さまよりほかに知るものがないのだからな。祈りだ」 われわれ人間はこういう罪びとのために、ぜひとも祈ってや わたしはお祈りすると約東した。この約束が彼に一方なら らなけりゃならん。こういう罪なことがあったと聞いたら、 ぬ満足を与えるに相違ないと、はっきり感じられたからであ 必ずそのつど、床へはいる前に、その罪びとのために心からる。はたせるかな、喜びの色がさっと彼の顔に輝いた。しか 祈ってやるがよい。ただ、その罪びとのことを思って神様のし、誤解のないように、急いでつけたしておくが、こういう お耳に入るよう溜息を洩らすだけでもよい。よしんば、まる場合に、彼は決して上から見くだすような態度をとったこと で知らぬ人でもかまわん、 かえってそのほうがお前の祈 : よ カオい。つまり、長老がどこかの青二才に向かうような態度 を神さまのお耳に入れやすいわけだて」 と、まるで違うのだ。それどころか、かえってわたしの言葉に 「でも、もうその当人が裁きを受けてしまったとすりや、ば耳を傾けることもたびたびあった。さまざまな話題を論ずる くの祈蒋がなんのたすけになるでしよう ? 」 わたしに、聞き忽れることさえ珍しくなかった。相手が、彼 「そんなことがどうしてわかるものか ! 世の中には自分がの荘重な表現でいえば「若年』若年』ではなく、「青年』、

8. ドストエーフスキイ全集11 未成年

「「神秘があるのは、かえって美しいことだ : : 』これはば からでもみなの衆を愛していきますよ。かわいい子供たち、 くひとっ覚えておきましよう、この言葉を。あなたはひどくわしはお前たちの楽しそうな声が聞こえる。命日に親身の親 の墓にあつまったお前たちの足音が聞こえる。今のうちに、 不正確な表現をなさるけれど、しかしばくわかりますよ : あなたは、あなたの表現力よりも、ずっと余計に知っていらせいぜい太陽の光の中で暮らしなさい、楽しく生きなさい。 っしやるし、またわかってもいらっしやるのです。それにばわしはお前がたにかわって神様にお祈りもしようし、夢の中 : なに、同じことだ、 くは感、いしてしまいましたよ。だけど、あなたはなんだか、 でお前がたのところへも出かけよう : 熱にでもうかされていらっしやるようですね : : : 」相手の熱死んでからでも愛はあるよー 病やみじみた目つきや青ざめた顔を見つめながら、思わずわ何よりもおもな原因は、わたしも彼と同じくらい、熱病に たしはロをすべらした : : しかし、彼はわたしの言葉を耳に 脳まされていたことである。この場を去ってしまうか、彼を 入れなかったらしい なだめて落ちつかせるか、それとも寝台の上に寝かせるか、 「なあ、お前、こういうことを知っておるかな」前の話をつなんとかすべきはずなのに ( 実際、彼はまったく熱にうかさ づけるような調子で、彼はまたいいだした。「こういうことれていたのだ ) 、それなのに、わたしはふいに彼の手をとっ を知っておるかな、この世に生きておる人間の記億には限りて、前へ身を屈め、その手を握りしめ、心の中に涙をにじま があるものだよ。人間の記憶というものは、百年に限られてせつつ、興奮した声でささやきはじめた。 7 もー ) か・し 4 に、ら、ば / 、はレ」、フ おる。人が死んでから百年のあいだは、その顔を見たことの 「ばくあなたに会ってうれしい ある子とか孫とかが、覚えていてくれるけれど、それからさ から、あなたを待っていたのかもしれませんよ。ばくはあの 人たちをだれも好かない。あの人たちには善知というものが きは、よしんば記憶がつづくにしても、ただロのさきか、心 の中だけだ。なぜといってごらん、その人の生きた顔を見たないんですもの : : : ばくあの人たちの後について行きやしま ものが、みんないなくなってしまうからだ。それから墓の上せん。ばくは自分でも、どこへ行くか知らないけど、あなた といっしょに出かけます : : : 」 に草が生えて、白い石も苔だらけになってしまう。こうし て、みんな、身うちのものさえも、その人のことを忘れてし しかし、仕合わせと、ふいに母がはいって来た。さもなく まって、しまいにはその名までが忘れられることになる。まば、どんなことになるかわからないとこだった。母はたった ったく世間の人の記憶に残る名といっては、ほんのわずかな いま目をさましたばかりの、心配そうな顔つきではいってき ものだからな だが、それでけっこうなのだ ! ああ、みた。その手には薬瓶とスープ匙があった。わたしたちを見る なの衆、どうか遠慮なく忘れてしまいなさい、わしは墓の中と彼女は叫び声をあげた。 田 0

9. ドストエーフスキイ全集11 未成年

この ると ( その実、一度も遅れたことはないのだが ) 、わたしはらして、家のものがみんないる前で宣一言してやった やたらにぶつぶついった。母はどうしたらご機嫌が取り結べ人が毎日てくてくやって来るのは、ご苦労千万な話だ、ばく るかと、途方にくれていた。あるとき彼女は、わたしのとこ はこの人に世話にならないでも自分ひとりでよくなって見せ ろへスープを持って来て、いつものとおり自分でわたしを養る。先生、リアリストらしい顔つきをしてるけれど、頭から いはじめた。ところが、わたしは食べている間じゅう、のべ足の爪先まで偏見のかたまりで、医学がかって一度も、だれ つばやき続けた。すると不意に、自分のばやいているのが癪ひとり治療したことがないのを知らずにいる。そのうえ、あ にさわってきた。『おれの愛しているのは、この人ひとりだらゆる徴候から推して、ひどい無教育ものらしい。「近ごろ けかもしれないのに、その人をかえって苦しめている』けれおそろしく鼻を高くしだした専門家や技師など、みんなそう なのだ』と。 ど、癇癪の虫はなかなかおさまらなかった。とど、わたしは その癇癪のために泣きだした。すると、母はかわいそうに、わ医者はかんかんに腹をたてたが ( もうそれだけで、自分が たしがうれし泣きに泣きだしたのだと思い、屈みこんで接吻どんな人間であるかということを、証明したようなものだ ) 、 しはじめた。わたしは一生懸命に我慢して、どうやらこうやでもやつばり往診に来ていた。わたしはとうとうヴェルシー ら持ちこたえたが、まったくその瞬間は母を憎んだ。が、わロフをつかまえて、もし医者が往診をやめなければ、もう今 たしはいつも母を愛していたし、そのときもやはり愛してい度こそは前より十倍も、いやなことをならべて聞かせる、と しった。ヴェルシーロフはそれに対して、あのときいったこ たので、決して憎んだわけではない。ただよけいに愛してい いつもよく との十倍はおろか、ただの二倍もいやなことをいうのは不可 るものは、まず第一番に侮辱したくなるという、 能だと、たったそれだけいった。私は彼がそういったのを、 ある気持ちにすぎなかった。 その時分、わたしがほんとうに憎んでいたのは、ただ医者うれしく思った。 これはヴェ しかし、不思議な人間もあればあるものだ ! だけだった。その医者はまだ若い男で、高慢そうな顔つきを ルシーロフのことをいってるのだ。彼は、いな、彼のみがい して、ずけずけと無遠慮にものをいった。彼ら科学の人と称 まあ、どうだろ せられる連中は、ついきのうとっぜん何か特別なことを知っつさいの原因であるにもかかわらず、 た、とでもいうような様子をしている。そのくせ、きのうは う、その当時、わたしが腹を立てなかったのは、この人だけ 年別に何も変わったことなど起こらなかったのだ。しかし、 なのである。それはたんに、彼の応対ぶりにごまかされたと 成「凡庸』「俗人』なるものは、いつもこうしたものだ。わたばかりはいえない。わたしの考えでは、われわれはその当 未しは長いこと辛抱していたがとうとうふいに堪忍袋の緒を切時、お互、 しにいろいろ話し合わなければならないことがある

10. ドストエーフスキイ全集11 未成年

を見せてください、せめて夢にでもあらわれてください。 たまますわっていると、だれかがわたしの前に突っ立って、 くがどんなにお母さんを愛しているか、ただそれだけいいこ声高にののしったり、右足の爪先でこっぴどく脇腹を蹴った いのです。あなたを抱きしめたいのです。あなたの青い目をりしながら、わたしを起こしているのだった。身を起こして 接吻したいのです。今じゃもう少しもあなたを恥ずかしく思見あげると、高価な熊の毛皮外套に、黒貂の帽子という扮装 わない、あのときだってあなたを愛して、そのためにばくので、漆のように黒い洒落た頬ひげをはやした、黒い目に鈎鼻 胸は脳んでいたのだけど、ただポーイ然とすましていたのでの男が、白い歯をむいて笑いかけている。色白で頬のくれな す、 そのことをお母さんにいいたくってたまらない。あ いあざやかな顔は、まるで仮面のよう : : : 彼は恐ろしくちか のときばくが、どれくらいあなたを愛していたか、それは決ぢかとわたしのほうへ屈みこんだ、息をつくたびに、白い湯 してお母さんにもわかんないでしよう ! お母さん、今どこ気がその口から吐き出された。 にいるのです ? ばくの言葉が聞こえますか ? お母さん、 「凍えきってるじゃないか、この酔っぱらいめ、ばか野郎ー お母さん、あの鳩を覚えていますか、村の教会の ? 』 野良犬のように凍え死んじまうぜ、起きろ ! 起きろ ! 」 「ラン・ヘルトー 「ええ、こん畜生 : : : やっ何をいってやがるんだ ! 」とラン ・」とわたしは叫んだ。 、、。 , ) しこ。「十寸ってろ ベルトが自分の寝台で、ぶつぶっししオオ 「お前は何者だ ? 」 いまにおれが ! ひとを寝させやしない : : 」・伐はレ」、つと一、つ 「ドルゴルーキイだ ! 」 いきなり 寝台から跳ね起きて、わたしのそばへ駆けよると、 「ドルゴルーキイってどこの何者だ ? 」 毛布を引きめくろうとした。けれど、わたしは毛布の下に頭「ただのドルゴルーキイだ ! トウシャールの塾の : : : は を突っ込んだまま、かたくかたくそれを抑えていた。 ら、いっか、きみが料理屋で、フォーグを横っ腹へ突きさし 「べそばかりかきやがって、何をめそめそいってるんだ。ば た男だよ ! 、はか野、郎・ー こうしてくれる ! 」と彼はなぐりかかって「ははは ! 」妙に長い感じのする笑いかたで、彼は思い出し 来た。拳をかためてわたしの背や脇腹を、いやというほどどたように微笑した。 ( いったい彼はほんとうにわたしを忘れ やしつけた。彼の拳はいよいよ強く降って来る : : : ふいにわたのだろうか ? ) 「ははあ ! なるはどお前だったのか、お たしは目を見開いた : ・ 前なのか ! 」 年もはやかなり明るくなっていて、針のような霜が塀の上に彼はわたしを抱き起こして、立たせてくれた。やっとのこ 成も、雪の上にもきらきら光っている : : : わたしは毛皮外套のとで立ち、やっとのことで足をはこぶ私を腕でささえて、彼 未中で石のように固くなって、半分死んだような体をちぢかめはどこかへ連れて行く。そして、何やら思い合わせるよう いでたち