いになるんですけれど。あなた、どこでそんな仕立て屋をお がリーザの部屋へ知らせに行っている間に、ホフラコーヴァ 夫人はもうだれからか、アリヨーシャの来たことを知って、見つけなすって ? でも、これはたいせつなことじゃありま 「はんの一分間でいいから』自分のほうへ来てくれるようにせん、あとにしましよう。どうかね、わたしがときどきあな たをアリヨーシャと呼ぶのを、許してくださいね。わたしは と頼んだ。アリヨーシャはまず母親の願いをいれたはうがよ かろうと思った。彼がリーザのそばにいる間じゅう、夫人はもうお婆さんですから、何を言ってもかまいませんわね」と 絶えず使いをよこすに相違ないからである。ホフラコーヴァ彼女は色つばくほはえんだ。「けれど、これもやつばりあと にしましよう。わたしにとって一ばん大事なのは、大事な 夫人は、とくにけばけばしい着物を着て、寝いすに横になっ ていたが、非常に神経をたかぶらせているらしかった。彼女ことを忘れないようにすることなんですの。どうそ、わたし が少しでもよけいなことをしゃべりだしたら、あなたのほう は歓喜の叫びをあげて、アリヨーシャを迎えた。 「まあ、長いこと長いこと、ほんとうに長いこと会いませんから催促してください。『その大事なことというのは ? 』と でしたわね ! まる一週間も、ほんとうになんという : : : あきいてくださいな。ああ、いま何が大事なことやら、どうし 丿ーザがあなたとの約東を ら、そうじゃない、あなたはたった四日前、水曜日にいらってわたしにわかるものですかー しゃいましたつけねえ。あなたはリーザをたすねていらした破ってからというものはね、アレグセイさん、あなたのとこ んでしよう。あなたったら、わたしに知られないように、ぬへお嫁に行くという、あの子供らしい約東を破ってからとい うものは、ーーー何もかもみんな、長いあいだ車いすにすわっ き足さし足であれのとこへ行こうと思ってらしたんでしょ う。きっとそうに違いありませんわ。ねえ、かわいいアレクていた病身な娘の、子供らしい空想の戯れであったというこ セイさん、あれがどのくらいわたしに心配をかけてるか、あとが、むろん、あなたもよくおわかりになったでしようね、 おかげで、あれも今ではもう歩けるようになりました。 なたはごぞんじないでしよう。だけど、これはあとで言いま しよう。これは一ばんたいせつな話なんですけど、あとにしカーチャがあの不幸なお兄さんのために、モスグワから呼ん ・ : まあ、なん ますわ。かわいいアレグセイさん、わたしうちのリーザのこだ新しいお医者さまがね : : : ああ、あしたは : だってあしたのことなんか ! わたしあしたのことを考えた とを、すっかりあなたにうちあけます。ゾシマ長老がなくな られてからは、ーーー神さま、どうそあのかたの魂をおしずめだけでも、気が遠くなりますよ ! 何よりも一ばん好奇心の ためなんですの : : : 手短かに言えば、あのお医者さまがきの くださいまし ! ( 彼女は十字を切った ) ーー・あのかたがな 丿ーザを診察したんですの : : : わ うわたしのところへ来て、 くなられてからというものは、わたしあなたを聖者のように たし往診料に五十ループリ払いましたわ。ですが、これも見 思っていますのよ、新しいフロックがほんとうによくお似合
にしなけりゃなりませんとも。でも、やつばりあの人のはうそばに居合わせた人をうち殺したんですって。でも、あとで田 カ > いと思うわ。なぜって、もしそうだとすれば、あなたも悲その人はゆるされたそうです。わたし近ごろこの話を読んだ しまなくっていいからですわ。だって、あの人は意識を失っ のですが、お医者さんたちもみんな証明していました。今お て、 じゃない、意識はあっても自分が何をしているかわ医者さんはだれでもそう言ってますわ、だれでもみんなそう きまえずに殺した、と言えるからですよ。きっと、きっとあ言ってますわ。困ったことには、うちのリーザもやはり affe- の人はゆるされますよ。そのほうが人道的というものですか ct にかかってるんですの。わたしはきのうもあれのために泣 らね。そして、みんなに新裁判の恩恵を知らせてやったほう かされましたよ、おとといも泣かされましたわ。ところがき がよござんすよ。わたしは少しも知らなかったんですけれようになって、あれはつまり、 affec 〔にかかっているのだっ ど、なんでも人の話では、それはもうとっくの昔からそうなてことに思いあたったんですの。ああ、ほんとにリーザには んだそうですね。わたし、きのうそのことを聞いたとき、も、い配させられますよ ! あの子はすっかり気がちがってるん うほんとうにびつくりしちゃって、すぐにあなたのとこへ使だと思いますわ。なぜあれはあなたをお呼びしたんでしょ いを出そうと思ったはどでしたよ。それからね、もしあの人う ? あれがあなたを呼んだのですか、それとも、あなたの ばんさんかい がゆるされたら、わたしあの人を法廷からすぐに宅の晩餐会ほうからあれのところへいらしたんでしようか ? 」 へお招きしますわ。知り合いの人たちを呼んで、みんなで新「あの人が呼んだのです。わたしはもうあちらへ行きましょ しい裁判のために乾杯しようと思うんですの。わたしあの人う」とアリヨーシャは思いきって立ちあがった。 を危険だなんて思いません。それに、うんと大ぜいお客を呼「あら、ちょいとアリヨーシャ、それが一ばんたいせつなと びますから、あの人が何かしでかしても、すぐいつでも引きずころかもしれませんわ」ふいにわっと声をあげて泣きだしな り出すことができますわ。あの人はそのあとで、どこかほか がら、夫人はこう叫んだ。「誓って申しますが、わたしは、い ーザをおまかせします。あれがわ の町の治安判事になるといいですね。だって、自分で不幸をからあなたを信用して、 忍んだものは、だれよりもよく人をさばきますからね。ですたしに隠してあなたをお呼びしても、そんなことをなんとも ードロヴ が、いったい今の世に、 affect にかかっていない人があるで思やしません。けれど、お兄さんのイヴァン・フョ しようか。あなたでもわたしでもみんなかかっているんですイチには、そうたやすく自分の娘をまかせることができませ わ。こんな例はいくらでもありますよ。ある人はすわって口んの。もっとも、わたしは今でもやはりあの人を、りつばな マンス ( 小唄 ) を歌っているうちに、とっぜん何か気に入らな男気のある青年と思っていますけれどね。まあ、どうでしょ いことがあったので、いきなりピストルを取って、ちょうどう、あの人はわたしの知らない間に、とっぜんリーザにあい
きき出せないんですの。それに、あのひとは近ごろ、わたしふうに殺すまいと思っていながら、つい殺してしまったとい う点で、あの人はゆるされるんですわね」 にたいへんよそよそしくなって、ただわたしの容態を聞くだ 「でも、兄さんは殺しやしなかったじゃありませんか」とア けで、ほかのことはなんにも話さないんですもの。おまけ リヨーシャはやや鋭い口調でさえぎった。彼はしだいに不安 に、その話の調子があまり他人行儀だから、わたしはどうで もいい、勝手になさいと思ったほどですの : : : ああ、そうそと焦燥のつのってゆくのを感じた。 、つ、そのときこの a 2 の話が出たんですの。ねえ、お医者「それはわたしも知ってます。殺したのはあのグリゴー丿イ じいさんですよ : きまが来たんですよ。気ちがいの鑑定ができるお医者さま。 あなたお医者が米たことを知ってらしって ? もっとも、あ「え、グリゴーリイが ? 」とアリヨーシャは叫んだ。 なたが知らないはずはないわね。あなたがお呼びになったん「あれです、あれです、グリゴーリイですよ : ですものね。 しいえ、あなたじゃない、カーチャですわ ! 何イになぐりつけられて、じっとそのまま倒れていたんです が、やがて、そのうちに起きあがって、ドアがあいているの もかもカーチャですわ ! ねえ、かりにここに正気の人がい るとしましよう。ところが、その人が急に a c 〔を起こしたではいって行って、フヨードルさんを殺したんですよ」 「でも、それはなぜです、なぜですか ? 」 んですの。意識もしつかりしてるし、自分が何をしているか 「つまり afTect を起こしたんですよ。ドミートリイさんに頭 づてこともよく知ってるんですけど、それでもやはり afTect を起こしてるんです。だから、ドミートリイさんも、やはりをなぐられてから、こんど気がついたとき、 afTec 「を起こし 」。、ナてしまったのです。そして、はいりこんで殺したんですわ。 ・ a デ第を起こしているに違いありません。新しい裁半カリし てから、はじめてその a デ 2 がわかってきたのよ。これは新あれは自分で殺したのじゃないと言いはってますが、それは しい裁判の恩恵ですわね。あのお医者さんは、あの晩のことをたぶん覚えていないからでしようよ。けれどね、もしドミー トリイさんが殺したんだとすれば、かえってそのほうがよご わたしにききましたの、つまり、あの金鉱のことですわ、 ざんすわ、よっぱどよござんすわ。わたしはグリゴー あの男はそのときどんなふうだったかって。むろん、あのとき 殺したんだといいましたが、はんとうはやつばりドミート丿 第 afiect を起こしてたのでなくってど、つしましよ、つ ? はいっ オ三千ループリ ィさんが殺したに違いありません。そのほうがずっとずっと のて来るとすぐ、金だ、金だ、三千ループリ。こ、 ようござんすわ ! あら、そりやわたしだって、むすこが親 ゾ貸してくれってどなりちらして、そして、ふいに出かけて殺し マてしまったんですもの。殺したくはない、殺したくはないとを殺したのをいいと一「ロうのじゃありませんよ。わたしそんな ことをほめやしません。それどころか、子供は親をたいせつ汚 言ってながら、だしぬけに殺したんですよ。つまり、こういう
彼女の顔は急にひんまがった。やさしい しとやかな、そプリで呼ばれたんだそうじゃなくって」 して快活なその顔が、にわかに険悪な毒々しげな相に変わっ 「それは、わたしたち三人で三千ループリ出したんです・わ たのを見て、アリヨーシャは情けない気持ちになった。 たしと、イヴァン兄さんと、カチェリーナさんとでね。です 「こんなばかな話はもうたくさんだわ ! 」彼女は急にずばり が、モスグワから医者を呼んだ二千ループリの費川は、カチ と切り棄てるように言った。「こんなことであなたを呼んだ エリーナさんひとりで負担したんです。弁護士のフェチュコ んじゃないんですもの。ねえ、アリヨーシャ、あす、あすは ーヴィチは、もっと請求したかもしれないんですが、この事 どうなるでしよう ? わたし、それが苦になってたまらな件がロシャじゅうの大評判になったから、したがって、自分 いのよ ! わたしがひとりだけで苦労してるのよ , だれのの名が新聞や雑誌でもてはやされるというので、アエチュコ 顔を見ても、このことを考えてくれる人は、まるつきりない ーヴィチはむしろ名誉のために承諸したんです。なにしろ、 んですもの、だれもみんな知らん顔してるんですもの。せめこの事件はひどく有名になってしまったもんですからね。わ てあんただけは、このことを考えてくれるでしよう ? あすたしはきのうその人に会いました」 はいよいよ公判じゃありませんか ! ねえ、公判の結果はど 「それでどうだったの ? その人に言ってくれて ? 」とグル うなるんでしよう ? 聞かしてちょうだい。あれは下男がし シェンカは気ぜわしげに叫んだ。 たことだわ、下男が殺したんだわ、下男が ! ああ、神さ 「その人はただ聞いただけで、なんにも言いませんでした。 ま ! あの人は下男の代わりに裁判されるんです。だれもあもう確とした意見ができてると言っていましたが、 の人の弁護をしてくれるものはないんでしようか ? だつわたしの言葉も参考にしようと約東しました」 て、裁判所じゃ、一度もあの下男を調べてみなかったんでし 「参考も何もあるものですか ! ああ、だれもかれもみんな 詐欺師だ ! みんなよってたかって、あの人を破滅さしてし 「あれは厳重に訊問されたんですが」とアリヨーシャは沈んまうんだー だけど、お医者なんか、カチェリーナさんはな だ口調で言った。「犯人じゃないときまっちゃったんです。 ぜお医者なんか呼んだのかしら ? 」 弟今あれはひどい病気にかかって寝ています。あのときから病「鑑定人としてですよ。兄は精神病者で、発作にかられて無 てんかん の気になったんですよ、あの癲剩のとき以米ね。ほんとうに病我夢中でやった、 とこ、フい、フことにしよ、つってい、フんで ゾ気なんですよ」とアリヨーシャは言いたした。 す」アリヨーシャは静かに徴笑した。「ところが、兄さんは マ「ああ、どうしよう、じゃ、あの弁護士に会って、このことそれを承知しないんでね」 力をじかに話してくださらない ? ペテルプルグから三千ルー 「ええ、そうよ、もしあの人が殺したとすれば、きっとそう 」 45
まんことをした。あのひとはキリスト教徒の心をもって すぐ片づいてしまいます。愉快に片づいてしまいます、 る。いや、みなさん、じっさいあれは柔和な女ですよ。少しそして、けつきよくみんな大笑いしてチョンになるんです よ、そうじゃありませんか ? しかし、みなさん、あの女は も罪なんかありません。さて、カラマーゾフ君、あのひとに なんと言ったもんだろう、落ちついて腰かけていられそうかわたしの心の女王です ! ああ、どうぞわたしにこう言わせ てください。わたしはもう腹蔵なしにうちあけます : : : なに しろ、高潔なかたがたと座をともにしているんですからね。 しいミハイルは、言いすぎるほどいろいろなことを言 った。が、グルーシェンカの悲哀は、人間らしい悲哀は、彼あの女は光です、わたしの宝です、ああ、これが、あなたが たにわかっていただけるといいんだがなあ ! 『あなたと、 の善良な心にしみとおって、その目には涙さえうかんで た。ミーチャはおどりあがって、ミハイルにひしと抱きつい っしよなら死刑にでもなりましよう ! 』とあれが叫んだの を、あなたがたはお聞きになったでしよう。ところが、わた しはあれに何を与えたでしよう。わたしはこじきです、裸一 「失礼ですが、みなさん、どうそ、ああ、どうぞ許してくだ 貫の男です。どうしてわたしにあんな愛をささげてくれるの さい ! 」と彼は叫んだ。「あなたは天使のような、まったく しかもばかづらを下げた 天使のような心をもっていらっしやる。ミハイル。マカーロでしよう。無骨な、けがらわし、 ヴィチ、あれにかわってお礼を申します ! ええ、落ちつきわたしが、そんな愛に価するでしようか。あれに懲役までも っしょに来てもらえるよ、つな値、っちがあるでしよ、つか ? ます、落ちつきます、快活になりますよ。あなたの無限にや さしいお心に甘えて、お願いします。どうか、わたしが快活さっきなどは、あの負けん気の強い、そしてなんの罪もない だってことを、ほんとうに央活だってことを、あれに伝えて女が、わたしのために、あなたがたの足もとに身を投げだし どうしてあれを尊敬せずにいられま ください。それから、あなたのような守り神さまがあれのそたじゃありませんかー ばにつき添ってくださるということを知ったので、今にも笑しよう ? どうして叫ばずにいられましよう ? どうして今 、こいほどの気持ちになったと言って下さい。今すぐにいつのようにあれのところへ駆け出さずにいられましよう ? あ ー ) かーし、ムフは 7 も、フ宀ス、心 弟さいの片をつけて自由の身になったら、さっそく、あれのそあ、みなさん、おゆるしください , を得ました ! 」 のばへ行きます。もうすぐ会えるんですから、ちょっとのあい ゾだ待たしてくださいー みなさん」彼は急に検事と判事のほ こう言って、彼はいすの上に倒れかかり、両のてのひらで どう - 一く マうへ向いてこう言った。「今あなたがたにわたしの心中をす顔をおおうて慟哭したが、これはもはや幸福な涙であった。 ひれき カつかりうちあけます。ことごとく披瀝します。こんなことは彼はたちまちわれに返った。老署長は非常に満足していた。 ) 0
っても、わたしにとって人間です ! いったいはんとうにあ田 つまり、あなたがたの間で起こったことです : : : あなたがた 殺したのはあの人でしょ の人が殺したんでしようか ? がはじめてお会いになった時分 : : : あの町で : : : 」 、フか ? 」と彼女は急にヒステリックに叫んで、さっとイヴァ 「ええ、それはあのお金のために頭を下げたことでしよう ! 」 ンのほうへふり向いた。 と彼女は苦い笑い声を上げながら言った。「いったいどうな その瞬間、アリヨーシャは自分が来るつい一分まえまで、 んでしよう、あの人は自分のために恐れてるんでしようか、 それとも、わたしのためなんでしようか、え ? 大事にする彼女が一度や二度でなく、幾十度となく、この問いをイヴァ だれを大事にするんでしよう ? あの人を、それンに持ちかけたらしいことや、けつきよく、けんか別れにな とも、わたしを ? え、どっちなんですの、アレグセイさ ったことなどを見てとった。 ん」 「わたしはスメルジャコフのところへ行って来てよ : : : あれ はあんたよ、あんたがあの人を親殺しだって言うもんだか アリヨーシャは、彼女の言葉の意味を読もうとしながら、 ら、わたしはあんたばかりを信用してたんだわ ! 」やはりイ じっと相手を見つめた。 ヴァンのほうに向いたまま、彼女はこう言いつづけた。 「あなたも、また、兄自身も」と彼は小さな声で言った。 イヴァンはいかにもとってつけたように、にたりと笑っ 「そうでしようとも」と彼女は妙に毒々しい調子でひとこと た。アリヨーシャはこの「あんた』という言葉を聞いて、田 5 ひとこと区切るよ、つこ一一一一口、 冫し急に顔を赤くした。 「あなたはまだわたしというものをごぞんじないんですよ、 わず身ぶるいした。彼はふたりのそうした関係を、夢にも考 アレグセイさん」と彼女は威嚇するように言った。「だけどえていなかったのである。 もうたくさんだ」とイヴァンはさえぎった。「ばく わたしもまだ自分で自分を知らないんですの。たぶんあなた はあしたの訊問のあとで、わたしを足で踏みにじろうと思っ は帰ります、あすまた来ます」こう言うなり、彼はくるりと てらっしやるんでしよ、つ」 向きを変えて、部屋を出ると、ずんすん階段のはうへ歩いて 「あなたは正直に陳述なさるでしよう」とアリヨーシャは言行った。 った。「それだけでけっこうなんですよ」 カチェリーナはとっぜん、何か命令でもするような身ぶり 「女ってものは、とかく不正直でしてね」彼女はきりりと歯で、アリヨーシャの両手をつかんだ。 あの人を追っかけ を食いしばった。「わたしはつい一時間まえまで、あの人で 「あの人のあとをつけていらっしや、 なしにさわるのを、毒虫にさわるように恐ろしく思っていたてらっしや、 一分間でもあの人をひとりにしておいちゃ いけません」と彼女は早口にささやいた。「あの人は気がち けれど : : : それはまちがっていましたわ。あの人はなんとい
彼女は立ちあがろうとしたが、とっぜん、あっと高く叫んった。 「あんなことを言ったのは、高慢な女の口さきばかりなの で、たじたじと後へしさった。ふいにグルーシェンカが音も よ、しんからじゃないわ」とグルーシェンカは忌まわしそう 立てず、部屋の中へはいって来たのである。それはだれしも そうした に言った。「もしおまえさんを助け出したら、 思いがけないことであった。カーチャはつかっかと戸口のほ うへ行ったが、グルーシ = ンカとすれ違うとき、急に立ちどら、すっかりゆるしてやるわ : : : 」 彼女は心の中の何ものかをおさえつけるように、そのまま まった。そして、白墨のようにまっさおになって、静かにさ おし黙ってしまった。彼女はまだ平静に返ることができなか さやくよ , フに一一 = ロった。 ったのである。あとでわかったことだが、彼女はこのときま 「わたしをゆるしてくださいな ! 」 相手はじっとカーチャを見つめていたが、ちょっと間をおったく偶然にはいって来たので、ああいうことに出くわそう とは、まるつきり予想しなかったのである。 いて、憎悪にみちた毒々しい口調で答えた。 「アリヨーシャ、あれのあとを追っかけてくれ ! 」ふいにミ 「お互いにわるいのよ ! おまえさんもわたしもふたりとも ーチャは猛烈な勢いで弟の方をふりむいた。「そして、あれ 意地わるだからね ! ゆるすたって、どっちがゆるすんだろ う、おまえさんなの、それともわたしなの ? まあ、あの人に言ってくれ・ : ・ : どう言ったものかなあ : : : とにかく、この を助けてちょうだい。そうすりや、わたしは一生涯、おまえままあれを帰さないでくれ ! 」 「タ方までにまた来ますよ ! 」アリヨーシャはこう言って、 さんのために祈ってあげるわ」 「おまえはゆるしたくないと言うんだな ! 」ミーチャは気ちカーチャのあとを追って行った。 彼は病院のへいの外でカチェリーナに追いついた。彼女は がいじみた声でグルーシェンカをなじった。 「心配しないがいいわ、わたしきっとこの人を助けてあげる急ぎ足に歩いていたが、アリヨーシャが追いつくやいなや、 、いきなり部屋の早口に言いだした。 から ! 」カーチャはロ日卞に , : っささやくと 「いいえ、わたしあの女の前で自分を罰することなんかでき 外へ駆け出してしまった。 「おまえはあれをゆるしてやることができないのか。あれのません ! わたしがあの女に「ゆるしてください』と言った ほうからさきに「ゆるしてくれ』と言ったんじゃないか」とのは、どこまでも自分を罰しようと思ったからですわ。それ だのに、あの女はゆるしてくれません : : : わたし、あの女の チャはまた悲痛な声で叫んだ。 「ミーチャ、この人を責めちゃいけません。あなたにはそんああいうところが好きですわ ! 」とカーチャはゆがんだ戸で つけ加えた。その目はむきだしの憎悪に輝いた。 な権利はないのです ! 」とアリヨーシャは熱くなって兄に言 374
〈九一。ヘージ〉 「内密で」 ^ 九〇ページ〉 「あの人にお金なんかやることないわ」 「あんな雄鴨、もとはあんなじゃなかったのに ! それをわ「わたしは自分の心をさしあげました。しかし貴女 : : : あの たしは泣きの涙でいたんだからねえ ! 五年のあいだという娘どもを追いだすか、それともわたしが出ていくか」 いしえ、あ ものあんな男を思って泣いていたんだからねえ。 グルーシェンカ、前後を忘れて彼をどなりつける。 れはあの人じゃない ! あれはあの人の兄さんか何かだわ ! ああわたしは馬鹿だった、ああわたしは馬鹿だった ! 」 「あんたはなにを恐れてるんだろうと思ったわ。だってあん たはびくびくしてたでしよう、すっかりびくびくものだった 「まあロシャ語でお話しなさい、 もとはちゃんとロシャ語ででしよう、まさかあんな連中を恐れたんじゃないでしよう、 話ができてたんじゃないの、ロシャ語でお話しなさいってば」 いったいあんたはだれかを恐れてるの」 「銀行。自分たちこそぶすっとして坐り込んでるのよ。あん グルーシェンカ帷の中へ。「わたしだれを愛してるか当てたのくる前にね、ミーチャ、あの連中はずっと黙りこんで、 てごらんなさい。接吻してちょうだい ( カルガーノフに ) 。わたしに威張り返って見せてたわ」「おれは馬車を飛ばしな わたしを打ってちょうだい、いじめてちょうだい」ミーチがら : : : 考えてたんだよ : : ところがあの連中はああして」 ヤ、自殺すること。ミーチャの手を接吻して、「五年のあ「なた、みなた ( ←、す 0 かり用意ができました、 トウイム・ゴージェイ・ドウラ・ドウルーギフ ( 他人にと いだ苦しんだわ。あの人なんだ 0 てあんなのでしよう。あ ってはますます悪い ) れはあの人の兄さんで、あの人じゃありやしない。わたし プイヴァイ・ズドウルーフ ( さようなら ) はいい人間よ。どうしてわたしはこんないい人間なんでし ツオ・にー・ ムニエ、アニ・フフィーリ・ドウウージェイ・ニエ・ よう。わたしがときどき意地悪になるのも、つまりあまり チェーカム ( わたしとしてはこれ以上一分も待てません ) 人がいいからよ」 ・フツェシ = 、イシチ・ゼ・ムノン、イ「踊ろう。わたしあの人と仲直りするわ。あの人やってきて ッチムイ、イエーシリ・ニエ、プイヴァイ・ズドウルーフよ。わたしあの人をゆるしてやって、あんたを愛してあげる ( もしわたしと行く気があるならいっしょに行こう。それわ」 がいやならさよならだ ) * ポーランド語短句集
当ちがいですわ、また見当ちがいを言いだして。で、わたしも きます。安楽いすに腰かけたまま、つれて行ってもらおうと うすっかりまごっいてしまいましたわ。わたしはあわててる思ってますの。それに、わたしすわってるだけなら平気です もんですから。しかも、なぜあわててるんだか、自分にもわし、だれかいっしょについて来てもらえば、だいじようぶで かりませんの。ほんとうに、今は何がなんだか、さつばりわすよ。ごぞんじでしようが、わたしも証人のひとりなんです からなくなりました。何もかもみんなごちやごちゃになっちもの。ああ、わたしなんと言いましよう、なんと言ったらい いでしようね ! ほんとうになんと言ったらいいのやらわか まって。わたしあなたが退屈して、いきなり逃げておしまい になりやしよ、、 オし力と、それが心配でたまりません。もうこれりませんわ。だって、宣誓しなければならないんでしよう、 ね、そ、つでしよ、つ、そ、つでしよう ? 」 つきりで、お目にかかれないんじゃないかと。あら、まあ、 ゾ」、つーこよー ) よ、つ ! , わ←ーレと一、し一 ) レ」、がわー ) ゃべ . り・、は 「そうです。けれど、あなたがお出かけになれようとは思え りしていて。第一、コーヒーをいれなきや。ュリヤ、グラフませんがね」 「わたし腰かけてならいられますよ。ああ、あなたはわたし ィーラ、コーヒー持っておいで ! 」 アリョ】シャは、たったいまコーヒーを飲んだばかりだとをはぐらかしてばかりいらっしやる ! ああ、あの恐ろしい 裁判、あの野蛮な犯罪、そして、みんなシベリヤへやられる 言って、急いで辞退した。 「どちらで ? 」 んですわ。そうかと思うと、結婚する人もありますし。しか も、それが光陰矢のごとしで、どんどん変わって行くんです 「アグラフェーナさんのとこで」 「それでは : : : それではあの女のところへいらしてたんですもの。そして、けつきよく、なんのこともなくみんな年をと って、棺桶にはいって行くんですわ。まあ、それもしかたが の ! ああ、あの女がみんなを破滅させたんですわ。もっ cette char- ありません、わたし疲れました。あのカーチャ とも、わたし知りません。人の話では、なんでもあの女は、 今じゃ聖者になったということじゃありませんか。少し遅ま mante per nne ( あのかわいい人 ) 、ね、あの人はわたしの希望 きですけど、そのまえ必要なときにそうなってくれればよかをすっかりぶちこわしてしまいました。あの人はお兄さんの 弟ったんですけど、もう今となっては、なんの役にもたちゃしあとを慕って、シベリヤへ行くでしよう。すると、もうひと りのお兄さんは、またあの人のあとを追って行って、隣の町 のませんわ。まあ、黙って聞いてください。アレグセイさん、 かなんかに住む、こうして三人が互いに苦しめ合うことでし / 黙って聞いててください。わたし、うんとお話したいことが あるんですけど、けつきよく、なんにも言えないのがおちでよう。わたしそんなことを思うと、気がちがいそうですわ。 ーがしよう。ああ、この恐ろしい裁判 : : : ええ、わたしきっと行ですが、何より困るのは、あのやかましい世間の評判なんで
そ、その千五百ループリは『わたしのものです』と言い張っ問 の一つにたいして、多言を待つまでもなく、自分は被告と たのも、うそではなかったという証拠として、ほんのいくら婚約の間柄であった、と答えた。「あの人が自分からわたし かでも役に立った。アリヨーシャは喜んだ、彼は顔をまっ赤を見棄てるまで : : : 』と彼女は小声に言い添えた。彼女が親 にして、指定された席へ退いた。彼は長いことロのなかで、戚のものに郵送してくれと、ミーチャに託した三千ループリ 『どうして忘れていたんだろう ! どうしてあれを忘れてい のことについては、『わたしは、すぐに郵送してもらおうと たんだろう ! どうしてやっと今はじめて思い出したんだろ思って、あの人にお金を渡したのではございません。わたし 、フ ! 』と′、りかえしていた。 はそのとき : : : その瞬間に : : : あの人が大へんお金に困って カチェリーナの訊問が始まった。彼女が姿を現わすと同時いるということを、感じておりましたので、もしなんなら、 に、法廷の中には、異様などよめきが起こった。婦人たちは一か月間くらい融通してあげてもいいと考えて、あの三千ル 柄つきめがねや双眼鏡を取り出した。男たちももそもそ身動ープリを渡したのですから、あとであの借金のために、あん きしはじめた。中にはよく見ようとして、立ちあがるものも なに心配なさる必要はなかったのでございます』ときつばり あった。人々はあとになって、彼女が現われるやいなや、と言い切った。 っぜんミーチャが『ハンカチ』のようにまっさおになった、 筆者はすべての質問と彼女の返答とをいちいちくわしく物 と言い合った。彼女はすっかり黒衣に身を包んで、つつまし語るまい。ただ、彼女の申し立ての根本の意味だけを述べる にとどめよ , フ。 やかに、ほとんどおずおずと、指定の席へ近づいた。彼女が 興奮していることは、その顔色でこそ察しられなかったが、 「わたしは、あの人がお父さんからお金を受け取りさえすれ 決心の色は黒みがかった目の中にひらめいていた。ここに特ば、すぐにお送りくださることと固く信じておりました」と 記すべきことは、この瞬間、 / 彼女が非常に美しく見えたこと彼女はつづけた。「わたしはどんな場合にも、あの人の無欲 である。これはあとで人々が異ロ同音に断言したところであと潔白とを信じておりました : : : 金銭上のことでは、まった る。彼女は小声ではあるが、しかし、法廷ぜんたいへ聞こえくこのうえない潔白なかたでございますから。あの人はお父 るように、はっきりと陳述を始めた。彼女は落ちついて口をさんから三千ループリ受け取ることができると固く信じて、 ' きいた。少なくとも、落ちっこうとっとめていた。裁判長は たびたびわたしにもその話をしました。あの人がお父さんと 槙重な態度をもって、『ある種の琴線に』触れるのを恐れで不和だということも、わたしはよく知っておりました。そし もするように、そして、この大不幸に十分の敬意を払いつつ、 て、あの人がお父さんに侮辱されているのだ、といつもそう 了重に訊問を始めた。けれど、カチ = リーナは提出された質信じていました。あの人がお父さんをおどすようなことを言 わたし