結婚 - みる会図書館


検索対象: ドストエーフスキイ全集11 未成年
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1. ドストエーフスキイ全集11 未成年

「いろいろ知ってはいますが、なんでもってわけじゃありまますか ? だって、あなたはカチェリーナ夫人のお父さんと せん。むろん、あなたに隠すわけはありませんけれど : : : 」婚約したんじゃありませんか ? どうかお手柔らかに願いま 彼女は徴笑を浮かべて、何やら思いめぐらすような表情をしすよ、アンナさん ! 」 ながら、奇妙な目つきで、わたしをじろじろ見まわした。 「あの人は自分の幸福のために、あたしの運命を犠牲にして 「昨日の朝あの人は、カチェリーナ夫人からもらった手紙のくれと頼んだんですわ。もっとも、ほんとうに頼んだってわ 返事に、正式の結婚申し込みをしたんですのよ」 けじゃありません。それはまあ、無言のうちに取り交わされ 「それはでたらめです ! 」とわたしは目をまん丸にした。 た約東で、あたしは、ただあの人の目の中にいっさいを読み とったんですわ。ああ、いったい、それ以上なにが必要なん 「だって、その手紙はあたしの手を通して行ったんですも の。あたしは封のしてない手紙を、自分で夫人のところへ持ですの。だってあの人は、アフマーコヴァ夫人の義理の娘と って行ったんですもの。今度こそはあの人も『騎士のよう結婚の許可を乞うために、ケーニヒスペルグにいるあなたの な』ふるまいをしましたわ。あたしに何も隠しませんでしたお母さんのところへ、出かけて行ったじゃありませんか ? からね」 これはあの人がきのうあたしを腹心の代理人に選んだのと、 とてもよく似てるじゃありませんか」 「アンナさん、ばくは何がなんだかわけがわかりません ! 」 「そりやむろん、わかりにくいことですとも、でも、これは彼女の顔はやや青ざめていた。けれど彼女の平静は、ただ まあいってみれば、博奕打ちがテープルの上へ最後の金貨を皮肉の毒を強めるにすぎなかった。わたしは事件の意味をつ かむにつれて、かなり彼女をゆるす気持ちになってきた。わ 一枚放り出して、ポケットの中には弾丸のこめてあるピスト ルを握っている、といったようなもので、 それがあの人たしはしばらく前後を考え合わせていた。彼女は無言で待っ の求婚の意味なんですわ。九分通りまでは申し込みを受けなていた。 「ねえ、アンナさん」わたしはふいに薄笑いをもらした。 いでしようけど、残りの一分だけは、あの人もやはりあてに したわけなんですね。正直なところ、まったく面白い話です「あなたが手紙の取次ぎをなすったのは、ご自分にとってべ わ。もっとも、あたしにいわせれば : : : そこにはまあ、前後つだんなんの危険もなかったからでしよう。だって、結婚は いまあな成立するはずがないんですものね。しかしあの人は ? ・ を忘れたというようなこともあるんでしようね : れからまたカチェリーナ夫人は ? もちろん、夫人はそんな 年たのうまくおっしやった「分身』といったようなものが」 成「あなたからかってらっしやるんですね ? あなたを通して申し込みから、顔をそむけるでしようよ。そのときは : : : そ のときはどんな事が起こるだろう ? いったい、あの人は今 未手紙をわたすなんて、そんなことがほんとうにできると思い たま

2. ドストエーフスキイ全集11 未成年

ぬかんじんの事実をお留守にしていた。ほかでもない、彼らとはいい条、結果はなんともっかぬ妙なことになった。事 の関係はいきなり災厄から始まったのだ ( わたしは、自分の実、わたしはまるで説明ができない。むしろわからないとこ いおうと欲するところを、読者がすぐ悟らないなんて、それろのほうが多いのだ。彼らの恋がいかなる程度まで生長した ほど無理なこじつけをしていないと信じる ) 。つまり、 m ・ lle か、それだけでも謎である。なぜといって、ヴェルシーロフ サポシコヴァが等閑に付せられたにもかかわらず、彼はまつのような人間の第一条件は、目的が達せられるや否やすぐに たく地主的に事を始めたのである。 棄ててしまうことだから。ところが、実際の結果は違ってい ここでちょっとひとことはさんで、あらかじめことわってた。渋皮の剥けた尻軽の召使と遊戯をするのは ( もっとも、 おくが、わたしは自家撞着をしていない、なぜなら ( 情けなわたしの母は尻軽ではなかったが ) 、放蕩な「若い大っころ』 いことではあるが ) 、そのときヴェルシーロフのような紳士 ( 実際、彼らは淫奔である、進歩主義者も保守派も、差別な が、わたしの母みたいな女に向かって、いったいどんな話が しにみなそうなのだ ) 、若い犬っころにとっては、単に可能 できるものか ? たとえ烈しい愛があったにもせよ、それは なばかりでなく、避くべからざることなのだ。ことに、若い 不可能だ ! わたしは淫蕩な人たちから聞いたが、男と女とやもめというロマンティックな彼の境遇と無為の生活を考え はしばしば馴れそめのときに、まるつきり無言で事を始めるたら、思いなかばにすぎるものがある。しかし、一生愛しつ そうである。それはむろん、奇怪きわまる嘔吐を催すようなづけるというのは、それはあまり法外だ。彼が母を愛してい 言た。とにかくヴェルシーロフは、よし自分でなんとかした たかどうかは請け合われないが、ただ彼が一生母を連れて歩 いと望んだにしても、母を相手ではこれ以外にしようがなか いたことだけは確かである。 ったろうと思われる。実際、彼女をつかまえて『ポ どうも問題ばかりたくさんならべたが、もうひとついちば サッグス』の説明もできまい。それに彼らはもうまるでロシん大切なことが残っている。それをちょっといっておくと、 ャ文学どころの騒ぎではなかったのだ。それどころか、彼の去年わたしは母に近づいて、非常に親しくなったし、その上 言葉によると ( あるとき彼が調子に乗ってしゃべったのだ ) 、みんな自分対して罪があると信じている粗暴な恩知らずの 彼らは方々隅っこに隠れたり、互いに階段の上で待ち合わし大っころのわたしだから、母に対してもまるで遠慮なぞしな たり、だれか人が通るたびに真っ赤な顔をして、毬のように かったが、それでもこの問いばかりは、向きつけに発するこ 年飛びのいたりしたそうである。そして『暴君たる地主』がそとをあえてしなかった。ほかでもない、どうして彼女が 成の農奴制という特権にもかかわらず、床掃除の下男下女にも半年も結婚生活をして、結婚の神聖に関する観念に縛りつけ 未びくびくしていたものである。しかし、地主的に始まったられ、まるで哀れな蠅のように圧しひしがれていた彼女が ー丿ンカ・

3. ドストエーフスキイ全集11 未成年

いまで、もちろん、この事件の経過とその結果いかんという命が、とっぜんはっきりと、まるで初めてのように、わたし 疑問を、堂々めぐりするばかりだった。それからまた、連の意識し こ映った。彼はわたしをちらと眺めて、ふたたび立ち 隊長が親しく彼を訪問して何か長いあいだ忠告を試みたけれあがり、一足歩きだしたが、くるりと向きを変えて、やはり ど、彼がその言葉にしたがわなかったということや、彼が最両手で頭をおさえたまま、またもや腰をおろした。 近どこかへ出したとかいう書面のことや検事のことや、必ず「わたしはしじゅう蜘蛛の夢ばかり見るんですよ」と彼はだ 官位を剥奪されて、どこかロシャの北部へ流リ 月されるに . 相〈しぬけに、つこ。 ないということや、タシケントあたりに移住を命じられて、 「あなたは恐ろしく興奮していますよ。悪いことはいわない そこで一定の期間を務めあげる可能性があるということや、 から、公爵、すぐ横になって、医者をお呼びなさい」 自分の息子に ( リーザとの間に生まるべき未来の息子に ) 「いや、失礼ですが、それは後のことです。何よりも第一 「アルハンゲルスグのホルモゴールイあたりの片田舎』でし わたしがあなたをお呼びしたのは、結婚の話をするため かじかのことを教え込んで、しかじかのことを伝えてやろう だったのです。結婚式はご承知のとおり、ここの教会で挙げ ることにします。それはもう前にいったとおりです。これに とか、そういったふうの話だった。 「アルカージイ君、わたしがあなたの意見を求めたのは、まついては、すでに同意をえているばかりか、みんなから激励 ーサのことにいこっ ったくのところ、肉親の情愛というものを尊重するからでの辞さえもらっているくらいです : す : : : アルカージイ君、わたしにとってリーサがどんな意味ては : を持っているか、今ここで、この牢獄生活のあいだに、あれ「公爵、リーザを容赦ーてやってください、ねえ」とわたし は叫んだ。「あれを苦しめないでください。少なくとも、せ がわたしにとってどういう意味を持っていたか、それをあな たがごそんじだったらなあ、それをあなたがごそんじだっためて今夜だけでもやきもちを焼かないで ! 」 らなあ ! 」両手でわれとわが頭をつかみながら、彼は唐突に 「なんですって ! 」目を丸くして、じっとわたしを見つめな こ、つ ' 野んだ。 がら彼はこう叫んだ。その顔は無気味な、もの問いたけな 「公爵、いったいあなたは、あれの一生を台なしにしようと妙な長たらしい微笑に歪んでいた。 いうのですか、あれをいっしょに連れて行こうというのです「やきもちを焼かないでください』という言葉は、なぜか彼 に恐ろしいショックを与えたらしい。 : ホルモゴールイへ ? 」わたしはこらえきれないで、 「ご免なさい公爵、ばくついうつかりして : : : ねえ、公爵 思わず声をつつぬけさせた。 この偏執狂と生涯をともにしなければならないリー ザの運ばくは最近ひとりの老人と知合いになりました、ばくの法律

4. ドストエーフスキイ全集11 未成年

かわりの人を物色しなければならぬから、それでわざわざや手でなけりや決闘しないから、それだけの理由でも公爵は受 けつけやしないさ」 って来たのだ。 「じゃ、そのときになって話しに来たらいし 、じゃないか、何「ばくだって発達の点からいえば、同じようなゼントルマン だよ。ばくだって人としての権利はもっているぜ。ばくは対 もはるばる遠路のところを無駄足ふまなくったってさ」 等の敵手だよ : いや、かえって反対に、公爵のほうが相手 彼は立ちあがり、帽子を取った。 として不足なくらいだ」 「じゃ、そのときには来てくれるかね ? 」 「いや、きみは子供だ」 「いや、むろん行かない」 「どうして子供だい ? 」 「なぜ ? 」 「どうしても子供だ。ばくらは二人とも子供だが、向こうは 「なぜって、もしいまばくが行くといって引き受けたら、き こ、ばくんとこへの立派な大人だからね」 みはその控訴期限の間じゅう毎日のよう冫 「きみはなんてばかだ ! 法律からいえば、ばくはもう一年 このこやって来るだろう、それ一つだけでもおことわりだ も前から結婚する資格があるんだぜ」 よ。それに何もかも第一、そんなことはみんな無意味だよ、 「そんなら結婚したまえ。しかし、なんといったって : : : き それつきりさ。それに、きみのために一生を傷ものにして、 たまるものかね ? もし公爵が出しぬけにばくをつかまえみもまだもっと大きくなるさ ! 」 て、『いったいお前はだれに頼まれて来た ? 』ときいたら、 わたしはもちろん、こいっ生意気に人を茶にしようと思い ばくは『ドルゴルーキイ』と答える。『いったいなんだってついたんだなと悟った。この愚かな挿話は、よしんば誾から ドルゴルーキイが、ヴェルシーロアのことに干渉するのだ ? 』 闇に葬れるとしても、人に話さないほうがよかったのは、疑い といわれたとき、ばくはきみの系図でも述べ立てなきゃならもないことである。それに、かなり重大な結果をもたらした ないのかい そんなこといったら、公爵が腹をかかえて笑とはいえ、浅薄で必然匪の欠けている点がいとわしかった。 しかし、さらに自分自身をするために、も少し詳しいこ とを書こう。ズヴェーレフが人を茶にしてるなと見分けがっ 「そうしたら、きみあいつのつらを張り曲げてやるがいし ! 」 くと、わたしは右の手で、 というより、むしろ右の拳で 「ふん、そんなことはただのお話だよ ! 」 「怖いのかい ? きみは、そんな大きな図体をしてさ。きみ彼の肩を一突き突いた。そのとき彼はこっちの両肩をつかん / し、刀」 で、顔を広つばへねじ向けた。そして、ほんとうに彼が中学 は中学でもいちばん力が強かったじゃよ、 「怖いよ、もちろん怖いよ。それに第一、だれでも対等の相一番の腕カ家だったことを事実において証明したのである。

5. ドストエーフスキイ全集11 未成年

しよいよどんづまりまで こういう次第で、事件がいわば、、 念をいだいているのだった ) 、ーー・少しでもカチェリーナ夫 いったとき、アンナは思いがけなくラン・ヘルトから例の手紙 人のことを悪しざまにいったら、老公の優しい愛情に侮辱を 与えることになり、かえって不信を招き、すすんでは憤懣さの存在を聞きこんだ。それは、現在の娘が父親を精神錯乱者 え呼びさますに相違ないと、彼女は女性特有の敏感さで直覚と断定する方法を、法律家に相談したものだとのことであっ こ。復讐心に満ちた傲慢な彼女の心は極度に興奮した。かっ した。かようなありさまで、今のところ暗闘はこの方面に集 中されているのだった。二人の競争者は、互いに婉曲と忍耐てわたしと交換した会話を思いおこし、無数のこまごました を競っている形だった。で、老公は結局二人のうち、どちら状況を照り合わして考えたすえ、彼女はこの情報の正確さを 冫冫し力なかった。そのときこの豪邁不屈な女の心中 をより多く讃嘆したらいいかわからなくなってしまった。そ疑うわナこ、、 して、弱いけれど情にもろい人の常として、すべてを自分ので、敵に対する打撃の計画がみるみる成熟した。その計画と いっさい遠まわしの婉曲な暗示 いうのはほかでもない、 罪に帰し、悩み悶えるような結果になった。うわさによると、 なしに、、きなり事情をすっかり老公にぶちまけて、その心 彼の煩悶は病的なくらいで、まったくの神経衰弱になってし ツアールスコェで健康を回復するかわりに、もはや病を頑倒させ、震撼させてしまうのだ。つまり、どうしても瘋 癲病院行きはのがれられないということを指摘して、もし強 床につかないばかりのありさまになったとのことである。 これはしばらくたってから聞いたことだが、ちょっと括弧情をはったり、憤慨したり、不信の態度を見せたりしたら、 といったような形で、今ここに伝えておこう。ほかでもなそのときこそは娘の手紙を突きつけて、「いったん父を狂人 ビヨーリングが真正面からカチェリーナ夫人に、老公を扱いにする意志があった以上、いまこそ結婚の妨害をするた 外国へ連れ出せと勧めたという話である。うまく老人をだまめにいよいよそれを実行するに相違ない」というふうに持ち かけるのだ。それから、驚いて生きた心地もない老人を、ペ して納得させ、一方社交界へは非公式の形で、老人がすっか いきなりわたしの下宿へ連れ込も り精神錯乱におちいったと発表し、外国へ連れ出した後、医テルプルグへ移して、 これが彼の計画だった。けれう、とこういう段取りだった ! 者の証明書を手に入れる、 これは恐ろしい冒険である。けれども、彼女はかたく自分 どカチェリーナ夫人は、どうあってもそれを承知しなかっ た。少なくとも、その後だれもがこう断言している。それどの力を信じていた。ここでまた話の筋から離れて、先まわり さしてもらうことにするが、彼女はこうした打撃の効果を誤 年ころか、彼女は憤然とこの提案を退けたそうである。これら 成すべては、きわめて茫漠とした風説にすぎないが、わたしは算してはいなかったのだ。それどころか、効果は彼女の期待 をはるかに越したほどである。この手紙に関する報知は、彼 米それを信じている。 529

6. ドストエーフスキイ全集11 未成年

んからね。ただもう一つだけ聞かしてもらおう。お前はほん れないよ」 このヴェルシーロフは、上流の人間に特有の下劣きわまるとうに老公のとこをやめる気かね ? 」 まかにどうと、 ししようのない場「ははあ ! ばくもそうだろうと思った。あなたは特別な目 癖があった。ほかでもない、冫 合に、何か恐ろしく気のきいた美しい話をしているかと思う算があるんですね : : : 」 「じゃ、お前は何かわたしが自分を利するために、お前を老 と、とっぜんこのマカール・イヴァースイチの胡麻塩頭と、 力オ公のところへ踏みとどまらせようと思って、それでわざわざ 母に対するその影響に関する想像に類したような、ば、ガこ 言葉でわざと話を結ぶのだった。彼はばかばかしい上流の習やって来たとでも考えてるんだね。え、アルカージイ、それ 慣のために自分でもなんのためともわからないで、故意にそじゃお前をモスグワから呼び寄せたのも、やはり何か自分の んなことをするのだろう。彼の話を聞いていると、うわべは利益のためだ、とでも考えてるんじゃないか ? やれやれ、 おそろしくまじめらしく見えるけれど、内心ふざけたり冷笑なんて疑り深い人間だろう ? それどころか、わたしは万事 につけて、お前のためを思ってるんだよ。現に今でさえも、 してるに相違ない。 ああして自分の財産も恢復したので、せめてときどきはお前 3 の力になることをわたしにもお母さんにも許してもらいた くらいに思っているんだよ」 どういうわけかわからないが、そのときふいに -e 怒の情 「ばくはあなたがきらいです、ヴェルシーロフ」 が、猛然とわたしの心を襲った ( 総じて、わたしはこのころ 「今度はもう『ヴェルシーロフ』になったのか ! ついでに の自分の言行を思い出すたびに、非常な不満の念を覚えるの 思い出したが、わたしはこの名をお前に譲ることができなか だ ) 。わたしはとっぜん椅子から立ちあがった。 ったのを、非常に残念に思っているのだ。なぜって、もしわ 「ときに、どうでしよう」とわたしはいった。「あなたがこ たしに罪があるとすれば、その罪は本質において全部この点 こへ来たのは、主としてお母さんに、ばくらが和睦したよう にのみ存するのだからね、そうじゃよ、 ノし、刀 ? ・ーしかー ) 、ー ) っ に思わせるためだといいましたね。お母さんがそう思うため レつ「トーよ、つ、 こいようだが、わたしも夫のある婦人と結婚するわけに、、 なら、も、フ しいかげん時間がたちましたが、。 なかったんだからね、それは察してもらわなくちゃならん もうばく一人だけおいてくださいませんか ? 」 年彼は心もち顔を赤くして、席を立った。 「大方そのためでしよう、夫のない婦人と結婚しかけたの 成「アルカージイ、お前はわたしに対して恐ろしく無作法だ 未ね。しかし、さようなら。無理に好いてもらうわけにやいか 亠よ ~ 39

7. ドストエーフスキイ全集11 未成年

したちは幾日もつづけて落ち合いながら、人には内証という がほんとうにこの結婚を成立させたら ! 』 もっとも、それよりほかの わたしはまたちょっと足をとめた。ここで自分の愚を白状形でその話ばかりしていた、 しなければならない ( もうとっくに時効にかかっているのだ話はしなかったのだ。それから、どういう具合だったか知ら ま よいけれど、二人はすっかりよそよそしくなってしまい から ) 。白状するが、わたしはもうずっと前から結婚したか るで話をしなくなった。それからというもの、わたしは空想 といって、はっきり望んでいたわけでない、 ったのだ、 そういうことは決してなかった ( またこれからさきもないだをはじめたのである。こんなことはもちろん、わざわざ思い ろう。これは立派に誓っておく ) 。けれど、わたしは一度やおこす値打ちもないけれど、どうかすると非常に遠くから因 二度でなく、もうずっと前から、結婚したらどんなにいいだを発するものだということを、はっきり示しておきたかった どけにすぎない・ 正確にいえば、数えきれないほど ろうと空想していた、 頻繁に空想した。ことに夜、眠りにはいろうとするときは必『そこにはただ一つ、まじめなプロテストが存在しうる』わ たしは歩みをはこびながら、たえず空想をつづけた。『おお、 ずそれを考えた。これはまだ数え年十六のころからはじまっ たのである。中学校時代に一人の友達があった。ラヴローフわたしたちの年齢のささたる相違などは、もちろんなんの障 に一つい、つ問題があるーーーあ スキイというわたしと同い年の子供で、実におとなしい愛す碍にもなりえないけれど、ここ のひとは堂々たる貴婦人だが、おれはただのドルゴルーキイ べき美少年だったが、そのほかにこれという特色はなかっ 実にいかん ! ふむ ! いったいヴェルシーロフはお た。わたしはほとんど一度もこの子と話をしたことはなかっ た。ところがあるとき、偶然わたしたちは二人きりならんで母さんと結婚するとき、おれを自分の子とするように、政府 し , し力なかったのか : : : つまり父の功労の すわったことがあった。彼は恐ろしく考えぶかそうな様子をの許可をうるわナこ、、 ために : ・ ・ : だって父は勤務をしていたのだから、したがって していたが、ふいにこうわたしに話しかけるのだった。 『ああ、ドルゴルーキイ、きみはどう思う、いますぐ結婚し功労もあったはずだ。あの人は農事調停官だったつけ : : : え い、なんて癪な話だ ! 』 たらいいだろうね ? まったくいま結婚しなけりやいっするえいまいまし わたしはだしぬけにこう叫ぶと、ふいにまた足をとめた。 んだ。いまこそ一等いい時期じゃないか。ところが、それは もうこれで三度目だったが、今度こそはその場へたたきのめ どうしてもだめなんだからなあ ! 』 年こんなふうに、彼は恐ろしく率直な調子でいいだしたのされたような具合だった。ヴェルシーロフの子と認めてもら 成で、わたしは急に心底から賛成してしまった。自分でも何か うことによって姓の変更を望むなどという、そうしたあさま しい裏切り、 未そんなふうのことを空想していたからである。その後、わた 自分の少年時代に対する裏切りを意識する

8. ドストエーフスキイ全集11 未成年

よ、アルカーシャ ! そのかわり、きみはあとでその労に報に、きみとの結婚を承知するに違いないさ」 わたしはランベルトの陋劣な一一一口葉を、思いきって止めるこ いるために、三万ばかり旧友に贈ってくれ、 とができなかった。それは、彼があくまで平然と、その穢ら くは尺、力するとも、そりや疑わないでくれ。おれはこういう 事件にかけたら、あらゆる徴妙ないきさつを心得てるからわしい計画をならべ立てながら、わたしが急に憤慨しやしな いかという懸念を、夢にもいだこうとしなかったのである。 な。きみは持参金をそっくり手に入れて、はなばなしい未来 しかし、わたしは思い切りの悪い調子で、そういう強制結婚 をひかえた金持ちになるんだ ! 」 わたしは目くるめくような思いがしたけれど、それでも驚はしたくないと、ロの中でつぶやいた。 「そんな強制はどうしたっていやだ。ばくにそんなことがで 異の念をいだきながらランベルトを見つめた。彼はまじめだ った。といって、まじめなのとも違うけれど、わたしを結婚さきると想像するなんて、よくもそれほど陋劣な気持ちになれ たものだね」 せる可能性があると、自分でもすっかり信じきっているばか なに、あのひとが自分で結婚を申し出 「こいつあ驚いたー りでなく、この思いっきに夢中で飛びかかっているのが、ま ざまざと見すかされた。むろん、彼がわたしを子供扱いにしるよ。きみじゃなくって、あのひとが自分のほうから、驚いて いいだすよ。それに、あのひとはきみを愛して て、うまく釣り出そうとかかっているのは、わたしもよくわ結婚しようと か 0 ていたものの ( きっとそのときすぐ気がついたに違いなるんだものな」ランベルトは急に気がついて、こう訂正した。 「でたらめいっちゃいけよい。きみはばくをからかってるん い ) 、彼女との結婚という考えがわたしの全存在を稲妻のご とく貫いたので、どうしてこの男がこんな夢のような空想をだ。あのひとがばくを愛してるなんて、どうしてきみにそれ 信じられるのだろうと、あきれてランベルトを見つめながらがわかる ? 」 「そりやそれに違いないとも、ばくはちゃんと知ってる。ア も、同時に、自分でも一生懸命にそれを信じようとした。と ンナさんもそのつもりでいるよ。ばくはまじめでいってるん はいえ、こんなことがどうしたって実現しうるはずがないと だ。アンナさんがそのつもりでいるというのはほんとうの話 いう意識を、つかの間も失わなかったのはもちろんである。 だぜ。それにまた、きみがばくのところへやって来たら、も つまり、こういったような気持ちが妙に両立しえたのだ。 しいことを聞かしてやる。そうすればきみも、なるは 「いったい、そんなことができるのかい ? 」とわたしはつぶう一つ、 ど久しているなとムロ点するから。アルフォンシーヌがツア 年やいた。 成「なぜできないんだ ? きみがあの書類を見せたら、あのひルスコ工へ行って、あすこでやはり嗅ぎつけて来たよ : : : 」 「、つこ、、 何を嗅ぎつけたんだね ? 」 . し学 / . し ともたちまちちぢみあがって、金を失くしたくないばっかり 4 刀

9. ドストエーフスキイ全集11 未成年

、が。ふむ : いや、なに、もちろん、そういう交渉は当然もたのはむろんのことだ」大儀そうにばつりばつりと句を切り ながら、彼はつづけた。「わたしの考えでは、それは「セリ ちあがるわけだて : : : もっとも、わたしはたしかに知ってい ヨージャ公爵 - 〕の訪問から、ちょうど二時間後にもちあがっ るが、それについてはどっちの側からも、今まで何一ついし もしなければ、しもしなかったはずだがね : : : だが、もちろたことらしい。 ( ねえ、へまなあわてかたをしたものじゃな : ) あの子は無造作に老公爵のとこへ行って、いきな ん、その話合いをつけるには、一口か二ロでたくさんだよ。 しかし、まあ、お聞き」と彼はふいに、奇妙な薄笑いをもらり結婚を申し込んだんだよ」 した。「いま一つ、思いきって面白い話を聞かせてあげよ「結婚を申し込んだんですって ? といって、つまり、老公 、つ。もしかりにあの公爵が昨日アンナに申込みをしたにもせが申し込んだんですか ? 」 「なんの、どうして老公などが ! あの子だよ、あの子が自 よ ( もっとも、わたしはリーザのことを思うと、そんなこと ほ金輪際ほんとうにしたくないんだがね。 entre noussoit dit 分で申し込んだのさ。そこで、老公はむろん、大喜びさ。な ・ ( これはここきりの話だ ) ) 、アンナは必ず、ともかくこの申込みんでも話によると、老公は今じっとすわり込んだまま、どう ・は即座に拒絶したに相違ないよ。お前は大変アンナが気に入してこの考えが自分の頭に浮かばなかったかと、ひとりで不 思議がっているそうだ。ちょっと病気したとかいう話さえ聞 って、あの子を尊重してるようだね ? それはお前として、 いたよ : : : やはり悦びすぎたせいだろうよ、きっと」 大いにけっこうなことだ。だから、たぶんあれのために喜ん 「ちょっと待ってください、あなたは妙に冷笑的な話し方を でくれるだろうが、あの子はね、アルカージイ、結婚しよう としているよ。あの子の気性から察しても、結婚するに相違なさるんですもの : : : ばくほとんど信じきれないくらいで よい。ところで、わたしはーーわたしは、そりやもうおめです。いったいあのひとはどんなふうに申込みをしたんでしょ う ? 何をいったんでしよう ? 」 たいと思 , っさ」 「結婚するんですって ? だれと ? 」わたしはびつくり仰天「まったくだよ、お前、わたしは心から悦んでいるのだ」急 に不思議なほどまじめな顔つきをしながら、彼は答えるので して思わずこう叫んだ。 「一つあててごらん。いや、じらすのはよそう、ニコライ公あった。「公爵はむろん、年をとっている。が、結婚するこ とはできるよ。すべて法律どおり、習慣どおりにさ。ところ 爵だ、お前の好きなあの爺さんだ」 これ、また、さっきくり返していっ で、アンナのほうは、 犖わたしは目を皿のように見はった。 たように、他人の良心の問題だからね。もっとも、あの子は 成「きっとあの子は、前からこの考えを持っていたに相違な 完全に自由な体だから、自分自身の見方も、自分自身の決断 耒し。そして、それをあらゆる方面から、芸術的に推敲してい 3 ~ 7

10. ドストエーフスキイ全集11 未成年

彼はかなり興奮していて、ところどころ話をぶつりと切って信じきったので、とっぜん、例のセルゲイ公爵に欺かれた夫 しまったうえ、毒々しい顔つきで部屋を歩きまわりながら、人の義理の娘に恋をして、結婚しようという考えを起こし 二三分間だまっていたくらいである。 た。彼は自分で自分にこの新しい愛を信じこませ、哀れな白 彼女はそのとき、すぐヴェルシーロフの秘密を見ぬいてし痴の娘を夢中になるほど逆上させてしまった。この恋によっ まった。いや、ことによったら、わざと彼に媚を弄んだかもて、彼女の生涯における最後の数か月を、このうえなく幸福 なものにしたのである。 しれない。たといどんなに明朗な女でも、こういう場合には 陋劣な態度をとるものだ。それは彼らの打ち勝ちがたい本能 なぜこの娘のかわりに、そのときケーニヒスペルグで彼を いさか それ だ。その結果、彼らの関係は烈しい諍いとともに断絶してし待ちわびていた母のことを思い出さなかったのか、 まった、。彼はどうやら、カチェリーナ夫人を殺そうと思った はわたしにとって不可解の謎だった : : : それどころか、彼は らしい。彼は夫人を威嚇して、ほんとうに殺しもしかねなか母のことなどすっかり忘れてしまい、生活費さえ送らなかっ ったのである。「しかし、これはことごとく急に憎悪の念に た。そういうわけで、そのときもタチャーナ叔母が母を救っ 変わった」その後ある奇妙な時期が到来した。彼はとっぜんたのだ。ところが、急に彼は例の娘と結婚の「ゆるしを乞う」 奇妙な想念に没頭してしまった。それはある戒律でみずからために、母のところへ出かけて行った。もっとも、「ああい 苦しめることだった。 う花嫁は女ではないから」というロ実を持っていたのだ。あ 「それは修道僧の間に行なわれているものなんだ。規律的なあ、これらはすべて「書物に凝りかたまった人間』 ( これは 実行によって漸次自己の意志を征服する方法で、まずきわめカチェリーナ夫人が後にいったことである ) の肖像にすぎな いかもしれない。 て滑稽な些事からはじめて、最後には自己の意志を完全に克 しかし、この紙でできた人たち』が なぜこれだ 服し、自由な心境に到達するのだ」修道僧にとっては、これほんとうに彼らが紙でできた人間だとすれば が真剣な事業となっている、なぜなら、千年来の経験によっけ真剣に苦しんで、悲劇におちいることができるのだろう ? て一つの科学にまで高められているからだ、と彼はつけたし もっとも、わたしはあの晩ちょっと別な考え方をしていたの た。しかし、何より注目に価することは、ほかでもない、彼で、ある一つの想念に心をゆるがされた。 がこの「戒律』という想念に没頭したのは、決してカチェリ 「あなたにとってはその精神的教養も、あなたの魂ぜんたい ーナ夫人の誘惑からのがれるためでなく、むしろ彼はもはやも、生涯を通じての苦痛と闘争によってえられたのですが、 ひと 夫人を愛していないばかりか、極端に憎んでいると信じきつあの女の有する完成みはただで与えられたものです。そこに ていたことである。彼は夫人に対する自分の憎悪を心底からは非常な不平等がありますね : : : 女は、だから癪にさわるん 000