カラマーゾフ - みる会図書館


検索対象: ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)
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1. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

しても、この際、軽蔑なぞなんの役にも立ちゃしない。軽蔑ったいなんだってあの女が、ああまできみに興味を持つのか と、ばくはふしぎに思ったよ。きみ、あれもやはり非凡な女 してるくせに目を放すことができないのだ」 「それはばくにもわかる」アリヨーシャはだしぬけにわれ知だよ ! 」 「よろしく言ってくれたまえ、行きやしないから」と、アリ らす言い放った。 ヨーシャは苦笑いをした。「それよりか、ミーシャ、言いさ 「へえ ? きみがそんなにいきなり不注意に言ってのけたと したことをしまいまで話したまえ。ばくはあとから自分の考 ころを見ると、きみはこのことがほんとうにわかるんだね」 とラキーチンは意地わるい喜びを浮かべつつ叫んだ。「きみえを一一一口うから」 「一」のき、い しまいまで話すも何もありやしない。何もかも は今なんの気なしに口をすべらしたんだが、それだけきみの 明白だね。こんなことは古くさいうたい文句だよ。もしきみ 自白がなおさら重みのあるものになるよ。つまり、このテー マはもうきみにおなじみなんだね。この肉欲ということをものからだの中に好色の血が隠れているとすれば、同腹の兄さ いやはや、とんでもない童心無垢の少んのイヴァンにいたってはどうだろう ? あの人もやはりカ う考えてたんだねー ラマーゾフだからね。この中にきみたちカラマーゾフ一統の 年だよ ! ねえ、アリヨーシャ、きみがおとなしい清らかな 好色漢と、欲張りと、神がカ 人間だってことはばくも異存なしだが、清らかであると同時問題がふくまれてるのさ、 ジヴィ いま兄貴のイヴァン君は無神論者のくせに、 に、まあたいへんなことを考えてるんだね、はんとうにたいへりの行者かー 何かわけのわからないばかげた目算のために、神学的な論文 んなことを承知してるんだね ! 童貞の少年でありながら、 もうそんな深刻な道をたどっていたとは。ばくは前からきみを冗談半分に雑誌に載せてる。そして、自分のやり方の卑劣 きみの兄貴のイヴァ なことを自分で承知しているのだ、 を観察していたよ。きみもまごうことなきカラマーゾフだ、 してみると、血統というやン君がさ。おまけに兄のミーチャからそのいいなずけを横取 徹頭徹尾カラマーゾフだよ、 つは争えんものだなあ。おやじのはうからは好色の、母親のりしようとしてるが、この魂胆はおそらく成就するだろう。 ジグイ ほうからは神がかりの行者の性質を受けたんだ。なんだってしかも、どんなふうにやっているかというと、当のミーチャ 弟ぶるぶるふるえるんだい ? それとも図星をさされたのかの承諾を得たうえなんだからおどろくよ。なぜって、ミーチ ヤは、ただただいいなずけのきずなをのがれて、あのグルー のね。ときにね、きみ、グルーシェンカがばくに頼んだぜ、 シェンカのところへ走りたいばっかりに、みずから進んで未 ゾ「あの人を ( つまりきみのことさ ) つれて来てちょうだい。 マわたしあの人の法衣を脱がしちゃうから』ってね。まったく来の妻を譲ろうとしてるんだからね。しかも、それがみん なご自分の高潔無欲な性質からでてくるというのだから、注 カ一生けんめいに頼んだぜ、連れて来い、連れて来いって。

2. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

した偉大なおみわざでございます。じっさい、わたくしのよは卑しいものでございます。アリーナ、そんなに顔をしかめ うな人間でも、だれかに愛してもらわなくちゃなりませんか ないでごらんよ、この人がアレグセイ・カラマーゾフさん だ。お立ちなさい、カラマーゾフさん」と彼は客の手を取る 「ああ、それはまったくそのとおりです ! 」とアリヨーシャ と、この男には思いがけないくらいのカで、いきなりアリョ は叫んだ。 ーシャを引き起こした。「あなたは婦人に引き合わされてい 「もう道化たまねはいい加減になさいな。どこかのばか者がらっしやるのですから、お立ちにならなくちゃいけません。 やって来れば、すぐもうお父さんは恥っさらしなことばかり この人はね、お母さん、あのわしを : : : その : : : なにしたカ なさるんですもの ! 」とっぜん、窓のそばに立っていた娘がラマーゾアとは違うんだよ。あの人の弟さんで、品行の正し 父に向かって、気むずかしげな人をばかにしたような顔をし おとなしいおかたなんたよ。失礼でございますが、アリ て、思いがけなくこう叫んだ。 ーナさま、失礼でございますが、その前にあなたのお手を接 「まあ、少しお待ち、ヴァルヴァーラさん、いったんきめた吻さしてくださいまし」 方針をしまいまで通さしておくれ」と父はどなった。その調 と、彼は自分の妻の手をうやうやしく、というより、むし 子は号令でもかけるようであったが、しかし、目つきは大いろやさしく接吻するのであった。窓のそばの娘はぶりぶりし にわが意を得たりというようなふうであった。「この娘はどて、ぶいとこの光景に背を向けてしまった。もの問いたに うもああいう気性でございましてね」と彼はまたアリヨーシ 高慢であった妻の顔は、急になみなみならぬやさしみを浮か ヤのほうを向いていった。 べた。 「よくいら 0 しゃいました、テ = ルノマーゾフ ( 絶黒の意味を さん、さあ、おすわんなさい」と彼女は言った。 「カラマーゾフだよ、お母さん、カラマーゾフだよ : ぶんわたくしどもは素姓の卑しいものでございますからね」 弟 いや、これは女性にしなくちゃなりませんな、彼でなくっ と彼はまたしてもこうささやいた。 のて、彼女ですよ。ところで、こんどは失礼ですが、一つ家内「カラマーゾフだかなんだか、知りませんが、わたしはいつで ゾにお引き合わせいたしましよう。これがアリーナ・ベトロー もチェルノマーゾフです : : : さあ、おすわんなさいな。いっ マヴナ、年は四十三歳で、足のない婦人でございます。いやな たいうちの人はどうしてあなたを立たしたのでしようね カ 歩くことは歩きますが、ほんの少しばかりなんで。素姓え ? うちの人は足のない婦人だなんて言いましたが、足は幻 「彼は自然の何ものも 祝福せんとなさざりき

3. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

米川正夫全訳 愛蔵決定版 ドストエーフスキイ全集 全 20 巻・別巻 1 巻 ート 定価 980 円 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14. 16. 19. 貧しき人々 / 分身 / プロハルチン氏 / 主婦 / ポルズンコフ / 他短編 1 編 スチエバンチコヴォ村とその住人 / / 弱い心 / 正直な泥棒 / 白に / 他短編 2 編 虐げられし人々 死の家の記録 / ネートチカ・ネズヴァーノヴァ 地下生活者の手記 / 初恋 / 伯父様の夢 / いやな話 / 夏象冬記 / 鰐 悪霊 ( 下 ) / 悪霊創作ノート / 永遠の夫 悪霊 ( 上 ) 白痴 ( 下 ) / 白痴創 - 作ノート / 賭博者 白痴 ( 上 ) 罪と罰 / 罪と罰創作ノート 未成年 / 未成年創作ノート カラマーゾフの兄弟 ( 上 ) カラマーゾフの兄弟 ( 下 ) / カラマーゾフの兄弟 論文・記録 ( 上 ) ( 下 ) 17.18 書簡 ( 上 ) ( 中 ) ( 下 ) 作家の日記 ( 上 ) ( 下 ) 20 15 創作ノ 別巻 米川正夫著ドストエーフスキイ研究

4. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

カラマーゾフの兄弟上

5. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

チャにはそう感じられた。 , 冫 彼よ百姓のほうへかけよって、 ありませんか : : : さもなければ : : : さもなければ、ばくは何 「失礼ですが、じつは : : : わたしは : : : あなたもたぶん、あがなんだかわかりやしない ! 」 っちの小屋にいるここの番人からお聞きになったでしよう 「きさまは染物屋だ ! 」 「とんでもない、ばくはカラマーゾフです、 が、わたしは中尉・ トミートリイ・カラマーゾフです。今あな たと森のことでかけ合いをしている、カラマーゾフ老人のむカラマーゾフです。あなたに用談があって : : : 有利な相談が すこです」 あって来ました : ・ : 非常に有利なことで : : : しかも、あの森 「でたらめ言うない ! 」百姓はいきなりしつかりした、落ちに関係があるのです」 ついた調子でどなりつけた。 百姓はものものしげにひげをなでた。 ーヴロヴィチを 「どうしてでたらめです ? フヨードル 「なんの、きさまは請負仕事を途中で投げ出したりして、悪 ′」そんじでしよ、つ ? 」 党になってしまったのだ。きさまは悪党だそ ! 」 「フヨードレ・。、 ーヴロヴィチなんてやつは、ちっともごそ「誓って、そんなことはありません、それはあなたの考え違 んじないわい」重たそうにしたをまわしながら、百姓はこう しです ! 」とミーチャは絶望のあまり両手をもみしごいた。 言った。 百姓は相変わらずひげをなでていたが、とっぜんこすそうに 「森を、あなたは森をおやじから買おうとしておいでになる目を細めて、 じゃありませんか。まあ、目をさまして、気分をしつかり持「それよりか、きさまに一つききたいことがあるんだ。いっ ってください。ィリンスキイ長老がばくをここへ連れて来たたい人に不快な目をさせてもかまわないって法律が、どこか のです : : : あなたは、サムソーノフに手紙をお出しになった にあるかい、え ? きさまは悪党だ、わかったか ? 」 しようぜん でしよう。それで、あの人がばくをここへよこしたのです チャは悄然としてうしろへさがった。と、ふいに『何 」とミーチャははを切らした。 かひたいをどやしつけられたような気がした』 ( これはあと 「でたらめだい ! 」とレガーヴィ ( 猟大 ) はまたはっきりしで彼自身の言ったことである ) 。一瞬にして、心の迷いがさ たいまっ 弟た調子でどなりつけた。ミーチャは足の冷たくなるのを感じめてしまった。『とっぜん炬火のようなものがばっと燃えあが 兄 って、ばくはすべてを理解したのだ』と彼は語った。自分は ゾ「とんでもない、 これは冗談じゃありませんよ ! あなたは なんといっても分別のある人間だ、それがどうしてあんなば マ酒に酔っておいでかもしれませんが、もう、 しいカ一にまとも かな話にうかうか乗って、こういう仕事に手を出したばかり 力な口をきいて、人の言うことも聞きわけられそうなもんじゃ か、ほとんど一昼夜の間、そのばかなことをやめようとせ

6. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

米 ) 日正夫訳 以トエーフスキイ全集 カラマーゾフの兄弟上 ッ ~ 書 ~ 可出書房新ネ上

7. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

いか ? とんでもない、ばくの知ったことじゃないよー 「ははあ、おまえはきのうミウーソフの憤慨した、例の一一「ロ葉 くはおまえに言ったとおり、三十まではだらだらとこうやっ をつかまえて来たな : : : あのときドミートリイがなんとも無 ていて、三十がきたら杯を床へたたきつけるんだ ! 」 邪気にとびだしてきて、あの言葉をくりかえしたつけね」と 「でも、ねばっこい若葉は ? 貴い墓は ? るり色の空は ? 愛する女は ? ああ、それじゃ兄さんは何を足場にして生き彼はひん曲がったような徴医をもらした。「ああ、たぶん、 いったん言った以上は、 てゆくのです、どうやってそういうものを愛するつもりなん「すべては許されてる』のだろう。 ミーチャの作り変えも悪くないね」 です ? 」とアリヨーシャは悲しげに叫んだ。「胸に頭にそん撤回しないよ。それに、 アリヨーシャは黙って兄を見つめた。 いったいそんなことができるんです な地獄をいだきながら、 「ねえ、アリヨーシャ、ばくは出発の間ぎわになって、ひろ しいえ、ほんとうに兄さんはジェズィットへ投じるた い世界じゅうにおまえひとりが親友だと思ったが」とっぜん めに出かけて行きます : : : もし、そうでなかったら自殺しま イヴァンは思いがけない真心をこめてこう言った。「しかし す。とても持ちこたえることはできません ! 」 いんとん かわいい隠遁者の胸にも、ばくの居 今はおまえの胸にも 「なんでも持ちこたえることのできるような力があるよ ! 」 もはや冷やかな嘲笑をおびた声で、イヴァンはこう言った。場所はないことがわかった。だが、『すべては許されている」 という定義は否定しないよ。ところで、どうだい、おまえは 「どんな力です ! 」 この定義のためにばくを否定するだろうね、そうだろう、そ 「カラマーゾフ的力だ : : : カラマーゾフ的の下劣な力だよ」 いんとう わくでき 「それは淫蕩の中に惑溺することですね、腐敗の中に霊魂をうだろう ? 」 アリヨーシャは立ちあがって兄に近寄り、無言のまま静か 窒息させることですね、ね、ね ? 」 にそのくちびるを接吻した。 「まあ、そうかもしれん : ・・ : しかし、ただ三十までだ。もし ひょうせつ 「票窃た ! 」とイヴァンは急にはしゃいだような調子になっ かしたら、逃げ出せるかもしれない。そしたら : : : 」 「どうして逃げ出すんです ? なんで逃げ出すんです ? あて、こう叫んだ。「おまえはその接吻をばくの詩劇から盗み 出したね ! しかし、ありがとう。さあ、アリヨーシャ、お なたのような思想を持っていては、不可能です」 立ち、出かけようじゃないか。ばくにしても、おまえにして 「これもまたカラマーゾフ . 式にやるんだ」 「それは『すべてが許されている』ですか ? ほんとうにすも、もう時間だよ」 ふたりは外へ出たが、料理屋の表ロで立ちどまった。 べてが許されますか、そうですか、そうですか ? 」 まゆ アリヨーシャ」とイヴァンはしつかりした亠尸で一一「ロい イヴァンは眉をしかめたが、急にふしぎなほどまっ青にな

8. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

言うと、フヨードルはほとんど無一物で世間へ乗り出した 地主といってもごくごく小さなものなので、よその食事 いそうろう によばれたり、居候にころがりこむおりをねらったりばかり していたが、なんと死んだときには現金十万ループリからの こしていた。それでも彼は依然として一生涯、全郡きって の、病的なわからずやのひとりで押し通してしまった。くり かえして言うが、決してばかという意味ではない。かえっ ・一うかっ て、こういう病的な人間の大多数は、かなり利ロで狡猾であ 第 7 フヨードル・カラマーゾフ る。つまり、ものわかりがわるいのである。しかも、そこに はなんとなく独得なロシャ的なところさえうかがわれる。 ヨーー「レ アレグセイ・カラマーゾフは、本郡の地主フ 彼は二度結婚して三人の子を持ったーーー長男のド ーヴロヴィチ・カラマーゾフの三番目のむすこである。こ イは先妻、あとのふたり、すなわちイヴァンとアレクセイと のフヨードルは、今から十三年前に、奇怪な悲劇的な死を遂は後妻の腹にできた。フヨードレ ノの先妻はやはり本郡の地主 もんばっ げたため、当時 ( いや、今でもやはり町でときどきうわさがでミウーソフという、ずいぶん富裕な門閥の家に生まれた。 出る ) なかなか有名な男であった。しかし、この事件は順序持参金つきでしかも美人で、おまけに、はきはきした利ロな を追ってあとで話すこととして、今は単にこの「地主』が令嬢が ( こんな種類の娘は現代のわが国では少しも珍しくな しよう ( この地方では彼のことをこう呼んでいた。そのくせ、一生いが、一世代前においてもそろそろ頭を持ちあげ始めてい 涯はとんど自分の領地で暮らしたことはないのだ ) 、かなり た ) 、どうしてあんなやくざな「のらくら者』 これが当 ちょいちょい見受けることもあるけれど、ずいぶん風変わり時の定評だったのでーー・・・と結婚するようなことができたか、 なタイプの人間である、というだけにとどめておこう。つま この疑問はあまり深く説明しないこととする。筆者は、前世 ほうらっ 弟り、ただやくざで放埒なばかりでなく、それと同時にものわ代の「ロマン主義的な』時代に生まれた、あるひとりの娘を のかりのわるいタイプの人間なのである。とはいえ、同じもの知っている。この娘は幾年かの間、ひとりの男になそのよう ゾわかりのわるい人間の中でも、自分の領地に関するこまごま な恋をささげていたが、いつでも平穏無事に華燭の典をあげ マした事務を、巧みに処理してゆく才能を持った仲間なのであることができるのに、けつきよく自分で打ち勝ちがたい障害 あらし カる。しかし、それよりほかに芸はないらしい。実例についてを考えだして、ある嵐の夜、断崖絶壁めいた感じのする高い 第一編ある家族の歴史 わたし

9. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

ドストエーフスキイ全集 12 目次 カラマーゾフの兄弟上 著者より : 第一編ある家族の歴史 : 第二編場所柄もわきまえぬ会合 : 第三編淫蕩なる人々 : 第四編破裂 : ・ 第五編 Pro et Contra•• 第六編ロシャの僧侶 : 第七編アリヨーシャ・ ロ絵一八八〇年のドストエーフスキイ

10. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

カラマーゾフの兄弟 きようせい った詩を読んでみる。ところで、それがおれを匡正したこと があるだろうか ? 決して決して ! なぜって、おれはカラ マーゾフだものなあ。無限のふちへ飛びこむくらいなら、い という気にな っそ思いきってまっさかさまに ~ 洛ちるがいし るんだ。しかも、そんな恥ずかしい境界に落ちぶれるのに満 足して、それを美的だと考えるようになる。ところが、こう した汚辱のただ中にあって、おれはとっぜん、賛美歌をとな えはじめるじゃないか。よしや自分は、のろわれた、卑しい けがれた人間であるとしても、神さまのまとうておいでにな る衣の端を、接吻したってかまわないはずだ。しかも、それ と同時に、悪魔の跡へついて行こうとも、おれはやはり神さ まの子だ、神さまを愛する、そして喜びを心に感じる。この 喜びがなかったら、世界も存在することはできないのだ。 とことわのよろこびは 人の心を水かいっ 醯酵の秘力もて いきの命のさかすきに 炎をもやす ひともと 一本の小草をも 光のかたへさし招き こんとん 混沌を太陽と化し おんよう 陰陽師さえ数え得ぬ 星くすを空に満たしぬ はっ - 一う 自あるものはこと 1 」とく うるわしき自然の胸に 喜びをくみ交わすめり 生きとし生けるものすべて もろもろの民草もみな そがあとにひかれゆくなり さちなき人は友がきと ぶどうのつゆと、美の神の 花のかむりそ恵まるる 虫けらにはまた卑しきなさけ : 神のみ前は天の使いに しかし、詩はもうたくさんだ。おれはつい涙をこばした が、ど、つかしばらくかしてくれ。よしんばこんなことがは んのつまらない話で、みんなが声をそろえて笑おうとも、お まえだけはそんなことをしやしない。それ見ろ、おまえの目 もぎらぎら燃えてるじゃないか。いや、ほんとうに詩はたく さんだ。おれがいま話そうと思ってるのは、あの神さまに卑 しきなさけを授けられた「虫けら』のことなんだ。 虫けらにはまた卑しきなさけー おれはつまりこの虫けらなんだ、これは特別におれのこと を言ったものなんだよ。われわれカラマーゾフ一統はみんな こういう人間だ。おまえのような天使の中にもこの虫けらが