のが何もかも、たえがたい重荷となってわたしの心に押しか 伯父グマー = ン夫妻〈 ぶさったのです。自分の良心の罰は何よりも重いものです が、この罰の重圧をわたしはわが身に担っているのです : ・ ペテルプルグ、一八四〇年一月二十八日 なっかしき伯父上、伯母上、わたしはお二人に負債がありま なっかしき伯父上、なっかしき伯母上 ! わたしは妹っ アーラ、彼女は伯父グマー ニンのところに住んでいた ) の手紙を読んだ時ほど、甘く快い感じす、わたしのカ以上の負債です。もしわたしの罪のつぐな 、後悔、お二人に対する愛情が、あなた方の目から見て、 をおばえたことはありません。どんなうれしい便りを受け取 たとえ幾らかでも価値がありましたら、わたしは自分を幸福 った時だって、決してこのようなことはありませんでした。 なっかしき伯父上、伯母上、わたしは自分が悪いことを承知者だと思います。それで良心の負担を、うんと軽くすること ができるからです。 していますので、お二人が示してくだすったようなご好意、 しかし、何よりもわたしを有頂天にさせたもの、過去のな ご温情は、夢にも思い設けませんでした。あなた方のお手紙 をちょうだいした時、わたしの胸に湧き立った感情は、われつかしい数々の思い出でわたしの心を充たしたもの、わたし ながらなんと申してよいか、わかりません。なっかしき伯父の心臓をさらに烈しく鼓動させたもの、それは、なっかしい 上、伯母上、わたしの罪の重さ、お二人のお怒りのご道理、伯母上、ご直筆のお書添えです。このような寛大なお心、こ それらがまざまざとわたしの心に映りました。それにしてのようなご好意は、わたしの思いもよらぬところでした : も、なんという変わりようでしよう ! お二人は以前のご温ましてわたしは、これもひとえに自分の罪とあやまちのため 情を、快く、愛情をもって、ふたたびわたしに与えてくださではありますが、このように優しい愛情の言葉を、もう長い いました。 いささかもそれに値しないこのわたしに。であいだ聞いたことがなかったので、なっかしい伯母上、あな たのお書添えは、なおさらうれしく感じられました。わたし も、わたしはよくわかりませんでした、自分の心の中がどう なったのか、筆にすることができません。わたしはお手紙をは亡くなった母を思い出しました : : : わたしはどんなに夢中 になって、あなたの筆のあとに接吻したことでしよう、なっ 喜ばなければならなかったのですが、どんなふうに喜んだら かしい伯母上、あなたのお手に百も千も熱い接吻をさせてい いいのか、わからなかったのです。なぜなら、この世でお二 ただきます ! 人のゆるしほど、わたしを幸福にすることができるものは、 でも、悲しみの伴わない幸福はありません。あなたのお手 ほかにないからです。けれども、自分で自分をいまいましく 思う心、恥ずかしい気持ち、長いことご好意を悪用してきた紙は、やっと癒えかかったわたしの痛手を掻き立てました。 このわたしにたいするお二人の限りない寛大心、こういうも 伯父上の ) の死去はわたしの目から、偽りならぬ追慕の涙
( きみがそれを求めていられるので ) 。しかし、その前にもうると、自分で自分に信じ込ませたのかもしれません。つま 一つ、あることについてお話しようと思います。それは今まり、きみは常に変わらぬ愛情とか、貞操とか、正しい充満し で、きみにうち明けてお話したくなかったことなのです。った愛の中に含まるべきいっさいのものを、彼女の中に発見し まり、きみもご記憶ののことです。ばくは自分の意見を申ようと考えたのです。ところが、ばくの見るところでは、彼 し述べたくなかった、というのは、第一に、ばくは事実をそ女はそういうものを与える力がないのです。彼女は享楽と充 れほどたくさん知っていないので、自分の意見を正確な、決満した幸福の一瞬を与えることができますが、それはただ一 定的なものと認めかねたからです。第二には、いろいろのこ瞬だけで、それ以上を約東することはできません。よしんば とをおたずねして、きみの心を傷つけたくなかったからで約東したとしても、それは彼女がみすから誤ったので、その す。第三には、密告者や中傷家になりたくなかったからですために彼女を責めることはできません。ですから、その一瞬 ・、、今は次の理由によって、うち明けたお話をすることに決を受け入れて、それに対して彼女に無限の感謝を捧げたらい いのです、 心しました。一、いずれにしても、ばくは自分の意見を間違 それだけのことです。きみが彼女をかまわず いのない、決定的なものとして押しつけるのでなく、ただ ) 単そっとして置いたら、それが彼女を幸福にすることになりま なる意見として開陳するに過ぎないのだから、何も書いてはす。彼女自身そう思っているものと、ばくは確信します。彼 ならぬという理由はない、とこう思うからです。二、今とな女は何よりもいちばん享楽を愛し、みずから一瞬を愛してい ってはすでに時が多くのものを流し去って、きみの心の痛手ます。もしかしたら、その一瞬がいっ終わるかということ もいやされ、きみはあのことをより明確な、より健全な目でを、自分で前もって承知しているのかもしれません。ただい 見ていられるだろう、と考えるからです。三 ( これがおもな けないのは、彼女が他人の心を弄ぶ、ということです。しか 点ですが ) 、あの女性は、ばくの心からの確信によると、きし、ああいう女性のナイーヴさが、どこまで方図のないもの みに値しません、きみの愛に値しません、きみより以下の存か、それをご承知ですか ? ばくの考えるところでは、彼女 在です。だから、きみは彼女を哀惜することによって、ただ は何ひとっ悪いところはないと、信じきっているのです , いたずらに自分で自分を苦しめていられるのです。最後に「わたしはあの人に幸福を与えたのだから、受け取ったもの 四、ばくはなおそのほか、自分の最後的な意見を吐露したい だけで満足すればいいんだわ。だって、そういう幸福は、、 のです。きみは彼女について根本的な思い違えをしているの つでも見つかるというものじゃないんだもの。いったいあの ではないでしようか ? きみはもしかしたら、彼女がだれに ことが悪いとでもいうの、いったいあの人は何が不満なのか も決して与え得ないようなものを、きみに与えることができ しら ? 」とこんなふうに考えているような気がします。もし
どと彼女を侮辱したらどうでしよう。彼女を、彼女をです ! 高潔なものも現われて来る、ーー彼女は中世の騎士のごとき物 心を持っています。彼女はわれとわが身を滅ばすに違いあり 美しい心を持った、天使のように純潔な彼女が、そういうこ ません。彼女は自分を知らないのですが、ばくは彼女を知っ とを〈聞か〉されるかもしれないのです ! どうでしよう ? はたしてこれが起こり得ないことでしようか ? 何かそれにています , 彼女自身の申し出によって、ばくは彼に何もかも、事件に 似たようなことが必ず起こります。それにグズネーッグの 関するいっさいの見解を書いてやる決心をしました。という ばくの心は張り裂けそうです。ばくは彼女の幸福を自分ののは、別れるとき、彼女の心はまた完全にばくのほうへなび いて来たからです。彼とも親しい間柄になりました。彼はば 幸福以上に考えています。ばくは彼女とこういうことをすっ しかし、ただ泣くだけが能の男で せんぶ話しつくすことはできませくの前で泣きましたが、 かり話し合いました。否、・ ん、わずか十分の一くらいなものです。彼女はじっと聞いてす ! ばくには自分のいかがわしい立場がわかっていまし いましたが、ぎよっとした様子です。しかし、女にあってた。なにしろ、ばくが二人に意見をして、その将来を説いて 聞かせ始めるや否や、二人ながら、あれは自分のためにやっ は、感情のほうが良識の示す自明の理にさえ勝を制するもの です。ばくの説いて聞かせたもっともな意見も、あれは競争きとなっているので、わざと未来の恐ろしいことを考え出し 者を攻撃して、自分に取り入ろうとしているのだ、という考ているのだ、というでしよう。おまけに、彼は彼女といっし ょにいるのに、ばくは遠く離れています。案の定そのとおり えに破れてしまいました ( どうも仕方がありません ) 。で、ば くは彼の弁護をしたのですが ( 日く、彼はそんなふうの人間でした。ばくは彼と彼女に宛てて共通の長い手紙を書いてや ではあり得ない ) 、何ひとっ彼女を説伏することができませりました。つり合わぬ結婚から生じ得るいっさいの結果を開 んでしたが、疑惑の念だけは残したわけです。彼女は泣いて陳してやったのです。ばくの身に起こったのは、ちょうどジ 煩悶しました。ばくはかわいそうになって来ました。と、そル・プラスがグレナードの大主教にほんとうのことをいっ ま た、あれと同じわけです。彼女は返事をよこして、まるでば のとき彼女の心はすっかりばくのほうへ向いて来た、 くが彼を攻撃したかなんそのように、むきになって彼を弁護 くが気の毒になったのです ! 友よ、彼女がなんという天使 のような女か、それがきみにわかったら ! きみはついそ一するのです。ところで、彼はいかにもグズネーッグふうにば かばかしく 、ばくの親友としての、兄弟としての哀願を ( な 度も彼女を知らなかったのですが、一刻一刻何か新しく、独 自なもの、良識の働きを示すようなもの、警抜なものが閃めせなら、彼自身がばくに友情と兄弟同士の交わりを乞うたか らです ) 、自分に対する人身攻撃であり、侮辱であるように解 くのですが、また逆説的なもの、限りなく善良なもの、真に
あなたの運命が変わらない以上、試験がうまくいったら、あれの周囲に糧を求め「高潔ならざる空想」の不自然な努力で、 なたの運命にどんな変化が生じるかは、もちろんあなたもおわれとわが身を萎え疲らしているのです。まったく、あなた わかりでしよう。まあ、これだけのことでもあなたの生活にの生活はどんなに淋しいでしよう。人が自分の迷いを感じ、 起こるんですからね、優しい兄さん ! ばくが自分の友情におのれのはかり知れぬ力を自覚しながら、それが誤った行 ・ : さもなければ悲しみをわかちう為、おのれに値しない不自然な行為のために費やされたのを よって、あなたと幸福か るのに、自分の弟から信頼を剣奪するのが、たいして残酷な悟った時、心の焔が何かえたいの知れないものにもみ消され たことを感じ、胸が千々に引き裂かれた時、その人の生活に わざでないなどと、 いったいあなたは思っているのですか、 なっかしき友、ああ ! 優しい兄さん ! 神も照覧あれ、兄残された時間は、どんなに苦しいものか知れません。しか さんはばくを未知の中にうっちゃっているのです、こんな悩も、なんのためでしよう ? 巨人ならぬ侏儒、一人前の人間 でない嬰児相応の生活のためなのです。 ましい未知の中に。 いったいあなたはどうしたのです、兄さん ! あなたの空ここでもまた友情がぜひ必要です。なぜって、その時は心 とはいいますまい、 運命があなたの目の前でそのものが、断ちがたききずなによって結ばれてい、偶然の 想は、 一閃の光を投じ、あなたの生涯の暗い遠景に明るい一隅を示前にさながら運命の命令でも聞いたように意気沮喪し、自分 したもの、心が多くの希望と幸福を約したもの、せめてそれの心の気まぐれの前にうなだれ、つまらない蜘蛛の巣を恐ろ だけでも実現しましたか。時、時こそ多くのものを示してくしい網と思い誤り、その中からだれ一人のがれることができ れるのです。ただ時のみが、われわれの生涯のこうしたおのず、いっさいがその前で悄然とするように思い込むのです。 おのの時期の有する意義を評イ 襾し、明瞭に決定してくれまそれはすなわち、運命が真に天帝の命令となる時です、つま このり、われわれの自然性ぜんたいのカで、否応なしにわれわれ す。それは、兄さん、こんないい方を許してください、 精神的、心情的行為が、完全な人間生活のうちにおける自然に作用する時なのです。 な希求として、はたして純であり、正しいものであり、澄ん ばくはこの手紙を一時中絶していました。勤務にまぎれて だ明るいものであるか、あるいは間違った、目的のない、空 いたのです。ああ、兄さん、ばくたちがどんな生活をしてい しばしばおのれを理解せず、しばし 簡しい行為であるか、 ば幼な子のごとく無分別な、孤独なる心に生じた迷いであるるかということについて、あなたがほんのちょっとでも理解 書かどうかを、ただ時のみが決定してくれます。もっとも、そを持っていたら ! しかし、なっかしい兄さん、少しも早く引
書 は期待し、悩んでいるのです。しかし、も少し待ってごらん のでしようか ? ( あまり事が外へ洩れないようにして。 ) ・ なさい。生活は最後の勝利を博します、ばくはそれを確信し ルゴルーキイに照会したものでしようか ? なんと思案した ものか、まるきり見当がっきません。善良無比なアレグサンています。多くのものはまだ前にあるのです : : : それにして ドル・エゴーロヴィチ、もし何か聞き込んだら、後生ですからも、ばくはきみに会って、話がしたくてたまりません ! ポ ろ、ろ、、うわさを聞いてい 知らせてください、お願いします。ほんとうにもう待ちきれロンスキイ ( 詩 ) こっ、てま、、 トミートリイ・ポルホフスキイこま、こ ) ません。まるで鉄道の駅で暮らしているような気持ちです。 ます。きみの知人・ 無駄に時を浪費して、仕事のほうも損ばかりしています。ばで会いました。しかし、リヴォアのことは、まるでだれのこ とかわかりません。 ーデンの出来事というのは、なんのこ くの仕事というのは、著作集を売ることで、つまり、金の問 とですか ? まったく初耳です。ああ、なんということでし 題です、したがって、ばくにとっては重大なことなのです。 きみもばくも だって、ばくはただそれだけで食ってるんですからね。しか きみと別れて何年になることやら , しかし、多くの体験を積んだわけです。 し、そうはいっても、まだ希望を失ってはいません。神様と年をとりましたが、 トヴェーリには二、三の知人がいますが、ばくは退屈でた 皇帝は、おめぐみぶかいのですから : 非常に大きな関心をいだきながら、きみの手紙を通読しままりません。きみの書物は輸送中いくらか摺れましたが、中 には助かったものもあります。鉱物のコレグションは、ばく した。貴き友よ、きみは自分の心について、いったいなんと いうことを書いて来られたのです、もう前のように生きて行のところには表があるだけで ( それも今はどこにあるかわか くことはできないなんて ? しかも、それはいつのことなのりません ) 、そのほかには、やっと鉱石標本が三つか四つ です ? たった二十六歳じゃありませんか。いったいそんならいなものです。ばくはそれをセミパラチンスグに置いて来 ことがあっていいものでしようか ? ただもうきみは自分のました。コレグション全体はどこへ行ったものやら、ばくは あいくち 知りません。獲物袋と小さい匕首 ( カ・ハンの中に入っていた 力を知らないのです。二度こころの熱病を経験しただけで、 もの ) は、ばくの私有物ということにしました。というのは、 もうすべてを消耗しつくしたと思っていられるのです。もっ とも、そう考えるのも無理はないです。新しいものがない時きみが何もかもばくに贈ってくだすったからです。ばくもま / ーノフに贈りまし たあそこを発っ時、小さな匕首をヴァリ、 は、もうすっかり死んでしまったような気がするものですか た。その点はどうぞおゆるしを。ヴァリ、 / ーノフは実に愛す 簡ら、みんなそんなふうに考えるものです。しかし、人間の心 は生きもので、生を欲します。きみの心もやはり生を欲してべき、また実に注目すべき人物です。どうやらペテルプルグ にいるようですね ? きみにあの男のことを書いてやりまし います、 それは心の新鮮さとカのしるしです。きみの心
ているのです。そういうわけで、かけがえのないなっかしい も承知しています。ばくが潔白な男で、彼女を幸福にするカ 友よ、お願いです、後生です、ばくのことをくよくよ心配しを持っている、ということも知っています。ばくは年に六百 . ループリしかいりません。年々それだけの金を手に入れるた 疑ったりしないように、何よりも第一、ばくを思いと まらせようなどとしないでください。いっさいはもう手遅れめに、ばくはただ一つのことを期待しています。それはほか な 0 す〈ら。く 0 決意」不変、おまけ」あなた 0 返事でもな」、皇帝 0 お慈悲 = す、われわれを支配して」られる一 が届くころには、もう何もかもすんでいるかもしれません。 われわれの崇拝してやまぬお方の慈悲心です。ばくは、作ロ あなたの反対や、想像や、忠告の意味は、すべてばくによく発表の許可に望みをかけています。ばくは自分の希望が空中 わかっています。それはみな立派なもので、ばくはあなたの楼閣でないという確信を、あえて心に抱いています。叡明な 優しい愛情にみちた心を信じて疑いません。しかし、あなたるわが元首が、あの天使のごとき心の持主が、ばくにも一瞥 の忠告がいかに立派な良識から出たものであっても、それはを投げてくだすって、ばくでもカ相応に有益の材となること 無駄になるでしよう。あなたはきっとこういわれるでしよう、 を、お許しくださるものと嘱望しています。ところで、自分 三十六にもなったら、肉体は平穏を欲するもので、重荷の力には、許可さえ得れば自信があります。かけがえのない を背負い込むのは苦しいことだ、と。それに対して、ばくは兄さん、後生ですからばくの言葉をから威張りだなどと田 5 わ 、。くの文名は亡びたものではないというこ なんにも答えますまい。あなたは、「なんで暮らしていくのないでくださし冫 だ ? 』といわれるでしよう。ごもっともな問いです。というとをわかってください、堂々と確信を持ってくださいオ " のは、もう結婚した以上、あなたにばくら夫婦を養ってもらは七年間にうんと蓄ったし、思想は澄んで、確固として来ま した。で、各人が世を益せんがために、貧者の一灯を献げて おうなどと当てにするのは、ばくとしてもちろん、恥ずかし いことであり、不可能なことです。しかし、かけがえのない いる今この時に当たって、ばくだって有用の材となることを わが友よ、ばくら夫婦が二人で暮らしていく。 こよまんの少し、拒まれはしないでしよう。ばくはそれを信じ、期待して、元 ごく少ししかいらない、ということを承知してくださし冫 、。ま首のご決定の前に敬虔の意を表している次第です。もし発表 くはマリヤ エヴナのことは何も書きません。そを許されたら、年に六百ループリは自信があります。子供が れは性格からいっても、頭脳からいっても、心からいつ、も、できるかもしれないという心配は、まだ先のことです。よ 簡千人に一人も見つからないような女なのです。彼女は、ばく しんばできても、ちゃんと育てます、それを信じてください。 がわずかなものしか提供できないことを知っていますが、わもしかしたら、こまごました煩いがばくを疲憊させるだろ う、といわれるかもしれません。しかし、考えても見てくだお 書れわれが非常にこまるようなことは決してない、ということ
し立てする質だといいました。しかし、以前の空想もすでに群集の空虚な叫びなどは取るに足りません。あっ、そうだー ばくを見棄てたし、かってばくの創り出した素晴らしいアラばくは群集と詩人を歌った、プーシキンの詩の二行を思い出 しました。 ベスクも、その金箔を落としてしまいました。ばくの魂や心 を燃やしていた思想も、今では焔と熱を失いました、それで ( 群集は ) なれの火の燃ゆる祭壇に唾して なければ : : ばくの心が硬化したのか、あるいは : : : それか 幼な児の戯るるごと、なれの書台を揺がしつ : もし過去のいっさいがたた らさきはいうのも恐ろしい 金色の夢であり、絢爛たる妄想であったとすれば、それはロ ね、 しいじゃありませんか ! さよなら。友にして弟なる にするのも恐ろしい ・ドストエーフスキイ 兄さん、ばくはあなたの詩を読みました : : : それはばくの 一、 , ) du Chris ・ シャトープリアンの書しオ そうだ ! 魂から幾滴かの涙をしばり出し、楽しい追檍のささやきで、 いっとき心を静めてくれました。あなたは戯曲の案があるそ ( 一 an オ me ご ( 「キリスト教の精神しの根本思想を知らせてくだ : ああ、もさい。この間、ばくは『祖国の子』誌で、ヴィグトル・ユー : ぜひ書いてください : うですね : : : うれしい しあなたが天国の宴のわずかな残りものさえ与えられていなゴーを論じた批評家ニザールの文章を読みました。ああ、ユ ーゴーはフランス人の間でなんと低く評価されてることでし かったら、その時あなたに残されているのはなんでしよう : ばくは先週イヴァン・ニコラエヴィチに会えなくて、残よう。 = ザールは彼の戯曲や小説を、なんとくだらないもの 念でした、病気だったのです ! ねえ ! ばくはこんな気がに見てるのでしよう。フランス人は彼に対して公平を欠いて います。そして、ニザールも ( 賢い男ではあるけれど ) 、でた します、名誉も詩人のインスビレーションを助けてくれます らめをいっています。それから、もう一つ、兄さんの戯曲の ね。パイロンはエゴイストで、彼の名誉を思う心は瑣末で、 きっと立派なものだと思いま 虚栄から出ています : : : しかし、いっかその中に、兄さんの根本思想を知らせてください。 往時の感激につづいて、純粋で高遠な、美しい魂が、塵ひじす。もっとも、ドラマ中の諸性格を考案するのには、十年の の中から飛び立ったらと、ただそう思うだけで、また天の神歳月も不足なほどですが : : : ああ、兄さん、あなたが貧乏な 秘であるインスビレーションが、われわれの涙をそそいだ書のは実に残念ですね ! 思わず涙がこばれます。そんなこと 物のペ 1 ジ、われらの子孫も涙をそそぐであろうべージを聖がいつばくたちの身にあったでしよう ? ああ、ついでなが こういう考えが、創作の最中に詩ら、兄さん、あなたの命名日と、それからもうすんでしまっ 化したらと考えると、 たけれど、誕生日のお祝いをいいます。 人の心に忍びこまないなどとは、ばくには考えられません。 つばき 3
をム、し ト心にゞいこ二一 .
Z ・そのお言葉は自分のこととして受け取りません。わ情を恐れずに、前よりもっとあなたに信服する可能を与えて たしがあなたに対してなんで霊の透視者なものですか ! ) 要くれました。わたしは無私の心であなたに信服していること 求なさる忠言については、同じことですが、それについて何が、これから先きも自分でわかります。 を忠告することができるでしよう ? それはあなたご自身、 さよなら、優しのきみよ、あなたのかわいい 、悪戯っ子ら わたしより千倍もよくご承知です。あなたはごそんじでしょ しい手を、敬虔の念と信頼をもって接吻し、かっ心から握手 一方からいえば幸福であり、天恵ではあるけれどします。 も、また一方からいえば、不安であり、苦しみであり、健康 完全にあなたの・ドストエーフスキイ を傷つけることであり、また感情そのものも前とは違って来・ミハイロフの文章のことはあとでお話しましょ るでしよう。自由が減じて、隷属のほうが多くなるでしょ う。ご主人はしよっちゅう。ハーヴロフスクへ遊びに来いと、 う。わたしのいうことはこれだけで、そのほかはご自分で判しきりにいってくれました。ところが、ちょうど一週間たっ 断してください。尊き友よ、お目にかかれるでしようか ? のに、わたしはまだ行っていません。いろんな雑用が山ほど 七月にはきっとモスグワへ行きます。二人で、心の底から話あるものですから。 ができるでしようか ? あなたが高潔なやさしい心をもって 7 ・・ミリ = コフへ僉家 ) わたしを信頼してくださるので、わたしはどんなに幸福でし よう、友よ、そうなんです ! わたしはざっくばらんに申し ^ ペテルプルグ、一八六〇年九月十日〉 ますが、わたしはあなたを心から熱烈に愛しています。それ親愛なるアレクサンドル・ベトローヴィチ。取りあえずお は自分のほうから、あなたに恋してはいないといったくらい知らせしますが、小生は日曜日に出発しません。おそらく火 ーしミリューコフ です。というのは、あなたの正しいご意見を尊重したからで曜日になるでしよう。そういうわけで、洗ネ ( の子の洗礼 ) を あって、あなたがわたしから信頼をお奪いになったような気することができるようになりました。貴兄のほうからも市内 がした時は、どんなに悲しんだでしよう。わたしは自分で自便で、明日の洗礼式は何時になるかご一報を願います。小生 分を責めました。それこそ苦しい思いでした , しかし、限の想像では、晩蒋式のすぐ後ではないでしようか。 りなく、優しいきみよ、あなたの手紙で、何もかも散ってし 小生は執筆に着手しました。まだどんなことになるかわか 簡まいました。どうかあらゆる幸福をお受けになるようにー りませんが、背中も伸ばさずに仕事をする覚悟です。 完全に貴兄の・ドストエーフスキイ わたしはあなたに恋していないことを確信して、どんなにう 書れしいかわかりません ! それによって、わたしは自分の心
簡 6 兄ミハイルへ 書ペテルプルグ、一八四〇年一月一日 やさしい兄上、なっかしいお便り、心からお礼申します。 ど大きなお慈悲ですが、このことはわたしの、いにいろいろの いや、ばくは兄さんとは違います。兄さんの手紙を受け取っ 感情を烈しく呼びさましました。それは以前のことすべてに 関する追憶と、羞恥の念と、悔悟の苦しみです。われながらた時、ばくがどんなに甘い胸のときめきを覚えるか、あなた 自分が悪かったと思います。ゆるしていただけるなどとは望はとてもほんとうになさらないでしよう。しかも、ばくは自 んでいませんが、もしお二人がわたしに手紙を書くことを許分で新しいまことに奇妙な享楽の方法を案出したのです。そ してくだすったら、 せめて妹に手紙を書くことを許してれは自分を悩ましい思いにさせることです。あなたの手紙を くだすったら、わたしにとってこのうえもないお慈悲です。取り上げると、それをしばらく手の中でひっくり返して、ず わたしにとって貴重なことのすべてを、妹から知ることがでつしり重いかどうか計ってみて、封筒を十分ながめて楽しん きるでしよう。なっかしい伯父上、伯母上、わたしはこの新だ後、ポケットへ蔵い込む : : : これがばくの心と、感情と、 年を、お二人のご無事と幸福を祈ることによって迎えました魂にとって、どんなに甘美な楽しみになるか、あなたはとて こんなふうにして、時と もほんとうにできないでしよう ! が、この新しい年は、わたしの改心を証明してくれるでしょ 、つ 0 すると十五分くらい待つのです。それから最後に、猛然と封 来年は、お二人にたいする心からなる愛情と、お二人がわ筒に飛びかかって、封蝋をこわすと、兄さんの筆のあとを、 たしの家族に示してくだすったお情けにたいする感謝の念をなっかしい筆のあとを貪り読むのです。ああ、それを読みな 、ら、ばくの心は、感慨無量なのです ! あるいはなっかし 披瀝し、かっ神聖な愛情と、尊敬と、信服の念を、たえずいが あるいは不快な、あるいは甘美な、あるいは苦い、種々 だき続けることによって、お二人のご好意をうるように努めい、 さまざまな感じが、心に群がるのです。そうです、兄さん、 ます。従順なる甥 ・ドストエ ] フスキイ不快な感じも苦い感じもあります。自分の気持ちが相手に通 じないで、自分のいおうと思ったのとはまるで別に、すっか り違ったふうに解られ、醜い形に歪められたら、どんなにつ 一八四〇年 らいものかってことは、兄さん想像もできないくらいでしょ う・・・・ : あなたの手紙を読み終わった時、ばくは un enragé ( 気ちがい ) でした。というのは、あなたがそばにいないから です。心に秘めた美しい空想も、経験、ーー・永年の苦しい経 験によって与えられた神聖無比な規範も、歪曲され、片輪に引