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検索対象: ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)
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1. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

に相違ないんだもの。それよりか、どうしてきみらがあの子 がらミハイロフ通りのほうをさして、坂の上へ駟け登った。 こっちの群れは、『ゃあい、こわくなって逃げ出しやがった。 をそんなに憎むのか、あの子に直接きいてみるよ : 「きいてごらん、きいてごらん ! 」と子供らはまた笑いだし ゃあい、ヘちま野郎 ! 』とはやし立てた。 「あいつがどんなにひきようなやっか、きみはまだ知らない んだろう、あいつは殺したってたりないんだ」と短い上着を アリヨーシャは小橋を渡って、かきねに沿うた坂道をのば 着た少年が目を光らしながら言った。見たところ、仲間で一り、のけ者にされた子供のほうへまっすぐに進んで行った。 ばん年上らしい 「気をおつけよ」と子供らはうしろから注意した。「あいっ 「あれがいったいどんな子だって ? 」とアリヨーシャはたずはきみだって恐れやしないから、いきなりナイフを出して、 ねた。「告げロやだとでも言うの ? 」 ふい打ちにきみを突くかもしれないよ、あのグラソートキン のときみたいに : 子供はばかにしたように顔を見合わした。 少年はじっとその場を動かないで、彼を待ちもうけてい 「きみもやつばりあっちい行くんだろう、ミハイロフ通りへ ね ? 」と前の少年が言葉をついだ。「そしたら、すぐあいつをた。そばによってみて、アリヨーシャは自分の前に立ってい 追っかけてきいてごらん : : : ほら、ちょっと、あいつまたじる少年が、まだ九つを越さない、せいの低いよわよわしい っと立って待ってるから。きみのほうをじろじろ見てらあ」やせてあお白い細長い顔をした子供なのを見てとった。大き 「きみのほうを見てらあ、きみのほうを見てらあ ! 」と子供な黒い目は、にくにくしそうに彼を見すえている。子供はか らはくりかえした。 らだに合わぬ不かっこうな、ずいぶん時代のついた外套を着 「あのね、一つあいつにこうきいてごらん、おまえはばろばていた。あらわな手を両袖からにゆうと突き出して、ズボン ろになったふろ場のヘちまが好きかって。 ししかい、そう言の右のひざには大きなつぎが当たっている。右のほうのくっ ってきくんだよ」 は、親指にあたるつま先に大きな穴があいて、その上からや たらにインキを塗ったあとが見える。ふくれあがった両方の 一同はどっと笑った。アリヨーシャは子供らを、子供らは ポケ ットこは、石ころがいつばいつまっていた。アリヨーシ アリヨーシャを、じっと見つめるのであった。 「行くのをおよしなさい、ぶんなぐられるから」とスムーロ ヤは彼から二歩ばかり前に立って、もの間いたげにその顔を フが大きな声で警戒した。 見まもった。少年はアリヨーシャの目つきから推して、彼が 「いや、ばくはそんなへちまのことなんかききやしないよ。 自分をぶつ考えを持ってないことを知ったので、自分のほう だってきみらはこのヘちまでもって、あの子をからかってるでも力を抜いてさきに口をきった。 第 ) 0 206

2. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

人のいい手合いはまた一ばんの酒飲みなのでございます。こた一つ寂しそうに立っていましよう。あそこから町の牧場に なるのでございますが、閑静ないいところでございます。 うしてわたくしは寝ていましたので、イリューシャのことは その日よく覚えていませんでしたが、ちょうどその日の朝かつものとおり、わたくしはイリ = ーシャの手を取って歩いて ら子供たちが学校で、あれをからかいだしたのでございますおりました。あれの手は、まことに小さな手で、指なぞ細く あれは、胸の病いにかかってお って印と , っ′」ざいます。 よ。『や、、 へちま野郎、おまえのおやじはヘちまに手をか りますので。ところが、ふいとあの子が、『おとつつあん、 けられて、料理屋から引っ張り出されたじゃないか。そうし て、おまえはそのそばを走りまわって、ごめんなさいって言おとつつあん』と言いだします。『なんだい ? 』と言いなが っこじゃよ、 オしか』と申しましてね。三日目の日にあれが学校ら見ると、あれの目がぎらぎら光っております。『おとつつ から帰ってまいりましたが、まっさおになってしまって、そああん、あのときねえ、おとつつあん ! 』「しかたがないよ、 ィリューシャ』『あいっと仲直りしちゃいけないよ、おとっ の顔色ったらございません。いったいどうしたのだ、ときい おと つあん、だって、学校でみながそういうんだもの、 ても黙っております。それに、わたくしの館では、何ひとっ つつあんが仲直りのためにあいっから十ループリもらったな 言ができやしません、すぐに「お母さん』やお嬢さんたちが 口を出しますのでね。そのうえ、お嬢さんたちはもう事の起んて』「うそだよ、イリュ ] シャ、もうこうなったら、どん こった当日に、すっかり聞きつけてしまったのでございます。なことがあっても、あいっから金なんかもらやしないから』 いったすると、あの子はぶるぶるっと身ぶるいして、いきなり両手 ヴァルヴァーラのほうなぞはもう、「道匕、ビエロ いお父さんのすることに何かわけのわかったところがあるかでわたくしの手をつかまえて接吻しながら、『おとつつあん、 しら』などと言うようになりました。「なるほど、そのとおあいつに決闘を申し込んでちょうだい。だって、学校でみん ながね、おとつつあんはおくびよう者だから決闘を申し込め りだ、ヴァルヴァーラさん、わしのすることにわけのわかっ ないんだ。そうして、あいっから十ル 1 プリもらったんだ、 たところなんかあるはずがないよ』と言って、そのときはご まかしてしまいましたが、その日の夕方、わたくしは子供をなんてばくをからかうんだもの』『イリューシャ、あいつに 連れて散歩に出かけました。ちょっとお断わりしておきます決闘を申し込むわけにいかないんだよ』と答えて、わたくし はたった今あなたにお話したことを、かいつまんで聞かして が、わたくしはそれまで毎晩あの子を連れて、今あなたとこ うして歩いているのと同じ道を散歩につれ出しておりましやりました。あの子はじっと聞いておりましたが、『おとっ た。家の木一尸口から、あのめつばう大きな石のあるところまつあん、それでもやつばり仲直りをしちゃいけないよ。ばく が大きくなったら決闘を申し込んで、あいつを殺してやるか ででございます。それ、この通りの編みがきのそばに、たっ

3. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

しかし、アリヨーシャは長くこんなことを考えているわけのもあった。どぶ川の向こうには、こっちの群れからほば三 4 し。いかなかった。途中思いがけない出来事が、彼の身の上十歩ばかり隔てたかきねのそばに、もうひとり子供が立って に起こったのである。それはちょっと見たところたいしたこ いた。やはりかばんを肩にかけた小学生で、せいかっこうか とではないけれども、彼に強烈な印象を与えた。小さなどぶら見るとまだ十は越すまい いや、あるいはそれより下かも ーを隔てて ( この町は至るところどぶ川が縦横に貫通してい しれぬと思われるはどであった。青白い病的な顔をして、黒 るので ) 、ポリショイ通りと並行しているミハイロフ通りへ い目をぎらぎら光らしている。彼は注意ぶかく探りまわすよ 出ようと思って、広場を通り抜けて横町へ曲がったとき、小 うに、六人の子供の群れをながめていた。彼らはみんな友だ さな橋の手前でひとかたまりになっている小学生が目にはい ち同士で、たった今いっしょに学校を出たばかりであるが、 ったのである。それはみんな年のゆかぬ子供ばかりで、九つ平生からあまり仲のよくないのはひと目見ても明らかであっ から十二くらいまで、それより上のものはなかった。あるも た。アリヨーシャは白っぱい髪のうずを巻いた・Ⅷ色のいし のは背にランドセルを負い、あるものは皮のかばんを肩にか とりの子供に近づいて、黒い短い上着を着た姿を見まわしな け、あるものは短い上着を着、あるものは外套を羽織り、ま がら話しかけた。 たあるものは、よく親に甘やかされた金持ちの子供がことに 「ばくがきみらと同じようなかばんをかけてた時分、みんな 好んで誇りとする、胴にひだの入った長ぐっをはいて、めい 左の肩にかけて歩いたものだよ。それは右の手ですぐに本が めい学校から帰って行くところであった。この一群は、元気出せるからさ。ところが、きみは右の肩にかけてるが、それ しい調子でがやがや話し合っている。何かの相談らしい で出しにくくないの ? 」 アリヨーシャはどんなときでも、子供のそばを平気で通り過アリヨーシャは、。 へつにまえまえから用意した技巧をろう ぎることができなかった。モスクワでもそうであった。もっするでもなく、いきなりこうした実際的な注意をもって会話 とも、彼は三つくらいの子供が一ばんすきだったが、十か十を始めた。まったくおとながいきなり子供の、とくに大ぜい 一くらいの小学生も大好きなのである。 の子供の信川をうるためには、これよりはかに話の始め方は で、今もいろいろ心配があったにもかかわらす、急に子供ないのである。まじめで実際的な話を始めること、そしてぜ らのほうへ曲がって行って、話の仲間へはいりたくなった。 んぜん対等の態度をとること、これが何よりかんじんなので ちかぢかとそばへ寄って、彼らのばら色をした元気のいい顔ある。アリヨーシャにはこれが本能でわかっていた。 をながめているうちに、ふと気がついてみると、子供らはて「だって、こいつは左ききなんだもの」活発でじようぶらし んでに石を一つすっ持っている。なかには二つ持っているもい十一ばかりの別な男の子が、すぐにこう答えた。

4. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

はヨーリッグなのだ、しゃれこうべはもっとあとのことだ」 プルの上から盗み出したことがある。そろっと取って、ての ベルホーチンは黙って聞いていた。ミーチャもちょっと言ひらに握りしめたのさ」 葉を休めた。 「ふふん、それで ? 」 「そこにいるきみんとこの大はなんという犬だね ? 」とミー 「いや、べつにどうもしないさ、三日の間しまっておいた チャは、すみのほうにいる目の黒い、小さなかわいいちんに が、とうとうはずかしくなってね、白状して渡してしまっ 目をつけて、だしぬけにとばけたような調子で番頭にたずねた」 「ふふん、それで ? 」 「これはヴァルヴァーラさまの、うちのおかみさんのちんで「あたりまえさ、ぶたれたよ。ところで、きみはどうだね、 ございます」と番頭は答えた。「さっきこちらへ抱いていら きみ自身も盗んだことがある ? 」 しって、そのまま忘れてお帰りになったのでございます。お「ある」ミーチャはずるそうに目をばちりとさした。 届けしなければなりますまい」 「何を盗んだの ? 」とベルホーチンは好奇心を起こした。 「はくはちょうどこれと同じようなのを見たことがある : 「母の金を二十コペイカ、九つのときだった、三日たって渡 隊でね」とミーチャはもの案じ顔にこう言った。「こ。こ、 してしまった」 そいつはあと足を一本折られてたつけ : ・ : ときにベルホーチ そう言って、ミーチャはとっぜん席を立った。 ン君、ほくはちょっとついでにききたいことがあるんだよ。 「だんなさま、もうそろそろお急ぎになりませんか ? 」ふい きみは今までなにか盗みをしたことがあるかい ? 」 にアンドレイが店の戸口からこう叫んだ。 「なんて質問だろう ! 」 「できたか ? 出かけよう ! 」とミーチャはあわてだした。 「いや、ちょっときいてみただけなんだ。しかし、だれかの「もう一つおしまいに言っとくことがある : : : アンドレイに ポケットから人のものを取ったことがあるかときくので、官ウォートカを一杯駄賃にやってくれ、今すぐだぞ ! それか 金のことを言ってるんじゃないよ。官金ならだれでもくすねらウォートカのほかに、コニャックも一杯ついでやれ ! こ 弟てるから、きみだってむろんその仲間だろう : : : 」 の箱 ( それはピストルのはいった箱であった ) をおれの腰掛 の「好き勝手なことを言いたまえ」 けの下へ入れてくれ。さようなら、ベルホーチン君、悪く思 - ゾ「ばくが言ってるのは人のもののことだよ。ほんとうにポケわないでくれたまえ ! 」 マ ットか紙入れの中から : ・・ : え ? 」 「だけど、あすは帰るんだろう ? 」 力「ばくは一度、九つのときに、母の金を二十コペイカ、テー 「きっと「帰る一 48 /

5. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

やすいものではない。 このような泣き語りの愚痴は自分の心ん。どうもお聖人さま、育たないのでござります。上を三人 亡うしたときは、それほどかわいそうとも思わなんだのでご っそ、つかきむしることによって、よ , つやく をさらに毒し、 いしゃ 悲しみをまぎらすばかりである。こうした悲しみは、慰藉をざりますが、こんど末っ子をなくしたときばかりは、どうも えじき 忘れることができません。まるでこう目の前に立って退かな 望まないで、救いがたい絶望の情を餌食にするものである。 愚痴はただひっきりなしに傷口を突っついていたいという要いのでござります。もうすっかりわたくしの胸ん中を干乾し にしてしまいました。あの子の小さなシャツを見ても、着男 求にすぎない。 「おおかた町のお人に違いなかろうな ? 」好奇の目で女を見を見ても、くつを見ても、おいおい泣くのでござります。あ の子のあとに残ったものを一つ一つ広げてみては、おいおい つめながら、長老は語をついだ。 わたくしの 「町の者でござります、長老さま、町の者でござります、も泣くのでござります。それでニキートカに、 とは百姓の生まれでござりましたが、今は町の者でござりまつれあいに、「お願いだから巡礼に出しておくれ』と申しま す。町で暮らしておりまする。おまえさまをひと目見とうてした。つれあいは馬車屋でござりますが、さして暮らしには まいりました。おうわさを聞いたのでござります。幼い男の困りませぬ。お聖人さま、さして暮らしには困りませぬ。自 子の葬いをして巡礼に出ましたが、三ところのお寺へおまい分で馬車を追いまして、馬も車もみんな自分のものでござり まする。けれども、今となってこのような身上もなんの役に りしたら、わたくしに教えて申されますに、「ナスターシャ、 こうこういうところへ行ってみい』っまりおまえさまのこと立ちましよう ! わたくしがいなくなったら、あの人は、う でござります、お聖人さま、おまえさまのことでござりまちのニキートカは、大酒でもくらっているに違いありませ す。この町へまいってから、きのうは宿屋に泊まりましたん。それは確かな話でござります。以前もそうでござりまし た。わたくしがちょっと目を放すと、すぐもう気をゆるめる が、きよ、つはこ , っしておまえさまのところへまいりました」 のでござります。でも、今はあの人のことなぞちっとも思い 「何を泣いておるのじゃな ? 」 「むすこがかわいそうなのでござります、お聖人さま、三つはいたしません。もう家を出て三月になりますが、わたくし はすっかり忘れてしまいました。何もかも忘れてしもうて、 になる男の子でござりました。三つにたった三月たりないだ けでござりました。むすこのことを思うて、むすこのことを思い出すのもいやでござります。それに、今あの人といっし ょになったところでなんとしましよう。わたくしはもうあの 思うて苦しんでおるのでござります。それもたったひとり残 人と縁を切ってしまいました。だれともすつばり縁を切って った子でござりました。はじめニキートカとの中に、子供が とうもわたくしどもでは子供が育ちませしまいました。自分の家や道具なんぞ見とうござりませぬ、 四人ありましたが、、、

6. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

るものがおるから、まだしもけ 0 こうなんだ。ロシャの土地ド侯爵 ( 一七四〇ー一一四年「フラ , スの文学者、加虐的 ) そこのけじ は、白かばのおかげで保ってるんだから、もし林を伐り倒しゃよ、、 オしカ ? どうだい、機知にあふれてるな。一つみんなで たら、ロシャの土地もくずれてしまうのだ。わしは利ロな人出かけて見物したらどうだな、うん ? アリヨーシャ、おま の味方をするなあ。われわれはあんまり利ロすぎて、百姓をえあかい顔をするのか、いしオ 、子、、こ、何も恥ずかしがることは なぐることをやめたけれど、百姓らは相変わらず、自分で自ないよ。さっき僧院長の食事の席にすわって、坊さんたちに 分をぶっておる。よくしたものさ。人をのろわば穴二つ モーグロエ村の娘の話をして聞かせなかったのが残念だよ。 いや、なんと言うたらよいかな : : : つまり、その、穴二つアリヨーシカ、わしはさっきおまえんとこの僧院長にうんと 。こ。じっさ ロシャは豚小屋だよ。おまえは知るまいが 悪態をついたが、まあ腹を立てんでくれ。わしはどうもつい わしはロシャが憎うてたまらんのだ : いや、ロシャじゃなむらむらっとなっていかんよ。もし神さまがあるものなら、 、その悪行を憎むのだ。しかし、あるいは、ロシャそのも存在するものなら、そのときはもちろんわしが悪いのだから のかもしれんな。 Tout cela c イ de la cochonnerie. ( それはみして、なんでも責任を引き受けるがな、もし神さまがまるつ んな腐敗から出るのだ ) いったいわしの好きなのは何か知っときりないとしたら、あんな連中をまだまだあれくらいのこと るか ? わしは機知にあふれているのが好きなのさ」 ですましておけるものじゃない、おまえんとこの坊主どもを 「また一杯、よけいに飲んでしまいましたね。もうたくさんさ。そのときは、あいつらの首をはねるくらいじやたりやせ ですよ」 んよ。なぜというて、あいつらは進歩を妨げるんだからな 「まあ待て、わしはもう一杯と、それからまたもう一杯飲んあ。イヴァン、おまえは信じてくれるかい、 この考えがわし で、それで切り上げるんだ。どうもいかん、おまえが途中での心を悩ましとるんだ。だめだめ、おまえは信じてくれん。 口を出すもんだから。わしは一度よそへ行く途中モーグロエその目つきでちゃんとわかるわ、おまえは世間のやつらの一「ロ . 村を通ったとき、ひとりの爺さんにものをたずねたことがあうことを信じて、わしをただの道化だと思うとるんだ。アリ ヨーシカ、おまえもわしをただの道化だと思うかい ? 」 る。すると、爺さんの答えるには、「わしらあ、だんな、言 いつけで娘っ子をひつばたくのが何よりいっちおもしれえ しいえ、ただの道化だとは思いません」 だ。そのひつばたく役目は、いつでも若えもんにやらせます「ほんとうだろう、おまえがしんからそう思うとるというこ だ。ところが、きようひつばたいた娘っ子を、もうその明け とは、わしも信じるそ。誠実な目つきをして、誠実なものの あま の日、若えもんが嫁にもらう。だもんで、娘っ子らもそれを言い方をしとる。ところが、イヴァンは違う。イヴァンは高 あたりめえのように田 5 うとりますだあ」ときた。まったくサ曼、、こ : : しかしとにかく、おまえの寺とはすっかり縁を切っ あま あま

7. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

をついだ。 く小さな鼻も、その下に見える色上げをした思いきって細い 9 「おい、もう一本、もう一本 ! 」とミーチャは亭主に叫んびんととがった高慢そうなひげも、やはり今のところ、ミー だ。そして、さっきあれほどものものしい調子で近づきの乾チャの心になんの疑問をも呼び起こさなかった。ばかばかし いかっこうに髪を前のほうへ盛り上げた、思いきってやくざ 杯をしようと言っておいた紳士と、杯を合わすのも忘れてし まい、ほかの人を待とうともしないで、そのままひとりで、 なシベリヤ製の紳士のかつらも、さしてミーチャを驚かさな かった。『かつらをかぶってるところを見ると、やはりああ ぐっと飲みほした。すると、とっぜん彼の顔つきがすっかり 変わってしまった。はいって来たときのおもおもしい悲劇的しなくちゃならないのだろう』とミーチャは幸福な心持ちで な表情が消えて、妙に子供らしい幼さが現われた。彼は急に考えつづけた。 いまひとりの、壁ぎわ近くすわっている紳士は、長いすに すっかり気がくじけて、卑下しきったようなぐあいであっ ふそん た。悪いことをした小犬がまた内へ入れられて、かわいがっすわっている紳士よりずっと年が若かったが、不遜な挑戦的 な態度で一座を見まわしながら、無言の軽蔑をもって一同の てもらったときのような感謝の表情をうかべて、ひっきりな 会話を聞いていた。この男も同様にミーチャを感服さした しに神経質な小刻みの笑い声をたてながら、おくびような、 が、それよ長、 ししすにすわっている紳士とつりあいのとれない しかもうれしそうな様子で一同をながめていた。彼は何もか も忘れたようなふうで子供らしい笑みをふくみ、歓喜の色をくらい、やたらに図抜けてせいが高いという点ばかりであっ 一ヴェルショークは四・ た。『あれで立ったら十一ヴェルショ うかべて一同を見まわすのであった。 四五センチ。ここでは上 グルーシェンカを見るときの目はいつも笑っていた。彼は の単位のアルシンが略されているので、二アルシン十 ) からあるだろ、フな 自分のいすをびたりと彼女のひじいすのそばへ寄せてしまつあ』という考えがミーチャの頭をかすめた。それから、こんな このせいの高い紳士は、長いすにす た。だんだんとふたりの紳士も見分けがついてきた。もっと考えもひらめいた、 も、その値うちのほどはまだあまりはっきり頭にははいらなわっている紳士の親友でもあれば、護衛者でもあるので、し かった。長いすにすわっている紳士がミーチャを感服さした たがってパイプをくわえた小柄な紳士は、このせいの高い紳 のは、そのもったいぶった様子とポーランド風のアグセント 士をあごで動かしてるに相違ない。しかし、これらの事柄も と、それからとくにパイプであった。『いったいどういうわ ミーチャの目には、争う余地のないとてもりつばなことのよ けだろう ? いや、しかし、あの人がパイプをくわえてると うに映じた。小犬の胸ではいっさいの競争心が萎縮してしま ころはなかなかりつばだ』とミーチャは考えた。いくらか皮ったのである。グルーシェンカの態度にも、彼女が発した 膚のたるんだ、もう四十がらみに見える紳士の顔も、恐ろし二、三の言葉のなそめいた調子にも、彼はまだいっこう気が

8. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

じっさいはどうであったろう。おまえは人間の自由を支配すぶようになる。なぜならば、おまえがあのようにたくさんのの るどころか、かえっていっそう自由を増してやったではない 心配と解決のできない問題を与えたために、人間は惑乱と苦 か ! それとも、おまえは人間にとって平安のほうが、いや痛の中にとり残されたからだ。じっさい、あれ以上残酷なこ ときとしては死でさえも、善悪の認識界における自由の選択とは、とてもできるものじゃない。 より、はるかに貴重なものであることを忘れたのか ? それ こうしておまえは、自分で自分の王国の崩壊に基礎をおい は、むろん、人間としては良心の自由はど魅惑的なものはな たのだから、だれも他人をとがめてはならぬそ。とはいえ、 いけれど、またこれほど苦しいものはないのだ。ところがおおまえが勧められたのは、はたしてこんなことであったろう まえは、人間の良心を永久に慰める確固たる根拠を与えない か ? ここに三つの力がある。つまり、これらのいくじない で、ありとあらゆる異常な、なそのような、しかも取りとめの暴徒の良心を、彼らの幸福のため永久に征服し、とりこにす ない人間の力にそぐわないものを取って与えた。それゆえ、 ることのできる力は、この地上にたった三つしかないのだ。 おまえの行為は、少しも人間を愛さないでしたのと同じ結果この力というのは、ーー奇跡と神秘と教権である。おまえは になってしまった、 しかも、それはだれかというと、人第一も第二も第三も否定して、みずから先例を作った。かの さか みや 類のために自分の命を投げ出した人なのだ ! おまえは人間恐ろしく賢しい悪魘がおまえを殿の頂に立たせて、おまえに の良心を支配する代わりに、 かえってその良心を増し、そのこう言った。「もし自分が神の子かどうかを知りたいなら、 苦しみによって、永久に人間の心の国に重荷を負わしたでは一つ下へ飛んでみろ。なぜなら、下へ落ちて身をこなごなに とり - 一 ないか。おまえは自分でそそのかし擒にした人間が、自由意砕かないよう、途中で天使が受け止めてはこんでくれるとい 志でおまえに従って来るように、人間の自由な愛を望んだ。 うことが本に書いてあるから、そのときおまえは自分が神の 確固たる古代のおきてに引き換えて、人間はこれからさきお子かどうかを知ることができるし、天なる父にたいするおま のれの自由な心をもって、何が善であり何が悪であるか、自えの信仰のほども知れるわけだ」しかし、おまえはそれを聞 分自身できめなければならなくなった。しかも、その指導者いてそのすすめをしりぞけ、術におちいって下へ身を投げる といっては、おまえの姿が彼らの前にあるきりなのだ。しか ようなことをしなかった、それはもちろん、おまえは神とし し、おまえはこんなことを考えはしなかったか、もし選択のての誇りを保って、りつばにふるまったに相違ない。 自由というような、恐ろしい重荷が人間を圧迫するならば、 し、人間は、 あの弱い暴徒の種族は、決して神でないか 彼らはついにおまえの姿も、おまえの真理もしりそけてそし らな。おお、もちろん、あのときおまえがたったひと足でも るようになる。そして、「真理はキリストの中にない』と叫前へ出て、下へ身を投げる構えだけでもしたなら、ただちに

9. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

酒屋に向いて十字を切って、お寺へは石を投げつけるってや つだ。きみの長老殿もそのとおりで、正直なものは棒で追い 「知らないよ、ミーシャ、なんのことだかねえ」 たくりながら、人殺しの足もとにはおじぎをする : : : 」 「じゃ、長老はきみに話して聞かせなかったんだね。そうだ 「どんな犯罪なの ? 人殺しってだれのことなの ? ろうと思ったよ。もちろん、何もふしぎなことはないさ。い い、なにをいってるんだい ? 」アリヨーシャは釘づけにされ つもおきまりのありがたいナンセンスにすぎないらしい かし、あの手品はわざとこしらえたものなんだよ。今に見たたように突っ立った。ラキーチンも立ちどまった。 まえ、町じゅうのありがたや連が騒ぎだして、県下一円に持「誰のことだって ? 妙に白を切るね ! ばくは賭けでもす ちまわるから。『いったいあの夢のような出来事はなんのこるよ、きみはもうこのことを考えてたに相違ない。 とだろう ? 』ってんでね。ばくの考えでは、おじいさんほんこいつはちょっとおもしろい間題だ。ねえ、アリ うちまた′一うやく きみはいつも内股膏薬だけれど、とにかくほんとうのことを とうにものをみぬく目があるよ。犯罪めいたものをかぎ出し いったいきみは 言うんだから、一つきこうじゃないカ たんだね。まったくきみの家庭は少々くさいぜ」 このことを考えてたのかい、それとも考えていなかったの 「いったいどんな犯罪を ? 」 ラキーチンは、何やら言いたいことがあるらしいふうであか、どうなんだ ? 」 ヨーシャが低い声で答えたので、当のラ 「考えてたよ」アリ 「きみの家庭で起こるよ、その犯罪がさ。それはきみのふたキーチンさえ少々面くらった。 「なんだって ? ほんとうにきみがもう考えてたとはねえ ? 」 りの兄さんと、金満家のおやじさんとの間に起こるんだよ。 それで、ゾシマ長老も万一をおもんばかって、ひたいでこっと彼は叫んだ。 「ばく : : ばくはべつに考えてたってわけじゃないけれど んをやったのさ。あとで何か起こったときに、「ああ、なる ほど、あのお聖人さまが予言したとおりだ』と言わせるためも」とアリヨーシャはロごもった。「いまきみがあんな妙な ことを言いだしたので、ばく自身もそんなことを考えていた なんだ。もっとも、あのおじいさんがひたいでこつんとやっ 弟たのは、予言でもなんでもありやしないよ。ところが、世間ような気がしたのさ」 「はらね ? ほらね ? ( いや、まったくきみは言いまわしか ののやつらは、、やあれはシンポルだ、いやアレゴリイでござ ゾるのと、いろんなくだらないことを言っておおげさにほめちたが上手だよ ) 。きようおやじさんと兄さんのミーチャを見 マぎるのさー 犯罪を未然に察したとか、犯人をかぎ出したとてるうちに、犯罪ということを考えたんだろう ? してみる ジヴィ と、ばくの推察に狂いはないな ? 」 カかってね。神がかりの行者なんてものはみんなそうなんだ。

10. ドストエーフスキイ全集12 カラマーゾフの兄弟(上)

っしやるじゃありませんか ! 」とイヴァンが叫んだ。 「それがこんなやつには相当してらあ ! 」せいせい息を切ら 「しかし、こっちの口からはいったかもしれん」 しながらドミー トリイは叫んだ。「もし死ななかったら、ま 「こっちのロはしまっていますよ、現にあなたがかぎを持っ た殺しに来てやる。手だしをするな ! 」 てらっしやるくせに : 「兄さん ! 今すぐここを出てってください ! 」とアリョ ドミートリイはとっぜん、ふたたび広間に現われた。もちシャは威厳をおびた声で叫んだ。 ろん、彼は裏のほうの入り口がしまっているのを見いだし 「アリヨーシャ ! おまえどうか教えてくれ、おまえひとり た。そして、じっさい、かぎはフヨードルのポケ、 だけを信用するから。今あの女がここへ来たか来なかった っているのであった。部屋部屋の窓もやはりすっかりしめ切か ? 今あの女が横町から出て編みがきのそばを通り抜け ってある。つまり、どこからもグルーシ = ンカがはいって来て、この家のほうへすべりこんだのを、おれが自分でちゃんと るはずもなければ、どこからも逃げ出すはずはなかった。 見たんだ。おれが声をかけたら、逃げ出しちゃったんだ : 「あいつをつかまえろ ! 」ふたたびドミートリイの姿を見る 「誓って言いますよ。あのひとはここへ来やしません。それ が早いか、フヨードルは金切り声を立て始めた。「あいつは に、だれひとりあのひとが来ようなどとは思っていなかった わしの寝室で金を盗んだ ! 」 のです ! 」 と言うなり、イヴァンの手をもぎ放して、彼はまたしても 「でも、おれはあの女をちゃんと見たんだがなあ : : : してみ ドミートリイに飛びかかった。こちらは両手を振り上げるると、あれは : : よし、すぐにあれがどこにいるか探り出し いきなり老人の鬢に残っているまばらな毛をひつつかんてやる : : : あばよ、アリヨーシャー も、つこ、つなったら、こ ごうぜん ゆか で、轟然たる物音とともに床へ引き倒した。そして、倒れてのイソップじじいに金のことなんかひと言も言っちゃならん いる父親の顔をなおも二つ三つ、 くつのかかとですばやくけそ。しかし、カチェリーナ・イヴァーノヴナのところへは、 きめ 飛ばしたのである。老人は帛を裂くような声で悲鳴を上げ これからすぐに行って、ぜひとも「よろしく申しました』と た。イヴァンは兄ほど腕力はないけれど、両手で彼をかかえ言ってくれー ししか、よろしくよろしくと一言うんだそー こんでむりやりに父親からもぎ放した。アリヨーシャもおばそして、このてんまつをくわしくあのひとに話してくれ」 つかない力をふりしばって、前から兄に抱きっきながら、同 その間に、イヴァンとグリゴーリイは老人を助け起こし じように加勢をするのであった。 て、ひじかけいすへすわらした。その顔は血みどろになって 「気がちがったんですか、殺してしまうじゃありません したが、」凩分はしつかりしたもので、むさばるよ、フにドミー か ! 」とイヴァンはどなった。 トリイの叫び声に耳を傾けていた。彼はほんとうにグルーシ びん