アルカーシャ、アルカーシャ、なにをするんだ ? 後生だんだ ! え ? 」 、から、放してくれ、燕尾服がめちゃくちゃになる ! 」 「アルカーシャ、本当に駄目なんだよ ! 」 「そんなこと聞く耳もたん : : : 」 「そんなこと、こっちの知ったことかい、なんだってお前に 無尾服がいるんだ ? 自分のほうからばくの手にひっかかる 「よし、アルカーシャ ! 」ヴァーシャは寝台に横向きに倒 なんて、お前はなんて軽はずみなやつだ ? 言え、どこをうれながら、自分の言葉に能う限りの威厳を持たせることに らついていた、どこで飯を食った ? 」 全力を尺、くしていい始めた。「アルカーシャー 話すよ、た 「アルカーシャ、たのむ、放してくれ ! 」 「うん、なんだ ! 「どこで飯を食った ? 」 「あの、ばくは婚約したんだ ! 」 - 「だから、それを話そうと思っていたんだ」 「じゃ、話せ」 アルカージイ・イヴァーノヴィチはひと言もいわず、けっ 「さきに放してくれ」 して短いとはいえない、いな、むしろ細いが長いヴァーシャ 「ところが、駄目だよ、いうまで放さん ! 」 を両手に抱き上げて、子供をあやすような恰好をしながら、 「アルカーシャ、アルカーシャー だって、きみだってわか器用に部屋中を歩き始めた。 るだろう、だって駄目だよ、とてもいえないよ ! 」微力のヴ「さあ、花婿どのにおしめをしてやるよ」と彼はいった。し アーシャは敵の強い腕からのがれようと、もがきながら叫んかし、ヴァーシャが彼の腕の上に身動きもしないで横たわ ・だ。「話が話だからさ ! 」 り、一言も発しないのを見て、すぐ考え直し、冗談が過ぎた 「よア」、 ことに気がついた。彼はヴァーシャを部屋の真ん中におろし 「そうだよ、しかも、こんな恰好で話せば、威厳も何もなくて、すこぶる真剣な、友情のこもった態度で彼の頬に接吻し なってしまうような話なんだ。とてもできない。笑い話にな ってしま、フ。ところが、これはまったく笑い話じゃなくっ 「ヴァーシャ、怒ってやしない ? 」 て、重大なことなんだから」 「アルカーシャ、聞いてくれ : ・・ : 」 「へん、こんな男が重大なことだって ! 何を考え出したん「よし、新年の用意にな」 だ ! おれが笑いたくなるような話をしろ。さあ、話せ、重「ばくなんとも思っていないよ。しかし、きみはどうしてそ 大なことなんかばくは好かん。そんなことで、なんの親友とんな気ちがいなんだい、あばれ者なんだい ? なんべんいっ いえるものか ! さあ、いえ、お前はいったいどんな親友な たかしれないじゃないか。アルカーシャ、本気だよ、本気だ ) 0 8 2 2
カーシャ」とヴァーシャは半ば笑いながらつづけた。「これ 「じゃ、怒ってないね ? 」 ではまったイ滑檮な恰好じゃないか。ばくはあの時、なんだ 「なんとも思っていないよ。いつだって、だれにも怒ったこ か自分でも自分のような気がしなかったのだ。ばくだって、 となんかないじゃない、 この事柄をみずから卑しめるようなことはできなかったろう しかし、きみはばくをひどく非 しませたぜ ! 」 じゃないか : : : むろん、きみが彼女の名を聞くようなことで 「どうして悲しませたんだ ? どんなことで ? 」 もあれば、それこそ誓っていうが、殺されたっていわないっ 「ばくはきみんとこへ、親友として、信頼をもって、自分もりだった」 「それにしても、ヴァーシャ、なんだって黙っていたのだ ! の真情をうち明けに、ばくの幸福を語りにやって来たんだ きみがもっと早くいってくれたら、あんな冗談をしやしなか ったのに ! 」とアルカージイ・イヴァーノヴィチはしんじっ 「どんな幸福だい ? なぜいわないんだ ? : 「だからさあ、ばくは婚約したんだよ ! 」ヴァーシャは実絶望して叫んだ。 「たくさんだよ、たくさんだよ ! これはただちょっといっ 際、少々腹を立てたと見え、憤怒を含んで答えた。 「きみが ! 結婚するんだって ? じゃ、本当なんだね ? 」て見ただけさ、きみもわかってくれるだろうが、これという のも、つまり、 つまり、ばくが善良だからよ。ただばく アルカーシャはとてつもない声で叫んだ。「いや、いや : こりやいったいどうしたことだ ? そんなことをいってるく はね、きみに思ったとおりを話し、喜びを分かち、幸福をも せに、涙を流してるじゃないか ! : ヴァーシャ、ばくのヴたらし、よく語り、立派にばくの秘密をうち明けられなかっ アシューク、おれの伜、もうたくさんだよー しかし、本当たのが、いまいましかっただけさ : : : むろん、アルカーシ かい ? 」こういって、アルカージイ・イヴァーノヴィチは再ヤ、ばくはきみを愛してるさ。きみがいなかったら、ばくは び彼に飛びつき抱擁した。 結婚もしやしないし、第一、この世に生きていないだろうと 「ねえ、わかるだろう、どうしてこんなことになったか」と思うくらいだ ! 」 ヴァーシャはいった。「きみは善良だ、ばくの親友だ、これ並はずれて感じやすいアルカージイ・イヴァーノヴィチ はちゃんとわかってる。ばくは何もいえないくらいの喜びと は、ヴァーシャの話を聞きながら、泣いたり笑ったりした。 内心の感動をいだいて、きみんとこへ帰って来たんだぜ。そヴァーシャも同様であった。二人は再び相擁して、ついさっ れだのに、ばくは寝台の上で横向きにもがきながら、威厳をきのことなんか忘れてしまった。 弱失ってきみにうち明けなけりゃならなかった : : : ねえ、アル 「いったいそれはどうしたというんだ、いったいどうしてそ幻
が痛むよ ! どうも困ったものだ ! きみはいつもそんな調ュムコフを見た。シュムコフも彼を見て、につと笑い、指を 子でばくを極めつけるんだ、いきなりがみがみどなり立てて一本立てておどかす真似をした。それから、恐ろしく眉をし さ ! まあ、考えても見たまえ、 いったいどうしたというんかめて ( このしぐさに仕事に対する努力と成功がことごとく だ ? なに、片づけるよ、きっと片づけるよ : 含まれているかのごとく ) 、書類に目を据えた。 「もしできなかったらどうするんだい ! 」とアルカーシャは見たところ、彼もまだ自分の興奮を鎮めることができない 飛びあがって叫んだ。「きようきみは賞与をもらったんだろらしかった。べンを換えたり、椅子の上で体をもじもじさせ ・いやはや、ど う ! それだのに、婚約なんかしちまって : たり、姿勢を直したりして、再び筆写に取りかかったが、そ の手は陳えて、いうことを聞こうとしなかった。 「アルカーシャ 「大丈夫だよ、大丈夫だよ」シュムコフは叫んだ。「すぐに ばくはきみのことをあの母娘にいった 取っかかるよ、今すぐ取っかかるよ。大丈夫 ! 」 よ ! 」彼はやっといま思い出したように、突然こう叫んだ。 「ど、フしてうっちゃらかしにしていたんだ、ヴァシュ 「そ、つかし ! 」とアルカーシャはーんだ。「ばくもいまき , ) カ ? 」 うと田 5 っていたとこなんだよ、それで ? 」 「だって、アルカーシャ ! じっとしていられまいじゃない 「それでね : : : あっ、そうだ、後ですっかり話すよ。まった ばくはうちょうてんだったんだからね ! 殳所にいるくばくが悪かった、四ページ書くまで話すまいと思っていた のさえやっとだったんだからね。じっとしていられなかったのを、とんと度忘れしてしまった。ふときみやあの人たちの んだ : : : ああ ! ああ ! 今夜は徹夜だ、明日も徹夜だ、明ことを思い出したもんだから。きみ、どうも書けない。きみ そうすればできあがるよ ! ・後日も同じこと、 のことばかり思い出してね : : : 」とヴァーシャは徴笑した。 「たくさん残ってるのか ? 」 沈黙がつづいた。 「ちえっー 「邪魔しないでくれ、頼むから邪魔しないで、黙っててくれ」 なんていやなペンだ ! 」シュムコフは腹立ちま アルカージイ・イヴァーノヴィチは爪立ちで寝台に近づぎれにペンをテープルに打ちつけて、こう叫んだ。彼はほか き、腰を下ろしたが、また急に立ちあがろうとした。けれどのと取り換えた。 「ヴァーシャー も、邪魔になってはと思い直して、興奮のためじっとしてい 聞いてくれ、たったひと言 : 心られないのを我慢して、また無理に腰を下ろした。友の報ら 「さあ、早くいってくれ、これが最後だよ」 せが彼の心を動させたのはありありと見えていた。し 「たくさん残ってるかい ? 」 弱も、最初のよろこびはまだ消えつくしていなかった。彼はシ 「ああ、きみ ! 」地上にこれ以上恐ろしい、人泣かせな質 おやこ 2 ・
/ > , 刀 3 ・ シャの手に落ちるのを嫌って、空中に飛び去りはしよ、 「そこの角にマダム・レルーの素敵な店があるんだ ! 」 と、恐れてでもいるような目つきであった。 「うん、それで ? 」 「そら」とアルカージイは一つの帽子をさしていった。「ば 「帽子、きみ、帽子なんだよ。今日とてもかわいいのを見つ / 、はのほ、つ、がしし と田 ~ つが」 けたんだ。聞いて見たらね、マノン・レスコーって型なんだ さすがにきみだ。ばくはきみの趣 とさ 素晴らしいんだよ ! ビンクのリポンがついて「うん、アルカーシャー いや、アルカーシャ、よし味に対して特別に尊敬を払いたくなるよ」ヴァーシャはアル さ。もしあまり高くなければ : カーシャに対する友情を胸に感じながら、ずるくとばけて見 んば高くたって ! : 」せた。「きみの帽子は素敵だ。しかし、こっちへ来て見たま 「きみは詩人以上だよ、ヴァーシャ ! 二人は駆け出した。そして、二分の後には、早くも店へ入え ! 」 「これよりいいのがどこにある ? 」 っていた。彼らを迎えたのは、目の黒い捲き毛を垂らしたフ 「これを見たまえ ! 」 ランス女であった。客を一目見るやいなや、たちまちそれと 同じように楽しい幸福そうな、いな、もしそういうことがで「これかい ? 」とアルカーシャはうさん臭そうにいった。 しかし、ヴァーシャがもはや辛抱できなくなって、木の台 きるならば、より以上幸福そうな様子をした。ヴァーシャは 嬉しさのあまり、マダム・レルーを接吻しかねまじい勢いでからさっと取ると、帽子は長い期待の後にこのようないい買 い手が見つかったのを喜んで、不意に自分で飛んで来たよう あった : リューシュ に隸われた。帽子についているありったけのリポンや、襞紐 . 「アルカーシャ ! 」店の大きなテープルの上の小さい木の台 に載っている美々しい、立派なもののすべてに、普通だれでや、レースがさらさらと音を立てた時、アルカージイ・イヴ アーノヴィチの逞しい胸から、思いがけない歓喜の叫びが もするような視線を投げると、彼は声を落としていった。 「素晴らしいね ! これはどうだ ? これは ? おい、ちょ発せられた。客が品物を選んでいる間、趣味の問題に関する 自己の動かない権威と優越を保ちながら、ただ謙遜のために っとこれを見ろ ! 」とヴァーシャは端のほ、フにあるかわいい 帽子を指さしてささやいた。しかし、それは買いたいと思っ沈黙を守っていたマダム・レルーでさえ、満面に賛成の徴笑・ を浮かべながら、ヴァーシャの労に酬いた。で、彼女の視 ているのではなかった。というのは、もう遠くのほうから、 ト于こ、「まあー 線、身振り、その微笑、ーーー何もかもが一日し 反対の端にある音に聞こえた正真正銘のマノン・レスコ 1 ・ に、目をつけていたからである。それは、だれかがひっさらお見立てのお上手なこと。これこそあなたを待っている幸福 にふさわしいものですわ」というのであった。 。オしカそれとも帽子そのものがヴァ って盗んで行きましよ、ゝ、
シャ ! おりはこうなんだ」彼は興奮のために、のべっ言葉を休めなが 8 うなったんだ ? すっかり話してくれ、ヴァ 兄弟、ゆるしてくれ、ばくは驚いた、まったく驚いた。 ら語り始めた。「去年のこと、彼女にいいかわした男があっ いや、いや、嘘だ、嘘にちが たんだが、急にどこかへ派遣された。ばくはその男を知って まるで雷に打たれたようだ , でも、まあ、あんなやっ いない、きっとばくをかついだんだ ! 」とアルカージイ・イるが、とてもひどいやつでね、 ヴァーノヴィチは叫び始めた。偽りならぬ疑惑をもってヴァのことなんかどうでもいいや ! さて、それがばったり消は ーシャの顔を眺めさえした。しかし、彼を見ていると、できを絶って、行方不明になってしまった。彼女は待ちに待った : ところが が、それはどんなにつらいことだと思う ? ・ るだけ早く結婚しようという意図は間違いなく、その証拠も 輝かしく現われているので、いきなり寝台に飛びあがり、歓四か月前、とっぜん女房をつれて帰って、娘のとこへは足踏 オしカ ! 卑劣なやり みもしやがらない ! 実にひどいじゃよ、、 喜のあまり壁が揺らぐばかりに転がり廻った。 「ヴァーシャ、ここへ掛けろ ! 」っいに彼は寝台の上に坐っ方じゃないか ! むろん、だれ一人として娘の味方になって てこう叫んだ。 やろうというものもない。かわいそうに、娘は泣きの涙で暮 「もう、きみ、まったくのところ、何から話していいやらわらしていた。つまり、その娘にばくは恋をしたんだ : : : ずつ と前から、いつも恋していたんだ ! ばくは慰めにせっせと からないんだ ! 」 行ってやった。そこで、ばくもまったくのところ、どうして 二人は喜ばしい興奮のうちに互いに顔を見合わしていた。 「だれなんだ、ヴァーシャ ? 」 そんなことになったかわからないが、 , 彼女もばくを好いてく : 」とヴァーシャは幸福のあれるようになった。一週間前、ばくはこらえきれなくなっ 「アルテーミエヴァの娘だー まりカぬけのした声でいった。 て、涙を流し、すすり泣きしながら、彼女にすべてをうち明 「嘘だろう ? 」 その、彼女を愛していることをーーーっまり、すっ 「さあ、ばくは初めあの母娘のことを、耳にたこのできるほ かり話したんだー ・「あたしも、いつでもあなたを愛する どきみに話したもんだが、その後なんにもいわなくなったのことができますわ、ヴァシーリイ・ベトローヴィチ、でも、 で、それできみはちっとも気がっかなかったのさ。ああ、アあたしは貧乏な娘ですもの、どうぞからかわないでください ルカーシャ、きみに隠しておくのがどんなにつらかったか。 な。あたしなんぞだれかを愛しようなんて、そんな勇気はご でも、怖かったんだ。話すのが怖かったんだ ! すっかり駄ざいませんの』というんだよ。ねえ、きみ、わかったろう ! : ばくたちはそこで、言葉だけの約 目になってしまうような気がしてね。なにしろ、ばくは恋しわかってくれるかい ? ・ てるんだからね、アルカーシャ ! ああ、ああ ! 事の起こ東をしたんだ。ばくはさんざん考えた末、「お母さんにはど おやこ
4 問はないかのように、ヴァーシャは眉をしかめた。「たくさ 「うん、そうだ、そうだ ! ただ明け方に一寝入りすればい 3 、 ん、とってもたくさんあるんだ ! 」 「実はね、ばく、名案があるんだが : 「寝るものか、どんなことがあっても寝るものか : 「何 ? 」 「いや、いけない、それはいけない。ぜひ一寝入りしなくち し冫オしよそう。書きたまえ」 ゃいけない。五時になったら寝るんだ。八時には起こしてや 「え、なに、なんだね ? 」 る。明日は祭日で休みだから、いちんち家にいて書けるから 「いま六時すぎだよ、ヴァシューグ ! 」 ね : : : それから夜も : : : だが、たくさん残ってるのかい ? 」 「これ、これだけ ! ネフェーデヴィチはにやりと笑って、ずるそうにヴァーシ : 」ヴァーシャは期待と喜びに慄えな ヤに目配せした。しかし、相手がその合図をどう取るかわか がら、手帳を見せた。「これだけだ , らないので、いくらか臆病そうであった。 「なんだ、きみ、これじや大したことはないじゃな、、 . 「え、なんだい ? 」ヴァーシャはすっかり書く手を止めて、 「きみ、まだあっちにあるんだよ」行くか行かぬかの決断が ひたと友の目を見つめながらこういったが、その顔は期待の 一に彼にかかっているかのように、おずおずとネフェーデヴ ためにやや青ざめたほどである。 イチを見ながらヴァーシャはいっこ。 「何かわかる ? 」 「どの / 、らい ? 」 「後生だから、早くいってくれ」 「いやあ、なんだ ? ねえ、きみ 「実はだねえ、きみは興奮しているから、大した仕事もでき やしまい : : : 待ってくれ、待ってくれ、待ってくれ、ね、 にム日っしょー・」 「アルカーシャ いかね ! 」ネフェ 1 デヴィチはうちょうてんになって寝台 から飛びあがり、話し出そうとするヴァーシャを抑え、全力「ヴァーシャ、まあ、聞けよ ! もうすぐ新年だ。今はだれ をあげて反駁をしりぞけながらいい出した。「先ず第一に気でも家庭の懷ろに集まっているんだぜ。ところが、きみとば 手口ドしゃよ、、 を鎮めて、、い持ちを落ちつけなくちゃならない、そうだろくだけが家なしの独り者とは情けない言 十 / . し、刀 ' ・ヴ , ア シンカー・」 「アルカーシャ ! アルカーシャ ! 」とヴァーシャま十 1 ↑ナ ネフェーデヴィチはぶ骨な手つきでヴァーシャを抱き、獅 いすから跳びあがって叫んだ。「ばくは徹夜するよ、きっと子のような抱擁の中に締めつけた : 徹夜するよ ! 」 「アルカージイ、話はきまったよ ! 」 、間に合うよ、大丈夫、
「三百だって : : : じゃ、ユリアン・マスタコーヴィチは ? 「いや、もちろんだよ、もちろんだよ : : ばど、は別に . 何、も認 きみ、忘れたのかい ? 」 「ユリアン・マスタコーヴィチ ! しかし、それは、きみ、 「いや、まあ、 聞いてくれ。よっく聞いてくれよ。ねえ、そ 、フしゃよ、、、 不確かだからね。一ループリ一ループリが親友のように背き オし力したいどうしてあの人がばくを手放すと思 っこない、確実な三百ループリの俸給とは別問題だよ。ュリ 、 > や、まあ、ばくのいうことを聞いてくれ、ちゃん アン・マスタコーヴィチはもちろん偉大な人物だ、ばくは彼としまいまで聞いてくれ、だって、ばくはなんでも期日まで を尊敬している、理解している、むろん、ばくらはだいぶ身にきちんとやるし、それに、あの人はとてもいい人でね、現 分が違うがね。そして、誓っていうが、彼を愛している。そに今日も、アルカーシャ、銀貨で五十ループリくれたんだ れというのも、つまり、彼がきみを愛し、何も自腹を切ってよ ! 」 払わずとも、専任の官吏を付けさすこともできるのに、きみ「本当かい、ヴァーシャ ? それは賞与かい ? 」 に特別の仕事を廻してくれるからだ。しかし、ねえ、ヴァ 「賞与なもんか ! 自分のポケットから出したんだよ。『き シャ、そうたろう : : もう少し聞いてくれ、ばくは何も馬鹿みにはもう五か月も金をやらなかったからね。よかったら取 げたことをいってるんじゃない。ペテルプルグの中をさがし ってくれ、ご苦労だった。わしは満足にっている、ありが ても、きみに匹敵する能筆家のいないことにはばくも同感だ。 とう : : : まったく、わしはきみに只働きなんかさせやしない その点、きみに一歩譲っても、 しし」とネフェー一アヴィチはい からな』って、まったくこうおっしやったんだ。ばくは、ア くらか感激に駆られて結んだ。「しかしだ、こんなことがあル カーシャ、本当に涙が流れたよ ! 」 っちやたまらんが、不意にきみがあの人の機嫌を損じて、お気 「だが、ヴァーシャ、きみはその書類を書いてしまったの に入りでなくなるようなことでもあれば、 不意に仕事が なくなるようなことでもあれば、ーー不意にあの人がほかの 「いや : : : まだなんだ」 人間を使うようになったら、 つまり、その、どんなこと 「ヴァーシンカ ! ばくの天使 ! きみはどうしたんだ ? 」 が起こらんとも限らんからね ! だって、ユリアン・マスタ 「いや、アルカーシャ、大丈夫だよ、まだ二日あるから、間 コーヴィチが急にいなくなるようなことだって、あり得るか にム日フよ : らね、ヴァーシャ・ 「いったいどうして書き上げなかったんだ ? ・ 「おいおい、アルカーシャ、それじゃまるで、今にも天井が いいんだよ、 いいんだよ ! きみがそんな心配そう 落ちて来そうな話じゃないカ な目つきをしていると、腸を掻きむしられるようで、心の臟
ういえばよかろう ? 』といったのさ。すると、それは難かし 「ヴァーシャ、ヴァーシャ、まあ聞け いから少し待ってみてください、 というんだ。いま話したっ 「なんだい ? 」とヴァーシャは、アルカージイ・イヴァーノ て、とてもあたしをお嫁にはやってくれないでしよう、なんヴィチの前に立ちどまりながら、こういった。 て心配しているんだ。そうして泣き出す始末さ。ばくは今 「ばく、こんな考えが頭に浮かんだのだがね。しかし、きみ 日、彼女に黙って年寄りにざっくばらんにぶちまけちまっ に話すのはどうも具合が悪いなあ ! しかし、勘弁してばく ーザンカも母親の足もとに膝をついて哀願したんだ、 の疑問を解決してくれ。きみはこれからどうして生活してゆ ばくもいっしょに : : : で、やっと二人は祝福してもらったとくつもりなんだ ? もちろん、ばくはね、きみが結婚一 9 るこ いうわけだ。アルカーシャ、アルカーシャ ばくの親友 ! とは無上に嬉しいよ。じっとしていられないくらい嬉しい っしょに住まお、フ。りて、つとも ! きみとはどんなことがあよ。しかし、 いったいきみはどうして生活してゆくつも ったって離れるもんか ! 」 りなんだ ? え ? 」 「ヴァーシャ、ばくはどう考えたって信じられんよ、まった 「ああ、とんでもない、 アルカーシャ、 とんでもない ! 誓っていうが : : : 本当にばくはなんだかどうも : : : ねきみはなんて男だ ! 」ヴァーシャはひどく驚いてネフ = ーデ え、 いったいどうして結婚するつもりなんだ ? : : : どうしてヴィチを見ながらいった。「そんなことを本気で聞くのか ばくに知らせずにいたんだ、え ? まったくの話、ヴァーシ 先方の年寄りだって、ばくが何もかもすっかりうち明 ヤ、こうなれば白状するが、ばくも結婚しようと田いっていた けて話した時も、二分間と考えはしなかったよ。第一、彼ら んだ。しかし、きみが結婚するという今となれば、そんなこ は何で暮らして来たと思う ? 家族三人で年に五百ループリ とはどっちだっていし まあ、幸福に暮らしてくれ、幸福じゃないか、主人が亡くなってからは、それだけの恩給しか ないんだからね。彼女と年寄りとおまけに弟が、これだけで 「兄弟、これでいい気持ちだ、気が軽くなった : : 」ヴァ 暮らしているんだよ。その弟の学校の授業料もそこから出て シャは立ちあがって、興奮のあまり部屋を歩きながらいつるんだぜ。これから見れば、われわれは資本家だよ ! ばく た。「ねえ、本当じゃないか ? 本当じゃないか ? きみだ なんか年によると七百ループリ入って来るからね」 ってそう思うだろう ? ばくたちは貧しい暮らしはすること 「まあ、聞け、ヴァーシャ。気にさわったら勘弁してくれ、 心だろうが、しかし幸福だろうよ。これは空想じゃないんだか ばくはそのため話が毀れるようなことがなければと、 らね。ばくたちの幸福はお伽ばなしじゃないんだからね。ばそればっかり考えてるんだよ。どうして七百なんて ? 三百 きりじゃよ、、 弱くたちは現実に幸福なんじゃないか ! 23 /
彼は一張羅の服を着て、綺麗な胸当てをつけていた。これは もちろんのこと彼を驚かせた。「ヴァーシャのやつめ、いっ たいどこへ出かけるつもりなんだろう ! そうだ、家で食事 をしなかったつけ ! 』シュムコフはその間に蝋燭をつけた。 アルカージイ・イヴァーノヴィチは直ちに、友人が思いがー ない形で彼を起こそうとしていることを推察した。事実、ヴ アーシャは二度咳ばらいをして、二度部屋の中を歩き廻っ 同じ屋根の下、同じ部屋、同じ四階に、アルカージイ・イ た。それから、最後にまったくだしぬけに、隅っこの煖炉の ヴァーノヴィチ・ネフェーデヴィチと、ヴァーシャ・シュム傍でつめかけたパイプを放り出した。アルカージイ・イヴァ コフという二人の若い同僚が住んでいた : : : 作者はむろん、 ーノヴィチは笑いをこらえた。 なぜ一人の主人公が完全な名で呼ばれ、片方の主人公が省略「ヴァーシャ、策略はいい加減にしろよ ! 」彼はいった。 した名で呼ばれているかを、説明しなければならない必要を「アルカーシャ、眠っていなかったのかい ? 」 感じている。それは、たとえば、こうした表現法が無作法「まったく、なんとも確かなことはいえないよ、どうやら眠 だ、いく分なれなれしすぎるといったような感じを、読者につていなかったらしいなあ」 「おい、アルカーシャ 起こさせないためにも必要である。しかし、そうするために いや、きみ ! いや ムフ日は ! : きみはばくが何をいおうとしているか、わからな は、あらかじめ登場人物の官等、年齢、地位、職務、はてはきみ ! 性格といったようなものまで説明しなければならないだろいだろう ! 」 う。が、こうした書き方をする作家が多いので、本文の作者「まるでわからないよ、まあ、こっちへ来い」 ヴァーシャはそれを待っていたかのように、アルカージ はただ彼らを模倣するものといわれたくないばっかりに ( と んでもない自惚れの結果、そんなことをいうものがいないとイ・イヴァーノヴィチにどんな企みがあるかも考えないで、 も限らない ) 、すぐ事件から始めることにするつもりである。すぐさま近よって行った、アルカージイ・イヴァーノヴィチ 序言はこのくらいにして本文に取りかかる。 は、巧みに彼の手をつかまえて、捻じ伏せ、犠牲者を「締 大晦日の夕方、六時前のことであった。シュムコフは家にめ』にかかった。それは、愉快なアルカージイ・イヴァーノ 帰って来た。寝台の上にねころがっていたアルカージイ・イヴィチに、限りない満足をもたらしたようであった。 弱ヴァーノヴィチは目を醒まして、細目で自分の同僚を見た。 弓つかかった ! 」彼は叫んだ。「ひっかかったぞ ! 」
「ヴァンユーク、ばくはただこのことだけがいいたかったんどっしと歩みを運んだ。その歩き振りを見ただけで、いよい た。ししかヴァシューグ、足曲り ! 聞けったよ幸福を増していくヴァーシャの無事息災をよろこぶ気持ち がわかった。ヴァーシャはやや小きざみに歩いていたが、戚 ら ! 実はね・ : ・ : 」 アルカージイは喜びのあまり言葉が出なくなったので、ロ厳を失うほどではなかった。それどころか、アルカージイ・ を開いたままいいさした。ヴァーシャはその両肩をつかまイヴァーノヴィチの目には、今までこれほど親友が立派に見 え、目をいつばいに開けて友を見つめた。そして、相手の代えたことは、かってないのであった。彼はこの瞬間、友を今 わりにいおうとするかのように、唇をもぐもぐ動かした。 までよりもっともっと尊敬したいような気さえした。今まで 読者の知らなかったヴァーシャの肉体的欠陥 ( ヴァーシャは 「それで ! 」とついに彼はいった。 少し体が曲っていた ) 、アルカージイ・イヴァーノヴィチの 「きようばくをあの家族に紹介してくれよ ! 」 善良な心にいつも深い憐憫の情を呼び起こしていた欠陥は、 「アルカージイ ! あそこへ行ってお茶をご馳走になろう ! ーしかー ) 、 しいかね ? 新年までいないで、それとくにこの瞬間、彼が友に対して感じていた深い愛をいやが より前に帰ることにするんだよ」とヴァーシャは真に感きわ上に燃えたたすのであった。また、もちろん、ヴァーシャも まって叫んだ。 それを受ける資格を十分に持っていたのだ。アルカージイ・ イヴァーノヴィテは、幸福のあまり泣き出したいのを我慢し 「よし、二時間かっきり、それより長くならないようにな ! ていた。 「それからは、仕事が片づくまでお別れだ ! 「どこへ行くんだ、ヴァーシャ、。 とこへ ? こっちへ行った 「ヴァシューク , ほうが近いよ ! 」ヴァーシャがヴォズネセンスキイ通りのは 「アルカージイ ! うへ曲ろうとするのを見て、彼は叫んだ。 「黙ってて、アルカーシャ、黙って : ・・ : 」 三分の後、アルカージイはよそゆきに着換えた。ヴァーシ ヤはただ服にプラシを掛けたばかりである。というのは、彼「本当に近いんだよ、ヴァーシャ」 は内着に着換える暇も惜しんで、仕事に励んだからであっ 「アルカーシャ ! 実はね」とヴァーシャは喜びのために 絶え入りそうな声で、さも秘密めかしくいい出した。「実は 彼らは急いで通りに出た。いずれ劣らず、嬉しそうであつね、ばく、リ ーサンカにちょっとした贈り物をしようと思っ いた。道筋はペテルプルグ区からコロムナに向かうのであって : : : 」 弱た。アルカージイ・イヴァーノヴィチは、一兀気よくどっし「何をさ ! 」 ? 30