づたときのような赤い顔をせすに、美しい善良な、そして央ていましよう ! 」 活な目で、今わたしを見ておられることなどが、どうして忘 「おばえていましよう、おばえていましよう ! 」と、少年た れられましよう ? 諸君、わが愛すべき諸君、われわれはみちはまた野んだ。「あいつは勇取なやつでした、あいつはい んなイリ = ーシャ君のように、寛大かっ勇敢になりましょ いやつでした ! 」 、つ。コ ーリヤ君のように利発で、勇敢で、寛大になりましょ 「ああ、ばくはどんなにあの子が好きだったか ! 」とコーリ らっ ( もっとも、同君は将来もっと賢くなられることでしよう ヤは叫んだ。 が ) 。またカルタショフ君のように羞恥、いに富むとともに、 「ああ、諸君、ああ、かわいい親友、人生を恐れてはいけま 利ロで愛らしくなりましよう。しかし、わたしはこのふたりせん ! なんでも正直ないい ことをしたときには、人生がな のことだけ言うのではありません ! 諸君、諸君はいずれもんと美しいものに隸われることでしよう ! 」 みんな今後、わたしにとって愛すべき人たちなのです。わた 「そうです、そうです」と少年たちは感激の声を発して合づ しは、諸君を残らず自分の心の中へ入れましよう。だから、 ちを打った。 諸君もどうぞわたしをめいめいの心の中へ入れてくださいー 「カラマーゾフさん、ばくたちあなたが好きです ! 」こらえ ですが、わたしたちが今後一生涯わすれないし、また忘れな きれなくなったように、 一つの声がこう叫んだ。それはカル いつもりでいるこのりつばな美しい感情の中に、わたしたちタショフの声らしかった。 を結び合わせてくれた人は、イリューシャ君でなくてだれで 「ばくたちあなたが好きです、ばくたちあなたが好きです」 しよう。同君は善良な少年でした、かわいい少年でした。わと一同はくりかえした。その目には涙が輝いていた。 れわれにとって永久に尊い少年でした ! われわれは今後、 「カラマーゾフ万歳 ! 」とコーリヤは歓喜にたえぬように叫 永久に同君を忘れず、同君にわれわれの心のよき記憶をささんだ。 げようではありませんか、永久に変わることなく ! 」 「そして、なくなった少年を永久に記憶しましよう ! 」アリ 「そうです、そうです、永久に、変わることなく」子供たちヨーシャは清のこもった声で、こうつけ加えた。 はいずれも感動の色を満面にみなぎらして、朗らかによくひ「永久に記憶しましよう ! 」とまた少年たちが引き取った。 びく声でこう叫んだ。 「カラマーゾフさん ! 」とコーリヤは叫んだ。「ばくたちは 「あの顔つきも、あの着物も、あの破れたくつも、あのひつみんな死からよみがえって命を得て、またお互いに会えるつ ぎも、あの罪の深い不幸な父親も、あの少年が父親のためて、 どんな人にでも、イリューシャにでも会えるって、 に勇ましくひとりで全級に反抗したことも、すっかりおばえ宗教のほうでは教えていますが、あれはほんとうでしよう
ておられるでしよう ? いまさら不肖なわたくしが諸君に向ルを鳴らすのを躊躇した。「ああした感激を阻止するのは、 - - っン、 かって、ロシャの裁判は単なる刑罰ではなくして、滅びたるとりも直さず神聖な感情には漬を加えることですわ』とは、 人間の救済であるなどと、告げるまでもないことでありまあとで当地の婦人たちが叫んだところである。当の弁護士は す ! もし他国民に法律と刑罰とがあるとすれば、われわれ心底から感動していた。こうしたおりに、わがイツポリート には精神と意義、滅びたるものの救済と復活とがあります。 はまたもや立ちあがって「反駁を試みよう』としたのであ もしこれが真実であるとすれば、もしロシャとロシャの裁判る。人々は憎悪の目をもって彼を見やった。「なんですっ がはたしてかようなものであるとすれば、 ロシャよ、前て ? どうしようというんですの ? あの人はまた反駁しょ 進せよ、といいましよう。われわれをおどさないでいただき うってんですの ? 』と婦人たちはささやいた。けれども、た たい。すべての国民が忌みきらって回避する、あれ狂うトロ とえ彼自身の細君をもふくんだ世界じゅうの婦人連が反対し イカをもちだして、われわれをおどすのはやめていただきたても、この際ィッポリートを止めることは不可能であった。 あれ狂うトロイカではなくして、偉大なるロシャの戦彼は顔をまっさおにして、興奮のためにぶるぶるふるえてい 車が、堂々と勇ましく目的地に進んで行くのであります。わた。彼が発した最初の言葉や最初の句は、意味さえわからな が被弁護者の運命は諸君の掌中にあります。わがロシャの正 いほどであった。彼は息をはずませながら、しどろもどろに 義の運命も諸君の掌中にあります。諸君はそれをお救いにな不明瞭な発音で弁じたが、しかし、ほどなく落ちつきを回復 わたし るでしよう。諸君はそれをお守りになるでしよう。諸君は正した。筆者は彼の第二の論告の中から、ただいくつかの語句 義を守護する人の存在すること、正義が善良な人の掌中にあをあげるにとどめておく。 ることを立証なさるでしよ、フ ! 」 「 : : : わたくしは小説を作ったといって非難を受けました。 しかし、弁護士の弁論は、小説の上に小説を築いたものでな くてなんでしよう ? ただ詩の句が不足していただけです。 第百姓どもが我を通した 『フョ 1 ー・ト ルが恋人を待っている間に封筒を破って、床の上 こう言ってアエチュコーヴィチはその弁論を終わった。もに投げ棄てた』などと言いだしたばかりか、なおそのうえ うこんどこそは、嵐のような傍聴者の感激を押えることがで ートルがこの驚くべき行為の間に言ったことまで引 きなかった。制止しようなどとは思いもよらないことであっ証されました。これがはたして叙事詩ではないでしようか ? た。女たちは泣いた。男子席でも泣くものが多かった。大官彼が金を出したという証拠がいったいどこにあります ? そ 連さえふたりまで涙を流していた。裁判長もあきらめて、べのとき彼の言った言葉など、いったいだれが聞いたのです ? 354
はおれの運命のために、おれの教育のために、おれの人間形しよう ! ああ、わたくしは知っています。わたくしはこの 心を知っています。陪審員諸君、乱暴ではあるけれど、高潔 成のために何一つしてくれなかった。おれをよりよくもしな ければ、また一個の人間にもしてくれなかった。この人たちなこの心を知っています。この心は諸君の慈悲の前にひれふ はおれに食わせもしなければ、飲ませもしなかった。裸一貫すでしよう。この心は偉大なる愛の働きに渇いています。こ の心は新しく燃え立って、永久によみがえるでしよう。世に で牢につながれているおれを見舞いもしなかった。そして、 とうとうおれを懲役に送ることにした。おれはこれで勘定をは自己の限界のうちにせぐくまり、それがために世間を憎ん でいる魂があります。けれども、この魂に慈悲を加えてごら すましたから、もう今では彼らに少しも負うところがない、 なんびと 永久に何人にも負うところはない。彼らも意地悪なら、おれんなさい、愛を示してごらんなさい、たちまちこの魂はおの も意地悪になってやろう。彼らも残酷なら、おれも残酷になれのなした行ないをのろいます。なぜなら、この魂の中には 多分に善良な萌芽がひそんでいるからであります。かような ってやろう』陪審員諸君、彼はおそらくこう言うでしよう ! わたくしは誓って申しますが、諸君の宣告される刑罰は、た魂はひろがり、成長して、神の慈悲ぶかいこと、人々の善良 だ被告の苦しみを軽減するだけです、被告の良心を軽減する公平なことを見知るでしよう。彼は悔悟の念と目前に現われ にすぎません。被告は自分の流した血をのろったり、それた無数の義務とに、然として圧倒されるでしよう。そのと きこそ、もう「おれは勘定をすました』などと言わずに、「お を悲しんだりしないようになるでしよう。同時に、諸君は 被告の内部にひそんでいる、真人間となる可能性を滅ばしてれはすべての人々にたいして罪がある。おれはいかなる人々 しまわれるのであります。なぜなら、彼は邪悪な盲目な人よりも無価値なものだ』と言うでしよう。彼は燃えるような 間として、生涯を過ごすからであります。けれど、諸君が想苦行者の悔恨と、感激の涙を流しながら、「世間の人はおれ 像もおよばぬほど、恐ろしい刑罰を被告に下そうとされるよりも善良だ。彼らはおれを滅ばそうとせず、かえって救っ のは、それによって彼の魂を永久に救いよみがえらせるためてくれたではないか』と叫ぶでしよう。ああ、諸君は容易に なのでしようか ? もしそうだとすれば、どうか偉大な慈悲これを、この慈悲の作用を行なうことができるのであります。 いくぶんたりとも真実らしい証拠が一つとして存 弟をもって彼を圧倒してくださいー しからば、諸君は被告のなぜなら、 の魂がいかにふるえおののくかをごらんになるでしよう。『ど在しないのに、『しかり、罪あり』と宣告するのは、あまり ゾうして自分はこの慈悲にたえられよう、はたして自分はこれに苦しいことだからであります。ひとりの罪なきものを罰す 前世紀の マほどの愛を受けようとしているのか、自分はこの愛に価するるよりは、むしろ十人の罪あるものをゆるせ、 力ものであろうかこういう被告の魂の叫びをお聞きになるで光栄あるわが国の歴史が発したこの偉大な声を、諸君は聞い 353
が、途中でちらりと目に映じた緑いろの屋根とか、あるいは たら、われわれはどんなに喜ぶでしよう。だが、それは五官 しらはし 十字架にとまっている白嘴がらすとか、そういうものをむしに感じうる現実的な事実でなくてはだめです。肉親の弟の主 ろ思い出すのであります、じっさい、彼はその守り袋を縫う張する被告の表情からきた結論や、また被告が闇の中で自分 ンい、つ とき、人目を避けたに相違ありません。針を手にしながら、 の胸を打ったのは、必ず守り袋をさしたに相違ない、 ような申し立てでは困ります。われわれは新しい事実を喜び 自分の部屋へだれかはいって来はしないか、だれかに見つけ なんびと られはしないかと、恐怖のためにあさましい苦心をしたことます。そして、何人よりもさきに自分の告発を撤回します、 を、記憶していなければならないはずです、ーーーちょっとドすぐにも撤回します。しかし、今は正義が絶叫していますか アをノックする音がしても、すぐ飛びあがって、衝立ての陰ら、われわれはどこまでも以前の説を主張しなければなりま へ駆けこんだに違いありません ( 彼の部屋には衝立てがありせん、いささかたりとも撤回することはできません」 こう言って、イツポリートは結論に移った。彼は熱病にで ました ) ・ もかかったように、流された血のために、 『下劣な略奪 しかし、陪審員諸君、わたくしはなんのためにこんなこと を、こんなこまごましい事実を諸君に述べているのでしょの目的をもって』わが子に殺された父親の血のために絶叫し う ! 」イツポリートは、とっぜんこう叫んだ。「ほかでもな たのである。彼はさまざまな事実の悲惨にして黙過すべから 、被告が今にいたるまで、このばかばかしい虚構を、頑強ざる累積を熱心に指摘した。 に固守しているからであります ! 彼にとって宿命的なあの「諸君は、才幹あり名誉ある弁護人の口から何を聞かれよう とも」イツポリートはがまんしきれなかったのである。「ま 夜以来、まる二か月の間というもの、被告は何一つ明らかに しませんでした。まるで夢のような以前の申し立てを説明すた、諸君の心をゆさぶるような感動に満ちた雄弁が、どれほ るような現実的状況は、一つとしてつけ加えられないのであど彼の口からほとばしり出ようとも、諸君はこの場合、わが ります。そんなことは些細なことです、あなたがたは名誉に神聖なる正義の法廷にあることを記憶せられたいのでありま 、とこう彼す。諸君はわれわれの正義の擁護者であり、わが神聖なるロ かけて、わたくしの言うことを信頼なさるがいし は申します ! ああ、それを信ずることができたら、わたく シャと、その基礎と、その家族制度と、その聖なるものとの したちはどんなにうれしいでしよう。まったく名誉にかけて擁護者であることを、深く記憶せられたいのであります ! でも信じたいと渇望しています ! じっさい、われわれは人そうです、諸君は今ここに全ロシャを代表しておられるので、 間の血に渇した山犬ではありません。どうか被告の利益にな諸君の判決はただにこの法廷のみならず、全ロシャに響き渡 るような事実を、一つでも、 しいからあげてください、そうしるのであります。そして、全ロシャはおのれの擁護者、おのれ
がって、わたくしの受けた印象には、少しも先入見がありまつけられた徳義心、ことに審美感は、ときとしていっさいの せん。粗暴で無軌道な性格を有する被告も、かってわたくし妥協を許さないことがあります。むろん、われわれはこの光 を侮辱したことはありません。ところが、この町の多くの人彩陸離たる論告において、被告の性格ならびに行為にたいす 人は、以前かれから非礼を受けているので、前もって被告にる鋭利な解剖を聞き、事件にたいする峻厳なる批判態度を見 反感をいだいているわけであります。むろん、当地の人々のました。ことに、事件の真相説明のために開陳された深い心 道徳的感情が憤激したのも当然であると、わたくしはよく承理解剖にいたっては、もし尊敬すべき論敵が被告の人格にた いして、少しでも悪意をおびた意識的な偏見をもっておられ 知しています。被告は乱暴で放縦な人間です。もっとも、か れ被告が当地の社交界にいれられていたことは事実です。すたとすれば、とうてい望むことのできないほど深い洞察に満 ぐれた才幹を有しておられる告発者の家庭などでも、むしろちたものでありました。しかし、このような場合、事件にた いするきわめて意識的な悪意をおびた態度より以上に悪い 愛されていたくらいであります。 (Nota bene. 弁護士がこう 言ったとき、聴衆の間に二、三嘲笑の声が聞こえた。もっと致命的なことがあります。それは、たとえて言うと、一種の も、その声はすぐ押し殺されたが、それでも、一同の耳には芸術的、遊戯的本能にとらえられたときなどです。すなわち いった。当地の人は事情を知っていたが、検事はいやいやな芸術的創作の要求、いわば小説を作ろうとする要求なので がらミーチャを出入りさしていたのであった。それは、検事す。ことに、神から心理的洞祭力を豊富に授かっている場合 の細君がなぜか彼に興味をもっていたからで。細君はきわめは、なおさらであります。わたくしはまだペテルプルグにあ って、当地へ出発する前からすでに忠告されていました。い て徳行の聞こえ高いりつばな婦人であったが、空想的でわが よや、わたくし自身だれの注意を受けないでも、当地で自分の ままな性分で、ときおり、 おもに些細なことで、 く夫にたて突くことがあった。もっとも、ミー チャはあまり反対側に立つ人が深刻精密な心理解剖にたけており、この点 において早くよりわが若き法曹界に、一種の令名を馳せてお 彼らの家を訪問しなかった ) が、それにもかかわらず、わた くしはあえてこう申します」と弁護士は語をつづけた。「わられるかたであることを知っていました。けれど、諸君、 ふき 弟が論敵は独立不覊の見識を有し、公明正大な性格を備えてお理解剖はたとえいかに深みをうがとうとも、なおかっ両刃の のられるにもかかわらず、わが不幸なる被告にたいして、何かついた刀のようなものであります ( 聴衆の中に笑声が起こっ ゾ誤った先入見を蔵しておられるかもしれないのであります。 た ) 。むろん、諸君はこの平凡な比喩をお許しくださること マむろん、それはさもあるべきことです。不幸なる被告がそれでしよう。わたくしはあまり美しい表現をすることが得手で 力だけの報いを受けるのは、きわめて当然なことであって、傷ないほうなのですから。しかし、それはとにかくとして、
ね」 って、え ? 」 「神秘主義のことなんかもうたくさんですよ」とまただれか 「どうもすばしこい連中がふえてきましたよ。諸君、いっこ トの身になってごらんなさ : ー「、、こ。「」れよりイツポリー いわがロシャには正義があるのでしようか、それともぜんぜ ィッポリートの今後の運命を想像してごらんなさい ! んないのでしようか ? 」 検事夫人は明日にもミーチャのことで、ご亭主の目を引っか けれども、ベルが鳴った。陪審員はちょうどかっきり一時 きますからね」 協議したのである。傍聴者がふたたび席に着いたときに は、深い沈黙が法廷を支配していた。陪審員が法廷へはいっ 「細君もここへ来ていますか ! 」 「どうして来ているものですか ? ここへ来ていたら、そのて来たときの光景を筆者は今でも記憶している。いよいよや 問題点をいちいち順を追、フてあげるようなこと 場で引っかいてしまいますよ。歯が痛むって家におりますって来た ! はすまい。第一、そんなものは忘れてしまった。ただ筆者の 「へつ、へつ、へつ ! 」 記憶しているのは、「被告は強奪の目的をもって、予定の計 画によって殺したのでしようか ? 』という裁判長の主要な第 もう一つのグループでは、 「たが、ミーチャは無罪になるかもしれませんよ」 一問にたいする陪審員の答えだけである ( もっとも、この問 「用心していないと、あしたは『都』がひっくり返るような いも一言葉どおりにおばえているわけではない ) 。あたりはし んとしすまり返った。陪審員の主席は、一ばん年の若い官吏 騒ぎになって、十日くらい飲みつづけますぜ」 「ええ、あん畜生 ! 」 であったが、彼は死んだような法廷の静寂を破って、はっき 「畜生には相違ないが、畜生なしじやすみませんよ。あの先りと声高に宣一言した。 「さよう、有罪であります ! 」 生、あそこへ行かなくてどこへ行くもんですか」 つづいて、他のあらゆる点に関しても、やはり同じく、有 「諸君、それはまあ、確かに雄弁でしたろう。だが、おやじ さお ! かり 罪である、しかり、有罪である、という答えがくりかえされ の頭を桿で打ち割るなんて、よくありませんな。そんなこ た。しかも、それにはいささかの酌量もなかった。これはだ 弟とをゆるしたら、世の中はどうなります ! 」 れしも予期しないところであった。ほとんどすべてのもの の「でも、戦車はどうです、戦車は ? 」 ゾ「トロイカを戦車冫、 こ造り直しましたね」 は、少なくとも情状酌量くらいは信じていたのである。死ん 「だが、 マ あしたになると、戦車をまたトロイカに造り変えるだような法廷の静寂は破られなかった。有罪を望むものも無 カことでしよう、『必要に応じて』ね、『すべて必要に応じて』罪を望むものも、いずれもまったく文字どおり化石したよう わたし
ちどころにならん。 イエザヴェル女王について、またエスフィルと傲慢なヴァ ズチャについて。幼い顔がじっと語り手を眺め、その目には 諸君は神を信じない以上、どうして唯物的な生活をしない でいられよう。唯物的になればなるはどかえってその方が好 次第に感情が高潮してき、それがさまざまに変化していく。 だれも語り手を愛するなどとはいわぬけれども、その実、愛し都合である、なぜならばそこでいっさいがおわるからである 唯物主義にははてしないがゆえに、諸君は洗練をきわ ているのだ。これに上越す報いがどこにあろう ? 眠りにつ めた専制主義と相互啖食にまで達するに相違ない。唯物主義 いたときには、神のお光が明るく夢を照らすであろう。 「主よ、もう一日祝福を与えてあの仕事をさせてくださいま者よ、諸君は相互の利益によって秩序ある社会に団結するこ し」おのれのなしたことが些々たるものであったなどと考とができるなどと空想してはならない。そのようなことは断 えてはいけない、おお考えてはいけない。それは大きな仕事じてありえない、なぜならば諸君の社会は各個のものから犠 である。身におさめきれないほど大きな仕事である。歴史の牲を要求するが、放恣なる欲望は犠牲を捧げることを肯んじ ないからである。強烈なる欲望と逞しき才能は凡庸と平均さ 進行の道程を残らずきわめるなどということがどうしてでき るものぞ : れることを望まず、しかもパンに関する相互の利益以外に精 神的連繋がないから、強力なる精神は協力者を引率して奮然 とたち、人々は永久の闘争のうちに互いに殺戮し啖食しあう ヴォルガ河のほとりで一人の労働者に出逢い、いっしょに 歩いた , ーー自然の景色に感嘆する、夜 ( 熊、自然の調和 ) 、ゆるにいたるであろう。最後はそれで終わるに相違ない。 せよ、愛すべきもの。後に邂逅する、酩酊の態。泣きだす。神 第七編 様もこの涙をちゃんとおばえていてくださるだろう。なにぶ んわれらは罪ふかいものである。われわれはみな誰もかれも。 〈六二ページ〉 この労働者がはたして幻想であろうか。諸君の経済制度は塗汕式 ( 塗汕式はくり返されるか ? ) どには幻想的でないのだ。 位階。 聖餐授与。位階。 真理は輝くであろう、われわれは聖約を有している。 理葬。位階。 世界は別の道に出てしまった。この場合なにをなすべき水。汕。祭壇の打ち敷き。。、 , ラモン (), 世。上靴。マント。 か。ただ互いに相愛することあるのみ、さらばいっさいは立十字架つき頭巾。翼ある天使。マント。黒い聖餐おおい
は諸君の感情と理性の中に、大なる争闘を予感するからであているのを発見して、告発を却下せられることでありましょ葯 ります : : : 陪審員諸君。請君の感情と理性にまで立ち入った う。少なくとも、単なる先入見によって、一個の人間の運命を ちゅうちょ わたくしの言葉をおゆるしくださし冫 、。ナれど、わたくしはど滅ばすことを躊躇されるでしよう。まったく悲しいかな、被 こまでも誠実で正直でありたいと思います。われわれはお互告はそういう先入見をいだかれても、しかたのないような人 いに誠意を持とうではありませんか ! 」 間なのであります。しかるに、これは普通の殺人でなく親殺 このときかなり盛んな拍手が起こって、弁護士の言葉を中しなのです ! これはあまりにも恐ろしいことなので、それ 断した。じっさい、彼はこの最後の言葉を誠意のこもった語がため、こうした取るにたらぬ証拠不充分な容疑事実も、取る 調で言ったので、一同は、じっさい彼が何か言い分をもって に足らぬ不充分なものではなくなったわけです。しかも、ま いるのかもしれない、そして今彼が言おうとしていること ったくの先入見によってそうなっているのです。こういう被 は、非常に重大な事柄であるかもしれない、 とい、フふ、つに感告を、どうして無暃にすることができよう ? どうして為を じたのである。しかし、裁判長はこの拍手を聞くや、もしふた 殺したものが罰を受けないですもうぞ、 とすべての人が たび「かようなことが』くりかえされるなら、傍聴者一同に 心の中で、知らずしらず、本能的に感じているのであります。 「退廷を命じる』と声高に宣言した。あたりはたちまちしんそうです。父親の血を流すということは、恐るべきことであ としてしまった。フェチュコーヴィチは〈フまでとはまるつき ります、ー・ーーそれは自分を生んだものの血です、自分を愛する ものの血です、自分のために命を惜しまないものの血です。 り違った、一種の新しい、感請に満ちた語調で弁じはじめた。 子供のときからこの自分が病気をしたといっては悩み、この 自分が幸福になるようにと一生苦しみ通し、ただただこの自 第思想の姦通者 分の喜びと成功のみを念じて生きていたものの血でありま 「ただ累積された事実のみが、わが被告を滅ばすものではあす ! ああ、そういう父親を殺すということは、 それは りません、陪審員諸君」と、彼は声を高めた。「そうです、考えるにたえないことであります ! 陪審員諸君、父親とは ほんとうにわが被告を滅ばすものは、ただ一つの事実なのでなんでしよう、真の父親とはなんでしよう ? これはなんた あります、 それは父親なる老人の死骸であります ! こ る偉大な言葉であるか ? この名称にはなんたる恐ろしい れが普通の殺人罪であってごらんなさい、諸君はすべての証大きな観念がふくまれていることか ? わたくしはいま、真 いかなる責任を有するもの 拠を集合体としてでなく、一つ一つ取り離して吟味してみたの父親とはいかなるものであり、 すえ、それらが取るにたりない不完全な、空想的性質をおびか、ということをいくぶん述べました。が、この場合、
おしうなっていたので、のべつ目をさまさせられた、と言っのであります。ことに、わたくしが腹立たしく遺憾に思うの てこばすのであります。しかし、その人は、二時間すっ眠っは、論告が被告の上に山のごとくつみあげた多くの事実のう ていた間のことは少しも知らないで、目をさました数分」 物だち、いくぶんたりとも確実で、反証を許さぬようなものは一 けは覚えているから、それで夜じゅうのべっ起こされたよう っとしてないにもかかわらず、ただただこれらの事実が累積・ な気がするのも、当然な次第であります。しかし、告発者は、 したというだけの理由によって、不幸なる被告が破滅にひん それならなぜスメルジャコフは、遺書の中で白状しなかった していることであります。そ、つです、この累積は恐るべきも か、と声を励ましてきかれました。二方には良心の呵責のであります。この血、 指から流れ落ちるこの血、血み を感じながら、いま一方にはそれを感じなかったのだろうどろになった服、「親殺し ! 』という叫び声に静寂を破られ か ? 』と言われました。けれど、失礼ですが、良心の呵責は たあの暗夜、頭を割られて倒れた叫び声の主、それから、ま すでに悔恨を意味していますが、自殺者が必ずしも悔恨に責た多くの言葉と証言と身ぶりと怒号、 ああ、それらすべ められたものとは断ぜられません、ただ絶望のために自殺しては非常な力をもっていて、人々の信念を買収するに十分で たにすぎません。絶望と悔恨、 この二つはまったく異なす。しかし、陪審員諸君、それらははたしてよく諸君の信念 ったものであります。絶望はときに憎悪に満ちていて、絶対をも買収することができましようか ? どうか記憶してくだ に妥協を許さない場合があります。で、自殺者は自分で自分さし言 、、者君には無限の権利、逮捕と判決の権利が与えられて に手をくだそうとする瞬間、 一生うらんでいたものにたいす います。しかし、権利が強大であればあるだけ、その行使は る憎悪を、一倍つよく感じたかもしれません。 ますます恐るべきものとなります ! わたくしは自分の言っ もし、か・ 陪審員諸君、裁判上の誤りを警戒していただきたいものでたことを一言たりとも撤回しませんが、かりに、 いまわたくしが申し述べたことに、はたしてほんとう りに一歩を譲って、不幸なる被告が父の血に手を染めたとい らしくない点があるでしようか ? どうか、わたくしの述べ う論告に同意するとしましよう。しかし、これはただはんの た言葉の中に誤りを見いだしてください。不可能、不合理を仮定にすぎないのであって、くりかえして言いますが、わた 弟発見してください。 もしわたくしの仮定の中にほんのわずか くしは一瞬間も彼の潔白を疑いません。しかし、今かりにわ のな可能性の影、真実らしい影でもあったら、どうか有罪宣告が被告が親殺しの罪を犯したと仮定しましよう。けれど、わ ゾを見合わせてくださしカ 、。 : 、はたしてただの影。 こすぎないでたくしがそういう仮定を許したとしても、せひひとことい マしようか ? わたくしは誓って申します、いま諸君に申し述ていただきたいことがあります。わたくしは諸君にある一つ カべた殺人に関する自分の説明を、わたくしは固く信じているのことを言わなければ心がすみません。なぜなら、わたくし
るとひどく馬鹿げたことですよ」 検事、ミーチャ逮捕の際、父親殺しという一言葉が発せられ たとき、グルーシェンカが、「わたしもいっしょに、、 これというのもわたしが悪いのです、わたしがこん グルーシャ、「わたしは跣足で駆けまわっていたものですよにー なふうにしてしまったのです ! 」と叫んだことを持ちだし わ。だれもわたしを可愛がってくれるものがなかった。わた て、「してみると彼はあなたに父親を殺したことをうち明け しは意地になったんですの」 たのか、それともあなた自身つよくその疑いをもたれたわけ ミーチャ、「まんまとかくしおおせたというようなところですな ? 」 グルーシャ、「あのときの気持ちは覚えていません。あの はありました」 人は血を流したとか、老人がどうとか申しました、それは覚 「フェ えております」 ーニヤに百ループリやりましたか ( 否 ) 」 「フュ ーニヤには送ってやった。」 ミーチャ、「ロシャ人はなによりも自分の分に従しませ サムソーノフの陳述が読み上げられる。跣足の小娘、染物ん、それはわたしも知っています。そのかわり自分の感情、 自分の情欲には最もよく従います、情欲、なによりも情欲で 職人。 す ! それもわれわれにとって周知のことです」 〈一六四ページ〉 ミーチャ、「総締めの支払いだ ! 」 検事、陪審員に対する論告の最後に、「諸君は、ペテルプ ルグから到着された敏腕をもって鳴る弁護士からなにを聞か ミーチャ、「自分で自分の軍刀を折ります、がその折れ屑 ノれましよ、つとも、とにかく諸君がロシャと、ロシャにおける 真理と、その家族制度と、その神聖なるいっさいのものの守を一生うやうやしく保存します ! 」 諸君は現在ロシャ 弟護者であることを記憶されんことを、 ヘルツェンシュトウーべ、「ベトロフ ? ・ペテルソン ? のの代表者なのであります」 ミウーソフ、 ミウーソフ、わたしはミ ベスタロッチ ? ・ゾ Z 検事はその前に、フェチュコーヴィチがなにをいい ゥーソフ氏とは二十年このかた近づきで、わたしは知ってい マだすかと心配なので、これをつけ加えた次第である。 ます、しかし、わたしは忘れました。わたしはあの人の苗字 5 ノ ~