そのほかの五人の子供は、食い入るようにアリヨーシャをつが向こうの子供の頭へ当たった。彼はばったり倒れたが、 すぐまたはね起きて、死にもの狂いに応戦を始めた。両方か 見つめた。 「こいつは石を投げるんでも左だよ」といまひとりの子がロらやみ間のない戦いがつづけられた。見ると、こっちの子供 らのポケットにも、用意の石がいつばいつめてあった。 を入れた。 ちょうどこのとき、一つの石が群れのまん中へ飛んで来「みんな何をするの ! よくまあ恥ずかしくないこったね て、ちょっと左ききの子供をかすめたが、そのまま飛び過ぎえ ! 六人でひとりのものにかかって行ったら、あの子を殺 してしま、フじゃないの ! 」アリヨーシャはどなった。 てしまった。しかし、その投げ方はなかなか上手で力がはい 彼はおどり出して、飛び米る石に向かって仁王立ちになっ っていた。それはどぶ川の向こうの子供が投げたのである。 た。身をもってどぶ川の向こうの少年をかばおうと思ったの 「スムーロフ、やつつけろ、くらわしてやれ ! 」と一同が叫 んだ。 である。三人か四人の子供はいっとき手を休めた。 「だって、あいっからさきに始めたんだもの ! 」赤いシャッ しかしスムーロフ ( 左きき ) は言われるまでもなく、少し 、ら、らした子供らしい声でわめいた。「あ も猶予しないで、すぐにまた一矢むくいた。彼はどぶ川のを着た少年が、しし いつはひきようなやつなんだ。さっき、クラソートキンをナ 向こうにいる子供を目がけて石をほうったが、うまく当たら なかった。石は地面を打っただけである。どぶ川の向こうのイフで突いて、血を出したりしたんだよ。クラソートキンは 子供は、さっそくまた一つこっちの群れを目がけて投げつけ いやだと言って先生に言いつけなかったけれど、あんなや つ、ひどい目にあわしてやらなくちゃ : たが、こんどはうまくアリヨーシャに当たって、かなり強く 彼の肩を打った。・ 「いったいどういうわけなの ? きっときみらのほうからさ とぶ川の向こうにいる子供のポケットは、 きにからかったのだろう ? 」 用意の石ころでいつばいであった。三十歩あいだを隔ててい ても、外套のポケット : カふくらんでいるのでそれと察しられ「ああ、またきみの背中へ当てやがった。あいつはきみを知 ってるんだよ」と子供は叫んだ。「今あいつはばくらでなく 弟「あれはきみを、きみをわざとねらったんだよ。だってきみって、きみをねらって投げてるんだよ。さあ、またみんなで のはカラマーゾフじゃないの、カラマーゾフじゃないの ? 」とやつつけろ、スムーロフ、やりそこなっちゃだめだぜ ! 」 こうしてまたもや石合戦が始まったが、こんどはもうそれ ゾ子供らはきやっきやっと笑いながら叫んだ、「さあ、みんな マ一時にやるんだそ、うてつ ! 」 こそすさまじいものだった。やがて一つの石がどぶ月の向こ カ と六つの石が同時に群れの中から飛んで出た。その中の一 うにいる子供の胸へ当たった。彼は悲鳴を上げると、泣きな
、、ばくがばからう。これはもちろん、ばくにとって不利益なんだけれど。第 ば、ばくのからだから変なにおいがするとカ しい顔をしてるとか、でなければ、いっかばくがその男の足一、子供はそばへ寄 0 ても愛することができる、きたないも を踏んだとか、そんな簡単な理山によるのさ。それに苦悶にのでも、器量の悪いのでも愛することができる ( も 0 とも、 もいろいろあるよ。卑屈な悶、ばくの人格を下劣にするよ器量の悪い子供というのはかってないようだね ) 。第二に ばくがおとなのことを話したくないというわけは、彼らが醜 うな苦悶、たとえば空腹のたぐいのようなものは、慈善家も 認容してくれるけれど、少し高尚な苦悶、たとえば理念のた悪で愛に相当しないのみならず、彼らにたいしては天罰とい めの苦悶なんてものは、きわめて少数の場合を除くほか、決うことがあるからだ。おとなは知恵の実を食べて善悪を知 して認容してくれない。なぜかときくと、ばくの顔がその慈り、「神々のごとく』な 0 てしま 0 た。そして、今でもやは 善家の空思していた理念のための受難者の顔と、ぜんぜんちりつづけてその実を食べている。ところが、子供はまだ何も が 0 てるからと言うのだ。これだけの理由で、ばくはその人食べないから、今のところま 0 たく無垢なものた。おまえは リヨーシャ ? わかってる、好きなのさ。 の恩恵を取り逃がしてしまう。しかし、決してその人に悪意子供が好きかい、ア 、まばくがどういうわけで子供のことばかり話そ、フ だから、 あってのことではない。こじき、ことにたしなみのいいこじ きは、断じて人前へ顔をさらすようなことをしないで、新聞とするか、おまえにはちゃんと察しられるだろう。で、もし 紙上で報謝をこうべきだ。隣人を愛しうるのは抽象的な場合子供までが同じように地上で恐ろしい苦しみを受けるとすれ ば、それは、もちろん、自分の父親の身代わりだ、知恵の実 にかぎる。どうかすると、遠方から愛しうる場合もある。し かし、そばへ寄 0 てはほとんど不可能た。もしパレーのようを食べた父親の代わりに罰せられるのだ。が、これはあの世 こじきがばろばろの絹の着物をまとい、破れたレースをの人の考え方であ「て、この地上に住む人間の心には不可解 だ。罪なき者が他人のかわりに苦しむなんて法がないじゃな つけて出て来て、優雅な踊りをしながら、報謝をこうのだっ いか、ことに、その罪なき者が子供であってみれば、なおさ たら、まあまあ見物していられるさ。しかし、要するに見物 こう言えば驚くかもしれないがね、アリ するまでで、決して愛するわけにはゆかない。けれど、こんらのことだー 弟なことはもうたくさんだ。ただね、おまえをばくの見地へ立シャ、ばくもやはりひどく子供が好きなんだよ。それに注意 のたしさえすればよかったのだ。ばくは一般人類の苦悶というすべきことは、残酷で、情欲と肉欲のさかんなカラマーゾフ ゾことを話すつもりだ 0 たが、それよりむしろ、子供の苦悶だ的人間が、どうかすると非常に子供を好くものなんだよ。子 マ けにとどめておこう。これはばくの議論の効果を十分の一く供がほんとうに子供でいる間、つまり、七つくらいまでの子 しかし、子供のことばかり話そ供は、恐ろしく人間離れがしていて、まるで別な性質を持っ田 カらいに弱めてしまうのだが、
子供をいじめることが好きで、この意味において子供そのも はそれもできないで、ぜいぜい言うようになる。あるとき、 まるで鬼のように残酷な所業のために、事件は裁判ざたにまのまでが好きなのだ。つまり、子供のたよりなさがこの種の ( 弁護士 ) が雇われ嗜虐者の心をそそるのだ。どこといって行くところのない、 でおよんだのさ。そこでアドヴォカード る、 ロシャ人はだいぶ前から弁護士のことを、『アプラだれといってたよるもののない小さい子供の、天使のような 旧ド ) わ、亠 9. い、い これが暴君のいまわしい血潮を沸かすの 弁社 ) はお雇いの良心だ』などと言うようにな 0 た が、この弁護士が自分の依頼者を弁護しようと思って、『こだ。もちろん、あらゆる人間の中には野獣がひそんでいる。 れは通常ありがちの簡単な家庭的事件です。父親が自分の娘それはおこりつばい野獣、責めさいなまれる犠牲の叫び声に を折檻したまでの話じゃありませんか。こんなことが載判ざ情欲的な血潮を沸かす野獣、鎖を放たれて抑制を知らぬ野 いんとう たになるというのは、現代の恥辱であります』とどなる。陪獸、淫蕩のために痛風だの肝臓病だのいろいろな病気にとっ 審員はこれに動かされて別室へしりぞき、無罪の宣告を与えっかれた野獣なのだ。で、その五つになる女の子を、教養あ る。世間の人たちは、その加害者が無罪になったというのる両親は、ありとあらゆる拷問にかけるんだ。自分でもなん で、幸福そうに喚声をあげるという段取りさ。いや、ばくがのためやらわからないで、ただ無にぶつ、たたく、ける、 しまいには、いたいけな子供のからだが一めん紫ばれになっ その場に居合わせなかったのは残念だよ ! そうしたら、ば くはその冷血漢の名を表彰するために、奨励金支出の議案でてしまった。が、とうとうそれにも飽きて、巧妙な技巧をろ うするようになった。ほかでもない、凍てつくような極寒の も提出してやったんだがなあ : : : じつにもうポンチ絵だよ。 しかし、子供のことなら、ばくのコレグションの中にもっと時節に、その子をひと晩じゅう便所の中へ閉じこめるのだ。 おもしろい話がある。ばくはロシャの子供の話をうんと集めそれもただその子が夜中にうんこを知らせなかったから、と てるんだよ。アリヨーシャ。 いうだけなんだ ( いったい天使のようにすやすやと寝入って いる五つやそこいらの子供が、そんなことを知らせるような 五つになるちっちゃな女の子が、両親に憎まれた話もあ る。この両親は『名誉ある官吏で、教養ある紳士淑女』なん知恵があると思ってるのかしら ) 。そうして、もらしたうん だ。ばくはいま一度はっきり断言するが、多くの人間には一 こをその子の顔に塗りつけたり、むりやり食べさしたりする 種特別な性質がある。それは子供の虐待だ。もっとも、子供のだ。しかも、これが現在の母親の仕事なんだからね ! こ にかぎるのだ。ほかの有象無象にたいするときは、最も冷酷の母親は、よる夜なかきたないところへ閉じこめられた哀れ な虐待者も、博愛心に満ちた教養あるヨーロッパ人でござい な子供のうめき声を聞きながら、平気で寝ていられるという いんんけんそん と言うような顔をして、慇懃謙遜な態度を示すが、そのくせじゃよ、 オしカ ! おまえにはわかるかい、まだ自分の身に生じ
しかし、アリヨーシャは長くこんなことを考えているわけのもあった。どぶ川の向こうには、こっちの群れからほば三 4 し。いかなかった。途中思いがけない出来事が、彼の身の上十歩ばかり隔てたかきねのそばに、もうひとり子供が立って に起こったのである。それはちょっと見たところたいしたこ いた。やはりかばんを肩にかけた小学生で、せいかっこうか とではないけれども、彼に強烈な印象を与えた。小さなどぶら見るとまだ十は越すまい いや、あるいはそれより下かも ーを隔てて ( この町は至るところどぶ川が縦横に貫通してい しれぬと思われるはどであった。青白い病的な顔をして、黒 るので ) 、ポリショイ通りと並行しているミハイロフ通りへ い目をぎらぎら光らしている。彼は注意ぶかく探りまわすよ 出ようと思って、広場を通り抜けて横町へ曲がったとき、小 うに、六人の子供の群れをながめていた。彼らはみんな友だ さな橋の手前でひとかたまりになっている小学生が目にはい ち同士で、たった今いっしょに学校を出たばかりであるが、 ったのである。それはみんな年のゆかぬ子供ばかりで、九つ平生からあまり仲のよくないのはひと目見ても明らかであっ から十二くらいまで、それより上のものはなかった。あるも た。アリヨーシャは白っぱい髪のうずを巻いた・Ⅷ色のいし のは背にランドセルを負い、あるものは皮のかばんを肩にか とりの子供に近づいて、黒い短い上着を着た姿を見まわしな け、あるものは短い上着を着、あるものは外套を羽織り、ま がら話しかけた。 たあるものは、よく親に甘やかされた金持ちの子供がことに 「ばくがきみらと同じようなかばんをかけてた時分、みんな 好んで誇りとする、胴にひだの入った長ぐっをはいて、めい 左の肩にかけて歩いたものだよ。それは右の手ですぐに本が めい学校から帰って行くところであった。この一群は、元気出せるからさ。ところが、きみは右の肩にかけてるが、それ しい調子でがやがや話し合っている。何かの相談らしい で出しにくくないの ? 」 アリヨーシャはどんなときでも、子供のそばを平気で通り過アリヨーシャは、。 へつにまえまえから用意した技巧をろう ぎることができなかった。モスクワでもそうであった。もっするでもなく、いきなりこうした実際的な注意をもって会話 とも、彼は三つくらいの子供が一ばんすきだったが、十か十を始めた。まったくおとながいきなり子供の、とくに大ぜい 一くらいの小学生も大好きなのである。 の子供の信川をうるためには、これよりはかに話の始め方は で、今もいろいろ心配があったにもかかわらす、急に子供ないのである。まじめで実際的な話を始めること、そしてぜ らのほうへ曲がって行って、話の仲間へはいりたくなった。 んぜん対等の態度をとること、これが何よりかんじんなので ちかぢかとそばへ寄って、彼らのばら色をした元気のいい顔ある。アリヨーシャにはこれが本能でわかっていた。 をながめているうちに、ふと気がついてみると、子供らはて「だって、こいつは左ききなんだもの」活発でじようぶらし んでに石を一つすっ持っている。なかには二つ持っているもい十一ばかりの別な男の子が、すぐにこう答えた。
ゆる どうよう のために、その人をも赦してくださるに相違ない。 優しい人であるが、余と同行遍歴のさいも、恵まれた銅貨 しようがもち 諸師よ、人間の罪を恐れてはならぬ。罪あるままの人間をで、薑餅や氷砂糖を買って、よく子供らに分けてやったも 愛すべきである。なぜなれば、これはすでに神の愛に近いものである。師は子供らのかたわらを通り過ぎるとき、心のふ ので、地上における愛の頂上だからである。あらゆる神の創るえを感じずにいられない人である。 造物を、全体としても部分としても、一様に愛さねばなら われらはある種の思念にたいしてしばしば疑惑を感ずる。 ぬ。一枚の木の葉、一条の日光をも愛さねばならぬ。動物を他人の罪を見たときはことにそうである。『この人は力をも けんよく 愛し、植物を愛し、あらゆる事物を愛すべきである。あらゆって捕えるべきか、それとも謙抑な愛をもって虜にすべきで る事物を愛すれば、やがて、それらの事物の中に神の秘密をあろうか ? 』と自間する。しかし、いつでも、『謙抑な愛を 発見するであろう。ひとたびこれを発見すれば、もはやそのもって虜にしよう』と決めなければならぬ。いったんこう決 0 友は←毋日【毋日、 . ー ) 、、こ、ーレ、、こ、こ、、 オしオし冫しよいよ深く味わってゆく 心して、生涯変わることがなければ、全世界をも征服するこ のみである。こうして、ついには円満無碍の宇宙的な愛をも とができる。愛をともなう謙抑は恐ろしいカである。あらゆ って、全世界を愛しうるようになる。人はまた動物を愛さねる力の中でも最も強いもので、他にその比がないくらいであ きえっ ばならぬ。彼らは神より思想の源と、平穏なる喜悦とを授かる。毎日、毎時、毎刻、自分の周囲をめぐって、自分の心の っているからである。その喜悦をみだしたり、彼らを苦しめ姿が常に美しくあるように気をつけねばならぬ。たとえば、 たり、また、彼らより喜悦を奪いなどして、神のみ心に逆っ幼い子供のかたわらを通り過ぎるとき、憎々しそうな様子を てはならぬ。人間は動物の上に立って君臨すべきものでな して、ロ汚い言葉を放ち、腹立たしい心をいだいていたら、 い。なぜなれば、彼らが無垢の身であるに反して、人間は偉たとえ自分のほうでは子供に気がっかぬとしても、子供はち 大なる資質を有していながら、おのれの出現によってこの土ゃんと見てとるに相違ない。そうして、その醜いれた姿が を腐敗させ、その腐爛した足跡を残してゆくからである、頼りない子供の胸に、いつまでも彫りつけられるかもしれな しかも、悲しいかな、われわれは千人が千人ことごとく つまり、自分のほうでは気もっかぬ間に、 子供の心に悪 弟そうなのである ! 子供はとくに愛さねばならぬ。それは、 い種を投げたことになる。そうして、その種がしだいに大き の彼らが天使のごとく無邪気で、われらの心の喜びと浄めのた くなってゆくのである。それというのも、子供の前で慎みを ゾめに生き、なおそのうえに、われらにたいする指標ともなる忘れたからである。用心ぶかい実行的な愛を自己の中につち わざわ マからである。子供をはずかしめるものは禍いである。余はアかわなかったからである。 カンフィーム師に子供を愛することを教えられた、師は無ロな諸師よ、愛は教師である。しかし、これを獲得する方法を
に相違ないんだもの。それよりか、どうしてきみらがあの子 がらミハイロフ通りのほうをさして、坂の上へ駟け登った。 こっちの群れは、『ゃあい、こわくなって逃げ出しやがった。 をそんなに憎むのか、あの子に直接きいてみるよ : 「きいてごらん、きいてごらん ! 」と子供らはまた笑いだし ゃあい、ヘちま野郎 ! 』とはやし立てた。 「あいつがどんなにひきようなやっか、きみはまだ知らない んだろう、あいつは殺したってたりないんだ」と短い上着を アリヨーシャは小橋を渡って、かきねに沿うた坂道をのば 着た少年が目を光らしながら言った。見たところ、仲間で一り、のけ者にされた子供のほうへまっすぐに進んで行った。 ばん年上らしい 「気をおつけよ」と子供らはうしろから注意した。「あいっ 「あれがいったいどんな子だって ? 」とアリヨーシャはたずはきみだって恐れやしないから、いきなりナイフを出して、 ねた。「告げロやだとでも言うの ? 」 ふい打ちにきみを突くかもしれないよ、あのグラソートキン のときみたいに : 子供はばかにしたように顔を見合わした。 少年はじっとその場を動かないで、彼を待ちもうけてい 「きみもやつばりあっちい行くんだろう、ミハイロフ通りへ ね ? 」と前の少年が言葉をついだ。「そしたら、すぐあいつをた。そばによってみて、アリヨーシャは自分の前に立ってい 追っかけてきいてごらん : : : ほら、ちょっと、あいつまたじる少年が、まだ九つを越さない、せいの低いよわよわしい っと立って待ってるから。きみのほうをじろじろ見てらあ」やせてあお白い細長い顔をした子供なのを見てとった。大き 「きみのほうを見てらあ、きみのほうを見てらあ ! 」と子供な黒い目は、にくにくしそうに彼を見すえている。子供はか らはくりかえした。 らだに合わぬ不かっこうな、ずいぶん時代のついた外套を着 「あのね、一つあいつにこうきいてごらん、おまえはばろばていた。あらわな手を両袖からにゆうと突き出して、ズボン ろになったふろ場のヘちまが好きかって。 ししかい、そう言の右のひざには大きなつぎが当たっている。右のほうのくっ ってきくんだよ」 は、親指にあたるつま先に大きな穴があいて、その上からや たらにインキを塗ったあとが見える。ふくれあがった両方の 一同はどっと笑った。アリヨーシャは子供らを、子供らは ポケ ットこは、石ころがいつばいつまっていた。アリヨーシ アリヨーシャを、じっと見つめるのであった。 「行くのをおよしなさい、ぶんなぐられるから」とスムーロ ヤは彼から二歩ばかり前に立って、もの間いたげにその顔を フが大きな声で警戒した。 見まもった。少年はアリヨーシャの目つきから推して、彼が 「いや、ばくはそんなへちまのことなんかききやしないよ。 自分をぶつ考えを持ってないことを知ったので、自分のほう だってきみらはこのヘちまでもって、あの子をからかってるでも力を抜いてさきに口をきった。 第 ) 0 206
くはわざと論題をせばめたのだ。ばくはナンキン虫みたいなの馬の骨だかわからないやつの未来のハーモニイをつちかっ やつだから、なんのためにいっさいがこんなふうになってるてやるためじゃないんだからね。しかがししのそばにねてい のか、少しも理解することができないのを、心からなる屈辱るところや、殺されたものがむくむくと起きあがって、自分 の念をもって、つくづくと痛感している。つまり、人間自身がを殺したものと抱擁するところを、自分の目で見届けたいの 悪いのさ。もともと彼らには楽園が与えられていたものを、 だ。つまり、みなの者がいっさいの事情を知るときに、ばく 自分たちが不幸におちいるってことを知りながら、自由を欲もその場に居合わせたいのだ。地上におけるすべての宗教 して天国から火を盗んだんだもの、何もかわいそうなこと は、この希望の上に建てられているのだ。しかし、ばくは信 はありやしない。ばくの哀れな地上的な、ユウグリッド式の仰する。 知恵をもってしては、ただ苦痛があるのみで、罪びとはな ところが、また例の子供だ、いったいわれわれはそんな場 しいっさいは直接に簡単に事件を生みながら、絶えず流れ合、子供をどうしまっしたらいいのだろう ? これがばくに 去って平均を保って行く、ということだけしかわからない。 解決のできない問題だ。うるさいようだが、もう一度、くり しかし、これはユウグリッド式の野蛮な考えだ。ばくもこれかえして言う、 問題は山ほどあるけれど、ばくはただ子 を承知しているから、そんな考え方によって生きて行くのは供だけを例にとった。そのわけは、ばくの言わなければなら 不承知なんだ ! しかし、罪びとがなくて、すべては直接にないことが、明瞭にその中に現われてるからだ。いいかい、 簡単に事件から事件を生んで行く、という事実がばくにとっすべての人間が苦しまねばならないのは、苦痛をもって永久 て何になる ? またこの事実を知ってるからって、それがその調和をあがなうためだとしても、なんのために子供がそこ もそも何になる ? ばくには応報が必要なのだ。でなけれへ引き合いに出されるのだ、お願いだから聞かしてくれない ば、ばくは自滅してしまう。しかも、その応報もいっか無限 か ? なんのために子供までが苦しまなけりゃならないの の中のどこかで与えられる、というのではいやだ。ちゃんと どういうわけで子供までが苦痛をもって調和をあがなわ この地上で、ばくの目の前で行なわれなくちゃいやだ。ばく なけりゃならないのか、さつばりわからないじゃな、、ー 弟は自分で見たいのだ。もしその時分ばくが死んでいたら、蘇どういうわけで、子供までが材料の中へはいって、どこの馬 の生さしてもらわなくちゃならない。なぜって、ばくのいないの骨だかわからないやつのために、未来の調和の肥やしにな ゾときにそんなことをするなんて、あんまりしやくにさわるじらなけりゃならないのだろう ? 人間同士の間における罪悪 じっさい、ーくが苦しんだのは、何も自分自身のの連帯関係は、ばくも認める。しかし、子供との間に連帯関 カからだや、自分の悪行や、自分の苦痛を肥やしにして、どこ係があるとは思えない。 もし子供も父のあらゆる悪行にた、
水よ、アレグセイさん、今やっと名まえを思い出したわ、だずねた。 けど、これはいい薬よ。ところで、お母さん、どうでしよう、 丿ーズ。まったくわたしもあまりあわ 「まあ、何を言うの、 この人は途中で小僧っ子とけんかをしたんですって。これはてて、恐水病の子供なんて言いだしたけれど、おまえはすぐ その中のひとりにかまれた傷なのよ。ねえ、この人も同じよそんなばかなことを言うんだもの。ときに、カチェリーナさ うにちっちゃなちっちゃな子供じゃなくって。ねえ、そんなんは、あなたのいらしったことを聞くと、もうさっそくわた ちっちゃな子供に結婚なんかできやしないわね。だって、こしのところへ飛んでらしたんですよ。もうあなたを待ちこが の人は結婚したいって言うんですもの、どうでしよう、お母れて、待ちこがれて : : : 」 さん。ほんとうにこの人にお嫁さんがあるなんて、考えても 「まあ、お母さん ! あなたひとりであっちへいらっしや、 おかしいじゃないの、恐ろしいじゃないの ? 」 よ。この人は今すぐいらっしやるわけにゆきやしませんわ。 ーズは、ずるい目つきをして、アリヨーシャをながめな だって、あんなに痛がってらっしやるんですもの」 から、しじゅうおちつかなげに小刻みに笑うのであった。 「決して痛がってはいません。平気で行けますよ : : : 」とア 丿ーズ、なんだっておまえは突 「え、どうして結婚なんか、 リヨーシャが一一 = ロった。 「え ! あなたいらっしやるの ? じゃ、あなたは ? じ 拍子もないそんなことを言いだすの ? そんなことをいうと や、あなたは ? 」 きじゃありませんよ : : : それに、その子供はもしかしたら、 「なんですか ? なに、ばくはあっちの用をすましたら、ま 恐水病にかかってるかもしれないじゃないの」 「あら、お母さんー いったい恐水病の子供なんているものたここへ帰って来ます。そしたら、あなたのお気に入るだけ なの ? 」 のお話ができますよ。じっさし冫 、、まくはいま非常にカチェリ 「いますともさ。まるでわたしがばかなことでも言ったかな ーナ・イヴァーノヴナに会いたいわけがあるんです。なぜっ んぞのようにさ。もしその子供に狂大がかみついたとすれて、ばくはどのみち、きようできるだけ早く僧院へ帰ろうと ば、こんどはその子供が手近の人をかむようになるんです思ってますからね」 よ。」、けツ」、ほ′ル A 」、つにリーー ズはじようずに包帯をしました 「お母さん、早くこの人を連れてってちょうだい。アレグセ ねえ、アレグセイさん。わたしはどうしたって、そんなにう ィさん、カチェリーナさんのあとでここへ寄ろうなそと、そ まくできません。今でも痛うござんすか ? 」 んなご心配にはおよびませんよ。まっすぐ僧院へいらっしゃ 「もうたいしたことはありません」 。あなたには、ちょうど似合いの場所だわ ! わたし眠く 「ちょいと、あなた水がこわくはなくって ? 」とリーズがた なった、ゆうべちっとも寝なかったんですもの」 2 卩
もとのバンになったことを、覚えすぎるほど覚えているに相 う。しかし、われわれがちょっと小手招きさえすれば、たち 違ないからな。永久に服従するということがどんな意味を持まちかるがると、歓楽や、笑いや、幸福な子供らしい唱歌へ っているか、彼らは理解しすぎるほど理解するに相違ないか 移って来るのだ。むろん、われわれは彼らに労働をしいる らだ。その理が合点ゆかない間は、人間はいつまでも不幸でけれども、暇なときには彼らのために子供らしい歌と、合唱 いるのだ。しかし、第一番にこうした無理解を助長したのは と、罪のない踊りの生活を授けてやる。ちょうど子供のため だれだ、言ってみろ ! 羊の群れをばらばらにして、案内もに遊戯を催してやるようなものだ。もちろん、われわれは彼 知らぬ道へわかれわかれに追い散らしたのはだれだ ? し からに罪悪をもゆるしてやる。彼らはよわよわしいカのないも し、羊の群れもまたふたたび呼び集められて、こんどこそ永のだから、罪を犯すことを許してやると、子供のようにわれ 久におとなしくなるであろう。そのとき、われわれは彼らにわれを愛するようになる。どんな罪でも、われわれの許可さ 穏やかな、つつましい幸福を授けてやる。彼らの生来の性質え得て行なえばあがなわれる、とこう彼らに言い聞かしてや たるいくじない動物としての幸福を授けてやるのだ。おお、 る。罪悪をゆるしてやるのは、われわれが彼らを愛するから われわれはとどのつまり彼らを説き伏せて、誇りをいだかぬだ。その罪悪にたいする応報は、当然われわれ自身で引き受 ようにさせてやる。なぜと言うに、おまえが彼らの位置を引 けてやるのだ。そうしてやると、彼らは神さまにたいして自 き上げたため、誇りを教えこんだようなぐあいになったから分の罪をかぶってくれた恩人として、われわれを崇拝するよ だ。そこで、われわれは彼らに向かって、おまえたちはいく うになる。したがって、われわれに何ひとっかくしだてしな じのないもので、ほんの哀れな子供同然だ、そして、子供の いようになるわけだ。彼らが妻のほかに情婦とともに暮らす 幸福はど甘いものはない、と言って聞かせてやる。すると、 ことも、子供を持っことも持たないことも、すべてその服従 彼らはおくびようになり、まるで巣についた雌鶏に寄り添うの程度に応じて、許しもすればさし止めもする。こうして、 ひなのように、恐ろしさにふるえながらわれわれのほうへ寄彼らは楽しく喜ばしくわれわれに服従してゆくのだ。良心の り添うて、われわれを仰ぎ見るに相違ない。彼らはわれわれ最も悩ましい秘密も、それから、 いや、何もかも、ほん 第のほうへ押し寄せながらも、同時にわれわれをあがめて恐れとうに何もかも、彼らはわれわれのところへ持って来る。す のて、荒れさわぐ数十億の羊の群れを鎮撫しうる偉大な力と知ると、われわれはいっさいを解決してやる。この解決を彼ら ・ゾ恵を持ったわれわれを、誇りとするにいたるであろう。彼らは喜んで信用するに相違ない。なぜと言うに、これによって マはわれわれの怒りを見て、哀れにもふるえおののいて、その大きな心配からのがれることもできるし、今のように自分自 カ心はおくし、その目は女や子供のように涙もろくなるであろ身で自由に解決するという、恐ろしい苦痛をもまぬがれるこ
「つまり、その」、しかし』さ : : 」とイヴァンは叫んだ。 どが居並んでいるが、みんな馬上姿だ。ぐるりには召使ども が、見せしめのために呼び集められている。その一ばん前に「ねえ、隠遁者君、この地上においては、ばかなことが必要 は、悪いことをした子供の母親がいるのだ。やがて、子供がすぎるくらいなんだ。世界はばかなことを足場にして立って るので、それがなかったら、世の中には何事も起こりやしな 牢から引き出されて来た。それは霧の深い、どんよりした、 ひょり うそ寒い秋の日て : ・にはうってつけの日和だ。将軍は子供 かったろうよ。われわれは知ってるだけのことしか知らない の着物をはげと命じた。子供はすっかり丸裸にされて、ぶるんだ ! 」 ぶるふるえながら、恐ろしさにばうっとなって、うんともすん「兄さんは何を知っています ? 」 とも言えないのだ : ・『それ、追えい ! 』と、将軍が下知あ「ばくはなんにも理解することができない」うわ言でも言っ そばす。『走れ、走れ ! 』と勢子どもがどなるので、子供は駆 ているように、イヴァンは言葉をついだ。「今となってばく け出した : は、何ひとっ理解しようとも思わなし ~ : と、将軍は「しいっ ! 』と叫んで、猟大をすっ 、。まくは古聿 ~ 大にとど かり放してしまったのだ。こうして母親の目の前で、獣かなまるつもりだ。ばくはずっと前から理解すまいと決心したの んそのように狩り立てたので、大は見る間に子供をすたずた だ。何か理解しようと思うと、すぐに事実を曲げたくなるか に引き裂いてしまったー : その将軍はなんでも禁治産か何ら、それでばくは事実にとどまろうと決心したのだ」 かになったらしい。そこで : : : どうだい ? この将軍は死刑 「なんのために兄さんはばくを試みるのです ? 」アリ ヤは、ひっちぎったように、悲しげな調子で叫んだ。「もう にでも処すべきかね ? 道總的感情を満足さすために、銃殺 にでも処すべきかね ? 言ってごらん、アリヨーシャ 、い加減にして言ってくれませんか ? 」 「むろん、言うとも。言おうと思って話を持ってきてるんだ 「銃殺に処すべきです ! 」あお白い、ゆがんだような徴笑を 浮かべて兄を見上げながら、アリヨーシャは小さな声でこう もの。おまえはばくにとってたいせつな人だから、ばくはお 言った。 まえを逃がしたくないのだ。あのゾシマなんかに譲りやしな し」 「プラーヴォ ! 」とイヴァンは有頂天になったような声でど や、ど、フも なった。「おまえがそう言う以上、つまり : イヴァンは、ちょっと口をつぐんだが、その顔は急に沈ん いんとん たいへんな隠遁者だ ! そらね、おまえの胸の中にも、そんできた。 「い、、、、ばくは問題をはっきりするために子供ばかりを な悪魔の卵がひそんでるじゃないか、え、アリヨーシカ・カ ラマーゾフ君 ! 」 例にとった。この地球を表皮から核心までひたしている一般 人間の涙については、もうひと言も言わないことにする。ば 「ばくはばかなことを一一一口いました、しかし : ・・ : 」